fate/accelerator   作:川ノ上

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現状と惨状

壊れた地下室を出たイリヤと一方通行は、応接室の木材で作られた長テーブルを挟んで座っていた。

ここはアインツベルン城の応接室。

足の短いソファーに、異様に大きいテーブル。それ以外何ひとつとしてないただの部屋。

シンプルだからこそ、小細工のしようもない部屋で、『白い』二人は対面していた。

普段使わないこの部屋だが、今日に限ってはいつも以上に重い空気が流れていた。

 

「テメェに聞きたいことがいくつかある。嘘偽りなく答えろ」

 

向き合ったような形で座っているサーヴァントは人でも殺せそうな目つきでイリヤを睨みつける。

 

「いいわ。その前に自己紹介だけさせて。私の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。あなたのマスターよ」

 

紹介し終えたところで、

 

「・・・・・最初の質問だ。ここはどこだ」

 

一方通行と名乗るサーヴァントは真下を指して、低い声でイリヤに問いかけた。

 

「ここは冬木市。周囲を山と海に囲まれた自然豊かな地方都市で、このお城はわたしの家」

 

「と言うと、日本っつーことでいいンだな」

 

「ええ、その通りよ」

 

イリヤの答えに、一方通行は顎に手を当てると、短く黙りそして唐突に口を開く。

 

「・・・・・・おい、一つ聞くがテメェは『学園都市』っつー科学が異様に発展した完全独立教育研究機関の事を知ってるか?」

 

「『学園都市』? そんな名前の場所なんて聞いたこと無いわ」

 

何やら聞き慣れぬ言葉に首を傾げるイリヤ。

確認とも取れる問いかけだったが、あいにくイリヤはそんな場所を聞いたことはない。

イリヤの首をかしげる様子を見て一方通行は眉間にしわを寄せると、忌々しそうな様子で舌打ちした。

 

「チッ! ・・・・・・もういい。ここからが本題だ」

 

ハァと小さくため息を付いて、赤い瞳をイリヤに向ける。

冷たく。そしてどこまでも人を信用していない目つき。

それはサーヴァントがマスターに向ける目ではない。明らかに敵を目の当たりにして見せる目だ。

 

「テメェの言う『マスター』ってのはなンだ。あの青タイツの話を聞く限りじゃ、お前が俺を呼び出したようにも聞こえるンだが」

 

「・・・・・・答える前に一ついい?」

 

「うるせェ。いいから俺の質問に答えろ」

 

有無言わせぬ物言いに、イリヤは言葉が詰まるが、殺気を込められればもう答えるしか無い。

 

「――わかったわ。率直に言うとあなたはわたしが呼び出した。魔術の儀式によってね」

 

「・・・・・・」

 

一方通行は黙ってイリヤの話に耳を傾けている。これは「続けろ」サインなのか、イリヤは構わず話を進めていく。

 

「『マスター』と言うのはここ冬木市における聖杯戦争に参加する権利を持つ者の事を指すわ」

 

「そして、聖杯戦争に勝ち抜くためには『サーヴァント』と呼ばれるあなたやランサーのような英霊を召還して、令呪で使役する必要があるの」

 

そう、それが聖杯戦争の大前提。

 

「なら、とりあえず俺は、テメェの駒として呼ばれたって解釈でいいンだな」

 

「うん。まぁ基本的にはそんな感じ」

 

目の前のサーヴァントには伝わったようで、的確な例えにイリヤは安堵の息とともに大きく頷いた。

 

「なら二つ目の質問だ。その聖杯戦争ってのはなンだ」

 

「聖杯とはあらゆる願いを叶えるとされる「万能の願望機」であり、その所有をめぐり一定のルールを設けて争いを繰り広げる戦い」

 

「簡単にまとめちゃうと、『勝者は聖杯を使って何でも願いを叶えられる』。そのための争奪戦ってとこかな」

 

