魔法少女リリカルなのは GEMINI   作:よね

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両作とも詳しい作中年代はよくわからなかったので連載や放送が始まった年代を作中時間として扱ってます。
正確には元祖聖闘士星矢の連載の始まった西暦1986年を起点としてLCはその243年前の西暦1743年の話として設定しております。なのはは放送された2004年という設定です。
トライアングルハートをやってないにわかなので(そもそもなのはを見て一か月たってないにわかですが)その年代ではなくアニメ魔法少女リリカルなのはを起点として設定しております。
ところどころおかしなところがあるとは思いますが、もしよければそこを指摘してやってください。

訂正
wikiを見たらNDで時代設定が1990年に変更されているそうなのでそちらに合わせます
ですので、前聖戦は西暦1747年ということになりますね
というわけでデフテロスが超えた年数は261年ではなく257年ということになります
それに合わせ一部セリフを改変しております
だからどうしたといわれればそれまでですが…


第2話 彼を取り巻く日常は!?なの

―俺は目覚めてからなのはや士郎を始めとした高町家の人々と様々なことをよく話した。よく知った。そして理解した。

 

―例えば、俺は丸三日意識を失っていたこと。

 

―例えば、治療を施してくれたのが意外なことにも士郎であったこと。清潔な包帯やガーゼを適する箇所に適当な処置、ほのかに薬のような何とも言えないような匂いがすることからこんな得体のしれない俺にも薬をしっかりと使ってくれたというのだろうかと感嘆する。

 

―俺を手当てしてくれるものなど…たった一人しかいなかった。兄以外には拒絶されたし、影を受け入れてからは伸ばされる手も拒絶した。

 

―例えば、俺をここまで運んでくれたのはなのはの兄で高町家の長兄である恭也であること。俺を背負うばかりかそれと同時に聖衣箱をもってこの家まで運んでくれたという。聖闘士でないというのにアレを持ち運べるとはなかなか驚いた。そのことについて礼を言うと、彼曰く、自分は武術をやっていて、俺を背負うことも聖衣箱を持ち運んだこともその修行だという。謙遜だろうが、いい経験になったと逆に礼を言われてしまった。着古しとはいえ彼の服を借りているのだ。俺が礼を言うのならまだしも俺が礼を言われるいわれはないはずなのに

 

―例えば、なのはのSOSを受け取ったのが長女である黒髪の少女、美由希であったこと。彼女がなのはの話をきちんと聞いてくれたからこそ男手が必要と考え、恭也を連れ来る判断を下せたのだろう。その結果、俺は救われた。彼女も恭也と同じく武術を嗜んでいるらしく、士郎と恭也のもと研鑽を重ねているそうだ。

 

―士郎の妻でありなのはたちの母 桃子とも話した。なのはの懇願もあっただろうがどうして高町家の人々が得体のしれない俺を受け入れ、世話してくれるのかを聞いた。彼女は、傷だらけになっている俺を見捨てるわけにはいかないと思ったそうだ。士郎も数年前重体に陥ったことがあるらしく、俺の様子を見たとたんその光景が脳裏に浮かび上がったという。年恰好も怪我の度合いも、そもそも知り合いですらないのにどうしてかしらね…と彼女は優しく微笑みながらいった。

 

―なのはとは改めて二人で話した、いや二人と一匹だったか…そして彼女達の詳しい事情を聴いた。魔法のこと、ユーノ・スクライアという人物のこと、なのはが魔法少女になった経緯、ジュエルシードの危険性、そして最後にどうやら、俺はあの山で凶暴な動物(ユーノとなのはが口裏を合わせて作った設定では猪)に襲われていたなのはを助けたことになっていること。デフテロス自身は素性を明かすことをしなかったが、なのはに襲い掛かっていた黒い異形から彼女を守っていたことは認めた。

 

―そして、何よりこの時代は俺たちの時代より257年も未来、西暦2004年であり、今いる国は世界の極東 日本(Japan)であることを知る。時空を超えてしまったことに驚きを覚えつつも過去、聖戦の折に未来から過去へやってきた聖闘士がいたという記録は残されていた。前例がある以上ありえないことではない。未来へと来てしまった以上、この時代に適応するとともにギリシャへと戻り 聖域(サンクチュアリ)へ報告しにいかねばならない。

 

―彼らは俺の事情を一切聞くことはなかった。そんなことがあったのは士郎が言いかけたあの一度だけ…その士郎でさえその話題について触れることがなかった

 

