武の竜神と死の支配者   作:Tack

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第十八話【神となった日⑥】

 すっかり日が落ち、周囲が闇夜に支配された頃。ドモン達の目の前で一体の天使(モンスター)が、その身体を真っ二つに切り裂かれ崩れ落ちた。

 

 その後ろでは、陽光聖典隊長ニグンがまるでこの世の終わりを迎えた様な顔をしている。

 

 

「ぶ、ぶぁ……。ぶぅわかなあぁぁぁっ!!」

 

 

 ニグンの絶叫が木霊し、その後暫しの静寂が訪れる。

 ドモンが心を覗くが、やはり隊長(ニグン)が召喚していた天使、そして切り札である最高位天使を瞬く間に倒されたのが余程堪えた様だ。

 ニグンは勿論の事、他の隊員達の心も最早見るのも哀れと言った内容だった。

 

《この後の事を考えて、実力を見せつつもあまりインパクト与え過ぎない。……つもりだったんだけどなぁ》

 

《しょうがないですよ。あの程度のモンスターが『現断(リアリティ・スラッシュ)』を耐えたら逆にこっちが慌てますって》

 

《魔法選択ミスったかなぁ……。凄いリアクションしてるよ、これでオカシくなっちゃったりとかしないよな……》

 

《いや、俺は良いチョイスだと思いましたよ? 流石はアインズさんだ、って》

 

《……》

 

《どうしたんですか?》

 

 

 アインズはいや何も、と言って伝言(メッセージ)を切ってしまう。

 何か悪い事を言ってしまったのだろうか? もしそうなら後で謝っておこう。

 ドモンがそんな風に思っていると、いつの間にかアインズとニグンの間で話が少し進んでいた。

 

 

「私達が何者か……だと?」

 

「そうだ! あなっ……! いや、お前達の様な者達が今まで無名だったなど信じられるかっ! 一体何者なんだ!? 本当の名前を言え!」

 

「さっき名乗った通りだよ、私は死と大いなる慈悲を司る神アインズ・ウール・ゴウン。そして横に居る彼は、武と義を司る神である、武神覇竜ドモン・カッシュだ」

 

「バカな事を言うなあぁぁっ! 

 神など……、神など本当に居てたまるかあぁぁっ!」

 

 

 信仰国家の部隊長としてあり得ない言葉がニグンの口から飛び出る。

 その言葉に部下達も驚いていた。当然の事である。

 ドモンはニグンの心を事前に見ていた為特に驚きはしないが、同情はした。

 今、ニグンの心の中はこんな考えで一杯だったのだ。

 

 

──お前達が神ならば何故、自分が罪も無い者達を手にかけた時に止めてくれなかったのか?

 

 

 この陽光聖典は殲滅戦を主とする部隊、今まで数々の集落を滅ぼして来た。

 彼等が所属するスレイン法国は人間至上主義を掲げ、殲滅するのは主に亜人種の集落などだったが、滅ぼした集落の中には一般の村、つまりは人間すらも標的となる事もあった。

 

 その理由は多々あったが、結局、人を殺める事に代わりはなく、ニグンはそのことに憤りを感じていた。

 

 

「悲しいものだな……。だが、俺も人のことは言えないか……」

 

 

 ドモンは誰にも聞こえない様に呟いた。

 と、その時。

 

 

「今度は……、一体何なんだ」

 

 

 悲痛な叫びを過熱させていたニグンが空を見上げ力無く言った。

 突然空、つまりは空間にヒビが入りそしてすぐにまた元通りの空に戻ったのだ。

 

 

「何者かが今の状況を覗き見ようとしたらしいな。神を見下ろそうとする不届き者が。」

 

 アインズの言葉にニグンがもしや本国が、と漏らす。その顔は心無しか青ざめていた。

 知らぬ間に監視されていた、しいては部下の家族達に危害が及ぶかもしれないという事に対しての表情だった。

 

 

「安心しろ。私とドモンの攻性防壁が働いたから見られてはいない筈だ。……と言うかその暇は無いと思うぞ?」

 

「どういう……事だ……?」

 

 

 アインズが言った事の真意を知りたいニグンは、恐る恐ると言った感じで聞き返す。

 

 

「私は覗き見た者に対し、範囲強化を施した『爆裂(エクスプロージョン)』と言う周囲に大量の爆発を起こす魔法を放った」

 