簡単にまとめたがそれでもこの表現は正しい。

例え万能の願望機といえどなにも無制限に力を振るえる訳ではない。

そうなれば、この聖杯戦争の意味もなくなるだろうし、そもそも儀式の意味が無い。

聖杯は良くも悪くも人を選ぶ。

そのための七人のマスターであり。サーヴァントだ。

所有権は聖杯が持つ。

マスターが選ぶのではなく、聖杯が意思を持ってマスターを選ぶといったほうが正しい。

だから、イリヤはこの聖杯戦争で勝たねばならないのだ。

 

自分の生まれた意味を成すために。

 

思案顔のサーヴァントはやがて顔を上げると、面倒くさそうに息を吐きだす。

 

「・・・・・・なンとなく概要は理解した。――次の質問だ。あのタイツ野郎は『クラス』がなンだかほざいてやがったが、ありゃ一体なンだ」

 

「サーヴァントって言うのは『セイバー』『アーチャー』『ランサー』『ライダー』『キャスター』『バーサーカー』『アサシン』といった七つのクラスから成っているの。クラスによって得意分野や特徴が違うし、この聖杯戦争で一概に同じようなクラスのサーヴァントは存在しない」

 

「つゥことは、あのタイツ野郎みたいな奴があと六人いるってことか」

 

確認とも取れる問いかけに、イリヤは首を立てに動かした

 

「まぁサーヴァントのクラスについては、まだ説明することがたくさんあるけど、大まかな事はこのくらいかな」

 

「それとも、全部話す?」 とイリヤは首をかしげるが、

彼女の質問に一方通行は首を横に振った。

 

「・・・・・・いいや、いい。だいたいの仕組みは理解できた。だが、一つ確認だ」

 

「なにかしら」

 

「そのくだらねェ聖杯戦争ってのは、言っちまえば魔術師同士の戦争ってことだな」

 

「・・・・・・そうよ。聖杯戦争における令呪はマスターたる魔術師にしか与えられない」

 

「だったら、このくだらねェ戦争はどうやったら決着が着く」

 

「マスターが令呪を放棄。もしくはマスターが死んだらそれで終わり」

 

淡々と、あくまで聞かれたことを答える。

 

「サーヴァント自体を殺す事も出来るけど、――それだとマスターの聖杯戦争における参加権がまだ生きている事になるから、もしマスターを失ったサーヴァントとマスターが契約しなおして、聖杯戦争へ復帰することなんてのもありえるの。だから、マスターを殺しちゃった方が早いかな?」

               コン。コン。

 

そこで話を区切るかのように扉を叩く音が聞こえた。イリヤは一度話を止めて、「いいよ。入ってきて」と声を上げる。

すると、ゆっくりと応接室の扉が開かれ、白い装束を纏った女二人が、手にティーカップと代えの紅茶を持ってやってきた。

 

「ありがとう。セラ、リズ。もう下がっていいよ」

 

イリヤの紅茶を変えたのがセラ。一方通行の紅茶を取り替えたのがリズと呼ばれる女性のようだ。

一方通行は自分の紅茶を取り替えた人物と目が合い、すぐに視線を逸らした。

リズもさして興味が無いように、自分の仕事を終えるとすぐに扉の外へと戻っていく。

 

一方通行は、従者の二人が出て行ったことを確認すると、改めてイリヤの方へ向き直って口を開く。

 

「――話を戻すぞ。テメェの説明だとサーヴァントは殺せるんだったな。なら、死んだサーヴァントはどうなる」

 

「あなたのようなサーヴァントは英霊。つまり、サーヴァントは元々死んでる状態だから、霊が死ぬ事は無い。でも、消滅したら元の『座』に戻るんじゃない?」

 

疑問形で答えるが、これはどうしようもない。

目の前のサーヴァントも、イリヤの物言いに眉をひそめるが深くは追求してこない所を見ると、そこは大して気にすることでもないらしい。

 

「元々、この召還ってのは奇跡みたいなものだから、あなたも好きな時に零体化で消えたり、出現したりできるはずよ」

 

