「帰るぞ。そろそろ」
リアムの台詞に、ボロボロになったベルは力なく頷いた。
(………この人、ほとんど素手だったのにダメージらしいダメージを受けてない。何者なんだろう……)
と、感心するベルに「早くしろ」とリアムに目だけで言われ、慌てて帰る準備をするベルだった。
「あの、リアムくん。その前にギルドと僕の家に寄って行っていい?」
「あ?ギルドはいいけどなんで家?逃げる気?」
「いや違うってば。信用しなさすぎでしょ。どうしても、心配かけたくない人がいるんです……」
「ふぅーん……もう心配かけてると思うけどね」
「うっ……」
「まぁいいや。行こうぜ」
二人はダンジョンを出た。
○
ヘスティアホーム。教会の隠し部屋。
(いくらなんでも遅過ぎる……!)
ヘスティアは同じ場所をウロウロして待っていた。腕を組み、眉根を思い切り寄せ合わせ、焦った顔を浮かべる。
「何処に行ったんだ君は……!」
我慢できなくなり、外に探しに行こうとした時だ。
「ぶぎゅ⁉︎」
ドアがいきなり開いて顔面を強打。顔面を抑えながらうずくまっていると、ベルが顔を出した。
「か、神様……ご、ごめんなさい……」
「ベル君⁉︎どうしたんだい、その怪我は⁉︎まさか誰かに襲われたんじゃあ⁉︎」
「いえ、そういうことは、なかったです……」
「じゃあ、いったいどうして⁉︎」
「返り血だよ」
後ろからリアムが顔を出した。
「うーわ……俺の家よりヒデェな……」
「だ、誰だい君は?」
「あ?俺は……まぁベルと一緒にダンジョンに潜ってた人。協力者だ」
「君が無理矢理、ベルくんを付き合わせたのかい?」
「逆だチビ。俺が付き合ってたんだ」
「そ、そうなのかい?」
「そ、そうなんです。神様……」
ベルが言うとヘスティアはなんとか納得したように頷いた。そして、ベルに向き直った。
「どうしてそんな、無茶をしたんだい?そんな自暴自棄をしたんだい?そんな自暴自棄のような真似、君らしくないじゃないか?」
「………」
だが、ベルは答えなかった。
「わかった。何も聞かないよ。君は意外と頑固だからね」
「ごめんなさい……」
「なに、いいさ。じゃあ、先にシャワーを浴びておいで」
「……はい、ありがとうございます」
で、シャワーを浴びに行くベル。
「俺、外で待ってるよ」
「いや、中にいてくれ」
「はぁ?」
「外で客人を待たせるわけにはいかないからね」
「あっそ」
で、中に入った。
○
【ステイタス】の更新を済ませて、二人はようやく店に行った。店の前でベルは深呼吸した。
「ちょっと気まずいなぁ……」
「この食い逃げ野郎ォォオオオオッッ‼︎‼︎」
「えええええっ⁉︎」
リアムのドロップキックがベルの背中に直撃し、ドアをぶち破って店の中に突っ込まれる。
「ち、ちょっとぉ!何するんだよリアム!」
「おーいババァ、依頼完了したぜ」
「話が違うじゃないか!一緒に謝ってくれるって……!」
「ハァ?知らんなぁそんな話は。………残念だったな。お前を捉えたことにすれば来月の家賃だけでなくプラスαで金もらえるかもしれねーだろうが。お前にはその餌になってもらうぜ」
「ええええっ⁉︎き、汚いぞリアム!」
「卑怯汚いは弱者の戯言。おーいババァ!捉えたって言ってんだろ……!」
「朝からギャーギャーうるせええええッッ‼︎‼︎あとドア壊すんじゃねええええッッ‼︎‼︎」
背後からミアのドロップキックがリアムの背中に直撃した。
○
「本っ当に!すいませんでした!」
頭を全力で下げるベル。
「これ、この前払えなかった分です。足りないっていうなら、色をつけてお返しします……」
「ああ、なるほど、金を返しにきたのかい。感心じゃなきか」
「ど、どうも……」
「あと1日遅れてたら久しぶりにあたしの得物が轟叫ぶところだった」
「ババァの攻撃ハンパねぇぞ。ゴッドフィンガー並み」
リアムが告げ口すると、ゴッドフィンガー並みのアイアンクローを喰らった。
「シルには礼を言っときな。ウチの連中はアタシも含めて血の気が多い奴等だから、アレが説得していなかったら、あんた今頃は湖に沈んでるよ」
「………」
苦笑いが硬直するベル。
「坊主」
「何ですか?」
「冒険者なんてカッコつけるだけ無駄な職業さ。最初の内は生きることだけに必死になってくれればいい。背伸びしてみたって碌なことは起きないんだからね。最後まで二本足で立ってた奴が一番なのさ」
そう言われて、ミアはベルの体を半回転させて背中を押した。
「そら、あんたはもう店の準備の邪魔だ。行った行った。あたしにここまで言わせたんだ、くたばったら許さないからねえ」
「大丈夫です、ありがとうございます!」
勢い良くベルは「いってきます!」と出て行った。
「………随分、肩入れしたなババァ」
「いーからお前はドア直してこいバカ」
「ギャラは?」
「お前が壊したんだろうが!」
○
ドアの修理が終わり、自室の部屋。リアムはソファーの上で寝息を立てていた。すると、ピンポーンと呼び鈴がなった。
「んあっ……?あいあーい、今出ますよーっと……」
生返事をしてリアムは出た。
「新聞ならいらねーぞ」
外にいたのは眼鏡を掛けた女の人だった。
「あの、何でも屋さん、なんですよね?」
「あ?そっすけど」
「依頼に、来ました」
「………まじ?」
「は、はい」
「おいおいおい、来てんじゃねーの稼ぎ時オイ」
「はい?」
「あーいやなんでもないっす。こっちの話。じゃあ、上がってください」
「は、はい」
で、中にあげて居間へ。ソファーに座らせ、水を出した。
「すいません。お茶切らしてるんです。なんなら今、飯もパンとりんごと256分の1カップ麺以外なんもないんです」
「なんか、ごめんなさい……」
「いえいえ。で、ご用件は?」
「なるべく高いお金で払いますね」
「お願いだから同情しないで」
「怪物祭って、ご存知ですか?」
「ああ、あの人をモンスターが調教するあれだろ?」
「逆です。で、それの役員が今不足しておりまして……それをお願いしたいんです」
「了解しました。じゃ、えーっと……これに名前と判子お願いします」
言いながら領収書を渡した。
「分かりました」
そのまま女性は、紙に名前と判子を押す。
「エイナ・チュールさんね。俺はリアムです。よろしくお願いします」
「はい」
早速二人は準備に向かった。