魔法少女リリカルなのは GEMINI   作:よね

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デフテロスって元々、寡黙で冷静な性格だったのに気性が荒くなっているのでキャラをつかむのが思ってたよりもずっと大変です

あと、肉体の年齢に精神は引きずられるという考えで書いておりますのでどうかご了承くださいませ


第1話 それは不思議な出会いなの?Another

「うっ、うぅ」

 

 山の中、木に背中を預け、呻きながら瞼を開ける少年がいた。その肌は溶岩によって焼き込まれたかのように浅黒く、その髪色は群青の夜空の思わせる。

 

 しかし、その口元には革と鉄で作られた武骨なマスクが嵌められ、腕には包帯、彼の髪から染められたような服に革でできた膝当てや靴を身に着けていた。

 

 また、そのどれもが丈夫そうではあるが上等とはとても言い難い粗末なものであり、現代日本から見れば普通とはお世辞にも言えない程、奇妙で時代錯誤的な格好であった。

 

「何故、俺は生きている?」

 

 少年は彼を痛みに苛ませる傷と乾いて固まった血がこびりついた己が身を見て呻くように呟く。その傷は上腕部や太腿といった箇所が特に酷く、ところどころ破れた服の合間から肉が抉れ、その上から火傷によって無理矢理傷を塞いだかのような痛ましい傷跡がある。特に酷い箇所がそこであるだけで程度の差こそあれ、彼の全身には新しいもの古いものを問わず傷が彼の身体に走っていた。

 

 しかし、その発言の真意は「何故、ここまで酷い傷を負っておきながら死んでいないのか」ではない、「何故、死んだはずの自分が生きているのか」である。

 

―俺はアスプロスと戦い、敗れ、死んだはずだ。だが悔いはない、俺の一撃は確実に奴の芯を貫いた。それに…意識のない中、肉体はなくとも確かに俺は小宇宙を尽くした。

 

第七感を超えた小宇宙が辿り着く最奥の境地。第八感―阿頼耶識―。同胞の小宇宙に導かれたとはいえ、我らの小宇宙は確かにその境地へと達し一時的にではあるが冥界の掟から離れることができた。そればかりか冥界の主であり我らが宿敵―冥王ハーデスへと拳を向けることすらができたのだ。

 

同胞と共に、未来のために。小宇宙を燃やし尽くして魂を輝かせた。その事実が彼に一度、己が死んだことを確信させる

 

 そう彼は地上の覇権を賭けた聖戦の折、冥王ハーデスの作り上げた魔宮が一つ、 火星(マルス)の宮にて双子の兄との闘いで互いの存在を賭して、死力を尽くし、技を尽くし、小宇宙を燃やし尽くして、散って逝った。その意志を黄金の聖衣に遺して…

 

 そう彼の命は天上の魔宮で散った。そこは彼らがかつて過ごした双児宮を模して造られた石の宮殿であり、そこは冥王のいう救済の手にかかった人々の在り様が描かれたロスト・キャンバスと天空によって包まれていた。いや、正しくは天空にあるロスト・キャンバスの中枢に魔宮が鎮座していたといえる。

 

 そこには彼が今いる場所のような緑も大地もなかった。聖闘士と神、魔宮の守り人である冥闘士以外の命はそこにはなく、小宇宙の輝きだけがそこで瞬いていた。

 

―記憶はないが確信できる。あの一瞬こそが聖戦の最佳境であり、我らが黄金の小宇宙が冥王を退けたのだと…そう、我ら女神(アテナ)聖闘士(セイント)は己を含めて多大なる犠牲を生み出しながらも今代の聖戦に勝利できたのだと

 

「ならば 双子座(ジェミニ) 黄金聖衣(ゴールドクロス)…お前の仕業か」

 

 彼の正面には黄金の 聖衣箱(クロスボックス)が鎮座しており、そこに彫られた双子のレリーフが傷ついた彼を見守るかのようにそこにある。それを複雑な色を浮かべた瞳で見やりながら、彼はゆっくりと立ち上がろうとした―その時、そう遠くない場所から悲鳴が上がるのを感じた。

 

「グッ」

 

 控えめに見積もっても彼の身体につけられた傷は重傷であり、骨にこそ異常はないものの身体は軋みをあげる。おそらく、怪我からくる高熱にも苛まされているのであろう、口元から呻きを漏もらして立ち上がる彼の呼吸はひどく荒い。それでも重い脚を、傷ついた身体を抱えながら、ふらつきながらも悲鳴のあった場所へと急ぐ。その背に己の半身を背負いながら…

