武の竜神と死の支配者   作:Tack

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 誤情報やプライベートの問題で大変御待たせ致しました。
 今回から皆さん御待ちかねのニグンさん登場です。



第十七話【神となった日⑤】

 陽がもうすぐ落ちるという頃、カルネ村から離れた平原に一人の男が立っていた。

 

 金の短髪に平凡な顔立ち、容姿としては至って普通であり人混みに紛れれば見失ってしまう事だろう。

 只、その男を一般人とは違う存在として際立たせているものがあった。

 確かに着用している専用の法衣にも目を見張るものはあったがそうではない。

 注目すべきはその頬と眼だ。

 左頬にある刃物によるものと思われる大きな傷はその場所を大きく切り裂いており、既に古傷となっているが見た目にも痛々しい。

 そして眼は硝子細工のように、生気も一分の隙すらも見せない。

 

 眼前に多くの部下を散開した状態で従えるその男の名はニグン・グリッド・ルーイン。

 スレイン法国の誇る裏の特殊部隊六色聖典の一つ、殲滅戦を得意とする陽光聖典の隊長を務める男である。

 

 彼の任務は目の前に息も絶え絶えの状態で立っている男、リ・エスティーゼ王国戦士隊戦士長ガゼフ・ストロノーフの抹殺。

 及び目撃者の処理である。

 

 流れとして、まず囮の部隊に帝国兵の武装をさせ、王国領内の各村を襲わせる。

 そしてそれの討伐隊として送り出されるであろう、ガゼフ・ストロノーフを万全の態勢で襲撃するという計画だ。

 

 若干イレギュラーな要素があったものの、今その計画は果たされようとしている。

 だが、計画成功が目前に迫っているにもかかわらず、ニグンの胸中は穏やかではなかった。

 

 

(何故……、何故お前は私と同じ方向を向いていないのだ、ガゼフ・ストロノーフよ……)

 

 

 ニグンは普段、冷徹に任務をこなす男として知られているが、実際はガゼフに匹敵する熱き男である。

 その熱き心が、民や部下を守ろうと血反吐を吐きながら戦うガゼフに止めを刺したくはないと叫んでいたのだ。

 

 しかし、これは上から言い渡された最重要任務。確実にこなさなくてはいけない。

 もし失敗などすれば、天涯孤独の自分ならまだしも、本国に恋人や友人、更には家族がいる部下達にどんな悲惨な運命が待ち受けるかなど想像に容易い。

 事実、過去に他の部隊で失敗の要因を作ったとされる隊員が家族ごと粛正された事があった。

 故にどんな思いを抱こうとガゼフ・ストロノーフ(この男)は絶対に始末せねばならない。

 ニグンは自らの運命を呪った。

 

 

(……たとえ神に全てを捧げた身であってもこれだけは問いたい。我等が信ずる神(生の神 アーラ・アラフ)よ、何故私にこの様な試練を与えたのですか……!)

 

 

 表情は依然として崩さず、心の中で神に訴えた。

 何故私なのか? 何故今なのか? と。

 

 

(出来るのであればこの男は殺したくない。神よ、どうか御慈悲を……!)

 

だが、必死の願いも空しく、周囲では何も起こる気配は無く、差し迫った時を止めることもできない。

 それにニグンはいつまでも脚を止めている訳にもいかない、奴らの目はどこにあるか判らないからだ。

 ひょっとすると人質を取られ脅迫されている部下もいるかもしれない。ニグンはそう考え一つ大きな息を吐くと覚悟を決めた。

 しかし、彼の無機質な瞳の奥には感情の光が揺らめいていた。

 

 

//※//

 

 

 一方のガゼフは先程迄の事を思い出していた。 

 当初の彼の作戦では、まず敵に対し自分が剣での一撃(テスカの爆炎)を加え注意を此方に引き付けた上での離脱となっていた。

 しかし、敵の妨害によって落馬し作戦は失敗。

 せめて部下だけでもと考えたが、結局彼等はガゼフと共に戦うと戻って来てしまった。

 

 それからの戦いも、神々から与えられた武器と力によって最初こそ押したものの、次から次へと召喚される天使達に押され今や立つのは深手を負う己のみ。

 部下達も重症を負っていたが、皆息はある様で、これも、先程神から与えられた力によるものなのだとガゼフは思った。

 彼は二柱の神(ドモンとアインズ)に心の中で感謝をし、それと同時に謝罪をした。

 

 

(偉大なる神々よ、誠に申し訳御座いません。どうやら私はここまでの様です。どうか村の者達を……!)

