どっかの橋の上。そこで、ベルとアイズは修行していた。アイズの猛攻を、ベルは躱す、防ぐ、受け流す。そして、防御に加えて、ベルは初めて反撃した。
「ッ!」
あっさりと防がれた。それでも、確かに届いた。弾かれた短刀ごと腕をだらりと下げ、呼吸を大きく乱すベルをアイズは黙って見つめた。
「これで、終わりだね……」
ぽつりとアイズが呟いた。
「今日まで、ありがとうございました」
頭を下げるベル。
「私も、ありがとう。……楽し、かったよ」
そして、アイズは別れ際に言った。
「……それじゃあ、頑張ってね」
「……はい」
そのままアイズはその場をあとにした。ベルも、リリとの待ち合わせに向かった。
○
翌日、ベルとリリは今日こそ10階層を突破しようと歩いていた。
「ねぇ、リリ」
「は、はい」
「ちょっと、おかしくない……?」
「おかしい、ですか?」
「モンスターの数が少な過ぎる」
さっきから歩いててもモンスターと一回もすれ違っていない。だが、それでも先へ進んだ。その時だ。
『………ヴーーーォ』
何処かで聞いた声に、ベルは足を止めた。いや、止まった。
「…………」
「い、今のは……?」
リリが聞いたが、ベルは何も言わない。一発でその鳴き声の正体が分かったからだ。
『………ヴゥゥ』
その正体の奴が歩いてきた。
『オオオオォオオォオオォオ………』
ミノタウロスが、歩いてきた。
「な、なんで、ミノタウロスが……リアム様が倒したんじゃ……」
リリの頭の中に、リアムの死体が思い浮かんだ。が、慌ててかき消す。
『ヴヴォオオオオオオオオッッ‼︎‼︎』
ミノタウロスの咆哮が9階層に響いた。
「にっ、逃げましょう、ベル様!今のリリ達では太刀打ちできませんっ!早くここからっ……ベル、様?」
途中からベルの異変に気付いたが、ベルは動かない。動かない。ただ、愕然とミノタウロスを見上げる。
「ベル様⁉︎ベル様ぁ!」
何度、名前を呼ばれてもベルから返事はない。
『オオオオオオオオオオッ!』
ミノタウロスが突進してきた。ベルは武器も何も抜けない。
「ベル様!」
そのベルをリリが突き飛ばした。
「り、リリ……?」
リリの頭から血がドロリと流れる。そこでようやくベルの体は動かせた。
「リリ!」
そのベルにミノタウロスが突進してくる。
「ごめん!リリ!」
ベルは自分の上に被さってるリリを投げて、ミノタウロスに正面から相対する。
「ファイアボルトォオオオオオオオオッ‼︎」
『ブゥオッ⁉︎』
緋色の雷がミノタウロスの肉薄を跳ね返す。一瞬、ミノタウロスは後退した。
「うあああああああああああっ⁉︎」
ファイアボルトに効果があると判断すると、連発した。爆炎が爆炎を呼び、煙がその場を覆った。
「はぁ、はっ……!」
呼吸を整えながらもベルは魔法を止めた。だが、
『ンヴゥッ』
その唸り声とともに煙の中からミノタウロスの腕が伸びてきた。
「がっっ⁉︎」
ぶん殴られ、壁に叩き付けられるベル。壁面が破れる。
『フゥウウウゥゥ……』
悠々とミノタウロスが歩いてくる。
「リリ、逃げて!」
とりあえず、リリに声をかけた。だが、リリは動かない。涙目でベルを見ている。
「にげてっ……逃げろよっ⁉︎」
リリは泣きながら頭を横に振った。
「早くっ、いけぇえええええええ‼︎」
怒鳴り声を上げて、リリはようやく動き出した。そして、ベルは剣を抜いた。
(リリが逃げるまで、時間を稼ぐ!)
そう心の中で気合いを入れると、突撃した。
○
(リアム様がいれば……!助けてくださいリアムさ……ていうかマジあの人何してんの?ミノタウロス倒してないの?)
