あきらめるな・・・わかっていたことだろ、自分が進もうとする道が普通の人よりも長く険しい茨の道だということを・・・それでも歩みを止めるな。歩くことを止めれば、お前の夢は消えてなくなるぞ。だから、歩き続けろ。そのためならば、私は何でもしてやる。お前の夢は、私の夢なのだから・

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もう一つの人格 その名は黒鉄 一颯

己の魂を武器に変えて戦う現代の魔法使い伐刀者<ブレイザー>。

その養成学校の一つである破軍学園に通う少年、黒鉄 一輝。

伐刀者としての魔力ランクは最下級のFランク騎士の一輝は留年し、落第騎士<ワーストワン>と蔑まれることとなった。

だが、一輝は異能を補って余りある高い身体能力と高度な戦闘技術を異常とも言える努力で身に着け、日本一の学生伐刃者を決める祭典、七星剣武祭の代表を決める選抜戦を見事に勝ち抜き、無冠の剣王<アナザーワン>と一目置かれる存在になりつつあった。

 

そんな一輝には、もう一つの特徴、いや特異ともいえる点があった。

一輝の中には、彼とは別のもう一つの人格が存在していたのだ。

 

その名を黒鉄 一颯と呼ばれる女性の人格。

 

多重人格とは少し違った一輝の特質は、一輝から一颯に人格が変わる際、肉体も別物に変わってしまうのだ。

つまり、人格と共に肉体も、男のものから女のものへと入れ替わるのだ。

 

何故、一つの存在に二つの心と身体が生まれたのか、何時からそんな事態になったのかは、誰にも理解できなかった。

だが、本人たちは別に困ったことがないので、構わなかった。

二人分の食事や睡眠が必要なわけでもなく、デメリットが無かったからだ。

そして、そんな二人の関係も良好だったこともある。

 

 

 

 

そして、黒鉄 一颯は現在、選抜戦のリングの上に立っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一颯は破軍学園の女子の制服に身を包み、対戦相手である桐原 静矢と向かい合っている。

その様子を観客席で観戦していたステラ・ヴァ―ミリオンは不機嫌そうに顔をしかめていた。

 

「ステラちゃん、あんまり眉間に皺を寄せていると戻らなくなっちゃうわよ」

 

気持ちはわかるけど、とステラの隣に座っている男性、有栖院 凪が言った。

性別は男だが、心は乙女の彼はアリスと呼ばれている。

そんな彼に指摘されても、ステラは不機嫌を隠そうとしない。

 

「だけど、可笑しいじゃない。シズクだってそう思うでしょ!?」

 

と、ステラは同意を求めるのは、アリスの向こう側に座っている小柄の少女、黒鉄 珠雫。

一輝と一颯の妹だ。

一輝と一颯を異常なほど敬愛している珠雫は自分と同じく腸が煮えくり返っているはずだとステラは思ったのだ。

しかし、雫から返ってきたのはステラが思っていたものと違っていた。

 

「何がですか?」

 

「何がって・・・!!?」

 

雫が冷静に言葉を返した事に、ステラだけでなく、アリスも驚いた。

 

「だって、イッキは選抜戦で勝っているのに、イブキも勝たないと勝ち星として認めないなんて・・・」

 

 

事の始まりは、一輝と珠雫、それに一颯の実家である黒鉄家が言い出した事だった。

黒鉄家は高ランクの伐刀者を輩出してきた名門一族だ。

ゆえに、Fランクの一輝が伐刀者として世に出ることが一族の恥として様々な妨害をしてきたのだ。

一輝が留年することになったのも、実家の圧力に前の理事長が従事したことが原因だ。

そして、今回の試合も黒鉄家がちょっかいを出して来たために起こってしまった。

曰く、

 

――― 黒鉄 一輝は同時に、黒鉄 一颯でもあるのならば、一輝と一颯、二人が勝って初めて勝ち星として数えなければ不公平ではないか、

 

と、そんな訳の分からない理屈を言ってきたのだ。

当然だが、現在の理事長、神宮司 黒乃はこんなフザケタ言い分など蹴飛ばそうとした。

だが、それを一颯が止めたのだ。

 

―――やらせて欲しいと

 

「シズク・・・アンタ、心配じゃないの!?」

 

「ええ。お姉様の事は全く心配していませんよ」

 

だって、と珠雫は言葉をつづけ、

 

「お姉様がお兄様以外の相手に負けることはあり得ませんもの」

 

そう微笑みながら言った。

余りに自信満々な態度にアリスも困惑気味に問いかける。

 

「そういえば、一輝も特に反対していなかったんだけど、一颯ってそんなに強いの?」

 

戦っている姿はおろか、表に出て修練をしている様子も見たことがない。

けれども、珠雫は表情を崩さないまま言った。

 

「もちろんよ、アリス。何せ、お姉様はステラさんと同じAランク相当の魔力を持っているのだもの」

 

「えっ!?」

 

「嘘っ!?」

 

珠雫の言葉に驚き、息を飲むアリスとステラ。

 

「でも、それなら、どうしてアンタ達の実家はこんな事を言ってきたのよ?」

 

