コードギアス 俺の妹がこんなに可愛いくないだとっ!   作:札樹 寛人

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友 の 在り方

 ブリタニアの少年ルルーシュ、もとい千葉県千葉市の少年高坂京介は、観察する。

 この場に集った人間達が、どのような人物であるかを。妹の為、友人を作ると決意した彼は

 今、盤上に放たれた二人の少女を見定める必要がある。それが妹の幸せに繋がると、信じているのだからーー

 

 * * *

 

 さて、どうやってこの場を盛り上げるか。

 可能であれば桐乃と一旦、戦術を確認し、適切な行動を取りたいところだが、そうも言っていられないだろう。

 ならば……ここは爽やかキャラで様子を伺いつつ、彼女達の内面のオタ度を測って行きながら場を盛り上げて行こうか。

 そんな風に考える俺の思惑を余所に、黒猫と名乗ったいかにも陰気なオーラを醸し出す女が口を開いた。

 

「……面子が揃ったようだから、早速聞くけれど。私をこんなところに誘って、あなたは何のつもりなのかしら?」

 

「いやー、先程も申しあげた通り、先般の会合で、余りお話出来なかった方と是非お話がしたかったのでござるよ。

 故に、黒猫氏もそんなあなた等と他人行儀な呼び方では無く、遠慮なく沙織とお呼びくださいませ。無礼講でいきましょうぞ」

「その図体でよくも沙織なんて名乗れたものね……図々しい。出落ちにしたって性質が悪いわ。

 今度からネオジオングかデストロイガンダムとでも名乗りなさい。それにその喋り方と格好……」

「何年前のキモオタだよって感じ」

 

 ……こいつら……ちょっと待て。

 この俺が、折角和やかに会合を盛り上げようと考えている間に、何を言いだすんだ。

 この黒猫とか言う女……! さっきのイベントでは、全く馴染めず言葉数も少なそうな感じだったのに、いきなり毒舌を吐くとは……!

 それに加えて、それに乗っかるウチの妹もどうなっているんだ。 違うだろ。 妹はそうじゃないだろう……!!

 俺の……俺の妹ならば……

 

『このような会合にお誘い頂いてありがとうございます沙織様』

 

 とかこんな感じだろう。

 幾ら沙織・バジーナの身長がこの俺よりも高いレベルだからと言って

 戦略兵器のレベルにまで達するMS群と一緒にするなど失礼も甚だしい。

 無礼講とは決して、どんな悪口でも言って良いとかそういう事ではないんだ。

 

 どうする。 ここは普段通りの俺で桐乃に一言言っておくべきか。

 これで沙織・バジーナが気を悪くして解散となったら、俺の策も何もあったもんじゃない。

 往々にして想定外の事態とは起こるものだが、まさか味方から撃ち込まれるとは思わなかったぞ桐乃……!!

 というか、お前の友達作りだろうがっ! 敵を作りに行ってどうするっ!!

 

「は、ハハハ。 おい桐乃、あんまり失礼な事を言うもんじゃない。 ほら、彼女の格好は……」

 洗練されたオタクファッションだろう。

 

 ……ダメだな。 これも侮辱にしかなっていない。

 

「う……動きやすそうだろう。 それに、イベントの司会もされてたと言う事ですし、場のニーズと言う物も有るんだ」

「ハッハッハッ! 京介氏。 フォローして頂けるの感謝感謝ですが、生憎拙者は何時もこういう格好でして。 この程度の毒舌など、この身にとってはそよ風のようなもの。 ですので、お気になさらずに、京介氏も罵ってくれて構いませんぞ」

 

 懐がでかいと言うべきか……

 最後の言葉が少しアレな感じがするが、それは瑣末な事だろう。

 俺も、流石に少しはオタクと言う人種への免疫が付いてきた。

 

「ほんとーに、ここに集まる連中っておかしな格好の奴しかいないのかしら、ま、主催者がエロだしねー」

 

 落ち着け。

 ここで俺が取り乱しては、何も成果は生まれ無い。

 重要なのは、過程よりも結果だ。 結果さえ伴えば、その過程はどうであったとしても問題は無い。

 ならば、今は敢えて、その汚名を被ろう。

 

 しかし、桐乃には先ほども説明したはずだが、物分かりが良くないようなので、一言だけは苦言を言わせて貰う。

 

「待て、彼の格好はアニメイベントと言う物に迎合した上で、それっぽさを出す演出だろう。 それにエロじゃなくてゼロじゃなかったか。いや、絶対にそうだったはずだっ!」

「そーだっけ? どっちでも良いじゃん。 さっきも言ったけど」

 

 どっちでも良くないから訂正しているんだっ!

