異能の力を持つ者が影にうごめく世界。秘密結社の少年兵にされた主人公は逃げ出し、復讐を誓う。

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短編・ファントムタスク・パイロット版

□導入

 

そこはテロの現場だった。

大勢の老若男女がバスの中で苦しんでいる。毒ガスのせいだ。

 

その災厄を起こした男は毒ガスの中で平然と立っていた。

人間の姿ではない。緑色の鎧のような外骨格に包まれた姿だ。

 

「来るか……」

 

そこにガラスが割られもう一人の影が姿を見せる。

黒い鎧。あるいは強化外骨格。首には白かったであろうマフラー。

血涙のように流れる赤いライン。

 

「来るとも。貴様らのような下衆の使う手など解りきっている」

 

黒い異形が喋る。そして手を翳すとバスの中の人々が息を吹き返す。

 

「現れたなファントムタスク!お前の反抗もここまでだ!」

 

だがファントムタスクと呼ばれた黒い異形はそれに構わず人々をただじっと見る。

助けたいのだ。だが、その前にこの災厄を撒き散らした目の前の男を倒さねばならぬ。

 

「その名で呼ぶな。俺には木場亮という名前がある。

反抗だと、違う。これは俺が俺の意思で行う戦いだ」

 

木場の言葉には静かな怒りがあった。声色からして2、30の男のようだ。

 

「ならば貴様の戦いはここで終わる!」

「黙れ」

 

緑の異形は足元の人々を踏み殺して木場に攻撃を仕掛けんとする。

だがその足が踏まれる前に木場のとび蹴りが緑色に刺さった。

 

あっというまに二つの異形はバスの外に飛び出していく。

緑の異形を足元に、地面との摩擦ですり切らせながら。

馬乗りになって緑の異形を殴る、殴る。

 

「貴様には何も無い!大儀もなく志もなく暴力を振るうだけの狂人だ」

 

自棄か挑発か、緑の異形が木場に吐き捨てる。

 

「ならば貴様らが正義の名の下に行っているのは何だ?

俺を呼ぶためだけに彼らを傷つけた。何の関係も無い人間をだ!

……ああ俺は狂人だ。それは間違いない。

だが貴様らという外道を倒すためならば俺は喜んで狂人となろう」

 

木場の抜き手が緑色に突き刺さる。

 

「俺たちを倒して何になる……?代案はあるのか?貴様に、この、混乱を収められるのか……?」

 

弱弱しく緑色はつぶやく。木場は立ち上がり、緑色の頭を踏み潰して答える。

 

「貴様らという答えを消すのが俺の答えだ。誤りは正されねばならない。

次の答えを見つけるのが俺ではなくとも」

 

そして、木場はバスのほうに向かった。

人々を助けるために。

 

□回想1

 

俺たちは生まれたときからどこかわからない訓練施設にいた。

毎日、死人が出るような訓練を物心ついた時にはしていた。

なんでも俺たちは「特別な力のある人間」で、力を持たない見ず知らずの者の平穏のために戦えと教えられてきた。

世の中にはその力を悪用する者が大勢いるからと。

 

俺たちは名前を持たず番号やコードネームで呼ばれていた。

親という者がいるとは知らなかった。

毎日のように俺たちの誰かが訓練や戦いで死んでいった。

 

俺がそれらが全て異常であると気づいたのは潜入任務の時だった。

 

資料として渡された「一般人の生活」というものは驚きの連続だった。

なんと彼らは普通戦わない。戦闘訓練というものも無い。

学校に通い、親や家族というものと暮らし、平穏に生きているそうだ。

そして彼らは「特別な力」を持たず、知らない。

また決して知られてはならない。知られた場合殺せとあった。

 

だが俺にはただ憧れと失望はあっても怒りはなかった。

遠い国の貧困に興味が無いように、遠い世界で幸福なものがいても実感が無いからだ。

まだ、この時は。

 

□回想2

 

その少女と出会ったのはいつだったか。

だが、与えてくれたものは鮮明に覚えている。

 

彼女は外部協力者だった。生まれながらにその力を持ち、普通の暮らしという奴をしていた一人だ。

だが何かのきっかけでその力が組織の知るところとなり、協力者にさせられたのだという。

 

最初は最悪だった。遠い幸せな世界の住人。俺はその幸せな生活を壊した組織の人間。

 

「もうなんなの?!最悪!敵組織から家族を守ってやるから力を貸せって!

