では、どうぞ!
ラウラがモニターを見ていると、ある一人の生徒が遠慮がちに声をかけてきた。
「あの・・・貴方がボーデヴィッヒさん、だよね?」
「うん?ああ、如何にも私がそうだが。このタイミングで話掛けてくると言う事は、貴様が伊東 華とやらか?」
「う、うん。宜しく・・・ね。」
ラウラの放つ雰囲気に、彼女は少し気圧されている様だった。
「・・・そう緊張するな、過度な緊張感はコンディションを悪くする。それに私と貴様は、今日一日はパートナーなのだからな。そう警戒しないでくれ。」
「え・・・ああ、うん。ごめんね。」
華は未だ彼女に対する畏怖を拭い切れなかったが、少なくともラウラが悪い人間ではない、という事を理解した。
「そうだ、貴様に頼みたい事があるのだが、良いか?」
「・・・何?」
「私は織斑 一夏と決着を付けたい。だが、奴の相方であるデュノアが、そう簡単にはやらせてくれないだろう。だから、貴様に奴の足止めを頼みたい。まあ、出来るのならば倒してしまっても構わんが・・・」
(足止め・・・今まで厳弥や恵、幾が居たから何とかなったけど・・・私一人で、出来るかな・・・?)
彼女は少し迷ったものの、その迷いをすぐに振り切った。
(私も、少しは一人でも戦えるようにならないと・・・!)
「うん。私の機体は後方支援向きだけど、やってみるね。」
「すまんな。私も、隙を見つけては援護しよう。」
「Danke。でも、大丈夫だよ。ラウラさんは、織斑君との戦いに集中してて。」
「む、そうか・・・承知した。期待しているぞ。」
「・・・うん!」
「まさか、一番最初から彼女と当たるなんてね・・・」
「あと、この相方の子も気になる。伊東 華・・・確か、あの金髪で眼鏡を掛けた子だったっけ?この前皆で一緒に飯を食った時にいた・・・」
「うん、その子で間違いないよ。でも、彼女がどんな機体を所持しているか分からない以上、油断しないに越した事はないね。」
「ああ、油断は禁物だな。でも、そこさえ気をつければ、俺達が勝てる可能性も出てくる。何しろ、タッグでの連携の熟練度は、俺達の方が上の筈だからな。」
「確かに、彼女が率先してパートナーを選んだとは思えない。恐らく抽選で選ばれたタッグだろうから、連携も僕等に比べれば、そこまで確立されていないと思う。そこに勝機があるんじゃないかな?」
「おう。それじゃ、そろそろ行くか。アイツに、俺達の特訓の成果を見せつけてやろうぜ!」
「うん!頑張ろうね、一夏!」
数分後、両方のチームがアリーナに集まった。
「まさか、一戦目から当たるとはな。これで待つ暇も省けたと言うものだ。」
「そりゃあ何よりだ。俺も同じ気持ちだからな。」
「ほう?その面構え、余程自信がある様だな。」
「そりゃあ、この日の為に散々特訓してきたしな。それに、どんな時でも戦意を・・・自信を持てって、リヴァイブさんに教えてもらった。」
「・・・成程、それは結構な事だ。さて、では・・・準備は良いな?」
「ああ・・・」
『試合開始、3秒前。2、1...』
「「叩きのめす!!!」」
試合開始のブザーが鳴ると同時に、一夏がラウラに急速接近し、雪片弐型を振り下ろした。しかし、ラウラは即座にAICを発動させ、一夏の動きを止めてみせた。
「開幕直後の先制攻撃、単純ですぐに読めたぞ。前回から何も学んでいないのか?」
「そりゃどうも、以心伝心で何よりだ。」
ラウラはレールカノンを一夏に向け、発射しようとした。しかし、
「やらせないよ!!」
