魔法少女リリカルなのは GEMINI   作:よね

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インターンやら期末テストやら選挙のバイトやらで投稿が遅くなってしまいました
明日からは部の同期と卒業旅行(卒業するとは言ってない)で有馬に一泊二日の旅行に行ってくるので三週間という自分の中で最終ラインに位置する今日に投稿することにしました

地の文が回を増すたびに減って言ってるような気ががが…

結構、勢いに任せて書いたのでおかしいところがあるかと思いますが、あとでちょいちょい修正するかもです



第7話 接触 疑念 理解 衝突 なの

 川辺のほとりで手頃な石に腰かけ、さらさらと流れる水面を眺める褐色青髪の男がいた。男は何も言わずただ流れる水の動き、浮んでは消える泡沫の飛沫、時折やってくる荒波の中の船のように回る青い落葉をただ、眺めていた

 

 そこは昨晩、なのはとフェイト、ユーノとアルフ、デフテロスとアスプロスがそれぞれ闘い争ったところにほど近い場所であった

 

「ご一緒しても?」

 

 そこに声を掛ける男が一人

 

「あぁ」

 

 男は一瞬迷ったのか彼らの間に沈黙が降りてきたが、短く一言だけ声を返す。その言葉を聞き満足そうに頷くとデフテロスの傍らにある形のいい平らな石に座る

 

「川の流れを見て楽しむとは中々風流な遊びをしてるではないか」

 

 ただ水面を眺めるデフテロスを男は横目で見ながら声を掛ける

 

「何の用だ。アスプロス」

 

 男の顏も見ずにデフテロスは淡々と問う

 

「そう邪険にするな。まぁ、昨日の今日だ。そうされるのも仕方ないとは思ってはいるが―」

 

「何の用だ。といったのだ」

 

 デフテロスの一言でまたも、男達の間に沈黙が降りる。その沈黙が大地に降り積もろうかというときにふぅっと小さく息を吐いてアスプロスが口を開く

 

「なぁ、デフテロスよ。俺と共に来ないか?」

 

「……」

 

「俺はフェイトの瞳にかつてのお前を見た」

 

 美しい月の夜、傷だらけであった彼を見つめる紅玉のような紅き瞳を脳裏に浮かべながら言う

 

「あの頃の俺はもう捨てた。お前の影に甘んじてた俺は、お前の影だと思い込んでいた俺は…もういない」

 

「あぁ、わかっている。そして、こんなことを言うのは烏滸がましいのもわかっている。が、それでも―

 

―それでも、もう一度、お前ではない誰かの夢を叶えてやるところをお前と共に見届ける機会を俺にくれないか

 

 そんな言葉が出そうになるのを飲み込む。いつの間にか感傷的になってしまっていた自分に気付いたからだ

 

「お前の側に付けばなのはと敵対することになるだろう。そうすれば、なのはを守れん。ならば何を言われようとそれだけはできん」

 

「ふむ…ならば、あの小娘を『殺す』とするか」

 

 アスプロスはかろうじて穏やかな空気の中で穏やかでは無いことを毒気も何もない何気ない一言であるかのようにこぼす。しかし、その一方で―

 

「殺す」

 

―その言葉が空気に触れた途端にデフテロスから闘気が熱せられた蒸気のような勢いで発散される

 

「この俺が貴様にそんな暴挙を許すと思っているのか?」

 

 熱く勢いよく発露する闘気の中、座り込む鬼がジロリと睨む

 

「フフッ、そう睨むな。すまんな、軽い冗談だ。そこまでしてもお前が欲しいというの知って欲しかっただけだ」

 

 アスプロスは先程掲げた爆弾を軽く笑いながらも謝辞を交えて取り下げる。それから心底わからんといったような、少し不機嫌であるかのような顔で続ける

 

「小娘に助けられた恩など、フェイトから救い、この俺と対峙し無事に帰せたことだけで十分だろうに…」

 

 デフテロスの方もそれを聞いて心まで許すことはないが、一先ずはその闘気を収めた

 

「それだけではないが、まぁいい…しかし、それにしても可笑しいな」

 

 仕返しとばかりに皮肉を込めた声調で辛うじてアスプロスに聞こえる程の声量でぼそりとこぼす

 

「何?何が可笑しいというのだ」

 

「そこまでして俺を欲するお前の様とそんなお前がいるこの世界が…だよ。お前は俺がいるのを当たり前だと扱い、その挙句あの夜、洗脳し、決別し、そしてあの日、相見えてからは―

 

