その日の夜。タダで飯を食わせてもらおうと、リアムは下の階に入った。すると、ミアがどっかで見た白髪の男と話をしてるのが見えた。
「あんたがシルのお客さんかい?ははっ、冒険者のくせに可愛い顔してるねえ!」
そう言われ、半ばくらい視線をぶつけるその白髪の冒険者。
「なんでも、あたし達に悲鳴を上げさせるほどの大食漢なんだそうじゃないか!じゃんじゃん料理を出すから、じゃんじゃん金を使ってくれよぉ!」
「⁉︎ ちょっと、僕いつから大食漢になったんですか⁉︎僕自身初耳ですよ⁉︎」
ガバッと音を立ててシルを睨む男。だがシルは、
「……えへへ」
と、笑うだけだった。
「えへへ、じゃねー⁉︎」
「その、ミアお母さんに知り合った方をお呼びしたいから、たっくさん振舞ってあげて、と伝えたら……尾ひれがついてあんな話になってしまって」
「絶対に故意じゃないですか⁉︎」
「私、応援してますカラッ」
「まずは誤解を解いてよ⁉︎」
「ままま、落ち着けよ」
その二人の間に割って入るリアム。
「俺が食うの手伝ってやるから落ち着けよ」
「そういう問題じゃありませんよ!お金の問題です!ていうか誰ですかあなた⁉︎」
「金の方なら心配すんな。お前の奢りだ」
「だから不安なんですよ!」
「俺も8ヴァリスくらいは援助してやる」
「うまい棒も買えないじゃないですか!」
「馬鹿野郎!俺の全財産だぞ!」
「あんたタダ飯食べたいだけだろ!」
男の的確なツッコミも涼しい顔で流すリアムの頭をシルがチョップした。
「コラ、お客さんをあまり困らせないの。申し訳ありませんベルさん。全部冗談ですから、ちょっと、奮発してくれるだけでいいんで、ごゆっくりしていってください」
「……ちょっと、ね」
ちゃっかりしてるなぁと思いつつ、ベルさんと言われた男はメニューを手に取り、料理を見ていく。
「………で、リアムは何しに来たの?」
「ただ飯食」
「帰れ」
追い出された。
○
それから数時間後、昼間にもらった。パンを一切れ齧りながらリアムはダラけてると、バタンッ!と玄関が開いた。
「リアム!いるかい⁉︎」
ミアの声がした。呑気に欠伸しながらリアムは玄関に向かった。
「なんだよババァ。家賃なら昨日、絞り取ったろうが」
「あんた、来月の家賃見逃して欲しくないかい?」
「あ?」
「仕事だ。食い逃げを追って来な」
○
「特徴は白髪に赤い目、ねぇ……シルさんの連れてきたクソガキじゃねぇか」
あっちに行った!という方向にリアムは走る。途中で曲がったかもしれないが、相当目立っていたのか、周りの街の人に話を聞けば、すぐに情報を得ることが出来た。
すると、ようやくベルの姿が見えた。ベルはダンジョンに入ろうとしていた。
「いた」
そう呟くと、ベルのあとを追ってダンジョンに武器も何も持たずに入っていく。だが、ダンジョンというのは色々とゴチャゴチャしてて複雑だ。
「見失った……」
はぁ……とため息をつくリアム。ダンジョンに入った以上は入り口で待ってりゃ出てくんだろと思い、引き返そうとした。しばらく歩いて数十分、
「あれ?ここさっきも来たような……」
おかしいと思い、とりあえず帰ろうとする。だが、
「あれ?ここさっきの場所だよな?あれっ?迷った?」
○
『ィィアッ⁉︎』
すれ違いざまに振り抜いた刀身がモンスターを斬り裂いた。背後に置いてきたモンスターの悲鳴が短く響き、どさりと地面に倒れた。モンスターの死骸を少し見つめたあと、ベルは再び歩き出した。
疲労がたまっているはずだが、そんなの気にもせずにダンジョンを歩く。視界に入るモンスターを片っぱしから斬り裂いていった。
(ここ、どこだろう……)
ふと、そう思った。気が付けば、目の前に現れたモンスターは今まで交戦してきたものとは別のものだったからだ。
(5……いや、6階層かな)
そう判断しても歩を止めない。すると、部屋状の広い空間に辿り着いた。空間は正方形で、薄黄緑色の平面だけが広がっていた。その中央で立ち尽くすベル。すると、ビキリ、ビキリ、と何かが割れるような音が響いた。見れば、ダンジョンの壁が破れ、そこからモンスターが生まれた。
6階層出現モンスター、ウォーシャドウ。
気が付けば、もう一体生まれていた。ベルを挟み討ちするように生まれ、二対一となった。
(やってやる……!)
そう呟いた時。
「はぁい捕獲〜」
ベルの背中にドロップキックが直撃した。リアムの飛び蹴りだった。
「てめっどこまで逃げてんだコラ」
「待って待って!何⁉︎誰⁉︎」
「俺だよ。ワリオだよ」
「いや違うでしょ絶対!いいから離して!」
「ダメだよ。絶対逃げるじゃん」
「逃げない!逃げないから勘弁して!」
「まぁ金がない奴の気持ちはわからなくもないけどな、だからって食い逃げはダメだよお前。お母さん泣くよ?」
「食い逃げ⁉︎なんのこ……あっ!しまった!」
「俺も一緒に謝ってやるから、一度帰ろう。な?」
「いいから話聞いてよ!てかそんな場合じゃないよ!」
「あ?」
ベルの言う通り、ウォーシャドウが襲いかかってきていた。すると、リアムはベルから離れ、ウォーシャドウの攻撃を躱し、顔面に拳を叩き込んだ。
「邪魔すんな」
「!」
ベルが驚く中、もう片方のウォーシャドウが襲い掛かる。その攻撃も躱し、ボディに拳を叩き込んた。すると、最初に殴り飛ばした方のウォーシャドウが爪で襲い掛かってきた。それを首を捻ってギリギリ躱すと、爪に手刀を入れて叩き折り、その爪でウォーシャドウの顔面に突き刺した。片方をそれで殺すと、ドロップしたウォーシャドウの指刃を拾い、それでもう片方のウォーシャドウの胸を突き刺し、トドメに喉に突き刺した。
「………ふぅ」
息をつくと、ドロップアイテムをカランとその辺に捨てた。
「帰るぞ。クソガキ」
「……君、強いんだね」
「褒めて誤魔化そうったってそうはいかねーぞ。おじさんもうその手の詐欺には引っかからないんだからね」
「いや違くて。ねぇ、君……リアムくん、だよね。シルさんから聞いたよ。何でも屋さん、なんだよね?」
「あ?ああ」
「僕から依頼、お願いしていいかな」
「なんだよ」
「せめて今日だけは、見逃してくれない?」
「あ?」
「お金は必ず明日払いに行く。だから、お願い。お願いします」
「……………」
「強く、なりたいんです」
ベルは頭を下げた。それにリアムはため息をついて言った。
「ただし、条件がある」
「なんですか?」
「俺も着いていくからな」
「へっ?そ、そんないいですよ!付き合ってもらう理由なんて……!」
「俺ももう一つ依頼があってね、お前を連れ帰って金払わせないといけないからな」
「………わかりました」
「あっ、俺にも金払えよ」
「はい。分かってます」
「やったぜ。しばらくは食費だいじょぶそうだ」
「いくら取るつもりですか⁉︎」
そのまま二人でダンジョンに篭った。