第133話
アリーナでの一夏の暴走が終わった日の深夜。私と龍也君とはやてさん達はは地下の整備ハンガーにいた……そして目の前のハンガーにはセカンドシフトを終えた紅椿や、白式の分析をするためだ。
「一回り大きくなってるわね」
ぱっと見た感じで判る。一回り巨大化し、更に装甲の数も増している、フルスキンと言われても通用するかもしれない……
「可能性としてはコアネットワークの影響かな?ツバキさん」
ISを知っている私にそう尋ねてくるフェイトさん。その可能性は極めて高い……
(一夏君のISの情報を共用した……それが正しいかな?)
尋ねられてすぐに返事を返せない。私もこんな事は初めて見る……少しは分析しないと結果を出すことも出来ない
「もう少し待って、少し分析するから、龍也君達はデバイスって面で分析してくれる?」
龍也君も言っていたけど、恐らくデバイスとISの両方の特性を得ているのだろう。分析はそれぞれの専門者同士で分析し、そしてその結果を統合する。それが一番正しい分析だろう
「了解した。サポートにはやてを回す。頼んだぞ、はやて」
龍也君達の中で一番ISを理解しているはやてさんが私の隣に座る
「どこから見ていけば良い?フラグメントマップ?」
ISの成長の証を示すフラグメントマップ。確かにそれを見れば判るかもしれない……だけど
「うん。そっちは私が見るわ、はやてさんは出力とかの機体データをお願いするわ」
オッケーと笑うはやてさんを見ながら、私はフラグメントマップに目を通し
(……これは物凄いわね)
今までのフラグメントマップとは全く違う。複雑に入り混じっている……僅かに前のデータが残っている程度でその殆どは全く異なる物に変わっている
(どこまで分析できるかしら)
私もIS設計士として、それなりに活躍しているつもりだが、今のこのフラグメントマップは私の理解を完全に超えていた……もしこの全てを理解できる人物が居るとしたら、それはクラナガンのジェイル・スカリエッテイ博士か、ISを作った束以外は存在しないだろう……
(束の協力を得れたら何か違うのかもしれないわね)
私の理解を超えるIS、もしこの全てを理解できるとしたら束以外にありえないのだが……今もログハウスこもりきりの彼女の力を借りるのは難しいだろう
「龍也君。なんとかして束の力を借りれないかな?」
冗談でそう尋ねると龍也君はふむっと呟き小さく頷きながら
「叩きのめして連れてこようか?」
握り拳を作りながら笑う龍也君。それを見た私はキーボードを叩く手を1度休め
「「やめなさい!」」
私となのはさん達の怒声が重なる。龍也君は肩を竦めて
「冗談だったのに……」
龍也君が言うと冗談に聞こえないと心の中で呟き、ISの分析作業に入るのだった……
セカンドシフトをしたISの分析作業を初めて直ぐ感じたのは
(これはもはやISではない……)
私達がこの世界に来る時に持ち込んだ擬似IS、それに酷似している。これは一体どういうことなんだろうなと思い観察していると
「これは中々凄いね。龍也」
感心したかのようにフェイトが呟く、正直私もそうとしか言い様がない……
(ジェイルが見たら喜ぶだろうなあ……)
完全に異なる技術が1つになっている。あの研究馬鹿が見たら喜ぶだろうなあと思いながら変化したISを調べる
「これ武装が殆どないですね。龍也さん」
菜の葉の言葉に頷く、何度か一夏達のISを調べた事はあるがその時と姿がまるで違う……武装も残っている事は残っているのだが
「それでも少ないな、これは何故なんだろうか?」
武装が強化されるなら判るのだが、何故武装の数が減っているのだろうか?