一夏の後ろから現れたシャルが、ラウラに向けマシンガンを放った。
「やはりそう来るか・・・伊東、奴は任せるぞ!」
「うん!」
ラウラの後ろからも華が飛び出し、シャルに向け魚雷を数本放った。
「くっ、伊東さんか・・・」
「デュノア君、ごめんね。行かせる訳には、いかないの・・・!」
迫る魚雷を、シャルはマシンガンを使って撃ち落とした。
「なら・・・意地でも通させてもらうよ!!」
シャルが、華に向けマシンガンをばらまく。だが彼女は、それを地走する事で回避した。
「おっと・・・案外速いな。でも!」
シャルは華が走る先に向け予測射撃をした。すると、華の周囲を浮遊していた本が一斉に閉じ、彼女を弾丸から守る様に集まった。そしてそれらに着弾したものの、本の表紙には傷一つ付いていなかった。
「この本は、シールドビットとしても使えるの・・・!そう簡単に、やられないんだから!」
再び本が開き、そこからBT魚雷が放たれる。そして、別の本から現れたガトリング砲を、彼女は構えた。
「よく狙って・・・Feuer!」
ドドドドド!という轟音を発生させながら、高スピードで弾丸が射出される。
「凄い弾幕だね・・・でも、回避出来ない程じゃない!」
シャルは不規則に動くBT魚雷を破壊しつつ、ガトリング砲から発射される弾幕を回避した。
「やっぱり・・・当てずらい、これ・・・!」
「これで終わりなの?じゃあ、今度は僕から行かせてもらうね!」
マシンガンをもう一丁取り出したシャルは、二つの銃口を華に向けた。
その頃管制室では、リボンズ・千冬・真那が試合を観戦していた。
「デュノア君、先に伊東さんを倒すつもりでしょうか?」
「賢明な判断だ。伊東四女の機体は後方支援向き、なので下手に野放しにして織斑の方に向かえば、間違いなく圧倒的物量をもって後ろから突かれる。それに奴自体、デュノアに比べればまだまだ経験不足だからな。倒せる敵はさっさと片付けてしまった方が良い。」
「確かに、その様だね。彼女自身、タイマンでの戦闘はあまり得意ではない様に見受けられる。」
画面には、シャルに押され気味な華の姿が映し出されていた。
「それにしても、織斑君・・・デュノア君の援護があるのを踏まえても、よくあのボーデヴィッヒさんと渡り合えますね・・・」
「実際、デュノアの存在が大きいだろう。遠方からでも織斑の援護が出来る程の余裕と技量が、今の奴にはある。」
「それを警戒して、今の所はそこまで踏み込んでいない、と言う事か。君やレーヴェ隊長の影響を受けて、血気盛んになったり、無闇矢鱈に突っ込む様になっていたらどうしようかと思っていたが・・・杞憂に終わって良かったよ。」
「おい貴様・・・それはどういう意味だ?」
「おや、聞きたいかい?フフフ・・・」
「ほう・・・」
「ちょ、ちょっとお二人共!ボーデヴィッヒさんが何かしそうな感じですよ!あと管制室で喧嘩しないでください!!」
その頃、華は防戦一方の状態に陥っていた。時折BT魚雷を発射して、シャルの死角からの攻撃を試みるも、焦りから集中力を欠いている彼女が操作するそれ等、最早只の的でしかなかった。
「そこだっ!」
シャルは華の隙を突いて、アサルトライフルを連射し、彼女に直撃させた。
「きゃっ!エネルギーが・・・」
それにより、装甲の薄い彼女の機体は、シールドエネルギーの内四割を持っていかれてしまった。
(このままじゃ・・・なんにも出来ないまま、やられちゃう・・・やっぱり、はっちゃんじゃ無理だったのかな・・・?)
