俺は流れの武芸者だ、名は重要な問題ではないので伏せておく。故あって命蓮寺に滞在――所属ではない、これ重要――することになったので、後に、もし人間がこの寺で生活することになったときのためにこれを記しておく。信頼できる筋にコレを託す予定だが、もし、貴殿が全く関係ないところでこの手記を入手したのであれば、どうか処分しておいて欲しい。
さて、本題に入る前に前置きがある。
貴殿が何故命蓮寺――ぶっちゃけ、妖怪の巣窟――で生活することになったのか、その事情は分からないが、可能であれば取りやめることをお薦めする。特に、貴殿が妖怪に対応する心得のない外来人の場合は止めた方がいい、どうしても、という場合は誰かを頼って無縁塚の監視役に相談すること、毘沙門天様の財宝目当てだとか、余程アレな理由でも、真面目に応じてくれるはずだし口も堅いと思ってくれていい。代替わりしていた場合は、この限りではないだろうが。もし、貴殿が俺とは別の時代の人間――表紙に年月日を記しておく――だった場合は、そういう時代もあったんだ~、程度に読んでくれればいい。
注釈:私は一時的に命蓮寺と関わりがあった妖怪だが、要請を受け、この手記に注釈を書き加えていくので、参考程度に見てくれてもいいし、無視してくれてもいい。とりあえず、あまり監視役に甘えすぎないように。
――日々の修行について
掃除――後々には仏具の手入れなども――は、恐らく、住職殿が丁寧にやり方を教えてくれるはずだ。基本的にはそれに従えば問題がない、色々と忙しい人でもあるので手間を取らすのは気が引けるかもしれないが、わからないところがあったら素直に聞くほうがいい。ただ、彼女は『ただの人間』の基準にあまり慣れていない。門下の修行妖怪の方々が片手間でパッパとできてしまう労働量でも、普通の人間は押しつぶされてしまうことを、ついうっかり、忘れられがちである。俺の方からも言っておくが、『いや、それは無茶ぶりだろう』と思ったら素直に言ったほうがいいだろう、『どう考えても無理だけど、きっと何か考えがあるのだろう』とか思って真面目にやっても、結果誰もいい気分はしない。ともすると、他の門下妖怪方々に馬鹿にされたり不満を持たれたりするかもしれないが、それは真面目に頑張って、結局終わらずに結果周囲に迷惑をかけてしまった時も同じである――少なくとも俺はそうだった。あと、掃除中に水を入れたバケツや桶をできるだけ傍に置かないこと、暇を持て余した妖怪に“水難事故”に遭わされる可能性がある。
坐禅や写経は真面目にやっていれば基本的には問題ない。本尊殿が人前で修行に参加することはないだろうが、貴殿の立ち位置によっては共に修行することもあるだろう、彼女は優秀で真面目なように見えるが、あの性格は作っている面も大きい。居心地悪そうにし始めたら、厠に行くなりなんなりして、気心知れた妖怪の仲間内だけの空間で一息つかせて上げたほうが良いかもしれない。仲良くなりたいようだったら、同じく毘沙門天様の代理であり、公私をよく分けていた『宝石を吐くマングース』の棟梁――詳細な話は後に記しておく――の例を持ち出して話してみるといい、興味は持ってくれるだろう。あと、写経の時も水気を傍に置かざるを得ないので、できるだけ真面目な妖怪――雲居殿とか雲山殿とか、彼女らも『人の前では』という前提がつきそうではあるが――の視界に入るように位置取って、水難を回避したほうがいい。それが叶わないときは、せめて畳を汚さないように、心がけておくべきだろう。
注釈:代理様のみならず、各妖怪が興味を持ちそうな外の世界の妖怪の話題について、最後の方に色々と書いてあるが、使うにしても“この手帳”からの情報提供であることは言わない方がいい。彼は命蓮寺で各妖怪と距離をとって壁を作っていたので、少々嫌われ気味なんだ。封獣様は例外と言えるかもしれない。
――日々の生活について
寺での暮らし、すなわち修行であるが、ここでは特に通常の生活面について、述べておく。
