ダンジョンでウホッするのは間違っているだろうか。 作:アルとメリー
「そこのお嬢ちゃん、サポーターに俺なんて、どうだい?」
屈強な体格をした男がダンジョンの入り口で女性に声をかけていた。男は2メートルほどの身長に防具の上からでもわかるほどの筋肉に覆われた屈強な体格をしている。その一方で話しかけられた女性は、腰まで伸びる美しい金髪に人形のように整った容姿、地上の美を体現したかのようなプロポーション、その上で腰などの主要な部位に防具をつけてはいるものの、全体的に軽装の部類に入る格好をしている。
ぶっちゃけると美人である。
その野獣のような男が美女に声をかけていた。
男は少し疲れたかのような顔をしているが、その顔つきは歴戦の猛者を髣髴とさせる。
ただし、無理にさわやかさをかもし出しつつ、サムズアップされた手がなければだが。
「……私に言ってる?」
男は返事を期待していなかったのか、見るからに驚いている。それもそのはず、ここにいたるまでにすでに何十人と声をかけてそのほぼすべてに無視されて今に至っているのだから。
「おうよ。今ならお安くしとくぜ?」
「……ついてこれるなら、いいよ。」
どうやら笑顔を作ろうとしたであろう男は、傍から見れば女性を連れ去る人攫いのようであるが、何を思ったのか、女性は軽く返事をした。
そのままダンジョンへと入っていく美女。
「って待たんかいっ。」
どうやら男は大きな図体をしていながら突っ込みまで習得しているようである。
■ ■ ■
唐突な話であるが、男はホーリィ・馬場という。
この男、この世界の住人ではない。
正確には、ではなかったといったほうが正しい。
つい数時間前まで男は自宅でゲームをしていた。レトロな2Dのゲームである。いつものように男はそのゲームでアイテム収集に精を出していた。
ゲームの名前はDIABLOⅡ。
古き良きハック&スラッシュ系のオンラインでもできるゲームである。そのゲームをしていた男はアイテム収集に命をかけていた。なにしろ、アイテム収集をするために、戦闘能力皆無なビルドである掘り馬場をメインキャラで使っていたのである。筋金入りである。戦闘能力皆無なため、その日も強い他のプレイヤーに寄生しながらプレイしていた。そんな時、いつものように死体に向けてウホッウホッ(ITEM FINDという敵の死体からもう一度ドロップアイテムを得るスキル)していたところ超絶レアドロップアイテムがごろごろと出てきたのである。そのとき、男は逝ってしまった。
興奮しすぎて死んでしまったのである。
いわゆる、腹上死、テクノブレイク、そういった結果であった。
その男が目を覚ますとどことも知れない場所にいたのである。男は驚き、慌て、混乱し、発狂に近い行動をとると思われたが、そんなことはなかった。
冷静に自分の姿を確認し、自分の意のままに動くことを確認し、装備品を確認し、スキルを確認し、イベントリやアイテムボックス、ステータス、果てはアイテムの使い方までを冷静に確認し始めた。
その上で、彼はどうやらひとつの結論に達したようであった。
『なんか知らんが、ゲームの中に来た。ゲームのやりすぎでこんな夢を見るとは相当キテるな。だがいいぞ、もっとやれ』
男はこれを夢であると感じたようであった。
その上で男はよくわからないので自分のやりたいことをしようと考えたのであった。
そうだ、ダンジョンでアイテム収集に命を懸けよう。
元々そういうビルドであるし、他の人に寄生してアイテムを掘るのが男のジャスティスなのである。
そこからの男の行動は無駄がなく、的確で迅速であった。
まず彼が行ったのは冒険者ギルド。情報収集をしようと街を歩いていたら発見したのですぐに入ったのである。その受付の人に根掘り葉掘りしつこく質問したところ、彼は現状を把握してしまった。
