豊穣の女主人の二階。リアムはそこで寝転がった。奴隷期間の一週間が過ぎ去り、疲れた体をソファーの上でダラけさせる。
「ほらリアム様。ダラけてないで下さい。今日のゴミ捨て当番はリアム様ですよ」
「もう少し待てよ……」
「ダメです。ゴミ収集の人達来ちゃいますよ」
「はいはい。わーったよこの野郎」
言いながらリアムは欠伸をして、無理矢理体を起こしてゴミ袋を担いだ。家を出て、家の横のゴミ捨て場に捨てに行った。
「最近、あの野郎言うこと聞かなくなって来たな……」
ぼやきながら階段を降りる。
「特に最近は軽蔑の視線を感じるんだよな……。あいつ、一回ヤキ入れとくか?……いや、下の連中にボコられそうだな」
そんな事を呟きながらリアムはゴミ袋をテキトーに放った。
「ふわあぁぁ……依頼も来ねぇし、なんつーか……うああ!あれだ、空から金が降ってこないかなー」
何も考えていないのである。その時だ。
「あっ」
「えっ」
誰かと激突した。ドッシーン☆と音を立てて二人はひっくり返る。
「いっ……てェなこの野郎!」
ガバッ!とリアムが起き上がった。が、目の前に自分が倒れていた。
「…………あれ?」
頭の中で思考を巡らす。
(あれ、おかしいぞ?なんか自分の声違ったよ?そして目の前に俺が倒れてるよ?あれ?いやない。ないないない。ありえない。だって、お前俺ナルトじゃないし、螺旋丸うてないし、これはあれどういうあれ?)
なんて言い訳してると、
「テメッ!何処見て歩いてやがんだ!」
リアムじゃない方の男も起き上がった。
(あれ?目の前に俺がいる。アレ?可笑しい。俺に双子の兄弟いたっけ?あれ?ないないない、あり得ない。てか俺の声違くね?こんなに俺の声若かったっけ?いやいやいや、自分に自信を持て。俺は若い。酒も飲める)
(とりあえず目の前に自分がいる)
(これはとりあえずあれか)
((ドッペルゲンガーか))
(ドッペルゲンガーって言ったらアレだろ?)
(もう一人の自分と出会ったら片方は死ぬって奴)
(で、それと俺は出会している)
(つまり、)
((奴を殺せば、俺は助かる!))
そう判断すると、二人は拳を交差させた。
「「クタバレやァアアアアッッ‼︎」」
顔面にお互い、拳が直撃。お互いに吹っ飛んだ。
「グッ……流石俺、中々やるじゃねぇか」
「このロキファミリアに一発入れるたァ」
「だが関係ねェ!」
「殺らなきゃ、殺られンだからよォ!」
二発目をお互いにぶち込もうとした時、片方の拳をアイズ、もう片方をリューが止めた。
「何をしてるの?」
「お店の前で暴れないでください」
「ベートさん」
「リアム」
「「………あん?」」
男二人がきょとんとする中、アイズはリューを見た。
「ごめんなさい……。私のファミリアの人が」
「いえ、こちらこそ上の階のバカが申し訳ありません」
「いやいやいやいや、待て待て待て待て」
ベートの体の方がアイズに言った。
「待てオイ。アイズ。俺があんな下品な猫耳野郎に見えるってのか?」
一方、リアムの体の方もリューに声をかける。
「待てよアンタ。そこの店の店員だよな?俺があんなクソニートに見えるっていうのか?」
すると、アイズとリューは引き気味に言った。
「「自分の事をそこまで落とすことは無いと思いますが」」
「……………」
「……………」
言われて二人は固まった。が、構わずアイズはベートの身体の手首を掴んだ。
「ほらベートさん行きますよ。今日からまた遠征なんですから」
「ま、待てよアイズ!頼むから待って!」
一方、リューもリアムの身体の手を掴む。
「リアム、ミアお母さんが家賃はよと言っています。行きますよ」
「ま、待てオイ!頼むからあいつと話をさせろ!」
だが、二人は言うことを聞かない。最強の女二人に引き摺られて行った。
つまり、リアムとベートが入れ替わった。
○
ロキファミリアに連れて行かれたリアム(外見ベート)は、アイズによってフィンの前に放り出された。
「ベート、また外で喧嘩してきたのか。しかも同じ相手」