―どちらが真に生き残るべきか、どちらが最強の双子座であるかを己が存在を賭けてまで争い殺しあったではないか

 

 それは唇より先には出なかったものの、アスプロスは確かにそれを聞いた。念話でもテレパスでもない。同じ空気を、同じ時間を対極にありながら共有した兄弟だからこそ、通じ聞き取れた言葉であった

 

 どんな拳よりどんな恨み言よりもその言葉はアスプロスの心に刺さった。なるほど、かつての己の所業を言葉にすればそうであろう。

 

―後悔はしていない。やりたいことをやったのだ。誰に非難されようが、神に嗤われようと、それも良しと肯定されようと揺らぐことはないと思っていた。だが、知らなかった。あの時まで共にあった己の半身から自らの所業を語られることがここまで、心の芯に響くとは

 

 いつの間にかアスプロスは川面から目を離し、地を見つめていた。

 

 そんなアスプロスの内心に渦巻くものに気付いているのかいないのか定かではないがデフテロスはさらに続ける

 

「幻朧魔皇拳が通じなくなったからか?それだけではあるまい。俺の死により貴様に巣食っていた幻朧魔皇拳が解けたからか?それだけでもあるまい」

 

 いつの間にかデフテロスは川面から目を離し、空を見上げていた

 

「その悪辣な手段も良しとするような在り様こそ変わっていないのにどうしてだろうな。今のお前は何処か清々しい。まるで子どもの頃(あのころ)に戻ったかのようにな」

 

「……そうかもしれんな。俺はもう一度やり直したいのかもしれん。その自己満足にフェイトもお前も付き合せようとしている」

 

「ならば邁進しろ」

 

「なっ!?」

 

「俺のことなど一先ずは捨て置け、今のお前が救うべき者はフェイトだ。お前はその道をただひたすらに征け。俺はお前を支えることは出来ん。お前があちらに付くというのなら否応なしに俺はお前と対峙しなけらばならんからな。但し、道を違えるな。俺がお前に望むのはそれだけだ」

 

「……それでいいのか貴様は」

 

「あぁ、俺はそれでいい。お前もそれで良い」

 

 そんな彼の表情は穏やかで懐かしい気持ちが表にまで浮かんで来ているようであった

 

「だが、俺は諦めてないぞ。お前をこちらに引き込むことを」

 

「この下らない諍いが収まれば一考に値するが…今のままではそれはできぬ相談だ」

 

「知っているさ」

 

「あとは貴様とは話しておきたいことがある」

 

「ほう、聞いておこうか」

 

「貴様の役目は俺の足止めであって、なのはに危害を加えることではないのだな?」

 

「あぁ、まぁ俺の役に立つのなら存分に利用はさせてもらうが…」

 

 アスプロスは鳶色の髪を持った小さな少女を思い出す。細く弱く小さい。弟を縛るには弱すぎる存在だがその反面ひどく強靭な鎖。それがアスプロスの考えるなのはの評価である

 

「ならば俺がフェイトに手を出さなければお前は俺を足止めする必要はないわけだな?」

 

「そうなるが…まさかお前、あの小娘を庇うために俺と約定でも結ぼうというのか?」

 

「その通りだ。俺はフェイトとなのはの戦いに手を出さぬことを誓う。虫の良い話だが、お前としても俺と争うことは本意ではあるまい。そう悪い話ではないはずだ」

 

「ふむ、それもそうだが、こちらの方が優位に立っているのだ。それを受ける意味はないはずだ」

 

「むぅ…」

 

「だが、弟の頼みだ。受けてやってもよいとは思うがな。但し、確約は出来ぬし、なのはといったか、あの小娘をフェイトが疎ましく思いそれを排除するよう言われたのなら俺はそちらを優先するがな。まぁ兄弟のよしみだ。その際は一言伝えてやる」

 

「助かる。だが、その時には俺がフェイトを狙う可能性があることを忘れるなよ」

 

 デフテロスは凄んで言う

 

「あの小娘を守ることより貴様がそちらを優先するとは思えんがな。まぁ、仮にではあるがこの約定を守ることは誓おう」

 

 そんな圧力もアスプロスは軽く流してしまう

 

「恩にきる」

 

「では俺はもう行こうか…」

 

「まて、もう一つ聞きたいことがある」

 

 腰を上げようとするアスプロスを彼は引き止める

 

「なんだ?」

 

「今となっては何でもないことだが…あの後、俺の死後、聖戦はどうなったのだ?」

 

「さてな」

 

「答えてくれ」

 