 さっきも聞いたならきちんと認識を改めておけっ!!

 

「あー、エロ氏とは、拙者もLINEやらでやり取りしていただけで、会ったのは初めてだったのででござるが……中々面白い御仁でござったな。 拙者が言うのも何ですが、格好含めて」

 

 ……どうするんだ。 想定外の方向に話が進んでしまっている。

 何でこの俺が、こいつ等にファッションチェックされなければならないんだ。

 しかも、エロ呼ばわりされた上で……音響担当していたのは誰だっ!?

 今すぐに八つ裂きにしてやりたい。

 

 

「あら、あなた達はエロを理解出来ていないようね」

 

 黒猫……お前は……

 フォローしてくれると言うのか。 ありがたいが、エロじゃなくてゼロだ。

 そこを間違われるとフォローの有難味が一気に消し飛ぶのだが……

 

 そして、その発言だと、色々と問題が起きるぞ。 それで良いのか、お前もっ!!

 

「うわっ、何あんたあの変態仮面にシンパシー感じてるの? そういや、ちょっと衣装の系統が似てるもんね」

「どういう意味かしら?」

「うーん、なんていうの? そのコスプレもそうだけどさ。 厨二病系って言うの? あのエロもそういう系だよね」

「これはマスケラに出てくる『妖魔の女王(クイーンオブナイトメア)』よ。まさか知ら無いとは言わせないわ。そして、厨二病系は取り消しなさい」

「ああ、それってメルルの裏番組じゃない? いや、完全にOSR系厨二病アニメじゃん! なんか格好付けた主人公の目が疼いたりすんの受けるw 闇の王子ってww」

 

 ……………………

 

 何故だ。 胸が痛い。

 取り敢えず話題はエロから移行したはずだ。

 今、こいつ等が喋ってるのはマスケラと言うアニメだ。

 この俺とは一切無関係のアニメの話だ。

 

 一応、俺もそのアニメは知っている。

 いや、正確には、今回のイベントを開催するに辺り知識として吸収したと言うべきか。

 故に黒猫の格好がそこから来ているものだろうと言うのも理解していた。

 

 ……それだけのはずだ。 俺とマスケラの共通点は……

 それだけのはずなのに……何故、こんなにも胸が苦しい!

 

 誰か……水を……水をくれないか。

 

「聞き捨てならない事を言うのね。メルルって、まさか『星くず⭐︎うぃっちメルル』の事かしら? ーーハ、バトル系魔法少女なんて今更ね。まどマギ以降にあんな物をやってしまうセンスに呆れるわ。あんな物は萌えさえあれば満足する大きなお友達くらいしか見ない代物でしょう? 大体、視聴率的にはそっちが裏番組でしょう。下らない妄言はやめなさい。」

「視聴率? そんなのが面白さと直結すると本気で思ってるの? ってゆーか、円盤はワゴンだったじゃん。超ウケるw 大体、あんたその言い分だとメルル見てないでしょ? 見てたら絶対にそんな事言えないもんね。あー、可哀想。人生の半分以上損してるんじゃない?」

 

 ……どうやら、これ以上、俺が介入する必要は無さそうだ。

 いや、ここに至るまで行ってきた演出全てがこの場を作ったと言うべきだろう。

 エ……ゼロとなった事は、間違いでは無かった。今はそう信じたい。

 

「本当いちいち言い回しが面倒くさいのよ! この邪気眼厨二電波女! その中身有りそうで全く無い言い方やめたら?」

「じゃ、邪気眼……厨二……電波女ですって……ついに、ついに言ってはいけない事を言ったわね……あなた……!

