Fate/kaleid and hero   作:MZMA

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少し遅れました。舞雪タコです。


今日は少し長く書けました!


では、どうぞ!





名前を言ってはいけないアレ

 

「ふぅ…」

 

士郎は息を吐き出すと、肩の力を抜いた。

ピンと張り詰めていた緊張の意図が解れ、士郎の雰囲気が人ならざる者のそれから、何処にでもいるような高校生ーー失敬。女性受けが良さそうな高校生に戻る。

 

「今はこれが限界か…」

 

だが、言葉を発する士郎の顔は険しい。

その原因は目の前に無造作に置かれている一対の陰陽剣である。

 

「なあ、しろう。それではダメなのか? 我からすればどれも同じに見えるのだが…」

 

士郎の背後から実体化したギルガメッシュが肩越しに覗き込むようにして士郎の前に置かれている投影物を見る。

 

「いや、ギルにとっては贋作って時点で優劣なんか無い様に見えるんだろうけど…。全然ダメだ」

 

士郎は黒の陰陽剣ーー干将を手に持つ。そして、莫耶を反対側に持ち、大きく振り上げると、素早く振り下ろし干将に叩きつけた。

 

ビキリ、と剣が鳴る。

打ちつけた莫耶は、剣の腹から背にかけて一直線に罅が入り、打ちつけられた干将は、刀身に傷がつき刃が歪む。

 

士郎はその様子に改めて大きな溜息をつくと、二つの剣を適当に放り投げた。陰陽剣は地面にぶつかる前に魔力の粒子となり、虚空に溶けるようにして消える。

 

「ほらな?」

 

士郎は背後に顔だけ向けると呆れたような表情で笑う。

 

「むう…。やはりわからんな。贋作とはそういうものではないのか? 先の戦争で我の宝具とぶつかった贋作は砕け散っていたではないか」

 

ギルガメッシュは本当に理解できない様でこてんと小首を傾げる。

士郎はその仕草を見て、やらり可愛いな、と場違いな感想を抱く。

 

「いやそれは……。まあ、いいや」

 

そうか、とギルガメッシュは頷くと蔵の扉に両手をついて開け放つ。

蔵の中から見上げた空は、白み始めていた。ひゅぅと、朝特有の冷たくも何処か落ち着く風が吹き込み、その寒さに士郎は思わず身震いした。

 

ギルガメッシュは懐から黄金の懐中時計を取り出すと士郎に見せる。

時間は既に寅の刻に入り、今から寝たとしても寝た気にはなれないだろう。

 

「もうこんな時間か…。寝ても寝足りないだろうし…朝食でも作るか」

 

士郎は昨日の言峰パン工房の前に寄ったスーパーで買った食材を思い出しながら立ち上がる。

 

「今朝は……そう、だな。………よし、決めた」

 

一つ頷くと、士郎は中庭で面白そうに改めて衛宮邸を眺める制服姿のギルガメッシュを見て、ふっと顔を綻ばせると玄関へ向かって歩き始める。

 

「おいギル! 暇なら食器とか運ぶの手伝ってくれ!」

 

「む? あいわかった! 今朝の朝ごはんはなんだ、しろう?」

 

ててて〜っと子犬の様に駆け寄り、じゃれついてくるギルガメッシュを適当にあしらいながら、士郎は別世界ではあるものの、赤き弓兵の主や、剣の師でもあった清廉なる騎士王との思い出が詰まった家の玄関を、ゆっくりとくぐった。

 

 

トントントントン

 

規則正しい、包丁の音が響く。

 

ギルガメッシュは現在、木の踏み台の上に乗りながらキャベツを千切りにしている士郎の横に立ち、その手元を覗き込んでいた。

士郎の手際を見て、しきりに感心したようにほへー、と呟きながら目を丸くしている。

 

「なんというか……すごいな」

 

「そうか? 慣れだよ慣れ。ギルも練習すればすぐに出来る様にーーってダメだな」

 

「なっ⁉︎ しろう貴様、我に出来ないことがあると申すのか?」

 

「いや、単純に危なっかしいから。俺は小さい子を台所に立たせるのはあまり賛成出来ないんだよ」

 

「なんだと⁉︎ 我を子ども扱いするな!」

 

「コラ、踏み台の上で暴れるな。落ちたらどうする」

 

「ぐぬぬぬぬぬ……!」

 

ギルガメッシュが唸る。

 