食事については、それぞれが勝手に外で食べてくるときも、皆が寺で食べる時もある。自分が用意する担当になったときは、戒律を重んじて質素な食事にすること。こういってはなんであるが、妖怪方々は戒律を守りたくないときは外で勝手に飲んだり食べたりできる。つまり、寺で食事を摂るということは真面目に――少なくともその瞬間だけは――戒律を守って質素な食事で済ませようと決意をもってそこにいるのだ、下手な配慮はするべきではない。あと、台所は水場であるが、食事の準備は皆に関わることであり、邪魔されることは、恐らくないので、一応気をつける――覚悟しておくとも言う――程度でよい。
就寝時についてだが、妖怪のほとんどは、寝なくても平気である。体力も人間とは段違いで、能動的に人を襲うことのない妖怪は色々と持て余している場合が多い。ただでさえ、月の出ている夜は妖怪の気が立っている。そこで人間が無防備に寝ていれば、悪戯――そんな表現の範囲に収まれば御の字だが――してくださいと言っているようなものだ。睡眠時間まで削られると日々の修行にも支障も出るだろうから、自信がなければ素直に住職殿に相談し、就寝中の安全を確保すること。
注釈:ここまでを見ても、割と恐ろしい感じに書いてあるが、そこまで身構えなくてもいいと思う。彼の場合『いざとなれば自分で身を守れる』ことから、妖怪側の遠慮もなくなってしまっていたんだ。
昼下がり――無縁塚・監視役の庵
「――ふむ……皆が少々攻撃的に書かれ過ぎてるようにも思うが、これくらい脅かした方がいいかもしれないな。しかし、君は相手が人間となると少々甘やかしすぎる傾向があるのではないかな」
ナズ姉さんが俺が記し、小ねずみが旧鼠と化していた時に注釈を入れた手帳を片手に、もう片手を――ページを捲っていないときは――顎に当てて、ふむふむと時に納得の、時に疑問の声を漏らしている。形態こそ全く違うが、初めて出した任務報告書を、目の前で所属派閥の重鎮に読まれた時の緊張を思い出す居心地の悪さである、というのも――
「あ、あの、ナズ姉さん――」
「何かな? 他に提出すべき資料の存在でも思い出したのか?」
胸を張り、直立している彼女――そんなに高くない我が庵の天井の所為もあり、いつもより大きく見える――が今視線を移した先にいる俺は、隣で小さく縮こまっている小ねずみと同じように、背を丸めて正座で小さくなっているからだ。不機嫌を隠そうとしてるけど隠しきれてない、不満を高慢に置き換えようとしてるけど置き換えきれてない、そんな表情でナズ姉さんが俺を見下す。ちなみにハタはナズ姉さんの前に訪ねてきた小町さんについて散歩に出ている――まさか、ナズ姉さんの気配を察知してこの空気から逃れたわけではないだろうが……ないだろう、が。昔の思い出から、逆らう気が起きないというか、頭が上がらないというか……俺のそんな思いを強く刺激する視線を見返しながら、なんとか言葉を返す。
「そこから先は、来る人間に皆さんが何を求めるか、何を守ってほしいかとかのアンケート結果が載せてあるんですけどね。一応、皆さんには手帳はその人間以外には見せないって約束で答えて貰ったので、できれば、その……5ページ程、飛ばしてくださいと、お、お願いを」
「…………ふん、まあいいだろう」
少々の――俺には長く感じたが実際は少々だろう――間を置いて答えてくれたナズ姉さんは、手元の手帳を5ページほど捲ってから、視線をそちらへと戻した。俺は緊張を維持したまま――迂闊にほっと一息ついて再びその鋭い視線を引き戻してしまうほど、俺も伊達に彼女との親交があるわけではない――チラと視線を部屋にあるちゃぶ台の方へと移し、さっきまでそこにいた妖怪のことを思い返す。引っ掻き回すだけ引っ掻き回して、自分だけその渦中から抜け出していった、スキマ妖怪のことを――
――それは数時間前のこと
「――さて、どうなった、とは聞かないよ、名前が思い出せて、また思い出せなくなった……つまり、この子が旧鼠になって……そこからの結果も大体想像がつく。ただ、過程が読めないな……命蓮寺の皆は私がよく知っている旧鼠や人間と瓜二つのそれを知っているようだったし、説明してもらおうか」