・ここはオラリオという世界で唯一のダンジョンを抱える神々が住まうとしてあること。
・神々の恩恵を受けた者を冒険者といい、日夜ダンジョンにもぐりレべリングをしているということ。
・神の恩恵を受けないと冒険者になれないということ。
・レベルシステムが男とはまったく違うこと。
・サポーターという男にとっては天職となるものが存在すること。
他にも様々な情報を得ていた。
ただ、男にとって必要な情報以外は右耳から入り左耳へと抜けていったのだが。
その後の男は手持ちの金貨を換金(貨幣価値が違ったため単なる金として買い取ってもらった)し、すぐにサポーター用のバックパックなるものを購入。その足でダンジョン入り口周辺のサポーターの群れの中に混ざったのである。
そして現在の状況へと至る。
金髪の女性がダンジョン内をスタスタと歩いていく。その速度は非常に速い。普通の人にとってはもはや走っているのではないかという速度である。そのうえ、進路上に存在するモンスターを一瞬で切り捨て、一瞥もせずに先へと進んでいく。
冒険者に猛烈な売込みをかけるダンジョン入り口のサポーターの群れが何故この女性に声をかけないのかは、恐らくこれが原因であると思われた。普通のサポーターであるならば、付いていくのは無理である。
ただし、普通であるのであれば。
「ウホッ!なるほど、これが魔石ってやつかぁ!へぇ~、ふぅ~ん。ウホッ!お、もう一回出てきた。って、これはドロップアイテムってやつかな?もうけ~。」
男は普通ではなかった。
スキルとアイテムで常人よりも移動速度が恐ろしく速いのである。恐らく、女性の3倍速はあるかもしれない。その上、手癖が悪く、女性が倒したモンスターに蝿のように群がる。その上女性の行動の邪魔になるような行動はとらない。
恐ろしく有能なサポーターであった。
「!!!」
あまりにもあまりな男の動きに女性が驚愕の視線を送る。ぶっちゃけ動きがきもい。
「ん?どうかしたか?ああ、安心しろ、俺の取り分は1割でいいぞ?っていうか、どんどん行こうぜ!」
女性はとりあえずコクコクと頷いた。
とりあえず害はないし、アイテムはきちんと回収してくれるし、取り分も普通のサポーターと同じぐらいである。特に不満はなかった。
ホーリィにとって幸運だったのは、初めてパーティーを組んだ相手があまり他人に興味のない女性であったこと。
無駄な詮索等をされずにすんだこと。
お互いに絶妙な感覚でパーティーを組めていた事である。
そんな美女と野獣は何事もなくダンジョンの18階に到ってしまった。
■ ■ ■
「……っ!……ゴライアス!」
女性が小さく口にする。
そこにいたのは階層主と呼ばれるユニークモンスター。18階層を守る凶悪な主である。それが今まさに、美女と野獣が18階層に足を踏み入れた瞬間に生れ落ちる。
「おー、でっかいごりらがおる。もしかしてボスってやつかい?いいねいいね!」
ホーリィはどこまで行っても能天気であった。
それもそのはず、彼は今のこの状況を未だ夢だと思っており、危機感のかけらもない。
彼の頭の中ではどんなアイテムをドロップするんだろうということのみで埋め尽くされていた。
その男に向かって女性が手をかざす。
あたかもこれ以上は危険だからそこで待機しておくようにといわんばかりの手である。
「あ、うん。よろー。」
そのハンドサインを的確に受け取り、その場で待機した男を一瞥すると女性は走り出し、ゴライオスへと肉薄していく。そして壮絶な戦いが始まった。
その光景を男は眺めていた。小さな呪文を唱えて風を纏い、強大なモンスターに確実にダメージを重ねていく女性。
しかし、その光景に男はふと思った。
なんていうか、効率悪くね?