当然の疑問を投げかけるステラ。

そこで珠雫は笑みを深く、優越感に浸るような笑みで、

 

「私以外の一族の者たちはお兄様たちの存在を気味悪がって、徹底的に接触を拒んだの。だから、お姉様は私にだけ、ご自分の能力を教えてくださった」

 

別に隠していたつもりは無いのでしょうけど、たぶん知っているのは私とお兄様だけのはずよ、そう嬉しそうに語る珠雫。

恐らく、提案を蹴飛ばそうとした黒乃も知らないのだろう。

そして、対戦相手の桐原も。

 

「でも、どうしてイブキだけなの?」

 

ステラの言葉の意味は、どうして一輝にはそれ程の魔力が無いのか、というものだ。

 

「お姉様は、お兄様の中で生まれた存在。だけど、お兄様とお姉様は全くの別個体だから、魔力を交流させることもできないらしいの」

 

本当にどういう原理なのかはわからないんだけど、

 

「前に聞いたことがあるのだけど。お姉様は、お兄様が真っすぐ誠実に強くなれるように、歪んだ感情を削ぎ落した受け皿なんだと」

 

「歪んだ感情?」

 

「ええ」

 

ステラの問いに珠雫は頷く。

 

「恨みや憎しい、自分に無いものを他人が持っている事に対する嫉妬や渇望、そういった人の人格を腐らせてしまう思い全て」

 

「それって、イブキはイッキが望んだ存在ってこと?」

 

と、ステラが問いかけると、珠雫は首を縦に振って肯定した。

すると、すぐ後にアリスが軽い調子で言葉を投げかけた。

 

「ねぇ、珠雫。だけど、それだと一輝は女になりたかった、て事になるんだけど。私みたいに?」

 

アリスの言葉を聞いてステラは魔力のこと以上に戦慄した。

だが、珠雫は少し首を傾げて、

 

「それは少し違う、かな?」

 

そこで先ほどまでの笑顔を曇らせて、小さな手を握り締めながら言葉を紡いだ。

 

「お兄様はただ、別人になりたかったんだと思う。自分とは全く違う誰かに」

 

珠雫の放った言葉は短かったが、余りに重たい一言だった。

それほどまでに追い詰められていた事に、ステラは黙り込んでしまい、気を落とす珠雫に何も言えずにいた。

すると、

 

「じゃあ、一颯の容姿は一輝の最も理想とする女性に反映されているってことよね?」

 

軽い感じでアリスが聞き捨てならないセリフを吐いた。

 

「一颯って、大人っぽくて美人よね」

 

「うっ」

 

ステラが、

 

「おまけに、胸も大きい」

 

「うぐっ」

 

珠雫が、アリスの指摘に悔し気に息を詰まらせる。

事実、一颯の容姿はかなり整っていた。

顔立ちは一輝に似ているのだが、一輝より少し目元が鋭く、腰まで伸びた艶のある黒髪、すらりと伸びた綺麗な脚とメリハリのある抜群のプロポーションは、クールな大人っぽい印象を与える。

特に、珠雫が反応した部分は、同じ部分に自信のあるステラですら慄いてしまうほどのものだ。

以前、めったに表に出て食事をとっている訳でもないのに、何故そんなに育ったのか聞いたことがあった。

すると、

 

「アイツ(一輝)が巨乳派だからだ」

 

と、当時は訳の分からない理屈に机をひっくり返した事があった。

 

 

 

 

 

ステラ達が話している頃、話題の人物である一颯はめったに着ない女子制服に少し違和感を持っていた。

 

(いつも一輝の制服を兼用にしていたからな)

 

兼用ではなく、普段の学園生活のほとんどは一輝が表に出た状態で、一颯はたまに顔を出すだけなのだが。

服装など特に気にしない一颯は男子の制服でもよかったのだが、周囲がそうするように言ったのだ。

しかし、慣れないスカート姿に本人も違和感を覚える。

 

「ずいぶん可愛い恰好になったじゃないか、一颯ちゃん」

 

対戦相手の桐原 静矢から言葉が投げかけられる。

口元に笑みを浮かべているが、それは一颯を嘲笑っているもののように思えた。

しかし、一颯は意に介した様子もなく。

 

「そうか」

 

「ははっ、相変わらず素っ気ない態度だね」

 

「フッ、そうでもないさ。表情では分からないかもしれないが、これでも私はお前と戦うことを待ち焦がれていたのだから」

 

「へぇ、そうなんだ」

 

口角を少し上げて笑みを浮かべる一颯に、桐原はあることを提案した。

 

「じゃあ、賭けをしないかい?」

 

「賭けだと?」

 

以前、ステラも桐原に乗せられて賭けをしたことがある。

その出来事を一輝の中から見ていた一颯には桐原が何を言い出すのか予想ができた。

そして、一颯の予想通りの言葉が桐原から飛び出した。

 

「簡単な事さ。勝ったほうが負けた方を好きにすることができる」

 

想像通りの事に一颯は小さな笑みをこぼした。

 

「つもり、一輝に負けた煮え湯を、私を辱しめる事で解消したいということか?」

 

