渓流は、数ある狩場の中で自然豊かな狩場の一つだ。
特産タケノコや、ユクモの木といった他では見られないものがあり、近くのユクモ村ではタケノコを用いた料理やユクモの木で作られた装備などのために一般の村人も渓流に訪れる事がある。
だが、青熊獣や狗竜に大猪、迅竜、尾槌竜、水獣、雷狼竜や火竜夫妻といった危険な大型モンスターが生息することでも知られる。
普段は村人のために狩場としては利用しないが、その制限が開放されたときの渓流はハンターにとっての登竜門になるとハンター業界ではまことしやかに噂されている。
実際問題、近年の傾向として中型モンスター(正式には大型であるが、大きさの問題など諸説ありこの俗称が広まっている)とされているアオアシラやドスジャギイなどは確認された個数が少なく、火竜夫妻やジンオウガといった強力なモンスターが多く確認されているので、あながち間違いではないと思う。
僕は、その渓流でハク(あとは先輩)と一緒に初めて雌火竜『リオレイア』を狩猟することになった。
今の装備では中型モンスターに苦戦する。それで強力な火竜を狩ろうとしたハンターは誰一人いない筈だ。少なくとも僕は狩猟すべきでないと思っていた。
だが、先輩が僕をリオレイアの狩猟へと無理矢理に連れてきた。
無謀と無知と能天気の合わさった先輩にかなう者なんて居なかったんだ…。
「よし、リオレイア討伐を始めよう。」
快活に歩みだす先輩……ちょっと待ってください。
「ん?どうした。」
あの、僕はリオレイア討伐を経験していませんよ?
…指示は諦めますから、せめて僕に助言を与えてください。
「ちっ…」
無表情で舌打ちは怖いです。
「オレがテメエに合うまでにモンスターの生態を学んどけといったろーが!」
ごめんなさいごめんなさいけらないでくださいいたいですいたいです。
…すいません。まさかこんなに早くリオレイアを狩猟すると考えていなかったので。
「はあ…そうだよな普通は…わりい。」
珍しい先輩の謝罪すがアイタタタタタタ!?
「黙って聞けよ。」
ごめんなさい。
「ご主人様…」
やめて!ハク!そんな『鞭で目覚めた誰かを見つけた』可哀想な目で見ないで!
…すいません、気を取り直しますから大きく振りかぶった両腕を下ろしてください。
「…リオレイアは火竜の番だが、危険度はきわめて高い。滞空状態からのサマーソルトを貰うと下手すれば上位ハンターですら気を失う威力に加えて尻尾に含まれる毒が身体中にまわる。ブレスも強力だ。調査した研究員によるとブレスはアロイシリーズの防具を変形させたそうだ。要は一撃一撃を防御する手段を持たないままに直撃すれば死に繋がると思えばいい。」
…帰りたい。ハクとゆっくりできるあのマイハウスに帰りたい。
「…ご主人様、行きますニャ。」
「ほら、ご自慢のオトモは居るぜ?」
…次は先輩のいない村を希望します。
先輩のありがたいお話から数分後、滝の流れる区域でリオレイアを見つけた。
「いくぞ。」
「分かりましたニャ!」
会って間もない筈なのに先輩とハクは同時にリオレイアの眼前に飛び出し、先輩は閃光弾をリオレイアの眉間に叩きつけ、同時にハクは落とし穴の設置を始めるという見事な連携をみせる。
以心伝心?いや、事前に打ち合わせしてたのかな…。
僕は、二人の行動に呆然とするしかなかった…。
リオレイアは、突然視界に広がった強い光によって目を眩ませていた。
ガーグァを捕食し、腹の満たされた状態では最大限力を発揮できると思い、油断していたときを嵌められたのか。
心の隙を突かれ、不意打ちを喰らった事に激怒したリオレイアは緑に輝く尻尾を振り回す。
それは己の怒りを抑えるためか、近くに居るであろう敵を遠ざけるためか。
ようやくリオレイアが渓流の緑を目にしたとき、木々はなぎ倒され、尻尾のぶつかった場所は荒々しい傷跡を残していた。
────我が眼を潰さんとした輩はどこじゃ。
殺気を纏い、怒りも露わに周囲を見渡すリオレイア。
すると、リオレイアは滝の近くで此方を挑発するように笛を吹くアイルーを見つけた。
────貴様か。
リオレイアは大きく息を吸い込み、口から火球を吐き出した。
口の辺りに存在する器官によって生成されたブレスの一撃だが、アイルーは笛を吹きながらたった一回のステップで避ける。
────小癪な!