華が諦めかけたその時、ラウラのワイヤーブレードが彼女の胴体に巻きついた。
「ら、ラウラさん!?」
「む、驚かせてしまったか。いやなに、やはり貴様には、デュノアの足止めは荷が重過ぎたかと感じたのでな。前衛は私に任せてもらおう。」
さらりとそう言ってのけた彼女に、華は驚きの表情を見せた。
「でも、それじゃラウラさんは、1対2で戦うことになっちゃうよ・・・?」
「それでもあまり負ける気はせんが・・・万が一という時もある。貴様には、私の戦闘のサポートをしてもらいたい。このワイヤーはその為のものだ。貴様を宙に浮かせ、空中からの援護を可能にさせる。」
「・・・出来るのかな?地上戦でも一度失敗したのに・・・」
「私の部下が、この様な事を言っていたぞ。『出来るか出来ないかは関係なく、只やるのみ』とな。何、心配する事はない。私は貴様の足としてしっかり動いてやるし、貴様も後先考えずに動いてくれればいい。」
「・・・ラウラさん、Danke。もう一度、やってみるね。」
そう言った彼女の表情は、先程とは打って変わった力強い物に変わっていた。
「フッ・・・良い面構えになったな。さぁ行くぞ、貴様本来の実力を見せてみろ!!」
「Ja!」
その頃、3年のシード選手である厳弥と恵は、華の試合を見に来ていた。
「へぇ。ラウラちゃん、結構面白い事するわね。」
「華の機体はサポート特化型だから、1体1の勝負を挑むのはそもそも間違ってたし。ああいう形で、あの眼帯のサポートに回るってのも悪くはないでち。」
「その分、宙に浮いてるから狙われやすくはなるんでしょうけど・・・多分、そのことも視野に入れてるだろうし、ちゃんと対策も考えてあるかもね。」
「まあ、見た感じでは大丈夫そうでちね。じゃあ、ちょっと幾の方の観戦行ってくる。」
「オッケー。次の試合までには戻ってよ?」
「分かってるでち。それじゃ、また後でね。」
恵と別れた厳弥は、再びアリーナの方に向き直った。
「伊東、織斑が接近中だ!」
「!大型推進魚雷、射出準備!」
一夏が雪片弐型を構えて接近戦を仕掛けて来るが、彼女はギリギリまで一夏を引き付けた。
「今です、Feuer!」
発射されたそれは、丁度一夏の胴体に直撃し、彼を圧倒的推力で押し戻した。
「ラウラさん、撃って!」
「任せろ!」
ラウラはレールカノンを発射し、一夏諸共魚雷を吹き飛ばした。
「ハハッ、素晴らしい花火だな!」
「でも、まだ動ける筈。あの魚雷、威力はそこまで高くないし。」
「だろうな。まあこの程度で終わってしまっても、興が乗らんというものだ。どれ、もう一発お見舞いしてやるか?」
ラウラは再びレールカノンを発射したが、それはシャルによって防がれた。
「おっと、デュノアか・・・さて、どう料理してやるか?」
「任せて。BM魚雷、連続射出! 」
本が開き、BM魚雷がシャルに向かって複数放たれ、それ等は横に一直線に並んだ。
「はっちゃんなりの、これの使い方・・・やっと、分かった!」
華は再びガトリング砲を取り出し、シャルに向かう魚雷に照準を合わせた。
「Feuer!」
そして、横薙ぎにガトリング砲を掃射した。放たれた多くの弾丸は、下手な鉄砲数撃ちゃ当たる、と言う言葉通りに魚雷に着弾し、アリーナの半分を爆煙が包んだ。
「まずいな、早く煙から脱出しないと・・・!」
いち早く危険に気付いたシャルは、素早く上に飛んだ。アリーナの上部までには、煙が及んでいないと判断したからだ。だが、彼女がそうさせる筈が無かった。
「遅い、遅いぞ!」
ラウラがいつの間にか猛スピードで、煙を吹き飛ばしながら突っ込んで来ていたのだ。彼女は残る全てのワイヤーブレードを射出し、シャルへと向けた。シャルはそれの回避を試みたが、ついには足に巻き付かれてしまった。
「捕まえたぞ!もう今までの様には飛び回れんな、バッタが!」
ラウラは得意気な顔でそう叫び、シャルを地面へと叩き落とした。