「まさか!?ボクはこれでも紳士なんだよ。女の子にそんな事をする訳が無いじゃないか」

 

白々しい言葉を吐く桐原だが、その視線は一颯の豊満な胸に注がれていた。

一輝でもあるこの体を抱くかどうかは分からないが、少なくとも弄ぶ気はあるようだ。

しかし、一颯には桐原の思惑などどうでも良いのか。

 

「別に構わないぞ」

 

何の躊躇いもなく了承するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

その様子に観客席から見ていたステラは慌てて立ち上がった。

 

「アイツ、イブキにまで何てことを!!?」

 

「落ち着いてください、ステラさん」

 

激情に駆られるステラだが、同じ反応をするはずの珠雫が窘めた。

 

「大丈夫ですよ。あの男はすぐに後悔するはずですから」

 

「っ!?」

 

凍てつくほどの冷たい笑みで語った珠雫の言葉に、身を焦がさんばかりに燃えていた激情が一気に鎮火した。

同時に、疑問が生まれた。

何故、珠雫はここまで冷静に心配すらせずにいられるのか。

一颯の実力はそれほどのモノなのだろうか。

しかし、以前、ステラは一颯にどの程度強いのか聞いたことがあった。

 

「そうだな。私もアイツと同じで未だに実戦をしたことが無いからな。だが、これだけは断言できる―――」

 

――――私は一輝には勝てない

 

そう一颯は珠雫と同じ事を言っていた。

それなのに、相手は一輝が苦戦した桐原 静矢なのだ。

『狩人』の二つ名を持ち、弓の固有霊装<デバイス>による遠距離攻撃。

それに、透明になることができる能力の所為で、一輝は追い詰められたのだ。

一颯がAランクで広範囲の攻撃ができると仮定し、それを知らない桐原が油断しているとしても、珠雫の態度は可笑しい。

 

全く心配していない珠雫の態度にステラもアリスも困惑するばかりだった。

 

 

 

 

 

友人が心配しているにも関わらず、一颯は尚も余裕そうに笑みを浮かべながら、手に腰を当てて立っていた。

しかし、桐原はそれが単なる虚勢だと、思っていた。

もしも、黒鉄 一颯が強いのならば、彼女がずっと表に出ているはずだからだ。

Fランクの一輝の影に隠れている一颯が強いはずがない。

それを先入観だとはつゆにも思わず、桐原は獲物を狩る狩人の目で見る。

 

「じゃあ、約束は守ってくれよ」

 

「もちろんだ」

 

微笑みを浮かべる獲物に桐原は加虐的な笑みを浮かべる。

 

「さぁ、狩りの時間だ。朧月<オボロヅキ>」

 

「舞い降りろ、義憤の女神<ネメシス>」

 

自らのデバイスを出現させる両者。

桐原のデバイスは木で出来た弓を出現させる。

対して、一颯のデバイスは片手で振るうことが出来る両刃の細い西洋剣だった。

一颯のデバイスを見た桐原は更に笑みを深める。

 

「ははっ、一輝君と同じ剣なんだね」

 

「同じではないだろ。アイツは日本刀、私は西洋剣。似ているが違うだろ?」

 

「僕には似たような物だよ!一輝君みたいにボロボロになる前に降参したらどうだい!?」

 

言葉と共に弓から矢を放つ桐原。

だが、一颯は危なげなく迫る矢を剣で叩き落した。

 

「お前はアイツに負けただろ」

 

「へぇ、思ったよりやるみたいじゃないか!?」

 

「それはどうも。剣戟は一輝程ではないんだが」

 

連続で放たれる矢を一颯は顔色を変えずに全て叩き落す。

しかし、桐原も薄ら笑いを崩すことなく、

 

「でも、君たちは本当にちぐはぐした存在だよね?」

 

一颯に向かって軽口を放った。

 

「剣も性別も違う気味の悪い存在だ!!」

 

「人種差別はよくないぞ」

 

「差別じゃないさ。ただ、君たちみたいな可笑しなのが騎士にふさわしくない。一輝君がボクより強くても、君たちみたいな気色悪い奴らは、騎士の恥にしかならない、って言ってるんだよ!?」

 

一颯だけでなく、一輝の事まで侮蔑する桐原。

その言葉に観客席から観戦していたステラと珠雫が殺さんばかりに桐原を睨んだ。

しかし、侮蔑を向けられている一颯は全く気にした様子もなく、冷静に剣を振り続けていた。

全く自分の言葉に反応しない一颯に桐原は僅かに苛立ちを噴き上がらせる。

開始した位置から動かず防戦一方にも関わらず一颯は表情を変えないからだ。

 

「君さ。全く反応しないけど、まさかボクに勝てる、とか考えてないよね」

 

「その通りだが、何か可笑しいか?」

 

又も表情を変えることなく当たり前のように一颯は言った。

 

「それに反応が無いのはお前の言葉をよく聞きたいからだ。負け犬の遠吠えを聞くのは初めてなのでな」

 

「・・・・なんだって?」

 

「言葉通りだ。今のままは何度やろうと一輝に勝つことが出来ないから。一輝より弱い私に憂さ晴らしをすることで、傷つけられたエリートとしてのプライドと自尊心を嘗め回す意地汚い負け犬なのだからな」