男は真性の効率厨のガチ廃人であったのだ。ちまちまダメージを与えていくなどその精神が許さない。
とたんにいらいらしてきた男はどうやら妙案を思いついたというか、思い出したようで女性の方へと歩き出した。
「……え?危ないから、下がって!」
自らに近づいてきた男に警告を発する女性。だが、どこ吹く風と男は女性から10メートルほどのところまですばやくやってきた。
そこで男は何故か雄たけびを上げた。
「しゃーこらー!」
男は無駄に雄たけびを上げたわけではない。男のした行動はパーティーメンバーに対するHP、DEFの大幅な上昇、そしてスキルを+1すると言う行動であった。いわゆる支援バフである。
そしておもむろに今まで装備していた2本の剣を腰の鞘にしまうと背負っていた盾と違う剣を装備した。
そしておもむろに女性に一言。
「後は頼んだ!」
「……。」
きっと女性は危ないとか、下がってとか、邪魔とか、もしかしたら一緒に戦うのかな?とか色々な事を思ったのだろう。しかし、男の一言に全てを切り捨てて目の前の怪物に集中することにした。
気にしてもしょうがないと、悟ったともいう。
「オオォオオオオオオオオオオオォォォ!!!!!!!!」
ゴライオスが雄たけびを上げると拳を振り上げる。
その視線の先には筋骨隆々とした男が立っていた。そして振り下ろされる拳。
「あぶなっ……、―――――――― えっと。……!!ッン!」
なんともいえない空気が流れる。
先ほどまで拳を振り下ろしていたゴライオスは何故か仰け反っていた。1メートルほどノックバックしているように見える。
何故?とかどうやって、とか考えることはたくさんあれど、この好機を逃す女性ではなかった。
風を纏って飛び上がると隙だらけなゴライアスの胸に剣を突き刺す。それによってゴライアスの魔石が破壊されたのか、巨体が崩れ落ちる。そこまでして女性は万が一反撃を食らわないように一旦距離をとった。
そして男へと視線を向ける。
男が何をしたか、それは簡単である。
1メートル前へとジャンプして着地しただけである。
これは掘り馬場の最終兵器とも言われるリープ(任意の地点に向けてジャンプして着地する)と呼ばれるスキルである。敵に囲まれたときや、味方に追いつきたいけど敵が邪魔なときに活用するスキルなのであるが、これには他にも活用方法がある。
着地地点に敵がいた場合、押しのけるのである。
しかもその瞬間は無敵になる。
何を言っているのかわからないだろうが、これはゲームシステム上の仕様であった。それが遺憾なく発揮されたのである。ちなみに攻撃能力は皆無なため、ただの嫌がらせ以上にはやはりならない。
どこまで行っても掘り馬場は戦闘能力皆無というのが現実なのであった。
「……今のは、なに?」
女性の疑問ももっともである。
「おあああ!なんかレアっぽいのが落ちてるじゃん!ってやっぱり素材か。もしかしてここってどちらかというとモン○ン系統のシステムなんだろうか。俺としては洋ゲーによくあるMOD系統の方がすきなんだけどなー。とりあえずもう一回、ウホッ!」
女性の質問はどうやら聞こえていないようである。
「おっしゃ、もういいぞー。どんどん行こうぜ~!」
渋めの歴戦を感じさせる男の容貌からは考えられないほど軽い調子で先を促す発言が飛び出る。
それに対して女性は思った。
(とりあえず帰ったらいろいろ聞こう。)
この日、美女と野獣は39階層まで探索して帰ってきた。
■ ■ ■
「ホーリィ、そろそろ降ろしてほしい。」
「まあまあ、落ち着けって。まだ本調子じゃないんだろ、アイズ?ここは頼れるおっさんに任しとけって。」
アイズと呼ばれた女性がホーリィに向けて若干恥ずかしそうに言う。
さもありなん。現在、筋肉モリモリのおっさんにアイズはお姫様抱っこをされていた。
時はちょっと前にさかのぼる。
39階層までオラオラで進んでいたアイズだったのだが、流石に一人で全ての敵を倒すのはしんどかったのか、とうとう精神力を使い果たし、一歩も動けない状態へとなってしまったのである。いわゆる、マインドゼロ一歩手前である。
そんな状態になろうともダンジョンは待ったをかけてはくれない。
今がチャンスとばかりにアイズ達は壁から一斉に生れ落ちたモンスターに囲まれてしまった。
そんな緊急事態にも動じないのがホーリィである。
「じゃあそろそろ帰りましょーか。」
そのままアイズをお姫様抱っこで回収するとすたこらさっさとダンジョンを逆走していったのである。常人の3倍速がデフォルトなホーリィはモンスターを全て振り切って今に至る。
余談ではあるが、帰る間に自己紹介は済ませたようであった。
「その……。(流石にこの状況を他の人に見られるのは恥ずかしい。)」
当たり前といえば当たり前な話なのであるが、ホーリィは気が付いていない。頭の中は今回手に入れたドロップアイテムのことでいっぱいなのであった。
(確か、冒険者ギルドのお壌ちゃんいわく、鍛冶師なるものがいて、そいつにドロップアイテムを渡して装備品を作ってもらえばいいとか言ってたよな。今回大量のドロップアイテムがあるし、そこそこのものが作れるんじゃね?ボスドロップもあるけど数がないからたいしたものは作れないかもしれないしなー。乱獲するしかないのか。そうか、乱獲しよう!)