「ぐっ・・・それでも!」
シャルはショットガンを両手に持ち替え、ラウラに向けて連続で放った。
「フン、そんな散弾ではな!」
ラウラはそれを、AICを使って防いだ。が、それにもかかわらずシャルは笑っている。
「・・・ッ!ラウラさん、後ろ!!」
「何・・・!?」
華が叫ぶと同時に、どこからか弾丸が飛来し、ラウラのがら空きの背中に直撃した。
「なん・・・だと・・・ッ!?」
そして二発目も当たった所で、ラウラは何とかその場から離れた。
「ラウラさん、大丈夫!?ごめんね、まさか織斑君が、デュノア君のアサルトカノンを持っていたなんて・・・」
「いや・・・あれは私のミスだ。少々温まり過ぎていたよ、すまなかった。」
ラウラは、モニターに表示されている残りシールドエネルギーに目を向けた。
(かなり減らされたか・・・装甲の薄い背部を狙われたのは痛い。戦闘中にヒートアップしてしまうのは、悪い癖だな。いや、あのお二人に感化されたと言うべきか・・・)
その頃、一夏とシャルも合流して相談をしていた。
「大丈夫か、シャル?」
「なんとかね・・・結構ゴリ押しだったけど、一夏が成功してよかったよ。」
「にしても・・・ラウラはもちろんだけど、あの子も結構厄介だな。」
一夏のその言葉に、シャルは頷いた。
「多分伊東さんは、誰かをサポートする時にその実力を発揮出来るんじゃないかな。きっとラウラさんはそれに途中で気が付いて、僕達を各個撃破する戦法から、伊東さんを自分のサポートに従事させる戦法に変えたんだよ。」
「やっぱ、アイツの機転の良さは半端ねえや・・・とにかく早いとこあの子を倒さないと、ラウラに攻撃をする事さえ出来ないかもな。」
「うん。あの連携の良さは、正直予想外だったよ。どうにかあれを崩したいけど、ああも互いに密着されてる状態じゃ、連携を乱させるのは難しいかな。」
「と、なると・・・どうにかして、あの子を行動不能にまで持ってかないといけねぇって事か。」
「そうなるね。でも、さっきみたいな手はもう通じない筈。どうするかな・・・」
シャルが次の手を考える中、一夏もまた自分に出来る事を考えていた。
(いつまでも、シャルに任せっきりじゃダメだ・・・でも、どうする?どうすれば、アイツの隙を突いてあの子に攻撃出来るんだ?どうにか、一瞬でも隙を作れりゃ良い。考えろ、俺にあるのは刀一本と、零落白夜。あとは・・・)
「
「何か思いついたの、一夏?」
「シャル、少しやってみたい事があるんだ。協力してくれないか?」
「・・・さっきから攻撃、してこないね。どうしよう?」
「おそらく、作戦を練り直しているのだろう。この隙を突いて攻撃する手もあるが・・・やめておくか。それに、もう話は済んだ様だしな。弾幕を張る準備を頼む、来るぞ!」
「うん!」
彼女等が気を引き締め直すと同時に、一夏とシャルが再び突撃を開始した。
「シャル、頼んだぜ!」
「了解!一夏も無茶しないでね!」
「おう!」
そう言った一夏は、更にスピードを上げた。
「もう、ちゃんと分かってるのかなぁ・・・ッ、来る!」
シャルは即座にアサルトライフルを両手に構え、目の前で展開された弾幕を撃ち落とし始めた。
(零落白夜を予め発動させた一夏が、ラウラさんがAICを発動させる寸前で
華が放った魚雷が次々と墜されていくのを見たラウラは、レールカノンを連射しながらワイヤーブレードを射出した。それ等は一夏を拘束すべく彼に襲いかかるが、彼はそれ等を雪片弐型で斬り捨てた。
「まさか、二度もワイヤーブレードを破壊されるとはな・・・だが、手札はこれだけではない!」
するとラウラは、華から借り受けたサブマシンガンを放った。一夏はそれを避けるが、避けた先に更にレールカノンを撃ち込まれる。
「うおっ・・・っと。危ねぇ・・・」
「ほう、よく回避したな。少しは成長している様だ。だが・・・」
(っ、来るか!?)