ただの兵士扱いじゃない!報酬も出るかわからないのに!ほとんど脅迫よ!」

「組織の一員となったからには働いてもらう。お前の事情など組織は関知しない」

「組織は、ですって?違うでしょ、あなたは知ったことじゃない、でしょ?」

「何が違うのか解らない」

 

幾たびの死線を越え。

 

「おかしいわよ……なんで平気で人を殺せるの?」

「彼らはもう人間ではない、力に飲まれたバケモノになっていた」

「それって理解できない考えを持った相手なら誰でもバケモノ扱いにできるってことじゃない!」

 

友情をはぐくみ。

 

「映画をこっそり借りてきたの。見ましょう?」

「何が面白いのかわからない……」

「あら、でもあなた楽しそうよ?」

「楽しい?……よくわからない」

 

愛を交わし。

 

「ねえ、キスって知ってる?知らないの?じゃあ教えてあげる!」

「よく解らない……だが、悪くない」

「あなたに名前をあげる。タスク。私を助けてくれたから」

「……俺はお前を助けられてなどいない」

 

体を重ね。

 

「呆れた!あなたたちの教育に保健体育って入ってないのね。

じゃあ私が教えてあげるわ。これはね……」

 

そして、死別した。

 

「あなたは、自由になって。外の世界を見て。自分が、何のために戦って、何を守ったのか。

守れなかったのか。知って。そして……いつか、あなただけの意思と答えを探して」

 

そのときの笑顔が、俺には忘れられない。

 

「大丈夫、私の力であなたが死んだように見せかけるから……さあ、行って!」

 

□インターバル

 

俺は自由になった。映画を見て、ゲームをして、好きなだけ飲食した。

虚しかったし寂しかったが、得るものはあった。

それは、俺たちがどれだけのものを奪われていたのかという事だった。

 

普通の生活、というものがどういうものか娯楽を通して知った。

同じ日本に住んでいながら俺たちは当たり前に享受できるはずのものを奪われていたのだと。

 

「これが俺の守っていたものか……こんなものが」

 

その時彼女の言葉の意味が解った。守れなかったもの、それは彼女の普通の生活だ。

そしていくつかの映画を見たとき、俺の答えは決まった。

 

「俺たちみたいな超能力者は普通の生活を奪われた。俺は彼女の生活を守れなかった。何に?組織にだ。

ならば俺の答えは……俺のような、彼女のような者をもう生み出さないことだ」

 

考える、考える。俺はただ一人、娯楽に埋もれながら考える。

 

「組織を潰す……駄目だ。組織は俺たちを使って普通の人の普通の生活を守っているんだ。

組織が無くなっては一般人の普通の生活が奪われてしまう」

 

日々俺は悩みながら無気力に街を漂った。

そんな時、俺は彼に出合った。

 

「よう、お前さんもこっち側なのか?「エグザイル」にようこそ!

俺やお前みたいな組織から抜けた奴、組織に入りたくない普通の奴が寄り集まって暮らしてるのさ」

「寄り集まって何になる?」

「少なくとも組織の追っ手からは自由だぜ。さっさと国外逃亡決めちまおう」

「そうだな、どうせ行くあてもない」

 

俺は彼と色々と話し合った。

 

「そうか、そりゃまあこんな業界で暮らしてたら大切な奴を一人二人亡くしてるもんだ。

それで、お前さんの答えは「俺たちみたいな者をもう生み出さない事」だったか?

だったらこの組織は合ってるぜ。組織から少年兵を拉致って普通の生活に戻したり、脱走の手引きをしてるんだ。

あんなのから一人でも自由になったほうがいいってもんだ」

「そうだな、抜けたい者は抜けたほうがいいのかもしれない……」

 

そしてそこでの穏やかな生活は俺の心を癒した。

 

「自由とかよくわからない……私たち、今まで言われたとおりのことしかしてなかったから……

でもリーダーは優しいよ。組織の大人みたいに怒鳴ったりしないし、殴られもしないから」

 

友人ができた、守るものができた。

 

「こいつが今度新しく入ってきた奴だ」

「どーもよろしくゾロアスターです」

「コードネームなんかやめろよ、本名は?」

 

だが、破滅は間近に迫っていた。

 

「ヨキの奴何か動き回っているな」

「ああ「博士」の支援を得るんだって言ってたぜ」

「大丈夫なのか?有力者すぎるだろう。利用されるんじゃないか」

「奴は「組織」と敵対する「企業」所属だ。大丈夫だろう……いざとなったらケツまくって逃げよう」

 

その新入りは何もわかっていなかった。ああ、あいつは本当に何も判っていなかったんだ。

 

「お前たちがテロの計画を企てているのはわかってるんだ!

