「……なっ………!?」
余りの異常さに、十六夜・飛鳥・耀は同時に息を呑んだ。まあ、そうなるのは無理もない。
彼らは先程まで白夜叉の私室にいたのだが、今は景色がガラリと変わっているからだ。
黄金色の穂波が揺れる草原。白い地平線を覗く丘。森林の湖畔。
それらが彼らの脳裏に掠め、投げ出されていたのは、白い雪原と凍る湖畔―――そして、水平に太陽が廻る世界だった。
遠く薄明の空にある星はただ一つ。緩やかに世界を水平に廻る白い太陽のみ。
まるで星を一つ、世界を一つ創り出したかのような奇跡の顕現を目の当たりにし、唖然と立ち竦む三人。
その表情に白夜叉は満足げな笑みを浮かべて今一度、問いかける。
「今一度名乗り直し、問おうかの。私は〝白き夜の魔王〟―――太陽と白夜の星霊・白夜叉。おんしらが望むのは、試練への〝挑戦〟か?それとも対等な〝決闘〟か?」
少女の笑みとは思えぬ白夜叉の凄みに、再度息を呑む三人。
〝星霊〟とは、惑星級以上の星に存在する主精霊を指す。妖精や鬼・悪魔などの概念の最上級種であり、同時にギフトを〝与える側〟の存在でもある。
十六夜は背中に心地いい冷や汗を感じ取りながら、白夜叉を睨んで笑う。
「姫ロリが言ってた白夜ってのは………フィンランドやノルウェーといった特定の経緯に位置する北欧諸国などで見られる、〝太陽が沈まない〟現象のこと………だったな」
「如何にも。因みに気づいていると思うが極夜も太陽の星霊だ。太陽の光が当たる限界緯度を越えた南極圏や北極圏で見られる、〝太陽が昇らない〟現象のことを言う」
ふふん、と自慢げに笑う白夜叉。
十六夜はへえ、と白い雪原に仰向けで横たわる気絶中の極夜姫を見つめた。
(そしてもう一つの夜叉は、水と大地の神霊を指し示すと同時に、悪神としての側面を持つ鬼神で………たしか仏門の
十六夜は何かが引っ掛かり呟きを止める。
暫く無言で考え込むと、ある疑問が浮上した。
(………そういや姫ロリは白夜とは呼んでいるものの、白夜叉とは一切呼んでないな。まさか、夜叉は別なのか?)
さらに深読みしようとしたが、すぐ隣で大声を上げた飛鳥に遮られた。
「これだけ莫大な土地が、ただのゲーム盤………!?」
「如何にも。して、おんしらの返答は?〝挑戦〟であるならば、手慰み程度に遊んでやる。―――だがしかし〝決闘〟を望むなら話は別。魔王として、命と誇りの限り闘おうではないか」
「……………っ」
飛鳥と耀が返事を躊躇っていると、十六夜が問う。
「なあ、アンタ。もし〝決闘〟を選んだら姫ロリじゃなくてオマエと戦えるのか?」
「無論だ。そのために極夜を気絶させたのだからな。なんだおんし、この私と〝決闘〟がしたいのか?」
ニヤリと笑う白夜叉。
だが十六夜は首を横に振った。
「いいや、今回は黙って試されてやるよ、魔王様」
「む、そうか。ちと残念だの。………して、他の童達も同じか?」
「………ええ。私も、試されて上げてもいいわ」
「右に同じ」
苦虫を噛み潰したような表情で返事をする二人。
黒ウサギは決闘を誰も選ばなくてホッと胸を撫で下ろす。
「も、もう!お互いにもう少し相手を選んでください!〝階層支配者〟に喧嘩を売る新人と、新人に売られた喧嘩を買う〝階層支配者〟なんて、冗談にしても寒すぎます!それに白夜叉様が魔王だったのは、もう何千年も前の話じゃないですか!!」
「は?じゃあ元・魔王様ってことか?」
「うむ。………だが、極夜は今でも魔王のままだろうな。私の妹は誰かの下につくことを頑なに拒んだからの」
黒ウサギ達はえ?と疑問に思い、問いかけようとした―――その時。
彼方にある山脈から甲高い叫び声が聞こえ、その獣とも、野鳥とも思えるその叫び声にハッと反応したのは耀だった。
「何、今の鳴き声。初めて聞いた」
「ふむ………あやつか。おんしを試すには丁度よいかもしれんの」
白夜叉は手招きすると、体長5メートルはあろうかという巨大な獣が翼を広げて空を滑空し、風の如く三人の元に現れた。
鷲の翼と獅子の下半身を持つ獣を見て、耀は驚愕と歓喜の籠った声を上げた。
