豊穣の女主人。そこのオーナーのミアの声が飛び交う。
「シル、これあの机のお客さんに!」
「はーい!」
「ルノア!ポテト揚がったよ!」
「はい!」
「アーニャ!向こうの机の食器片付けてきな!」
「にゃ!」
と、まぁ今日も繁盛してる店。だが、ミアの表情は不機嫌そうだ。
「クロエあのガキは金払いに来たかい?」
「来てないニャ。どーせいつものあれニャ」
「チッ……仕方ないね。リュー!行くよ!クロエ、あんたも手伝いな」
「ニャ!」
「ったく、あのクソガキ……今日こそ締め上げてやる」
言いながら、ミアは指をゴキゴキ鳴らす。そして、店を出て、二階に住んでる男の元へ向かった。
「リュー。あんたは裏へ回りな」
「了解いたしました」
リューにそう言うと、ミアはクロエを連れて二階の玄関前で叫んだ。
「こんのクソガキ!一回しか言わねぇからよぉく聞けよ!今月の家賃持ってこい!」
「持ってこいニャ!」
だが、返事はない。留守を決め込んでるつもりか、夜なのに電気もついてなかった。
「チッ、しょーがないねぇ。クロエ!」
「にゃ!」
そして、二人でドアをブチ破った。強硬手段である。中はシーンとしていて、誰の姿も見えない。
「………クロエはここで待機してな」
「了解にゃ!」
ミアはそう言うと中は悠々と歩く。トイレやら風呂やらの中を確認しつつ、居間へ入った。居間にも姿はない。すると、部屋の中の奥の窓が開いてるのが見えた。
「チッ!窓から逃げたのかい!」
そのまま急いで窓から外を見ると、男とリューが睨み合ってるのが見えた。
「リアム、観念しなさい。大人しく家賃を払えば危害は加えません」
リューが言った。リアムとは豊穣の女主人の上の階でよろず屋をやっている少年だ。ダンジョンで死にかけているところを拾われ、なんやかんやで二階に住み込んで何でも屋を始めたのである。
「はっ、交渉が甘ぇんだよ。家賃払う代わりに金くれるなら考えてやるよ」
「それ、家賃キャッシュバックしてるじゃないですか。抵抗するというなら私もあなたも逃がしません」
「やってみな」
ジリ、ジリ……っと、お互いに隙を伺う。その時だ。リアムの後ろにミアとクロエが降り立った。
「観念しな坊主」
「そこまでにゃ」
「ババァ、クソ猫……」
声を漏らすリアム。そのリアムにミアはクワッ!と目を見開いた。
「ボコボコにされたくなきゃ、今すぐに部屋の隅から隅まで金を掻き集めてここに揃えんかい!」
「だが、断るッ‼︎今月は46分の1カップ麺しかないんだ‼︎」
リアムはそう言い放つと、煙玉を叩きつけた。
「しまった……!あのガキ……!」
ミアが狼狽えてる間に、リアムは忍者のように壁を蹴って屋根に上がった。そのまま屋根の上から逃げようとした時、煙からシュバッ!とリアムを囲むようにクロエとリューが屋根の上に上がってきた。
「! 何……⁉︎」
「猫の耳を甘く見るにゃ」
冷たい汗がアルの頬を流れた。三人はにらみ合う。リアムが走り出した。が、その先にリューが立ち塞がる。
「行かせません」
「オラァッ!」
リアムが気合を入れながら殴り掛かった。それを首を捻って躱すリュー。それを読んでたかのように、肩に手を置き、無理矢理ジャンプして、片手で側転しながら真上に避けて通り過ぎた。地面に着地し、逃げようとしたが、肩の上に置かれた手をリューは掴み、巻き戻しするように背負い投げした。
「オッファアッ‼︎」
「にゃー!確保にゃ!」
背中を屋根の上に強打したリアムの上から強襲するクロエ。
「甘いんですよ。あなたが女性には手を出さないことは既にバレています」
決め台詞のようにリューに言われ、ガッチリと二人に鹵獲された。
○
とりあえず、今日の営業は終了した豊穣の女主人の中。両手をロープで巻かれたリアムは椅子の上に座らせられている。パンツ一枚で。その目の前で金を数えるミア。
