救世主の贖罪   作:Yama@0083

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こんなにも長く、時間がかかってしまった...
前の投稿から約2年...ガンダム界隈にはいろんなことがありましたね。
閃光のハサウェイの劇場版制作が決定されたり、動くガンダムが建設されたり、リライズがまさかまさかの神アニメだったり...
そしてそんな長い期間、作者のスランプにより皆様をお待たせさせてしまったこと、申し訳なく思います。そして、諦めずに長い間待ってくれた皆さんに、心から感謝します。

それでは、学園祭の前後二編、どうぞお楽しみ下さい!


30. 学園祭(前編) 〜亡霊の幻惑〜

時期が移り、IS学園は二学期に突入した。生徒達が再び勉学や訓練に励む中、リボンズはいつもの如く、用務員の業務をこなす。 そんな彼は今、日々の仕事を終え、その報告をしに生徒会へ向かっているところだった。

 (今日の業務も終了...それにしても、夏も終わるというのに、まだ暑さは残っているじゃないか。早く帰って、シャワーでも浴びたいものだ。)

彼が生徒会室のドアを開けると、中には虚と本音の布仏姉妹がいて、姉の虚は真面目に黙々と作業をしている。

「失礼するよ。今日の業務が終わったので、その報告をしに来たのだが・・・」

「ああ、リボンズさんですか。本日もお勤め、お疲れ様でした。」

「ありがとう。そちらも、生徒会の職務に励んでいるようで何よりだ。...彼女を除いて、だが。」

二人は、机に突っ伏して幸せそうに寝ている本音を見た。

「むぇへへ・・・まてまてー・・・えへへ・・・」

「本音...いい加減に起きなさい。お客様の前よ。」

虚はそう言って、本音を揺り起こす。

「...ふぇ?あれぇ、綺麗な鳥さんはどこ・・・?」

目をぱちくりさせる本音に、リボンズは呆れつつ話しかける。

「目は覚めたかい?全く、君は一体どんな夢を見ていたんだ・・・」

彼の存在に気が付いた彼女は、いつものふんわりとした笑顔を浮かべた。

「・・・あ、リっさん?おはよ〜。えへへ、さっきねー、とってもいい夢見てたんだぁ。」

「ほう、それは興味深いな。仕事を放り出して見た夢なんだ、さぞかし良いものだったろうね。」

「ぶー...リっさん、嫌味〜。ま、いいや。えっとね〜、周りがぜーんぶお星様でいっぱいの所で〜、金ぴかの鳥さんを追っかける夢だったよ〜。」

「宇宙空間に金色の鳥・・・それで?」

「うんうん。それでねー、その鳥さん、とっても速かったんだ〜。青く光ったーと思ったら、びゅーん、って感じで〜。」

「成程、なんともメルヘンチックな夢だったね。まったく君らしいよ。」

「でしょ〜?ふふふ、なんかいい事ありそうだよねぇ。」

「あら、それは良かったわね。それじゃあ姉直々に、とてもいい物をあげるわ。」

すると虚は、ドスン!と大量の書類を本音の前に置いた。

「やだ〜!私は働かないぞ〜!」

「いいえ。今日ばかりは、少しは働いてもらいます!もう、少しはリボンズさんを見習いなさい。」

「ハハ・・・まあ、こんなしがない用務員で良ければ、幾らでも参考にすればいいさ。それはそうと、幾つかの用具にガタが来ていてね。代えの物を取り寄せて欲しい。」

「それはいけませんね。分かりました、ではすぐに取り寄せます。」

「助かるよ。では、そろそろお暇させてもらおう。」

「ええ、お疲れ様でした。さあ本音、さっさと書類に取り掛かりなさい!」

「ひーん、お姉ちゃんの鬼〜!」

布仏姉妹の攻防を背に、リボンズは生徒会室を後にした。

 (相変わらず、仲の良い姉妹だ・・・そう言えば、ルビは元気にやっているだろうか?こちらに来てから、一度も会えていないが・・・)

