「とうとうこの作者もエタったか・・・」と思われた方もおられると思います。大丈夫です、今回は書くのが本当に難しい話でして、試行錯誤しながら日々書いていた結果、こんなに長くなってしまっただけなんです・・・
と言うわけで、今回の話はかなり・・・読みづらい点も多いと思われます。かなりの文を詰め込んでありますので・・・
自分の文章力の足りなさを痛感しました。流石に今後は三ヶ月もかからないと・・・思いますが、読者の皆様にこの作品を最後までお届け出来る様に精進して参りますので、今後とも宜しくお願いします!!!
さて、これだけ期間を空けてしまったので、前回の内容を忘れてしまっていると思います。なので、軽く前回のあらすじをここに書いておきます。覚えて下さっている方は、飛ばしても構いません。
1. 臨海学校!IS学年の一年生は海に!
2. 千冬、箒達5人の恋を応援
3. 束、箒に「紅椿」、ラウラに「ガルムガンダム」をプレゼント。ついでに1ガンダムを1.5ガンダムに改装。
4. 福音暴走。一夏と箒でそれを迎撃する作戦となる。リボンズとクロエはそれが失敗した時のスペアプランとして同行。
こんな感じです。もしあまりピンと来なかったら、お手数ですが前の話を軽く読み返して頂けると幸いです。
それでは、お待たせしました!最新話、スタートです!
作戦開始時刻の数分前。作戦に参加する四人は、それぞれのISを展開して、作戦の開始を待っていた。
「さて。各員、準備は整ったな?」
千冬は彼等にオープン・チャンネルを開き、問いかける。
「ああ、バッチリだ。」
「私も、準備は出来ています。」
「バインダーは既に接続済みだ、何時でも行けるよ。」
「機体に問題はありません、出撃命令を。」
彼等の準備が万全な状態にある事を確認した千冬は、箒を除く三人にプライベート・チャンネルを開いた。
『織斑、リボンズ、クロニクル、聞こえるか?』
「は、はい!」
「ああ、どうかしたのかい?」
「通信に異常はありませんが・・・何か、問題でも起きましたか?」
『問題と言うわけではないが・・・篠ノ之に、気を配ってくれんか?奴は今、自分の専用機を手に入れて少々浮かれている。あの体たらくでは、必ず何かしらのミスを犯すだろう。いざという時は、お前達がサポートしてやれ。』
「箒が?・・・分かりました。」
「成程。確かにそれは、あまり宜しくないね。留意しておこう。」
「新しい力を手にした時は、誰しもその様になってしまうものです。仕方がありません。」
『頼むぞ。では諸君、健闘を祈る。』
一方その時、箒にも束とのプライベート・チャンネルが開いていた。
『やっほー、箒ちゃん!紅椿の調子はどうかな〜?』
「・・・問題ありません。何の用ですか?」
『いやぁ、出撃前にちょっと言いたい事があってね!』
「言いたい事・・・?」
『うんうん!箒ちゃんに、一つ忘れないで欲しい事があるんだ!』
彼女はゴホン、と仰々しく咳払いをし、言葉を続けた。
『今回この作戦に箒ちゃんが選ばれたのは、箒ちゃん自身の実力じゃなくて、その紅椿の性能のお陰って事。忘れないでね!』
「っ・・・話はそれだけですか?それでは。」
苛立たし気な顔をしながら、箒は一方的に回線を切る。
そして千冬は、再度オープン・チャンネルに切り替え、全員に通達した。
『ではこれより、作戦を開始する。全員、出撃!』
千冬の号令と共に四人は、「福音」が飛行しているであろう大空へと飛翔した。
「織斑先生・・・篠ノ之さんは、本当に大丈夫でしょうか・・・?」
真耶は不安気な表情で、千冬を見つめる。
「・・・今は、奴等を信じるしかあるまい。」
(篠ノ之・・・今まで散々お前を甘やかしてきた束が、初めてお前に忠告をした。その意味を、今気付くべきだったな。)
一夏を乗せる紅椿と、リボンズとクロエの駆るガンダム達は、衛星情報により導き出された「福音」が飛行している位置に向かっていた。
「目標との接触まであと10秒だ。一気に加速するぞ、一夏!」
「おう!」
紅いオーラを纏いながら更に加速する紅椿を見て、リボンズは驚きの声を上げた。
「更に加速が可能とは・・・よし、バインダーをハイスピード・モードに移行させる。クロエ、何処にでも良いから掴まっていてくれるかな?」
「了解。安全運転でお願いしますよ、リボンズ?」
「ふむ・・・善処はするよ。」
彼はバインダーを後方に広げ、更に加速して紅椿を追いかけた。そしてついに彼等は、大空を飛行する福音を捉えた。
「見えたぞ一夏、あれが『福音』だ!」
「ああ!」
一夏を乗せた紅椿は、福音に攻撃を仕掛けるべく、真っ直ぐ福音の方向に向かう。
「目標、捕捉。こちらは彼等を援護しましょう。」
「分かっているさ。これより戦闘状態に突入、彼等の後に続く。」
「分かりました。」
リボンズ達も、各々の武装を展開し、彼等の後に続いた。
「行くぞ!うおおおおおおおお!!」
一夏は立ち上がって零落白夜を発動し、雄叫びを上げながら福音に斬りかかった。しかし、それは彼等の接近にいち早く気付いたのか、進路を変えて上へと飛んだ。
「箒、このまま押し切るぞ!」
「ああ!」
上空へと飛んだそれを再度追う紅椿の上で、一夏は再び雪片弐型を構えて、福音に振り下ろした。が、福音はそれを宙返りをする事で回避し、逆に一夏達の背後に回った。
「躱された!?」
すると福音は、背部のウィング状のスラスターから多数のエネルギー弾を発生させ、それを二人にばら撒いた。
「ヤバい・・・箒、一旦二手に別れよう!」
「分かった!」
彼等は別々になって、迫り来るエネルギー弾から逃れた。福音はそれを追跡しようとするが、リボンズ達によって妨げられた。
「おっと、そちらへ行ってもらっては困るな。」
「こちらの相手もして頂かないと、ですね。」