脳内お花畑である。
と、ホーリィが重要なことを考えているとあっという間に出口である。
「お、出口みたいだぞアイズ。このまま家まで送っていってやるよ。どっちいけばいい?」
「……え?あ、その、……………こっち。」
恥ずかしさから下を向いていたアイズは降りるタイミングを外してしまったようであった。
恐ろしい速度で爆走するホーリィに指を刺しながらファミリアのホームへの道を指差すアイズ。
もちろんバベルにいた人に目撃された。
■ ■ ■
「なんばしょっとねーーーーーん!!!しょっとねーん!!!!!」
無事?にロキファミリアの本拠地へと到達したホーリィを待っていたのはへんな関西弁を使う女性からの突っ込みであった。
「ごるぅああああ!うちのアイズになんてうらやま、じゃなかった、破廉恥なことしくさっとんじゃわれぇ!」
ホーリィの後頭部をジャンプしながらぺしぺし叩く女性は何を隠そうロキファミリアの主神であるロキであった。
「うおっ、いたいいたいいたいいた、く、ない?むしろ、切れてなぁ~い。」
「って、頭かった!しばいたうちの手のほうが痛いわぼけぇ!っていうかその仕草メッチャムカつくわ!」
ファミリアの主神は朧げながらではあるがファミリアのメンバーがどこにいるか判るのである。その為、アイズがファミリアのホームに向けて帰ってきているのを察したロキは出迎えようと玄関口で待っていたのであった。
ロキとホーリィーが漫才している間にそそくさと地面に降り立つアイズ。
「ロキ、ただいま。」
「おかえりやーアイズたん。この変なんに何もされとらへん?大丈夫なん?つーか、これ何なんや、思い出したらまた腹立ってきた!せや、うちの代わりにこの筋肉だるまなますにしたってぇな!こいつものごっつ固いねん!」
そういってホーリィを指差すロキ。
しかしアイズは首を振る。
「……無理。多分、私より強い。」
「は?ホンマによーるん?マジで?」
そこで初めてロキはきちんとホーリィーを見据えた。その瞳は流石は神であるといわんばかりの鋭いものであった。
が、視線の先のホーリィはというと。
(やばいな、これはやばい。)
ホーリィは恐ろしい窮地に立たされていた。
(なんだこいつ、関西弁にちっぱいに突っ込み担当にかませ犬臭がプンプンする。だ、だが!的確に俺の急所(好み)に合わせてくるとはやるじゃねぇか。)
どうでもいい窮地だった。
「あんた、何や?見たところ冒険者じゃ無い。神々の恩恵を感じられへん。せやのにアイズは自分より強いゆーとるし、何者や?」
「―――――――えっ!!?」
先ほどまでのおちゃらけた雰囲気を感じさせない、ひとつの眷属を纏め上げる長としての威圧がホーリィへと突き刺さる。
その返事はどこまでも軽かった。
「ただの掘り馬場だ。いや、確かに俺は掘り馬場の中の掘り馬場、言うなればキングオブ掘り馬場! あ、ところでロキって呼ばれてたってことはロキファミリアの主神ってことでいいのかな?それだったら俺をファミリアに入れてほしいんだけど。」
軽すぎる。
軽すぎてキレたロキが二周半回って少しだけ冷静を取り戻すぐらいには軽すぎた。拳を握ってわなわなしている。
ホーリィは思った。
何か怒らせるようなことを言っただろうか、と。
「うぉい、うっせーぞロキ。玄関先で何してんだよ。って、アイズじゃねか、久しぶり。」
とそこに銀髪の人狼、ベートが騒ぎを聞きつけてやってきた。ただ単に団長に様子を見て来いと言われてやって来ただけなのだが。そしてアイズからは会釈だけで返事をもらえない。
「ふっふっふっ。そこの筋肉だるま、うちのファミリアに入りたいゆーたな!せやったらそこのベート倒したら入団認めたる。」
「はぁ?いきなりなんだよ、めんどくせぇ。他のやつにさせろよ。」
