「―――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」
「どうでもいいからさっさと進めな」
結局極夜姫は最初の方だけ助けてくれただけで後は三人の問題児達に黒ウサギのウサ耳を引っ張られてしまっていた。
そんな不幸に打ち勝ちなんとか話を聞いてもらえる状況を作れた。
箱庭について知る極夜姫以外の三人は黒ウサギの前に座り込み『聞くだけ聞こう』という程度には耳を傾けている。
黒ウサギは瞳に浮かべていた涙を拭い、さらに咳払いして気を取り直して、両手を広げて説明を開始した。
《黒ウサギ、箱庭について説明中―――以下省略》
一通りの説明を終えたのか、黒ウサギは一枚の封書を取り出す。
「さて。皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。ですがそれら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを
「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」
今まで静聴に徹していた十六夜が威圧的な声を上げて立つ。軽薄な笑みが無くなっていたことに気づいた黒ウサギは構えるように聞き返す。
「………どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」
「そんなのはどうでもいい。腹の底からどうでもいいぜ、黒ウサギ。俺が聞きたいのは………たった一つ、手紙に書いてあったことだけだ」
十六夜は黒ウサギから視線を外して他の三人を見回し、巨大な天幕によって覆われて都市に向ける。
彼は何もかもを見下すような視線で告げた。
「この世界は………面白いか?」
「―――――」
飛鳥と耀も無言で返事を待つ。黒ウサギは満面の笑みで答えた。
「―――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者達だけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」
★★★★★★★★★★
説明と質問を終えた黒ウサギ達は箱庭へとこれから向かうわけなのだが、その前に黒ウサギは極夜姫の下に歩み寄る。
「ところで極夜姫様はこれからどういたします?黒ウサギが召喚を依頼したのは三名様だけで、貴女様は彼女から直接手紙で依頼を受け箱庭へと帰還なさったのですよね?」
「………流石は〝箱庭の貴族〟と
極夜姫は黒ウサギのウサ耳に手を伸ばして優しく撫でる。
問題児達に酷な扱いを受けていた黒ウサギのウサ耳だが、その性能は抜群なのだ。
黒ウサギは嬉しそうな顔で受け入れる。
極夜姫は黒ウサギのウサ耳から手を離して答えた。
「そうですね。彼女の依頼はまだよくわかりません。ですが『あの子達をよろしく』ということは、つまり黒ウサギさんが彼女に召喚を依頼した彼らの事を指しているのかもしれませんので………暫くの間はあなた方と行動を共にしようと思います」
「そうでございますか!では白夜叉様の下へ向かうまでよろしくお願いいたします極夜姫様♪」
ウキャー♪と何故か嬉しそうな奇声を上げる黒ウサギ。
極夜姫は不思議に思ったが聞かないことにした。恐らく彼女が問題児達と違って優しくしてくれるからだろう。
★★★★★★★★★★
「ジン坊っちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」
「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性三人が?」
「はいな、こちらのお四人様が―――え?」
笑顔のまま振り返った黒ウサギ。だが一人足りないことに気がつき固まる。
「あれ?もう一人いませんでした?ちょっと目つきが悪く、口もかなり悪く、おまけに全身から問題児オーラを放っている殿方が」
「ああ、十六夜君のこと?彼なら〝ちょっと世界の果てを見てくるぜ!〟と言って駆け出して行ったわ。あっちの方に」
飛鳥が指さすのは上空4000メートルから見えた
黒ウサギは呆然となり、すぐさまウサ耳を逆立てて問いただす。
「な、なんで止めてくれなかったんですか!」
「〝止めてくれるなよ〟と言われたもの」
「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」
「〝黒ウサギには言うなよ〟と言われたから」
「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょうお二人さん!」
「「うん」」
飛鳥と耀が首肯すると、黒ウサギはガクリと前のめりに倒れる。
ハッと気がついた黒ウサギは、極夜姫に見た。
「では極夜姫様はわざとあの問題児様を見逃したのですか!?」
「はい。すみません黒ウサギさん。〝世界の果て〟に行くことは彼にとって面白いことなのだと悟ったら………止めるなんて出来ません」
「極夜姫様ぁ!?」
今度こそは止めてくれると期待していたのだが、
ジンは蒼白になって叫んだ。
「く、黒ウサギ!たしか〝世界の果て〟には―――」
「分かっております………ジン坊っちゃん。申し訳ありませんが、お三人様のご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「わ、わかった。黒ウサギはどうする?」
「問題児を捕まえに参ります。事のついでに―――〝箱庭の貴族〟と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の
黒ウサギは怒りのオーラを全身から噴出させると、青髪を桃色に染める。
外門をめがけて空中高く跳び上がった黒ウサギは外門の脇にあった彫像を次々と駆け上がり、外門の柱に水平に張りつく。
「一刻程で戻ります!皆さんはゆっくりと箱庭ライフをご
黒ウサギは桃色の髪を
全力で跳躍した黒ウサギはまるで弾丸のように飛び去り、あっという間に四人の視界から消え去っていった。
「………箱庭の兎は
「ウサギ達は箱庭の創始者の眷属。力もそうですが、様々なギフトの他に特殊な権限を持ち合わせた貴種です。彼女なら余程の幻獣と出くわさない限り大丈夫だと思うのですが………」
飛鳥の呟きにジンが答える。
初めて聞く言葉に耀は小首を傾げる。
「幻獣?」
「ギフトを持った獣の総称ですよ」
極夜姫が答える。耀の瞳が輝いていたような気がしたが、極夜姫は聞かないことにした。
飛鳥は心配そうにしているジンに向き直る。
「黒ウサギも堪能くださいと言っていたし、お言葉に甘えて先に箱庭に入るとしましょう?エスコートは貴方が?」
「え、あ、はい。コミュニティのリーダーをしているジン=ラッセルです。まだ
「私は久遠飛鳥よ。そこで猫を抱えているのが」
「春日部耀。私の隣にいる子供は」
「私はそんなに子供に見えますか?………まあ別に気にしてませんけど。―――あ、私は極夜姫と申します。以後お見知り置きを」
飛鳥と耀が初めて
ジンは白夜叉様と似たような身長の子供なのに礼儀正しいですねと感心した。
まあ、彼も彼女の年齢を聞けば驚くこと間違いなしだろうが。
「さ、それじゃあ箱庭に入りましょう。まずは………軽い食事でもしながら話を聞かせてくれると嬉しいわ」
飛鳥はジンの手を取り、胸を踊らせるような笑顔で箱庭の外門をくぐる。
その後に続くように耀と極夜姫も外門をくぐるのだった。