ラビリンス・ワールド   作:坂田 信長

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続きです。ぜひ読んでください!


迷宮の脅威

3

    俺が歩き出して四十分。景色は未だ変わらない。そろそろこの景色にも見飽きてきた頃だ。

    本当に千人もいるのだろうか。この迷宮がどんなに大きいといっても、こんなに歩き続けて人に一人も会わないとは。

「あの説明文、本当なのかな?何か、信じられなくなってきた。」

    俺は溜息を吐きながらも、前へ前へと歩いていく。

    数分歩いた後、分かれ道を発見した。あの文字の説明によれば、この道のどちらかが当たりで、どちらかが外れ。

「……どっちだろう。こんなの、勘で行くしかないよな。……よし!右にしよう!」

    俺は右の道を選ぶ。自分でも、なぜ右を選んだのかは分からないが、こういう時は直感に頼るのがセオリーだろう。

    恐る恐る歩いていると、前方から声が聞こえてくる。耳を澄ますと、その声は次第に近付いているのが分かる。

「……これは叫び声かな……叫び声⁉︎」

    眼を凝らすと、一人の男性がこちらに走ってきた。

「だぁー!逃げてぇー!こっちは外れだー‼︎‼︎」

「何だってー⁉︎」

    俺は男性と一緒に走り出す。後ろを向くと、何十匹という数の狼がこちらに向かって走ってきていた。

    俺達は道を出て、すぐさま左の道へと変更する。しばらくすると、狼の大群はいなくなっていた。

「はぁ〜」

「ふぅ〜」

    俺達は同時に座り込み、溜息を吐く。危うくあと少しで食い殺される所だった。

「いや、本当参ったよ!自信満々で右の道を行ったら行き止まりで、壁が開いたと思ったら、狼の大群が出てきてこっちに走ってきたからな!」

    男性は汗を拭いながらそう言った。もしかすると、俺が右の道を選んだ理由は、ただ単に右が好きだったからかもしれない。

「おっと!自己紹介が遅れたな。俺の名は晃。二十六歳だ!よろしくな!」

「俺は奏。十七歳。よろしく!」

    俺達は自己紹介を済ませる。自分の話をしていく内に、次第に俺達は打ち解けあっていった。

「晃さんって、どんな仕事してるの?」

    少し気になり、俺は晃に質問する。

「俺は、デザイナーの仕事をしてんだ!」

    晃は自慢気に言う。すると晃は、俺の方を向く。

「あと、俺の事、さん付けで呼ぶのやめろよ!さん付けで呼ばれるの、あんま好きじゃないし。それに俺ら、もう友達だろ?友達にさん付けなんて、おかしいだろ?」

「分かった!今度から、晃って呼ぶよ!」

    俺はすぐに承諾した。俺達は立ち上がり、先に進む事にした。

    しばらく歩いても、通路の雰囲気は全く変わらない。これでは、ちゃんと前に進んでるのかも分からない。

「……なぁ、奏。これって、ちゃんとゴールに向かってんのか?」

「分からない。同じ様な道ばかりだからな。でも、さっき分かれ道を通ったって事は、ちゃんとゴールには近付いていると思うけど。」

    晃の問いに、俺はそう答える。だが、俺の今の発言は正直、自分でも自信がなかった。例え分かれ道を通ったとしても、別の通路で元の場所に戻ってしまったという事だって否定できない。