 

そう言った後、一颯は首を横に傾ける。

すると、彼女の顔の横を矢が通り過ぎる。

 

「ふざけた事を言ってくれるじゃないか・・・女の子だからって、手心を加えてやれば調子に乗って・・・そんなに自信があるなら、本気でやってあげるよ!!!」

 

「狩人の森<エリア・インビジブル>か・・・」

 

舐めていたのはお前だろ、と言いたげな視線を向ける一颯。

 

「まぁ、出せないだろうがな」

 

猟奇的な表情で自分をいたぶろうとする桐原に向けて冷淡に言葉を放つ。

しかし、桐原はそれを鼻で笑い、

 

「はっ、何を言ってるんだよ。ボクが伐刀絶技を発動させれば・・・」

 

言葉の途中で動きが止まり、困惑の表情を浮かべる。

 

「な、何で・・・?」

 

「本当に気が付いていなかったんだな」

 

「な、何を言ってるんだ!?いや、お前、何をしたんだ!!?」

 

「鈍感もここまで来ると哀れに感じるな。自分の魔力総量の変化に気が付けないとな」

 

「魔力総量の変化・・・?」

 

「ああ、今のお前の魔力総量は『Fランク』まで減っているぞ」

 

困惑する桐原に向けて、一颯は冷酷な表情で真実を告げた。

そこで初めて桐原は自分に起こっている変化を悟ることが出来たのだが、その現象は到底信じられるものではなく、声を荒げて取り乱した。

 

「な、何を言ってるんだ!!?そ、そんな訳・・・」

 

「それがあるんだよ。私の能力は、『私のテリトリー内にいる全ての伐刀者の総魔力量をFランクまで削ぎ落す』のだから」

 

「は・・・?」

 

「発動させる魔力が無ければ、どんな伐刀絶技も無意味だろ?」

 

「う、嘘だ!!?」

 

絶叫しながら桐原は矢を一颯に向けて放つ。

しかし、一颯はそんな矢など興味無いと言いたげな視線で。

 

「無駄だ」

 

一颯が言った後、その言葉通りとなった。

錯乱したように放った桐原の矢を一颯は剣で叩くことも避けようともしなかった。

だが、矢は一颯の身体に触れる前に止まってしまう。

 

「ど、どうして!?」

 

「お前の魔力が少なくなったんだ。膨大な魔力を持っている私の身体を貫けるはずがないだろ?」

 

冷静に解説する一颯だが、面白いように桐原の表情が恐怖で引き攣った。

 

「そういえば、お前のエリア・インビジブルは透明になるんだったな。こんな風に―――」

 

「っ!?な、何で・・・」

 

今度こそ桐原の背筋が凍りついた。

 

「それはボクの伐刀絶技じゃないか!!!?」

 

目の前にいた一颯の姿が完全に消えてなくなったからだ。

それはまさに桐原 静矢の伐刀絶技だ。

 

「な、何でお前がボクの伐刀絶技を・・・」

 

「お前から削ぎ落した魔力は何処に行ったと思う?」

 

声だけが降り注ぐ。

 

 

 

 

 

 

「『模倣絶技』・・・お兄様の『模倣剣技』の様に、お姉様は、能力を発動している間だけ、吸収した相手の魔力からその者の伐刀絶技を模倣事が出来るのです」

 

珠雫の解説にステラは唖然としながら言葉を紡ぐ。

 

「何なのよ、その能力。それもイッキが望んだ結果だっていうの?」

 

「詳しい事情は聞いてないけど、たぶんそうかもしれないわ。他人の能力を使ってみたいと思うのは私もたまに思ったりするし」

 

と、珠雫は頷いてから、「でも・・・」と言葉を続けた。

 

「お姉様の能力も万能じゃないみたい。例えば東堂 刀華の伐刀絶技『雷切』のような物は模倣できないの。あれは居合いという刀技と能力が合わさった物だから。刀技を納めていないお姉様には模倣できない」

 

それに、

 

「テリトリー内の全て人間の魔力を吸収するから、共闘には不向きだし、吸収する人間が多いと魔力がごっちゃになって模倣できないみたい。圧倒的な能力だけど、その分扱いの難しい能力なの」

 

「いえ、珠雫。十分えげつない能力よ」

 

突っ込みを入れるアリス。

その言葉にステラも同感だった。

そして、先ほどまで怒りで桐原を見ていた視線は同情に変わっていた。

 

 

 

 

 

 

リングでは桐原は発狂したように喚きながら矢を放っていた。

 

「な、何なんだ、それは!?ズルいじゃないか!!!?」

 

恐怖のあまり涙目になる桐原。

しかし、次の瞬間、桐原は呻き声を上げ、動きを止める。

 

「がっ、あぁ・・・」

 

「そうか?」

 

その後、桐原の肩から真っ赤な鮮血が彼の制服を染め、軽い口調で桐原の肩を剣で突き刺す一颯の姿が再び現れた。

 

「そうでもないと思うんだがな。何せ、お前は“似たような条件”の相手と戦って負けてるんだ。そいつと同じ事をすれば、私にも勝てるだろ?」

 