「ち、ちげぇんだよフィン!」
一週間、雑用させられただけあってリアムは団員の名前はある程度覚えていた。
「何が違うんだ?言ってみろ」
「俺はなぁ……!」
入れ替わってる、と言おうとしたが、信じてもらえるとは思えなかった。
「………や、なんでもねぇ」
「これで何度目だ。何度も言うが、君はロキファミリアとして既に名が通っているし、ロキファミリアの名前を知らない者はオラリアにはいない。余りそういう行為をされると、ロキファミリアの評判が下がる。控えてくれよ」
「わ、悪かったよ……」
「じゃあ、遠征に行くけど準備はいいね?」
「は?え、遠征?」
「そうだよ」
「まった!一日だけ待ってくれ!頼む!」
「はぁ?なんでまた」
「き、今日はアレだ。お腹痛い」
「………なめてるのか?」
「いやマジで!朝から下痢気味なんだよ!」
「どうしたんだ?弱音を吐くなんてお前らしくない」
「ダンジョンにトイレはねぇだろ⁉︎野糞は嫌だし。頼む、今もお腹ゴロゴロ言ってる」
「……お腹空いてるだけじゃないのか?」
「バッキャロウ!それはグルグルだろうが!腹痛と空腹の腹の音も聞き分けられねぇのかテメェは!」
「ベート、言葉を慎め」
隣からリヴェリアに言われた。
「とにかく頼む!300ヴァリスあげるから1日待って!」
「300ヴァリスで誰が動くか!お駄賃か!」
「子供には丁度いいだろうが」
「………今なんと言ったベート」
「あ?ガキにはちょうどいいって言ったんだよ」
その瞬間、フィンはユラリと立ち上がった。
「バカ、ベート!フィン団長はこう見えてアラフォー……!」
と、リヴェリアが言いかける前にフィンはリアムに斬りかかった。グワギィンッ!と音を立てて、周りに風がブアッと巻き起こる。だが、
「っ⁉︎」
「頼むぜオイ。お兄さんいい歳こいて短気だからさ。一日待ってくれよ……」
リアムはフィンの剣を受け止めていた。片手で手のひらから血を流していながらも、しっかり刀身を掴んでいる。
(………剣が微動だにしない。ベートの奴、いつの間にこんなに力を付けて……)
で、フィンはため息をつくと言った。
「分かった。君がそこまで言うなら一日待とう。その代わり、明日の午前中には出るからな」
「サンキュー。じゃ、早速出掛けてくるわ」
「分かった」
出て行くリアムの背中を見ながらフィンは顎に手を当てて考えた。
○
リアムは豊穣の女主人に入った。
「! お客様。申し訳ありません、まだお店は……」
「ベー……リアムはいるか?」
「へ?い、いますけど……」
シルは「なんで知ってるの?」みたいな顔をするが、一応呼びに行った。数秒後、ベートがやって来る。
「オイ、話がある」
「奇遇だな。俺もだ」
二人はとりあえず、どっかの路地裏に入った。で、早速話を始める。
「………一応聞くけど、ベートだよな?」
「………あぁ」
ベートが頷くと、リアムは頭を大きく引いた。頭の上に「?」が浮かぶベート。それにリアムは頭突きした。
「ワッセロォォオイッ!」
「っ⁉︎ テメッ、何しやがんだ!」
「元に戻るには同じ事するしかねぇだろ!うおら、もう一回だこの野郎!」
「ま、待て待て落ち着けこの野郎!そんな事して戻る保証はあんのか⁉︎」
「ねぇ!でも、他にどうしろってンだ!」
「どうしようもないのは分かってる。けど、こんな所で頭突きっこしてても仕方ねぇだろ!」
言われてリアムは止まった。
「とにかく、しばらくは戻るまでこのままでいるしかないだろ」
「オイオイ冗談だろ!だってお前……これから遠征行くって言われたぞ!」
「仕方ねぇだろ。もしかしたらフィンやリヴェリアのやろうなら何か知ってるかもしれねぇ。ああ見えてジジィとババァだからな。とにかく、今回はヘファイストスファミリアと合同なんだ。行かないわけにはいかねぇ」
「そんな人任せな……!」
と、言いかけたところでリアムはピンと来た。家賃押し付けるチャンスと。
「わーったよ。仕方ねぇ」
リアムは渋々頷いた。