扉の奥から聞こえる本音が抗議をする声に、リボンズは束たちと共に暮らしているであろう妹に思いを馳せた。

 

 

その後彼が自室に戻ると、刀奈が机に向かって黙々と作業をしていた。

「おや。今日はいつもより仕事に精が出ているね、刀奈。」

「あら、おかえりなさい。そうね・・・次の朝会で学園祭のことについて話さないといけないから、それの準備を、ね。」

「成程。確かに、事前に準備しておく事は大切な事だ。しかし、学園祭か・・・どんな物なのか想像もつかないな。」

「うーん...あんまり普通の学校と変わりはないわよ?各クラスや部活がお店を出して、お金を稼ぐっていう基本は同じ。」

でも、と彼女は続ける。

「毎年同じ様な内容じゃ、少し物足りないのよねぇ。今年は、何か新しい取り組みをしてみようかと考えてるの。」

「ふむ・・・それならば、この学校には彼がいるじゃないか。世間的にも有名な彼を上手く使えば、それなりに成功すると思うが・・・まあ、余り悪目立ちするのもどうかと思うけどね。」

それを聞いた刀奈は、何かを考えついた様だった。

「・・・いいわねそれ。じゃあその方向で、何か考えておくわ。」

そう言って、彼女は再び作業を再開した。

 (・・・邪魔をするのも悪いか)

そう思ったリボンズは、静かに就寝の用意を済ませた後、彼女に一杯のコーヒーを差し出した。

「あ・・・入れてくれたの?わざわざごめんなさいね。」

「長くかかりそうだと思ってね。君の口に合うかは分からないが...」

「ううん、ありがたく頂くわ。じゃあ、お休みなさい。」

「ああ。君も無理はしないようにね。」

そうして机に向かい直した刀奈を尻目に、彼は眠りについた。

 

 

そして、次の日の朝礼。

「・・・というわけで、今回の学園祭では『各部対抗織斑一夏争奪戦』を行います!ルールは簡単、出し物のクオリティが1番だった部活に、織斑 一夏を入部させる権利が与えられます!なので各部、例年以上に精を出して、学園祭に向けて準備を進めて下さい!」

刀奈の言葉で一気に盛り上がる女子たちとは裏腹に、リボンズと一夏の男組は顔を引きつらせていた。

 

「・・・悪目立ちにも程があるぞ。何故だ?何故、そんな方向に持っていってしまったんだい・・・」

「...てか、俺の意思は・・・関係無いよな、ハハ・・・」

 

 

 

その日の放課後。各クラスは出し物を決める為、いつもより盛り上がりを見せていた。それは一夏の属する1組も例外ではなく、むしろ一番湧き上がっていた。

「んで、今出てる案は・・・ツイスターゲーム、ポッキーゲーム、ホストクラブ、教室クリーン作戦...って、あのなぁ・・・」

司会進行役の一夏は呆れ顔で、ため息をついた。

「却下」

その返答と同時に、教室にブーイングがこだました。

「当たり前だろうが!!皆が参加してこその学園祭だろ?なんでどれもこれも、やるのが俺だけなんだよ!?」

「心配しないで織斑君、需要はあるから!!」

「お姉さん達が全身全霊をかけて貢いでくれるよ!」

「う、勘弁してくれよ・・・」

提案がどんどんエスカレートしていく様子に、一夏は困り果てる。しかし、そんな彼を救うかの如く、ラウラが声を上げた。

「水を差すようですまないが・・・私も、これらの案には反対だ。」

思わぬ伏兵に、教室はたちまち静まりこんだ。

「お前達の言っている事は分かるが・・・来る客の事も考えろ。学園祭には、一般客も多少は来るのだろう?そんな中で、このような一部の者にしか需要がない内容で出店してどうする?もっと皆が楽しめるものにすべきだ。」