そう言い終わると、イリヤは新しい紅茶に口をつける。

ふっと視線を移すと、 一方通行は手のひらを閉じたり開いたりしながら、何かを考え込んでいる。

やがて、右の手で白い髪を掻き出すと、

 

「――めんどクセェ。おい、聖杯戦争って奴の概要はこれで終わりでいいンだな」

 

「ええ。あなたが聞きたがっていた聖杯戦争の事は全て話したわ。これで――」

 

すると、イリヤが喋り終わる前に、一方通行はソファから突然立ち上がった。そして、呆気に取られるイリヤに何も言うことなく、扉まで歩こうとした。

 

「ちょっと、どこ行くのよ!?」

 

「あァン?」 

 

イリヤは慌ただしく立ち上がると、今にもどこか行きそうなサーヴァントを呼び止めた。

一方通行も苛立ち気な顔で振り返る。

 

「あなたはわたしのサーヴァントなんだよ! わたしから離れようとするなんて、一体どういうつもり!」

 

「ハァ? なんで俺がテメェなンかを守らなくちゃいけないンですかァ?」

 

すると、目の前のサーヴァントは呆れたような声を上げた。まるで、イリヤの言っている意味が本当に理解できないと言いたげな表情で。

 

「俺は聖杯戦争なンていうクソみたいなゲームに興味ねェし、付き合うつもりもねェ。ンなめんどクセェ事、誰がするか」

 

「はぁ!? そ、それってどういうことよ! あなただって聖杯に願いがあるからわたしの召還に応じたんでしょ!」

 

「そもそも、その時点で間違ってンだよ。俺はテメェなンかの召還に応じた覚えはねェ」

 

キッパリと。あまりにもキッパリと吐き捨てた。

信じたくないのに、目の前のサーヴァントの表情が嘘でないことを物語っている。

 

「それじゃあ、わたしの聖杯戦争はどうなるのよ!」

 

「ンなの知るか。テメェでなンとかしやがれ。お前だって立派な魔術師なンだろォ? 他人を使って楽しよォなンていう奴の言いなりに誰がなるか」

 

悲痛なイリヤの叫びを目の前のサーヴァントはあざ笑うかのように一蹴した。

嘲笑。

その言葉がしっくり来る。

彼はきっと冗談でなくそう思っているのだろう。

明らかな聖杯戦争参加への拒絶を。

その言動の端々から見て取れる。

 

だからこそ。

 

だからこそ、その一言一言がイリヤという『幼い』少女の胸を抉っていく。

聖杯戦争の拒絶。それは詰まるところの、イリヤという少女の存在否定に繋がるからだ。

 

そんなことも知らない目の前のサーヴァントは、冷めた赤い瞳をこちらに向けている。

そう理解した瞬間。イリヤの中で何かが弾けた。

力が抜ける。

 

「そ、そんなの・・・・・・あんまりだよ。じゃあ、わたしは一体なんのために――」

 

イリヤは崩れるように床に座り込むと、目頭に涙を浮かべ始めた。

いままでの努力も。我慢も。生きがいも。全て否定されたような気分だ。

 

「・・・・・・」

 

一方通行は涙目を浮かべるイリヤを見て、一瞬だけ黙り込み、やがて自分の首筋に巻かれてあるチョーカーに手をやった。

そしてーー。

 

「・・・・・・なァンだ。あるじゃねェか。こんなクソみてーなゲームを終わらせる方法が」

 

「――えっ」

 

「テメェを殺しッちまえば簡単だッたンだ。クハッ、学園都市の頭脳が聞いて呆れるわなァ」

 

                 カチッ

 

彼は何の躊躇いも無くスイッチを入れた。一方通行の指がテーブルに触れると、テーブルは一瞬で二つに裂ける。

 

バキンと物の壊れる聞き慣れない音が部屋に響き、木材の切れ端が危うくイリヤを傷つけるか傷つけないかギリギリのところで後ろに飛んで行く。

 

「キャッ!」

 

イリヤは顔をかばうような形で体を強張らせると、次に驚いたような目つきで自分のサーヴァントを見た。

 

「・・・・・・」

 

