「日本シリーズも終わり、世界野球プレミアも終わってしまった……」
姫川友紀は事務所ソファで項垂れていた。
「これからあたしは、何を観ながらビールを飲めばいいのよぉ」
キャッツゥゥ、と叫びながら天を仰ぐ。毎年のことである。
「今こそ! ラグビー観戦の時ですよ、友紀さん!」
「茜ちゃん」
日野茜がソファの裏から飛び出してきた。片手には楕円形のラグビーボールが握られている。
「日本全国が注目しているスポーツです! 一緒に観戦に行きましょう!」
「うーん……ラグビーかぁ、スポーツニュースでちょろっと見たことあるんだけどね」
野球以外のスポーツには疎い友紀であった。
「こんな大きいボールじゃ、ホームランは難しいんじゃない?」
「バットの持ち込みは厳禁です!!」
「そもそもミットに収まらないよね。それなら振り逃げを狙って、足でかく乱する作戦なんていい考えだと思うわ!」
「ミットの持ち込みも厳禁です!! 一旦、野球から離れましょう! 友紀さん!」
ラグビーのルールを簡単に説明する茜。
「……なるほど、つまりボールを奪い合って敵陣にガーッ! と攻めるわけね」
「大体そんな感じです! あとはキックによる得点も熱いですね!」
「あ、そうそうキッカーってやつね、ニュースで見たわ。なんとか丸ってのがすごいらしいじゃん」
「六郎丸選手ですね!! ワールドカップでの躍進も、彼無しでは語れないほどの活躍でした! ボンバー―っ!!」
一人興奮する茜。
「たしかに、あの見事な放物線はホームランを彷彿とさせるわね」
腕を組み、うんうんと一人頷く友紀。
「というか、ラグビー選手って、みんな体格いいんだよねー」
「そうですね! ぶつかり合うことが前提となってくるので、常人離れした筋力ですよ!!」
「ふーん、あんなに筋肉つけて、よくあんだけ早く走れるよね」
「バランスよく鍛えてますからね! 走・攻・守、どれも劣らないのがラグビー選手なんです!!」
「走・攻・守……?」
顔を伏せ、何やら真剣に考えだす友紀。それを首を傾げながら見守る茜。
「……つまり、打って走れて守れるってこと……」
友紀はブツブツと独り言ちる。
「友紀さん? どうしました!?」
「茜ちゃん!」
勢いよく顔を上げ、茜音の肩に両手を置く。友紀の両目は希望に溢れるような光に満ち満ちている。
「いいね、ラグビー! 早速、観戦に行こう!」
「おお! 興味を持たれたのですね!! 行きましょう! 球場までダッシュで!!」
「え……いや、そこは普通に電車で……」
「球場は待ってくれても、試合は待ってくれません!!」
茜は友紀の腕を掴むと、勢いよく事務所のドアを開け放つ。
(なんだか大変なことになっちゃったかな……? いや、これは好機よ。ピンチをチャンスに!)
茜に引っ張られながらも、不敵な笑みを浮かべる友紀。
(走・攻・守が揃った、つまり走塁良し・打って良し・守って良しということ……。そんな選手をキャッツにスカウトすれば、敵なしじゃない!)
友紀の頭の中では『キャッツ無敵計画』が練り込まれていた。まずはラグビー選手をキャッツの助っ人に来てもらおうということだ。
「ラグビー観戦、楽しみですね! ボンバーーーー!!」
そんな思惑を微塵も感じ取っていない茜の大声が、346プロダクションに響き渡った。