正論の様に一颯は言うが、内容はかなりの暴論だった。

一颯は言っている人物は一輝の事だ。

だが、同じような事が出来るはずがない。

一輝が勝つことが出来たのは、長年の鍛錬の成果なのだ。

そんな事を考えながら桐原が肩を刺されたまま苦悶の表情を浮かべていると、

 

「おっと、そういえば、順番が違うな」

 

そう言って、一颯は桐原から剣を肩から引き抜くが、次の瞬間、

 

「最初にお前が矢を当てたのは右足だったな」

 

今度は桐原の右の大腿部へ剣を突き立てた。

 

「がぁああああああああああああ!!」

 

「そんなに痛いか?」

 

獣の咆哮の様な絶叫を上げ、その場に尻餅をついたように座り込む桐原。

その様子を一颯は冷ややかな視線を向ける。

 

「こんな事で大丈夫なのか?これからお前にはアイツが受けたのと同じ順番に剣で刺されるのだぞ」

 

「へっ・・・?」

 

大腿部に突き刺した剣を引き抜きながら告げた言葉に桐原は痛みも一瞬忘れ呆ける。

 

「もちろん。お前が去年のあの事件で負わせた傷も合わせて、落とし前をつけて貰うつもりだ」

 

「な、何で、今になって、そんな事を持ち出すんだよ!?アイツはこんな事しなかったじゃないか!!?」

 

「それは当然だろう。一輝はお前の事を恨んではいないのだから」

 

「へ?」

 

一颯の言葉に困惑する桐原。

去年、桐原は、学園が一輝を退学させたい事を知っていながら、決闘を持ち掛けたのだ。

当然だが、学園側、その後ろにいる実家の思惑に気が付いていた一輝は拒んだ。

だが、その場から立ち去ろうとする一輝の背中に桐原は矢を放ち、一輝に怪我を負わせたのだ。

それも幾度も、一輝を罵りながら。

そんな事をされれば、どんな人間だって恨みを持つものなのだが、

 

「アイツの人を憎み、妬む、そういう負の感情は全て私の元に来るのさ」

 

なぜなら、と一颯は少し自嘲気味に笑いながら、

 

「それが私の役目だからな」

 

何故、一人の人間に二つの魂を宿すこととなったのか。

一輝の中で生まれた一颯はずっと考えていた。

そして、自らが出した答えが、

 

 

―――黒鉄 一輝を真っすぐで誇り高い強い騎士になる手助けをする事

 

 

だから、一輝の誇りや志が揺らぐ感情は自分の身に入れよう。

 

もしも、一輝が怒りや悲しみを心にため込んだまま壊れそうになるのならば、自分の中へ出させよう。

 

もしも、周囲の人間が一輝の心に深い傷をつけられたのならば、その痛みの半分を自分が受け止めよう。

 

もしも、周囲の悪意が一輝の身体を雁字搦めにして暗闇に沈めようとするのならば、自分が全て払いのけよう。

 

「だから、私の中には、一輝を傷つけられた事に対する憎しみと、攻撃を受けた一輝の憎しみの二つが渦巻いているのさ」

 

と、一颯は説明するが、感覚的な事なだけに桐原には伝わっていない。

その事に苦笑を浮かべながら、「要するに・・・」と分かりやすい言葉で言い放った。

 

「私はお前を殺したいほど、憎んでいるのさ」

 

「っ!?」

 

言った直後、息が詰まるほどの濃密な殺気が放たれ、桐原は立ち上がる事が出来ず、そのまま後ずさった。

一颯はゆったりとしたペースで歩みながら追う。

その表情には全くの感情らしい物が見受けられないが、桐原にはかえって恐怖を植え付けるには十分なものだった。

 

「ま、待ってくれ!!わ、悪かったよ!!謝るから、許してくれ!!こ、こうさ・・・ぶっ!?」

 

「ギブアップなどさせるはずがないだろ?」

 

降伏を宣言しようとする桐原の口を片手で覆うと、彼の顎を外さんばかりの力を込めて持ち上げる。

細腕の一颯だが、魔力で強化されているため男性の桐原を軽々と持ち上げる事は容易だった。

そして、桐原を見上げる程の高さまで持ち上げると、

 

「お前だって、特に去年は逃げる事も出来ないアイツを笑いながらいたぶったではないか」

 

だったら、と底冷えしてしまう程の冷たい声音で話す一颯。

 

「私だって同じことをしてやるさ」

 

「んんっ!!?」

 

一颯の声に体の芯まで凍り付き、恐怖から金縛りにあったように身動きを取ることが出来なくなる桐原。

それでもなお、一颯は冷たい視線のまま、

 

「そういえば、私が何故このタイミングで行ったのか聞いていたな。出来る事なら、私だって去年のあの時、すぐにでもお前を八つ裂きにしてやりたかったさ。だが、それでは意味がないのだよ。アイツの怒りと悔しさを私が晴らしてやっては何の意味もない」

 

怒りと悔しさは、強くなろうと自らを奮い立たせる、一輝には重要な養分でもあるのだ。

 

