暫しの間沈黙が続き、マンドラがハッと気がついたように極夜姫と名乗る少女を見つめ、
「白夜叉の妹ということは―――まさか貴様も星霊なのか!?」
「はい。私も白夜姉様と同じ星霊です。〝極な夜の魔王〟―――太陽と極夜の星霊・極夜姫。それが私です」
「なっ………!?」
それを聞いて絶句するサンドラとマンドラ。メイド姿の彼女が、まさか白夜叉と互角の星霊とは思わなかったのだろう。
極夜姫はスッとマンドラに手を差し出して優しく微笑んだ。
「分かってくださったのならもう〝サウザンドアイズ〟のコミュニティと白夜姉様を侮辱する様な真似はしないでくださいね?主に白夜姉様への侮辱は、私に喧嘩を売っている様なものですから」
「……………」
しかしマンドラはその手を取らずにジッと見つめ―――次の瞬間、極夜姫の手を振り払ってギロリと睨みつけた。
「ふん!私は知っているぞ。白夜叉は隷属しているというのに貴様だけは未だに魔王であり続けていることをな!!」
「………っ!」
「此度の噂の魔王も、貴様ではないのか?我々の手伝いをしている裏で密かに破滅させようと企てているのだろう!?」
「なっ………それは違います!」
「違わなくないだろ!現にこの誕生祭に貴様という魔王が来ているではないかッ!!」
声を荒げるマンドラ。これには白夜叉とサンドラが激昂した。
「マンドラッ!!貴様、私の妹がそんな真似をする子に見えるというのか!?巫山戯るのも大概にしろッ!!!」
「マンドラ兄様ッ!!白夜叉様の言う通りです!彼女が魔王だからといってそれは余りにも暴論が過ぎます!!」
「何を言うかッ!魔王の肩を持つとはフロアマスターとしてあるまじき行為!それでも箱庭の秩序の守護者かッ!!?」
「……………っ、」
それを言われては反論する余地もない。〝階層支配者〟の役目は秩序を乱す天災・魔王を倒す責務があるのだから。
マンドラとサンドラと白夜叉が睨み合っていると、それを極夜姫が止めに入る。
「やめてください白夜姉様!サンドラさん!私なら………平気ですから………ッ!」
「平気なものがあるか!震えているではないか………!」
「……………っ!!」
白夜叉は震える極夜姫の華奢な体を抱きしめてあやす。その優しさに思わず涙が溢れそうになる極夜姫。
だがそれをよしとしないマンドラは白夜叉を睨みつけ、
「貴様がその魔王の首をはねないというのなら私が殺す!………いや、その魔王は星霊だったか。ならば箱庭の上層部の者に引き渡して処刑してもらうしかないな!」
「……………ッ!!」
その言葉に白夜叉は腕の中にいる極夜姫を強く抱きしめてマンドラを睨み返した。
遥か昔に別れて、数千年もの間失っていた彼女との時間は、一月前にやっと再会出来て再び動き出したのだ。その最愛の妹を二度と離したくはないからなのだろう。
マンドラと白夜叉が鋭い視線で睨み合っていると、そこへ今まで黙視していた十六夜が割り込んだ。
「ちょっと待ちなオマエら。さっきから魔王がどうのって言ってるが、どういう意味だ?」
「………む?おお、そうだったの。此度の祭典におんしらを呼び出した理由がこの封書に書いてある。………己の目で確かめるがいい」
白夜叉は一枚の封書を取り出して十六夜に手渡す。十六夜はそれを受け取り眼を通し―――軽薄な笑みを完全に消した。
それを不思議に思った黒ウサギは十六夜に尋ねた。
「十六夜さん………?何が書かれているのです?」
「自分で確かめな」
抑揚のない声音で黒ウサギに手紙を手渡す。そして其処に書かれていたのは、
『火龍誕生祭にて、〝魔王襲来〟の兆しあり』
「………なっ、」
その手紙の内容を確認した黒ウサギとジンは絶句し呻き声の様な声を漏らす。
十六夜だけは鋭い瞳と無表情で白夜叉へ問い返した。
「正直意外だったぜ。てっきりマスターの跡目争いとか、そんな話題だと思ってたんだがな?」
「何ッ!?」
先程の怒りが収まらぬままマンドラは牙を剥く。それをサンドラが窘めるが白夜叉は無視して話を進める。
「謝りはせんぞ。内容を聞かずに引き受けたのはおんしらだからな」
「違いねえ。………それでオマエはその魔王が姫ロリだと疑ってるわけだ?」
「当たり前だ!貴様も先の話を聞いていたのならそう疑いたくもなるだろ!?何せその魔王は」
「この誕生祭に参加してるから、だってか?」
「そうだ」
十六夜の言葉に頷くマンドラ。だが十六夜はそれを鼻で笑った。
「………ハッ。それだけの理由じゃ姫ロリが犯人だって決めつけるのにはまだ早いぜ」
「何!?」
「考えても見ろよ。俺達〝ノーネーム〟が知る限り姫ロリの逆鱗に触れる要素は―――白夜叉が絡んでた。さっきオマエが白夜叉のコミュニティと白夜叉を侮辱した時も姫ロリが豹変した。………違うか?」
