ダンジョンでウホッするのは間違っているだろうか。   作:アルとメリー

13 / 13

 皆さんご存知ですか?

 ディアブロⅡリマスターが9月23日に発売が決定したんですよ!!!!!!!1111111
 作者は鼻血が出そうになりました。

 と、言うわけで布教活動もとい発売決定記念ということでもしもシリーズ第一弾を投稿します。
 9月23日にバトルネットで待ってますよ!


IF【ダンジョンでネファレムを目指すのは間違っているだろうか】~もしもリリの前にポータルが開いたなら~

 

 

「冒険者様お願いします。ベル様を、ベル様を助けてください!御恩には必ず報います。リリは、何でもします。なんでもしますから、ベル様を助けて……」

 

 

 

 勇敢にミノタウロスへと挑む少年とそれを見届ける強者たち。

 

 

 

 そんな中、ただただ助けを求めることしかできない弱い存在。

 

 

 

 自らではどうにもならず、あまつさえ足を引っ張ってしまう。

 

 

 

 一緒に進むと誓ったはずなのに。

 

 

 

 もう裏切らないと誓ったはずなのに!

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

 月明かりが明るく照らす。

 

 そこはヘスティアファミリアの拠点の近くの橋の下。

 

 一人の少女がとぼとぼと歩いていた。

 

 

 

 顔は暗く下を向いてうつむいている。

 

 

 

 その少女の名前はリリルカ・アーデという。

 

 つい先日ベル・クラネルという冒険者と紆余曲折あったものの正式にパーティを組むことになった少女である。

 

 その当時の前途洋々とした希望に満ちた表情はもうない。

 

 あるのは自らへの失望。

 

 また助けられるだけの存在へと成り下がってしまった自分への負の感情がその視線を地面へと縫い付けていた。

 

 

 

 ファルナの更新は絶望的

 

 戦闘能力は上層どまり

 

 ダンジョンの攻略階層は追いつかれる。

 

 

 

 何よりも自らを不安にさせるそれ。

 

 

 

 

 

 

 

 私は、置いて行かれるのではないのか?

 

 

 

 

 

 ベル・クラネルという冒険者の異常なまでの成長速度。

 

 それはずっと前から停滞しているリリルカ・アーデとの圧倒的な違い。

 

 

 

 考えれば考えるほど不安になる思考。

 

 

 

 

 

 そんな時、

 

 ふと、

 

 顔を上げた。

 

 

 

 

 

 明らかな違和感とともにあったのは扉であった。

 

 ただし、

 

 

 

 その扉は何もない宙に浮いていた。

 

 

 

「えっ?」

 

 

 

 思わず漏れた疑問の声が少女の喉から発せられる。

 

 それもそうだろう。

 

 その扉は何かに頼ることなくそこに存在していた。

 

 あたかもそれが当たり前のごとく。

 

 

 

 しかしその怪しい扉へと少女は近づいていった。

 

 まるで夢遊病患者のごとくふらふらと。

 

 

 

 明らかに普通ではない扉。

 

 常人であれば警戒するであろう扉。

 

 しかしその扉の取っ手へと少女は手を伸ばし、ひねった。

 

 ごく自然に。

 

 まるで我が家の扉を開けるかのごとく。

 

 

 

 そして開かれ、入った。

 

 

 

 リリルカ・アーデという少女は気が付かない。

 

 自らの渇望がその扉を引き寄せたという事実を。

 

 何の疑問も抱かないという不自然を。

 

 

 

 

 

 これはリリルカ・アーデという少女の進む修羅の道。

 

 ただ一人の Asura Realm 

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

 扉の中に入ったリリはそのまま進みそして止まった。

 

 

 

 そこは広間だった。

 

 

 

 真ん中には焚火がたかれ、その周りには寝るためなのかハンモックがある。道具をしまう宝箱のような入れ物に何やら不思議な台座。そして満天の星空。

 

 

 

 そう、扉の先は外だったのだ。

 

 それを頭を巡らしリリは確認した。

 

 その後ろで入ってきた扉が閉まる。

 

 

 

 その瞬間、リリは正気へと戻った。

 

 

 

(わ、私は何をしているんでしょうか!?こんなあからさまに怪しい扉に無警戒に入って呑気に空を見上げているなんて!)