「何より、お前に勝つことは色んな意味でアイツの成長にプラスになると、歯を食いしばり我慢しながら私は思ったんだ。現に、お前と戦い、勝つことでアイツは強くなることが出来た。私の思った通り、お前は良い踏み台になってくれたよ」

 

そこで一颯の激情は下がったのだが、

 

「それなのに、あの家の奴らはまた余計な事をし、それにお前もまた乗っかり、アイツの歩む足を引きずり落とそうとした」

 

だから、一颯の感情は再燃した。

 

「己を磨き正面から挑んでお互いを高めようとするのならば、まだしも、腐った状態で鬱憤を晴らすように足を引っ張られるのは不都合なのだよ。すでに用済みの踏み台が何時までも足元で虫ケラのように纏わりつくのは」

 

腹立たしさから、桐原の口を掴んでいる手の力を更に籠める。

 

「アイツは漸く最底辺から上りだしたんだ。なのに、足元や外野から、余計な邪魔が入るのは我慢出来ないのだよ、私は」

 

公平なチャンスを受ける機会を待っていたのは一輝だけではない。

一颯もまた、一輝のチャンスを渇望していたのだ。

 

「だから、お前にはそういう奴らを牽制する生贄として、見せしめになってもらう」

 

更に都合の良いことに、桐原はあの家に利用されていたのだ。

だから、今度は自分が利用しよう。

 

「さて、長々と話してしまったが・・・・覚悟は良いか、桐原 静矢?」

 

ゆっくりと恐怖を最高潮にまで引き上げるかのような動作で、一颯は剣先を桐原の眉間へと突きつける。

 

「最弱へと失墜した貴様を、貴様の最強の力をもって蹂躙する」

 

「んんんんんっっっ!!!!?」

 

一颯の決行の言葉を聞き、桐原の記憶はそこまでで途切れたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり肝の小さい男だったな」

 

剣を下ろし、桐原を投げ捨てるように手を放す一颯。

見下ろす一颯の視線の先には、極限状態まで恐怖を受けて気絶しリングの上で転がっている桐原の姿があった。

その姿は、口から泡を吹きながら、白目を剥き、ズボンのある一点が湿っていた。

そんな無様としか言えない桐原の姿を一颯は本当にくだらない物かの様に見つめて言った。

 

「もう一つ言っておくが、本当の騎士の恥とは、貴様の様に、泣きわめき、失禁しながら無様に命乞いする奴の事を言うのだよ」

 

言い放つと、一颯は桐原に背を向け、その場から立ち去ろうとするが、もう一度だけ振り返り、

 

「それから賭けの件だが、二度と私たちの周りをうろつくな。正面から一輝に挑むのは構わんがな」

 

その後は桐原には見向きもせず、

 

「ん?・・・なんだ?・・・やり過ぎ、だと?・・・何を言ってるんだ、私としてはもう二、三回突いてやりたかったんだが・・・・ふふっ、冗談さ。本当に甘いな、一輝は。そこが良い所なのだが」

 

独り言のように、自分の中にいる存在と話しながらリングを後にするのだった。

決して、大きな声ではなかったが、静まり返った会場にはよく響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『しょ、勝者!黒鉄 一颯!!』

 

試合が終わったにも関わらず、観客席では誰一人騒ぐものはいなかった。

勝利者の名を呼ぶアナウンスすら寂しく木霊するほど静まり返った場内。

だが、それも無理はない。

先ほどまで行われていた圧勝という言葉すら足りない程の一方的な一颯の独壇場のような試合を見せられれば、誰もが黙り込んでしまう。

ステラですら、心配していたのにも関わらず、今は一颯の能力に恐れを感じていた。

 

伐刀者が絶大の力を持っているのは魔力を行使することが出来るからだ。

それが当然であり、常識だ。

伐刀者は自らの魔力と備わった能力を鍛えて戦いに挑む。

だが、一颯の能力は、伐刀者としての戦いの根幹を奪うものだ。

つまり、今日までの戦い方をさせてもらえないのだ。

 

(もし、私がイブキと戦うことになったら、勝てるだろうか?)

 

そんな疑問が頭に浮かぶが、すぐに結論は出てしまう。

 

絶対に勝つことが出来ないと。

 

一颯の剣の腕前は自分と同じか、少し下ぐらいだろう。

だが、それは一颯が能力を発動させる前の話だ。

発動されれば、一颯は自分の魔力を上乗せした力を剣に込めて襲ってくるのだ。

例え、剣技でこちらが勝っていたとしても、魔力量の圧倒的な差に刃は届かないはずだ。

げんに、魔力を奪われスカスカとなった桐原の矢が一颯の身体に傷をつける事は出来なかった。

更に、ステラが十年近く研磨してきた能力も自らに牙を向けてくるのだ。

伐刀者にとっては悪夢だ。

 

「ねぇ、シズク。イブキの能力の効果範囲はどれぐらいなの?」

 

一颯の支配する領域では勝つことが出来ない以上、その範囲外から攻撃するしかない。

問題はどれだけの範囲に効果を与えるのか、と考察しながらステラは珠雫に問いかける。

普通に考えれば、敬愛する姉の能力の弱点を教えるとは思えないが。

 

「お姉様の能力の効果範囲は、リング全体です。もっとも、それはお姉様のみの魔力で発動した場合です。範囲内にいる伐刀者の吸収した魔力で範囲を広げる事が出来るそうですよ」

 

一颯の事を並々ならぬ信頼を持っている珠雫は簡単に答えてくれた。

だが、返された答えは最悪なものだったが。

 

(発動されれば、打つ手無いということじゃない・・・)

 

しかも、効果範囲を広げられるなんて、何処まで“えげつない”のだ、と憤りすら感じる。

 

(つまり、イブキに勝つには、イッキの『一刀修羅』のような技術が・・・・・え?)