 

 

 

 

 そこは少年のいた山の山頂部にある神社であった。その悲鳴は小さな神社の境内から発せられた。そこには悲鳴を上げた主と幼い少女がいて、悲鳴が上がったことからただならぬことが起こったことが窺える

 

 「なのは!! 防護服(バリアジャケット)を!!」

 

 少女の方に乗ったフェレット?が少女を急かすように言う。その眼の先には少女だけでなく、彼女へ飛び掛かる異形の獣の姿があった。その異形の体躯は小柄ではあるがその体躯は黒く硬く、また体躯のみならずその脚、その爪に至っても軽く振るうだけでも凶器になりえると簡単に想像できるほどのモノであった。

 

 「Stand by ready」「set up」「Barrier Jacket」

 

 少女の小さな手から機械的な声を響かせるやいなや、彼女を桃色の光で包み、白と青の衣装を身に纏わせる。異形に飛び掛かられたにも拘らずむしろ、その異形の方が硬い壁にぶつかったように跳ね返されてしまっていた。

 

 「なのは!!」

 

 いつの間にか少女の方から降りたフェレット?がまたもや叫ぶ。砂埃が衝突の余波から舞い、次第に落ち着いてくる。

 

 少女の身には傷は見受けられなかったが、彼女は自分の無事に安堵したのかへたり込んでしまっていた。

 

 黒き異形は再び、なのはと呼ばれた少女へと飛び掛かり、少女もまたその衝撃に備えようと身を竦ませた。

 

 

 

 

 聖域で生まれ育ってきた彼であるが生来より凶星の子として扱われてきた。彼の双子の兄は最強の聖闘士としての道を歩めるというのに。

 

 しかし、彼の性根は善性であり如何に劣悪な環境に置かれようと、邪悪だと兄の影だと蔑まれようと、彼はその拳を己の為、兄の為に磨いてきた。守られるだけの存在とならぬように、誰も頼らずに影として生きていくために、そして光の世界を邁進する兄を影として支えられるように。

 

 そうして磨き続けた拳は聖衣なしでも黄金聖闘士に匹敵すると評されるほどにまで至った。そして、 女神(アテナ)の聖闘士として認められた後もカノン島の人々に鬼と畏れられながらも火山の噴火をも屈服させ鎮めるようその力を行使してきた。彼もまた畏れられながらも正義と愛の為に拳を振るう聖闘士であったのである!!!

 

 そんな彼が獣に襲われる少女を見捨てることがあるだろうか―

 

 

 

 

 悲鳴を聞きつけ、山頂にある神社へと続く階段へと駆け付けた少年は目にした。黒き異形が杖を持った少女なのはへと襲い掛かるところを。

 

 彼は瞬時に戦闘態勢へと入り、構える。

 

―この拳は空を裂き、蹴りは大地を割る!そして聖闘士、それも頂点たる黄金聖闘士の拳は!!光速で奔る!!!

 

 左腕は軽く握り中段に、右腕は拳を固く結び上段で構える。左足を前に、右足を後ろに

 

「ハッ!!」

 

 そして黒き異形を見据え、左手を引き胴を捻じる!勢いのまま固く握った拳を放つ!!その拳は虚空を衝き!!!拳の先にある獣を突く!!!!

 

 

 

 

 「ギャンッ」

 

―私は何が起こったのかわかりませんでした。後ろがピカッと光ったと思ったら鳥居の上から飛び掛かってくる怪獣がいきなり弾かれたように、何かに打たれたかのように勢いよく境内の方へ飛んで行ってしまいました。

 

 「無事か?」

 

―後ろから男の人が声をかけてくれました。その声は低く鋭くてビクッてなってしまいました。振り向くと背の高い中学生くらいのお兄さんがいましたが、そのお兄さんはかなり変わった人でした。血の付いたボロボロの服に見ているだけで痛い傷、そして、なんといってもお兄さんの顔には頑丈そうな怖いマスクがついていたのです!