 

 

 

 そう考えたリリはすぐさま踵を返すと元来た扉から帰ろうとした。

 

 

 

 しかし、それは叶わなかった。

 

 

 

「おやおやおやおや、これは珍しい。珍しいですね。一体この場所へ人が来るのは何時ぶりなのでしょうか?しかもただの人が!」

 

 

 

 振り返ったリリの目の前で大げさに手を広げるなにか。

 

 

 

「しかし喜ばしい。このネファレムの鍛錬場へ人が来なくなって幾星霜。私の存在意義を久しぶりに果たせるというもの。なんと素晴らしい日でしょうか!」

 

 

 

 仰々しい身振りで蠢く何か。

 

 それは人の形をした何かであった。

 

 一言で表すなら幽霊、ゴースト、地縛霊。

 

 はっきり言うと人ではなかった。

 

 

 

 それを確認したリリの動きは早かった。

 

 脱兎のごとくその人影の横をすり抜けるように進み入ってきた扉へと進む。

 

 その手が扉の取っ手へと掛かり今まさに扉を開けるのではないかというところで後ろから声がかかる。

 

 

 

「おや、帰られるのですか?せっかく力が手に入るというのに」

 

 

 

 扉の取っ手を開けようとする動きが無意識に止められる。

 

 そしてゆっくりとリリルカ・アーデは振り返った。

 

 振り返ってしまった。

 

 

 

「…どういうことですか。」

 

 

 

 まさに悪魔の囁き。

 

 自らの悩みの根源。

 

 

 

 私が弱くなければ、せめて肩を並べられる存在であれば。

 

 

 

 そんなリリの心の隙間へと言葉が入り込んだ。

 

 その誘惑によってリリは振り返ってしまったのだ。

 

 

 

「申し遅れました。私、カリムと申します。このネファレムの鍛錬場の管理人をしております。ようこそこの次元の狭間へ!」

 

 

 

 そういって腰を折るカリム。

 

 

 

「そんなことはどうでもいいのです。今あなたが言った言葉。……どういう意味でしょうか?」

 

 

 

 

 

 いつでも逃げれるように身構えながらリリは考えていた。

 

 目の前の不定形の人型が何を言っているのかが全く分からない。

 

 わからない、がしかし、見逃せない言葉を放っていた。

 

 

 

 

 

 そう、力が手に入ると。

 

 

 

 

 

「ほうほう。どうやら混乱しているようですね。良いでしょう、説明いたしましょうか。」

 

 

 

 そういうとカリムは話し始めた。

 

 

 

 

 

 ここは次元の狭間にある何処でもない場所。

 

 力を求めたネファレム(と呼ばれる強大な種族)の鍛錬場である。

 

 カリムはこの鍛錬場の管理人でありそれ以上でもそれ以下でもない。

 

 力を求めし者の前に現れるという話であった。

 

 

 

 

 

「さて、どうしますか?安寧を求めるならそれもまたよし。しかし、そうでないのなら、貴方の力になれると思いますよ?」

 

 

 

 その言葉に抗うすべを少女は持っていなかった。

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

「どうしてリリは来てしまったのでしょうか 」

 

 

 

 黄色い波紋が広がるポータルの前に立つリリからため息が漏れる。

 

 ネファレムの鍛錬場の管理人であるカリムの甘言に乗ってしまいあれよあれよという間に入ってしまったのである。

 

 

 

 それは少し前の出来事であった。

 

 

 

 

 

「リリルカ様は力を求めているのですよね?それでしたらこのネファレムリフトへと入られるのがよろしいかと思います。そうですね、要は毎回内部構造の変わるダンジョンのようなところです。ここで得た経験はきっと貴女の為になるでしょう。安心してください、もし危なければここへ帰ってくればいいのです。とりあえずお試しに一度どうでしょう?」

 

 

 

 そして餞別にとショートソードとバックラーを渡されて今に至る。

 

 

 

「でも、冷静に考えるとこれはチャンスです。こっそりと経験を積む事ができるはず。あの管理人の話によるとここでの時は止まっているという話ですしいくらでもベル様に追いつく事ができます。そうです、もう決してベル様を裏切ったりしたくありません 」

 

 

 

 

 

 強い決意とともにリリは一歩を踏み出した。

 

 その瞳には揺るぎない意志の力が宿っていた。

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

「やあ!おかえりなさいませ? 」

 

 

 

 目ざめたリリの頭上から声がかけられる。

 

 ゆっくりと浸透したその言葉にリリは飛び起きた。

 

 

 

「……!っ、あれ。リリは、モンスターは?え、夢?」

 

 

 

