「さて、自己紹介といこうかの。私は四桁の門、3345外門に本拠を構えている〝サウザンドアイズ〟幹部の白夜叉だ。この極夜はもう皆も知っているように私の妹だ、是非とも仲良くしてやっておくれ。さらにそこの黒ウサギとは少々縁があり、コミュニティが崩壊してからもちょくちょく手を貸してやっている器の大きな美少女と認識しておくれ」
「はいはい、お世話になっております本当に」
黒ウサギは投げやりに受け流す。
極夜姫は白夜叉を背後から抱きしめて、白夜叉の左肩に頭を(正確には顎を)のせながら嬉々とした表情で言う。
「白夜姉様が器の広い美少女なのは当然です!姉様はとても優しい方なのですから♪」
「ふふ、嬉しいことを言ってくれるの極夜。どれ、頭を撫でてやろう」
白夜叉は極夜姫の頭を撫でると彼女は嬉しそうに目を細めて頬を赤らめる。
そのイチャつきっぷりに黒ウサギは咳払い。その隣で小首を傾げていた耀が問う。
「その外門、って何?」
「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」
「私のように四桁の外門ともなれば、名のある修羅神仏が割拠する完全な人外魔境となるぞ」
黒ウサギの説明に付け加える白夜叉。
黒ウサギが描く上空から見た箱庭の図を見た十六夜達三人は口を揃えて、
「………超巨大タマネギ?」
「いえ、超巨大バームクーヘンではないかしら?」
「そうだな。どちらかといえばバームクーヘンだ」
頷き合う三人。身も蓋もないない感想にガクリと肩を落とす黒ウサギ。
極夜姫が頷いて便乗した。
「そうですね。バームクーヘンに見えなくもないです」
「極夜姫様まで何を!?」
まさかの極夜姫まで問題児達に便乗するとは思わなかったのか、驚く黒ウサギ。
白夜叉も呵々と
「ふふ、上手いこと例える。その例えなら今いる七桁の外門はバームクーヘンの一番薄い皮の部分に当たるな。さらに説明するなら、東西南北の四つの区切りの東側にあたり、外門のすぐ外は〝世界の果て〟と向かい合う場所になる。彼処にはコミュニティに所属していないものの、強力なギフトを持った者達が
白夜叉は黒ウサギの持つ水樹の苗に目を向け薄く笑った。
「して、一体誰が、どのようなゲームで勝ったのだ?知恵比べか?勇気を試したのか?」
「いえいえ。これは十六夜さんが蛇神様を素手で叩きのめしたからですよ」
自慢げに語る黒ウサギに、白夜叉は声を上げて驚いた。
「なんと!?クリアではなく倒したとな!?ではその
「いえ、黒ウサギは違うと思います。それに神格なら一目見れば判断がつきますし」
「む、それもそうか。しかし神格を倒すには同じ神格を持つか、互いの種族に余程崩れたパワーバランスがある時だけのはず。種族の力でいうなら蛇と人ではドングリの背比べだぞ」
神格とは生来の神様そのものではなく、種の最高のランクに体を変幻させるギフトを指す。
蛇に神格を与えれば巨躯の蛇神に。
人に神格を与えれば
鬼に神格を与えれば天地を揺るがす鬼神と化す。
さらに神格を持つことで他のギフトも強化される。
コミュニティの多くはそれぞれの目的のため神格を得ることを目標とし、上層を目指して力をつけているのだ。
「白夜叉様はあの蛇神様のお知り合いだったのですか?」
「知り合いも何も、アレに神格を与えたのはこの私だぞ。もう何百年も前のはなしだがの」
小さな胸を張り、呵々と豪快に笑う白夜叉。
それに十六夜が物騒に瞳を光らせて問いただす。
「へえ?じゃあオマエはあのヘビより強いのか?」
「ふふん、当然だ。私は東側の〝
〝最強の主催者〟と聞いて、十六夜・飛鳥・耀の三人は一斉に瞳を輝かせた。
「そう………ふふ。ではつまり、貴女のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」
「無論、そうなるのう」
「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」
剥き出しの闘争心を視線に込めて白夜叉を見る三人。
白夜叉はそれに気づいたように高らかと笑い声を上げた。