 「当面は体の快復、今代について学習、聖域への伝手を探さねばなるまい…時間がかかってでも。200年と57年も時を超えたのだ。世界はあの頃よりも狭く深くそして、ずっと広くなってしまっているだろう…が、いくらこの世が変わろうと俺は俺だ」

 

 

 

 

 彼が目覚めてから二日たった日のこと

 

 デフテロスの傷こそ完治するに至っていないとはいえデフテロス自身の体力、気力は充実し高町家周辺をリハビリがてら散歩することも士郎から許可されるほどには回復していた。

 

 「少年、いや、デフテロス君!ちょっといいかい?」

 

 デフテロスが今まで眠っていた部屋から起き上がり廊下にでると士郎に呼び止められた。

 

 「?なんですか、士郎さん」

 

 「ちょうどよかったよ。今、君を食事に呼びに来たところでね」

 

 そういって士郎に連れられて高町家のリビングへと向かう。その途中、士郎がデフテロスに対していう

 

 「君にはちょっと頼みたいことがあってね」

 

 デフテロスは知り合って間もない俺に何を頼むのだろうかと思いながらその続きを待つ

 

 「なのはのことを見てやってほしい」

 

 「見てやってほしい?」

 

 「具体的には無茶しないよう、なのはに付いていてほしいんだ。もしもの時は助けてもらえると有難い。最悪、私に連絡してくれるだけでいい」

 

 「……」

 

 「なのはは上手く隠してるつもりみたいだが最近、何か様子が変でね。君を連れてきた前の晩も次の日の晩も家を出ていっていて、出ていかなかった間の日も君という人間を見つけて連れて帰ってきた。」

 

 「……」

 

 「あの子自身もあんまり気づいてないようだが疲れ始めているようにも思える。あの子は強い子だ。自分だけでソレを成し遂げようとするだろう…私たち家族には何も言わずに、いや、家族だからこそ何にも言わないだろう」

 

 「……」

 

 「なぜ、君に頼んだかっていうとなのはは傷だらけの君が猪から助けてくれたって言っていたが…傷だらけの君がなのはを助けたのは本当だろうがどうも引っかるところがあってね。その時になのはがしている何かに巻き込まれたんじゃないかと私は考えている」

 

 「……」

 

 「そうでないとあの子があそこまで狼狽えて憔悴するはずは無いと思うんだ。君は知らないだろうがあの子をよく知る身としては普段のあの子とはそれはもうすごい落差でね。だからこそ、そう思った」

 

 「……」

 

 リビングへと進められていた足は止まり並んで歩いていた二人はいつの間にか向き合って互いの目を見ながら話し合っている

 

 「この話を受けてくれるなら、しばらく君の衣食住は保証しよう。その間は君が言わない限り君の事情も詮索することもしない」

 

 「どうして…なにか事情があるのだと知りながら俺を使い、俺に自分の娘を託すのか?どうして親子で話し合わない!?血の繫がった家族だろう!?直接、目と目を合わせて話し合える間柄だろう!!それが家族というものではないのか!?」

 

 「…それを言われるとちょっと辛いな…私もあの子に引け目があるんだ。あの子だけじゃなく家族全員にだ」

 

 「……」

 

 「私が昔、大怪我をしたことは桃子から聞いたはずだ。その時、あの子…なのはには一人ぼっちにさせてしまって、我慢を強いらせてしまった。だからあの子がやりたいことがあればできるだけあの子のやりたいようにさせたいんだ。それを私に話すのならそれでいいのだけれど話したくないのなら話してくれる時まで待つ。これは答えになっているかな?」

 

 「……」

 

 「というわけだ、できれば今ここで返事をしてほしい。嫌だと言ってすぐに放り出したりはしない」

 

 「あと一つ、さっきのもう一つの質問に答えてほしい」

 

 「君の目はまっすぐ人を見据えて捉えてる。そんな人間が感謝の気持ちを述べ、どんなことであれ話にはちゃんと応えようとしてくれる。君が目覚めたとき、私が聞きたいことがあるといったが君はそれを拒絶しなかった。そこを私は信用したい。あと…何より、君は見ず知らずのあの子を助けてくれた。だから君に頼んだんだ」

 

 「……わかった。なのはのことは責任をもって守る」

 

 「そっかよかった。受けてくれると思ったよ。そうと決まればすぐリビングに行こう、結構待たせてしまったかもしれないしな」

 

 

 

 

