この世界に神というものが存在するならば、人間はどうするだろうか。
神は全知全能だと言うけれど、本当にそうだろうか。
これは、神を全ての指針とし国を治めてきた者たちの絶望と運命の話である。
深い闇の中に、存在感を示す泉。
通称<生命《いのち》の泉>の前には2人の男女が並んでいた。
女は巫女服を身に着けており、男はジャージにジーパンという普通の格好だった。
黒い綺麗な髪をたなびかせ、彼女は笑顔で男に言った。
「ねぇ、雷榎…。
私、大好きだよ。この国が。
雷榎と出会えたこの国が大好き。
だから怖くないよ。
この国のために死ぬことなんて」
彼女は嬉しそうに笑顔で男に語り掛けた。
だが、そんな彼女とは裏腹に彼は悔しそうな顔をみせる。
「俺はお前が死ぬことなんて望んでない!!
お前がやらなければならない理由なんてどこにもないんだ。
…俺と逃げよう。
国なんてもうどうでもいい。
お前を失うぐらいなら、こんな国滅びてしまえばいい!!」
彼女の手を掴み絶対に離さないと、強く握った。
そんな彼に、彼女は自分の手を乗せ安心させるように話し出す。
「そんなこと言わないで…。
雷榎と出会えたのはこの国のおかげなんだよ。
それに雷榎はこの国の王様になるでしょ?
だめだよ、そんなこと言ったら」
「そんなことどうだっていいんだ。
お前さえいれば、俺はどうなってもいいから…。
頼む、一緒に逃げてくれ」
懇願する雷榎に、彼女も少し悲しい顔をするが気持ちが変わることはなかった。
「……雷榎が治めるこの国の手助けができる。
誰かがやらなきゃいけないのなら、私がやるよ。
それが私の役目だもん」
決意のこもった声に、雷榎は彼女の意思を感じていた。
だが、それでも手放せないのだ。
彼女だけは…。
身勝手な思いだとしても、誰がどう言おうとも彼女だけは失うわけにはいかなかった。
「頼む……頼むから…。
リア………」
泣き崩れそうな雷榎をリアと呼ばれた女は、きつく抱きしめた。
「大丈夫。
私は大丈夫だよ……。
皆をよろしくね」
雷榎が顔をあげた瞬間、彼女はきつく繋がれた手を振り切り泉の中に足を入れた。
「待て!
リア!!!!」
雷榎も追いかけようとするが、泉には特殊な結界が張られ近づくことが出来なくなっていた。
必死に見えない壁をたたくが、2人を阻むそれは崩れることはなかった。
「大丈夫……。
私はずっと側にいるよ…。
――愛してる、雷榎」
そう言い残すと、彼女は泉に飲み込まれていった。
見ていることしかできない雷榎。
全てが終わると結界は消え、泉に近づくことが許される。
「リア…?
リア……?
いるんだろ?
……リア」
水をかき分けながら必死に彼女を探す雷榎。
だが泉は人を飲み込んだような跡はなく、底の浅いただの泉と化していた。
そんな時、雷榎の体が光を帯びる。
悔しそうな顔で、光を受け入れる彼の目は少しずつ色をなくしていった。
「お前の願いを叶えてやる…。
待ってろ、リア――――」
こうして新たなる時代が幕を開けた。
神彩華の王、白雷炎が誕生した。