様子を見にきたらロキにいきなり目の前の男と戦えと言われたベートは心底面倒に思っていた。こういったことはよくある。アイズに惚れ込んだ男がロキファミリアに入団したいとやってくるのである。そういった輩は最終的にいつもベートが追い払ってきていた。今回もそうなのかと思い、ベートはため息をついた。
「そいつ、さっきまでアイズたんお姫様抱っこしとったで。」
「おい、おめぇ、生きて帰れると思うなよ?」
一瞬で牙をむき、臨戦態勢になったベート。
ちょろい、ちょろすぎる。
「よくわからんけど、これ倒せばいいの?」
ホーリィは掘り馬場である。本人は戦闘能力皆無だと思っていた。実際、DIABLOⅡにおいてはそうであったのでそうなのだと思っていた。
しかし、アイズと一緒にダンジョンに潜り、その認識を変えつつある。
ホーリィは思っていた。ここは難易度で言えばノーマルってやつだな、と。
DIABLOⅡには難易度が3段階ある。
ノーマル、ナイトメア、ヘル。
もちろん、ノーマルが一番簡単でヘルが一番難しい。
簡単な難易度をクリアするごとに次の難易度に進めるのである。適正レベルはノーマルで40以上、ナイトメアで70以上、ヘルはレベルというより装備品が揃わなければ無理ゲーである。
その、ヘルにおいて戦闘能力(攻撃力)皆無であって、ノーマルであれば余裕で倒せるレベルと装備品なのである。
そんな状況で目の前の狐耳をした男を倒せといわれたらどう感じるだろうか?
え?そんなんでいいの?
こう感じるのではないだろうか。
あくまでホーリィ基準での話である。
軽い調子で言われたベートはもちろん青筋を立てている。
「おい、ロキ。もう殺していいんだよな?」
「ええで、自分がどんなに馬鹿か後悔する暇も与えんでええわ。」
その瞬間、ベートが地面を踏みしめる。
一瞬での加速。そこから突き出される拳には何の慈悲も無く男の心臓を貫くと思われた。
しかし、それはあくまでもベート基準の話であった。
ホーリィにとってはベートって呼ばれてる狐耳をつけた男がゆっくり殴りかかってきた、ぐらいの印象である。
ホーリィはその拳を何の気なしに受け止めた。
「―――――――――っ!!!」
拳を受け止められるや否やすぐさま距離をとるベート。
ベートにしてみれば殺す気満々の拳を簡単に受け止められたのである。その驚愕は計り知れない。そもそも、神々の恩恵を受けていないものが反応できる速度でも威力でもないのである。警戒をするのは当たり前であった。
そんな時、ホーリィは別のことを考えていた。
どうやって攻撃しよう。
ホーリィは掘り馬場である。
掘り馬場は戦わないものである。その考えがあるからこの夢が難易度ノーマルだと思ってもダンジョンでアイズの手助けをしなかった。敵を倒すのは掘り馬場であってはいけないのだ。
しかし、とホーリィは考える。
これはダンジョンじゃない。つまりPVPみたいなものである。なんだか弱いものいじめ(ホーリィ主観ではレベル30の貧弱装備相手にネタビルドとはいえレベル99のガチ装備がPVPしている)みたいに感じるし、どうしようかと考えていたが、どうやら相手はやる気満々であるらしかった。なので、全力で苛める事にホーリィはした用である。
「しゃーこらー!」
一つ雄たけびを上げるとホーリィは盾と剣を装備した。
この片手剣は、ビーストという。パーティーメンバーの攻撃力と命中率と攻撃速度を大幅に上昇させる(半径10メートルぐらい)オーラを纏える優れものである。ついでに熊に変身できる。
ついでに熊に変身できる。
ホーリィの体が蠢いたと思うと、一瞬で体長3メートルは優に超える巨大な熊に変身していた。
「は?」
そのままホーリィはベートに近づくと熊パンチをお見舞いした。
「へぶしっ!」
哀れベート、懸想するアイズの目の前で空を飛ぶのであった。そのままいやな音を立てて着地するとゴロゴロと転がり、動かなくなった。
「え?」
「んなあほな……。」
「(コクコク)」