 周りを見回して、そして自らの体を見下ろして、そして目の前のカリムをリリは見上げた。

 

 

 

「夢ではありませんよ、中々に貴女は雑魚ですねぇ。伸びしろがあるとも言いますが。」

 

「えっと、その、どういうことですか。」

 

 

 

 未だに状況がつかめていないリリに向かってカリムが優しく語り始める。

 

 

 

「貴女はネファレムリフトへと入ったのですが、ゴブリンにやられてしまいここへ戻ってきてしまいました。おっちょこちょいですねぇ。あれぐらいは倒していただかないと困りますね。」

 

 

 

 そうしてやっとリリは思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 ■  ■  ■

 

 

 

 

 

 意気揚々とリフトを潜ったリリが降り立ったのは大きな木立が生えている林の中であった。

 

 そこから少し進むとすぐにモンスターと遭遇する。

 

 ゴブリンが5体に体格が2倍ほどあるゴブリンが1体。

 

 ダンジョンのそれとは違い、モンスターは武装していた。

 

 一般的にきちんとした武装をしているモンスターは適正階層よりも強いモンスターであることがほとんどである。

 

 

 

 そんなモンスターが6体。

 

 明らかにリリ一人では荷が重い。

 

 

 

「嘘、ですよね。もしかしてとんでもないところに入ったんじゃ……?」

 

 

 

 今更ながらにカリムの口車に乗ってしまったのだとわかってしまった。

 

 

 

 そんな戦慄を受けたのがまずかったのか、ゴブリンの一体と目が合う。

 

 リリを認識したゴブリンは周りに知らせるように奇声を上げるとリリへと走りよる。

 

 そしてあっという間に両者の距離は縮まっていく。

 

 リリはなし崩し的に剣を鞘から抜き放った。

 

 

 

 

 

 それが開戦の合図となったのだった。

 

 

 

 

 

 バタバタと音を立てて走ってくる先頭のゴブリンは何の工夫もなく剣を振り上げるとリリに向かって振り落す。

 

 しかしそこは腐っても冒険者。

 

 リリはあっさりと右によけると下段に構えた剣を抜き放った。

 

 それは剣の扱いが得意ではないリリルカ・アーデにとって会心の一撃となる。

 

 

 

 あっさりと振りぬいた剣はゴブリンの喉を切り裂いた。

 

 切り裂かれた喉を両手で押さえて膝をつくゴブリンを横目にリリは先を見据える。

 

 

 

「私は、これ以上お荷物に何てなりたくない。たとえそれが悪魔に魂を売ることになろうとも!」

 

 

 

 剣を振り、ついた血糊を振り払う。

 

 

 

 仲間がやられ狼狽えるゴブリンをにらむとその切っ先を残りの残党へと向ける。

 

 

 

「もう、私は逃げたりなんてしない!」

 

 

 

 

 

 

 

 戦意を滾らせたリリであったがその後に大量のモンスターと出くわすこととなる。

 

 

 

 ゴブリンシャーマンに率いられたゴブリンの群れ。

 

 蠢くゾンビ達。

 

 針を飛ばすヘッジホッグ。

 

 杖を持ち魔法を使うミノタウロスのようなもの。

 

 

 

 勝てるとか、勝てないとかそんなことは一切考えずに遮二無二モンスターへと向かっていく。

 

 そしてそれを切り伏せていくリリ。

 

 

 

 それは戦っているリリルカ・アーデですら不思議に感じることであった。

 

 

 

 

 

 そう、なぜ私はこんなにも戦えているのか?

 

 

 

 

 

 ただでさえ体格の恵まれない小人族。

 

 その女性であるリリがレベル2相当のモンスターであるミノタウロスとも戦えている理由。

 

 それこそがネファレムの鍛錬場の秘密であった。

 

 

 

 ネファレムの鍛錬場は、その人にとって同格となる敵が現れるのである。

 

 決して倒せぬ敵な出ててきはしない。

 

 故に鍛錬場。

 

 

 

 これがリリの戦えていた理由である。

 

 

 

 

 

 さらに息をつかせずに現れる敵を屠っていたリリが目の前のミノタウロスシャーマンを切り伏せる。

 

 

 

 そこで一旦周りに敵がいなくなったと思った時、それは起こった。

 

 

 

 

 

 目の前の空間が渦まく。

 

 そしてそれは徐々に形を作っていく。

 

 空気中の魔素を取り込むかのようにしてそこに顕現したのは全身を甲冑で固め、手に大きな長柄の武器を持った騎士のようなものであった。

 