 ふっふふふ……もう、どうなっても知らないわよ……今の私に集まる負の想念はもう誰にも止められはないわよ……!」

「ばっかじゃないの!あんたさー、生きてて恥ずかしく無いの? もう死ねば?」

 

 前言撤回したくなるような口汚い罵りも聞こえるが……

 だが、彼女らの表情を見れば、杞憂であると分かる。

 内容の有る無しは置いておこう、出会って数時間でこれだけの言い合いが出来る仲

 それはきっと……そう、俺と親友が初めて出会った時のように…………

 

『やっぱりブリタニア人ってずうずうしいんだな。日本まで植民地にするつもりか?』

『日本だって、実効支配はやっている。後進国を経済的に。日本だってブリタニアと、大して変わらないってことだ』

『嘘だっ』

『嘘じゃない! 君の父親にでも聞いてみろよっ』

『お前は嘘つきだっ!』

 

 フッ、殴り合いにならないだけ、マシな出会い方と言えるだろうな。

 

 なぁ、スザクーー

 

 す、スザク……? う……そ、それは……俺の生涯の友ーーそして……!

 

「いやー、二人とも打ち解けてきましたなー」

 

 俺の思考を遮るように沙織が声をかけてきた。

 最近、思考にノイズが混じる事が有るが……今は目の前の事が優先だ。

 

「ええ、お陰で俺の出番が有りませんでしたよ」

「フッフッフ、京介氏はここまで想像していたのではないですかな?」

「俺が? いや、これはあなたがこの場を設けてくれたお陰です。俺はこんな結果は想像すらしていませんでしたよ」

 

 食え無い女だ、沙織・バジーナ。

 だが、この結果をもたらすことができたのは、俺だけの力では無い。

 彼女の助力によるところが大きいのは間違いの無い事実だ。

 

「そうでござるか? それにしても、京介氏も折角なのですから、もっと砕けて頂いて構いませんぞ。あなたが一番年長者なのですから」

「……そうですね。いや、そうか。じゃあ、ここからは敬語抜きにさせて貰おう」

「ほう! そっちの方がやはりお似合いですな。ニンニン」

「そして、一言言わせてくれ」

「何でござるかな?」

 

 彼女の助力は大きかった。

 だからこそ、俺は高坂桐乃の兄として、彼女には言っておかなければならない。

 

「ありがとう」

「いえいえ、拙者は何もしてはおりませんよ。全てはエロのお導きですな」

「…………」

 

 その話題は……終わっただろう……!

 

 今日だけだ。

 今日を我慢すれば全て終わる。

 今は、綺麗な形で今日を終わらせる事だけを考えろ。

 結果は全てに優先されるのだからーー!

 

 

 それから、俺たちは桐乃と黒猫のメルル・マスケラ論争に巻き込まれる形で二つのブースに足を運んだりした。

 

「ふっふっふ! やっぱりメルルの人気凄いわね! ほとんどのグッズ完売じゃん! メルル完売っ!」

「あら? どうせ抱き枕とかその手の高額商品を品薄商法で売り切っただけでしょう? その点マスケラは、きちんと入場者に行き渡るだけのグッズを用意して、かつ通販も行ってくれているのよ? どちらが商売として優れてるかなんて一目瞭然でしょう?」

 

 ちなみに二つのブースの正式な売り上げはどちらも把握している。

 ……今、ここで余計な火種を落とす事はやめておこう。

 敢えて言うならば、どちらもそこそこには売れていると言う事だ。

 

「ちなみにあんたはどっち派?」

「あなたは、中々見込みがある目をしているわ、その瞳に魔なる力を宿している。ならばあなたが選ぶのはーー」

 ……唐突に俺に話を振るな。

 

「そうだな……俺は……」

 

 どっちもどうでも良いとは言え無い雰囲気だ。

 桐乃と黒猫が真剣な目でこっちの回答を待っている。

 

「……き、きちんと両方見てから回答しよう」

「はっ! じゃあ、今度持っていくからちゃんとみなさいよ!」

「それじゃあ、私も次の為にデータを用意しておくわ」

 

 …………これは、結局目的達成出来たのだろうか?