「ひーふーみー……なんだい、金ならちゃんとあるんじゃないかい」
「食費だよそれは!どうすんだ、うちにはもう64分の1カップ麺しかないんだぞ!」
「64分の1カップ麺って、なんですか?」
リューが真面目な顔で聞いた。
「カップ麺の半分の半分の半分の半分の半分だ」
「半分一個足りてませんよ?」
シルに笑顔でツッコまれた。
「とにかく、家賃はもらったよ。来月逃げたら今度こそタダじゃおかないからね」
まとめるようにミアに言われて、リアムは小さく舌打ちした。
「さ、もう帰んな」
「あーあ畜生……これから何を食っていけばいいんだ……124分の1カップ麺しかないか……」
と、ボヤきながら店を出ようとするリアムの肩に手が置かれた。振り向くと、笑顔のシルが立っていた。
「………シルさん」
「64分の1の半分は128分の1だよ?」
「分かったよこのクソドS!」
○
翌朝。目を覚ましたリアムは、欠伸をしながら寝惚けた顔で歯磨きを始めた。今日から生きる手段を探しに歩き回らなければならない。そんなわけで、朝は少しでも金を稼ごうと、道に金が落ちてないか探すために早起きした。
で、家を出て階段を降りようとした。が、外には見慣れない光景が見えた。
下の店の店員のシルが、見たことのない白髪の男に声をかけていた。
「い、いえ、こちらこそ驚かせてしまって……」
と、慌てて頭をさげるシル。その様子を見ながら耳をほじるリアム。
「な、何か僕に?」
「あ……はい。これ、落としましたよ」
「え、『魔石』?あ、あれっ?す、すいません。ありがとうございます」
「いえ、お気になさらないで下さい」
まるでラブコメの出会い編のような会話だった。が、リアムにとってはどうでもいい。大きく欠伸をすると、後頭部を掻きながら家を出た。
○
昼間になった。拾った金の合計は8ヴァリス。うまい棒買えない。
「………昼飯は抜きだな」
そう判断して、再び金の探索を始める。しばらく街をキョロキョロしてると、どっかの店の近くでチャリーンっと音がした。瞬間、そこに飛び付いた。
「ウガアアアアッ‼︎」
「ひいぃっ⁉︎」
お金を落とした本人がビビってドン引きする中、リアムは金をめでたくゲット。だが、当然そうもいかないわけで、落とした本人が言った。
「おい待てよ。それは俺が落とした金だ!」
「知らねーよ。落とした時点でこいつは一度自然に還った。つまり、誰の物でもなくなったんだよ」
「還るも何も人工物だろうがこれは!」
「うるせーんだよ!テメェにとっては金でも俺にとっては生命線なんだよ!」
「お前どんな生活してんの⁉︎」
なんて話してると、ヌッとその二人の所に誰か入った。
「なにをしてるんですか」
リューだった。どうやら、お使いの途中だったようだ。リアムが男を指差して言った。
「俺の金をこいつが奪おうとしたんだよ!」
「誰がどう見ても俺の金だったろうが!」
「お前は落としただけだろ!拾ったのは俺だ!」
「議論の余地なく俺の金じゃねぇか!」
「だーかーらー!落とした時点でそれは……」
「やめなさい。みっともない……」
リューはため息をつくと言った。
「申し訳ありません。うちの者がご迷惑をお掛けしました」
女性に頭を下げられ、文句が言えなくなった男は舌打ちして不愉快そうに帰った。
「おい何してんだよリューさん。せっかく俺の生命線が繋がるチャンスだったのに……」
と、言いかけたリアムにリューはパンとリンゴを渡した。
「これで我慢してください」
「えっ?マジ?くれんの?サンキュー」
「お金は後で返して下さいね」
「あ、やっぱりそういうノリか……」
「帰りますよ」
リューに言われ、あとに続くリアムだった。