「出力の問題かな?」
フェイトがぼそりと呟く。出力か……ノートPCをISに繋いで分析をする。確かに出力は上がっているが、それはあくまで搭載できるSE量や機体の基本レベルの強化だ。武装は関係していない……
(ん?これは……)
目まぐるしく情報を更新しているのを見て……
「それについては判った。まだ完全に強化が終わってないのだろう」
デバイスの情報はとんでもなく膨大だ。いくらこの世界では最高と言える処理速度を持っているISでもデバイスの情報を処理しきるのは大変なのだろう
(まぁそうであって欲しいがな)
文明的には私達の方が大分進んでいるのだから早々理解されてしまうのはなんか面白くない……
「まぁそう言うわけだから少しはなれて分析しよ「みぎゃあああ!!髪!私の髪いいいい!!!」手遅れだったか……」
ブルーティアーズが変化してなのはの髪を装甲に巻き込んでいる。フェイトが慌てて引き離そうとしているが
「痛い痛い!フェイトちゃん駄目!髪!髪がああ」
悶絶しているなのは、はぁ……私は溜息を吐きながらコートの中からハサミを取り出して
「後で整えてやるから我慢しろよ?」
ハサミを向けると泣きそうな顔をしているなのはにそう声をかけてから髪を切って引き離す
「ううう……私の髪」
へたり込んで泣いているなのはの頭を撫でて離れる。どうも他のISもまだ変化の途中だ。近くに居るとまた巻き込まれるかもしれない……
「……怖い」
髪を掴んで離れるフェイト。自分の髪がなのはと同じ様に装甲に巻き込まれるのを恐れたのだろう。私もコートを掴んで巻き込まれように警戒しながら離れる
「「「なんかグロイ……」」」
はやてとなのはとフェイトがそう呟く。めきめきと音を立てて変化していくその姿は正直言って気持ち悪さもあるが、恐怖心を煽る
「こんな変化は初めて見たわね」
若干青い顔をしているツバキさん。どうも完全に変形が終わるまでは分析しても無駄だろう
「1回作業は中断しましょうか?」
ツバキさんの提案に頷く。本当なら今夜のうちに調べたかったが、ここまで変化を繰り返しているなら、完全に変化が終わるまで待ったほうがいいだろう。
「じゃあ今日は休みましょうか?皆も疲れてますしね」
正直結界を張り続けていたので身体も重い。ツバキさんの提案に頷き、私達は自分達の部屋に戻ったのだが
「ううう……私の髪……」
ぐすんぐすんと泣いているなのは。髪は女の命……こればっかりは男ではなんとも言えないので
(はやて、フェイト。フォローは頼む)
小声で2人にそう頼のむのだった……任せてと笑うはやてとフェイトがなのはに近づいていくのを見ながら
(ネクロに適応した変化……か)
もしそうだとしたらこの世界では余りに過ぎた力……
(問題にならなければ良いが)
この世界の情勢は余りに厳しい。異常な力を持つ事になってしまった一夏達の身を案じるのだった……
一夏の暴走事件の次の日。私達は地下のハンガーに呼ばれていた。一夏だけは体調が整っていない事もあり、部屋で休んでいる。マドカは心配だからと一夏の部屋で待機している、正直マドカを残すのは不安なので早く用事を終えて戻りたいと思う……ゆっくりとISハンガーへ向かいそこで私達を待っていたのは……
「これが紅椿なのか?」
思わずそう呟いてしまう。目の前の紅椿はあのときよりも更に変化をしている
「……これが僕のラファール?」
「これはどうやって本国に報告すれば良いのでしょうか……」
「まぁこれはこれで良いんじゃないか?かなり強くなっているようだしな」
「そうね。これなら足手纏いにはならないかな?」
本国にどうやって報告しようか?と悩んでいるシャルロットとセシリア。それに対してネクロに対して戦力が増したと喜んでいる鈴とラウラ……だけど、私の紅椿だけは他のISと違う変化をしているように見える……
「ツバキ先生。これはどういうことなのでしょうか?」
セシリア達のISとは違う、紅椿のシルエットのまま一回り大きくなり、装甲も厚くなっているが、色が抜け落ちている紅椿を見ながら尋ねると
「それは全く違う変化をしているからよ。鈴ちゃん達のがデバイスのデータを元に変化しているのに対して、箒ちゃんのは蓄積したデータを元に変化しているから違う変化をしているのよ」
違う変化……力が増えたのは嬉しいが……何とも言えない気がする……
「元々そう言う機能が紅椿に搭載されていたようだ。だからこそ違う変化をしたというところだ」
奥の部屋から龍也さんが姿を見せる。いつも一緒のなのはさん達の姿が見えないのは何でだろう?