「そんなものを知ってどうする?もうこの時代にはない過去に過ぎないのだぞ?いや、それすらも―」

 

「それでもだ。聖域と聖闘士、アテナ様が命を懸けて駆けた聖戦の行く末を知りたいというのはそんなにも可笑しいことか?」

 

「…薄々お前も気づいているのだろう?まだ仮説にすぎないが恐らく―

 

 

―この世界には神はいない。聖闘士もない聖域もない。女神(アテナ)海皇(ポセイドン)冥王(ハーデス)そして戦神(アレス)も。海闘士(マリーナ)冥闘士(スペクター)狂戦士(バーサーカー)すらいないということを―

 

 

「…あぁ」

 

「ならば、俺たちのすべきことは過去を偲び生きることではなく、このどこで間違ったのか与えられた生を思うままに生きることではないのか?いや、これは俺の願望だ。お前はお前の思うように生きていてほしい。欲を言えば俺と共に来てほしいが…それが俺と対峙しよう道であってもお前の思うままに生きてほしいと俺は思っている」

 

「……」

 

「はぁ…まぁそれがお前の悔いだというのなら解消してやる」

 

「恩に着る」

 

「礼など言わずとも良い。このぐらい何ともない」

 

「すまんな」

 

「天秤座の童虎はアテナに聖衣を渡した後、天暴星べヌウの輝火を相打ち同然で下した」

 

「べヌウか…」

 

 アテナ神殿で一言言葉を交わした黒炎を纏い操る冥闘士のことを思い出す

 

「何とか一命はとりとめよったがそれは火傷と裂傷で酷いものだったぞ」

 

「童虎が受けた傷など興味ない…俺の与えた任務を全うできたのかが気掛かりだっただけだ。しかし、聖衣は確かにアテナの手に渡ったのだな」

 

「あぁ、それは確かだぞ。何しろ俺の最期を看取ったのは聖衣を纏ったアテナだったのだから…また、イリアス殿の御子レグルスは神の血により神竜と成った天猛星ワイバーンのラダマンティスに圧倒されながらも心臓をその身体と引き換えに砕き闘いには勝利した」

 

「闘いには?」

 

「そう、心臓を砕かれてなおラダマンティスは生きていた」

 

「無駄死に…というわけか」

 

「そうとも限らんさ。辛うじて息を繋いでいた神竜はその場に駆けつけたシオンに目もくれずその場を去った。あの三巨頭がだ。さてその先にはどこだと思う?」

 

「もったいぶらずに言え」

 

「よりにもよって奴は冥王ハーデス、いやアローンのアトリエにまで心臓無き肉塊を引き摺りながらも到達したのだ。アローンと奴はそこで対峙した…が神に歯向かった報いとして体こそを引き裂かれたもののパンドラの救出だけは成し遂げ事切れよったよ」

 

「部下からも並ぶべきものない忠臣として評されたラダマンティスが…か」

 

「冥王の力を弄ぶアローンが気に食わなかったのだろう。アイツは冥王の力ではなくまさしく冥王そのものに心酔し、忠誠を誓ってたのだからな」

 

「歯向かったというのであれば何をやらかしたのだ?」

 

「その時より時間は少し遡るが…お前がロストキャンバスに到着する前、アテナはアローンの策謀により現世での現身とはいえ女神の髪を奪われてしまったのだ」

 

「髪を!?なんと迂闊な真似を…」

 

 女神の霊血の効力を知るデフテロスはその場にいればそんな真似はさせなかったと歯噛みする

 

「まぁ、その頃は俺とお前がやりあう直前だったな。どちらにしても俺がお前にその場へは行かせなったさ。話を戻すが―」

 

「続けてくれ」

 

「―アテナの髪を手にしたアローンはその亜麻色の髪を砕き顔料にしてアテナ自身の絵を描き、それを通してアテナの女神としての力を封じ込めたのだ」

 

「……」

 

「そこで話はラダマンティスがアローンのアトリエで成し遂げた行いへと巻き戻る」

 

「アトリエ…まさか!」

 

「そのまさかよ!ラダマンディスはアテナの力が封じ込められた絵を破り捨てたのだ。それにより―」

 

「聖戦は策謀破れたアローンの手から離れた」

 

「そのとおりだ。どこまでも冥王に焦がれたからこそ、冥王の力を弄ぶ人の掌にある聖戦がどうしても許せなかったのだろうな。だからこそ次の聖戦を望み、アローンの敗北に、いや女神軍の勝利に賭けた。全く、苦渋の選択だったろうに…これこそがレグルスの最大の戦果と言えるな」