二人は左右に別れ、十字砲火を繰り出した。福音はそれを避けたが、彼等の目論見通りに、福音は彼等を目標に移した。
「君が単純で助かる。クロエ、頼んだよ。」
「はい。GNミサイル・ベイ、展開します。」
彼女は、全身に搭載されたミサイル・ベイのハッチを開いた。その数は、明らかに以前よりも多くなっている。
「GNミサイルの小型化により、更に高密度になったこの弾幕・・・回避する事が出来ますか?」
そう言うなり彼女は、全身のミサイル・ベイよりGNマイクロミサイルを発射した。それ等は一斉に福音を狙って軌道を描く。だが福音は、それに対してエネルギー弾で応戦し、ミサイルを全て撃ち落とすという荒技をやってのけた。
「まさか、全て撃墜するとは・・・しかし、甘いですね。」
しかし、その爆煙に紛れて、クロエは福音に接近して蹴りを入れ、後方へ吹っ飛ばした。即座に福音は体勢を立て直すが、同じく体勢を立て直した一夏達が、後ろから近づいていた。
「よし。リボンズさん達が上手くアイツを引き付けてる、今がチャンスだ!」
「私が奴の動きを止める。後に続け、一夏!」
彼女は背部の展開装甲をパージし、福音に向けて射出した。それ等はまるでブルー・ティアーズの様に、自立飛行をして福音に攻撃をする。それを見たリボンズは、感嘆して声を上げた。
「あれは・・・BT兵器?いや、どちらかと言えばファングの発展系か。装甲を丸ごと自立兵器にしてしまうとは・・・全く、君の発想力には驚かされるよ、束。」
展開装甲の繰り出す打突攻撃にバランスを崩した福音に、箒は刀を構えて斬りかかった。それを防御した福音と拮抗状態に陥った彼女は、一夏に叫んだ。
「今だ一夏、やれ!!」
「おう!!」
彼は今度こそ、と雪片弍型を振り上げ、福音に接近する。しかし、途中で急に進路を変え、福音の真横を通り過ぎた。
「一夏!?何をしている、そっちではないぞ・・・ぐっ!?」
一夏のその行動に驚く箒を、福音のエネルギー弾が襲う。
「何をしているんだい、君は!?目の前に敵がいるだろう!?」
一夏は、流れ弾を斬り払いながら答える。
「船だ、船がいるんだ!ここらの海域は、先生達が封じている筈なのに・・・」
彼等が海を確認すると、そこには彼の言う通り、識別不明の漁船らしき物があった。
「密漁船か・・・こんな時に!!一夏、奴等は犯罪者だ。構うな!」
「馬鹿、見殺しになんか出来るか!!」
しかし、零落白夜を起動したままエネルギー弾を斬っている白式のシールドエネルギーは目に見える様に減っていき、そしてとうとう時間切れとなった。
「くっ、零落白夜が・・・」
それを狙っていたかの様に、福音は彼に追撃をかけるが、それは彼等の間に割り込んだリボンズがカットした。
「君はひとまず後退してくれ、織斑 一夏。零落白夜が使えなくなった以上、君が居ても的にしかならない。」
「ああ・・・悪い、リボンズさん・・・っ!?」
しかし、彼の目にある物が映った。いや、映ってしまった。福音が見境無しに発射するエネルギー弾の一つが、船への直撃コースに入っている光景が。
「まずい・・・間に合ってくれーッ!!」
一夏はリボンズが制止する間もなく、彼の後ろから飛び出した。そして、一夏の全身は爆炎に包まれた。
「い・・・一夏ぁッ!!」
箒の叫びも虚しく、彼は気を失い海に落ちていった・・・
「・・・篠ノ之 箒。君は彼を回収して、撤退するんだ。僕とクロエが殿を務めよう。」
箒は生気を失った目でリボンズを見、力なく頷いた。
「よし、分かったならば早く行きたまえ。これは彼の生死にも関わる事だ。」
彼の言葉を受け、一夏が墜落した地点に向かっていく箒に、福音は顔を向ける。が、リボンズはビームライフルを一発放ち、福音を威嚇した。再び彼等の方向に向き直った福音を前に、クロエは彼に話しかける。
「さて・・・ああは言ったものの、どうするつもりですか?」
「心配しなくとも、作戦は考えてあるさ。僕は正面からあれを迎え撃つ。君は左から接近、攻撃してくれ。狙うべき場所は、あの背中の翼だ。」
「成程。スラスターと攻撃手段を、一気に潰してしまおうという事ですね。分かりました、その作戦に乗りましょう。」
「決まったね。では、頼んだよ。」
そう言って、リボンズは前に飛び出した。福音は移動しながら彼にエネルギー弾を浴びせるが、彼はシールドを構えつつ、するりとその弾幕の中を抜けて行く。
「その程度かい?では、こちらから行かせてもらう!」
彼は急激に速度を上げ、迫るエネルギー弾を意にも介さず福音に接近する。福音は彼から離れようとしたが、クロエが遠方からビームを連射し、それを妨害した。
「良い援護だ。これならば・・・」
福音の目の前まで到達した彼は、手を伸ばしてそれの頭を掴んだ。
「一瞬で終わらせる事が出来る。」
そして、その勢いのまま、福音の頭部に強烈な膝蹴りを食らわせた。直前までの速度が乗ったそれに、福音は大きく仰け反る。その隙を彼は見逃さず、次の行動に移った。
「おや、どうしたのかね?後ろががら空きだよ!」
彼はその場で宙返りをしながらGNビームサーベルを展開し、そのまま福音の片方のスラスターを両断した。
「クロエ、今だよ!」
「承知しました!」
彼の指示通りに側面から接近していた彼女は、両手にGNビームサーベルを持ち、福音に突進する。福音はそれに対して、残った翼からエネルギー弾を放つが、彼女は止まらない。
「その程度では、この装甲に傷は付きません!!」
そのまま突撃した彼女は、もう一つの翼を根元から叩き斬った。
「良くやった、クロエ。では・・・」
彼はGNバズーカ・ランチャーのチャージ状況を確認したが、まだ発射出来るまでには至っていなかった。
(まだチャージは完了していないか・・・ならば!)