そのごもっともな発言に、教室は落ち着きを取り戻した。

「ラウラ、助かった。じゃあ、お前は何かアイデアあるか?その皆が楽しめるって路線で。」

「・・・では、喫茶店はどうだ?食事処や休憩所として利用できる。あとは・・・そうだな。コスプレでもしてやれば、客受けもいいだろう。」

ラウラからの意外な提案に、教室は再び盛り上がり始める。

「つまり、コスプレ喫茶って訳ね!いいわね、燃えてきたわ!」

「やっぱりド定番のメイド喫茶?いや、ここは逆に紳士服でもいいかも!」

「イロモノ枠で、ISスーツ着て接客とかは!?」

再びおかしな方向へ向かい始めた教室に、一夏は一人、頭を抱えた。

 

 

 

夜、リボンズはラウラと共に食卓を囲んでいた。

「成程。それで君のクラスはコスプレ喫茶になったと。随分と珍妙な物を選んだものだね、ラウラ。」

「はい...自分でも、おかしな発言をしたと思っています。今思えば私も、場の空気に呑まれていたのかと・・・」

そんな彼女に、リボンズは感慨深いといった表情で続けた。

「しかし、君もそんな事を言うようになるとは...誰かの影響かな?」

「ええ、あるいは。まあ、あれでも優秀な部下ですので。」

「ハハ、違いない。」

二人がそうやって談笑していると、そこへ彩季奈と芽遠の姉妹がやって来た。

「あ、ラウラとリボンズさん!今日もお疲れ様かも!」

「すみません、今日はいつもより人が多くて...席、ご一緒してもいいですか?」

「・・・ああ、私は問題無い。構いませんか、教官?」

「勿論さ、遠慮なく掛けたまえ。」

 (・・・なんだろうか、何かとても損をしたような・・・)

そうして彼女らを受け入れたものの、リボンズとの師弟水入らずであった状況を、少し名残惜しく思うラウラであった。

 

彼女らが同席していの一番に始まったのは、学園祭についての話だった。

「え、そっちの出し物もう決まったの?いいなぁ・・・」

「ああ。なんだ、そちらはまだ決めていないのか?」

「うーん、うちのクラスは元気な子が多いから...一人が案を出したら、じゃああれもこれもって感じになっちゃって。結局、今日は方向性すら決められなかったかも。お姉ちゃんの所は?」

「私のクラス?いや、そんなに決めるのには苦労しなかったかなぁ。」

「そっかー。三年の人たちはどうなってるんだろうなぁ、今年が最後でしょ?」

「三年ねー・・・厳弥さんとか恵さんに聞いてみたら?アンタ、結構会うでしょ。」

「うーん、じゃあそうしてみるかも・・・」

そんな会話を聞いていたリボンズは、ふとある事に気付いた。

「そういえば...今日は厳弥の姿が見えないな。二人共、何か知っているかい?」

リボンズの問いかけに、より事情に詳しいのであろう芽遠が答える。

「えーと・・・先輩でしたら、今日は仕事に行ったって聞いてます。ご存知と思いますけど、あの人は国家代表にもう少しで届くってくらい、実力があるんです。なので、たまにこうやって仕事が舞い込んでくることがあるんですよ。」