俺は平和な日常を守る……!」

「ゾロアスター!?何をしてる!何を言ってるんだ!?」

「不味い!ヨキの奴ミサイルを持ち込んでたぞ!クソッ「博士」に嵌められた!

最初っから「組織」とも繋がっていたんだ!軍隊が来るぞ!」

 

そして俺たちの居場所はなくなった。

 

「俺、俺は……話が違う!こいつらはテロリストで殺さずに捕まえるって……!」

「ああ、捕まえるとも。楽しい実験体がタダで手に入った。ありがとう、死ね」

 

ああ、あの新入りは本当に何も知らなかったんだ。

つい先日まで普通の奴で、いきなり力に目覚めた。そこを組織に利用された。

俺たちの平和な日常は、同じように平和な日常を求める奴らに潰された。

 

□再起

 

「憎い……憎い!全てが憎い!俺たちを犠牲にして平穏を享受している奴らも!

外道を繰り返し抗争に明け暮れる組織も!誰一人俺たちを守らない権力者たちも!」

 

俺はまたしても生き残ってしまった。唯一の居場所さえ奪われ俺は呆然としていた。

そして、またしても出会いがあった。

 

「あなたは……幽鬼のようですが、その実憎しみに焼かれておられる。

何を成したいのです、何がありました」

「力だ。力が欲しい。この不愉快なゴミ共を跡形残らず消し飛ばす力が欲しい」

「腐りかけていますね……叩きなおしてあげましょう!」

 

それから俺はこの妙な爺さんに鍛えなおされた。

 

「いいですかな、危険要素のある力などただの欠陥品です。そんなものに頼ってはいけません。体術を磨く事で十分な力を出す事ができるのです」

 

精神を研ぎ澄まし。

 

「憎しみを一つ一つ書き出してゆくのです。見つめなおす事で冷静になれますから」

 

肉体を鍛錬し。

 

「わが流派に伝わる薬膳です。美味くはないですが、鍛えるには丁度いいですよ」

 

自分を見つめなおした。

 

「なるほど……そのような事が。ならばあなたは抗いなさい。

すべての権利は抗い、戦い、主張する事で勝ち取られてきたものだからです。

抗うのは弱者の義務です。強者の愚かさを指摘するものがいなければなりません」

 

厳しい鍛錬もまた、俺の心を癒した。すべてを失った心には打ち込めるものが必要だったから。

 

「あなたにわが神討流の免許皆伝を与えましょう。以後牙と名乗りなさい」

「ありがとうございます、老師。ですが俺には貰った名があります。

あなたに貰った名に劣らぬほど大切な。ですから俺は木場亮と名乗ります」

「いいでしょう。あなたはあなたの道を行きなさい」

 

 

俺の心は決まった。「組織」を倒す。組織の長である「管理者」を倒し幹部を倒し、壊滅させる。

あんなものはあってはならない。もちろん、この「力」に対処する組織は必要だろう。

だがそれは別の者がするべきだ。あのような「組織」であってはならない。

 

そして……全てを暴露しよう。何があったのか一般人は知るべきだ。

自分たちが何の犠牲の元に生きていたのか彼らは知らねばならない。

そして、一部の人間だけが背負ったからこんな歪な事になったのだ。こんな事は終わらせねばならない。

これはもとより人間社会全てが取り組まねばならない問題だったのだ。

 

人類が力を持った別種族に進化しつつある等という事は……

 

そうして全てが終わったら俺は自らの罪も公表して刑に服そう。

まあ死刑だろうが、それでいいのだ。

俺が全ての罪と歪みを持っていく。もう誰も傷つかなくていいように。

 

それは甘美な幻想だった。そして、俺の救いであり理想だ。

俺の意思は決まった。力も得た。あとはやらねばならぬ。

 

 

俺はただただ奴らを潰し続けた。

 

研究所を潰し。

 

「一度貴様らに聞いてみたかった事がある。なぜこんな事を平気で出来る」

「だって、もったいないじゃないか!実験体も何もかも俺のキャリアのための犠牲になったんだ!