彼は即座に、福音の体にビームサーベルを突き刺し、それに向けバインダーを前面に展開・・・「アルヴァアロンキャノン・モード」に移行させた。肩越しに展開したバインダーの間に、徐々に粒子が圧縮されてゆく。
「零距離での砲撃ならば、躱すことも出来まい・・・さあ、消し飛ぶがいいさ!」
そして、圧縮された粒子が一気に照射され、福音の体の殆どを飲み込む程の粒子ビームが、それを襲う。
(凄まじい反動だ・・・だが、このまま行けば!)
やがて照射が終わると、福音は全身からスパークを発生させていた。それは体を身じろぎさせたものの、糸が切れた様にぷつりと動きを止め、そして海に落ちていった。
「・・・福音の反応は?」
「いえ、反応は未だ健在です。しかし、あそこまでダメージを負っているのですから、シールドエネルギーが底を尽くのもあと少し・・・」
と、そこまで彼女が言った瞬間、ドッ!と天に昇る程の大きさの水柱が上がった。二人が驚いてそれを見ると、その中心に、バリアの様な物に包まれた福音が居た。それはゆっくりと二人の方を向くと同時に、背中から純白の翼の様な物を展開した。
「まさか・・・
「ISの防衛機能が、あれを強制的に進化させたという事でしょうか・・・?」
すると福音は、その翼をはためかせ、クロエに急速接近をした。
「速い!?ですが、その程度なら!」
彼女はビームサーベルを展開し、福音に斬りかかる・・・かと思いきや、直前でそれを収納し、そのまま背後に回り込んだ。
「貰いました!」
クロエは、2連装GNビームライフルのトリガーを引いた。が、 福音は素早く身を屈めてそれを回避し、逆に彼女を捕らえた。
「しまった!?」
彼女を捕らえた福音は、その翼の間にエネルギーを溜め始めた。
(リボンズの1.5ガンダムと、同じ攻撃を・・・!?)
しかし、その圧縮されたエネルギーに、咄嗟にリボンズが放ったビームが数発着弾し、中規模の爆発を起こした。その爆風に、クロエと福音の双方が吹き飛んだ。
「大丈夫かい、クロエ?」
「なんとか・・・至近距離での爆発の影響で、上半身に損傷が見られますが。しかし、頭上であれ程の爆発を起こされたあちらも、それなりの被害を被っている筈です。」
リボンズは、後ろから福音が追って来ていないのを確認すると、それにしても、と口を開いた。
「あの反応速度と言い、あの翼と言い、想定外の事態だった。体勢の立て直しが必要か・・・作戦は、失敗だ。クロエ、ここは撤退しよう。」
「はい。誠に遺憾ですが・・・」
二人は踵を返し、その空域を後にした。そのガンダムフェイスの下の表情は、決して明るいものではなかった。
夕方。待機命令を出されていた専用機持ち達は、千冬達がいる部屋に来ていたが、門前払いをされてしまっていた。
「お前達の心境は分かるが・・・今は、織斑教官の指示に従うべきだ。」
「でも、先生だって心配してる筈・・・だって、家族なんだよ?」
「作戦失敗を言い渡してから、一夏の容態を見に行ってすらいないなんて・・・」
「それに、箒さんとも言葉を交わしていませんし・・・幾ら作戦を遂行出来なかったとは言え、冷た過ぎるのでは無くて?」
そう零す彼女達に、ラウラは冷静に答える。
「今一夏の方に気を割いて、何になる?今箒に労いの声を掛けて、この事態は好転するか?・・・何も、進展する事はない。それどころか、仮に福音を見失ってしまっては、寧ろ悪い方向に行きかねない。今優先すべきは、奴を捕捉し続ける事。織斑教官は、やるべき事をやっているに過ぎん。」
彼女達を、沈黙が襲う。すると、彩季奈が唐突に立ち上がった。
「・・・ちょっと、ISの整備してくるね。」
「このタイミングで・・・?」
「確かに、二人の事は心配だし・・・福音の動向も、気になる所かも。でも、福音は先生達が見てくれてるし、一夏も・・・今は、箒が看てる。あたしたちも、今出来る事をしないと。」
そう言って彩季奈は、旅館の中へと入っていった。残された彼女達は考える素振りを見せた後、互いに顔を見合わせ頷いた。
夕日が差し込んでいる旅館の一室では、気を失い布団に寝かされている一夏の側に座る、箒の姿があった。髪をだらりと下げて俯く彼女の暗い表情から、彼女が後悔の念に苛まれている事が伺える。
「一夏・・・私は、間違っていたのだろうか?・・・いや、そうだったのかもしれん。専用機の持つ圧倒的な力に魅了され、そして酔っていた・・・」
彼女は、出血する事も厭わないというかの如く、拳を強く握りしめた。
「姉さんの言った通りだった・・・!私は強大な力を手に入れた事で、驕り、高ぶり・・・自分の実力でもないのに、まるで自分自身が強くなったかの様に振舞って・・・ISの性能を盾に得意気になっていた、虎の威を借る狐だったんだ・・・!」
すると、部屋のふすまを開いて真耶が入ってきた。
「篠ノ之さん・・・貴方も、少し休んでください。根を詰めて、貴方まで倒れてしまっては・・・皆、心配しますよ?」
「・・・私は、ここに居たいんです。」
「いけません、休みなさい。これは、織斑先生の要請でもあるんです。」
「・・・分かり、ました。」
そう言って部屋から立ち去った彼女を、真耶は心配そうに見つめていた。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・」