 

 

 ニグンと同じく、ガゼフもまた覚悟を決めた。

 

 

「不様だ……。非常に不様な姿だな、ガゼフ・ストロノーフよ」

 

 

 ニグンの嘲りを含んだ声がガゼフの耳に届く。だが、この言葉は彼の本意ではない。

 何故なら、ニグン自身は今のガゼフのことを、寧ろ尊敬すらしているのだから。

 その身を危険に晒してまで他者を守ろうとしている勇者として。

 

 この言葉の真意は上層部の手の者、つまりはスパイへの配慮である。

 ニグンはこれまでも只ひたすらに命令を遂行してきた。

 どれだけの悲鳴が鼓膜を叩こうとも、数多の命が失われようとも。これしかないのだと言い聞かせて。

 

 けれども、その努力もたった一回のミスで帳消しになってしまうかもしれない。ニグンはその恐怖と戦い続けて来た。

 その為彼はいつも冷徹な男を演じてきたのだ。

 

 

「正直な所、その妙な剣とお前達にかけられた魔法には最初驚かされもしたが……。どうやらここまでの様だな」

 

 

 まるで然したる問題も無く勝利を収めたかの様に話しているが、実際その戦闘内容は辛勝そのもの。

 ガゼフがドモンから手渡された(テスカ)の力は凄まじく、その威力に最初はニグン達陽光聖典の者達も驚き、そして圧倒されかけた。

 

 されどそこは法国が誇る特殊部隊、すぐに陣形や戦法を長期戦向けに変え対応した。更にはガゼフが力の制御に慣れていなかった事も大きかった。

 

 その結果、何とか陽光聖典は勝利を掴む事が出来たのだった。

 死傷者や切り札(・・・)すらも出さずに終われたのは最早奇跡であろう。それまでにガゼフの持つ剣の力は凄まじかったのだ。

 ニグンは内心冷や汗どころではなかったのである。

 

 

「……最後に聞いておこう、ガゼフ・ストロノーフ。その剣と魔法、それらは誰に貰った力だ?」

 

「神だ……」

 

「何?」

 

「偉大なる神に頂いた力だと言ったのだ」

 

 

ニグンは己の耳を疑った。

 

 

(作戦行動中でたまたま行った村に神が居たと言うのか? バカバカしい。)

 

 

ニグンはそれを言葉にしてガゼフにぶつけずにはいられなかった。

 

 

「ハッ! 落ちぶれたものだなぁ、王国戦士長も。神ぃ~? 神だとぉ? 貴様等王国の人間などに神の祝福があったとでも言うのかぁ?」

 

 

 ニグンは自らへも突き刺さる言葉を並べていく。それは正に八つ当たりのであった。

 

 

「貴様等の元に神など居はしなぃっ! どうせ旅の冒険者かそこらの人間にかけて貰った魔法だろうがぁ!」

 

 

 そんな筈はない。戦士達にかけられたものは自分達が使える様な魔法ではない、遥かに高位のものだ。

 ガゼフが持っている剣も伝説に語られる様な代物だろう。

 そんな物を冒険者がそう簡単に手渡すとは思えない。ニグンはその何者かにはっきりと恐怖を覚えた。

 

 

「もういい……。

どの道お前はここで終わりだ、ガゼフ・ストロノーフ……。

全天使っ! 攻撃態勢っ!」

 

 

 ニグンが手を掲げ部下達は攻撃態勢をとる。

 

 

(俺もここまでか……。陛下、お役に立てず申し訳御座いません。偉大なる神々よ、どうか村人達を御守り下さい)

 

 