「そして俺は、第八位階相当の竜の化身(アバター)を送り込んだ」

 

「そ、そんな……。では、今本国は……」

 

「大惨事だろうな」

 

「!!」

 

 

 ニグンの顔が先程よりも更に青くなる。

 

 

「心配するな。罰を与えるのは俺達神を見下ろそうとした不届き者だけだ、お前が不安になる様な事態にはならんよ」

 

「どういう……意味だ……?」

 

 

 ドモンの言葉の意味が分からず、ニグンは聞き返す。

 

 

「お前の大切な部下達、その家族や友人までには被害は及ばんだろうという事だ、安心しろ」

 

「全てお見通し……という訳ですか……、神よ」

 

 

 とうとうニグンは折れた。

圧倒的実力。全てを見通す眼力。そして愚かにも逆らった自分達にまでかける慈悲。

 ここまでされてはもう疑う余地は無かった。

 

 

「神々よ……。これから我等はどう処罰されるのでしょう……」

 

「死を以て」

 

 

 アインズは冷たく、そして静かに言った。

 その言葉は陽光聖典の者達を悲しみの底へと叩き落とすには充分な言葉だった。

 皆泣き、家族に謝罪をし、友人や恋人へ来世でまた会える様祈った。

 

 

「どうにも……、ならないのでしょうか。せめて部下達だけでも……」

 

 

 土下座をし、掠れた声で涙ながらに部下の助命をする隊長(ニグン)の姿は、部下達の涙腺を再び刺激するには充分だった。

 

 

「どうにもならん、これは償いなのだからな」

 

 

 アインズの言葉はニグンの心を抉った、しかし、アインズはまだ言葉を続ける。

 

 

「只……幾ら私達と言えど、他者を守る為命を賭けて戦う男には怯んでしまう……やもしれんな」

 

 

その言葉にニグンはハッとした。

 

 

「有難う……御座います……! 有難う御座いますっ! 有難う御座いますっ!!」

 

 

 ニグンは顔から流れる様々な体液を拭きもせず、その頭を地面に擦り付けた。

 

 

「隊長!」

 

「ニグン隊長! 駄目です!」

 

「静まれ!」

 

 

 ニグンの大声に部下達はピタリと叫ぶのを止めた。

 それを確認したニグンはゆっくりと立ち上がり、そしてぐしゃぐしゃになったままの顔で優しく笑った。

 その笑顔は、お前達が助かればそれでいいんだと語っていた。

 

 

「偉大なる神々から与えて下さった御慈悲を、お前達は無下にするつもりか。」

 

「ニグン……隊長……」

 

「お前達に隊長として最後の命令を下す。生きろ、そして大切な者達を守るんだ。」

 

「そんな!」

 

「隊長だけに押し付けるなんて!」

 

「さっきあれ程泣き喚いていたのに都合がいいのは分かってます! それでも!」

 

 

 部下達が自分の存命を望む声を止むことが無く、とうとうニグンは怒りに表情を変え叫んだ。

 

 

「黙れっ! ……副隊長、後の事は任せる。私の事ならば、王国と繋がっていた裏切り者として処理をしたと伝えよ」

 

「ニグン……隊長……。止めて下さい……、それではあんまりだ……」

 

「その結果! ……妨害に遇い、ガゼフ・ストロノーフに深手は負わせたものの作戦は完遂出来なかったと。……なに、お前達の様な立派な兵をそうそう切り捨てはせんだろう」

 

 

 ニグンは顔を裾で拭くと、微笑みながら副隊長の肩を力強く握った。

 そして、ドモン達の方へ振り向いた時、そこには決死の戦いをしようとする男の顔があった。

  

 

「別れの挨拶は……済んだ様だな」

 

 

 ドモンの言葉に只頷いてニグンは肯定の意を示した。

 

 

「改めて……名を聞こうか……」

 

「我が名は! スレイン法国特務部隊六色聖典が一つ、陽光聖典隊長ニグン・グリッド・ルーイン! 生涯最期の秘術、とくと御覧あれ!」

 

 

 開始の合図を自らとったニグンは眼を閉じ、両手を眼前で握りしめ力を込める。

 神に対しての祈りを捧げるポーズではあるが、その迫力たるや見事なものであった。

 

 

「うおぉぉぉっ!!」

 

 