部屋から飛び出した彼女は、浜辺を走り続けていた。それが、自分への罰だと言い聞かせているかの様に。
「なーに青春漫画みたく、必死に走っちゃってんのよ。」
唐突に聞こえた声に箒が振り向くと、そこには鈴がいた。
「・・・鈴か?何故ここに・・・」
「決まってんじゃない、アンタを誘いに来たの。あたし達で、福音を倒すって作戦にね。」
鈴はそう言って箒に手を差し出したが、肝心の箒は、変わらず暗い表情のままだった。
「・・・私は、もうISは使わない。いや、使う資格など無い・・・」
その瞬間、鈴は差し出していた手で箒の胸ぐらを掴み、叫んだ。
「一回の失敗位で、凹んでんじゃないわよ!!確かに今回は、一夏が危険な目にあったりした。アンタにも、その責任の一端はあるわ。でも、それだけでアンタが終わったって訳じゃ無いでしょ?アンタにはまだ、やるべき事が残ってる。仮にも専用機持ちなら、それをなんとしてでも果たそうとしなさいよ。それとも何?アンタは肝心な時に戦えない、責務からも逃げようとする臆病者な訳!?」
その言葉に箒は唇を噛み締め、感情を爆発させるかの如く叫んだ。
「・・・どうしろと言うんだ・・・!福音は今や何処に居るかも分からん、今の私は、一夏の仇を討つ事すら出来ない!もし戦えるのなら、私だって戦う!!」
箒の心からの叫びを聞いた鈴は、表情を崩した。
「ったく、最初からそう言えば良いのに・・・皆、言質取ったわね?」
箒が驚いて振り返ると、そこには専用機持ちのメンバー達が集まっていた。
「お前達まで、何故・・・!?」
その箒の問いに、皆が笑って答える。
「皆思いは同じ、って事だよ。」
「教官が、一時撤退する程の相手・・・我々では分が悪いと、私は意見したのだがな。まあ、こうして参加している限り、私も同類か。」
「敗者のまま終わるだなんて、出来ませんものね。」
「一応、録音はしておいたけど・・・聞いて、みる?」
「本当に採ってたのね・・・ま、これでもう後に退けないでしょ?」
不敵に笑う鈴に、箒は力強く頷いた。
「ラウラ、今の福音の状況は?」
「ああ、既に確認済みだ。」
ラウラはISの右腕を部分展開し、ウィンドウを立ち上げた。
「ここから30キロ離れた沖合上空。ここで目標は静止している。ステルスモードに入っていたが、どうやら光学迷彩は搭載されていないらしい。衛星カメラを介した目視で発見した。」
「上出来ね。流石は、ドイツ軍の特殊部隊ってトコかしら?」
「この程度、褒められる程の物でもない。で、お前達はどうなんだ?準備は出来ているのだろうな?」
ラウラの問いに、皆は当然、と言うかの様に頷いた。
「勿論、皆準備万端よ。・・・でも、彩季奈がまだ来てないわね・・・」
鈴がそう言った時、彩季奈が台車を押しながら、皆の下に駆けて来た。
「お、お待たせ〜・・・」
「お疲れ様、彩季奈。皆はもう準備出来てるけど、大丈夫?」
「心配しなくても、いつでも行けるよ。大艇ちゃんも、ちゃんとテスト飛行をしたからね!サブフライトシステムとしては、十分な働きをしてくれるはずかも!」
彩季奈は台車に乗せていたそれを、ISを部分展開して砂浜に下ろした。
「箒、アンタも少しは準備しなさいよ。」
「ああ・・・だが、これは命令違反になるのではないか?」
「それが何?アンタも、さっき戦うって言ったじゃないの。今度こそ、アイツを墜すのよ。」
「・・・ああ、そうだな。今度こそ、私は戦って勝つ。もう負けはしない。」
「おや・・・皆様、何をなされているのですか?」
全員が驚いて声が聞こえた方向を見ると、そこにはクロエが、静かに立っていた。
「何よ・・・アンタ、止める気?」
「いえ。私には、その権限はありません。ですが、止めておいた方が身のためかと思われますよ?」
「・・・それでも、行くわ。これはあたし達に与えられた任務なの。一夏の仇を討ちたいって気持ちもあるけど・・・それ以前に、任務をやり遂げる義務があるのよ。」
他の者も皆、鈴と同じ面持ちをしていた。それを確認したクロエは、微笑を浮かべた。
「成程・・・こう言っておりますよ、リボンズ?」
すると、リボンズがどこからともなく現れた。皆がまたそれに驚く中、彼は口を開いた。
「ふむ・・・君達の私情を挟まず、あくまで任務遂行に徹しようとする姿勢は、称賛に値するよ。しかし、やはり君達だけで福音に対抗するのは難しい。本来、君達を止めるべきなのだろうが・・・僕とクロエが同伴するという条件を呑むなら、君達の無断出撃に僕は目を瞑ろう。」
「ほんの僅かな時間でしたが、私達はアレの力の片鱗を、身をもって体感しました。少しは力添えが出来るかと。」
「もし、それも断ると、どうなるの・・・?」
華が恐る恐る問うと、リボンズは平然と答えた。
「その時は、千冬を呼び出すまでさ。」
彼女等に、選択の余地はなかった。
日が沈み、月明かりが辺りを照らす中、福音は繭の様に自身をバリアで包み、空中に佇んでいた。すると、そこに一発の弾丸が飛来し、着弾した。
「初弾命中!」
福音がバリアを解き、ゆっくりと彼等の方を向く。
「福音の攻撃は恐らくどれも強力だ、出来る限り回避に徹してほしい。良いね?」
「「「「「「「了解!!!」」」」」」」
その掛け声と共に全員が散開し、様々な方向からの福音への攻撃を開始した。
ー・・・ここ、は・・・?