 それからというもの彼がしたことといえば、朝、なのはを送り出してからは図書館へ通い、辞書を友に図書館で世界史と現代について学ぶ。それだけではなく日常生活で必要とされる・見られるモノ、即ち車や電気製品等も疑問に感じたことがあれば真っ先にそれらを調べることにしていた。

 

―蔵書を漁るだけではなく、電子…というのか資料が二次元の世界で管理され、世界中で閲覧できるよはな

 

―限られた者のみ許されるものではなく、求めるものには知識が開かれるようになっている…知識とは力であり、指導者といった力を必要とする者に優先的にそれは与えられたものであったあの時代では到底考えられぬことよ。

 

―それがこの様になっているとは…全く勝手のいい素晴らしい時代になったものよ

 

 と、つい先日まであった遠い過去を思うこともあった。

 

 夕方、時間になれば、私立聖祥大附属小学校へとなのはを向かいに行く。初めて私立聖祥大附属小学校へなのはを迎えに行ったときはなのはの親友だという月村すずかとアリサ・バニングスの紹介をなのはから受けた

 

 一人は紫がかった黒く長い髪に白いカチューシャを付けた穏やかな目をした少女、一人は向日葵のような明るい金髪をツインテールにまとめた気の強そうな眼をした少女であった

 

 はじめは二人とも、デフテロスに馴れずよそよそしい態度をとっていたがなのはを迎えに行く度、顔を合わせるためいつの間にか彼女たちもデフテロスのことを完全に…とは言い難いものの日常として受け入れられるようになっていた

 

 また、何かしてもらうばかりでは悪いと考え、高町桃子に彼女が経営する喫茶店を手伝うことを申し出た。すると彼の申し出を彼女は快く受け入れた。怪我が治り次第入店するという条件のもと、デフテロスは桃子や恭也から必要なレクチャーを直々に受けることになる

 

 それからはレジの打ち方や美しい商品の箱詰めの仕方、提供する商品知識、仕入れの段取り等をなのはと共に帰宅してから彼が眠りにつくまで与えられた時間を全てそれらに充てる。それが彼の日常のルーティーンとなっていく

 

 もちろん、なのは達が行うジュエルシードの収集についても士郎から頼まれたことを伏せながら、事情を知った以上危険と判断した場合、手に負えなくなった場合に手を出すという条件でなのは達に同行することとなった。

 

 はじめは封印以外の過程をデフテロスが全て済ませてしまうつもりであったが、なのはがどうしてもそれを拒否した為、またユーノがなのはに反対しながらも結局は押し切られなのは側についてしまった為、そういった条件をつけられてしまう

 

 実際にジュエルシードの回収に同行したのは二回。一度は夜の学校で、一度は昼間の街中で。

 

 共に特になのはの身に危害が及ぶことこそなかったもののなのは自身に思うところがあったようで、落ち込むなのはに起きてしまった過ちを嘆くよりそれを踏まえて成長できるかが真に自分を図る時だと諭してはおいた。

 

 無謀にも自分の体調すら管理することができずに失敗し、取り返しがつかなった時のことも考えておけとも―

 

 

 

 

 ある朝、デフテロスは目覚める。いつも起きる時間よりもずっと早い時間、空色が青にも藍にもなっていない暗闇の時間。

 

 感じたのは殺気。誰にも向けられていない、殺す気のない殺気。こう矛盾した殺気など滅多にあり得ない。しかし、それはデフテロスにとっては忌まわしいとともに懐かしい記憶を思い起こさせる

 

 聖域では修行と称し、聖闘士候補生・訓練生に殺意を込めた拳を受けさせる、殺気を感じとれなければ死を免れないような過酷な修行をつけることは日常的に行われていた

 

 彼が感じた殺気とはまさにそれであり、それに興味を惹かれるともに、殺気に中てられたことからその様子を見に行くことにする

 

 高町家には道場があると言っていた。かといって門下生を募るわけでもなし、士郎や恭也が鍛錬することもあれば、剣士に至るための鍛錬を重ねるため美由希が積極的に利用しているらしい場所でもあった。

 

―誰が何をしようと、この平和な現代に伝えられた武術というものがどんなものであるかは興味がある

 

 彼は現代に伝えられた武術どころか彼の時代に行われていた武術を見たことすらなかった。聖闘士は人を相手にするのではなく、神とその尖兵に向けて拳を振るう存在であり、私闘にその拳を繰り出すことは掟として禁じられていた。そのため、数多の武術の流れを汲み、そのエッセンスを吸収し、闘法に練りこむことはあっても純粋な武術など聖域には存在せず、あるのは神の加護を受けたものを討つための小宇宙を利用した闘法であり、人を討つものとしての武術はなかったのである。