 ガゼフはせめて隊長と相討ちに、その覚悟で剣を握る手に力を込め直した。

 その時だった。

 

 

「待てえぇぇぇいっ!!」

 

 

 突如響く大声と共に何かが天から降って来た。

 地面と衝突したその衝撃は凄まじく、辺りに土砂の嵐が吹き荒れる。

 

 

「な、何だぁっ!?」

 

「!? ニグン隊長! あ、あれを見て下さい!」

 

 

 副隊長の言葉を聞き、ニグンは素早く何かが落ちた方を見た。

 

 

 「あれは……、何だ……?」

 

 

 もうもうと立ち込める土煙の中から何者かが立ち上がった。

 その何者かはおもむろに手を振り、途端に強風が吹き荒れる。

 

 

「うおぉぉぉっ!?」

 

 

 その風が止み、ニグンが恐る恐る目を開けるとそこには竜を象った物と思われる見慣れない鎧を着た人物が立っていた。

 赤いマントを(なび)かせるその人物にニグンは警戒心を強めた。

 

 

「貴様ぁ……、何者だ……!」

 

「俺は神……。名を武神覇竜ドモン・カッシュと言う」

 

「はぁ? 神だと?」

 

 

 ニグンは思わず抜けた声を出した。いきなり現れた男(?)が自分を神だと言えば当然の反応である。

 

 

「ドモン……さ……ま、何故……?」

 

「間に合って良かった。どうやら無事の様だな、ガゼフ」

 

 

 ドモンはガゼフ達が無事なのを確認すると胸を撫で下ろした。

 そんなドモンをガゼフは驚きの表情で見詰める。

 何故ここに居るのかと問い質したいのだ。

 

 

「そんな顔をするな。村人達なら大丈夫だ」

 

「そ、そう……ですか。あ、いやそうではなく──」

 

「話は後だ、取り合えずお前は休んでいろ」

 

 

 そう言ってドモンがガゼフと彼の部下達を順に指差すとその身体が浮いた。

 

 

「おぉっ!?」

 

「心配するな、後ろへ動かすだけだ」

 

 

 彼等を後方へ動かしながらドモンが言う。

 低位の魔法で主にダンジョン内のオブジェクト等を動かす為のものである。

 消費する魔力量や対象の抵抗力等によって生物も動かす事が出来る。

 ドモンがガゼフ達を自分の遥か後ろへと移動させた後、どこからか声が聞こえてきた。

 

 

──ふぅ、どうやら間に合った様だな。

 

「こ、今度は何だ!?」

 

「ひぃっ!?」

 

 

 突然門を象った闇が出現し、そこから悪魔の騎士を従えた死神が現れる。

 アインズがドモンを追ってアルベドと共に転移したのである。

 

 

「ドモンよ……急く気持ちは分かるが、せめて転移を使え。村人達がかなり驚いていたぞ」

 

「すまん、身体が先に動く性分なんでな」

 

 

 ドモンと何気無く会話するアインズに陽光聖典の者達は驚愕した。

 それは勿論急に現れた事もそうであったが、真実は別の所にあった。

 

 

「ス、スルシャーナ様……?」

 

「お、おい。あの御方はスルシャーナ様じゃないのか……?」

 

 

 陽光聖典側がざわめく。それを見たドモン達は不審に思った。

 

 

《スルシャーナ様? なんじゃそりゃ?》

 

《アインズさんを見て言ってるみたいですね》

 

《んー、一応読んで貰えますか? 何かの参考になるかもしれないんで》

 

《了解です》

 

 

 二人がそんなやり取りを伝言(メッセージ)で行っている間にも陽光聖典達の会話は止まらない。

 

 

「な、何でスルシャーナ様が彼方側に居るんだ? 俺達を守護して下さっている方じゃないのか?」

 

「ま、まさか俺達は見放されたのか!?」

 

 

 兵士達は口々に自分の考えを言っているが、そこに一人だけ口を閉ざしたままの男が居た。

 陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーインである。

 

 

(ま、まさか本当に死の神スルシャーナ様なのか!? まさか実在したとは……。だとしたら何故ガゼフ・ストロノーフを守る形で側に居られるのだ!?)