「そして鈴達のISは白式が取り込んだデバイスの情報を元に変化している。デバイスに近くなったと言えるな」
龍也さんの言葉にラウラとセシリアが
「じゃあ魔法を使えるようになるのですか?」
「もしそうなら興味深い」
2人がそう尋ねると龍也さんは頭をかきながら
「魔法が使えるわけじゃ無い、何といえば良いのだろうか?ISに僅かながら魔法の力が宿ってくれたと思えば良い」
一夏とか見たいに魔法が使えるわけじゃ無いのか……そう思うと少し残念だ
「それでなんであたし達を呼んだの?これを見せるため?「勿論それだけじゃ無い」
鈴の言葉に笑顔を浮かべながら、龍也は振り返り
「名前をつけるんだ。自分のISに」
名前?それなら紅椿と言う名があるが……私達が首を傾げていると
「ああ、説明が足りなかったな。今までの紅椿やラファールとは違う……魔法的な話で悪いんだが、存在が変わった、名を与える事で姿が固定化されるんだ」
オカルト的話のようで良く判らないが、名前をつければ良いと……そんなの簡単だと思って見ていると言葉が出ない
「はは、そう簡単には出来ないぞ?新しい存在が生まれる一種の儀式のような物だしな」
儀式……そう言われると背筋が伸びて緊張してくる
「そう力を入れる必要はないんだ、良く耳を澄ませば良い。そうすれば向こうから教えてくれる」
向こうから……それはISからと言う事か
「椅子を用意してある。ISとゆっくり対峙してみると良い」
龍也が用意してくれたパイプ椅子に腰掛ける。なんと表現すれば良いのか判らないが、ISが私を観察しているようなそんな不思議な感じがする。私は大きく深呼吸をして色の抜け落ちた紅椿を見つめるのだった……
「何をしたの?」
パイプ椅子に座ると何の反応も示さなくなった。箒達を見て心配そうに尋ねるツバキに龍也は
「精神的な事ですよ。ISが箒達を知ろうとして、箒達もISを知ろうとしている。それガ終わればセカンドシフトは終わるでしょう」
これは本当に一種の儀式だ。ISでもなく、デバイスでもない存在。それは全く異なる存在と言っても良いだろう……故に名を求めている。そしてそれは適当な名前なのではなく、唯一の物である存在を示す特別な名前だ。そうそうつけれるものではない
「結構時間が掛かるのね?」
「そう言うわけですね。あんまり邪魔しないで上げてくださいね」
私はそう声をかけ地下整備室を後にしようとしたのだった……
箒達が地下の整備室でISと向き合っている頃……
簪達は街に来ていた。気分転換も兼ねているのだが
「なんか出遅れた気がするんだよね」
「ああ。私もそう思う」
一緒に街に来ていたシェンやヴィクトリア達の顔色は浮かない、一夏のISが暴走した時セカンドシフトをした、箒達のISを見て若干出遅れたように感じているのだ
「確かにね。これから戦いは激しくなるかもしれない、力が欲しいと思うのは当然のこと」
「アイスを食べながら言っても違和感しかないぞ?クリス」
アイスバーを齧っているクリスに弥生が苦笑しながら注意していると
「変な気配……」
列の後ろの方を歩いていた簪が顔を歪めてそう呟く……エリスも
「おかしいですね。人の気配がしない……」
さっきまで聞こえてた車の音や人の話し声が途絶えた事に気づく
「そういえば妙な寒気が……」
「……確かに」
妙な気配を感じクリス達が立ち止まった瞬間。闇が弾け
「へー……いい勘してるわね?褒めて上げるわよ」
着物姿に札を構えたイナリとそして
「まぁ気付いた所で何も変わらない。そのIS頂くよ」
Σのマークを手の甲に持つ女性のネクロが同時に現れた
「……龍也さんに連絡をする。合流してくれるまでの時間を稼ぐ……皆協力して」
素早く後ずさりISを展開する簪に続きシェン達もISを展開する。そして簪達は意図しない形でネクロ達との実践が始まった……それはネクロの侵攻が近い証拠でもあった……
素早く陣形を組んで戦う準備を整えているのを見る3つの視線。はやて達だ……なのはの髪がボロボロになってしまったので気分転換に街に出かけてきていたのだ。はやて達はビルの上から簪達を見ながら
「さてさてどうしよか?」
助けに行くのは当然だ。だがはやて達は少し悩んでいた……
「実戦だね。危ないところまで様子を見ているのが良いかな」
いずれはネクロとの戦いになる。ならばLV3・4の下位レベル……敵とは充分脅威だが、数としては簪達の方が多いしっかりコンビネーションを組むという事を考えれば充分戦えるレベルといえる
「1度様子を見てみようか?龍也さんには怒られるかもしれないけど……」
龍也がここに居れば怒られる事は判っている。だが常に後ろで龍也やなのはが控えていると判っている状態での実戦に慣れられても困る。だからこそなのはたちは様子を見ることにした。それは褒められた事ではない、だがあえて突き放すことも必要な事だ……なのは達は直ぐに飛び出せる準備を整えてから、簪達の戦いに視線を向けるのだった。簪とクリスを後衛において、素早く陣形を組みなおし、イナリとラクシュミの攻撃を防いでいる姿があったのだった……
第134話に続く
次回は簪達だけでネクロとの戦いのシーンを書いていこうと思います。判っているとは思いますが、簪達のISのセカンドシフトのフラグですので、どうなるか楽しみにしていてください。あとは箒の話を少し入れようと思います。それでは次回の更新もどうかよろしくお願いします