ならばその犠牲の上に成り立った俺のキャリアは守られるべきだ!」

「貴様らの腐った考えはよく解った。その上で答えよう、知ったことか。

貴様らに殺された者たちはそんなもの知ったことではなかったし、そいつらの未来も貴様は知ったことではなかったのだろう」

 

飼い慣らされた奴等を殺し。

 

「いや、暮らす場所与えてもらってうれしいよ?私たちの場所を奪ってでも恩人を潰したいんですか…じゃあ死んでください」

「つまり貴様は組織によって利益を与えられ組織を守るもの!組織の薄汚い飼い犬め。そして死ぬのもお前だ」

 

そして時には仲間ができた。

 

「今更俺が誰かを救う?馬鹿言ってんじゃねえよ……」

「そうだ!こんな腐った世界の人間が救いを求めらるなど都合が良すぎる!

人に救いを与えようなどと馬鹿馬鹿しいにもほどがある!」

「馬鹿は貴様だ。過ちを知って改めようとする意思を馬鹿というのか貴様は。

前に向かって一歩でも進もうとする意思を愚弄するな!

諦めるな易きに逃げるな。そんなだから負け犬になる!」

 

俺たちは立ち上がり戦った。

 

「立ち上がれ!諦めて悪事に手を染めるな!易きに逃げるな、抗うのだ!」

 

そうして、この戦いを世間に公表する。

 

「いいのか?こいつを公表しちまえばもう後戻りはできねえぜ」

「かまわん。お前たちは俺に脅されていたとか洗脳されていたとでも言えばいい」

「わかってねえな!ここまで来たからにゃ棺桶までついていくさ」

「馬鹿野郎が……すまない」

 

俺たちがこの戦いを公表するタイミング。それは組織に対して勝ちを確信した時だ。

公権力が動く前に全てを片付ける。

 

「これが「管理者」……」

「演算を続ける脳みそ、か……腐った組織には醜悪なボスがいるものだ」

「やめろ、私を潰して何になる?なぜ貴様らは現れる?」

「それは貴様のような腐ったものがいるからだ!」

 

そして、全ては終わった……

 

俺は裁判に出て全てを明らかにした。当然死刑判決が下ったが、組織の残党も同様に指名手配と死刑判決が次々に出たので問題ない。

世界はほんの少しだけ変った。それでいいのだ。

俺は死を待ちながら心は静かだった。

 

そう全ては終わったかに思えた。だが、ある日俺に面会に来た老人によってそれは覆される。

 

「老師、何故ここに。俺を笑いますか?」

「いいえ、まずお詫びを。あなた方が「力」を手にしたのは私のせいです」

「なに?」

 

その老人は語り始める。はるかいにしえからの物語を。

 

「そもそもその「力」はごく一部の者が独占していたもの。

かつては神々と呼ばれた者の力。そしてそれを技術化し体系化したのが魔術です。

ですが彼らもその力を独占し秘匿し、悪用しました。

ですので私はその「力」を誰もが使えるようにばら撒いたのです」

 

老師が言うには元々一部の突然変異だけが使える力を誰でもがつかえるようにしたのが魔術だったらしい。

だが、それも技術を身につけなければ使えない。そこで誰でもが感覚的に使えるようにしたのが「力」なのだという。

 

「つまり俺たちが能力者になったのは……!」

 

「私のせいですな。その上、私は人類の進化の方向性を変えてしまった。許されぬ罪です」

 

「あなたは、なぜそんな事を?」

 

「魔術師が力を秘匿し悪用したからですよ。誰でもが使えるようになれば秘匿は破られるものだと思っていました。

ですが、私はそこまでいけなかった。結果として「組織」を生み出してしまった。

魔術師となんら変らないものを生み出してしまった。その始末をあなたに任せてしまった」

すべてお詫びします。その上で恥をしのんでお頼みしたい事があります」

 

「……魔術師にも、同じ事を?」

 

「はい。私ならばあなたをここから出せます。加えて言えばまだまだ「力」を悪用する組織はありますよ

あなたを用いる私のように。報酬は、私の命と財産の全てでどうでしょう」

 

「……あなたは俺たちの戦いを影ながら支援してくれました。

まだ支援してもらう。ここで楽に死んでもらうわけにはいかない」

 

「では、まさか」

 

「戦いましょう。俺にはまだやる事が残っていたようだ」

 

「申し訳ない、本当に、申し訳ありません」

 

「許したわけじゃない。全てが終わったらあなたにも罪を世間に告白してももらう。地獄へは道連れだ」

 

どうやら、俺の戦いはまだ続くらしい。

 

 


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