「ふむ、中々多忙みたいだね。今度彼女を労ってあげようじゃないか。」

「そうですね・・・彩季奈、アンタも自分の発明品押し付けるばっかじゃなくて、たまにはお礼とかしてあげなさいよ?」

「ひ、人聞き悪いかも!!流石のあたしでもお礼はしてるよ!?」

それを聞いたリボンズは、意地悪な笑みを浮かべて彩季奈に尋ねた。

「ほう、それは殊勝な心掛けだ。では、少し前に依頼した『アサルトシュラウド』の改造も完了した、という事かな?」

「ゔっ・・・あ、当たり前かも!」

苦しげに豪語する彩季奈だったが、それを芽遠が容赦なく否定する。

「終わってませんよ。彩季奈は最近まで、二式大艇ちゃんの開発にお熱でしたからね。それの改造プランも、つい最近考え始めたばかりです。」

「ちょ、メロンお姉ちゃん!!?それ言っちゃ・・・」

全てバラされ慌てふためく彩季奈に、リボンズは呆れた表情を見せた。

「まあ・・・そうだろうとは思っていたよ。何もすぐに完成させろとは言わないさ。しかしそれに甘えて、いつまでも取り掛からないのは感心しないな。」

「・・・次の休みの日から始めるかも...いえ、始めます・・・」

「そうしてくれると助かる。ただ、僕は君の腕の良さと発想力には信頼を置いている。だからこそ、完成品には期待しているよ。...さて、もうこんな時間だ。僕はこの辺りで失礼しよう。君たちも、なるべく早く自室に戻るようにね。」

はーい、と気の抜けた返事を聞きつつ、彼は席を立った。しかしそれを、ラウラが呼び止める。

「・・・教官。少しお時間を頂いてもよろしいですか?」

 

 

リボンズは彼女の話を聞くため、2人で彼の自室に戻った。

「ここならいいだろう。では、話を聞かせてもらおうか。」

「私が、先日伊東 厳弥と模擬戦をしたということは・・・ご存知ですか?」

「ああ、勿論耳にしたよ。ラウラ、再度戦った事を踏まえて、君は彼女の実力をどう見る?」

そう問われたラウラは、彼女との戦闘を思い返しつつ答えた。

「そうですね...彼女の戦い方は、とても洗練されています。あの機体で、如何に相手を自分の術中に嵌め、そして勝つか・・・彼女はそれを、よく考えて練っている。あの戦法も、彼女の戦闘スタイルと機体特性が上手く噛み合い成り立っているものです。」

「ああ、そのようだ。して、本題は何だい?どうやら、只それを報告しに来た訳ではなさそうじゃないか。」

「はい...少し、お見せしたいものが」

ラウラは端末を操作し、先日の戦いの映像を表示した。その映像を、リボンズはまじまじと見つめる。

「これは・・・やはり、凄まじいな。まるで生ける潜水艦のような戦い方だ。」

「・・・教官、この時です。」

そう言って、ラウラはビデオをある時点で止めた。そこは、ラウラが背後から来る厳弥の攻撃に、まるで後ろに目があるかの様に対応してみせたシーンだった。

「この瞬間、私は異様な経験をしました。彼女がこちらに攻撃してくる様を感じた、と言いましょうか・・・」

 (この反応速度・・・普通の人間では考えられない。かつてラウラに施された改造処置が、今更活性化したのか?)

「この時何か、体に異常を感じたかい?」

彼女がその時の事を思い返すと、あることを思い出した。

「そういえば・・・目に、何か熱を帯びた様な感覚がありました。しかし後に保健室で検査を受けましたが、異常は見受けられないと・・・」

 (となると、その線はないか。しかし以前の彼女に、それ程までに優れた反射神経は見られなかった。・・・仮に、ISをGNドライヴ搭載機に乗り換えた事が原因だとすると、彼女は・・・もしや)