 自身の身体から魔力のオーラが溢れていき、それがどんどん大きくなっていく。

 そのオーラが自分の身体の二回り、更にはそれを上回る程大きくなると、やがて天使の姿を象る。

 そしてニグンは眼を見開き、叫んだ。

 

 

「秘術『御遣い降ろし』!!」

 

 

 夜に支配されていた平原が一瞬、黄金色に塗り替えられる。

 その光は凄まじく、部下達が思わず眼を瞑ってしまう程であった。

 

 やがて部下達が眼を開けると、ドモンとアインズの前に、天使を象る金色のオーラを纏うニグンが現れていた。

 

 

「……確かに秘術と言うだけあって大幅に強化されていると見た。……だが。」

 

 

 ドモンの言葉にニグンは一筋の汗を流す。

 

 

「代償が大きいのだろう? お前の眼に苦痛を感じる。」

 

 

 実際には心を覗き手に入れた情報だが、あくまで武神の眼力によって見通したという形で話す。

 

 

「やはり偉大なる神には隠し通せるものではありませんな……。その通りです、この技は私の命を削りながら戦うものです。」

 

「文字通り命を賭けて戦う……と言う事か。」

 

「はい。」

 

「アインズ、悪いが俺がやらせて貰うぞ。この男の命の輝きを感じてみたい。」

 

「構わん。最初からそのつもりだ。」

 

 

 アインズが背中を向け、そのままアルベドの側まで行く。

 その後ろでは剣を杖代わりにするガゼフも居た。

 膝をついた状態ではあったが、部下の為に命を賭けて戦う男の姿を眼に焼き付けようと行く末を見守っていた。

 そして、自分の側まで来たアインズにアルベドは小声で質問をする。

 

 

「アインズ様。何故ドモン様はすぐに止めを刺そうとしなかったのですか?」

 

「ん? あぁ、何と言うかその……演出だよ。」

 

「演出?」

 

 

 アルベドはドモンとアインズとの間で作られた脚本を知らず、頭に疑問符を浮かべていた。

 そして準備が整ったニグンがドモンに攻撃を仕掛けていく。

 

 

「でりゃあぁぁっ!!」

 

 

 ニグンの鬼気迫る咆哮と共に、幾つもの光弾が放たれた。

 だが、ニグンの放った光弾はことごとドモンの魔力障壁によって無力化されてしまう。

 

 

「どうしたっ! お前の覚悟はこの程度かぁっ!」

 

「まだっ……! まだですっ!」

 

 

 その後も様々な攻撃を繰り返すが、その全てが無力化され、そして、ドモンがこの戦いの最後を告げる。

 

 

「終わりの様だな……」

 

 

 ニグンを覆っていた天使を象るオーラがみるみる薄れていく。

 部下達は力の限り叫び応援したい気持ちを堪え、その様子を見ていた。

 

 

「さ、最……がぶぉッ! 最後の……一撃をお見せします」

 

 

 身体の限界を越え、大量の吐血をしながらニグンは言う。

 

 

《最後の一撃とか言ってますが、大丈夫ですかね?》

 

《……どうやら、魔力を急激に圧縮させての自爆を狙っている様です》

 

《え? それは……、まぁ貴方の事だから大丈夫でしょうね》

 

 

 ドモンとアインズは伝言(メッセージ)で次の手に対しての話をした。そしてこの後の話の流れも。

 

 

《この後は予定通り進めましょう。監視していた奴等の話はナザリックに戻ってからの方がいいでしょうし》

 

《分かった、ドモン》

 

《急に何ですか?》

 

 

 あ、いえ何でもないです。と言って伝言(メッセージ)を切ったアインズ、それに対しドモンは疑問を覚えた。

 

 アインズとしては先程の対応をそのままお返ししたに過ぎないのだが、その目論見はドモンのスルースキルによって打ち砕かれた。

 そんな事になっているとは夢にも思わない、ドモンは改めて相対する男を見る。

 ドモンの目の前ではニグンが魔力を凝縮させつつあり、彼の言葉を借りるのならば、最後の一撃を放つ為の準備をしていた。

 

 そして、魔力の臨界近くまで来た時、ニグンはドモンに向かって走り出す。零距離で魔力を放つ為である。

 

 

「 去らばだっ! お前達っ! 今度は良い隊長に巡り会える事を祈っているぞぉっ!」

 