「かくなる上は我が至高の財で……!」

 

虚空に黄金の波紋が浮かび上がり、黄金の小さな柄が出現する。それを素早く掴むと、引き抜く。

神々しいまでのオーラを放ち、出現したのは、全てが黄金で出来た装飾過多の小ぶりな剣。いや、形状としてはふた回りほど小さいが士郎の持つ包丁に近い。

 

「ふふふっ! 我の宝物にはこんな物ですらーー」

 

「コレ」

 

「あうっ⁉︎」

 

士郎のチョップがギルガメッシュの頭に直撃する。サーヴァントである以上、魔術を伴わない攻撃は意味を成さないが、それでも衝撃は伝わる。ギルガメッシュの手から零れ落ちた装飾過多な包丁は、床に突き刺さると黄金の粒子となって消えた。

 

「なにをする!」

 

「料理にそんな派手派手しいのを使うな。それに言っただろう。あんまり子供は台所に立たせたくないって」

 

「む? 我は立っているではないか」

 

「言葉の綾だ。それに今、子供って認めたな?」

 

「んなっ⁉︎」

 

ギルガメッシュの恨みがましい視線を綺麗にスルーすると、士郎くすくすと笑いながら、刻み終えたキャベツを温水の入ったボールに漬け、今度はフライパンに油を引き始める。

 

「む? きゃべつは温めるのか?」

 

興味が他に移ったのか、ギルガメッシュは士郎に問いかける。そういう、無邪気な所を見て士郎はギルガメッシュを子供として扱っているのだが、当の本人は全くきがついておらず、見た目のせいだと思っている。

 

「ああ。後で冷水で一気に冷やしてパリッとさせるんだ」

 

「むむむ……料理というのは難しいのだな…」

 

士郎の言葉を聞き、ギルガメッシュは顎に手を当て難しい顔をする。

 

「いや、手を抜こうと思えばいくらでも出来るさ。でもーー」

 

そんなギルガメッシュを見てか、士郎は料理の手を止め、彼女の方向に体を向ける。

 

「でも?」

 

「どうせ食べるなら、多少手間がかかっても美味い物が食べたいだろ?」

 

そう、士郎は言いながら笑った。

それをポカンと見ていたギルガメッシュは、次の瞬間顔がぱぁっと明るくなり、太陽も霞むであろう程の明るい笑顔になる。

 

「うむ‼︎ そうだな、そうであるな! 確かにしろうの言う事は正しい!」

 

うむ、うむ! と何度も笑顔で頷きながらギルガメッシュは踏み台を降り、居間の方へ駈け出す。

 

「どうしたんだ? そんなに嬉しそうに」

 

士郎はギルガメッシュを顔だけで追いながら尋ねる。

ギルガメッシュは適当な場所の座布団にぽふりと座ると机に上半身を乗せ、士郎を見ながらえへへーっと嬉しそうに笑う。

 

「なんだよ急に……。変な奴だな」

 

だが、そう言う士郎の口元も僅かに綻んでいる。

 

「ふふふ、なんでもない。さあ! 早く我に朝ごはんを献上せよ!」

 

「はいはい。仰せのままに、お姫様」

 

そうして、和やかに朝のひと時は過ぎ去っていった。

 

 

「成る程な。昨日、ギルが言っていた違和感ってのがわかったよ」

 

昼休み。襲いかかる睡魔との必死の戦闘に勝利した士郎は、屋上から自校の校庭を見下ろしていた。

 

「あそこだ。明らかに空間が変調をきたしている」

 

士郎が指差す先は、校庭のある一点。本人は未だ知らないが、その場所は鏡面界にクラスカードが眠っている場所である。

 

「魔術回路を開いた事で知覚できるようになったか。あと一週間もすれば魔術回路は体に慣れ、向こうと同じ様に魔術を行使できる様になるだろうーーん?」

 

ギルガメッシュが屋上の入り口に顔を向けた瞬間、霊体化する。

それを見た士郎は、ギルガメッシュが一瞬前まで見ていた屋上の扉に目を向けたーー瞬間。

 

バンッ!

