ガルドは四人の座るテーブルの空席を見つけると、そこに勢いよく腰を下ろした。
飛鳥と耀、極夜姫に愛想笑いを向けるが、愛想笑いで返したのは極夜姫だけで飛鳥と耀は冷ややかな態度で返した。
「失礼ですけど、同席を求めるならばまず氏名を名乗ったのちに一言添えるのが礼儀では?」
「おっと失礼。私は箱庭上層に陣取るコミュニティ〝六百六十六の獣〟の傘下である」
「
「コミュニティのリーダーをしている、ってマテやゴラァ!!誰が烏合の衆だ小僧オォ!!!」
ジンの横槍にガルドは怒鳴り声を上げて激変する。口は耳元まで大きく裂け、肉食獣のような牙とギョロリと
「口
「森の守護者だった頃の貴方なら相応に礼儀で返していたでしょうが、今の貴方はこの2105380外門付近を荒らす獣にしか見えません」
「ハッ、そういう貴様は過去の栄華に
「ハイ、ちょっとストップ」
険悪ムードのジンとガルドを遮るように飛鳥は手を上げた。
「事情はよくわからないけど、ジン君とガルドさんが仲悪いのは分かったわ。それを踏まえたうえで聞きたいのだけど―――」
飛鳥はガルドではなくジンを鋭く睨んで問う。
「ねえ、ジン君。ガルドさんが指摘している、私達のコミュニティが置かれている状況………というものを説明して戴ける?」
「そ、それは」
ジンは言葉に詰まった。黒ウサギと口裏を合わせて隠していた事を、ガルドを怒らせた事であっさりバラされてしまったという自身が招いた失態に気づいたのだ。
あの場を乗り切るにはガルドを挑発するような発言は
ジンの動揺を飛鳥は見逃さず畳みかける。
「貴方は自分のことをコミュニティのリーダーと名乗ったわ。なら黒ウサギと同じで新たな同士として呼び出した私と春日部さんにコミュニティとはどういうものなのかを説明する義務があるはずよ。違うかしら?」
ジンをナイフのような鋭い切れ味で責める飛鳥。それを見ていたガルドは人の顔に戻すと含みのある笑顔と上品ぶった声音で飛鳥に同意した。
「レディ、貴女の言う通りだ。コミュニティの
「〝ノーネーム〟のコミュニティは崩壊してるから………ですよね?」
ガルドが話している途中で極夜姫が割って入る。
ジンは驚愕に目を見開き声を上げた。
「な、なんで貴女がそれを………!」
「はい、それはですね。白夜姉様の話の時に黒ウサギさんが口を滑らせていましたから。『白夜叉様にはコミュニティが崩壊してからもお世話になっております』って言ってましたので。恐らく彼女は気づいていないと思いますが」
「そ、そんな―――ハッ!?」
ジンがショックを受けて打ちひしがれること僅か数秒。飛鳥と耀の冷ややかな視線に気がつきしまった、と口を押さえる。
しかし何もかもが手遅れだった。飛鳥はジンから視線を外して極夜姫を見る。
「極夜さん、今の話は本当?」
「はい、黒ウサギさんが言っていたことですので信憑性は高いはずです。ジンさんの動揺を見れば確信できますし」
ジンを見て答える極夜姫。
飛鳥はそう、と相槌を打ちガルドに視線を向ける。
「………ねえ、ガルドさん」
「はい?何でしょうか、レディ?」
「ジン君のこの様子だと聞き出せそうにないわ。だから代わりに詳しそうな貴方がジン君のコミュニティについて教えてくださる?」
飛鳥がお願いすると、ガルドははい、と返した。
「承りました。では〝フォレス・ガロ〟のリーダーであるこの私が、コミュニティの重要性と小僧―――ではなく、ジン=ラッセル率いる〝ノーネーム〟のコミュニティを客観的に説明させて戴きます」
《ガルド、説明中―――以下省略》
ガルドの説明を聞いて飛鳥は含みのある声で問う。
「………そう。事情はだいたい分かったわ。それでガルドさんは、どうして私達にそんな話を丁寧に話してくれるのかしら?」
「お察しがよろしくて助かります。はい、では単刀直入にお答えしましょう。―――もしよろしければ黒ウサギ共々、私のコミュニティに来ませんか?」
「な、何を言い出すんですガルド=ガスパー!?」
ジンは怒りの余りテーブルを叩いて抗議する。
だがガルドは獰猛な瞳でジンを睨み返した。
「黙れ、ジン=ラッセル。そもそもテメェが名と旗印を新しく改めていれば最低限の人材はコミュニティに残っていたはずだろうが。それを貴様の我が
「そ………それは」
「何も知らない相手なら
ガルドの瞳に宿る鋭利な輝きに貫かれてジンは僅かに怯む。しかしそれ以上に飛鳥達に対する後ろめたさと申し訳なさがジンの胸中で濁り出す。
それほど彼のコミュニティは崖っぷちだった。
するとコーヒーを飲み干した極夜姫は、ティーカップをテーブルに置きスッと静かに立ち上がりガルドを見た。
その視線に気がついたガルドは極夜姫に向き直り、尋ねた。
「どうかなさいましたか、レディ?」
「………私も貴方に質問したいことがあります。いいでしょうか?」
「ええ、構いませんよ。私のコミュニティについてですか?」
「いいえ、違いますよ。私が貴方に聞きたいことはたった一つです」
極夜姫は赤い目をスウッと細めて告げた。
「貴方が私達を勧誘しに来た目的は―――黒ウサギさんが欲しいからなんですよね?」