 

「ふむ…」

 

「また、お前やアミスタが目をかけてやっていた天馬星座(ペガサス)のテンマは天魁星メフィストフェレスの杏馬、無星オウルのパルティ―タの策略により神聖衣を手に入れた」

 

「神聖衣だと!?なぜ冥闘士が聖闘士に天馬星座(ペガサス)に神聖衣を与えるのだ!?」

 

「パルティ―タについては何もわからんが、あの薄汚い悪魔…天魁星メフィストフェレスの杏馬いや、―これはまた今度にしよう。邪魔者が来たようだ」

 

 そういうとアスプロスは一陣の風が二人の間を通り抜ける間にその姿を消してしまう。おそらく異次元に身を潜めたのだろう

 

 

 

 

 温泉旅行二日目の朝食後、なのは、アリサ、すずかの年少組三人は分かれて山の宿周辺を散策していた。その中でなのははユーノを連れ立って、小川の上流の方へと進んでゆく。そんな中、足元を歩いてたユーノがふと立ち止まり。意を決した表情でなのはに向き合う

 

「あのね、なのは。僕、考えたんだけど…やっぱりこれからは―」

 

「ダメ!!そこから先は言ったら怒るよ」

 

 なのはにしては珍しく少々怒気を込めた声色で強くユーノの言葉を遮る

 

「で、でも僕は怖いんだ。これ以上君を巻き込めば、取り返しのつかないことが起きそうな気がして、僕にはそれがどうしようもなく恐ろしいんだ」

 

 ユーノはそれでも心配そうな顔で声で続ける

 

「大丈夫、私は大丈夫だから…昨日はごめんね。折角集めたジュエルシード取られちゃった」

 

 そこから申し訳なさそうに

 

「いや、僕も途中、気を失ってしまって…そうだ!あれから何があったの?彼が出てきてから何かに当てられたのか意識が遠のいて…」

 

「…えっとね」

 

「何か…怖いことでもあったの?」

 

「あの後ね、デフテロスさんのお兄さんっていう人が来たんだけど…私は何もできなかったんだ。二人とも険悪な様子でいがみ合ってた。でね、私が足手まといになってデフテロスさんが持ってたジュエルシードを奪われちゃったんだ」

 

「どうして彼がジュエルシードを!?」

 

「多分、すずかちゃんの家でフェイトちゃんと初めて会った時、異次元?に飛ばされたときに手に入れたんだと思う」

 

「タイミングとしてはそこしかないか…なる程、今、あの少女の持つジュエルシードは一気に三つに増えたってことだね」

 

「うん、ごめんね。せっかく集めたのに…」

 

「謝らないでなのは。もとはと言えば僕が原因なんだし」

 

「でも事故だったんでしょ?だったらユーノ君は悪くないよ」

 

「そうだね、ありがとう。でも、これは僕がやらなくちゃいけないのになのはに任せっきりになったうえ、こんな危険なことに巻き込んでしまって…」

 

 両者ともに自分の不備や力不足をおもい、互いに謝りあってしまう

 

「ユーノ君、これじゃさっきと同じことの繰り返しになっちゃうよ。私は大丈夫だから。ね?」

 

「気になるのはどうして僕らに何も言わずに隠し持っていたんだろう?」

 

 新たな疑問にユーノは首をかしげる。素性のしれない協力者が自分たちの集めているモノを自分たちに知らせることなく隠し持っていた。その事実はユーノにとっては大きな懸念であり、疑念を大きくする要素であった

 

「うーん、分かんない。そんな素振りもなかったし…」

 

「本当に何を考えているんだ…あっ、昨日の出来事もレイジングハートは記録してるんだよね」

 

「多分だけどそうだと思う。ね、レイジングハート」

 

 なのはの言葉に応えるように胸にかけられた紅い宝石が数度光る

 

「なのはの話とも相違はないんだよね?」

 

「of couse」

 

 ユーノの問いにも桃色の光を点灯させながらなのはの愛機が答える

 

「ん、わかったよ。また今度見せてもらうよ。」

 

「OK」

 

「じゃあ、行こうか…」

 

「まって、あそこに誰かいるよ。あれは…デフテロスさん?それにその隣に…は…」

 

 なのはの指先には青髪の男が二人、石に腰かけ何か話しているのが見える

 

「どうしたの?なのは。彼と一緒にいる人を知ってるの?」

 

「アスプロスさんが」

 