無言でイリヤのもとに向かってくるサーヴァント。

逃げ場がないにも関わらず、イリヤは震える声で後ずさりしながらも両手を胸の前で組む。

嫌な汗が顔に浮かんでいるのがわかる。

動悸も激しい。

なぜこんな思いをしなくちゃいけないのか思考が追いついていかない。

しかし、そんなイリヤでも理解していることがたったひとつある。

それは。『恐怖』という感情。

いま、イリヤは目の前の白いサーヴァントに恐怖を感じているのだ。

対して、サーヴァントは自分を見下ろす形で、ただ静かに、そして愉快そうな笑みを浮かべていた。

 

「あ、あなた。自分が何をしようとしているのかわかってるの?」

 

「あァ、しっかり理解してるぜェ。そんなことより、身体中の皮膚を全部はがして死ぬのと、内側から破裂するの、どっちが好みだ?」

 

狂った問い掛けをするサーヴァント。

 

あと数歩で距離がゼロになる。

 

その瞬間、強引に扉が開け放たれたかと思うと、白いサーヴァントの前に二人の従者がイリヤの前に立ちはだかった。

 

サーヴァントの発言と主の悲鳴に何らかの危険を感じ取ったのか。扉の外で待機していたセラとリズがイリヤを守るようにして前に立ち、戦闘態勢をとる。 

 

「おいおい。テメェら見てェな三下が俺に勝てるとでも思ってるんですかァ?」

 

「どうなろうと、お嬢様には指一本触れさせません」

 

「あなたはイリヤの敵。排除する」

 

見たところ二人とも武器を持っていない。武器を取ってくる時間がなかったのだろう。

確かに、イリヤの従者は徒手空拳でロンドン塔の魔術師程度なら簡単に倒すことができる。

それも無傷で。

簡単に負けるなんて絶対にない。

でも、目の前のサーヴァントと戦ってはダメだ。イリヤの本能がそう警鐘を鳴らしている。

彼女らを信頼していないわけではない。

セラの魔術の技量は知っているし、リズの体術の凄さも理解している。

だからこそ。

あのランサーと互角に渡り合った目の前のサーヴァントの恐ろしさをしているからこそ。

イリヤは危険だと感じた。

 

だから。イリヤは今までで一番大きな声を上げて、セラとリズを呼び止める。

そもそも従者に守って『もらう』なんて考え自体がおかしな話なのだ。

これはマスターたるイリヤの役目。

なら、それを解決するのは従者の役目ではなく、イリヤでなくてはならない。

イリヤの代わりに、セラとリズが傷つく必要はない。

それに、何かを失うのは『もう』嫌だ。

 

「まって二人とも!! ・・・・・・ねぇ、バーサーカー。わかってるの? わたしは、あなたのマスターなんだよ」

 

ヨロヨロと立ち上がるイリヤ。

足に力は入らないし、もうなにがなんだかわからない。

それでも、自分の役目を果たさなくちゃならない。

キッと睨み返すイリヤと視線がぶつかりと、一方通行はしばらく黙った後、静かに口を開いた。

 

「・・・・・・それがどうした。マスターだからってテメェを殺せないなンつゥルールはねェンだろ?」

 

「うん、確かにその通りだよ。でも、そういうサーヴァントのために令呪があるの」

 

彼女はあくまで対等であることを示すために、震える右手を前にかざした。

 

「もう一度言うわ。わたしはあなたのマスターなの。だから、あなたに言う事を聞かせるなんか簡単なんだよ」 

 

あくまで冷静に。そしてはっきり言い切った。

セラとリズに視界を阻まれながらもはっきりと一方通行の目を見て言い放つ少女に、一方通行は哀れとばかりに肩を小さくすくめ。一瞬、顔を伏せてから正真正銘の『本気』の殺気を放つ。

 

「・・・・・・。・・・・・・ハァ、わかってねェなァ。俺はテメェがその令呪って奴を発動させる前に殺せるンだよ」

 

「そんなのやってみなくちゃ――」

 