一夏とラウラの間の距離は、残り少ない。彼は瞬時加速を使用するタイミングを見定め始めた。
「そんなに正直に突っ込んで来ては・・・」
ラウラがサブマシンガンを撃つ手を止め、右手を前に出す。だが、AICが展開された様子はない。
(まだだ・・・もう少し!)
一夏が飛び出したい衝動を抑えて進んでいると、ついにその時が訪れた。
「またこいつの餌食となるぞ!」
(来たっ!今だ!)
一夏は無理矢理体の向きを変え、
「うおおおおおおお!!!」
そして、その勢いのまま華を斬りつけた。
「え・・・」
彼女は、何が起こったのか分からないという目で一夏を見た。零落白夜の影響で、彼女の機体のシールドエネルギーがみるみる減っていく。
「やだ・・・嘘、シールドエネルギーが・・・」
そして遂に0になり、戦闘不能状態に陥った。
「そん、な・・・ごめんね、ラウラさん・・・」
「クソッ、織斑 一夏!」
ラウラは華を地面へと下ろし、離脱しようとしていた一夏をAICで止めた。
「よくもまあやってくれたな・・・今貴様も墜としてやる!!」
「・・・忘れてねえか?俺達は2人なんだぜ?」
一夏の声と共に、シャルがアサルトライフルを放ちながら、高速でラウラに接近した。
「そのスピードは・・・
「無いのは当たり前だよ。なんたって、今初めて使ったからね!」
「この短時間で覚えただと・・・!くっ!」
ラウラは後ろに退避するが、彼女を再び背後からの衝撃が襲った。彼女が振り返ると、一夏がシャルのアサルトライフルを構えていた。
(同じ手を二度も食らうとはッ・・・!)
「何処を見てるの?」
「なっ!? 」
いつの間にかラウラの目の前まで来ていたシャルは、腕にあるシールドの先端をパージした。するとそこから、彼女の切り札であるパイルバンカーが顔を出した。
「
「この距離なら、外さないっ!」
そして、それでラウラの腹部を殴りつけた。
「がッ・・・!」
ラウラの目が大きく見開かれ、アリーナの壁まで吹き飛んだ。
「まだまだ!」
シャルは再びラウラに接近し、パイルバンカーを連続で叩き込む。撃ち込まれる度にラウラの体が跳ね上がり、シールドエネルギーもレッドゾーンまで減少した。
(嘘だ・・・こんな事で、こんな事で負けるなど・・・!)
やがて、彼女は力なく地面に倒れ伏した。
「いよっしゃあ!やったな、シャル!」
「うん!上手くいったね、一夏!」
シャルがラウラを倒した事により、アリーナは大きく盛り上がった。
ー私は、負けたのか?負けて、しまったのか・・・?
彼女は暗闇の中、一人思った。
ーそうか、負けてしまったか・・・教官の、前でッ・・・!
彼女が、最も恐れていた事が起こってしまった。まず彼女が心配するのは、勿論彼についてだ。
ーこの無様な私を、あの方はどう思うだろうか・・・?あの方の指導を受けていながら、敗北を喫した、この私を・・・
すると、彼女の中に一つの不安が生まれた。それは彼女にとって、とても受け入れ難い物だった。
ーもしかすると・・・あの方は私に失望しているかもしれない。見切ってしまうかもしれない。・・・見捨てられるのか、私は・・・!?