が、いない奴に八つ当たりしても仕方ない。もしかしたら、走っていればリアムとかち合うかもしれない。
「リアム様……!」
たったか走ってると、またムギュッと何かとぶつかった。
「ああ?って、またお前か!」
ベートが立っていた。が、すぐに足にしがみつく。
「あん?」
「お願いします冒険者様……!べ、ベル様を、助けてください……!」
「い、いやだってお前が何でも屋を探せって……」
「ベル様が、ミノタウロスに……!」
と、言いかけた時、アイズが走り出した。
「⁉︎ おいアイズ!………ったく、なんだってんだどいつもこいつも」
仕方なく、他のメンバーもアイズを追った。
○
ミノタウロスから攻撃を避けるベル。
「は、ぁっ!」
ミノタウロスの剛剣を回避し、なんとか時間を稼ぐ。その時だ。頭突きがベルの体に直撃した。
「うあっ⁉︎」
悲鳴を上げ、壁に叩き付けられた。身体が痛む、手足が痙攣する、歯がかちかちと鳴る。それでも、ベルは立とうとした。だが、立てない。そんなの御構い無しにミノタウロスはベルに近付いていく。
(もぅ、無理………)
諦めかけた時だ。ミノタウロスの方から怯えたような声がした。何事かと見上げると、自分の眼の前に、アイズ・ヴァレンシュタインが立っていた。
「いたぁ!アイズゥー⁉︎」
「チッ、つまんねえことに振り回されてんじゃねえっての!」
さらに後ろから声がした。やって来たのはロキファミリアの皆様。
「大丈夫?」
アイズに聞かれた。
「頑張ったね」
優しく声を掛けられた。
「今、助けるから」
だが、その言葉が出た瞬間、ベルの心の中で何かが動いた。助けられる?また同じように?その瞬間、頭に火が、つき、立ち上がった。
「………ないんだっ」
「えっ?」
「アイズ・ヴァレンシュタインに、もう助けられるわけにはいかないんだっ!」
腹の底から叫び、ナイフを構えた。そして、真っ直ぐとミノタウロスを睨む。
「うあああああああッッ‼︎」
叫び、突撃した。その様子を後ろから見ながらベートは呑気に言った。
「ま、ダンジョンで獲物を横取りするのはルール違反だわな。ふられたな、アイズ。………てかあの白髪頭、もしかして、あの時のトマト野郎か?くっ、はっはははっ!何だよ、つくづくミノタウロスと縁があるみないだな、あのガキ!」
「それって、アイズが間一髪で助けたっていう?」
「ああ、間違いねえ!みのたうろすに惚れられちまったんじゃねえか!あのガキが恋しくて、はるばる中層からやって来ましたってよ!」
「ふざけないで、ベート」
ティオネの注意に肩をすくめるベート。
「ねえ、いいの?あの男の子、Lv1なんでしょ?絶対にミノタウロスにやられちゃうよ!」
「トマト野郎が決めたんだ、俺達が口出しするもんじゃねえっての。なあティオネ?」
「私に振らないでくれる?」
と、ティオナ、ベート、ティオネと話す。
「どっちにしたって、あのミノタウロス放っておくわけにはいかないんでしょ!先か後かの違いだけじゃん!あたし、行くよ!」
「放っておいてやれって。あのガキ、男してるんだぜ?あれだけ痛い目にあって身の程知らずってわけじゃねえだろ。また、助けられちまったら、俺だったら死にたくなるね」
「ベートの美学なんてどうでもいいし!」
ギャーギャー騒ぐティオナ。すると、ティオネが二人の肩を突いた。
「ねぇ、あれ……」
「アア?なんだティオネ……あ?」
二人は前を見た。ベートもティオナも固まった。目の前では、ベルとミノタウロスがお互い一歩も引かずに凄まじい剣戟を繰り広げていた。
「え……あ、あれ?」
「………誰がLv1ですって?」
その様子に声を漏らす。
「僕の記憶が正しければ……」
フィンが後ろから声を漏らした。
「一ヶ月前、ベートの目には、あの少年がいかにも駆け出しに見えたんじゃなかったのかい?」
ベルとミノタウロスの激闘を、アイズもベートもアマゾネス姉妹もフィンもリヴェリアもリリも見ていた。