一夏が目を覚ますと、そこは不思議な空間だった。目の前には青く澄み渡る空が広がり、足元には透き通る様な波が打ち寄せている。彼が辺りを見回していると、純白のワンピースを着た少女と、甲冑を着た女性が、彼の目の前に現れた。
『・・・力を、欲しますか?』
甲冑を着た女性が、凛とした声で一夏に問う。
ー力、か・・・うーん、そうだな。やっぱり、力は欲しいよ。
『・・・何の為に?』
ー俺は、自分の手が届く範囲の人は、全力で守りたい。けど、心の中ではそう決めてるのに、実際は助けられてばっかりだ。箒、シャル、リボンズさん・・・千冬姉。他にも色んな人に助けられて、今の俺はいる。
なのに、俺はその恩すら、まだ返せていない・・・俺が、それをするにはまだまだ弱いから。
『・・・』
ー志だけじゃ駄目なんだ、それをやり通せる程の力が無きゃ・・・何も出来ない。だから、俺は強くなりたい・・・いや、強くなる。今度こそ皆を守る為に。俺の決意を、貫き通す為に!
すると、ワンピースを着た少女が、にこりと微笑んで彼の手を取った。
『分かる?今も皆が、貴方の為に戦ってるんだよ?・・・貴方を、待ってるんだよ?だから・・・行かなきゃね。』
徐々に遠のいてく意識の中、彼は声を聞いた。
「「貴方に、力を。」」
一夏は部屋に差し込む月光の中で、ゆっくりと目覚めた。
「・・・夢、だったのか・・・?」
彼は、その内容を詳しくは覚えてはいなかった。が、今自分がすべき事を、どこかで確信していた。体に取り付けられている医療機器を取り外し、彼は傍にあった自分の愛機に手を伸ばす。
「白式・・・もう一度、俺に力を貸してくれ。俺はお前と一緒に、強くなってみせる!」
彼の体を眩い光が包み、ISが展開する。展開した白式の姿は、以前の物から変化していた。
『雪羅』、白式の第二形態の姿へと。
一夏は部屋の外に出て、仲間達が戦っているであろう、夜の空を見据えた。そんな時に、ふと彼の頭に千冬がよぎる。
「・・・また、心配かけちまうな。千冬姉、ごめん・・・俺は、行くよ。」
新たな力、『雪羅』を纏った彼は、暗い夜の空へと飛び立った。
一方、リボンズ達は窮地に陥っていた。
「ぐあっ!?」
福音の砲撃を避けきれなかった箒が、咄嗟にそれを防御するも、威力に耐えきれず弾き飛ばされてしまう。
「箒さん!?」
福音は次にセシリアに目を向け、一瞬で彼女に近づき、大きく広げた翼で彼女を包み込んだ。 そしてそれをゆっくりと広げると、気を失ったセシリアが落ちていった。
「セシリア!?奴め、何というスピードだ・・・ならば!」
ラウラはガンダムを以ってしてもスピードでは勝てないと判断し、逆に自ら福音に接近する。福音はラウラに気付くと、彼女に向け砲撃を放った。
「そんな直線的な砲撃、当たらんよ!」
彼女はひらりとそれを躱し、肩部のカノン砲を構えた。そのカノン砲は弾頭にGN粒子を纏わせ発射する事が出来る、さしずめパーティクル・カノンと言った所か。
「照準良し・・・コイツを喰らえ!」
砲身から、巨大な弾頭が射出される。GN粒子の影響で、強度と速度が強化されたそれは、狂いなく福音の胸部に直撃した。しかし、福音は破損を気にする素振りも見せずに、ラウラにエネルギー弾を浴びせた。
「なっ!?くっ、防御兵装は・・・これか!」
ラウラは咄嗟にGNフィールドを展開し、難を逃れた。が、その一瞬の隙をついて、福音が彼女の目の前まで迫る。そして、そのエネルギーで構成された翼を振りかぶり、彼女に叩き付けた。
「ぅぐっ・・・この出力、このISは化物かッ・・・!?」
彼女の防御も虚しく、福音は彼女を叩き落とした。海面に落ちた彼女に向け、福音は再び砲撃体勢に入った。
「ラウラ!?くっ、このぉぉぉ!!」
リボンズは咄嗟に二機の間に躍り出、アルヴァアロンキャノンを展開し、発射した。それは福音の放った砲撃とぶつかり、相殺した。
(不味い・・・幾ら何でも、一時的に行動不能に陥った彼女達を守りながら、これと戦うのは分が悪い。このままでは・・・)
すると、レーダーが彼等に接近してくる機体を察知した。
(IS・・・?千冬からの増援か?・・・いや、これは)
その機影を確認したリボンズは、口元を綻ばせた。
ー・・・会い、たい・・・一夏に、会いたい・・・