彼女の中の不安が加速していき、どんどん大きくなる。
ー嫌だ・・・嫌だ!あの方に見捨てられてしまったら、私にもう、生きる意味は・・・
見捨てられたくない。彼女のその思いは爆発的に強くなってゆく。そして、彼女は望んだ。
ー力だ・・・力が欲しい。あの方に認められる程の力。絶対に、誰にも負けない程の力が!
彼女の歪んだ望みに、ISが応える。
『汝、力を望むか?』
ーああ、寄越せ!私に残された唯一の光、失う訳にはいかん!その為なら、マシーンにだって魂を売ってやる!
その頃、ラウラの体に異常が起こっていた。
「うぐッ!?があああァああああああ!!」
苦しそうな叫び声を上げる彼女を、黒い塊に変化したシュヴァルツェア・レーゲンが取り込んだ。
「なんだ!?一体ラウラに何が起きてるんだよ!?」
「分からない・・・とにかく、伊東さんを避難させなきゃ!」
「分かった、俺が行ってくる!」
「い、一体ボーデヴィッヒさんの身に、何が起こっているんでしょうか?」
「分からんが、これは非常に不味い事態だ。状況をlevelDとして、 観客に避難勧告を出せ。」
「分かりました、放送で伝えます!」
「頼む。・・・リボンズ、お前はアレをどう見る・・・リボンズ?」
返答がない事を訝しんだ千冬が横を見ると、そこに彼の姿は無かった。
「・・・成程、教え子の危機を誰よりも早く察知したか。全く、良い教官を持ったな、奴は。」
アリーナの観客席にシャッターが降りてアリーナと遮断された頃、ラウラを取り込んだ黒い塊は、徐々に人の形を形成していく。そして、その手には一本の刀の様な物があった。
「あの刀、雪片・・・!千冬姉の物と同じじゃないか!」
一夏が怒りのあまり震え出す中、黒い塊は彼の神経を更に逆撫でするような形状に姿を変えた。
頭にある特徴的なV字アンテナ。
一般のISよりも人間に似たフォルム。
左側のみ金色に輝いているツインアイ。
そう。それは色こそ違うが、姿形は紛れもなく『1ガンダム』だった。
「コイツっ・・・こんの野郎ォ!」
一夏は雪片弐型を固く握りしめ、黒い『1ガンダム』に斬りかかった。だが、それは圧倒的なパワーでそれに対応し、逆に一夏を押し飛ばした。
「うあっ!?」
その衝撃のあまり、一夏は雪片弐型を手放してしまう。それに追い討ちをかける様に、黒い『1ガンダム』は雪片を振り上げた。
(クソ、やられるっ・・・!)
一夏は目を閉じ、身構えた。が、いつまで経っても攻撃は来ない。彼がゆっくりと目を開くと、そこにあったのは・・・
白く輝く本来の1ガンダムが、GNビームサーベルで攻撃を受け止めている姿だった。
(間に合ったか・・・彼等に何事も無くて良かった。)
リボンズはGNドライヴの出力を上げ、相手の雪片を徐々に押し戻す。そして、がら空きの胴体に蹴りを入れた。
「ラウラ、聞こえているかい?聞こえているなら応答を・・・いや、無駄か。」
リボンズは通信を試みるも、相手は再び雪片を構えて臨戦態勢に入った。よって彼は説得による事態の鎮静化という選択肢を捨て、実力行使に出る事を決断した。
「そういえば・・・君の相手をするのは久しぶりだね。丁度いい、数年振りに君の実力を測ってあげよう。」
彼がGNビームライフルを展開すると同時に、相手はリボンズに向かって突撃した。
「一夏、落ち着いて!そんな状態で乱入しても、やられるだけだよ!」
「シャル、離してくれ!アイツ、雪片どころか千冬姉の技まで真似しやがって・・・!でも、それだけじゃない。あのIS、 少し形は違うけど、間違いなく俺を助けてくれたISと一緒だ!俺の人生の恩人二人を、アイツは・・・!」
「一夏・・・」
すると、一夏達に一通の通信が入った。