 

 

 

 

 そうして彼は道場へと足を向け、道場の入り口で矛盾した殺気がこちらに向けられた明確な殺気へと変えられたことを感じる。その殺気の主を見極めようと一歩また一歩と、その何者かの領域へと歩を進める。そして戸を開きその主を見極めようとした。

 

―刹那、黒い影が彼に向け二刀を上段下段からその兇器を走らせる

 

―デフテロスは彼の左肩から対角へ薙がれる刃の腹を手の甲で払い、わずかなラグを挟んで逆袈裟の軌道で襲って来るモノの腹を肘で打ち弾く。

 

―肩を狙うも払われたモノはそこから刀身を翻し、疾風の如き速度で首を刎ねようとし

 

―下段から襲うも打たれた刃は彼を真っ二つに裂かんと真っ直ぐに水平に力強く剣閃を描く

 

―この二振りは命を殺るために疾走する。ソレらは初撃よりもずっと洗練された正真正銘の本気の殺刃であった

 

―彼は首を狙う刃を彼の拳を真下から自分の顎を打つような形で、胴を狙う刃を肘と膝で刀身を挟み、受け、その挙動を封じる

 

―それらを押し引こうとしても刀身はピクリとも動かない

 

―暗闇の中で両者ともに何も言わず、その体勢のまま制止する

 

―幾ばくかの間をおいて影が観念したかのようにポツリと呟く

 

 「…虚は突けたと思ったんだが…普通の人間ならこれで終わりだ」

 

 そういって殺気の主、恭也は声をかける。その手にあるのは真剣ではなく木刀。それらをデフテロスから離し、彼に両刀を、手のひらを見せるように諸手をあげる。

 

 「…あれだけ殺意を向けておきながら、虚を突けたとは白々しい。不意打ちにしてももっとやり様はあっただろう」

 

 試すような殺気に剣筋、そして、人を推し量る中に喜びが混じった物言い。それらに腹を立て、少々怒気を込めて言う

 

 「……なるほどなるほど。そこまでわかってたのか…すまない、思ってた以上にお前を、いや、君を見くびってたようだ」

 

 驚いたようにだが、それ以上に嬉しそうに恭也は言う

 

 「俺も父さんも触れなかったが、君には結構興味があったんだ。君の身体に刻まれていた古い傷…あれは人につけられた傷と自分を苛め抜いてついた傷だろ?筋肉の質も付き方もただの筋肉質、運動をしている者とは異質。ひたすら鍛えられた者のそれだ」

 

 「あれはお前が俺を誘うためにやっていたのか?その好奇心を満たすために」

 

 「狙ってやっていたわけじゃない、ただ俺が時折ああやっているのは家族なら知っている…素直に寝ているなのはを除いてだがな。わざわざ様子を見に来るにしても家の者なら足取りで分かる」

 

 恭也は悪びれず言う

 

 「何者かは聞かないが…ただ、なのはを守ってもらう以上、あまりに弱いのも不安だったっていうのも事実だ。いっただろ?普通の人間ならあれには反応できない。言い換えると君はアレに反応できるやり手だ」

 

 「……」

 

 「ま、この話はここで終わりだ」

 

 といい二振りの木刀を壁にかけると、デフテロスに向かって

 

 「そうそう、体を動かしたいのならここを使うといい」

 

 そう言われてデフテロスは逡巡する。彼の体はどういうわけか少年期まで遡ってしまっているわけで、全盛期の肉体とは言えない。

 

 その為、小宇宙はともかく身体能力としてみれば以前と比べだいぶ劣っているといえる。

 

 デフテロスには遠からず訓練を行う必要こそあるものの人外じみた聖闘士の修行をするにはあまりにも整えられている高町家の道場を使うかどうか…それこそ彼が倒れていた山中で身を鍛えるほうが気兼ねなく集中できる。

 

 「体を多少は動かさないと訛るだろう?俺も君がどういう訓練をするのかは興味あるしな」

 

 この発言から彼は恭也の意図を理解する、恭也はどのような修行を彼が行うのかをその目で見て分析したいと考えているのだ。そして、物静かではあるが次第に有無を言わせないよう言外にプレッシャーをかけてきている

 

 「恭ちゃん、今日の朝練は私も付き合うよって、アレ?」

 