怒りに任せてたて続けにブレスをくり出すも華麗にかわされる。
苛立ちが頂点に達したリオレイアはアイルーに突貫する。
あと一歩でアイルーを吹き飛ばせる。
リオレイアはその寸前で巨大な穴に落ちた。
青年ハンターは身体が動かす事ができないでいた。
溺愛してるアイルーが、自分よりも勇敢にリオレイアに挑み、見事落とし穴に嵌めたのだ。
それを己は傍観する事しかできなかったのだ。
「ぼけっとしてねえで早く翼を斬れぇ!」
「はっはい!分かりました!」
悔しさを胸に、青年ハンターは落ちた雌火竜に向けて走り出していた。
(ハクってアイルー…あれは逸材だな。)
女性ハンターは、罠によって身動きの取れないリオレイアに大タル爆弾を投げている一匹のアイルーを観察する。
実の子供のように愛している弟子がオトモを雇った報せがきた時は、ようやく誰かに頼ることの大切さを知ったのかと思っていたが…規格外だ。
女性ハンターは愛弟子が初めてのオトモを雇ったお祝いを兼ねて久しぶりに会おうと行動した判断は正しかったと確信していた。
(リオレイアの存在感に怯まず寧ろ誘って罠にかけるとは…)
女性ハンターの知人が雇うオトモにもモンスターを挑発し、罠に嵌める技術に特化したアイルーはいたが、そのアイルーも初めてのモンスターと対峙したときには恐怖心から誰もが挑発できないと聞いている。同じ様な戦法でハンターをサポートしているアイルーたちにも聞いた事があるので間違いない。
だが、ハクは初めて対峙する筈の雌火竜に挑発をした。
さらに、触れただけで大火傷になるブレスを優雅にみえるかわし方を見せて雌火竜の怒りを煽ったではないか。
…あのアイルーは、身体が硬直している弟子よりも胆力がある。
どこの紹介で、並みのハンターより素質がありそうなアイルーを雇ったのだろうか…。
(羨ましいな、オレが雇いたいくらいだ…)
女性ハンターは、雌火竜の存在感に萎縮した様子の愛弟子に叱責することでその欲求を抑えた。
「二゛ャッ!?」
爆弾を構えたアイルーを暴風が吹き飛ばす。
そして、青年ハンターと女性ハンターも風圧で身動きが取れない。
「グガァァァァァアアアア!」
幾重にも重なる突きと爆発によるダメージを受けた身体を無理矢理動かし、女王が罠を抜け出したからだ。
しかし、執拗な一点集中の突きは硬い甲殻を砕いて肉まで届き、突き刺した状態で放つ砲撃により翼は機能を十全に使えず、大タル爆弾の爆発で顔面を砕かれている女王にかつての迫力はない。
「ニャアアアア!」
ブレスを溜める女王はアイルーの放った閃光によって再び目を潰される。
目を潰された女王は敵を近づけることを恐れて大きく尻尾を振り回し──尻尾が防御の遅れた青年ハンターに直撃する事となった!
「がぁああ!?」
「ご主人様!?」
「な、何してんだよ!?」
青年ハンターに気を取られたアイルーと女性ハンターは、視覚が回復したリオレイアの逃亡を許してしまった。
「す…すいません。」
尻尾の殴打に気絶寸前の体で、青年ハンターは立ち上がった。
しかし、その目には闘志が宿っているのにアイルーと女性ハンターは気づく。
「怯えていた僕自身を戒めるために甘んじて受けました。」
そして、青年ハンターが立ち向かう意志を固めるために行った自殺行為に、二人は激怒した。
ご主人様が…ご主人様が…Mに…Mになってしまったのニャァァァ!?
初めてのリオレイアの狩猟にご主人様は畏縮するのは分かるのニャ。
けれど勇気を出すためにリオレイアの尻尾の一撃を貰うのはおかしいですニャ!