それにハッと気がついたサンドラが答える。
「た、確かにマンドラ兄様が白夜叉様とコミュニティを悪く言った途端に妹様の様子が変わっていました!」
「だろ?そしてそんな白夜叉以外に興味がまるでなさそうな姫ロリが、此処を襲撃する動機ってのはなんだ?」
「………ッ!確かに動機は見当たらないが、それでもソイツは魔王であることには変わりないッ!!」
「まあ、姫ロリ自身が魔王であることを認めている以上それは覆り様はねえな」
十六夜は肩を竦ませて返す。だが次の瞬間、十六夜は鋭い視線でマンドラを貫いて告げた。
「だが姫ロリは〝サウザンドアイズ〟から追放されていない。それはつまりコミュニティに置いておいても問題ないからじゃねえのか?」
「そんなのその魔王が東のフロアマスターの妹だからだろう!?きっとその魔王を追放すれば白夜叉もコミュニティから出ていくかもしれないと踏んでいるのだろうからな!」
「なるほどな。じゃあオマエが上層部の何某殿に討伐を頼むと言っていたが、その上層部の何某殿が姫ロリの首を取りに来ないのはどうしてだ?これも白夜叉が絡んでるからか?」
「ふん!それ以外に考えようが―――ッ!!」
マンドラがそこまで言って何かに気がつき口を閉ざした。それに十六夜はトドメの言葉を紡いだ。
「どうやら気がついたようだな。ああ、そうだ。もし姫ロリが〝サウザンドアイズ〟に必要な存在だった場合―――オマエはそのコミュニティに喧嘩を売ることになる。もしそうなったらオマエに勝ち目はあるか?」
その問いにぐっ、と言葉が詰まるマンドラ。
〝サウザンドアイズ〟は東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大商業コミュニティだ。
それに比べて〝サラマンドラ〟は五桁に本拠を構えるコミュニティだ。勝ち目などあるはずがない。
流石のマンドラでも死地に飛び込むような暴挙に出るつもりはないだろう。チッ、と舌打ちしてマンドラは下がった。
十六夜はニヤリと笑って白夜叉に向けてビシッと親指を立てると、白夜叉はそれに気づいて同じくビシッと親指を立てて『よくやった小僧!』と内心で十六夜を讃えた。
極夜姫もすぐさま立ち上がって十六夜の下に駆け寄り頭を下げて感謝の意を示した。
「ありがとうございます!十六夜さん!何と御礼を申し上げればよいか………!」
「別に。俺はただアイツが気に入らなかっただけだ。………だが、そうだなあ。姫ロリがどうしてもお礼がしたくて詫びをくれるってんなら一つだけ提案がある」
「提案、ですか?」
小首を傾げる極夜姫。十六夜はスッと真剣な顔で告げた。
「正直言って俺達〝ノーネーム〟の戦力は芳しくない。だからコミュニティに入れとは言わねえが―――今回から積極的に俺達の戦力に加わってほしい。………構わねえか?」
「………私が十六夜さん達のコミュニティの戦力になれ、ということですか?」
「ああ。丁度俺並みの実力者が欲しいところだったんでな。………駄目か?」
「……………」
十六夜の誘いに考え込む極夜姫。チラッと白夜叉の方を見ると、白夜叉は念話で返した。
『私の事は気にせんでよいよ、極夜。むしろおんしが小僧共の手助けをしてくれるのなら、私は本望だからの』
『白夜姉様………。はい、分かりました。姉様がそう仰るのなら私は―――』
―――とここで白夜叉との念話を打ち切った極夜姫は、十六夜に視線を戻して告げた。
「私なんかでよろしければ、慎んでお受け致しますよ―――十六夜
「………!おう―――って、あん?………十六夜様だと?」
「何?」
「「「………え?」」」
「なんじゃと!?」
極夜姫が十六夜に様付けしたことに驚く一同。極夜姫は無視して十六夜に笑いかける。
「それと十六夜様。私が本気を出したら十六夜様より遥かに強いんですからね?ご自分の力に溺れませんように」
「………そいつは悪かったな」
肩を竦ませて苦笑を零す十六夜。だが十六夜に様付けをしたことが気に入らなかったのか、白夜叉がズカズカと極夜姫に迫った。
「極夜!おんしまさかその小僧に惚れたんじゃ………!」
「冗談を言わないでくださいよ白夜姉様。私が
「ブフォッ!!?」
とんでもない爆弾を投下した極夜姫に噴き出す白夜叉。そして白夜叉は見る見るうちに顔を真っ赤に染め上げていった。
その様子を恥ずかしそうに頬を赤らめて見つめる極夜姫。ヒソヒソ話をしたのち、ニヤニヤと白夜叉と極夜姫を見つめる〝ノーネーム〟一同。
ソッとサンドラの目を両手で覆い隠したマンドラは「見るな。変態が移る」と諭した。
その後、魔王襲来について話し合い、お開きとなった。