 しかし、その頭蓋に肉はついておらず眼窟は暗い光を湛えるのみであるが。

 

 

 

 

 

「ヴオオオオオオォォォォ!」

 

 

 

 天に向かって大きく吠える2メートル半はあろうかという巨大な騎士。

 

 

 

 それと対峙する少女はそんな騎士を見ながら表情を変えずに剣を構える。

 

 その心のうちは非常に好戦的なものであった。

 

 

 

「やれる!私はやれる!見ていてくださいベル様。もう絶対に不甲斐ないところを見せたりしません!」

 

 

 

 リリはここまで続いていた連戦で完全にハイになっていた。

 

 いつもであれば逃げるべき敵であるにもかかわらずそれを正面から対峙する。

 

 そしてそれを不退転の瞳で睨んだ。

 

 

 

 

 

 そして一対一の死闘が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 先手を取ったのはリリであった。

 

 騎士の広いリーチを掻い潜り、斬りつける。

 

 そしてすぐさまに離脱する。

 

 

 

「……かったいですねぇ!でも、勝てないわけでありません!」

 

 

 

 リリの分析の通り騎士の攻撃は大振りであり避けるのは容易。

 

 そのうえで小回りの利くリリはヒットアンドウェイを選択した。

 

  

 

 何度も交錯する二つの影。

 

 

 

 リリは何度も騎士を切りつけながら感じていた。

 

 その手ごたえの無さを。

 

 

 

 確かに切りつけてはいるもののそれは鎧までの話。

 

 致命傷には程遠い。

 

 

 

 一進一退の続く攻防に痺れをきたしたのか、騎士が大きく後ろへと飛び退がる。

 

 そして大きく咆哮を上げた。

 

 

 

 

 

『オオオオオオオオオオォォオオオオオオオオオォォッ!!!!』

 

 

 

 全身に力を滾らせた騎士は眼前の戦士へと手に持った大きな斧槍を構えた。

 

 

 

 一瞬で間合いを詰めた騎士が大きく得物を振り回す。

 

 それをリリは紙一重で後ずさり躱した。

 

 遅れて聞こえてくる風切音がその威力を物語る。

 

 

 

 しかしそれは一度で終わりはしなかった。

 

 

 

 どのような膂力で成されたのかそれは再び切り返される。

 

 切り返すと同時に前に出た騎士によって後ろへの逃げ場を失うリリ。

 

 

 

「つっ!!!」

 

 

 

 刹那の見切りをもってその上体を地面すれすれにしゃがみ込むことにより回避する。

 

 

 

 騎士による二連撃を回避したリリは体勢を崩して隙を見せた騎士をその目の前に幻視する。

 

 

 

 しかしその目に映ったのは手に持つ斧槍を更に振り上げた騎士の姿であった。

 

 二度あることは三度ある。

 

 

 

 もはやリリに考える力は残されていなかった。

 

 目の前で振りかざされる暴力に対して本能のみで行動する。。

 

 

 

 リリは踏み込んだ。

 

 

 

 本能であったのだろう。

 

 前に出てきた騎士と、踏み込んだリリ。

 

 二人の距離が詰まる。

 

 それがぶつかる時、 

 

 

 

「うあああああああああ!」

 

 

 

 リリの持っていた小さなバックラーが騎士を下から突き上げる。

 

 それは完全なカウンターとなり騎士の体勢を崩す。

 

 

 

 そして両者の距離がほんの少し開いたその瞬間。

 

 リリの瞳がカッと開く。

 

 

 

 ここしかない。

 

 

 

 バックラーをかち上げるときも引き絞っていたショートソードの切っ先を体勢の崩した騎士の胸に向ける。

 

 それを渾身の力をもって突き入れた。

 

 

 

 それは鎧を貫通し、胸を貫通し、更にその巨体を後ろへと吹っ飛ばした。

 

 

 

 肩で息をする少女の目の前に騎士が仰向けに倒れる。

 

 それは勝者と敗者を明確に示していた。

 

 

 

 それでも注意深く騎士を睨み付けていたリリの目の前で騎士の体の輪郭がぼやける。

 

 輪郭が保てなくなると一気に体が弾け空気へと溶けていく。

 

 

 

 最後に地面へと突き刺さる一振りの剣を残して。

 

 

 

 トコトコと地面に突き刺さる剣へと歩いていくリリ。

 

 そしてその剣を引き抜き空へと掲げる。

 