この前の旧鼠との戦いで使った諸々の術の副作用が、大体収まってきたな、なんて考えていたころ――ナズ姉さんが唐突に帰ってきた。いや、期間を考えればいつ帰ってきてもおかしくなかったのだが、俺に何も察せさせることなく、密かに命蓮寺やその周囲で情報を集めてきた後、突然、俺の庵を訪ねてきたのだ――いつも尻尾の先の籠に居るはずの小ねずみの首根っこを摘んで。
「まあ……大体のことはこの子から聞き出してはいるんだがね……“流れの武芸者”が命蓮寺でどう過ごしていたのか……そこら辺、君の口から説明が欲しいな」
不機嫌がにじみ出る表情と口調――タイミングこそ唐突だったが、彼女のそれは予想できた詰問だった。自分の子分と元・弟分が勝手に危ない真似をしていれば、説教の一つのしたくなるだろう。
「ナズね――ナズーリン殿、それに関しては――」
――だが、これは言うなれば“監視役”としての秘密業務である、一介の妖怪である彼女からの情報開示に応じる必要はない。俺はそうした立場を盾に、追求をかわそうと口を開いたのだが――
「――お取り込み中失礼、お邪魔しますわ」
ちょっと躊躇うように切った俺の言葉の合間を突くように、また別の声が挟まれる。
「……取り込み中と分かるなら、少し待っていただきたかったものですが……」
驚き、恐らくは監視役に近しい態度を見せていた場面を見られてしまったことへの焦りも含めて言葉を失ってしまったナズ姉さんの視線を追うように、俺も目を背後のちゃぶ台の方へと向ける。そこにいる声の主――スキマ妖怪・八雲 紫が現出させた空間の切れ目から、よっこらせと身を出す所だった。そのまま目の前のちゃぶ台について座り、手で俺たちにも着席を促す彼女の動作を取る。それを無視して更に俺が口を開こうとしたところで、彼女は二枚の紙を取り出し、ちゃぶ台の上に並べて――
「そのことに関係ある話だからよ。……監視役殿、こちらは貴方の上司からの指令書……ナズーリン殿、こちらは貴方の寺の住職殿からのお願いだそうですわ」
居住まいを改めると、左右それぞれの手で紙を指し示し、俺とナズ姉さんに指し示した。お互いに顔を見合わせてから、まるで猛犬の餌皿に手を出そうとしているかのようにゆっくりと、ちゃぶ台に近づいてそれを手に取った俺たちに、八雲殿は楽しそうに説明を続ける。
「色々と動き回る監視役に対して、弱い妖怪から不安の声が上がってたのよ……低級とは言え、不安から数匹で纏まって暴発したりしたら、貴方だって持て余すでしょう? だからそれを安心させるために、監視役の監視役を付けることにしたのよ。かと言って、完全に妖怪サイドの者を使っても今度は逆に調子に乗るかもしれない……というわけで、一応は妖怪と人間の共存を掲げてる命蓮寺さんのところにお願いしたのだけど――」
だが、その説明は俺の耳には入っていなかった。俺が手元のそれを読み終えて顔を上げると、ナズ姉さんも真顔で同じようにしていて――どちらからともなく、お互いの持っている紙を相手の方に掲げて見せる。俺がさっきまで読んでいたのは『以後、命蓮寺側が指定した相手に対し、監視役としての業務を、事後でよいので報告せよ』という旨の俺の所属派閥からの指令。そして、ナズ姉さんが今、俺に見せているのは『その監視役の監視役、貴方に任せますね、よろしくお願いします』という旨の白蓮さんの一筆。
「……という訳で、監視役、貴方には今回の件についても、詳細に彼女に報告する義務が発生しているわ」
ニッコリ――視線を戻せば、八雲殿はそんな擬音が聞こえてきそうなイイ笑顔を浮かべていた。
「ちょ、どうしていきなり――」
『落ち着きなさい……さっきも鼠を突き放して距離を取ろうとしたわね、今回の件しかり、ちょっと前の貴方ならもっと上手く対処してるでしょう?』
八雲殿の口が動いていないのに、俺の耳には確かにその声が聞こえてくる。ただし、その元はどこか分からず――辺りをキョロキョロと見渡す俺に、声は更に言葉を連ねて。
『そんなに妖怪と親しくなってしまうのが恐いかしら? どうして実は妖怪のために戦うという風に繕わなかったの? そっちの方が貴方なら後々都合よく利用できたでしょうに』