アイズからしてみればわかりきった結果であった。どう考えてもベートよりホーリィのほうが強い。当然の結果であった。それよりもこんな状況でも心配されないベートがかわいそうで仕方が無いが。
そんな中、一番動揺していたのはホーリィであった。
(え?マジで?一回軽く殴っただけで飛んでったよ!どこのワンパ○マンだよ!っていうか、やべぇ、死んだんじゃね?」
いち早く状況を察したホーリィはベートの元へと急行する。そして変身を解くと腰のポーチからフルリジェネポーションを取り出す。それをベートの口に突っ込み無理やり飲ませた。
一瞬でベートの全身が逆再生のように回復する。
「ぐ、ぉ、て、てめぇ、殺す。かくご、しとけ、よ……。」
それだけ言うとベートは意識を失った。
どうやら意識は失ったものの、脈拍や呼吸はしっかりしているようなので命に別状はなさそうである。
「あー、びびった。」
額の汗をぬぐうホーリィ。
「ビビったのはこっちじゃぼけぇ!!なんなんや今の!?今絶対クマやったやろ!いろいろ白状せいやぁ!」
足りない身長で器用にぴょんぴょんしながら胸倉をつかもうとするロキを尻目にホーリィが冷静に言う。
「あーっと、これで入団おけ?」
「んなわけあるかい!?」
神速の突っ込みを受けてホーリィはよろめいた。
「ロキ、約束は守らないと。」
「いや、アイズたん、これはそういう問題じゃ……。」
「約束。」
「いや、だから。」
「約束。」
「いy」
「約束。」
「わーーーーーったわ!約束やしな、筋肉達磨の入団認めたるわ!!」
しゃあなしやで?みたいな目でロキはホーリィに向けて手を差し出す。
「うちがロキファミリアの主神のロキや。うちのファミリアにようこそや。あ、でもアイズたんに手を出したら殺すから。それだけはいっとくで。」
「どうも。ほ~りぃ、です。よろしく。」
「かあぁっ、なんなん、さっきからなんやイラつかせる仕草しおって、喧嘩売っとんか?売っとるやろ?今なら買うで?大安売りや!」
某お笑い芸人の自己紹介はどうやらお気に召さなかったようであった。ロキとホーリィが繰り広げる漫才を見ながらアイズが微笑みながらホーリィに耳打ちする。
「よかったね、ホーリィ。これからよろしく。」
その微笑みは地上に降り立った神々さえも嫉妬するほど美しかった。
「あーーーーーーーーーっ!われ、アイズに手ぇ出したら殺すいうたやろ!?殺す。殺してバベルの天辺に吊るしたる!っていうか、アイズたん、今の笑顔うちにも、うちにも頂戴!?」
それに対して無言で鉄拳制裁するアイズ。
「なして?うちなんか悪いことした!?えっ?えっ?アイズたーーーーん!!!?」
解説
※読まなくても全く問題ありません。
Required Level: 63
Level 9 Fanaticism Aura When Equipped
+40% Increased Attack Speed
+240-270% Enhanced Damage (varies)
20% Chance of Crushing Blow
25% Chance of Open Wounds
+3 To Werebear
+3 To Lycanthropy
Prevent Monster Heal
+25-40 To Strength (varies)
+10 To Energy
+2 To Mana After Each Kill
Level 13 Summon Grizzly (5 Charges)
つまり、この武器を装備すると、レベル9のいろいろ強くなるオーラをまとえて(Level 9 Fanaticism Aura When Equipped)、熊に変身できる(+3 To Werebear)。
ついでに本物の熊も5回召喚できる(Level 13 Summon Grizzly (5 Charges))。