『デュノアの言う通りだ、織斑。今のお前があの戦いに介入しても、恐らく1分ともたん。』
「千冬姉!?けど、アイツは・・・!」
『織斑先生だ、馬鹿者。さて話を戻すが、お前にどの様な事情があろうと、お前があの戦いに介入する事は許さん。本当なら、お前達も強制的に避難させている所だ。』
「何でだ!?どうしてだよ千冬姉!そりゃあ、アイツを一発ぶっ飛ばすって事もあるけど・・・あの人に、あのISに乗ってる人に恩を返すチャンスなんだよ!確かに俺は素人だけど、こっちの数が多い方が・・・」
『それが駄目なんだ。強者にとって、自分との実力差があり過ぎる味方は、むしろ邪魔になる。お前が突入する事で、あのISのパイロットを戦いにくくしてしまうのかもしれないのだぞ。お前はそれで良いのか?』
「うっ・・・それ、は・・・」
『・・・案ずるな。奴は絶対に負けん。お前達はアリーナの端に避難していろ。』
リボンズは、接近してくる相手に向かって、GNビームライフルを連続で放つ。桃色のビームが正確に相手に向かうが、相手はそれを次々と回避してみせた。
「弾丸が撃たれてから回避するのではなく、相手の挙動から狙いを予測する、か。かつて僕が君に教えた事だったね。さっきの試合から見て、ちゃんと習得出来ている様だ。」
彼は斬りかかって来た相手に、再びビームサーベルで応戦した。今度は押し返されない為か、かなりの力を込められている。
「力で押せば、自分に有利な状況を作れるとでも?甘いな、君は。」
彼は鍔迫り合いの状態にあるビームサーベルを敢えて収納し、相手のバランスを崩れさせた。
「この距離だ、外す事はしないよ!」
そして相手の背後に回ったリボンズは、ビームライフルのトリガーを引いた。ビームは相手の背部に直撃し、小規模の爆発を起こした。足が止まったそれに、彼は更に追い討ちをかける。
「君のその力、千冬のそれと似通っている・・・しかし、結局は千冬の技術の模造品。他人の真似事だけで終わってしまっている様なら、僕の敵ではない。」
GNドライヴの出力を全開にし、システムすら追いつく事が出来ない動きで相手を翻弄していく。
「さて、そろそろ終わりにしよう。僕の教え子を返してもらうよ。」
そして、相手の胴体にビームサーベルを突き刺し、縦に切り開いた。その裂け目の中からゆっくりと出てくるラウラを、リボンズはISを解除し、優しく抱きとめる。
「・・・ぅ、きょう、かん・・・?」
「・・・ああ。疲れただろう、今はゆっくり休むといい。」
保健室
「・・・っ、ここは・・・」
「保健室さ。随分と長い休眠だったね。」
ラウラが眠るベッドの側には、リボンズが一人、椅子に座ってラウラを看ていた。
「り、リボンズ教官!?今日は見苦しい様をお見せしてしまい・・・!」
「落ち着きたまえ。僕は別に気にしていないよ。」
「そ、そうでしたか・・・」
「・・・VTシステムという物を、知っているね?」
「ヴァルキリー・トレース・システム・・・ですね?」
「そうだ。国際条約で研究や開発が禁じられているシステム。それが、君の機体に秘密裏に搭載されていたらしい。発動条件には、搭乗者の強い願いが含まれていたらしいが・・・まあ、何を願ったのか、なんて野暮な話か。」
「・・・いえ、お話しします。私が、何を望んだのか。貴方には、聞いてもらいたい・・・」
「・・・分かった、話を聞こうじゃないか。」
ラウラは、ぽつりぽつりと語り始めた。
「私が望んだのは・・・力です。誰にも負けない様な、圧倒的な力。ですがそれは、只負けたくないから願ったわけではありません。」
「ほう・・・では、他に何を?」
「・・・貴方です。貴方に、認められたい。見捨てられたくない。その一心で私は、力を望みました。」