「抜け目ない童達だ。この私にギフトゲームで挑むと?」
「え?ちょ、ちょっとお三人様!?」
慌てる黒ウサギ。すると極夜姫がゆらりと立ち上がる。
「ふふ、あなた方が白夜姉様に挑むんですか?挑むんですか?冗談ですよね?ちょっとしたジョークですよね?」
「いいや、本気だよ姫ロリ」
十六夜は軽薄な笑みで答える。
極夜姫は一瞬キョトンとした表情で固まるが、物騒な笑みを浮かべた。
「え?まさか本気で挑むんですか?冗談ではなくですか?………ふふ、あなた方は馬鹿ですね。白夜姉様に勝てるとでもお思いですか?いいえ、ありえませんね。万に一つもありえませんね」
「な、なんですって!?」
極夜姫に馬鹿と言われてカッとなる飛鳥。
極夜姫は全く気にせず続けた。
「白夜姉様は修羅神仏が
「………ッ、テメェ!」
〝弱者〟と言われて流石の十六夜もキレて極夜姫の胸倉を掴み引き上げる。
しかし極夜姫はまるで動じず、逆に十六夜を挑発した。
「ふふ、なんですか?十六夜さんは私に喧嘩を売るつもりですか?いいですよ、私と決闘したいのなら受けてあげても構いませんよ?そもそも最初から白夜姉様と戦わせるつもりはありませんし、戦いたいと仰るなら―――」
極夜姫は凄まじい殺気と禍々しいオーラを放って、胸倉を掴む十六夜の腕を掴み告げた。
「私を倒してからにしてくださいね?」
「―――グッ!?」
十六夜は極夜姫に腕を潰されかねない力で強く、強く握りしめられる。
苦痛に顔を歪ませながら不可解だと内心で呟いた。
(なんだコイツ!?その細腕でどっからこんな馬鹿力を発揮してやがる………!?)
そして極夜姫も表情には出さないものの、驚いていた。
(何でしょうか十六夜さんのこの力は………。流石は白夜姉様が眷属に持ったとされる蛇神さんを打ち負かしただけはあります。ガルドさんとは比じゃない力を持ってますね。それに、なんだか少し苦しいです………っ、)
十六夜と極夜姫のいざこざを見ていた白夜叉と黒ウサギは止めに入る。
「やめんか戯け妹がッ!!!」
「いい加減にしてくださいお馬鹿様ッ!!!」
バシィイイイン!!と、白夜叉は懐から扇を取り出し遠慮無用に極夜姫の頭を引っ
スパァアアアン!!と、黒ウサギはどこからか取り出したハリセンで十六夜の頭を引っ叩く。
「痛っ!?」
「……………」
極夜姫は余りにも強烈な一撃に頭を抱えた。―――涙目で。
十六夜は痛がる様子もなく、極夜姫を解放した。
極夜姫が着地するや否やで白夜叉に勢いよく振り返って睨んだ。
「痛いです白夜姉様!叩くとは酷いじゃないですか!」
「ふん、無礼極まりない極夜が悪い!私はそんな風におんしを育てた覚えはないし、そんな不躾な戯けは―――――私の妹ではないわッ!!」
「―――ッ!!?そ………そんな………っ、」
極夜姫は余りのショックさにフラッとよろめき、そのまま気を失って倒れ落ちた。
極夜姫にとって〝嫌い〟と言われるよりも妹であることを否定される方が堪えるのである。
黒ウサギ達が驚いて駆け寄ろうとしたが、白夜叉は右手で制した。
「よい。こうでも言わないと極夜は止まらんのだ。私の事になると性格が180度変わってしまうからの」
「そ、そうですか………」
白夜叉はショックの余り気絶している極夜姫の頭を優しく撫でる。
「遥か昔の話だが、私に喧嘩を売った神々は皆、極夜の逆鱗に触れて殺されかけていた事があったのう」
「こ、殺され………っ!?」
「だから極夜の前で私に挑むとか侮辱するのはやめておけ。………殺されたくなければ、の」
「……………っ、」
白夜叉の物騒な話を聞いて黒ウサギ達は息を呑んだ。
つまり、白夜叉に対して負の感情を向けたものは極夜姫に―――皆殺しにされるかもしれないということだった。
十六夜達は今後は極夜姫の前で白夜叉を悪く言うのはやめよう、と胸に誓った。
「―――ああ、そうだ。極夜が気絶している今だからこそ聞いておこうかの」
「………なんだ?」
十六夜が軽薄な笑みで返すと、白夜叉は壮絶な笑みと共にギフトカードを取り出して告げたのだった。
「おんしらが望むのは〝挑戦か―――――もしくは、〝決闘〟か?」