 

 「え?あっ、はい。大丈夫です。平気です」

 

―私は何とかそれだけ答えることができました。それだけしか言えませんでした。

 

 「無理に動くな。俺がアレを始末してきてやる」

 

―そういうとお兄さんは境内に向かってその石の階段を上り始めました。お兄さんはその背中に大きな金色の箱を背負っていました。

 

 「待ってください!あれは私がやらなくちゃいけないことなんです!!危ないですから行かないでください!」

 

―そう、お兄さんはボロボロできっと上に行ってしまうと今よりももっとひどいことになってしまうと思いました。そんなところを見たくないから私は必死でお兄さんを呼び止めます。しかし、お兄さんはこっちを向くことなくずんずんと階段を登っていきます。

 

 「レイジングハート!」

 

 「Accele fin」

 

―お兄さんを止めたい一心でレイジングハートに呼びかけました。足には光の羽がはえ空を飛べるようになって階段を登るお兄さんの前に先回りすることができました。両腕を伸ばして通せんぼしてお兄さんを上に行かせないようにしました。

 

 「行かないでください!私が何とかしますから!!」

 

 「なっ!」

 

―お兄さんはとても とても驚いたようで足を止めて大きく目を見開いていました。その時初めて私のことを見てくれて、私の言うことを聞いてくれたように思いました。そうですよね、魔法少女だなんて驚きますよね。けれど私も必死でした。お兄さんを行かせたくない一心でした。お兄さんは驚いたもののすぐに落ち着きを取り戻してしまったみたいです。

 

 「おまえのような子供がなぜ飛べるのかは知らんが退け、子供には危険だ」

 

―お兄さんはお兄ちゃんやお父さんがいつも私に言うことを聞かせようとするように語りかけてくれます。ちょっぴり怖いですけど。心配してくれるのがわかります。

 

 「ガァァアアア!!」

 

―その時の私はお兄さんを上に行かせないことばかりが頭の中がいっぱいになって、なんで上に行かせたくなかったのかをすっかり忘れてしまっていました。だから、あっちの方に飛んで行った怪獣が声をあげて後ろから襲い掛かってくるまで、私は気づきませんでした。ユーノ君が危ないって私の名前を呼んでくれて初めて気が付きました。けれど、その時、私の真ん前、お兄さんの腕から光が放たれた様に見えました。

 

 「ギャンッ」

 

―お兄さんの腕が光ったかと思うとまたしても怪獣は私に触ることなく何かに打たれたかのようにのけ反り、その場に倒れてしまいました。

 

 「こんなものか、さてお前はなんなんだ?上に行かせたくない様子だったし、あの異形といい、宙に浮くその様子もただのガキとは思えん」

 

―怪獣が倒れたところを一瞥するとお兄さんは私の方に向き直りました。その目は鋭くて怖くてまっすぐと私を見据えてました。その迫力から身体からは何かオーラのようなものが見えてくるような気さえします。怪獣を吹き飛ばしたのも倒したのもお兄さんの仕業なんでしょうか?

 

 「なのは!大丈夫!?今のうちに封印を!!」 

 

―ユーノ君が私に語り掛けてくれます。そうでした、今のうちにジュエルシードを封印しなくちゃいけません!

 

 「お兄さんすみません!すぐ済ませますから、ちょっと待っててください!えっと、封印ってのをすればいいんだよね?レイジングハート。お願いね。」

 

 「all right」「sealing mode.set up」「stand by ready」

 

 なのはの手にある杖レイジングハートが電子音で唱え変形・展開する

 

 「リリカルマジカル。ジュエルシード、シリアル16。封印!」

 

 「sealing」「receipt number XVI」

 

 黒き異形が桃色の光に包まれ、その光が晴れると地面には気を失った子犬が宙には青色の宝石が浮かんでいた。その青い宝石はレイジングハートと呼ばれた杖の先端にあるコアと思わしき赤い宝玉の中に吸い込まれていった。

 

 

 

 

 「おまたせしました!!」

 

 ジュエルシードの封印を終えるとすぐに後ろにいた少年の方に直る。なのははあの群青色の少年が疑念を抱いた眼で自分を待ち構えているのではないかと思っていた。怖い…けれど説明した方がしないよりもずっといいはず、そう思って彼の方へ振り向く。彼はまさしくそこにいた。しかしその瞳にはさっきまでの敵意はない。むしろ敵意どころか焦点すらあってないように思える。そんな彼はなのはに向かって一歩踏み出す。その踏み出した足が地面に着く。その足は大地を踏みしめ彼を支える…ことなく彼の身体は崩れていってしまう。そして、目の前にいたなのはに覆いかぶさるようにして倒れてしまう