 

と。大きな音を立てて扉が開かれた。

 

「えーーみーーやぁぁーー‼︎」

 

「ん? 慎二か? どうしたんだ、そんなに口元を腫らして」

 

士郎は、慎二を見た瞬間に頭に思い浮かんだ麻 婆 パ ン(名前を言ってはいけないアレ)を思考から追い出して素知らぬ顔で問いかける。

 

「なんだ? なんだ、だと⁉︎ 衛宮、お前! このパンはなんだ! とてもじゃないが、食べられる物しゃないぞ!」

 

慎二は、そうして右手に握りしめた麻婆パン(ダークマター)を振り回す。大きな歯型が付いている所を見るに、思い切り口に含んだのだろう。

 

「そ、そんな事無いさ。言峰パン工房のイチオシって書いてあったんだ。麻婆パン。良いじゃないか、斬新で」

 

「斬新すぎるだろ! だったらお前も食ってみろよ! それにこの麻婆、どう考えても泰山のじゃないか!」

 

「慎二、お前、あの麻婆食べた事あるのか? ……勇者だな」

 

「黙れ!」

 

「に、兄さん。落ち着いて下さい」

 

と、今まで慎二の惨状ばかりに目が行っていた士郎は、おずおずと進み出てきた自身の後輩に気がついた。

 

「お、よお。桜じゃないか」

 

「はい。こんにちは、先輩」

 

桜は行儀よくぺこりと頭を下げる。

 

「ええい! どけ、桜!」

 

「おいおい、妹に乱暴な事はーーーはい、ごめんなさい」

 

慎二から魔王すら殺しかねない程の視線を向けられ、士郎は素直に謝罪する。

 

「…衛宮」

 

「……はい」

 

「………正座」

 

「…………はい」

 

「……………先輩…」

 

 

「よ、よぉ。お疲れさん、一成」

 

生徒会の仕事か? と問いかける士郎の顔には、生気が無く、あるモノがあった。

 

「早いなーーってどうした衛宮⁉︎」

 

「いや、なんでもない。、なんでもないんだ…」

 

ボソボソと呟く士郎からは何処か近寄り難い黒いオーラが滲み出ていた。

 

「そ、そうか…。それより、お迎えが来た様だぞ?」

 

「天からか? ……いやーーああ」

 

「本当にどうした⁉︎ まあ、その、なんだ。頑張れ、よ?」

 

ではな、と一成は背を向け、門内へと戻っていく。

そして、入れ違いになる様にーー実際に、一成が気を利かせたのだろう。まあ、今の士郎から離れたかっただけかもしれないがーー元気な声が背後から聞こえてくる。

 

「お兄ちゃん!」

 

「オオ、オマエモイマカエリカ?」

 

その少女とはーー

 

「イリヤ」

 

かつて正義の味方が救えなかった、冬の少女だった。

 

「うん! 一緒にーーってどうしたのお兄ちゃん⁉︎」

 

だが、そんな感動の再会の様な雰囲気も士郎の顔にあるモノーーというよりも、大きく腫れた口元によって台無しになってしまったのだが。

 

それでも、救い損ねた少女を見る事で、幾分か元気を取り戻す。

 

『やはり、しろうはろりこんだったか……』

 

「いや、違うからな⁉︎」

 

「本当にどうしたのお兄ちゃん⁉︎」

 

突然大声をあげた兄に、イリヤは本格的に兄を心配し始める。主に頭とかを。

 

「いや、大丈夫。これは報いなんだ」

 

だが、聖人の様に何処か悟りを開いた様に微笑む兄を見て、喉まで出掛かった言葉が引っ込んだ。主に、得体の知れない不気味さというか、何処となく漂っている哀愁を感じさせるオーラによって。

 

「さあ、一緒に帰ろう。と、言っても今日も武家屋敷に泊まるんだけどな」

 

「う、うん」

 

イリヤには、頷くしか取れる手段が無かった。




いや、すいません。なんか締まらない感じのラストでm(_ _)m

今回は、ロリギル様成分は多く入れられたと思います。

そして、慎二君の登場ですよ。この小説では二人は普通に仲は良いです。

さて、士郎も麻婆パンの恐怖を知ったワケですが(笑)(笑)

あと、料理に関してなんですが、あまり詳しくないのでキャベツの所で違和感を感じても多めに見てください(><)

ちなみに、朝食のメニューは

キャベツの千切り
生姜焼き
豆腐味噌汁
白ご飯
緑茶
おひたし

という、なんともしっかりした朝食です。


士郎君のステータスに新たな項目が加わりました(笑)

固有スキル

幼女落とし EX

幼女とにゃんにゃん出来るようになるスキル

くっ……羨ましぜ!

では、また今度(。・ω・)ノ゙

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