「隊長! 行かないで下さい!」

 

「貴方以上の隊長なんて居ません!」

 

 

 兵士達は走り行くニグンに自分の思いの丈を次々とぶつけてゆく。

 

 

「俺達知ってるんです! 貴方がいつも俺達の事を気にかけて一人で危険な任務を受けていた事を!」

 

 

 彼らの言葉を背で受けながらも男は走り、そして願う。

 

 

(俺は……、本当に良い部下を持てた。お前達は俺の誇りだよ……)

 

 隊長、隊長と、彼らは男を思い、慕う言葉は止まることはない。

 そして男は彼らを思い、ドモンとの距離を詰めていく。そこへ。

 

 

「ニグンッ!!」

 

 

 別れを告げるようにガゼフが叫ぶ。

 しかし、その言葉はまるで仲間を奮い立たせるかのようにも聞こえた。

 いや、もう仲間だったのかもしれない。

 思わず下の名前で呼び掛けてしまった程なのだから。

 

 

(ガゼフ、お前は俺の憧れだった。出来れば同じ方向を向きながら戦いたかった……)

 

 

 血に濡れた口元を緩ませ、ガゼフを見て不敵に笑う。

 そしてドモンの目の前に辿り着いた時、全ての力を解き放った。

 

 

(……もし、生まれ変わる事が出来たなら……)

 

 

 自分を中心に暴走した魔力が広がっていく。

 

 

「今……度……、友と……し……て……

 

 

 その言葉を遺し、男(ニグン)の意識は光の中へ消えた。

 

//※//

 

 

 次にニグンが気付いた時、彼は暗闇の中を漂っていた。

 地面を感じる事はなく、辺りも闇に包まれていた。

 だが、周囲を闇に囲まれているにもかかわらず何故か不安などは感じない。

 

 ここが死後の世界なのか、と考えていた時、ふと思い出す。先程までの戦いの事を。

 

 

(あいつらは無事に本国に戻る事が出来ただろうか……。いや、恐らく大丈夫だろう)

 

 

 出会って半日も経っていなかったが、不思議とあの神々、特にドモン・カッシュと言う名の神には深い信頼を寄せていた。

 

 

(妙な話だ……。出会って間もないばかりか、一方的に倒されたというのに……)

 

 

 そうして闇に身を任せ漂っていた時、不思議な事が起こった。

 周囲の闇が形を作り、それがまるで骸骨の頭部の様になったのだ。

 

 

──目覚めよ、ニグン・グリッド・ルーイン。お前の覚悟、しかと見せて貰った。

 

 

 髑髏がそう言うと、目の前の闇が手の形となり、手を返して平を見せる。

 

 

──お前が望むのなら……。種族の隔たりなど無く、誰もが笑って暮らせる世界を作りたいと願うのならば……この手をとるがいい。

 

 

 ニグンは一瞬考えた。いや、一分。はたまた一時間は考えたのかもしれない。

 そうして彼が出した答えは……。

 

 

──さぁ、目覚めるのだ。

 

 

 謎の手をとる事だった。

 

 

//※//

 

 

「──こ、ここは……?」

 

 

 ニグンが目覚めた時、自分は仰向けに寝ている状態だった。

 

 異様に重い身体を起こすと、自分の右には神々の姿。

 そして左には揃いの甲冑を外し、涙を流しながら祈る部下達の姿。

 

 

「お、お前達……。何故……?」

 

 

 ニグンの言葉を聞き、意識を取り戻した事を知った部下達が号泣しながら自分の下まで走り寄ってきた。

 訳も分からずもみくちゃにされるニグン。

 そこへドモンとアインズが話し掛けてくる。

 

 

「生き返った気分はどうかな? ニグン・グリッド・ルーイン」

 

 

 アインズの言葉を咀嚼し、言葉を紡ぐのに一瞬では足りなかった。

 頭の中でアインズが言った意味を噛み砕いたニグンは、事の重大さに気付き慌てて問い掛ける。

 

 

「生き……返った……? 今生き返ったと仰られたのですか!?」

 

「あぁ、相違無い。私の力でお前を蘇生させたのだ。特例としてな」

 

「バカな……。蘇生魔法などそう易々と出来るものでは……!」

 

 

 ニグンはそこまで言ってから思い出した。

 目の前に居るのが何者なのかを。

 

 