「……おい奏、やべぇぞこれ……もうこんなに死んでら……」

    晃が震えた声で言う。その目は、左腕の腕時計を見たまま動かない。

    俺も腕時計を見る。つい数十分前まで千だった数字が、九百五十になっている。つまり、この短時間で、すでに五十人もの人が死んだという事になる。

「……嘘だろ」

    俺は乾いた唾を飲み込む。俺と晃は、互いに顔を見合わせる。その表情は、どちらも不安な表情だ。

    直後、どこからか物凄い音が聞こえた。俺達は音のした方へと走る。そこには、分かれ道があった。危険なため、中には入らなかったが、生存者の数が六減っていた。

「今のだ!今ので六人が死んだんだ!」

    晃は叫ぶ。俺は声が出なかった。先程の狼は恐らく、トラップの中ではかなり優しい方だろう。今の音は狼なんてレベルじゃない。もっと大きな、つり天井か何かだ。

「し、慎重に進もう!」

「お、おう!」

    俺達は歩き出した。しばらく歩くと、再び目の前に分かれ道が現れた。間違えた道を行き、もし死んだら……。

「奏、どうする?どっちの道を行く?」

    晃が俺に聞いてくる。しかし、どちらの道を行けば良いのか俺にも分からない。

「……ならさ、せーので同時に指を指そう!」

    俺の問いかけに、晃は首を縦に振り頷く。

「せーのっ‼︎」

    掛け声が、洞窟の壁に反射して響く。俺達が指し示したのは、どちらも左だった。

「ヘッ……左かよ」

「晃こそ、左を指してるじゃないか!」

    俺達は互いに顔を見合わせ、微かな笑みを浮かべる。二人揃って同じ方向を示す事は、何かの運命かもしれない。

「んじゃ、行くか!」

    晃の声で、俺達は左の道へと入っていく。だが、何かがある可能性も否定できない。気を抜くわけにはいかなかった。

    だが、しばらく歩いてもトラップらしい物は出てこない。どうやら、この道で正解だった様だ。

「よっしゃー‼︎左でよかったんだ!」

    俺は喜びよ声を上げる。しかし、晃は一向に喜ばない。喜ぶどころか、少し強張った表情で天井を見ている。

    俺も天井を見る。すると、一つの石ころが落ちてきた。

「……いや、違う。この道は当たりじゃねぇ‼︎」

    晃が叫ぶ。次の瞬間、突然天井が崩れ始めた。この左の道は辺りではなく外れだ。天井を崩して、俺達を生き埋めにするつもりなのだ。

「走れ‼︎」

    晃の掛け声で、俺と晃は走り出す。しかし、崩れる速度の方が速く、道の出口まであと少しだが、間に合いそうにない。

「……っそぉー‼︎」

    不意に、晃が俺の背中を強く押した。俺は前に倒れ込み、後ろを向く。俺は晃が押してくれたおかげで、道の外に出ていた。しかしーー。

「あ、晃ー‼︎」

    晃は間に合わず、その場に倒れ込んでいる。

「なにしてんだ、晃!早くこっちに来て!」

    俺が晃に寄ろうとするが、晃は強く首を横に振る。

「……来るな。お前まで死んじまうかもしれねぇだろ。奏、お前は生きろ!」

「なに言ってんだよ!晃も……」

    俺が言い終える前に、晃は右手の親指を立てて、俺に向ける。何も言わなかったが、その表情は笑っていた。

    その直後、左の道は完全に埋もれてしまった。晃のいた場所には、岩が積もっているだけだ。

「おい、晃……返事しろよ。そこにいるんだろ⁉︎俺を驚かせようとしてるだけなんだろ⁉︎」

    だが、返ってくるのは沈黙だけだ。俺は咄嗟に、左手の腕時計を見る。生存者の数が一人減っている。

「そんな……嘘だろ……おい!俺を守るために死ぬなんて許さねぇぞ‼︎」

    俺は怒鳴るが、何の返事も返ってこない。

「クソ……クソー‼︎」

    俺は思い切り地面を殴り付ける。地面には、悔し涙が点々と零れ落ちる。俺が油断したせいで、晃が死んだのだ。

    俺は立ち上がる。晃の死を無駄にするわけにはいかない。俺は生きる。晃の分まで生きる。

「……っそぉぉぉぉ‼︎」

    俺は一目散に走り出す。この迷宮のゴールを目指して。これから、どの様な事が起きるか分からない。だが、そんな事を恐れている場合ではない。

    俺は拳を握り締め、ただ走り続ける。

 




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