 

 

 口を閉じ、いかにも冷静な様に見えるが彼の頭の中には思考の嵐が吹き荒れていた。

 そしてドモンがそういった陽光聖典の心や情報をある程度読み、その情報を整理してアインズに伝える。

 

 

《──とまぁ、ざっくり言えばこんな感じですかね》

 

《フム、六大神……か。俺達と言う例があるのでプレイヤーの可能性がありますね》

 

《えぇ、俺達も神と言ってすんなり通りましたから、その六大神とやらは高レベルプレイヤーの可能性がありますね。取り合えずはそのスルシャーナ様とやらのフリをしますか? 俺個人の考えとしては後々問題が発生する可能性を指摘しますが》

 

《んー、止めておきます。ドモンさんの言う通り今後のリスクが高くなりそうなので》

 

《分かりました。まぁ、既に俺のせいでリスクの高い行動を取ってしまっているんですがね……》

 

《その話は戻ってからしましょう。今はこの場を切り抜ける方が優先ですから》

 

 

 ドモン達が話を切り上げた後も陽光聖典の者達は騒いでいた。

 彼等自身は少し話し込んでしまったかと思っていたが、思考を加速させた状態での会話だったので特に問題は無い様だった。

 

 

「さて……」

 

 

 アインズの静かな、それでいて不思議と響く声に陽光聖典の者達の身体がビクッと跳ねた。

 

 

「軽く自己紹介でもさせて貰うとしよう。私の名はアインズ。死と大いなる慈悲を司る神、死の支配者アインズ・ウール・ゴウン」

 

「そして俺の名はドモン。武と義を司る神、武神覇竜ドモン・カッシュだ」

 

 

 名乗りを済ませると再びざわつきが起こった。

 陽光聖典の者達は自身の知る神と目の前の存在の名前に食い違いがある事に戸惑っていた。

 

 

「ア、アインズ・ウール・ゴウン? スルシャーナ様じゃないのか!?」

 

「だ、だが御姿は伝承の通りだぞ!?」

 

「違う……。私はスルシャーナではない」

 

 

 アインズの放った否定の言葉に再び陽光聖典の身体が跳ねる。

 まるで父親に叱られるのを恐れる子供の様だ。

 

 

「先程も言ったが、私の名はアインズ・ウール・ゴウン。断じてスルシャーナと言う名ではない」

 

「し、しかし……!」

 

「くどい……!」

 

 

 ニグンの言葉をアインズは静かな、それでいて力のある一言で黙らせる。

 

 

(どういう事だ!? スルシャーナ様ではないだと!? いかん、混乱してきた!)

 

 

 ニグンは今の状況を整理する為頭を回転させるが、情報が少ない為結論には至らなかった。

 故に現状最も優先すべき質問を投げ掛ける。

 

 

「で、ではアインズ・ウール・ゴウン……殿。貴方は一体何をしにこの場へ?」

 

「無論、後ろに居る傷付いた王国戦士隊を救う為だ」

 

「!!」

 

 

 ニグンは一気に青ざめた。実力を見た訳ではないがこの者達は危険だと感じていたからだ。

 先程このアインズ・ウール・ゴウンと名乗る存在が使った魔法もニグンは見た事が無い。辛うじて転移魔法だと分かる程度。

 彼の長年の勘が告げている。早く逃げろ、と。

 

 

(見た事の無い魔法、証拠がある訳ではないがこの状況で自らを神と名乗る大胆さ。不味い……自分の勘を信じるなら撤退だ。しかし……)

 

 

 ニグンはこの任務へと向かう前に、自身の直接の上司である神官長からスレイン法国のトップである最高神官長からの言葉を受け取っていた。

 

 

──ニグン・グリッド・ルーインよ、此度の任務に失敗は許されない。もし失敗すれば……、分かっておろうな?