岩場に叩きつけられて気絶した箒は、暗い意識の底でさまよっていた。 すると、彼女は自分を呼ぶ声を聞いた。
ー・・・この声は・・・?・・・ああ、そうか。この声は・・・
箒がゆっくりと目を覚ますと、そこには一夏の姿があった。
「おお、起きたか箒。」
「い、一夏!?体は、体は大丈夫なのか!?傷は!?」
「大丈夫だ、俺は戦える。」
「あ・・・そう、か・・・本当に、本当に大丈夫なのだな・・・」
彼女の胸が、安心感と嬉しさで満たされる。すると彼女は、一夏が何かを手にしているのに気付いた。
「ん?一夏、お前が持っているそれはなんだ?」
「ああ、これか?何って、プレゼントだよ。今日はお前の誕生日だろ?」
そう言って彼は、持っていた白いリボンを箒に手渡した。
「お、覚えていてくれたのか・・・」
「当たり前だろ?幼馴染の誕生日を忘れる程、俺は鈍感じゃないぜ。」
どの口が言うか、と思いつつも、一夏からの思わぬサプライズに、箒は思わず涙を流す。すると二人の周りに、メンバー全員が集まった。
「一夏さん・・・ご無事で何よりですわ。お体に異常はございませんの?」
「ああ、大丈夫だ。ありがとな、気を使ってくれて。」
「ったく、怪我人なんだから休んでたら良かったのに・・・ホント、懲りないわね。」
「皆がアイツと戦ってるんだ、おちおち布団の中で寝てる訳にはいかねぇだろ。」
「まあ何にせよ、一夏が元気になってくれて良かったよ・・・あれ?一夏、そのリボンって・・・」
「ああ、箒へのプレゼントだよ。今日は箒の誕生日だからな。」
「ふーん・・・」
するとシャルは、箒にプライベート・チャンネルを繋いで話しかけた。
『箒の誕生日って、今日だったんだ・・・ごめんね、何にも用意してなくて。』
『いや・・・私も言っていなかったからな。お前が気にする事はない。』
それでもまだ納得できないシャルは、そうだ、とある提案をした。
『じゃあ、折角の誕生日なんだし・・・少し位は、抜け駆けさせてあげるよ?』
『・・・そいつは有難い事だが、何故少し上から目線なんだ・・・』
箒がそう問いかけると、シャルはセシリアと鈴にも回線を開き、小悪魔の様な笑みを浮かべた。
『だって最後には僕が、一夏を勝ち取るからね♪』
その言葉に、鈴とセシリアが食いつく。
『ちょっと、今のは聞き捨てならないわね!?』
『そうですわ!私達だって、譲る気はありませんわよ!!』
すると、そんな彼女等を見かねたのか、リボンズが彼女達に対して回線を開いた。
『君達、痴話喧嘩は後にしてくれないかな?こうして彼が復帰してくれた以上、僕達がまずやるべき事は・・・分かっているね?』
彼の言葉に、彼女等は再び気を引き締め直す。そう、まだ問題は何も解決していない。現に福音は、彼等を嘲笑うかの様に大空を飛び回っている。
「織斑 一夏。君にもう一度、切り札の役割を務めてもらいたい・・・ 頼めるかい?」
「ああ、今度は任せてくれ。もうさっきみたいに、勝手な行動はしない。」
すると一夏は皆の方を向き、頭を下げた。
「皆・・・俺の身勝手で皆を心配させちまって、ごめん。自分の役割も考えずに、只自分の理想だけを追い求めて・・・情ねぇけど、これからもまだ、皆の助けが必要になると思う。でも、俺は必ず強くなる。皆の為に、必ずだ。・・・だからもう一度、皆の力を俺に貸してくれないか?」
一夏がそう言うと、皆は何を今更、と言うように笑った。
「無論、そのつもりでしてよ。私達は一夏さんが助けを求めたら、いつでも力になりますわ。」
「そうだね。また危険な真似をされても困るし・・・そうだ、次またあんな事をしたら、女子の制服で登校させるってのはどうかな?」
「あ、それ名案ね。ホント、こう何度もヒヤヒヤさせられてたら、心臓が幾つあっても足りないわよ。」
何やら恐ろしい事を提案された一夏は、引き攣った笑みを浮かべた。
「そ、それは確かに御免だな・・・けどまあ、ありがとな。そこまで俺の身を案じてくれて。よし、じゃあ・・・行くか。箒は回復したら、戻って来てくれ。」
そう言うと、一夏は皆を引き連れ、再び空へと飛び立った。
「一夏・・・」
すると、そう呟く彼女の中で、ある思いが強くなっていく。それを理解した彼女は、心の底から強く願った。
(私は、守りたい・・・私達の為に強くなると言ってくれた、一夏の背中を守りたい!)