『ウヴォオオオオオオオオオッッ‼︎』
「ああああああああッッ‼︎」
二人の雄叫びが響く。だが、リーチが違う。ベルは攻めきれていない。
「ミノタウロスの肉は断ちにくい」
アイズが声を漏らした。すると、ミノタウロスの攻撃をベルは転がって躱した。そこに踏み潰そうとミノタウロスは足を振り下ろすが、持ち前の速さで回避し、ヘスティアナイフで斬りかかった。が、大剣で防がれる。
「こん、のッッ……!」
間合いが若干開き、ベルは右手を突き出した。
「ファイアボルト!」
それが巨体に直撃し、後退させる。が、ミノタウロスも負けじと大剣を振り下ろした。それを、ジャンプで躱し、ベルは短剣を投げた。それがミノタウロスに向かうも、「小賢しい」とばかりに避けた。
「うあああああああっ!」
ベルはスタートを切った。ヘスティアナイフを握りしめ、突撃した。慌てて大剣でガードしようとするミノタウロス。だが、ベルの攻撃はミノタウロスが大剣を握り締めている左手だ。そこにヘスティアナイフを叩き込んだ。
『グヴゥ⁉︎』
腕ごと吹き飛ばされ、ミノタウロスは大きく仰け反る。そして、ベルは大きく飛び上がり、空中の大剣をキャッチし、ミノタウロスの後方に降り立った。そのベルに飛びかかるミノタウロスにベルは至近距離から静かに言った。
「ファイアボルト」
大爆発。至近距離からの爆発で、ミノタウロスの体は宙に浮いた。間髪入れずに空中のミノタウロスに大剣をぶち込む。
「ああああああああああッッ!」
強靭な肉体に、太い赤線が走った。
「入ったぁっ⁉︎」
誰かが叫んだ。そして、ベルはこのチャンスを逃さない。
「んのぉおおおおおおおおおお‼︎」
無理矢理、大剣をブン回してミノタウロスを押す。だが、
『ゥーーーォオオオオオオオオオオオッ⁉︎』
怯んでいたミノタウロスが吠えた。だが、ベルは負けじと押し返す。そのまま正面から殴り合った。そして、二人の距離が軽く空いた。
「あああああああああああああッッ‼︎」
『ヴヴォオオオオオオオオオオッッ‼︎』
突っ込んだ。
「馬鹿がッ!」
「駄目です、ベル様ぁ⁉︎」
ベートの罵声とリリの悲鳴が響く。ミノタウロスの角がベルが奪った大剣をへし折った。だが、それはベルの予想通りだった。ベルはナイフを抜いた。すれ違ったミノタウロスのすぐ後方で突貫の勢いを殺す。ヘスティアナイフがミノタウロスを目掛けて、追撃する。
ヘスティアナイフがミノタウロスの右脇下に叩き込まれた。そして、その傷口に手を当てた。
「ファイアボルト!」
ドゴン!とミノタウロスの全身が振り乱れる。
「ファイアボルトォッ!」
さらに体が肥大化する。ミノタウロスはそれでもベルへ肘を直下させた。だが、ベルの方が早かった。
「ファイアボルトォオオオオオオオオッッ‼︎‼︎」
ミノタウロスが爆散した。
「勝ち、やがった……」
呆然とベートは呟いた。ベルは立ったまま動かない。
「……精神枯渇」
「た、立ったまま気絶しちゃってる……」
ティオネとティオナが呟いた。
「ベル様……ベル様ぁっ!」
リリがベルの元へ駆け寄る。
「チッ、おいリヴェリア!野郎のステイタスを見ろ!」
「……わたしに盗み見をしろというのか、お前は」
言いながらもリヴェリアはベルに近付いた。だが、その時だ。
『ヴォー……ォォオオオオオ』
更に、声が響いた。
「あ?」
ベートが呟いた。リリの身体がブルッと震えた。
「なんだ?まだいんのか?」
「もう手を出してもいいよねぇ?」
「まぁ、もう本人も気絶しちゃってるし」
ベート、ティオナ、ティオネと好戦的に笑った。
「待て、今の声はただの鳴き声じゃないぞ。まるで断末魔だった」
リヴェリアが言った。そして、ダンジョンがグラグラと揺れる。
「あ?ミノタウロスにこんな馬鹿力あったか?」
「来るよ」
その瞬間、ミノタウロスが現れた。