「グリフォン………嘘、本物!?」
「フフン、如何にも。あやつこそ鳥の王にして獣の王。〝力〟〝知恵〟〝勇気〟の全てを備えた、ギフトゲームを代表する獣だ」
白夜叉がさらに手招きすると、グリフォンは彼女の元に降り立ち、深く頭を下げて礼を示した。
「さて、肝心の試練だがの。おんしとこのグリフォンで〝力〟〝知恵〟〝勇気〟の何れかを比べ合い、背に
『ギフトゲーム名〝鷲獅子の手綱〟
・プレイヤー一覧
春日部 耀
・クリア条件
グリフォンの背に跨がり、湖畔を舞う。
・クリア方法
〝力〟〝知恵〟〝勇気〟の何れかでグリフォンに認められる。
・敗北条件
降参か、プレイヤーが上記の勝利条件を満たせなくなった場合。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開催します。
〝サウザンドアイズ〟印』
「………あれ?なんで私だけ?」
「そ、そうよ!私と十六夜君の名前がないわよ」
「ふふ、グリフォンに一番興味を示したのは
飛鳥が文句を言うと、白夜叉は右手で制して
十六夜だけはへえ、と一人だけ瞳を光らせていた。
そして耀はグリフォンの試練を受け、無事クリアした。
★★★★★★★★★★
その後、耀の首にかかっていたペンダントの話で一人盛り上がった白夜叉は、
「―――さて、そろそろ起きんか極夜。おんしが、私の可愛い妹が目覚めてくれないと寂しいぞ?」
極夜姫の耳元で甘く
その程度で起きるはずがないと思った黒ウサギ達。
だが次の瞬間。極夜姫はパチッと開眼し、白夜叉の背中に腕を回して抱きしめた。
「ふふふ、白夜姉様がお望みでしたら♪」
「「「え?起きた!?」」」
「………ヤハハ」
―――流石はシスコンである。
白夜叉に頬を赤らめながら頬擦りする極夜姫。
その様子に飛鳥はムッとした表情で文句を言った。
「ちょっと極夜さん!友達なのに春日部さんの活躍を見ないなんて最低よ!」
「………え?ちゃんと見てましたよ?」
「え?貴女、なに冗談を」
「冗談ではありませんよ?耀さんの活躍は白夜姉様の
へ?と飛鳥が間の抜けた声を発すると、十六夜がスッと目を細めて笑う。
「へえ?もしかして姫ロリは白夜叉と―――
「はい。私は白夜姉様と感覚が繋がっていて、視覚・
「………マジか」
苦笑いを浮かべる十六夜。予想はしていたが、まさか本当に五感全て繋がっているとは思いもしなかったのだろう。
白夜叉はやれやれだの、と呟くと―――ふと視線を感じて極夜姫から黒ウサギ達を見回す。
「………ん?何かの?おんしら」
「極夜さんは白夜叉と感覚がリンクしているということは、」
「白夜叉を弄れば極夜も同時に弄れるってことかな?」
「なにそれ、一石二鳥ってやつじゃねえか」
「白夜叉様を叩けば極夜姫様を巻き添えにしてしまうのですね………」
ひそひそ話をしながら白夜叉をニヤリと笑って見つめる問題児達。
黒ウサギだけは今後、白夜叉が駄神行為に走った時にどう対処すればいいか迷っていた。
白夜叉は冷や汗を流していると、極夜姫が十六夜達に振り返って睨みつけた。
「何ですか皆さん方?白夜姉様に手を出したら―――ころムグッ!?」
「これ極夜。そんな物騒な言葉は言わせんしやらせんからな?」
「んーーーッ!?ん―――――ッ!!?」
「こ、これ暴れるでない。全く、仕方がない妹だの」
暴れる極夜姫の頭を優しく撫でる白夜叉。
すると極夜姫は嘘のように大人しくなった。頭を優しく撫でられた事と、背後から口を塞がれるというちょっと危なげなシチュエーションをお気に召したからだろう。
白夜叉はふう、と息を吐いて極夜姫を解放すると十六夜と飛鳥を見回した。
「さて、話がだいぶ脱線してしまったが………次はおんしらの試練だったのう」
「ああ。それで、俺とお嬢様の試練はなんだ?」
十六夜が聞き返すと、白夜叉はうむ、と頷いて極夜姫の肩を持つと笑って告げたのだった。
「おんしらは私の妹、極夜と軽い〝決闘〟をしてもらう」
「「……………は?」」