 

 

 その後の言葉は容易に想像出来た。

 もし失敗すれば自分だけでなく、部下やその大切な者達も粛正の対象になるだろう。それだけは何としても避けねばならない。

 撤退か交戦か、ニグンの決断は……。

 

 

「全天使をあの二人に目掛けて突撃させろ!」

 

「隊長!? し、しかし……!」

 

「あれは神ではない! 神を名乗る不届き者だ! 急げ! 何としてでもガゼフ・ストロノーフを抹殺するぞ! 神ではないとしても相応の実力を持っていると考えろ!」

 

 

 ニグンの判断は交戦であった。例え戦闘で敗北するとしてもガゼフさえ殺せば此方の勝利。

 あの二人の横を一体でも天使が通れば……。ニグンはそう考えていた。

 だが、その直後に彼は己の認識の甘さを呪う事になる。

 

 

「ドモン、範囲攻撃の実験を行いたい。少し離れていろ」

 

「構わん、そのまま撃て。俺も自身のスキルを確かめたいからな。それに……」

 

 

 ドモンは攻撃態勢を取る天使の大軍を見ながら言った。

 

 

「俺を殺し得る全体攻撃など、世界級アイテム以外存在を知らん」

 

「……それもそうだな。良し、アルベドは下がっていろ。王国戦士隊を守ってやれ」

 

「了解致しました、アインズ様。それが御望みとあらば」

 

 

 ドモンの自信過剰とも取れる言葉にアインズは自身の横に立つ男の強さを改めて思い出し、その言葉を肯定した。

 それと同時にアルベドを巻き込まない為後方へ下がらせる。

 

 

「急げ! 奴等が何か仕掛けて来る前に突破しろ! そうすればガゼフ・ストロノーフは目の前だ!」

 

「りょ、了解!」

 

 

 部下達は未だ相手が死の神スルシャーナとの疑念を抱いており、返事にもそれが表れていた。

 ニグンは部下達のその考えを感じており、危険だと分かりながらも行動を急がせた。

 

 そして天使達の突撃。数に任せ、その内の一体だけでも奴等の横を潜り抜けられれば勝利は目前だとニグンは考えた。

 しかし。

 

 

「では行くとしよう……。『負の爆裂(ネガティブバースト)』!!」

 

 

 アインズが魔法を唱えた瞬間、その身体を中心に凄まじい負の波動が広がる。

 その結果、天使の大軍は強大な負の力に押し潰され全て光の粒子となって消えた。

 

 

「バ、バカな……。」

 

 

 辺りに聞こえるのはニグンの漏らした信じられないという旨の言葉。

 

 

「結果はどうだ? ドモン」

 

「良好、と言った所だ。範囲攻撃にも問題無く発動する。そちらも問題無い様だな」

 

「あぁ」

 

 

 神を名乗る二人組が何か話しているが、それは陽光聖典の耳には届かない。

 そこまで大きな声ではなく、距離も離れていた事も挙げられるが、一番の理由は皆余りの衝撃に言葉を聞く理由すらなかったからである。

 

 

「あ、有り得ねぇ」

 

「て、天使の召喚を無効化したのか?」

 

 

 いや、違う。ニグンは一人心の中で思った。

 今の消滅の仕方は間違いなく【力】によって消し飛ばされた時の物だ。

 部下達の中にも気付いているの者達は居るのだろうが、それを素直に認めたくないのだろう。

 自分達が立ち向かわなければならない相手が異常なまでの強さを持っている事を。

 

 

「怯むな! 天使を再召喚し、今度は散開させるんだ! 急げ!」

 

 

 陽光聖典の兵達は己を無理矢理奮い起たせ了解と叫ぶ。そして天使を再召喚し散開させた。

 

 

「次は俺に任せて貰おう」

 

 

 散開した天使達の前に今度はドモンが前に出た。

 迫り来る天使達。それに対しドモンが行った行動は只腕を組んだまま静かに目を閉じただけだった。

 構えをとる訳でも無く、また魔法を唱える訳でも無い。

 目を閉じている状態を陽光聖典の者達が伺い知る事は出来なかったが、只静かに待つその姿を見たニグンは背筋に冷たいものが伝う感覚を覚えた。

 

 

(やはり得体が知れない……! 何だ! 何を仕掛けてくる!?)