すると紅椿の全身が、金色に輝き出した。箒が何事かとモニターを見ると、そこには
『絢爛舞踏』
と表示されていた。
「シールドエネルギーが、回復している・・・?『絢爛舞踏』・・・そうか、これがお前の
箒は一夏から貰ったリボンで髪をくくり、いつもの髪型に戻した。その顔は、普段の凛々しい表情に戻っていた。
「行くぞ、紅椿・・・お前の力で、今度こそ一夏を守る!」
箒はそう言って、遠くに小さく見える一夏の背中を追いかけた。
「セシリア、シャル、援護してくれ!」
「承りましてよ!」
「了解!」
二人は左右に分かれ、一夏の後ろから援護射撃を開始した。セシリアが狙撃して、その隙を埋める様にシャルがアサルトライフルを放ち、福音に反撃の機会を与えさせない。
「うおおおぉぉッ!!」
彼女達が作った隙を生かして、一夏は福音に接近し、雪片弍型を振り下ろした。が、福音はそれをすんでの所で回避し、一夏にエネルギー弾を放った。
「くっ・・・雪羅、シールドモードだ!」
一夏は、新たに追加された多機能武装腕『雪羅』を眼前に構える。するとそこからシールドが展開され、エネルギー弾を防いだ。しかし、それは零落白夜で構成されている物なので、長く使う程シールドエネルギーも減っていく。
(マズい、このままじゃまたやられちまう・・・遠くから、荷電粒子砲で攻撃するか?いや、俺の射撃の腕は所詮付け焼き刃だ。あのスピードの福音に、到底当てられるとは思えない・・・クソ、どうすれば・・・)
すると、そこに紅椿の展開装甲が飛来し、一夏と福音を強引に引き離した。更にシャルとセシリアがそれを追撃し、福音を一夏から遠ざけた。
「箒!もう大丈夫なのか?」
「ああ、問題無い。それより一夏、これを受け取れ!」
彼女がそう言って一夏に触れると、白式と紅椿に金色の光が灯り、白式のシールドエネルギーがみるみる内に回復した。
「一夏、お前に託した。お前が奴を討て!」
「・・・ああ!」
はっきりとそう答えた一夏に対し、鈴が忠告をする。
「一夏、今度は馬鹿みたいに突っ込むだけじゃダメなんだから。次はちゃんと、零落白夜の使い所を見極めなさいよね。」
「一夏は、あくまで切り札だからね。あんまり前に出て消耗され過ぎても困るから、ここぞっていう時に攻撃してくれないかな?」
「そうだな、分かった。でもそれなら、どうにかしてアイツに気づかれずに・・・それか、アイツが大きな隙を見せた時じゃないと、とても俺の装備じゃ接近出来ねえぞ?」
すると、それに彩季奈が名乗りを上げた。
「じゃあ、あたしと華でアイツを足止めしてみる。だから皆、その後は各自の判断でお願いするかも!」
彩季奈はそう言って、指定したポイントを皆に送信した。
「成程・・・即興で踊る事も、たまには悪くないですわね。鈴さん、もし宜しければ手伝って下さいな。」
「OK!やってやろうじゃないの!」
「僕は、セシリアと鈴に合わせて福音に攻撃するよ。箒はどうするの?」
「私は・・・紅椿のスピードで、一気に強襲をかける。」
彼女達を初めに、全員がそれぞれの配置へと移動した。
「華、作戦は聞いた通りかも。これはあたし達が成功しなかったら台無しになっちゃうから、気張って行こうね!」
『うん。じゃあはっちゃんは、このポイントで待機してるね。』
華はそう言って、海に潜った。それを確認した彩季奈は、よしっ、と自らの気を引き締め直した。
「さーて、砲撃用意!大艇ちゃん、姿勢制御よろしくね!」
彩季奈は二式大艇の上で、『
「やばっ!?大艇ちゃん、目標地点まで全速前進ーッ!!」
彩季奈は移動を二式大艇に任せ、後ろから迫り来る福音にサブマシンガンを放って牽制した。
「もー、いい加減しつこいかも!!」
背後から迫る福音の攻撃は、二式大艇に搭載された自動操縦システムがそれを探知し、かろうじて回避する。ギリギリの状況が続く中、彼女は確実に福音を海面の近くまで誘導し、目標地点にまで連れて来ていた。そしてその地点に到達した時、彼女は華に向け通信を開き、叫んだ。
「華、今だよ!!」
その瞬間、福音の足元の海面より華の魚雷が飛び出し、福音に直撃した。
「ぃよっし、ドンピシャかも!」
足が止まった福音に、彩季奈は至近距離まで近付き散弾を放った。福音がバランスを崩したところに、華が水上に出てガトリング砲を構える。が、水上に出た事で彼女の反応を察知した福音は、華にその翼を伸ばした。
「・・・ラウラさん!」
福音の翼が彼女に触れるかと思われた瞬間、福音が前のめりになって、翼の軌道が逸れた。
「ラウラさん・・・ナイス、ショット。」
『いや、お前の陽動があってこそだ。』
福音はたまらず上空に避難した。しかしその道を、あらかじめ周辺で待機していたセシリアのブルー・ティアーズが阻む。
「そう簡単には逃がしませんわよ!」
「アイツの攻撃は消してあげるから、思いっきりやっちゃいなさい、セシリア!」
福音が放ったエネルギー弾を、鈴は龍咆を連射し、物量で相殺した。
「足を止めるね!」
