四人と一匹は身近にあった〝六本傷〟の旗を掲げるカフェテラスに座っていた。
注文を取る為に猫耳の少女が店の奥から素早く飛び出てきた。
「いらっしゃいませー。ご注文は何にしますか?」
「えーと、紅茶を二つと緑茶を一つ。夜姫さんは何にする?」
「はい。ではコーヒーでお願いします」
「「「え?」」」
〝コーヒー〟と聞いて素っ頓狂な声を上げる。子供がコーヒーを飲むのかと思ったからだ。
その反応を不思議に思った極夜姫は小首を傾げる。
「………なんですか?」
「いえ、なんでもないわ。あ、追加でコーヒーをお願いね。あと軽食はコレとコレと」
『ネコマンマを!』
「はいはーい。ティーセット四つにネコマンマですね」
ん?と飛鳥とジンは不可解そうに首を傾げる。
耀だけは信じられない物を見るような眼で猫耳の店員に問いただす。
「三毛猫の言葉、分かるの?」
「そりゃ分かりますよー私は猫族なんですから。お歳のわりに随分と綺麗な毛並みの
『ねーちゃんも可愛い猫耳に
「やだもーお客さんったらお上手なんだから♪」
猫耳娘は上機嫌に店内へ戻っていった。
その後ろ姿を見送った耀は嬉しそうに笑って三毛猫を撫でた。
「………箱庭ってすごいね、三毛猫。私以外に三毛猫の言葉が分かる人がいたよ」
『来てよかったなお嬢。ちなみに姫のお嬢ちゃんもワシの言葉を理解出来るんやろ?』
「え?本当?」
三毛猫に言われて隣の席に座る極夜姫に振り向き瞳を輝かせる耀。
極夜姫ははい、と肯定して答えた。
「私も三毛猫さんの言葉は分かりますよ。………あと私はお嬢ちゃんって年齢じゃないですが」
『ホンマか!見た目がそないやからお嬢ちゃんかと思ったな』
「………本当だ。三毛猫と会話が成立してる」
その事実に驚き、すぐに嬉しそうな顔をする耀。
すると、二人を唖然と見ていた飛鳥が珍しく動揺した声を上げた。
「ちょ、ちょっと待って。貴女達もしかして猫と会話ができるの?」
「うん」
「はい」
耀と極夜姫は首肯する。ジンも興味深く質問を続けた。
「もしかして猫以外にも意思疎通は可能ですか?」
「うん。生きているなら誰とでも話は出来る」
「はい。私も耀さんと同じですね」
「それは素敵ね。じゃあそこに飛び交う野鳥とも会話が可能なのかしら?」
「うん、たぶん出来るかな。ええと、鳥で話したことがあるのは
「ペ、ペンギン!?」
「う、うん。水族館で知り合った。他にもイルカ達とも友達」
耀の声を遮るように飛鳥とジンが声を上げる。野鳥はともかくペンギンと会話する機会があったことに驚いたのだろう。
「し、しかし全ての種と会話が可能なら心強いギフトですね。この箱庭において幻獣との言語の壁は大きいですから」
「………そう?」
「はい。他に一部の猫族やウサギのように神仏の眷属として言語
「そう………春日部さんと夜姫さんは素敵な力があるのね。羨ましいわ」
飛鳥が二人に笑いかけると、困ったように頭を
「………私の場合は幻獣さんとの会話が多かったですね。ただ龍の王とか蛇の王などは人の姿を持っていたりしますので素の幻獣さんとお話した経験は少ないです」
「「龍?」」
〝龍〟と聞いて瞳を輝かせる飛鳥と耀。
ジンだけは驚愕して問いただす。
「り、龍ですか!?そんな大物と会話をする機会があったんですか極夜姫さん!」
「はい。よく白夜姉様と一緒に挨拶回りをしたものです。まあ今となっては何千年も昔の話ですが」
『「「「な、何千年も昔!?」」」』
子供だと思っていた極夜姫が何千年だと言ったことに驚きの声を上げる三人と一匹。
予想通りの反応に少しショックを受ける極夜姫。まあ、あれだけ子供扱いされたのだ。実は結構気にしたりしている。
「………ちなみに私は
〝白夜姉様が初めて敗北して世界に
それを聞いて絶句する三人。まあ、億など耳にしたら誰しもそうなるだろう。
「あ、貴女。子供かと思っていたらとんでもない大先輩だったのね………ごめんなさい、失礼な態度を取ってしまって」
「え?あ、平気ですよ。寧ろ
「そう。なら今まで通りの態度で接するわね、夜姫さん」
「はい、飛鳥さん。ですが出来れば〝夜姫〟ではなく、〝極夜〟とお呼びください。〝姫〟は私の称号のようなものなので」
「あら、そうだったの?分かったわ、次から気をつけるわね」
飛鳥が頷くと、続けて耀も言う。
「わかった。じゃあ私もこれまで通りに接する」
『ワシの事もよろしゅうなあ、姫の姉ちゃん』
「はい、耀さん。私の方こそよろしくお願いします三毛猫さん」
ふふ、と笑う極夜姫は最後にジンの方を見る。
「ジンさんも歳上だからといって気を遣わなくていいんですよ?」
「え?あ、はい。―――じゃなくて!もしかして極夜姫さんは………白夜叉様の妹さんなんですか?」
「!!白夜姉様をご存知ですか!?」
ガタンッと極夜姫は勢いよく立ち上がりテーブルに乗り出す。
余りの反応の凄さにジンは面食らう。
「あ、は、はい。白夜叉様にはお世話になってます!極夜姫さんの事は黒ウサギからお聞きしてました」
「そうですか!ふふ、白夜姉様の知人と二人も逢えますなんて………幸先いいです♪」
うっとりした顔の極夜姫を見て若干引き気味な表情を浮かべるジン。
そんな雰囲気の中、品のない上品ぶった声がジンの名を呼ぶ。
「おんやぁ?誰かと思えば東区画の最底辺コミュ〝名無しの権兵衛〟のリーダー、ジン君じゃないですか。今日はオモリ役の黒ウサギは一緒じゃないんですか?」
皮肉たっぷりな声にジンは振り返る。そこには二メートルを超える巨体をピチピチのタキシードで包む変な男がいた。
「僕らのコミュニティは〝ノーネーム〟です。〝フォレス・ガロ〟のガルド=ガスパー」
「黙れ、この名無しめ。聞けば新しい人材を呼び寄せたらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてよくも未練がましくコミュニティを存続させるなどできたものだ―――そう思わないかい、お嬢様方」
ガルドと呼ばれた男は極夜姫・飛鳥・耀を見ると笑顔でそう言った。