 

 

 ドモンとアインズに向かって天使達が迫り、そして何をされる訳でも無く通り過ぎた。

 

 

(何もしない……だと!?)

 

 

 ニグンは一瞬だけ安堵したが、その考えはすぐに否定される事になる。

 傷付いた王国戦士団の前で天使達が停止したのだ。すぐ目の前に目標が居るにもかかわらず。

 アインズ・ウール・ゴウンの従者と思わしき戦士も武器を構えてはいない。

 その様子を見て自分の右腕である副隊長に問いかける。

 

 

「!? お、おい! 何故天使を止めた!? 早くガゼフ・ストロノーフを始末させろ!」

 

「い、いえ私達は何も……!」

 

「何だと……!? 一体どういう……」

 

 

 そこでニグンの言葉は止まった。普通に考えて有り得ないものを見てしまったからだ。

 

 

「何だ……、あれは……」

 

 

 ドモンの横を通り過ぎ停止した天使達が、まるで見えざる手によって天に還される様に光となっていくのだ。

 一体、また一体と光になっていき、とうとう全ての天使達が消えた。

 

 

「な、な、何をしたぁっ!?」

 

 

 先程のアインズ・ウール・ゴウンの事は理解出来た。

 信じたくは無いが、あれは圧倒的な魔力によって行われた攻撃だ。

 しかし今度は違う。理解不能な何か(・・)を行って天使達を無力化したのだ。

 

 

 「何をしたか……だと?」

 

 

 ドモンの言葉をニグン達は恐れ、逃げ出したくなる気持ちを何とか抑えながら聞いた。

 

 

「タネも仕掛けもありはしない……。只一撃を入れただけだ」

 

「……は? 何だと?」

 

 

 ニグンはその言葉を簡単には信じられなかった。

 ニグンは魔法詠唱者(マジックキャスター)だ。従って近接戦闘に特化している訳では無く、近距離で振るわれた自身と同等かそれ以上の戦士の攻撃を全て見切るのは困難だ。

 しかし今は少し離れた距離で見る形になっており、更にはその一撃を加えたという対象の天使も大量に居た。

 にもかかわらずその一撃とやらが全く見えなかった(・・・・・・・・)

 

 

「バカなぁっ! ハッタリだぁっ!」

 

「ハッタリ等では無い。証拠を見せてやろう……」

 

 

 その言葉と共にドモンがニグン達に向かってゆっくりと歩き始める。

 

 

「う、うわぁっ! ショ! 『衝撃波(ショック・ウェーブ)』!!」

 

「ひいぃっ! ポ! 『(ポイズン)』!!」

 

 

 ドモンから溢れる威圧感に負け、パニックを起こした兵士達が魔法を放つ。が、それは全てドモンの手前で弾かれた。

 陽光聖典の者達とドモンとの圧倒的なレベル差から生まれた結果である。

 魔力抵抗が高過ぎるのだ。

 

 それを見た兵士達は益々パニック状態を加速させていく。

 自分達が血と汗にまみれながら修得した技術の結晶が全く通用しない。

 その事は、一人の隊員にアインズに向かってのスリングによる(つぶて)の一撃を選択させた。

 

 

「ひゃあぁぁっ!!」

 

 

 刹那。大気が震えたかの様に思われた。

 次の瞬間にはドモン達の前に後方へと大きく距離をとっていた筈のアルベドが居た。

 その手に持った巨大なバルディッシュは既に振るわれており、それを片手でドモンが受け止める形で静止していた。

 そしてもう片方の手で今撃ち込まれた礫を受け止め、ドモンはそのままアルベドに問い掛ける。

 

 

「アルベド……。何をしている?」

 

「ハッ!」

 

 

 バルディッシュを納め、ビシッと足を揃えてアルベドが答える。

 

 

「あの下等生物が愚かにも偉大なる御方々に下らぬ飛び道具などを使用致しましたので……、それを打ち払うべく行動した次第に御座います」

 

「下らぬ……飛び道具か」

 

「はい。恐れながら、偉大なる御方々に対しての攻撃としては余りにも貧弱。これは御二方への侮辱に等しい行為かと……」

 