ご主人様が駄目になるニャ、早く何とかしないとニャ…。
女王は、傷を癒すために寝床へ向かう。
だが、女王は寝床に己を瀕死に追い込んだ小さな生物たちが既に待ち構えていたことを知る。
────そして、最後を悟ると共に女王は覚醒した。
「GUGAAAAAAA!」
咆哮と呼応して女王の両翼は生え変わり、鉄のように輝く。
潰された顔面と棘も、甲殻も、何もかもが変わり美しくなっていく。
驚くハンター達に、女王は最後の底力を魅せ続ける。
緑の体躯は白金の如く輝き、口から漏れたブレスが頭頂部に集まり、炎の塊を形成する。
急激な肉体変化からか、女王の身体が全体的に細くなっていた。
だが、威圧感は先程の比でない。
女王の頭部で燃える炎をあるハンターが見ればこう呟くだろう。
────それ、どこの死ぬ気モードだよ。
「GULLLLLLLL…」
死のヴィジョンを体験して覚醒した女王は、敵を殲滅するために動き出す。
「こいつは…拙い。下位のリオレイアが出していい殺気じゃねえ。」
女性ハンターは、目の前で変貌したリオレイアにたじろぐ。
狩猟の対象でありソロで狩れた筈の存在が、パワーアップに成功したからだ。
今までの経験から、在れが上位のリオレイアと同等か或いは以上の実力を持っていると判断するが、理性が否定してしまう。オレは弟子に最悪の存在と遭わせたかったのではないのだ。
白金のように美しく、そして匠が生み出す刀身のように切れ味のある覚醒したリオレイアの様は、一種の芸術品を思わせる。
「先輩!これは何ですか?」
「馬鹿野郎!今はコイツに集中しと────え?」
女性ハンターが青年ハンターに怒鳴り、意識をリオレイアに再び戻したそのとき。
女性ハンターの目の前には、白金に輝く口が開いていた。
「なぁっ…!?」
反射によって女性ハンターは盾を構え、放たれる火球を防いだ。
しかし、その熱と威力は上位リオレイアのそれを超えており、女性ハンターの盾を変形させ、女性ハンターの体を吹き飛ばす。
「ぐああああ!?」
変形した盾に続けて放たれる火球。
元々鉱石を多く用いた盾は液状に溶けていき、女性ハンターの腕装備の隙間から入り込んでいく。
きっと、液状化した鉱石が腕を焼く事によって彼女の腕は焼け爛れているだろう。
女性ハンターは腕装備を捨て、地面に転がり火傷の痛みに苦しんでいる。
「先輩!?」
「ご主人様!早く拠点に運ぶのニャ!」
女性ハンターは一人と一匹の声を聞き意識を失った。
「…ぁ?」
「先輩!大丈夫ですか?」
女性ハンターが目を覚ましたとき、渓流の拠点にいた。
気絶するに至った経緯を思い出し、自身の腕を確認すると包帯が巻かれ、氷結晶の入った氷嚢がその上に置かれていた。
「火傷の跡は残ったかもしれませんが、そのまま安静にすれば一ヶ月で問題なく動かす事ができますニャ。」
「…よかったですね、先輩。」
青年ハンターとそのオトモのアイルーの働きで女性ハンターは助かったと知り、また悔しさが生まれた。
「…糞が。なんで師匠が弟子に助けられてんだか…まだ弱ぇなオレ。」
「珍しいですね、先輩が卑下するなんて。」
女性ハンターは青年ハンターの言葉に弱々しく笑った。
それは、青年ハンターの始めてみる笑みだった。
「…今回のクエストは、諦めるか。」
「…え?」
女性ハンターの呟きに、動揺する青年ハンター。
だが、女性ハンターが思っていた驚きとは何かが違っていたと女性ハンターは気付いた。
「あ…すみませんニャ、もうリオレイアは…」
「リオレイアのクエスト達成ご苦労様でしたニャー!さあさあ、ネコタク業界でも最高品質と噂される最新のネコタクをご用意したそこニャるハンターの方々!さあさあ!どうぞお乗り下さいニャ!」
「…え?」
クエストは、既に成功していた。
時は遡る。
女性ハンターが気絶すると、リオレイアは区域からすぐに離れた。
突然姿を変貌し始めるリオレイアに危険を感じた青年ハンターが、女王の体が白金に輝く前に肥やし玉を投げていたので、肥やし玉特有の臭いをつけられたリオレイアがその臭いを落とすために移動したからだ。
「はあ…はあ…」
「ご主人様、拠点に着きましたニャ。」
「ありがとう、ハク。」
火傷を負った女性ハンターを拠点のベットに寝かせる青年ハンター。
女性ハンターの腕は溶けた盾によって焼け爛れていたが、女性ハンターの行動が幸いしたのか神経にまで火傷の届いた様子は見られ無かった。
ハクの指示に従って女性ハンターに適切な処置をした青年ハンターは砥石で槍を研磨していた。
「ご主人様、ハクはもう一つ罠を持っているので、これからハクがあのリオレイアを捕獲しようと思いますニャ。」
槍を研磨する主の手が震え、主の顔が青白くなっているのに気が付いたアイルーは、一匹でもクエストをやり遂げる意志を告げる。
「…ハク、もしかして僕が怖がっているから…と心配したの?」