扇で口元を隠しながら、スっと探るように細くなるその視線と同じように、その言葉もまたグサリと俺の心の合間をついてくるような問い。その理由はちゃんと自分で分かっている、だけど――
「……そ、それは……」
『でも、恐いからは違うわよね、貴方に限っては。……後ろめたいのかしら、幻想郷の糧たちに、そして“彼ら”に……でもわかってるんでしょう、そんなこと彼らは望まないだろうって』
――それだけが理由ではない、だが、その指摘は図星だ。俺が後ろめたさから、幻想郷の“異邦人”で有り続けようとしても――もし、彼らに望みがあるとすれば、そんなことではない。
「俺は――」
「……知らせてくれてありがとう、妖怪の賢者殿。さて、監視役殿……早速業務の報告を受けたいのだが……」
「仕事熱心で結構なことね、私はそれだけだから……それじゃあね」
「あ、ちょ、待っ――」
当然、俺の静止など聞くはずもなく、笑顔で手を振りながら八雲殿は自分の下にぱっくり割れたスキマへと、姿を落として消えて――
結局それから、色々と乱された俺は、ナズ姉さんの問い詰める言葉をうまく
「ふむ……あの方をいささか美化しすぎてるような気もするが……まあ、いいか」
そろそろ手帳の最後の方に差し掛かったナズ姉さんがまた眉根を潜める。ああ、そういえば、ナズ姉さんはあの方――というか鼠妖怪全般が『宝石を吐くマングース』全般と仲良くはなかったんだっけ、主に役割争奪戦で……まあ、常に
「……何が可笑しい?」
耳ざとく、俺が微かに漏らした息に気づいたナズ姉さんがその不機嫌そうな声と視線を俺の方へ差し向けてくる。マズった――回想に逃げる程度には疲れてきていた俺の頭は、咄嗟の言い訳を構築してはくれず。
「あ、あのですね……」
一縷の望みをかけて、助けを求める視線を隣の小ねずみに送ったりしたが、さっと視線を逸らされてしまった。薄情者、とは言うまい、逆の立場なら俺だってそうする。
俺の焦りを煽るように、ずいっとナズ姉さんが顔を寄せてきて――そのタイミングで、玄関の方から、ノックの音が聞こえてきた。
「――あ、お、俺出てこないと……さあて、今度は誰だろうなぁ」
ほとんど反射的だった――逃げるように体を反転させて立ち上がり、玄関の方へと走っていく。後ろからナズ姉さんが何か言う前に、ドアを開けて――
「どちら様ですか? ――あれ、どうして貴方が……」
「こんにちは……どうやら、お取り込み中のようで……」
そこには、俺にはすっかり馴染みなような気がしてくるお忍びスタイルの服装でフードで表情を隠した、かの寺の住職殿の姿があって――
「正直、助かりましたよ……あいつにゃ悪いですけど」
「いえいえ、私も良かれと思って話の受けていたのですが……まさかその様なことになるとは」
質素な庵の中、上にお茶と煎餅を載せたちゃぶ台を挟み、命蓮寺の住職・聖 白蓮と無縁塚の墓守・監視役は嵐が過ぎ去った後の静けさを噛み締めるように、小さな声量で言葉を交わす。白蓮が自分の用――それも、八雲紫が先に済ませてしまっていたが――でここを訪れるのついでに、ナズーリンに主人が呼んでいると伝えに来たのが少し前――何か言い足りなさそうにしながらも、小ねずみを引っ掴んで尻尾の先の籠に入れた後、彼女は去っていった。
「……あの子達の引取り先として適切な場所……それが外の世界で見つかったのは、良かった、と言うべきなのでしょうね」
「まあ、未来はわかりませんが……より良い可能性が高いとは思います」
十分な間を置いてから、そっと話題を替える白蓮に、監視役も混乱することなく話を合わせる。彼らが語るのは、旧鼠が情を移し、監視役が骨を折った、人と猫の赤子の顛末のこと……結局、あの後すぐに、外の世界に送り返されることになったのだ。結局のところ、結果だけみれば、監視役がしたことは無駄に自分と旧鼠を傷付けただけになってしまって――白蓮が指摘したのはそういう事なのだが、監視役は自分がしたことが無駄になっても、気にした風はなく。
「費やされたものに価値を見出すのが悪いとは思いません……ですが、囚われれば惰性となります」
