「お疲れ様でした、教官・・・しかし、『あの』レーヴェ隊長と互角以上の戦いを繰り広げるとは・・・」
「ほう、彼女はそんなに強いのかい?まあ、確かにかなりの腕は持っている様だけどね。」
「強いも何も・・・彼女は風の様なスピードで相手を翻弄し、そして嵐の様な破壊力で相手を蹂躙する戦闘スタイルから、『ドイツの烈風』と呼ばれています。しかも世界でも屈指のIS操縦者ですよ?」
「異名を持つほどだったのかい・・・確かに、僕が扱うのは初めてとは言え1ガンダムに勝利したんだ、それも頷ける。」
「かと言う貴方も、ドイツではかなりの有名人ですが?」
「・・・何時からだい?」
「貴方がモンド・グロッソ会場に現れた時からです。あの
(『救世主』か・・・かつて僕はその言葉に執着し、自ら人類を導かんとした・・・多くの人間達を犠牲にして。もう、そんな言葉に縋りはしない。あの時、刹那・F・セイエイに討たれた事で僕は理解した・・・人間は、そんなに弱い存在では無い事を。僕が再び彼等を導くのは、それこそ傲慢だ。)
「僕はそんな御大層な者では無いさ・・・所詮、僕も生きる者の一部だ。」
「そうですか・・・しかし、私にとって貴方はそれに近しい物ですよ?」
ラウラの言葉に、リボンズは怪訝な顔をした。
「それは・・・どういう意味だい?」
「自慢ではありませんが・・・私はかつて、この隊でも上位の成績を収めていたのです。しかし・・・」
彼女が言いよどむ事から、どうやらあまり良い思い出では無い様だ。
「そこから先は僕が話そう。ISが登場し、シュバルツェ・ハーゼ隊の全隊員は『ヴォ―ダン・オージェ』と呼ばれるISの適合力を向上させる処置を施された。その『ヴォ―ダン・オージェ』は理論上、その被験者との不適合のリスクは無い筈だったが、何故か君とは適合せず、結果暴走・・・それにより、君は全ての訓練において後れを取るようになった。そうだろう?」
ラウラは見事に言い当てたリボンズに驚いたが、まあ専属教官だし自分の事は調べていても当然か、と割り切った。
「はい、私は『出来損ない』の烙印を押され、自分も徐々に落ちぶれて行きました。」
「その時に、僕が来たと言う訳か・・・成程、事情は大体分かったよ。」
ラウラはその言葉に若干表情を緩ませ、そしてまた顔を引き締めた。
「教官、かつて堕落していた私をここまで引っ張り上げて下さって感謝しています。私にとって貴方は、それこそ救世主の様な物です。しかし、私にはまだ一つの疑問が残っています。」
「何だい?僕が答えられる範囲であれば答えるよ。」
「では・・・教官は何故、私の専属教官を引き受けて下さったのですか?正直、あの頃の私はもう見込みの無かった筈です。それなのに何故・・・」
(やはり、そういう思考に至ったか・・・まあ本当の事を言っても良いのだけど、今はまだその時ではない。取り敢えず、適当な事を言ってごまかすか・・・)
「・・・そうだね。まあ、強いて言えば同族としてのよしみ、かな?」
「?それはどういう・・・」
「・・・さて、僕はそろそろここを出発しなければならないのでね。失礼させて貰うよ。」
「!? 待って下さい、まだ話は・・・!」
「・・・ラウラ、どうしても聞きたいのであれば話してあげるよ。しかし、今はまだいけない。今はまだ話すべきでは無いんだ。理解してくれるかい?」
「しかし・・・いえ、理解しました。勝手な要望をしてしまい申し訳ありません。」
「別に構わないさ。さて、ではそろそろ行くとするよ。くれぐれも訓練を怠らないように。」
「はい・・・了解しました。」
彼は満足そうに微笑むと、GNドライヴを起動させ空へと飛び立った。ラウラはその機影をいつまでも見上げていた。
「・・・教官、貴方にとって、私は・・・」
その独白は誰にも聞かれる事無く、虚しく消えていった。
シュバルツェ・ハーゼ隊本部を出発して三十分後、リボンズはドイツ上空で束と通信をしていた。
『はろはろ~リっくん。1ガンダムはどうだった?』
「良い完成度だったよ。これなら運用にも問題は無さそうだ。感謝するよ束。」
『えへへ、束さん久しぶりに頑張ったからね!!もっと褒めてくれても良いよ!!』
「まあそれは後だ。そう言えば、ルビの方はどうなんだい?」
『今ドイツの方に向かってるよ!ちょっとやって貰いたい事があったからさ、スローネのテストも兼ねて行って貰ってるよ!』
「やって貰いたい事?ドイツで何かあるのかい?」