「こんなに近くにいるのにかァ?」

 

そう言うと、一方通行はイリヤに反応させる事すら許さず、難なく接近した。その際、イリヤを守るように立っていたセラとリズは、一方通行の手によって羽虫を払うように、左右の壁まで吹き飛ばされていた。

イリヤは突然の出来事に目を見張り、思い出したようにリズとセラの名前を叫んだ。

 

「リズ! セラ!」

 

「おっと、チェックメイトだ」

 

「ひぃ!!」

 

口角を不気味に上げる一方通行は、右手を高々と上げる。

触れただけでテーブルを真っ二つにするほどの威力なのだ。

この右手を振り上げられたら、イリヤは文字通り『肉塊』へと変わる。

自分が一瞬、血しぶきを上げて倒れる錯覚を見て、サーヴァントの狂気の笑みを見たのち、振り下ろされる右手を見て、イリヤはきつくまぶたを瞑った。

 

そして、その破壊の右手は無常にも勢い良く振り下ろされ、

一人の少女の皮膚へ触れ、

やがてイリヤの頭蓋を粉砕。

 

 

――させなかった。

 

 

ビシッというチョップの鋭い音が鳴り、イリヤの頭頂部に痛みが走る。

 

「いったーー!」

 

頭を叩かれたイリヤは反射的に頭を擦る。

ジンジンと痛む頭頂部を抑えて、イリヤは思わず床に 踞った(うずくま )

目頭にたくさんの涙を浮かべて、プルプルと痛みをこらえる。

痛い。痛いけど――。

やがて痛みが治まると、イリヤは自分の身長よりも高い一方通行を恐る恐る見上げる。

目の前のサーヴァントは、何気ない動作で首筋にあるチョーカーの電極を切り替えると、腕から伸びる現代的な杖で身体を支えていた。

そしてーー。

 

「・・・・・・あン? ンだよ、そのバカみてェな面は」

 

「え!? あれ? ・・・・・・殺さないの?」

 

「殺してほしかったンですかァ?」

 

一方通行の言葉に、イリヤは素早く横に首を振る。

 

「――ハァ、めんどクセェことに巻き込まれたのには変わりねェが、今は情報が少なすぎンだよ」

 

面倒くさそうに頬を掻く白いサーヴァント。

先ほどの殺気は鳴りを潜め、急な展開にイリヤの頭が追いついていかない。

そんなイリヤを他所に一方通行は至って普通な態度で語り続ける。

 

「俺単独で情報を集めンのもいいが、何より電極のバッテリーの残量が少ねェ」

 

そこで一方通行は言葉を区切ると、

 

「だから、仕方なく、テメェの所で厄介になることにした」

 

自分の首元を軽く叩き、心底だるそうに言い切った。そして一方通行は、扉の方に向き直ってツカツカと杖を突いて歩いていく。

 

「待って! それって聖杯戦争に参加――」

 

「勘違いすンじゃねェぞ。俺は聖杯なンてモンに興味はねェ。俺はただ手がかりを探すためにテメェ等を利用するだけだ」ガチャ

 

そう言って扉を開ける一方通行。それでもイリヤは嬉しそうに口元を上げた。

勘違い。

彼は勘違いするなといった。

 

それはすなわち、少なくとも自分の身を守るために、『自衛』であっても『戦って』くれるということだ。

 

それでも。それでもいい。

そんな思いがイリヤの中に渦巻いている。

例え、自分のサーヴァントがいうことを聞いてくれなくても、『とりあえず』留まってくれるのなら、まだ道はある。

 

これほど嬉しいことはない。

 

 

「詳しい事は明日話してやる。だから、ガキはさっさと寝ろ」

 

背中を向けて、そう言うと。一方通行は扉を潜ろうと一歩踏み出しているところだ。

そこで、イリヤは彼を呼び止めると――

 

「待って、わ、私の名前はイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。・・・・・・これからよろしくねバーサーカー!」

 

そう言って、子供らしい無邪気な顔で笑ったのだ。

一方通行は振り返らない。

ただ、一歩前に出した足をその場にとどめて、

 