白蓮の言葉の意味を解したのか、監視役はそう口に出すが、そう言った後で何かに気づいて考え込むように視線を落とした。それを見ても、白蓮はそれを問うたり、続きの催促をしたりはせず――静かにお茶を啜って。
「白蓮さん、俺は妖怪と人間を法の下で平等に扱うべきとは思っていません」
「ええ、分かっています……私と貴方の考え方は違う」
やがて、視線を挙げて唐突にな言葉を放った監視役に、白蓮はその落ち着いた様子を崩さず応じる。
「妖怪と人間は違う……人間同士以上に、その隔たりは絶対的なものがある……特別扱いでもしなきゃ、法の下に留まることはない」
「罪は罪……罰すべきは妖怪そのものではなく、それです……人間と妖怪には隔たりがあるからこそ、法だけはそれを平等に扱わなければならない」
「人間と妖怪を同じ法の下に入れても、納まる妖怪はひと握り……本性を乗り越えて、人と共存できる妖怪は救われても、それをできない妖怪に対しての人間の“仕方ない”という許容の心は薄れ、全体の亀裂は大きくなる」
「不平等で治めようとしても、人間がそれを許容するには、結局恐怖が必要になります……それでは何も変わらない、恐れ、拒絶し、必要に応じてそれを力で捻じ開けられる……そしていつか、暴発を起こす」
平行線の思想――お互いの意見に耳を貸しながらも、それを自分のモノに反映する気もなく、二人はそれを見比べるように考えを互いの隣に並べて言って――どちらからともなく、苦笑する。
「……一つだけ、聞いてみてもいいですか?」
「はい、なんなりと」
「例えばですよ……人間がひとり残らず皆、恐怖を敵視しなくなった上で“妖怪と人間は仲良くできる”とか信じたら、妖怪の存在は書き変わって、実際にそれは可能になるかもしれません」
「成る程、そういう可能性もありますね」
「……でも、“今の”妖怪は、大体そんなこと望んでませんよね……勝手な理想を押し付けるように信じ込んで、それで、相手の存在を塗り替えて――その先にあるそれは……」
適切な言葉を見失った様にそこで切り、視線を手元の湯呑に移す監視役の様子に、白蓮はむしろ、成る程という思いを抱いていた。彼にはどこか、命蓮寺の妖怪に対しても、安易に好意的な解釈をするの躊躇っているような節があったが、この考えが理由なのだろう――恐れを許容し、“そのままの妖怪”を受け入れられる人間、そんな相手だと思ったからこそ、白蓮も仲間に欲しいと思っていたのだが。
例えば、実際にそれが可能になったとして、彼は迷いながらも、間違いなくそれを実行するだろう――白蓮にこれを問うのは、彼女の理想がどんなものか、見定めるためか。
「ふふ、そんなに難しく考えなくてもいいんですよ……信頼されれば、応えたくなる、これは人も妖怪も共通の性……妖怪はちょっと純粋で、それが届きやすいだけなんです。きっと、妖怪だって、自分たちで選べますよ……その信頼を受けて、自分たちがそれに応えるのか、拒否するのか、自分の意志で……そのお手伝いをするために、命蓮寺はあるのですから」
優しげな微笑を浮かべて、安心させるように言った白蓮の言葉に監視役も視線を上げて、小さく頷きを返して――されど、その心中にはまた別の迷いが渦巻いていて。
“彼ら”――幻想を忘却の彼方へと追いやるために、居なかったことにされた妖怪退治屋たち。
監視役は信じたかった、彼らが自分たちの犠牲の上に、きっとそれだけの価値がある営みを築くことを願っていると。だが、真っ当に考えて、それはありえないのだ……生涯や命や人間性を捧げ、戦い続けた末に、父の、兄の、戦友の功績も全てをなかったことかペテンに堕とされ、切り捨てられた彼らが望むとすれば、それは――
「そう、ですか……実際は、そう信じきれるものでも、ないんですけど」
――今の平穏の転覆と、その上に安穏としている人と妖怪への、復讐なのだろうから。
命蓮寺編? 旧鼠編? 終了でございます。
毘沙門天の使いの鼠はどう解釈しても旧鼠じゃないよなぁ、とオリキャラ主軸にプロットを変更した結果、今回のお話はいつもより更に自信がありません(詳しくは活動報告ででも)。
「本当に今回は詰まらんね」とか「今回はむしろまだマシ」とかご意見ありましたら、お気軽によろしくお願いいたします。