〝造物主達の決闘〟に参加した耀は決勝まで駒を進め、決勝戦ではレティシア達についてきた三毛猫に見守られながら〝ロックイーター〟のコミュニティに属する
グリフォンのギフトで旋風を操り石垣の巨人の背後に飛翔し、その後頭部を蹴り崩してさらに自分の体重を〝象〟へと変幻させて落下の力と共に巨人を押し倒した。これにより勝者は〝ノーネーム〟所属の春日部耀に決定した。
その後、白夜叉が深紅の髪を頭上で結った華美装飾を纏った幼い少女―――サンドラ=ドルトレイクを促して明日以降の日程を伝えた。
ちなみにこのサンドラこそが、龍の純血種―――星海龍王の龍角を継承した、新たな〝階層支配者〟である。
そして明日以降のゲーム内容は以下の通り。
『ギフトゲーム〝造物主達の決闘〟
・決勝参加コミュニティ
・ゲームマスター・〝サラマンドラ〟
・プレイヤー・〝ウィル・オ・ウィスプ〟
・プレイヤー・〝ラッテンフェンガー〟
・プレイヤー・〝ノーネーム〟
・決勝ゲームルール
・お互いのコミュニティが創造したギフトを比べ合う。
・ギフトを十全に扱うため、一人まで補佐が許される。
・ゲームのクリアは登録されたギフト保持者の手で行う事。
・総当たり戦を行い勝ち星が多いコミュニティが優勝。
・優勝者はゲームマスターと対峙。
・授与される恩恵に関して
・〝階層支配者〟の火龍にプレイヤーが希望する恩恵を進言できる。
宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、両コミュニティはギフトゲームに参加します。
〝サウザンドアイズ〟印
〝サラマンドラ〟印』
★★★★★★★★★★
「随分と派手にやったようじゃの、おんしら」
「ああ。ご要望通り祭りを盛り上げてやったぜ」
「胸を張って言わないで下さいこのお馬鹿様!!!」
スパァーン!と黒ウサギのハリセンが十六夜の頭を叩く。その後ろでジンが痛い頭を抱える。
十六夜と黒ウサギが〝サラマンドラ〟に連行されることになった原因は、今から少し遡る。
十六夜は飛鳥をエスコートして街を練り歩いていたのだが、黒ウサギに見つかり別々に逃走。
しかし飛鳥は上空から舞い降りてきたメイドのレティシアに捕獲されてしまう。
十六夜は黒ウサギから逃げ回るが、〝月の兎〟が来ていることが知れ渡り、眼下にギャラリーが湧いた。
これにより、ただの追いかけっこからギフトゲームによる戦いに替わる。
『ギフトゲーム名〝月の兎と十六夜の月〟
・ルール説明
・ゲーム開始のコールはコイントス。
・参加者がもう一人の参加者を、〝手の平で〟捕まえたら決着。
・敗者は勝者の命令を一度だけ強制される。
宣誓 上記のルールに則り、〝黒ウサギ〟〝十六夜〟の両名はギフトゲームを行います。』
結果だけいうと、引き分けに終わった。
黒ウサギの圧倒的有利な条件にも関わらず互角の戦いを見せていた十六夜だが、判断を誤りピンチを招いてしまう。
しかしそのピンチを時計塔を蹴り壊すという人間離れした業で黒ウサギとギャラリーの度肝を抜いた。
その隙に十六夜は黒ウサギに接近し、千手の攻防を繰り広げたのち、倒壊した建物を殴り飛ばし、その一瞬出来た隙に互いの腕を取り合い引き分け。
この結果に納得がいかなかった十六夜は口論していると、〝サラマンドラ〟のコミュニティ達に包囲されてあえなく御用となった。
そして今に至る。
白夜叉は必死に笑いを噛み殺し、黒衣は苦笑いを浮かべた。
サンドラの側近らしき軍服を着た男が鋭い目付きで十六夜達を見下す。
「ふん!〝ノーネーム〟の分際で我々のゲームに騒ぎを持ち込むとはな!相応の厳罰は覚悟しているか!?」
「これマンドラ。それを決めるのはおんしらの頭首、サンドラであろ?」
白夜叉がマンドラと呼ばれた軍服男を窘める。その彼女の傍に控えていた黒衣も同意するように頷く。
サンドラは玉座から立ち上がると、黒ウサギと十六夜に声をかけた。
「〝箱庭の貴族〟とその盟友の方。此度は〝火龍誕生祭〟に足を運んでいただきありがとうございます。貴方達が破壊した建造物の一件ですが、白夜叉様のご厚意で、白夜叉様の代わりにメイドの黒衣さんが修繕してくださいました。負傷者は奇跡的になかったようなので、この件に関して私からは不問とさせて頂きます」
チッ、と舌打ちするマンドラ。意外そうに声を上げる十六夜。
「へえ?太っ腹なことだな。つか姫ロリが治したんだ?」
「はい。あの程度の破損を治すのにご主人様が出るまでもありませんから」
「うむ。それにおんしらは私が直々に協力を要請したのだからの。何より怪我人が出なかったことが幸いした。よって路銀は私が、修繕は黒衣が受け持った。報酬の前金とでも思っておくが良い」
ホッと胸を撫で下ろす黒ウサギ。十六夜は軽く肩を竦ませた。
「………ふむ。いい機会だから、昼の続きを話しておこうかの」
白夜叉とサンドラは同士を下がらせ、〝サウザンドアイズ〟はメイドの黒衣が、〝サラマンドラ〟はマンドラだけが残る。〝ノーネーム〟は十六夜・黒ウサギ・ジンが残る。