 

 本心からの行動、そして言葉故にアルベドにも力が入る。

 それを(なだ)める様にドモンは言った。

 

 

「侮辱か……。俺は違うと思うぞ?」

 

「……と、仰られますと?」

 

「教えてやりたいのは山々だが今はやる事がある。下がっていろ」

 

「……畏まりました」

 

 

 ドモンの言葉を聞き一礼した後、アルベドは再びアインズの後方。王国戦士隊の側へと下がった。

 

 

「さて、人の子達よ」

 

 

 ドモンが何気無く放った一言にニグン達はまたもや身体を跳ねさせる。

 

 

「まだ続けるか?」

 

 

 その一言にニグンは含みを感じた。

 それはこれ以上やっても時間の無駄だと言うものだった。

 ドモンがわざと口にした言葉ではあったが、ニグンからしてみれば圧倒的強者のみに許される余裕から来るものに他ならなかった。

 それに対してのニグンの答えは……戦闘の継続。

 元より後退など出来はしなかった。

 

 

「プ! 『監視の権天使(プリンシパリティ・オブザベイション)』! かかれっ!」

 

 

 ニグンの命令に反応し、今まで彼の横で微動だにしていなかった天使がその大きな翼を広げ動き出す。

 

 

《アインズさんどうしますか? 俺がちゃちゃっと倒しても構いませんが……》

 

《そうですね。奴等が何か切り札を持っていると言うなら話は変わりますが……》

 

《ちょっと待って下さい。……ありますね、切り札》

 

《なら……》

 

《いや……、これ切り札なのか?》

 

《どしたんですか?》

 

《うーん、あのですね……》

 

 

 ドモンの話を纏めるとこうなる。

 ニグンは確かに切り札を持っていた。ユグドラシルにも存在した『魔法封じの水晶』と言うアイテムの中に封じ込められた最高位天使だ。

 

 しかし重要なのはここからである。その天使がハッキリ言って弱い。弱過ぎるのだ。

 『威光の主天使(ドミニオン・オーソリティ)』。

 それがニグンが隠し持っている水晶に封じられている天使の名である。

 大層な名前だがドモンやアインズからしてみれば只の雑魚。

 ここまでの話でも分かる通り、二人は相手が弱過ぎて逆にどう対応するか悩んでしまったのだ。

 

 

《誤算だ。……下手すると熾天使級(セラフクラス)は出てくると思って覚悟してたんですが》

 

《やはりこの世界のレベルはかなり低いと言う事でしょうかね? よく聞く非合法の精鋭部隊でこの程度ですから》

 

《うーん、断言は出来ませんが遠からずって所ですかねぇ……。少なくとも人間のレベルは》

 

《どうします? 思考加速にも限度があるからそろそろ決めないと》

 

《……よし! ドモンさん、目の前の天使ぶっ飛ばしちゃって下さい》

 

《いいんでs……あぁ、分かった。アインズさんまた何かしら実験するつもりでしょ?》

 

《御明察》

 

《了解だ。我が友よ》

 

 

 ドモンが口調を戻す為の言い方をするとアインズがぼそっと誰にも聞こえない様に呟いた。

 

 

「せめて伝言(メッセージ)の時位は砕けたままでいて欲しかったなぁ……」

 

「どうかなさいましたか? アインズ様」

 

「いや、何でも無い」

 

 

 急に落ち込んだアインズの姿を見てアルベドが声をかけるが、それをアインズは少し素っ気ない態度で返す。 

 その態度にアルベドはアインズ様のいけず……。でもそこがまた……。と一人で呟いていた。

 

 

「さて、ちゃっちゃと終わらせるとしよう」

 

 

 迫り来る天使を前に、ドモンはマントを(なび)かせながら言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 第一回「誰だお前?」選手権!
 今回はニグン・グリッド・ルーインさんでしたー!
 ……茶番は置いといて、如何だったでしょうか?
 次の話もほぼ出来上がっており、数日中に上げる予定です。
 書くことあまりなくてごめんなさい。
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