 

 「え?え?」

 

 なのはは先程まで力強く立っていた彼と倒れてしまった彼のこの状況の落差に思考が追い付かない。押し倒されてしまったのもその一因だろう。かろうじて行動に移せたのは倒れた彼の顔色を確認するくらいであった。

 

 顔こそマスクに覆われよく見えないもののその眉間には苦悶が刻まれ、マスク越しに聞こえる呼吸は荒く熱っぽい。無理もない、彼の身体は満身創痍であり、体感的にも半身にして宿敵:双子座の冥闘士アスプロスとの激闘、その身こそ滅びていたとはいえ冥王との決戦で小宇宙を爆発させてから丸一日と経ってはいないのだ。

  

 そんな彼の様子を見てなのはの顔色は一気に青ざめる。倒れた彼をどかそうと彼女の小さな手に力を籠める…が何かぬるっとしたものが彼女の手につき、どうしても上手く少年をどかすことはできない。それもそうだ。下敷きにされている少女が自分よりも大きな少年をどかすだけでも普通は一苦労だろう。その上、彼の背には聖衣箱が背負われており、彼の総重量は小学生低学年の少女が動かせるかどうか怪しい程である。むしろ、なのはが怪我しなかっただけでも不思議なぐらいだ。

 

 なのはは手についた何かを拭おうとして手のひらを見てしまう。そこには彼の服についているような乾いた黒い血ではなく真っ赤な血がべったりと塗られていた。既に予想外の出来事、少年から放たれていた重圧によって思考が追い付かなくなっていたなのはの精神状態は身近に存在する生命の危機に直面してより一層錯乱してしまう。

 

 「お兄さん!大丈夫ですか!?お兄さん!大丈夫ですか!?聞こえているなら返事をしてください!!」

 

―あぁ、情けない。こんな得体のしれない子供の前で倒れてしまうとは。力を抜いたつもりも警戒を解いたつもりもなかった。ただ、力がフッと抜けていくのを感じた。ここまで疲弊していたのかと、驚いた。もう何もかも空っぽだ…前にも―こんなことがあったな、熱と傷のせいで弱っていた時だ。あれは冷たい雨の日で朦朧した意識を途切れさせないために兄が俺に肩を貸しながらひたすら声をかけ続けてくれていた…

 

 「どうしよう!?返事がないよ?ユーノ君?この人死んじゃうかもしれないの?助けてあげたいよ、そんな魔法ないの?」

 

 「なのは!落ち着いて!どこか治療できる人のところまで運ぼう!」

 

 「どうやって?この人、私を助けてくれたんだよ?多分、悲鳴が聞こえたから来てくれたんだよ?こんなに酷い傷をしてるのにそれなのに…私は自分のことばっかりで、お兄さんの為って思いながら…助けたいよ!私は…この人を!助けたいよ、どうすればいいの!?ユーノ君!!」

 

 「お願いだから、僕の話を聞いて!!なのは!!なのはは家族に連絡できる?それか病院!!」

 

 彼はそんな声やりとりをフィルターがかかったような場所から聞いているような錯覚を覚えながら朦朧とした意識の中、力を振り絞って起き上がろうとする。

 

―いや、まだだ、あの時は兄が俺を救おうとしてくれた…今はこの少女は俺を救おうとしてくれる…なら、倒れてばかりではいられない。今は違う…だが俺は…影を受け入れたとき、誰にも助けられなくても済むよう、支えてもらわずに済むように…力をつけようと拳を磨きはじめたのではないのか!!!

 

 よろめきながら、呻きながら彼は立つ

 

 「あぁ…俺は…大丈…だ。おれ…死な…ん、押…倒してす…なかっ…な」

 

 「そんな!?大丈夫なはずがないです!!私がなんとかします!!」

 

 「いら…、俺は…」 

 

 彼はその救いの手を振りおうと何かを言いかけようとして意識を手放す。しかし、彼の両足はしっかりと地を踏みしめ彼の身体を支えていた。

 

 

 

 

―お兄さんは立ったまま今度こそ気を失ってしまったようです。その時も私は気が動転したままであの場所でたった一人?落ち着いていたユーノ君に手伝ってもらってようやくお家に連絡することができました。電話に出てきてくれたのはお姉ちゃんで慌てて話す私を根気よく落ち着かせて話を聞いてくれました。わたしは今いる場所とお兄さんの背丈、容体、どんなものを持っているか等を何とか伝えることができました。