サンドラはマンドラ以外の同士がいなくなると、硬い表情と口調を崩し、玉座を飛び出してジンに駆け寄った。
「ジン、久しぶり!コミュニティが襲われたと聞いて随分と心配していた!」
「ありがとう。サンドラも元気そうでよかった」
「ふふ、当然。魔王に襲われたと聞いて、本当はすぐに会いに行きたかったんだ。けどお父様の急病や継承式のことでずっと会いに行けなくて」
「それは仕方ないよ。だけどあのサンドラがフロアマスターになっていたなんて―――」
「その様に気安く呼ぶな、名無しの小僧!!!」
サンドラと親しく話しているジンに激怒したマンドラは獰猛な牙を剥き出しにし、帯刀していた剣をジンに向かって抜くが、それを十六夜が足の裏で受け止めた。
「………おい、知り合いの挨拶にしちゃ穏やかじゃねえぜ。止める気なかっただろオマエ」
「当たり前だ!サンドラはもう北のマスターになったのだぞ!誕生祭も兼ねたこの共同祭典に〝名無し〟風情を招き入れ、恩情をかけた挙げ句、馴れ馴れしく接されたのでは〝サラマンドラ〟の威厳に関わるわ!この〝名無し〟のクズが!」
睨み合う十六夜とマンドラ。それにサンドラが慌てて止めに入る。
「マ、マンドラ兄様!彼らはかつての〝サラマンドラ〟の盟友!此方から一方的に盟約を切った挙げ句にその様な態度を取られては、我らの礼節に反する!」
「礼節よりも誇りだ!その様な事を口にするから周囲から見下されるのだと、」
「これマンドラ。いい加減に下がれ」
呆れた口調でマンドラを諫める白夜叉。しかしマンドラはキッと白夜叉を睨み返し、
「〝サウザンドアイズ〟も余計な事をしてくれたものだ。同じフロアマスターとはいえ、越権行為にも程がある。『南の幻獣・北の精霊・東の落ち目』とはよく言ったもの。此度の噂も、東が北を妬んで仕組んだ事ではないのか?」
「マンドラ兄様ッ!!いい加減にしてください!!」
マンドラの失言が過ぎた言葉にサンドラが見かねて叱りつける。
しかし事情を知らない〝ノーネーム〟一同は、顔を見合わせて首を傾げる。
「おい、噂って―――」
―――何の事だ?とは続かなかった。この場の空気が一変したことによって。
白夜叉達はハッとして振り返ると―――案の定、怒りのオーラを振り撒きながらユラリと立っていた黒衣が視界に映った。
憤怒の炎を燃やした瞳をマンドラに向けた黒衣は一歩前に出て、
「先の発言は聞き捨てなりませんね。訂正してくれませんか?マンドラさん」
「何?貴様、メイドの分際で私にものを言うつもりか!?」
「いえ、別にそんなつもりはありません。私の事は幾らでも貶して罵ってもらっても構いません。ですが―――」
スゥッと瞳を細めた黒衣は、鋭い視線をマンドラに向けて告げた。
「コミュニティと―――何よりもご主人様の侮辱は絶対に許しません。もし訂正してくださらないのならマンドラさん、貴方を―――――
「―――ッ!!!?」
死刑宣告と共に星の殺気をマンドラに向ける黒衣。その殺気を受けてマンドラは滝のような冷や汗を流し息を呑んだ。
立っている事も、息をする事さえままならない重圧のなか、マンドラは辛うじて動かせた瞳で黒衣を見つめた。
「(何なんだこの小娘はッ!?ただのメイドではなかったのか………!!?)」
マンドラがそう思っているうちに、宮殿全体もミシミシと悲鳴を上げ始めて今にも崩壊しそうなそんな予感がした。
十六夜・黒ウサギ・ジン・サンドラも冷や汗を流し息を呑んでいると、白夜叉が慌てて止めに入る。
「こ、これ黒衣!いい加減にせんか!」
「止めないでくださいご主人様。この無礼者は口で言っても無駄なんです!ですから、」
「いい加減にしろと言うのが聞こえんのかこの
バシィイイインッ!!と白夜叉の愛用の扇が黒衣の頭を打ちのめす。
黒衣は「痛ぁッ!!?」と絶叫を上げて頭を抱えてその場にしゃがみ込む。涙目になるほどの容赦なしの一撃だった。
そしてこの空間を支配していた重圧が消え失せ十六夜達の体に自由が戻る。
それと同時に聞き間違いかどうか、サンドラが白夜叉に問いただした。
「し、白夜叉様?先程そちらのメイドの黒衣さんの事を〝妹〟と仰っていた様な気がしたのですが………」
「ん?―――………あ、」
白夜叉はしまった、という顔でサンドラから視線を逸らすと〝ノーネーム〟一同はあーあ、と呆れた声を漏らした。
サンドラとマンドラがジーッと白夜叉を見つめると、白夜叉は観念したように溜め息を吐き、
「ああ、そうだ。黒衣は私の妹だよ。………黒衣、すまんがサンドラとマンドラに真名を教えてやってくれ」
「………はい、ご主人様」
白夜叉は涙目の黒衣の頭をポンと軽く叩くと、黒衣を頷き涙を拭って立ち上がる。
メイド服の裾を叩いて整えると、黒衣はその裾を摘まんで軽く持ち上げ自己紹介をした。
「改めて名乗り直させて頂きます。私はご主人様の―――白夜姉様の妹の極夜姫と申します。以後、お見知り置きを」
「「―――………は?」」
黒衣もとい極夜姫が真名を名乗り、それを聞いたサンドラとマンドラは素っ頓狂な声を上げた。