 なのはの声はどこか震えている。無理もない。昨夜、突如現れたと思うとデフテロスをやり込め、自分の首を掴んだ人物。自分のことなどなんとも思っていない路傍の石とでも思っているようなあの視線がなのはの心に知らずのうちに傷をつけてしまっていたのだから

 

「アスプロス?」

 

「そ、それがさっき言ってたデフテロスさんのお兄さんのことで…どうして一緒にいるの?あんなに仲が悪そうだったのに、今はあんなに穏やかな顔で…どうして?」

 

「なのは、一旦ここで少し様子を見よう。もしかしたら彼は敵方と通じてるのかもしれない」

 

 ユーノは真剣な表情でそんなことを提案する

 

「で、でもそんな様子無かったよ。今まで」

 

 それでもデフテロスを信じていたいのかどこか後ろめたそうな気が進まなさそうな顔でなのははその意見を否定しようとする

 

「可能性の問題だよ。あっちから接触してきたのかもしれないし…」

 

「わかった。少しここで見てみようか」

 

 

 

 

「誰だ?」

 

 デフテロスはこちらを伺っている気配に対して厳しい口調で問い、その問いに応えるように木陰から姿を現したのはなのはであった。その傍らにはユーノもいる。信じられないようなものを見たような眼で何らかの疑念を抱いているかの様相でデフテロスを見据える

 

「今日こそ話してほしいんです。貴方自身のこと、先程消えた貴方の兄のことも」

 

「……」

 

「……。なんのことだ?まぁいい、長くなるなら座るといい」

 

 デフテロスは先程まで兄が座っていた座るのによさそうな石に座るように促す。一人と一匹はその言葉のままにデフテロスに並ぶ石に座る

 

 川辺のほとりで一人の男が手頃な石に腰かけ、同じように石に腰かける少女とその膝の上に立っているフェレットと思わしき小動物向かいあう。

 

「では、もう一度聞きます。貴方と貴方の兄は何者なんですか?そしてさっき、あの人と何を話していたのですか?」

 

「先程から何を言っているのだ?」

 

「とぼけないでください!!どうして、貴方が魔法も使わずに異次元を行き来できるのか!どうして、以前回収したジュエルシードの存在を話さなかったのか!どうして貴方の兄がジュエルシードを狙う奴らに与してるのか!全て話してください!!」

 

「ジュエルシードについてはともかく他の質問についてはよくわからんな。ユーノ。貴様は昨日、俺が駆けつけた時には気を失っておったな。悪い夢でも見たのではないか?」

 

「なぁ、なのは」

 

「は、はい」

 

 急に名を呼ばれたなのはは元気な声でそれに返事をするが、声を掛けられたことに驚いたのだろう、少女の声は少々上擦っていた

 

「お前は覚えているよな。俺はジュエルシードを奪われた後にあの場に駆けつけ、奴らを追いかけたが所在を掴めずにおめおめとこの場に戻ってきたということを」

 

「…えっ?」

 

―何でそんな嘘をつくんですか?何でデフテロスさんはあのアスプロスっていう人のことを隠すのですか?

 

「いえ、私は―」

 

―確かに見ました。そう言葉にするだけなのに、それだけなのにお兄さんの方に顔を上げられない。向けられない

 

「なのは、大丈夫?デフテロスさん、なのはに何かしましたか?」

 

 威圧され、言葉が出なくなったなのはを見て更に語気を強めて詰め寄る

 

「いや何も。そんなことを言うのだ。何かしら証拠は挙がっているのだろう?」

 

「えぇ、詳しくは言うつもりはありませんが」

 

「十分だ。大方、レイジングハートだろう。ソレは俺の理解の範疇の外にあるからな。そのぐらいできても可笑しくはない」

 

「なら…正直に話してもらえますか?」

 

 ユーノの眼は変わらずデフテロスを糾弾する。

 

「だが、何故俺がこんな見え透いた嘘をついたかわからないのか?なぜそこまで考えが及ばないのか…」

 

 その問いに応えるように出来の悪い子供を言い聞かせるような彼の雰囲気が徐々に変わってゆく

 

「うっ、それは…」

 

「俺から言えることは一つだけだ。手を引け。深入りするな。ユーノ、やるというのなら貴様が管理局とやらに協力を仰ぎ、組織でジュエルシードを集めろ。それなら情報は出来る限り与えよう。だがな、なのはを連れていくのだけは俺は阻止する」

 

「そ、そんな!」

 

 そんなデフテロスの言葉に今まで黙っていたなのはが異議を唱えるように叫ぶ

 