 

―そうして電話が終わった後、私は着ていた魔法少女の服がお兄さんの血がべったりついて汚れてしまっていたことに気付きました。ユーノ君によればこの服はバリアジャケットって言って消えたら汚れは落ちているし、着ていた服にも汚れが付かないそうです。だから、私は急いで元の制服に戻します。あとはもう私はお兄さんを見守ることしかできません。ユーノ君はお迎えが来たとき、あそこに居たら変に思われるかのしれないからって少し離れたところから見守ってくれてます。それで私が迎えに来てもらったのを確認したら先に家に戻っておくそうです。

 

―時間が経つのがとてもとても遅い気がします。早く迎えに来てほしいと思ってしまいます。何度も何度も携帯の画面を見て時間を、連絡がないかを確認してしまいます。そうしてすぐ何かできるようにしておかないと涙がこぼれてきてしまうと思ったからです。

 

―連絡をしてから30分くらいでお姉ちゃんとお兄ちゃんが来てくれてました。お姉ちゃんたちを見て私は今まで我慢してきた涙がぽろぽろこぼれて頬を伝うのを感じました。お姉ちゃんはそんな私を慰めてくれました。お兄ちゃんはお兄さんを背負おうとしましたが、お兄さんだけならともかく背中に背負っている箱を担いだままじゃ背負えないってことで、お兄ちゃんはお兄さんを背中におぶり、お兄さんが持っていた箱を前にかけて家まで連れてきてくれました。お兄さんをおぶって帰ったことのことを聞くととてもとても重かったそうです。それもお姉ちゃんや私にはどうしても持たせられないと思ったほどだとも…

 

―私は階段を降りて家に向かう間もこの人を助けて、この人もしかしたら死んじゃうかもしれないってずっと言い続けてました。

 

―家に着くとお姉ちゃんが私を部屋まで手を引いて連れて行ってくれました。私は今日いろいろなことがあったからお休みってベッドで寝るように言った後、寝付くまでずっと私の手を握っていてくれました。

 

 

 

 

―目を覚ますと、目に入ってきたのは白いきれいな天井が見えた。石でできた見慣れた天井ではない。火口から仰ぐ天でもない。そう…いままで過ごしたどこよりもずっと清潔で優しい天井だった。きっと平和な地域なのだろう。そのために俺たち聖闘士は戦ってきたのだ。己と兄の為にしか自らを鍛えなかった俺もその一端を担っていたのだろうか…

 

 「…目が覚めたかい?」

 

―俺が横たわっていたベッドの傍らに座っていた男が語り掛ける。どうやら気を失った俺を助け介抱してくれたのだろう

 

 「あぁ…礼を言う」

 

―あの子供もこの男も極東の言語を話している。デジェルの書庫で学んだ甲斐があった。学んだものとは多少違っているが、訛りみたいなものだろう

 

 聖闘士はその任務の性質から言語にも精通している。黄金聖闘士となれば尚更だ。108の魔星や7海を守護する海将軍をはじめとした聖戦で争う相手が確認されたことのある地域の言語は全て網羅しておかなければならない。彼も欧州諸国の言語は操れたものの、アジア諸国の言語には疎かった。

 

 しかし、彼にも転機が訪れる。ある事件を境に知己となった水瓶座(アクエリアス)の黄金聖闘士デジェルは教皇の星読みの補佐をするほど博識であり、そのデジェル本人も旺盛な知識欲を持つ人物であった。デジェルは黄金聖闘士相当の実力を持つ彼に黄金聖闘士同様の知識・教養を身に着けるよう勧め、彼もまたその申し出を素直に受けた。

 

 「なのはが心配していたよ、君のことを助けてくれって恭也や美由紀に泣きついてさ。なのはは君を見つけ助けた立役者だ。君はあの子に感謝しないといけないよ。あぁ、名前を申し遅れたね私は高町士郎という。先程話したなのはも恭也も美由希も私の子供だ。しかし驚いたよ、恭也や美由希があの子に呼ばれたからと言って血相を変えて出て言った後、あわただしく帰ってきたと思ったら傷だらけの少年を連れて帰ってきたものだから。度肝を抜かれたよ」

 

 彼の傍らに座る士郎と名乗る男が笑いながら言う

 

 「そうですね、助けていただいた礼と感謝をしなければ―」

 

―ん?少年…だと?確かに俺はこの男よりも年下だろう…しかし、少年といわれるほど年若いわけでもない

 

 「申し訳ないが、少年というのはやめていただけませんか?さすがにこの年になって少年はこそばゆい」

 

 「君はそうだな…見たところ13・4歳くらいだろう?大人ぶりたいのだろうが、まだまだ私から見れば少年だ」

 

―13・4歳だと?とんでもない!俺は27だ!!