「・・・・・・」バタン

 

一方通行は何も言わずに扉を閉めた。一方通行がいなくなってから応接室は再び静寂を取り戻す。

イリヤは糸が切れた人形のように尻餅をつくと、大きく息を吐き出した。

安堵。そして――喜び。

今にも泣きそうな顔をグッと堪えて、小さな身体を抱えて、我慢していたはずの震えを抑えようとした。

すると、セラとリズが、イリヤの名前を呼び、素早くイリヤの元に駆け寄りると、イリヤの身体に怪我が無いか念入りに確認し始めた。

そして、どこも負傷していないことを確認すると、セラがイリヤの顔を覗き込むような形で心配とも取れる声色で冷静に語りかける。

 

「いいのですかお嬢様。あのようなサーヴァントを屋敷の中にうろつかせても。ましてや、サーヴァントとしての役割を果たさないと言うではありませんか」

 

「うん。わたしもセラに賛成。あいつは危険。近づかないほうがいい」

 

「・・・・・・ううん。なんだか良くわからないけど、もう一回、あの人と話してみる」

 

首を横に振って、イリヤは扉をゆっくりと見上げた。

たった今、出て行ったサーヴァントの後を追うように。

その無謀とも言える答えを聞き、両脇に座る従者は珍しく声を荒げた。

 

「お嬢様!!」

 

「イリヤ、危険」

 

それでも、イリヤはもう一度首を横に振った。

それも先程より強く。まるで自分のやるべきことだと言い聞かせるように。

 

「わたしだって、マスターなんだ。もっとあの人の事を知らなくちゃ」

 

知らないことがたくさんある。

だから知りたい。

あんな怖いことをされて、どうして自分があの白いサーヴァントのことが知りたいかなど、イリヤ自身にもわからない。

マスターだからそうするのか。それとも、自分のサーヴァントだからそう思うのか。

わからない。

ただ、どうしても。どうしても知りたくなったのだ。

気に食わないと言いつつ、わたしが反抗したとき、一瞬だけ『嬉しそうな』表情を浮かべていたのかを。

 

(それに、なんだかバーサーカーから、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけだど温かい感じがした気がする)

 

イリヤは胸を抑えて、まぶたを閉じる。

まぶたの裏に浮かぶのはあの白いサーヴァント。

怪物の出て行った応接室は、部屋を訪れた時よりひどく荒れ果て、白いサーヴァントの爪痕をありありと見せつけた。

しかし、怪物のつけた『傷痕』は何も部屋だけではない。

冷たい床に座り込む一人の少女。

彼女にも大きな大きな『見えない』傷痕をつけていった。

しかし、不思議と笑みを浮かべてしまうイリヤ。

その感情がどこから湧いてくるものなのかわからない。

でもそれは、どこか生暖かくて。寒くて震えていたイリヤを暖かい場所に引っ張って行くような。

『何か』を変えてくれるような。そんな『思い』がイリヤの中で渦巻いていた。

 

 




どもども。如何でしたか?

今回は聖杯戦争をあまり知らない人でも理解できるように簡単ですが
イリヤさんに語っていただきました。
もちろん独自解釈の部分も入っているかもしれませんのでご了承ください。

しかし、かなり頑張って書いてみました。
楽しんでいただけたのなら本当嬉しいです。

聖杯戦争に巻き込まれた一方さんと彼を召喚したるイリヤ。
聖杯戦争開始前なのに初っ端から大波乱が。
どうなるイリヤ。
どうする一方通行。
今後の展開にご期待ください!!

では今回はこの辺りで筆を置かせていただきます。
感想、ご指摘、評価のほどを頂けるのであれば、よろしくお願いします。
そして、読んでいただきありがとうございました!!

――
キャラクターの擬音の部分は無いと色々とわかりにくいと思ったので、
必要なところだけあえて残すことにします。
表現力が足りず申し訳ありません。
もし、いらないと思われましたら、ご報告ください。
可能な限り修正します。
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