 その上、彼らの後ろから朝練をしに来たのであろう美由希がやってくるとさらにその勢いは激しくなる

 

 「デフ君と恭ちゃんはこんな時間に二人で何やってんの?」

 

 「もしかして手合わせしてた?」

 

 「恭ちゃん、デフ君どうだった?結構やる?」

 

 「デフ君もどうだった?恭ちゃんは強いでしょ!あ、そだそだ、次はあたしとやろうよ」

 

 そういう美由希と恭也を自分は私闘は禁じられていると無理やり納得させ、それでも納得のいかない二人の稽古風景を彼は眩しそうに眺めてその後の時間は過ごした…恭也からは遠慮せずにぜひここで修行でもという勧誘、美由希からは私闘ではなく訓練だからセーフという主張をのらりくらりと躱しながら

 

 

 

 

 そういったいつもと違う朝を過ごしなのはを学校へ送り、いつものように図書館へ向かう。

 

―そろそろ驚くことが少なくなってくる自分を思うと、この世界にも染まってきたのだなと思ってしまうな。本当に満ちた平和な国だ…しかし、世界中では貧困、紛争が止むことなく続いている。聖域へと届くよう小宇宙を込めた手紙の返事すらない。

 

―また、過去起こったポセイドンやアレス、ギガスの影響による天変地異は世間でも認知され、記録が残されていたはずだがその痕跡が全くないというのも不可解だ。いくら深く探してみても手掛かりすらないとは…市の図書館の限界かもしれんな。恭也に頼み込み大学から資料を借りてきてもらおうか…

 

 そんなことを考えていると図書館へ到着する。

 

 座席に筆記用具やルーズリーフを入れた鞄を置き、いつものように和希辞典、希和辞典を傍らに黙々と本や雑誌、新聞を漁って読む。そろそろパソコンを使った情報収集をしようかと思ったころ。こちらを伺うように見つめてくる少女と目が合う。

 

 「何か用か?」

 

 「いやいや、ごめんな。お兄さん最近見かけるようになったけど、えらいがっつくように本を読むんやなぁって思って見てたんよ」

 

 「……」

 

 「だって図書館では滅多にみいひん外国の人、しかも色黒青髪のめっちゃ目立つ人が真剣に見てるもんがムー大陸とかのオカルトじみた本とか歴史書とか眉唾もんのゴシップ雑誌とかやで?それ以外じゃ、またうって変わって資本主義とか共産主義とか現代経済に至るまでの過程とその経緯とかやし…」

 

 「……よく見てるんだな」

 

 「いやいや、馬鹿にしてるわけやないんやで。そんな怖い目で見んといてぇな。ただ…面白い人やなって思って」

 

 「お前もここの図書館にはよく来るのか?」

 

 「うん、本読むんは好きやしだってほら…」

 

 そういって少女は手元のレバーを弄って、ススゥーッと後退する。見るとそれは車椅子であり、それを見るだけで彼女は足が不自由なのだと理解する。

 

 「私の足…こんなんやし」

 

 そういう彼女の顔は少し寂しそうに見えた。

 

 「お兄さん、そんな顔せんといて。さっきみたいにツンツンしてもらったほうが楽やねん。それにな、最近、いいことがあってな。今は寂しくないねん」

 

 「…そうだな、なら次から高いところにある本を取りたいなら俺に言え、取ってきてやる」

 

 「おっ!お兄さん太っ腹!けどそんな簡単に言っていいん?私めっちゃ本読むからお兄さんが本読むんに邪魔かもしれんよ?」

 

 「子供を邪険にするほど俺は子供じゃないからな」

 

 「む、聞き捨てならんなぁ、そんな言い方やとお兄さんは私よりずっと大人やって言いたいん?確かに私より年は上みたいやし?背も高いし?余裕があるし?難しい本も読んでるし?それにカッコいいし?あかん…完全に大人にしか見えへん」

 

 「わかればいい」

 

 「なら図書館じゃお兄さんにめっちゃ甘えるからな!覚悟しときや!」

 

 そんな少女の背後から怒気を含んだ物静かな声が聞こえてくる

 

 

 

 「お客様?館内ではお静かにお願いします」

 

 

 

 図書館の係員のお姉さんだった。心なしかこめかみあたりがヒクヒクとしているのが見える

 

 「あ、すみません。気を付けます」

 

 少女は顔を真っ赤にして、謝り倒す。

 

 「ほら!お兄さんも!」

 