 

そこまで考えて、ステラは息を飲んだ。

これまで明らかになった情報が全て一気に繋がったのだ。

『まさか!?』と思いながら自分が思い描いた事を否定する穴は無いか、頭を急激に働かせて探そうとする。

 

「気が付きましたか?」

 

だが、作業の途中でかけられた珠雫の言葉に思考が停止する。

珠雫の方を見れば、彼女の表情はまるでステラの考えが正しいと言わんばかりに微笑んでいた。

 

「お姉様の能力を受けない唯一の存在、それがお兄様なのです」

 

そう微笑んだまま珠雫は語った。

まるで自分の事の様に誇らしげに。

 

「お兄様の『一刀修羅』は生存本能を無視したリミッター解除。相手の剣技を盗む『模倣剣技』と絶対的価値観を読み解き行動を予想する『完全掌握』はお兄様の洞察力で行うもの。今あげた全てはお兄様のスキルである以上、『模倣絶技』では模倣できない。そもそもお兄様の魔力は削ぎ落すことが出来ない」

 

元々の魔力量が少ないからなのか。

それとも“相手に残す”魔力の総量が一輝と同じなのか分からない。

だが、一輝には一颯の能力を受けることがなく、これまで通りの自分の戦い方が出来る。

そうなれば、単純な剣技の戦いだ。

 

「お姉様は表に出て剣術の稽古をする余裕などないわ。だって、お姉様は自分の能力を使いこなすために、精神世界で魔力をコントロールする修練をするのに忙しいんだもの」

 

珠雫の言葉に当然だと思った。

相手の伐刀絶技を模倣するのだ。

それには相手以上の魔力の制御能力が要求されるだろう。

剣技を鍛える暇などない程に。

 

(アレは、そういうことだったんだ・・・・・)

 

以前、一颯がどの程度の強さなのか聞いたとき、彼女は一輝には勝てないと言っていた。

剣技は圧倒的に一輝の方が上なのだ。

その事実から、一輝が一颯に勝つビジョンは容易に想像できる。

だが、一颯はその後、こうも言っていた。

 

―――私はそれで良かったと思っているよ。何せ、一輝に疎まれたくないからな

 

あの言葉の意味は当時のステラには分からなかった。

だが、今なら理解できる。

自分が渇望するほど欲している物を全て持っている存在が身近に感じれば、疎ましく思うのが普通だ。

だが、一輝は、一颯をそうは思わない。

一輝の本質だけでそう思わないだけではない。

 

何故なら、勝てるからだ。

 

一輝は自分が欲しいものを全て持っている一颯に、誰も勝てないかもしれない彼女に唯一勝つことが可能だからだ。

 

そこまでステラが思い至った時、珠雫は羨まし気に、

 

「お姉様の能力は、お兄様がどれだけ凄まじいことをしているのか相手に否応なく、分からせることが出来る力」

 

そして、尊敬する方に頬を赤く染め、

 

「お姉様はその存在の全てをお兄様のために尽くしているわ。お姉様のデバイス、<ネメシス>には義憤という意味があるの。その意味は、不公正に対する憤り。ギリシャ神話では――――」

 

「神に働く無礼に対する、神の憤りと罰の擬人化した女神の名前だったかしら?」

 

言いかけた言葉をアリスが続ける。

その言葉に珠雫は頷き、

 

「お姉様にとって、お兄様は自分を生み出してくれた神、とまでは思っていないかもしれないけど。父親のような存在であり、兄であり、弟にさえ感じている」

 

だから、

 

「お姉様は母のような慈愛で接し、姉のような厳しさで見守り、妹のような敬愛を向けているの」

 

それは珠雫が兄である一輝に与えようとしている事に近い事だった。

だから、珠雫は一颯の事を尊敬し、羨ましいとさえ思っているのだ。

 

だが、ステラには分からなかった。

 

一颯の能力は、彼女が願ったものなのか、それとも一輝が望んだことなのか。

 

歪んだ感情から生まれた人格の一颯が歪んでいるのか。

それとも彼女を生み出した一輝が歪んでいるのか。

あるいは、二人の関係そのものが歪んでいるのか。

または、そんな二人を生み出してしまった、黒鉄家、この世界が歪んでいるのか。

 

ステラにも、誰にも分からない事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

 

 

話はほんの少し時間を戻し、入学式の日の事だ。

ホームルームの途中、担任の教師が吐血してしまうと言う非常事態があったため、そのままお開きとなったのだが、

新入生の女子生徒に囲まれる一輝に五人の伐刀者が因縁をつけてきたのだった。

もっとも、一輝は彼らを空手であしらい事なきを得たのだが、問題はその後だ。

 

