白夜叉と共に極夜姫は彼女の私室へ戻っていた。
白夜叉は極夜姫と向かい合わせに座ると、白夜叉は障子の方に目を向けて声をかけた。
「さて、入ってよいぞ」
「………失礼します」
障子が開くと中に入ってきたのは、例の割烹着姿の女性店員だった。
極夜姫は何故彼女がこの部屋に招かれているのか不思議に思って小首を傾げる。
白夜叉は自分の隣に来るように指示すると、女性店員は障子を閉めておずおずとそこへ行き正座をした。
そして白夜叉はうむ、と頷くと女性店員は極夜姫に向き直って頭を下げた。
「先程はとんだご無礼を働いてしまい申し訳ありませんでした―――!」
「はい?」
「オーナーの妹様とは気づけず、失礼極まりない態度かつお子様扱いをしてしまい………本当に申し訳ありませんでした!!」
室内に女性店員の謝罪の言葉が響き渡る。白夜叉は満足げな表情を見せていた。
極夜姫はあの時の事を謝っているのだと気づき、女性店員に言う。
「顔を上げてください店員さん。貴女は何も悪くありませんよ。名乗らなかった私にも非がありますしそれに―――」
スッと目を細めて優しく告げた。
「貴女はただ仕事をまっとうしただけなのですから、謝る必要なんてないんですよ」
「………ッ!!し、しかし」
「しかしも何もありません。私はあの時の事を責めるつもりはないのですから、気にしないでください」
極夜姫は女性店員に歩み寄ると、そっと抱きしめて頭を優しく撫でた。
「私の事になると白夜姉様は容赦ないのですが、今後は何を言われても無視してくださいね。姉様の意地悪に付き合っていては貴女の身が持ちませんから」
「は、はい!ご厚意感謝致します………!」
「ふふ。そんなに畏まらなくていいのですが………。私のことは気楽に〝極夜〟とお呼びください店員さん」
「は、はい。では極夜様、私はこれで失礼致します」
「そうですか。分かりました。おやすみなさい店員さん」
「はい。おやすみなさいませ極夜様」
一礼した女性店員は、白夜叉にも一礼して障子を開けて部屋から出ると障子を閉めた。
極夜姫は様付けもいらないのですけどね、と苦笑する。
視線を白夜叉に戻すと、白夜叉の表情がムスッとしていた。
「………白夜姉様?」
「ふん、なんだ駄妹」
「はい?駄妹なんですか私!?」
「ああ。私がおんしの事を想って部下に頭を下げさせたというのに、許して台無しにするとはな。これはもう駄妹に罰を与えねばならんのう!」
「ば、罰………ですか?」
極夜姫は嫌な予感がして白夜叉に聞き返すと、白夜叉はニヤリと笑って告げた。
「うむ。そうだのう………一緒に寝てやろうと思ったが、私のプランを台無しにした駄妹だ。一緒になど寝てやらんわい」
「え?そ、そんなぁ………あんまりです白夜姉様!!」
「ふん。泣けば許してもらえるなどと思うでないぞ?今日の私は頑固なのだからな!」
「……………っ、」
極夜姫は涙を流しながらその場で蹲った。
数千年ぶりの添い寝が出来ると思っていたが、それを拒否されたのだ。さぞショックだったのだろう。
白夜叉はフフン、と笑って極夜姫に命令する。
「さて、極夜よ。約束通りメイド服を」
「嫌です」
「………なぬ?」
「白夜姉様が私と一緒に寝てくれないのでしたらメイド服は着ませんし姉様の専属メイドになる気もありません。断固拒否です!」
顔を上げたかと思ったら、プイッと白夜叉から顔を背ける極夜姫。
これには白夜叉も黙ってはいられなかった。
「ほほう、極夜。この私に逆らうとはいい度胸だの」
「白夜姉様こそ、可愛い妹のお願いも聞けないんですか?」
「呵ッ!自分で可愛いとか言うなぶりっ子小娘がッ!!」
「そういう姉様もご自分を〝美少女〟とか言って恥ずかしくないんですか?」
キッと睨み合う白夜叉と極夜姫。張り詰めた空気。
そして白夜叉はカードを取り出すと、凶悪な笑みを浮かべて告げた。
「ふん。こうなれば〝決闘〟だ!勝った方が相手を好きに出来る。それでよいな?」
「そうですね。その〝決闘〟―――受けて立ちます!」
★★★★★★★★★★
『ギフトゲーム名〝白夜と極夜の決闘〟
プレイヤー一覧
星霊・白夜叉
星霊・極夜姫
・勝利条件
どちらかが相手を気絶させること。
・敗北条件
降参か、気絶させられた場合。
・褒美
勝者は敗者を24時間自由に出来る。