「聞こえなかったのか?もうやめろと言ったのだ。ジュエルシードのことなど忘れろ。少なくとも今は恵まれているこの環境の他の世界を知らなくともよい」

 

「大丈夫です!!」

 

「なのは、昨日のことなのにもう忘れたのか?アイツはお前の首に手をかけていた。その意味が分かるか?」

 

「えっ?」

 

「俺に向かってアイツはこんな細い首なら造作もなく折れると言っていたのだ」

 

「うぅ…」

 

「アイツはどんな手段も使う。そして、なのは。お前はフェイトよりも弱い。いや、なのはだけではないユーノもだ。お前たちはこの事件の当事者の中では弱者に位置する。弱者が首を突っ込んで命を落とすなど愚の骨頂だ」

 

 そうデフテロスが言い切った背後から全く同じ声で

 

「それに、貴様らが頼るデフテロスは俺と互角の実力を持つがまだ甘い」

 

 と話しかける者がいた

 

「「えっ!!」」

 

 不意を突かれたなのはとユーノは呆けた声を出してしまった後、瞬時に後方へと飛び臨戦体勢へと移る

 

「また会ったな小娘」

 

「行ってしまったものと思っていたのだがな。アスプロス」

 

「フフッ。その小娘が諦めるのを手伝ってやろうと思ってな。ん?そう構えるな。ここで一戦交える気はないから安心しろ」

 

 なのはとユーノを見下していう。物々しくはないが得体のしれない雰囲気を醸し出す彼が何と言おうと二人はその警戒を緩めることはない

 

「貴方は…貴方とデフテロスさんはいったい何者なんですか?」

 

「代り映えしない質問だなぁ、昨日もそれを聞いてきたばかりではないか。その上、昨日も答えてやったというのに」

 

「デフテロスさんのお兄さん…ということですよね。昨日言っていたのは」

 

「あぁ、その通りだ。そして、喜べ。昨日お前が言っていた通りに争いをせずに済むよう話し合っていたのだ。なぁ、弟よ」

 

「…あぁ」

 

「…何を話していたんですか?」

 

「そこまで話す義理はないな。それに何を言っても貴様らにはわからんのだ。話す意味もない」

 

「そんなっ!!」

 

「ならもっとわかりやすく言ってやる…部外者が口を突っ込むな!!といったのだ」

 

 その言葉にあからさまに怯え、落ち込むなのはを尻目にユーノが尋ねる

 

「なら、あなたの目的は何ですか?」

 

「目的?フェイトの手伝い、つまりジュエルシード集めだな」

 

「何故ですか?」

 

「何故?そこにいる弟と一緒だ。命を助けられた恩を返しているに過ぎない。おっとフェイトの目的など聞いても無駄だぞ。先に言っておくが俺はなぜフェイトがジュエルシードを集めているのかなど知らんのでな」

 

「知らない!?そんな…理由も無しに、あんな危険なものを集めるのに協力しているというのか!!」

 

「あぁ、それがどうした?」

 

「どうしただと!?あれはとてつもないエネルギーを秘めている。扱うものが悪しき者ならばとんでもない事態を引き起こすんだぞ!!」

 

「だからどうしたというのだ」

 

「何ッ!?」

 

「そもそも、そんなことを危惧するぐらいなら貴様が取り戻せばよいではないか。フェイトを下し、アルフを躱し、この俺を出し抜けるならな」

 

「そんなこと…だと」

 

「俺にとっては些細なことよ。銀河を砕くこの俺にはな。気に食わぬのであれば滅するか止めればいい。俺にはそれができる」

 

 ユーノはそんな発言に絶句する。信じられないからだ。ジュエルシードを目の当たりにしておきながらもそんなことを堂々と言い放つ男の実力も感性も

 

「力があっても強き意志のないものは哀れだ。が、意志は強くとも力を持たないものは…自覚しているのならまだいいが、それも無いようでは愚かしい」

 

 仕方がない。と言うことを聞かない子供にこれ以上言っても無駄だと思っていることが言葉の端々から感じられる

 

「やめろ、言い過ぎだ」

 

 とうとう見かねたのかデフテロスが少女と少年の間に割って入り、少女たちを庇うように立つ

 

「小娘。貴様に言っているのだ」

 

「アスプロス、やめろ!」

 

「お前は弱い。昨日、何ができた?無様にもフェイトに負け、ジュエルシードを掠め取られ、奪い取られた。以上だ。いや、訂正しよう。隙を作るための人質・餌には十分だったな」

 

