「実に簡単だ。アンタは〝ノーネーム〟が魔王を相手に戦えるのかが不安なら、その身でその力で試せばいいだろ?―――どうだい、元・魔王様?」
スッと立ち上がる十六夜。レティシアは一瞬
「ふふ………なるほど。それは思いつかなんだ。実に単純で分かりやすい。下手な策など立てずに最初からそうすればよかったなあ」
「ちょ、ちょっとお二人様?」
「ゲームのルールはどうする?」
「どうせ力試しだ。手間暇かける必要はない。双方が共に一撃ずつ撃ち合い、そして受け合う」
「地に足をつけて立っていた者の勝ち。いいね、シンプルイズベストって奴?」
十六夜とレティシアは笑みを交わし窓から中庭へ同時に飛び出した。
窓から十間ほど離れた中庭で向かい合う二人は、天と地に位置している。
「へえ?箱庭の吸血鬼は翼があるんだな」
「ああ。翼で飛んでいるわけではないが………制空権を支配されて不満か?」
「別に。ルールにそんなのなかったし俺は気にしねえよ」
「………ほう」
レティシアは十六夜の態度に感心する。
(なるほど。気構えは十分。あとは―――実力がどの程度のものかだな………!)
レティシアは微笑し懐から金と紅と黒のコントラストで彩られたギフトカードを取り出す。
それを見た黒ウサギは蒼白になって叫ぶ。
「レ、レティシア様!?そのギフトカードは」
「下がれ黒ウサギ。力試しとはいえ、コレが決闘である事に変わりない」
「そうですよ黒ウサギさん。気になることがあるようですが、後回しにしてください」
「う、はい………分かりました」
黒ウサギが動こうとしたのを黒衣が止める。
一方、レティシアはギフトカードから長柄の武具を手に取り、
「互いにランスを一打
「好きにしな」
投擲用に作られたランスを掲げたレティシアは、全身を使った全霊の一撃を放った。
「ふっ―――ハァア!!!」
音速で落下してきたランスの先端を前に、十六夜は牙を剥いて笑い、
「カッ―――しゃらくせえ!」
殴りつけた。
「「は!??」」
「やりますね」
素っ頓狂な声を上げるレティシアと黒ウサギ。黒衣だけは感心したように呟く。
十六夜が殴り返したランスは粉々に砕け散り、無数の凶弾となって第三宇宙速度でレティシアに迫っていた。
(ま、まずい………!)
レティシアは避けれない事を悟ってギュッと目を閉じる。そこへ、
「凄いですが、やりすぎですよ十六夜さん」
「え?」
レティシアが黒衣の声に反応して目を開けると、眼前に彼女の背が映り目にも止まらぬ速さで全ての凶弾を打ち落とした。
その後、黒衣は唖然としたレティシアを抱きかかえて十六夜の目の前に
黒ウサギも窓から飛び降りて三人の下へ駆け寄る。
「レティシア様!ご無事ですか!?」
「………ああ。黒衣に助けてもらったから平気だ。先程は助けてくれてありがとう、黒衣」
「ふふ、どういたしまして」
笑う黒衣はレティシアを下ろすと、すかさず黒ウサギが彼女に近寄り、
「レティシア様」
「なんだ?」
「ちょっと失礼するのです」
「は?―――く、黒ウサギ!何をする!?」
レティシアのギフトカードを
「〝
「っ………!」
さっと目を背けるレティシア。十六夜は白けたような呆れた表情をした。
「なんだよ。もしかして元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトだけか?」
「………はい。武具は多少ありますが、自身に宿る
「ハッ。道理で歯応えがないわけだ。他人に所有されたらギフトまで奪われんのかよ」
「いいえ………魔王がコミュニティから奪ったのは人材です。武具などの顕現しているギフトと違い、〝恩恵〟とは様々な神仏や精霊から受けた奇跡、云わば魂の一部。隷属させた相手から合意なしに奪う事は不可能です」