「神にとっては些事……、と言う事ですか」

 

 

 ニグンは苦笑いをしながら溜め息を吐く。

 そして顔を上げ、問い掛けた。

 

 

「何故……、私を……? 私は愚かにも偉大なる神々に逆らった罪人です。それを何故……?」

 

「言っただろう? 誰もが笑って暮らせる世界を作りたいのであれば手を取れ、と」

 

 

 ニグンはアインズの話を、まるで父親に勇者の物語を聞かせて貰っている子供の様な気持ちで聞いた。

 心の何処かで期待していたのだ。いつかこんな日が来ると。

 

「そしてお前はその手を取った。……今一度聞こう、ニグン・グリッド・ルーインよ。私達と共に、全ての命が安らかに暮らせる世界を作らないか?」

 

 

 アインズの言葉を聞いたニグンは一瞬の間を置いたが、やがてその姿勢を正し膝をついた。

 

「偉大なる神々よ、私の信仰は今まで間違っておりました……。貴殿方の偉業を行う為の手足として、どうか私めを御使い下さいませ!」

 

 

 隊長(ニグン)の誠意溢れる姿に部下達も同じく膝をついて懇願した。

 それを見たニグンは改めてドモンとアインズに願う。

 

 

「どうか、我等に御導きを。偉大なる神々よ」

 

 

 今ここに、ニグン・グリッド・ルーイン率いる陽光聖典は新たなる神々に回心(かいしん)をした。

 それを見たドモンは心から笑みを浮かべ、そしてアインズは計画通りだと笑みを浮かべた。

 

 

//※//

 

 

 ドモンとアインズがニグン達陽光聖典から神と崇められていた時、ナザリックではデミウルゴスがメイド達を引き連れ至高の四十一人の個室を見回っていた。

 

 

「さて、これで確認もほぼ終了ですね。後はモモンガ様とエイジ様の御部屋ですが……」

 

「御二人とも御自身の御部屋に関しての確認は不要と承っております」

 

「そうですか、では今回の確認は終了としましょう。貴方達もお疲れ様です、下がって構いませんよ」

 

 

 デミウルゴスは笑みを浮かべメイド達に告げるが、何か言いたい事がある様な素振りを見せたメイド達に疑問を感じ、デミウルゴスは問い掛けた。

 

 

「まだ何かあるのですか?」

 

「いえ……その……。申し訳御座いませんでした!」

 

 

 突然頭を下げるメイド達にデミウルゴスは面食らってしまう。

 一体何事だねと質問するデミウルゴスに、メイド達はその美しい顔立ちを涙で濡らしながら語った。

 

 

「本来ならば私達のみで行う事をデミウルゴス様にまでお付きあい頂いてしまって……」

 

「それは最初にも言ったでしょう? これは私個人が御願いした事です。貴方達が頭を下げる理由など……」

 

「違うのです……! 私達ナザリックのシモベは偉大なる御方々の気配を感じ取る事が出来ます。ですから、あくまでこれは只の確認作業にすぎないのです!」

 

 

 涙を浮かべたメイドの言葉にデミウルゴスの頭脳が答えをもたらした。

 溜め息混じりにメイドへと言葉を返す。

 

 

「……成る程、大体分かりましたよ。つまり貴方達は、至高の御方々が不在なのだと自覚しなければならない辛さを、私までもが味わう事は無い……と?」

 

 

 メイド達は俯いたまま黙ってしまった。

 それを肯定と受け取ったデミウルゴスは一拍の間を置き、怒りの表情と怒声でメイドに返した。

 

 

「愚か者が! 恥を知りなさい!」

 

「デミウルゴス様……!?」

 

 

 突然怒鳴られ、意味も分からず狼狽えるメイド達にデミウルゴスは語った。

 

 

「いいですか? この確認作業を誰に命じられたのかもう一度考えてご覧なさい」

 

「モモンガ様と……、エイジ様です」

 

「そうでしょう? ならば分かる筈です。何故貴方達にこの仕事を命じたのか。それはあの御二方の優しさに他ありません」

 

 

 メイド達は必死に考えるが答えは出ない。

 やがて少し時間が経ち、一人のメイドが恐る恐る手を上げた。

 

 

「も、もしや私達シモベの事を気遣って下さって……?」

 

「その通り。貴方達を創造して下さったのは誰ですか? そしてその御帰還を逸早く知る事が出来るのは?」

 