だが、主である青年ハンターは愛するアイルーに追いつくため、愛するアイルーと一緒にいる為なら恐怖し、怯えても諦めようとしなかった。
「ハクは罠と麻酔玉を頼むよ。僕は…囮をしよう。」
寧ろ、自殺行為すらやってのけるハンターだった。
女王は死ぬ気の炎を頭で燃やし、静かにナニカを待っていた。
ゆっくりと、死のイメージが脳内を犯していく感覚に抗いながら、女王はナニカを待っていた。
「GULLLLLLL…」
────キタ…カ。
女王が待っていたのは、二つの小さな敵だった。
始まりは、女王のブレス。
迅竜をも超える高速移動による上下左右四方八方から繰り出される火球。
それを、青年ハンターとアイルーは巧みな足使いによって掠ることなくかわす。
次は、青年ハンターの角笛。
モンスターの聴覚へ不快感を与える音の調律をされた笛によって女王のヘイトは青年ハンターへ向かう。
次に、女王はブレスではなく巨躯による突進を始める。
回避する事のみに集中し限界まで感覚を研ぎ澄ます事によって、青年ハンターはその一撃を受け流し、避け、時には女王の足をすり抜ける。
「はぁっ…!はぁっ…!」
痛恨の一撃を受けなかった青年ハンターだが、青年ハンターの防具『バトルシリーズ』は女王の棘や鱗、甲殻の突起に当たり、ボロボロになっていた。そして青年ハンター自身も消耗し、回避が遅れ始めている。
────アレは防戦一方カ。ダガ、モウ一押シデアレハ殺セル。
確信し、理性によって油断を見せた女王。
そして、死のイメージによって得た理性によって女王は敵の罠に嵌った。
「GUGAAGAAGGAA!?」
女王の足下でシビレ罠は発動していた。
シビレ罠は雷光虫などが発する電気の力やゲネポスの麻痺爪で麻痺させて動きを止めるトラップだ。
覚醒した女王には、普通のシビレ罠程度であれば効果は無かったかもしれない。
だが、青年ハンターを慕っているアイルーの設置したシビレ罠は普通のそれと一線を画する物だ。
それはかつて流浪の身であったアイルーと一時期旅を共にした竜人族の贈り物。
海竜の背電甲と雷狼竜の雷光虫を集める仕組み。
モンスターの素材と生態を模倣し、完成した究極のシビレ罠。
それが女王を封じるために発動された。
強力な電気は女王の体を焦がし、抗う気力を奪い取る。
「ニャア!」
一つ、二つ、麻酔玉が女王の鼻先で弾け、麻酔薬を含む煙が女王の鼻に吸い込まれる。
女王は暫らくすると目を瞑り、鼻ちょうちんをつくった。
白金に輝いていた身体は緑に戻り、頭部で燃えていた炎は女王が眠ると次第に鎮まり、消えた。
青年ハンターとアイルーは、女王の捕獲に成功したのだ。
帰りのネコタクでリオレイア狩猟の顛末を聞いた女性ハンター。
彼女は、目の前でオトモをモフる青年ハンターと主にモフられて悶えるアイルーによる微笑ましい光景を見て笑っていたが、内心では青年ハンターの成長とアイルーの異常性に驚いていた。
(コイツは
女性ハンターは首にかけている護石を握る。
これは女性ハンターに告白し、ぶちのめされたハンターが女性ハンターに渡したもの。
自動防御というスキルが発動すると説明していたが、女性ハンターは竜撃砲に耐えたから急所を守るには丁度いいと身につけたものだ。
だが、これによって女性ハンターが反応するより早く防御が出来たのは事実だった。
だからこそ、弟子が自動防御によって発動してやっと防ぐ事のできた攻撃を耐えたと信じることが出来ない。
まだ弟子と師匠の実力は大きな差があると信じたかった。
(…まあ、そう思う事でコイツとの繋がりを大切にしたかったんだろーな。)
実際、青年の言葉は真実だろう。
所々に焦げ跡があり、幾つかの部品が千切れている防具。
変形し、使えそうに無い盾。
そして、防具の隙間から覗く深い傷。
弟子のアイルーもすでに気がついているかもしれない。
(…あ?ハクってぇオトモ…今更かもしれねえが異常だろ。)
女性ハンターは、気付く。
角笛が挑発に有効でも、ヘイトが青年ハンターに向かおうとも不可思議な点がある。
罠は、リオレイアの足下で発動したと話していたが…なぜ、リオレイアが止まった瞬間に発動しなかったのだろうか?
(あのアイルー…
「どうしましたかニャ?」
痙攣を終え、女性ハンターの目線に気が付いた白いアイルーに、女性ハンターは笑う。
「────いや、お前はありえないわ。」
ネコタクでは笑い声が響いていた。
解説コーナー
*リオレイア(死ぬ気モード)
→家庭教師ヒットマンのようなアニメで格好良いと思っていた死ぬ気モードから。
うろ覚えだけど、こんな感じだったな…と生み出したはいいが、設定が活躍してないような…。
色の変化はなかった筈だけど…まあ良いかと。変形や進化にあこがれる子供みたいなものですから…許してください。
死ぬ気の炎が燃えたときパワーアップ。
・攻撃が3.5倍
・移動速度アップ&スタミナ消費ダウン
・防御が0.8倍
…これが覚醒したときの効果かな?
モンハンのダメージ計算はよく分からないです。