 それは勝利の実感と湧き上がる感情を爆発させた。

 

 

 

「やりましたーーーーー!げふっ!」

 

 

 

 剣を掲げた姿勢のリリの脳天にゴブリンの放った矢が刺さる。

 

 それは騎士との死闘で減ったリリのLPを削り切ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

  ■  ■  ■

 

 

 

 

 

「ふぁーーーーーっく!」

 

 

 

 ゴロゴロと地面を転がるリリ。

 

 さもありなん。

 

 強敵との激闘を制したにもかかわらず、油断してしまい雑魚の一撃でやられてしまったのである。

 

 悔やんでも悔やみきれないであろう。

 

 

 

「エーックセレント!死んでしまいはしたものの、及第点は与えましょう!なにより、敵を殺すそのが狂気いいですねぇ。」

 

 

 

 そんな声を聴いてリリは正気へとやっと戻った。

 

 のそのそと起き上る。

 

 

 

「……説明、してください!」

 

「良いですとも!それが私の役割でありますので。まず、一つ目ですがここでは死んでも蘇ります。何しろここは何処ででもありどこででもない場所。貴女が諦めない限り、何度でも戻ってこれるでしょう。最初に言わなかったのは、そのほうが面白いでしょう?」

 

 

 

 その言葉にカリムを睨み付けるリリ。

 

 

 

「面白くない?私は面白かったですよぉ?おっと、二つ目ですがネファレムリフトで手に入れたモノは持ち帰れます。貴女がその手に持った剣のようにねぇ。」

 

 

 

 カリムが指をさした先には一振りの剣が無造作に転がっていた。

 

 

 

「その剣の形状には見覚えがあります。幾多の英雄がその手にしてきた中でも最も古く、そしてもっとも尊い劔。名をグランドファーザーと言います。決して折れないその刃はこれから貴女を裏切ることなく支えるでしょう。」

 

「グランド……ファーザー」

 

 

 

 拾い上げたその剣は手に持ったリリにとって明らかに大きい。

 

 大剣といって差し支えないその剣をリリは構えると振り下ろす。

 

 それはカリムの首にピタリと止まった。

 

 

 

「おお怖い!最後に三つ目ですが、ネファレムリフトで得た経験は貴方の魂へと刻まれたことでしょう。どうです?もっともっと強くなりたくなったでしょう?」

 

 

 

 カリムのその顔は隠しきれない愉悦に歪んでいた。

 

 それは自らの役目を果たせることからきているのか、それとも力を求めるものが失くす人間性を見る愉悦からくるのか。

 

 差し伸べられた手は新たに開いた黄色いポータルへと誘われていた。

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そろそろ帰ります。」

 

「は?いえ、ここはポータルに入る流れでは?」

 

「なんでそうなるんですか!リリは別に他の人たちみたいに戦闘狂というわけじゃありません。力が欲しいのだってベル様に置いて行かれそうだから欲しいんであってそれ以上は別に望んでいません。そんなことより暫くベル様に会っていないからベル様成分が枯渇し始めています。早急に補給しないと。」

 

「えぇー。」

 

「というわけで帰ります。」

 

 

 

 踵を返して出口へと進むリリ。

 

 その背中へとカリムが声をかけた。

 

 

 

「きっと後悔しますよ?もっと力があればと。あの時もっとやっておけばよかったと!」

 

 

 

 扉に手をかけたリリが振り返る。

 

 

 

「それなんて俺つえーですか。リリはベル様と一緒に前に進みたいんです。だからこれ以上はもういいです。―――――それに、力を望む人の前に現れるというのなら。」

 

 

 

――――――――また、会えるかもしれませんね?

 

 

 

 

 

 そういうとリリは扉を開けて今度こそ振り返らずに出ていった。

 

 

 

 その後ろ姿を見送ったカリムは思案する。 

 

 

 

「……選考ミス?いやありえません。素質は十分だったはず。で、あれば、またここを訪れるのでしょう。私はその時を心待ちにするとしましょうか。この何処とも知れぬ狭間で。」

 

 

 

 

 

 リリは知らない。

 

 倒したモンスターから得た経験値が魂に蓄積され、魂の位階を上げていたことを。

 

 リリは知らない。

 

 近接戦闘においてリリはすでにベルを超えるレベルに達しているということを。

 

 リリは知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 ――――――――――――――狂気からは、逃げられない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






 それはリリだったのか。



 それともあなただったのか。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。