 

 * * *

 

 色々あった1日だった。

 今日という日の目的はクリアされたといって良いだろう。

 俺は、まだまだイベントを回ると言う3人と別れていた。

 

 そう、最後に俺はどうしても成さなければならない仕事がある。

 それが完遂されるまで、俺は死んでも死にきれないだろう。

 

 すでに陽は落ち始めている。

 光の刻は終わり、闇の刻が始まる。

 さぁ……これが黒の魔人の最後の舞台だ。

 

 俺は、朝と同じように仮面に身を包み、ステージ上に立っている。

 闇を切り裂くようにスポットライトの光が俺を包む。 

 ステージを覆うように多くの観衆が集まっている。

 この中に、桐乃や黒猫や沙織もいるのだろうか?

 先程まで、声優アイドルユニットのライブが行われており、朝よりも集まった人数は多いように感じられた。

 

 集まった観衆に向かって俺は言葉を紡ぐ。

 マイクチェックは入念に済ませてある。

 

「諸君!

 最後まで、このイベントに同伴してくれた事に感謝する!

 

 本日のイベントの成功は、私だけの物ではないっ!!

 ここに集った全ての人間の力によって為されたものだっ!!

 これは、業界を……いや、世界を動かす力と言っても過言では無い!

 私は、今……そう確信してる。

 

 この場に集まったオタク達よっ!

 オタクを誇れっ! 諸君の趣味は崇高だ! 

 

 思いの形は、それぞれが違う。

 例えば、普段はオタクと言えない人間もいるだろう。

 例えば、一般人には理解されないような格好が好きな者もいるだろう

 例えば、誰にも理解出来ないような言動を紡ぐ者もいるだろう

 

 だが、それらの思いを一つにする力が、このイベントにはあったと私は信じたい!」

 

 そう、今日のために、必死にお洒落をしてきた桐乃も、イベントの為に力を入れたコスプレで来た黒猫も、オタクその物な格好でイベントを盛り上げてくれた沙織も……

 それぞれが、自分の中で必死だったのだろう。 その結果として……桐乃はきっと良い友人を得る事が出来た。

 

 言っておくが、俺は今でもオタクの事などどうでも良いと思っている。

 今回の件も、俺が桐乃に時間を拘束されないようにする為と、集金イベントとして計算できると思ったからこうしたに過ぎない。

 

 だが、今だけはそれを忘れよう。この場に居る全てのオタクの代弁者と俺はなろう。

 それが、自分の目的の為に、彼らを利用した俺の責任と言うものだ。

 

「この場に集まったお前たちは黒の騎士団の一員だっ!

 我々は人種も性別も趣味も主義も主張も全てを肯定するっ!

 今日、この日、この時が我々オタクの新たなる一歩となるだろうっ!」

 

 そしてーー

 一番重要なのはここからだーー!!

 

 

「最後に我が名を再び刻もう! 我が名はーー」

 

 よしっ! 今回はハウリングは無い。

 ここだけは……ここだけは絶対に訂正しておかなければならないっ!!

 

「エロっ!!」「エロ様ーーー!!」「楽しかったぞーーーエローーー!!」

「絶対にまたやってくれエローーーー!!」「エロ様ばんざーーーい!!」

 

「「「エロ!! エロっ!! エロっ!!」」」

 

 ま、待てっ! まだ俺は、言うべき事を言っていないっ!!

 

 …………怒涛のシュプレヒコールが会場を覆い尽くす。

 歌手がサビの部分を観客に丸投げるライヴじゃないんだぞ……

 なぜ、俺の話を最後まで聞かないっ!!!

 

「「「エロッ!! エロッ!! エロッ!!」」」

「「「エロッ!! エロッ!! エロッ!!」」」

 

 そして、俺は涙で滲む視界の中に、ノリノリでシュプレヒコールをする3人の少女の姿を見た。

 そのコールは……ダメだろ。

 

 * * *

 

 翌日、ネット上でもっとも話題となったニュースは言うまでも無いだろう。

 

 ・世間体への反逆者エロ! その正体とは!?

 ・オタクの伝道師エロ現る!

 ・その名 は エロ !!

 ・ワイ将、エロを間近で見る事に成功

 ・今日アニメイベント行ったら変態仮面に遭遇した件

 

 後にブラックリベリオンと呼ばれる伝説のイベントの幕開けに相応しい大々的な報道だ。

 

 

 

 …………さぁ、次の戦いは……まとめサイトとやらをハッキングするところから始めるか。

 

 

 つづく


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