福音に向け、シャルが二丁のアサルトライフルを連射して更に硬直させる。すると業を煮やした福音は、全方位に数多のエネルギー弾を放った。
「ッ、これは!!」
「流石に捌き切れないわよ、この数じゃ!」
「私に任せろ!」
箒はエネルギー弾を刀で斬り払いつつ、福音に接近した。
「はあぁぁぁぁぁっ!!」
箒と福音は何度かの接触をした後、鍔迫り合いとなった。
『箒、退け!』
ラウラからの通信を聞いた箒は、展開装甲を射出して福音を足止めしつつ、後ろに下がった。すると、ラウラが放った砲弾が福音を掠め、通過した。
「くっ、外したか・・・」
福音はラウラの方を向くと、多数のエネルギー弾を発射した。するとそこに、ラウラを守るようにクロエが割って入り、エネルギー弾をシールドで防御しつつ、福音に肉薄した。福音はセシリアの時と同じ様に、翼を大きく広げる。
「同じ技が、二度も通用するとお思いですか?」
クロエは両手に一本ずつGNビームサーベルを持ち、左右より迫る翼をそれ等で受け止めた。
「ここまで近づけば、外しません!」
クロエは胴体のミサイル・ベイを開き、至近距離からGNマイクロミサイルを直撃させた。福音の体の各所で爆発が起き、装甲の一部が内側から弾け飛ぶ。その衝撃に、福音は大きく吹き飛ばされた。
『リボンズ、今です!』
彼女の通信と同時に、リボンズは少し離れた場所でGNバズーカ・ランチャーを展開した。
「チャージ完了・・・今度は喰らわせてあげるよ!」
彼がトリガーを引くと、 野太いビームの奔流がドッ!と福音に向け発射された。それを察知した福音は、全てのエネルギーを翼にまわし、それを盾にした。しかしそのビームのあまりの威力に、翼に亀裂が奔る。その亀裂は徐々に広がり、遂にはその威力に耐えきれず霧散した。しかしそれと同時に、ビームの照射も終わってしまった。
『そんな、あの砲撃でも倒し切る事が出来ないなんて・・・』
クロエが落胆の声を上げるも、リボンズに焦った様子は無い。
「いや、これでいいのさ。今は、彼がいる。」
彼がそう言った瞬間、一夏が翼を失った福音に向かって突進し、腕を振り上げた。
「今度は・・・逃がさねぇぇぇッ!!!」
一夏は福音を掴み、その勢いのまま孤島の浜辺に叩き付けた。そして雄叫びを上げながら、福音の胸部に雪片弐型を突き刺した。福音は必死に抵抗しようとするが、彼はそのまま力を込めて、装甲の奥深くにまでそれを到達させた。
その瞬間、福音は動きを止め、遂に地に堕ちた。
「終わった・・・わよね?」
「福音、反応無し・・・作戦、成功だね。」
「・・・何かもう、流石にへとへと・・・お布団が恋しいかも・・・」
「彩季奈・・・残念だけど、その前にお説教があると思うよ・・・」
「げっ・・・今回くらい勘弁してくれないかなぁ・・・」
そんな気の抜けた会話をしている彼女達を尻目に、リボンズは怪訝そうな表情をしていた。
(なんだ・・・?福音は確かに討った。事実、反応も消えている。それなのに・・・何故か、不安が拭い切れない・・・ッ!?)
そこで彼は猛烈な悪寒を背筋に感じ、反射的に振り返った。すると、
ピュン!ピュン!ピュン!
一夏が雪片弍型を収納しようとしていたその時、彼等に向けて複数のビームが放たれた。
「何!?」
「何なのよ、敵はコイツだけじゃなかったの!?」
皆は、ビームが向かってきた方向を見上げた。すると雲の中より、一つの機影が徐々に姿を現した。
「なッ・・・!?」
その姿を見たリボンズの目が、大きく見開かれる。
『人類を救済する「福音」の名を持つ機体が、人間に牙を剥くなんて・・・皮肉な話ね。』
その機体のパイロットから、リボンズに通信が入った。
「何故だ・・・何故、何故『君』が・・・」
リボンズは声を震わせ、目の前の物を信じられないと言うような目で見る。
『あら・・・そんな所でぼーっと突っ立って、どうしたのかしら?まあ取り敢えず、まずはご挨拶と洒落こみましょう。』
その機体は、背後からオレンジ色のGN粒子を排出し、夜が明けた空とは真反対の、赤と黒で染まっていた。
「何故、『君』がここに・・・!?」
リボンズは恐る恐る、その機体の名を口にした。
「ガンダム・・・
エクシア・・・!!」
『初めまして、リボンズ・アルマーク・・・出来損ないのイノベイドさん?』
・・・はい。この様な感じです。いかがでしたか?今回の話は、原作にリボンズやクロエ、それに彩季奈や華と言った原作でここにはいないキャラをどの様に活躍させるか、と言う所で苦労しました・・・その結果、原作キャラの描写が少しおざなりになっている感も否めませんね・・・原作ファンの方々、申し訳有りません。
さて、今回は「敵」と思わしき人物が初登場しましたね。彼女の目的や、何故リボンズの事を知っているのか・・・今後にご期待下さい。
よし。三ヶ月もお待たせしてしまいましたので、次の話は来年の一月中に、必ず投稿します。では皆様、良いクリスマス、そして良い新年を!また来年にお会いしましょう!