ラウラのその答えに、彼女の過去を知っているリボンズは何も言わなかった。
「かつて、出来損ないと蔑まれ・・・疎まれた私にとって、手を差し伸べて下さった貴方は・・・私にとって、光です。しかし負けてしまえば、貴方も、私を見捨ててしまうかもしれない。たった一つの光を、失ってしまうかもしれない・・・そう考えてしまうと、感情が抑え切れず・・・」
そこまで話すと、ラウラは毛布をぐっと掴んで俯いてしまった。
「・・・僕は、君が言うような大層な人間ではない。僕が君を教授したきっかけも、君の境遇に同情心を抱いたからに過ぎない。・・・僕も、君と同じ作られた存在だからね。・・・だが」
「今の僕にとって君は、十分信頼に値する人物さ。そうでなければ、こうして室内で二人きりになる事もないよ。」
俯いていたラウラの顔が、上がった。
「それに先程の試合を見て、僕がいない間も鍛錬に励んでいた事が良く分かった。たしかにこの実力なら、君がシュバルツェ・ハーゼの隊長にまで登りつめたのも頷ける。」
「あの・・・それは、どういう・・・」
ラウラは、どこか期待混じりの表情で彼に問う。そんな彼は、柔らかい笑みを浮かべた。
「おめでとう。君はもう、立派なIS操縦者だ。本当に、良く頑張ったね。いつかは僕の背中を預けて良いかもしれないな。」
「・・・ぁ、ああ・・・」
一滴、二滴と、ラウラの掌に涙が零れ落ちる。それはやがて、毛布を濡らす程のものになった。
「はっ、申し訳、ありません・・・!教官の前で、二度も泣き面を、晒してしまうなど・・・」
彼女はそう言うが、流れる涙は止まる事を知らず、とめどなく溢れ出す。
「無理に止めようとしなくても構わないさ。今まで散々待たせてしまったのはこちらだ、申し訳なかった。」
「いえ。その事はもう、気にしていません・・・只、貴方が私を認めて下さった。それだけで、十分なのですから・・・」
そのまま彼女が泣き止むまで、彼はその場に居続けた。
「そろそろ、落ち着いたかい?」
「はい。取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。」
「良いんだ。君にもそういった一面がある・・・それを知る事が出来ただけでも、儲け物だよ。」
さっきまでの自分の姿を思い返した彼女は、顔を赤くした。
「っ・・・と、とにかく!明日からはまた、授業に通常通り出席しますので、ご心配なく。」
「ああ。では、僕もそろそろお暇させてもらうよ。」
ラウラは手を出しかけたが、すぐに引っ込めた。
「あ・・・はい。今日はありがとうございました、教官。」
「礼には及ばないさ。・・・ああ、それと」
部屋を出ようとしていた彼は、ふと立ち止まった。
「? 何でしょうか?」
「ラウラ、君は僕にはなれないよ。幾ら鍛錬を積んでも、君は君でしかない。・・・だからここで、自分のあり方を再度見つける事だ。僕も出来るだけサポートしよう。」
「・・・はい!」
そう言い残したリボンズは、保健室を後にした。
「まさか、彼女の中の僕の存在が、あそこまで大きかったとは・・・今回の事件は、彼女の心境に気付いてやる事が出来なかった僕にも原因がある・・・か。」
夕暮れに染まる廊下を、物憂げな表情で彼は歩く。
「心とは・・・本当に複雑なものだ。君はどうやって、来るべき対話を成し遂げるんだい?刹那・F・セイエイ。」
彼は、元いた世界の未来を託した刹那・F・セイエイや、ソレスタルビーイングのメンバー達に思いを馳せた。
本当、人間の心って難しいですよね・・・刹那は一部を除いてポンポン和解しちゃうから凄いです。
さて、次回は恐らく日常回になるかと。では、また次回に!