「え…あの…わ、わたしは…」

 

「一度、ここから去れ!!」

 

 

ANOTHER DIMENSION(アナザーディメンション)

 

 

 異次元の裂け目が展開し一瞬にしてアスプロスを宙空間が覆う

 

「冷めていると思っていたが意外と過保護だな」

 

 薄く笑いながら弟へと話しかける彼は飄々とした様で異次元の狭間に立つ。呑み込まんとする異次元の引力にも彼は靡くことはない。何しろその異次元を統べる主の一人なのだから、その世界の規範(ルール)すらも彼の意のままにある。彼にしてみればその世界の序列は下にあるモノであり、世界に縛られることなど滅多なことではありえない。同等の存在の手により直接引き込まれることなしには

 

「―ANOTHER DIMENSION(アナザーディメンション)―異次元を渡り、異次元に処す技…だが、この俺を異次元に飛ばすにはお前が直接引き込まなければ無理だということは分かっているだろう?ロストキャンバスでこの俺がお前にやってみせたようにな」

 

「そんなことは分かっている。これが今の俺の意志を表したものだということがわかるだろう!道は用意した。俺の意志を汲むのならそこを通りここから去ね!今のお前はこいつらにとっては劇薬でしかない」

 

「こんな奴らに遠慮などすることはないだろう」

 

「もう良い、行け!何が手伝ってやろうだ。場を掻き乱しただけではないか!!」

 

「十分、手伝ってやったではないか。もう少し時間があれば丁寧に心を折ってやったのに…デフテロス。お前は身内に優しすぎる。弟子や聖闘士の括りではなく友人、家族に対してな。それを俺が肩代わりしてやったのだ。もっと感謝してほしかったところだが…」

 

「クッ…」

 

 思うところがあるのかデフテロスは言葉に詰まる

 

「そうだ。このままでは可哀そうだ。一つそこにいる二人に聞きたがっていたこと一つ話してやろう。先程、俺とデフテロスが話していたことは―俺と同等の力を持つ存在デフテロスの勧誘だ。いい返事を貰えたぞ、俺は。つれなくされる貴様等とは大違いだ。さて、俺はここで退散するとしよう」

 

―また会う日を楽しみにしているぞ、弟よ。願わくば戦場以外でな

 

 そういうとアスプロスは境界の淵を蹴り、星々が浮き彩る異次元の奥底へと消えてゆく

 

「チッ、またも…厄介なことを言い残していきよって」

 

 忌々しそうに舌打ちをした後、デフテロスは愚痴をこぼす

 

「…お兄さん。本当なんですか?」

 

 すっかり意気の消沈したなのはは疑念の眼差しを向ける。その後ろでユーノもこちらを向き構えている

 

「お前を守ると言っている俺が奴らに付くとでも?仮に付いたとして俺が奴等に付けば貴様等はジュエルシードの収集をやめるのか?そして、止めぬのなら敵対する俺がどうやって貴様等を守ると思っているのか?よく考えろ。それが答えだ」

 

「でも…家族なんですよね。怖い方ですけど…あんなに気にかけていらっしゃるお兄さんで」

 

 どうにも疑念は拭えないのか…だが、それと同時にこれ以上離れたくないような縋るような不安な色も差している

 

「奴とはとうに縁は切れてる。それも奴から切られた形でだ」

 

「けれど、僕たちにはそれが信じられない。秘密主義のあなたには」

 

「お前たちは俺に何を期待しているのだ!?」

 

 いらいらしてきたのか語気が強くなる

 

「全て打ち明けて欲しいんです!!」

 

「言っても信じられんだけだ。荒唐無稽な話であるし、何しろ俺自身も俺があっているか確証が持てんというのに話せるか!」

 

「それって僕らを信用できないってことじゃないですか!!」

 

「どうしてそうなる!!俺は今は話す時では無いと言っているだけだ!!」

 

「ここまで詰問されてもですか?そこまで聞かれては困ることなんですか?後ろめたいことが無いなら言えるはずじゃないですか!!先程も嘘をついたではありませんか!!」

 

「嘘をついたのは奴と関わらせたくなかったのだ。奴に課された役目は俺の相手だ。だが、その前にフェイトの付き人でもある。俺の近くにいればいる程なのはには危険が及ぶ。だが、ジュエルシードを求める以上お前達とフェイトは衝突し続けるというのなら奴が黙ってみているはずが無いだろう。俺は奴と落としどころをつけようとしたのだ!ケリもつけてないのに何を報告しろと?それに…俺を信用していない貴様等には言っても聞かぬだろう!!」