一輝の技術に拍手を送りながら、教室に入ってきたのが彼の妹の珠雫だった。

 

四年ぶりの再会で溢れんばかりに喜びを漏らす一輝。

だが、その思いは珠雫の方が大きかった。

 

「お兄様、ずっとお逢いしたかった・・・」

 

一輝の頬に手を当てて、向かい合わせると珠雫は目をとして一直線に唇を重ねた。

 

「「「「ナニゴトーーーーーーー!!!!?????」

 

周りが慌ただしく騒いでいるが珠雫には関係ない。

珠雫は兄との再会を熱望していたのだ。勢い余って押し倒してしまったが。

有象無象の事など気にしてはいられない。

そんな事よりも、もっと兄を感じ、自分を感じてもらわなければ。

その時、不意に自分の胸にクッションのような柔らかな感触がある。

もしかして、と思い珠雫は目を開けると、

 

「ん、・・・お姉様?」

 

「ぅん・・・久しぶり、珠雫」

 

珠雫の目の前には先ほどまで、愛おしい兄の姿が消えていた。

だが、代わりに同じぐらい愛おしい姉の姿があった。

 

「どうして、お姉様が。先ほどまでお兄様だったのに・・・」

 

「すまない。早く珠雫と触れ合いたくて、一輝を押しのけて出てきてしまったんだ」

 

と、珠雫に対して申し訳なさそうにする一颯。

 

「いえ、お姉様。謝す事はありません。むしろ、お姉様が珠雫を感じたかったなんて、すごく嬉しいです」

 

「珠雫・・・・」

 

「お姉様・・・・」

 

感極まり涙を浮かべる珠雫に向かって、今度は一颯の方から唇を重ね、更に舌を絡める卑猥な音を奏でる。

 

「ちょっと待ちなさぁああああああああああいい!!!???」

 

二人だけの世界に浸っていた所を、ステラが大声を上げて引き離す。

 

「・・・何ですか、貴女は」

 

「どうかしたのか、ステラ?」

 

頬を赤く染めながら不機嫌そうにする珠雫と、平静な表情で不思議そうに問いかかける一颯。

 

「どうかしたかじゃないわよ!!アンタ達、血縁があるのに無いやってるのよ!!??」

 

「「ただの姉妹のスキンシップだが(ですが)?」」

 

「朝から、そんなドロドロのキスをする姉妹が何処にいるのよ!!!??」

 

「目の前にいるだろ?」

 

「そうです。私たちの庶民的な姉妹のスキンシップにケチを付かないでください」

 

「・・・・・・・」

 

自分の常識が間違っているのだろうか、と感じさせるほど平然と返す二人にステラは眩暈を感じる。

それでも果敢に戦おうと、周囲からの援護射撃を求めようと視線を見回す。

だが、援軍は期待できない事を悟ることとなった。

 

鼻血を出して放心状態の男子生徒と、口に手を当てて頬を赤く染める女子生徒。

皆、美女と美少女がディープキスをする色気に当てられているらしい。

戦える存在が自分だけだと悟ったステラは切り口を変えて攻める。

 

「だ、大体、イブキ!!何で、そんな恰好で平気なのよ!!」

 

男子生徒が悶絶している原因の一つは一颯の服装だった。

一颯の今の服装は一輝の制服だ。

当然だが、一颯には豊満すぎる胸があるため、制服のシャツから今にもボタンを弾き飛ばして零れそうだ。

思春期の男子学生には刺激が強いかもしれない。

 

「そういえば、お姉様。下着はどうされたのですか?」

 

シャツの間から見える素肌から珠雫は問いかける。

 

「仕方ないだろ。アイツにブラジャーを付けさせる訳にはいかないのだから」

 

つまり、ノーブラで、更に下は男物らしい。

それが更に男子生徒の欲情を煽る事となっているのだが、一颯は気にしない。

何故ならば。

 

「四年間で枯渇した珠雫の潤いを取り戻すには、唾液を取り込むキスすら足りないぐらいだ」

 

「お姉様・・・」

 

「変態か!!アンタは!!!」

 

烈火のごとく叫んだステラの一言に、

 

「失礼な事を言うな」

 

漸く一颯は眉間に皺をよせ反応を示した。

 

「妹と、弟限定だ」

 

「否定しないの!!?しかも、一輝も!!!!!????」

 

究極のブラコンの一颯は、同時に究極のシスコンだった。

 

そして、ステラが今後、一輝との関係を進めていく節々で、一颯の存在が大きな障害になっていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき


読み返して思ったことですが、自分は何を書いているのだろうか、自分の事ながら分からなくなりました。
息抜きのつもりで、ほとんど適当に書いていたはずなのに、所々こだわって書いてしまいました。
落第騎士の英雄譚はアニメで初めて知ったのですが、すぐに好きになり、漫画と小説を読み進めている途中なのですが、
不意に思いついてしまい、書いてしまいました。

ここまでお付き合いいただき、ありがとうございます。




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