「それで、呼び出されたはいいけどなんで誰もいねえんだよ。姫ロリは説明してくれねえし他に箱庭について説明をする人間はいねえのか?」
「………姫ロリとは私の事ですか?」
妙な愛称に小首を傾げて問いただす極夜姫。すると十六夜はおう、と肯定した。
「極夜姫とか長すぎるだろ?だからオマエは姫ロリな」
「そうですか。………まあ、別にそれでも構いませんけど」
極夜姫は苦笑いで返して承諾する。
飛鳥と耀も極夜姫を見てたしかに名前が長いねと思った。
「そうね。では私は
「はい、構いませんよ」
「じゃあ私は
「はい、いいですよ」
極夜姫は笑って頷くが、内心ではせめて愛称を統一してくださると嬉しいのですがと呟いていた。
三人の中で一番的を射ている名前は〝極夜〟だったりするのだが。
そんな感じで話が逸れていることにウサ耳の少女はあれ?と思っていた。
(黒ウサギの事を待っていたんじゃなかったのですか!?極夜姫様の愛称会議になっているのですよ!)
驚きを隠せないウサ耳の少女は〝黒ウサギ〟と内心で名乗った。
黒ウサギは長い青髪の頭に二本の青いウサ耳を生やし、胸元の開いた黒い服と赤いミニスカート、ガーターソックスを身につけた橙色の瞳が特徴の少女だった。
黒ウサギはふと話題が逸れていることを好機と見て物陰から飛び出そうとした―――その時。
「―――ああそうだ。姫ロリの話はここらで終わりにして、本題に入るとするか。なあ、そこに隠れてずっと俺達を見ていた怪しい奴?」
ドキリ、と物陰に隠れていた黒ウサギは飛び跳ねた。指摘した声の主は十六夜だった。
そして四人の視線が黒ウサギに集まる。
「あら、貴方も気づいていたの?」
「当たり前だ。何せかくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの二人も当然気づいていたんだろ?」
「風上に立たれたら嫌でもわかる」
「そうですね。どういうわけか分かりませんが彼女の気配が駄々漏れでしたから」
「………へえ?面白いなオマエら」
軽薄に笑うが目は笑っていない。極夜姫以外の三人は理不尽な理不尽な招集を受けた腹いせに殺気の
黒ウサギはその視線にやや怯む。
「や、やだなあお三人様。そんな狼みたいに怖い顔で見られると黒ウサギは死んじゃいますよ?ええ、ええ、古来より孤独と狼はウサギの天敵でございます。そんな黒ウサギの脆弱な心臓に免じてここは一つ穏便にお話を聞いて
「断る」
「却下」
「お断りします」
「あっは、取りつくシマもないですね♪」
黒ウサギはバンザーイと降参のポーズを取る。
だがその眼は冷静で極夜姫以外の三人を値踏みする。
(肝っ玉は及第点。この状況でNOと言える勝ち気は買いです。………扱いにくいのは難点ですけども)
黒ウサギはどう接していいのか冷静に考えていると―――いつの間にか彼女の隣に立っていた耀が不思議そうに小首を傾げた。
「………コレ、なんだろう?―――えい」
「フギャ!」
黒ウサギは耀にウサ耳を力いっぱいに引っ張られて悲鳴を上げる。
「ちょ、ちょっとお待ちを!触るまでなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きにかかるとは、一体どういう了見ですか!?」
「え?好奇心の為せる
「じ、自由にも程があります!」
黒ウサギはウサ耳を立てて怒る。
十六夜と飛鳥も興味津々で黒ウサギに近づいた。
「へえ?このウサ耳って本物なのか?」
「………じゃあ私も」
十六夜と飛鳥はそれぞれ右と左の黒ウサギのウサ耳を掴む。
「ちょ、ちょっと待―――!」
黒ウサギの懇願は虚しく終わり、二人が彼女のウサ耳を左右に力いっぱい引っ張り、彼女は言葉にならない悲鳴を上げた。
その様子を見ていた極夜姫は助けに入った方がいいですねと独り呟いた。
そして極夜姫の身体は霞の如く姿を消して、次の瞬間には黒ウサギの眼前に出現した。
「「「は?」」」
「え?」
突然何の前触れもなく四人の下に現れた極夜姫を見て素っ頓狂な声を上げる一同。
極夜姫は黒ウサギの右肩に触れ、今度は彼女もろとも霞と消えて次の瞬間には、先程いた位置から数メートル離れた所に二人は出現した。
「「「な、」」」
十六夜達三人は息を呑んだ。早業とかそういうモノではない。余りにも一瞬の出来事に誰一人と極夜姫の動きを捉えられなかった。
彼らが絶句する中、極夜姫は黒ウサギに笑いかける。
「ふふ、もう大丈夫ですよ。〝月の兎〟のお嬢さん」
「!!あ、はい。ありがとうございます極夜姫様」
黒ウサギに様付けされてキョトンとする極夜姫。
「………様付けはいらないですよ、黒ウサギさん」
「いえいえ、そういうわけには参りません。極夜姫様は―――白夜叉様の妹様なのですよね?」
「え?白夜姉様の事をご存知なんですか!?」
白夜叉の話をした途端、極夜姫は黒ウサギの肩をガシッと掴む。
黒ウサギは驚きながらも首肯した。
「はいな。白夜叉様は黒ウサギのコミュニティが崩壊してからも手を貸して戴いている優しいお方なのでございますよ」
「そうだったんですか。やっぱり白夜姉様は優しいままなんですね!ホッとしました♪」
極夜姫は黒ウサギの話を聞いて白夜叉は昔も今も優しいままだと知り安堵する。
黒ウサギは姉想いの極夜姫を見て、白夜叉様は幸せものだなと思った。
そんな二人に―――否、黒ウサギの背後に忍び寄る二つの影。
「貴女、まだ私達は満足していないのだけれど。逃げないでくれるかしら?」
「うん。私もまだ物足りない」
ガッと黒ウサギのウサ耳を乱雑に掴む飛鳥と耀。しまった、と冷や汗を流す黒ウサギ。
そして次の瞬間、二人は黒ウサギのウサ耳を左右に力いっぱいに引っ張った。
「フギャ!」
「黒ウサギさん!?」
極夜姫は黒ウサギを助けようと動こうとしたが、彼女の眼前に十六夜が現れて遮った。
「
「………お楽しみ、ですか?黒ウサギさんを苛める事がですか?」
「別に苛めちゃいねえよ。
「弄ってる………ですか?」
〝苛める〟ではなく〝弄っている〟と言う十六夜に、極夜姫は小首を傾げる。
「ああ、そうだ。だから俺達の楽しみを、面白いことを邪魔するってんなら―――容赦しないぜ、姫ロリ」
「………面白い、ですか?」
〝面白い〟の単語を聞いて極夜姫はふむ、と顎に手を当てて考える。
十六夜は急に考え込んだ極夜姫を見て
暫くして極夜姫はうんと頷いた。
「そうですね。白夜姉様には相手の面白いを邪魔してはならないと教わりました。ですので私はあなた方の面白いの邪魔はしませんよ」
「………へえ?良いこと言うじゃねえかオマエの姉はよ」
「ふふ、白夜姉様ですから」
十六夜の称賛に自慢げに笑う極夜姫。
その一方、黒ウサギは唯一まともであると信じていた極夜姫に裏切られてショックを受けていた。
(………そういえば極夜姫様の姉は―――超絶問題児の白夜叉様でした………っ!!!)
なんと大切な事を忘れていたのか、と黒ウサギはガクリと肩を落としたのだった。