 

 そこまで言われてメイド達は気付いた。

 自分達が何故、至高の御方々の部屋に入る事が許されているのかを。

 あの御二方は仰った。友が戻って来るならばここの可能性が高いと。

 

 

「更に言ってしまえば、私や他の守護者達が共に確認作業をするという事すら御考えの事でしょう」

 

「も、申し……訳」

 

 

 涙を堪えられなくなったメイド達にデミウルゴスは怒りを潜めさせ、柔らかな笑顔で言う。

 

 

「分かった様ですね、ならば宜しい。これからも至高の御方々に創造されたシモベとして、その責務を果たしなさい」

 

「はい!」

 

「それと、先程連絡があり御二方がもうじきナザリックに御戻りになるそうです。その後、また皆で食事がしたいとの事なので用意を。くれぐれも粗相の無い様にね?」

 

「畏まりました!」

 

 

 涙を拭き、足早にかつ音を極力立て無い様にメイド達はその場を去った。

 

 

(あの御二人の事だ……。他にも私の考えでは至る事の出来ない所で配慮されているのだろう。何と御優しい方々なのか……)

 

 

 本人達はそこまで考えてはいなかったのだが、デミウルゴスはドモンやアインズを過大評価していた。

 そしてメイド達を見送ったデミウルゴスは自らも仕事に戻ろうした。その時。

 

 

「──何だ?」

 

 

 デミウルゴスの鋭敏な聴覚が、ある部屋からの物音を察知した。

 もしや、と期待を馳せながらその音の発生源へと足を向かわせる。

 

 

「ここは……るし☆ふぁー様の」

 

 

 辿り着いたのは至高の四十一人が一人、るし☆ふぁーの部屋であった。

 礼儀としてのノックを行い、デミウルゴスが部屋へと入る。

 

 

「……先程拝見させて頂いたばかりだが、流石は最高位のゴーレムクラフターであらせられる御方……。その御部屋もそれに相応しいものだ」

 

 

 部屋の中にはゴーレムクラフトに関する書物や部品、はたまた試作品であろうゴーレムの一部まであった。

 しかしデミウルゴスが確認したかったのはここではない。

 先程聞こえた音は扉の側からではなく、そのもっと奥、ドレスルームの方だったと思ったからだ。

 生憎、自身はドレスルームを確認していなかった為、入るのは初めてとなる。

 

 

「失礼致しまs……!?」

 

 

 ドレスルームの扉を開けた直後、デミウルゴスは思わず爪を伸ばした戦闘体勢のまま後方へ飛び退いた。

 それもその筈。ドレスルームの中には多種多様なゴーレム達が(ひし)めいていたからだ。

 

 

「これは……。起動していないのか?」

 

 

 一見、ゴーレム達は起動している様に見えたが、実際動いている訳ではなく。只、るし☆ふぁーが試作中の素体を乱雑に放置しているだけだった。

 

 

「ふぅ……。流石は至高の御方々の中でも常に様々な遊び心を有していた御方……。まさか御本人がいらっしゃられない時にでもこの様な趣向を用意しておられるとは……」

 

 

 繰り返し言うが、これは只るし☆ふぁーが制作途中のゴーレムを、飽きた、アイテムが足りないなどの理由から雑多に放置しているだけである。

 

 デミウルゴスが深読みをしているだけなのだ。かつて、他のギルドメンバーの頭を幾度もその悪戯で悩ませた事は否定しないが。

 

 

「私の思い過ごし……ですかね。以前ドモン様が仰った様に休息を取るべきなのでしょうか」

 

 

 そう言ってデミウルゴスは静かにるし☆ふぁーの部屋を後にした。

 だが、ここでデミウルゴスは後々まで悔いる事になるミスを犯してしまう。

 確認を怠ってしまったのだ。

 

 

──ククク、どうやら行った様ですね。

 

 

 確かにるし☆ふぁーのドレスルームに存在したゴーレム達は皆、起動していなかった。

 

 たった一体を除いては(・・・・・・・・・・)。 

 

 

──さぁ、楽しい愉しいゲームの始まりですよ。

 

 

 真っ暗なドレスルームに真紅の双眼が煌めいた。

 

 

  




 キャーッ! ニグンさんカッコイイーッ!
 ……だがしかし、誰だお前?www
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