引き分けは共に褒美なし。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗とホストマスターの名の下、ギフトゲームを開始します。
〝サウザンドアイズ〟印』
白夜叉と極夜姫は、白夜叉のゲーム盤―――白い雪原と凍る湖畔、薄明に照らす白い太陽の世界へと来ていた。
互いに〝契約書類〟に目を通して笑みを浮かべる極夜姫と白夜叉。
「………白夜姉様を好きに―――ふふ、これは絶対に負けられません!」
「ふん。これを機に二度と逆らえぬよう叩きのめしてやるわ!」
「……………」
「……………」
プッと両者は噴き出して笑い合った。
「くくく、極夜よ。姉妹喧嘩
「ふふふ、はい白夜姉様。〝決闘〟を行うに当たっての
笑みを交わし合う二人。極夜姫はふと思い出したように呟く。
「………そういえば私と白夜姉様って本気で喧嘩したことありませんでしたね」
「いや、それは極夜が私の言うことを嫌がらずに何でもしてくれたからなのだがの」
「そうでしたっけ?」
「そうだとも。おんしが私に逆らわん限り本気でぶつかり合うことはないだろうな」
まあ、それが極夜の長所だから問題ないがの。と一人頷く白夜叉。
「まあ、それはともかく。決闘を始めるとするかの」
「はい、お手柔らかにお願いします」
「ふふ、だが断る!」
「………そうですか。では白夜姉様がその気なら私も全力でいかせてもらいます!」
極夜姫は笑みを浮かべると、霞の如く掻き消え―――瞬きを許さぬ速さで白夜叉の眼前に姿を現し、第三宇宙速度より遥かに速い速度で殴りかかる。
「なんの!」
白夜叉は極夜姫の襲撃を冷静に見すえて、彼女の拳を弾く。そのすぐ後に白夜叉は極夜姫に殴りかかる。
極夜姫は白夜叉の拳を弾いて殴り返す。白夜叉はそれを弾き殴り返す。
弾いては殴り、弾いては蹴りをと千、万、億、兆回繰り返し―――最後に拳と拳がぶつかり合い両者はそれを機に飛び退いた。
「はあっ!!」
白夜叉は気合いと共に両手を広げて無数の極小サイズの白い太陽を生み出す。
「やあっ!!」
同じタイミングに極夜姫は両手を広げて同質同量の、だが色は黒い太陽を生み出す。
そして両者は同時に白い太陽を、黒い太陽を相手に飛ばしそれらをぶつけ合う。
爆撃音と共に互いの視界を遮る無数の爆炎。暫くすると爆炎が収まり、白夜叉は白銀の槍を手に、極夜姫は黒鉄の鎌を手にし飛び出す。
「ふっ!!」
白夜叉は白銀の槍を突き出し光の如き速さで突貫する。
「たあっ!!」
極夜姫は黒鉄の鎌を振り
槍と鎌はぶつかることなく白夜叉の槍は極夜姫の左脇腹を抉り、極夜姫の鎌は白夜叉の右肩を激しく切り裂く。
極夜姫は
「ぐっ………このっ!」
白夜叉は振り向き様に極夜姫の右肩を槍で深々と貫いた。
「うっ、………ッ!」
極夜姫は槍に手をかけて引き抜くと飛び退いて片膝をついた。
白夜叉も立っているが決して軽傷というわけではない。
極夜姫は脇腹を押さえながらゆっくりと立ち上がり鎌を構える。
すると白夜叉は槍をギフトカードに仕舞って空を舞った。
「………うむ。互いに痛いのはもう嫌だろう?次の一撃で決着をつけるぞ極夜」
「………そう、ですね。そうしていただけると………助かります」
極夜姫も鎌を消して空を舞う。そして二人は見つめ合い―――同時に両手を掲げた。
白夜叉の頭上には極大な白い太陽が生成される。
極夜姫の頭上にも極大な黒い太陽が生成された。
二人は自ら生み出した白い太陽を、黒い太陽をそれぞれ片手に持ち替えて飛び出す。
「はぁあああああ!!!」
「やぁあああああ!!!」
怒号と共にそれぞれが生み出した極大な太陽をぶつけ合う。
白と黒の太陽は暫く激しく燃え上がりながら
そして次の瞬間―――二つの太陽がぶつかり合っていた場所で大爆発を引き起こし、白夜叉と極夜姫もろとも呑み込んだ。
その大爆発はあわや白夜叉のゲーム盤を吹き飛ばしかねない威力を誇った。
―――………大爆発により巻き起こった極大な爆炎が収まると、美しかった風景は見るも無惨な焦土と化していた。
その焦土には血まみれの少女が二人、倒れていた。血まみれといっても先程の大爆発による怪我ではなく、槍と鎌でつけられていた傷が開いたからである。
傷が開いたのは恐らく全力を出し切った反動によるものだろう。
白夜叉も極夜姫も身動き一つ見せない。よって、このギフトゲーム〝白夜と極夜の決闘〟は引き分けに終わったのだった。