 俺は関係ないだろうと内心毒づきながらデフテロスも謝罪を口にする

 

 「申し訳ありませんでした、以後気を付けます」

 

 そういうと係員のお姉さんは流暢な日本語に驚きながらもその謝罪に満足したかように業務へと戻っていった

 

 「なぜ、俺まで謝らなくてはならんのだ」

 

 憮然とした顔で少女にいう

 

 「ごめんて、堪忍してや。私、ここの常連さんやからあんまり目をつけられたくないねん」

 

 「常連というのなら俺もそうだろう」

 

 手元にある本をペラペラと捲りながらこともなげに返す

 

 「いや、お兄さんはまだまだペーペーの新米やからな。ここじゃ私のが先輩や、ほら敬ってくれてもいいんやで?」

 

 「そうだな。お前は後輩に自分の不始末を謝らせるのだな。俺には真似できん。そういうところは尊敬してやる」

 

 「うぅ…お兄さんのいけず!」

 

 「もっと声を抑えろ、また怒られたいのか?」

 

 はっとした顔で口を押えてキョロキョロと周りを見回す。そして小さく「セーフ」というとデフテロスのほうに向きなおる。

 

 「やっぱり、お兄さんはいけずや。じゃあ早速こっちに来て!面白そうな本を見つけてんけど届かんねん」

 

 「わかった、これらを返却してからな」

 

 「はよしてや~」

 

 「本は逃げないから急かすな」

 

 「本は逃げへんでも誰かに取られるんやって!」

 

 「わかったわかった、今行く」

 

 デフテロスは棚の前にいる車椅子に座ったままの少女のもとへ行き、指示通りの本を取ってやる。

 

 「ほら、これでいいか?」

 

 「あ、ありがとうな。えっと、えっと、お兄さんの名前はなんやったっけ?やっぱし、ちょっと待った!私から言うな」

 

 そういって少女は車椅子ごと彼の方を向く。

 

 「わたしな、はやて。八神はやてっていうねん。あ、はやてってひらがなで書くねんけど日本では激しく早く吹く風って意味でな。ちょっと変やけど、カッコいい名前やろ?今後ともよろしゅうな。ほら次はお兄さんの番やで」

 

 少女は彼に対してその小さな手を伸ばす

 

 「俺の名はデフテロス、姓はない。ただのデフテロスだ。俺の名にも意味がある。ギリシャ語で二番目という意味だ」

 

 彼は伸ばされた少女の手を握る

 

 「よろしゅうなデフテロスお兄さん…いや言いにくいな。うーん、なんかあだ名考えとくな」

 

 「さっきと同じ呼び方でいい」

 

 「いやや、だってなんかよそよそしいやん?」

 

 「馴れ馴れしいのはいいのか?」

 

 「うん!」

 

 そういう少女の顔はとてもとても幸せそうな顔をしていた。

 

 

 

 

 その後、彼は時折休憩がてら、はやてのわがままを聞きながらひたすら調べ物をしていた。

 

 はやてはその向かいの席でデフテロスに取ってもらった本を嬉しそうに読んでいた。

 

 「あ、お兄ちゃんが迎えに来てくれたみたい」

 

 はやてはメールが来ていたことに気付き、携帯を見ながらいう

 

 「なら、そこまで押して行ってやろう」

 

 はやてははにかみながら 

 

 「今日はもう一杯してもらったからいいねん。本当にありがとうな。デフ兄!!」

 

 「ああ、気をつけて帰れよ」

 

 そういって彼は少女、八神はやてと別れる。

 

 

 

 

―なんか最近ついてるなぁ~、つきすぎて幸せやわ~。これ以上幸せになったらどうなってしまうんやろ?なんてな

 

 嬉しそうに少女は彼女を待つ兄の元へ行く

 

 「まった?」

 

 「ああ、少しな」

 

 「むぅ~、女の子に対してはな、今来たところやでっていうねん。まったく女心がわかってへんなぁ」

 

 はやては仕方がないなぁというような素振りをしながら言う

 

 「すまんな。それにしてもかなり嬉しそうだが、何かあったのか?」

 

 「あ、そやねん、ねぇ聞いて聞いて」

 

 「家に帰ったらゆっくり聞いてやる。っと、その前に買い物に行くか。あいつも腹を空かせているだろうからな」

 

 「うん!はよ帰っていっぱい聞かせてあげるからな、水鏡兄!!」

 

 そういって二人は夕暮れの中、溶けていくように人ごみの中へ消えていった。

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