 

「信用していないのはお兄さんの方じゃないですか!!」

 

 デフテロスの主張を聞いたなのはは堰を切ったように叫ぶ

 

「私には何も話してくれないのに、一人で全部解決しようとしてるじゃないですか!!」

 

「なのは……僕もなのはと同じ意見です」

 

「以前のフェイトだけが相手だと考えていたのなら話していただろうが…状況は変わった。先程話した訳の他にも理由がある。お前達には奴のことも俺のことも話せばいらぬ動揺を誘うことになるからだ。そんな状態でフェイトと戦って勝てると思うか?自惚れるな、お前たちはフェイトとアルフのチームより弱い。その上奴らの意志は固く、貴様らの意志が脆ければどうなるか結果は見えているだろう」

 

「……」

 

「そうやって心配してるって理由で本当のことを隠してるじゃないですか!!やっぱり信用してないじゃないですか!!なんであんな怪我をしてたんですか!?なんで私を守ってくれるんですか!?何でそんなに強いんですか!?なんで…どうしてそんなに頑ななんですか…全部、全部話してくださいよ!!」

 

 次第になのはの瞳は濡れ、眼尻から涙が零れる

 

「ガキに言う必要が無いし、そうでなくとも今の貴様等には話せんよ。話してほしければその意思にふさわしい力でも見せてみろ。今のお前たちがすべきことは俺を尋問することではない。ジュエルシードのことを忘れ日々を過ごすか、奴等に負けぬよう追いつこうと鍛錬することだけだ。すべきことの取捨選択は誤るな」

 

 デフテロスはなのはを厳しく突き放す

 

―話し合いでなんとかできないこと…ない?

 

―私はロストロギア、いえジュエルシードを集めないといけない。何を言われようと、貴女が何をしようと

 

―どうしても?

 

―どうしても。あなたがジュエルシードを集め続ける限り、どこまでいってもあなたと私はジュエルシードを求めて戦う敵同士でしかない

 

―そう簡単に決めつけないでよ!敵同士って簡単に決めつけないためにも話し合いって必要なんだと思う。この前と違って私とあなたはこうやって今話をすることができてるんだから!!やりもしないで決めつけないで!!

 

―話し合うだけじゃ…きっと何も変わらない!伝わらない!お互いがお互いの意志をぶつけ合うだけでその話し合いはきっとどこまでも平行線を辿る。それを避けるためにはどちらかが妥協しなければならない。だけど、そうなっても…私は絶対に譲らない!!

 

―賭けて、私たちの持つジュエルシードを…!もちろん、あなたの持つジュエルシードを今回だけで全て寄越せといわない。私は持っているジュエルシードは一つ。だから私が勝ったらあなたのジュエルシードを一つ譲ってもらう。私が負ければここで手に入れたジュエルシードを大人しくあなたに渡す!

 

 不意にフェイトとのやり取りが再生される

 

「…貴方もフェイトちゃんと同じなんですね」

 

―話し合うためには私が対等な立場にならなくちゃ

 

―話し合うためには私が認められなきゃダメなんだ

 

「…私に力があるって認めてもらえばいいんですね。ユーノ君、結界を張って」

 

「えっ!?」

 

「早く!!」

 

「…わかった、彼とやるんだね」

 

「うん、私の全力全開をあの人にぶつける」

 

「このガキどもがッ…!!奴と、いや俺とお前らの差を思い知らせてやろう」

 

 

 

 

「ふむ、面白いことになって来たな。このまま、デフテロスが見切りをつけるか奴らに引導を渡してくれれば上々だが…そう上手くはゆかんだろうな」

 

アスプロスは掌に水晶玉のような球形の異次元からデフテロスや少女が衝突するさまを覗き眺める

 

「お前が何を思いどう行動しようと、それを身近な者に疑われ理解してもらえぬというのは辛いなぁ…デフテロスよ」




プロットではあの双子がちょろっと話をしただけで次のなのはとフェイトの戦いに移るはずがどうしてこうなった…

わからないことや理解できなかったところがあれば感想欄を見ていただければ幸いです

様々な方の感想や疑問にそこで回答させていただいてますので、もし既出の疑問なら見るだけで理解していただけますし、まだ出ていない質問であれば書いていただければ回答させていただきます(露骨な感想稼ぎ)

単純に感想を書いていただいても筆者のやる気はかなり上がります

小説の描写を小説内ですべて回収することは基本的にありませんのでその点をどうかご容赦ください
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