つまり、レティシアは自ら〝恩恵〟を魔王に差し出したという事になる。黒ウサギと十六夜の視線に苦虫を噛み潰したような顔で目を逸らすレティシア。黒ウサギも苦い顔をした。
「レティシア様は鬼種の純血と神格の両方を持ち〝魔王〟と自称するほどの力がありました。しかし今の貴女はかつての十分の一以下です。どうしてこんなことに………」
「………それは」
言葉を口にしようとしたが打ち明けられず、閉口したまま俯くレティシア。
代わりに黒衣が口を開いた。
「それは、貴女がいけないんですよ。黒ウサギさん」
「………え?」
黒衣の余りの唐突な発言に固まる黒ウサギ。レティシアが止めようとしたが、黒衣は右手で制した。
「ここで黙ろうと何れはバレるものです。レティシアさんが話せないようでしたら私が語らせて戴きますよ」
「………ああ。分かった。私も腹を括ろう。説明、頼んだぞ黒衣」
「畏まりました。では引き続き、この黒衣がレティシアさんの弱体化してしまった理由を語らせて戴きます」
姫ドレスのスカートの裾を軽く摘み上げて一礼した黒衣は語り始めた。
「まず、レティシアさんがどのような理由で〝ノーネーム〟を訪れたか覚えていますか?」
「ああ。たしかコミュニティを解散するように説得するため………だっけか?」
「はい、その通りです。では、どうしてレティシアさんはコミュニティを解散するよう説得しに来たのでしょう?」
「それは………我々が〝ノーネーム〟としてコミュニティを再建しようと掲げた事をレティシア様が知り、憤っていたからです」
「はい。でしたら質問を変えますが、どうすればレティシアさんは魔王の手から簡単に抜け出せると思いますか?」
黒衣のこの質問に黒ウサギはハッとして青ざめた。
「ま、まさか………レティシア様が神格を失う原因を作ってしまったのは―――!?」
「そうです。黒ウサギさんが、あなた方〝ノーネーム〟の愚行が招いた結果―――レティシアさんは神格を失わざるを得なかったのです。彼女の性格を知る貴女ならば、自身の〝恩恵〟さえ手離してでも止めに来てしまうことくらい察する事が出来たはずです」
「………っ、」
黒ウサギはレティシアが神格を失った
「ご、ごめんなさいレティシア様………私のせいで、私が、再建など無謀な賭けにでず、解散を選んでいればこんな………こんなことにはならなかったのにっ!」
「く、黒ウサギ………私は」
レティシアは何かを口にしようとしたがやめて、黒ウサギの儚げな背中と脆弱なウサ耳を優しく撫でた。
それにより、黒ウサギはさらに泣き叫ぶ。レティシアの優しさに罪悪感が強まってしまったのだろう。
そんな光景を見守る十六夜と黒衣。暫くして泣き止んだ黒ウサギはレティシアからそっと離れた。
それを見つめていた黒衣は優しい笑みを浮かべて、
「ふふ、落ち着きましたか?黒ウサギさん」
「はいな。もう大丈夫でございますよ!」
黒ウサギが元気に返事をすると、黒衣は笑って提案した。
「さて、黒ウサギさん。レティシアさんを救って差し上げたいのでしたら、〝ノーネーム〟に彼女を戻してあげましょう?」
「そ、そうでございますね!元々、黒ウサギ達はそのつもりでしたから。ただ―――」
「はい。ギフトゲームが中止になってしまわれたんでしたよね?その点ならばご心配なく。私にとてもいい案がありますから」
「え?」と黒ウサギと十六夜がキョトンとした顔で固まる。その理由は黒衣が一瞬ドス黒い笑みを見せたような気がしたからだ。
そして黒衣は悪魔のような凶悪な笑みを浮かべて告げた。
「ふふ、私はこれでも魔王なんですよ?〝ノーネーム〟と決闘をさせる方法なんて―――幾らでもありますから♪」
それに十六夜はケラケラと笑い、黒ウサギとレティシアは痛い頭を抱えた。
三人は同時にこう思うのだった。
『この問題児は一体何をやらかしてくれるのやら』と。