『いやあ、何かドイツのデパートでテロが起きるかも知れないんだよね。ちょ~っと怪しい感じがしたんだよ。多分奴らそのデパート占拠して政府に色々と要求する腹積もりだろうから、出来るだけそれをルーちゃんと阻止してね!』
「了解。いますぐ現場に向かうよ。」
彼は通信を切り、機体に光学迷彩を施しドイツ中心部へと向かった。
その頃ルビは、現場のデパートのカフェで優雅にコーヒーを飲んでいた。彼女はリボンズが出発する一時間前からドイツへ向かっていたので、案の定早く着き過ぎたのだ。よって彼女はとても暇だったので、予め怪しい人物を探す事にしたのだ。しかしそれらしい人物は見つからず、仕方ないので少し休憩する事となった。
「・・・苦い、けどおいしい・・・」
彼女は初めて飲むコーヒーを堪能していた。コーヒーを啜ると共に綻ぶ表情が何とも可愛らしい。
(それにしても、お兄様遅い・・・まあ仕方ないよね、お仕事忙しかったみたいだし・・・その内来るかもしれないし、これもう一個頼んどこ・・・)
彼女は店員にもう一つコーヒーを注文した。その行動を見ていた周りの男性客達が色々な妄想をし始めたが、無論それはリボンズの分である。すると不意に、彼女の端末に通信が入った。ルビがそれを見ると相手はリボンズだったので、彼女は嬉々とした表情で通信に応じた。
「久しぶり、お兄様・・・元気?」
『ああ。そちらも調子は良さそうだね、安心したよ。』
久々に聞く兄の声。それを聞くだけで、彼女は胸の奥が暖かくなるのを感じた。
「ふふふ・・・ありがと。今何処に居るの?」
『丁度デパート周辺に着いたところさ。君こそ何処に居るんだい?出来るだけ早く合流したいんだ。』
「ルビは・・・デパートのカフェに居る。お兄様の分もあるから・・・来てね。」
『それは・・・心遣い感謝するよ。ああ、直ぐに向かう。』
ルビが応答しようとしたその時、デパートを爆音と共に振動が襲った。
『この音は・・・!始まってしまったか。ルビ、君は待機しているんだ。おそらく幾ら君でも一人では無理だろう。僕も直ぐに向かう。』
「ん、分かった・・・じゃあね。」
彼女は通信を切り、完成体となった自身の愛機・・・「ガンダムスローネ」を見た。今現在はオレンジ色のネックレスとなり首にかかっている。彼女はこれを握りしめ、こう誓った。
(絶対、誰も死なせない・・・悪い奴らを倒す、そしたら皆死なない!)
その頃デパートの一階では、武装したテロリスト達が民間人達を一か所に集めていた。民間人は彼等を憎しみ、あるいは畏怖の目で見つめた。この張り詰めた空気の中、一人の少女が突然泣き出した。彼女の母親であろう女性は必死に彼女を宥めるが、一層泣き声は増すばかりだった。それを見かねたテロリストの一人がその親子に銃を向けた。
「おい!そこのクソガキ!死にたくなけりゃ泣くんじゃねえ、撃つぞ!!」
それを見た比較的良識な仲間が、慌てて彼を止めようとする。
「お、おいよせ!幾らそいつが女だとしてもまだ子供だ!」
「うるっせえ!結局はこのガキもあの薄汚ぇ思想に染まるんだろうよ!!ならいっその事、純粋なまま殺した方が・・・!!」
「馬鹿かお前は!今すぐやめろ!!」
「止めんじゃねえクソが!女は何であろうと俺達の『敵』だ!お前も分かってんだろ!」
「だ、だが・・・!」
「黙れ!俺は本気だ!今分からせてやるよ!!」
そう言うと彼は安全装置を外し、トリガーに手をかけた。カチャリ、という無機質な音が、その場の空気を凍り付かせる。
「じゃあなクソガキ・・・!地獄へ堕ちろ!」
そして、無慈悲にも引き金は引かれた。
ガガガガガガガ!
親子が居た辺りが砂煙で包まれた。周りの者は皆青ざめ、その煙を呆然と見つめていた。しかし徐々に煙が晴れると、五体満足の親子が現れた。皆は安堵すると共に疑問に思った。この親子はどうやって助かったのだろう?その疑問は数秒後に判明した。
煙の中に、もう一つの影があった。その姿は徐々に明白になっていき、やがて一機のISが姿を現した。
青と白のカラーリングで、全身を覆う装甲。
親子を守ったのであろう大きな盾。
そして、極め付けはまるで天使の翼を思わせる、背中から出る緑色の粒子。
「よう、せいさん?」
泣いていた少女が、目をぱちくりさせ呟いた。その機体はゆっくりと頷き、手を少女の頭の上に乗せた。その機械の手は無機質ながらも、何処か暖かさを持っていた。少女は安心したのか、そのまま眠ってしまった。慌てて抱き留める母親を後目に、その機体は驚くテロリスト達と対峙した。
次回、ルビ主観の戦闘も出すかと思います。