 

 彼はそう言おうとして気づく、あのマスクもこの髪の長さもこの身体も当時のものだったと…そして記憶、今の身体を合わせて鑑みてみれば全くと言っていいほど同じだ

 

 「どうかしたかい?」

 

 士郎は何かを言おうとしてその言葉を飲み込んだ彼を妙な目で見ている

 

 「あ、いえ、忘れてください…少々、混乱していたようです」

 

 「そうか。たった今目覚めたばかりだ。そういったこともあるだろう。ところで…君に聞きたいことがある」

 

 士郎が声のトーンを落としていう

 

 「しかし、君は酷い怪我だった。君くらいの少年が何をすればああなるのかをこっちが聞きたいくらいだ。それも外国の、しかもかなり時代錯誤的な格好をしてだ。そうそう、君のマスクは着けてても百害あって一利なしだと思ったので勝手ながら外させてもらったよ。君の持ち物にしたってそうだ。あの金属の大きなレリーフの入った箱の中身…勝手ながら確かめさせてもらったよ」

 

 「それは…」

 

 <ただいまー

 

 彼が口を開こうとした矢先、この家の玄関と思わしき扉が開く音とともにどこかで聞いたような少女の声が家の中に響く

 

 「おっと、なのはが帰ってきたみたいだな。ちょっと待っててくれ。なのはを呼んでくる。なのははさっきは君を助けた立役者といったが、その後、君のことを一番心配してくれたのもなのはだ」

 

 そういって士郎は部屋から出て行く。開けられたままの扉から士郎となのはの親子の声が聞こえてくる。と思ったら、この部屋に向けて走ってくる軽い足音が聞こえてくる。

 

 「お兄さん!!よかったぁ…目が覚めたんですね!」

 

 白い少女はベットで上半身だけを起こしている彼に飛び掛からんばかりの勢いで部屋に入ってくる。

 

―この少女には見覚えがある。あの時とよく似た白い制服を着た少女だ…俺の前に立ちはだかった小さなこどもだ

 

 「あぁ、迷惑をかけた。礼を言う。なのは」

 

 「え、あ、あ、ありがとうございます!そうです、わたし、高町なのはっていいます!ってあれ?どうしてお兄さんが私の名前を?」

 

 少女は可愛らしく首をかしげる

 

 「君のお父上から話を聞いた。俺を助けてくれた立役者で俺のことをこの家で最も心配してくれた子供だと」

 

 彼は彼にしては珍しく柔らかい微笑を見せてなのはに話しかける。

 

 「ふぇぇぇぇぇ!?」

 

 あっけにとられたように彼の微笑を見て、彼の言葉を聞いたなのははしばらく止まったかと思うと顔を真っ赤にして両手をぶんぶん回し始めたではないか

 

 「こらこら、どうしたなのは?」

 

 そういって、なのはに遅れて部屋に入ってきたのは士郎だった

 

 「えっと、えっと」

 

―あんなに怖かったお兄さんがなんでこんなに優しいの?前とは全然違うの!マスクをしていないっていうのはそうなんだけど、外していた顔はお兄さんが眠っていた時にも見てたし…わーーーーーー!なんで?なんで?なんでなのーー!?

 

 「ははは、なのはも照れてるようだな」

 

 士郎はなのはの思っていることなんてお構いなしに言う

 

 「うぅ、そうなんだけど、そうじゃないの…あっ、そういえば!お兄さんの名前は?聞いてなかったの」

 

 本心ととても近いところを言い当てられたけど、それも少し違うことに釈然としないなのははどうにか話題を変えようとする。

 

 「そうだな、そういえば聞いてなかったな」

 

 なのはのその言葉に士郎も同調する

 

 「俺の名は―デフテロス、 二番目(デフテロス)だ」

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