リボンズがある一つの可能性に行き着きかけたその時、そこに刀奈が帰ってきた。

「ただいまー。はぁ、今日も一日疲れたわぁ...」

「おや、今日は随分と早いんだね。」

「ちょっと野暮用があってね、一旦部屋に戻る必要があったのよ。あら、ラウラちゃんもいるの?ごめんね、お邪魔しちゃったかしら。」

「あ、いや・・・問題ない。」

ニヤニヤと2人を見つめる刀奈に、リボンズはムッとした感じで顔をしかめた。

「・・・なんだい、そのにやけ面は」

「あはは、ごめんなさい。それにしても、この状況・・・貴方も案外隅に置けないのね。」

「うるさいよ」

少しいらついたような表情を見せる彼を見て、刀奈は更に楽しそうに笑った。

「冗談よ、そんなに怒らないで。でも、何か話してたんでしょ?すぐ済ませるから待ってて。」

そう言うと彼女は、自分の私物をまとめにかかった。

「どうしたんだい?急に荷物をまとめ始めて。」

「ちょっと訳があってね。今日から、一夏くんと同居することになったのよ。」

「何、彼と?・・・まあ、あまり彼をからかう事はしないように。」

「ふふ、善処するわ。それじゃ、短い間だったけど...ありがと。」

「...ああ、こちらこそ。中々楽しかったよ、君との同居生活は。」

簡易的な別れの挨拶をすませ、彼女は部屋のドアに手をかけた。しかし突如振り向き、思い出したかの様に彼らに一言告げた。

「あ、そうそう。今日からここは貴方たちお二人の部屋になるから、よろしくね♪」

その一言で瞬時に凍り付いた二人に目もくれずに、刀奈はハミングをしながらその部屋を後にした。そして少しすると、一夏の悲鳴が寮内にこだました。

「...取り敢えず、君も荷物をまとめてきたまえ。僕も手伝おう。」

「...お手数おかけします、教官・・・」

 

 

 

 

 

それから数日後、リボンズが校内を見回っている時、歓談室で机に突っ伏している一夏を発見した。彼からはまるで覇気が感じられない。

「どうしたんだい、一夏?随分と疲れている様じゃないか。」

「あ、リボンズさん...会長が凄い強烈で、こっちのペースが乱されまくりでさ・・・色々と疲れるんだよ。てか未だに慣れねぇな、リボンズさんに呼び捨てで呼ばれるの...いや、嬉しいんだけどさ。ちょっと恥ずかしいっていうか、むず痒いっていうか・・・」

彼は夏から、もっと『仲間を信じる』ことをしようと決めた。そしてその第一歩として、比較的頻繁に接触する人々は、ファーストネームで呼ぼうと決めたのである。

「すまないね。まあ、そのうち君も慣れるさ。現に女性陣たちは、比較的早く順応してくれたじゃないか。」

「そうだけどさあ...前までのフルネーム呼びも悪くなかったんだよな。なんつーか、ミステリアスな感じがあって。あの感じが、リボンズさんに合ってたんだよ。」

「君は僕に何を期待しているんだ・・・まあいい、ところで夕食は頂かないのかい?そろそろいい頃合いだよ。」

「あー...いや、無理だ・・・会長のしごきがキツくて食欲が・・・」

「ああ、そういうことか。なら、僕の部屋に来るかい?軽いお茶請け程度だが、ご馳走しよう。」

「え、いいのか?...あ、そういやリボンズさんの部屋、男同士なのに行ったことなかったな・・・じゃあ、遠慮なくお邪魔させてもらうよ。」

「よし、ではついてきてくれ。案内するよ。」

 

 

「ここが僕の部屋だ。正確には僕とラウラのシェアルーム、だが。」

「え?リボンズさんって、一応用務員だろ?生徒と一緒の部屋でいいのかよ?」

「さあね。質問なら楯無会長が受け付けているよ。」

「ああ...なるほどな。」

一夏は彼女の名前で全てを察した。楯無、もとい刀奈がこういうことをやりそうな人物である事を、彼は彼女と暮らしたこの数日間で、十二分に理解している。

「この時間なら、ラウラも戻っているだろう...帰ったよ、ラウラ。開けてくれるかい?」

彼はそう言って、ドアを数回ノックする。すると数秒も過ぎない内にドアが内から開かれた。部屋の中には、エプロンをかけたラウラの姿があった。

「戻られましたか、教官...む。一夏、お前もいるのか?」

「ああ、彼に少し茶菓子でもと思ってね。彼はどうやら、今日はあまり食欲が湧かないらしい。」

「つーわけだ...悪いな、急にお邪魔して。」

「いや、気にするな。それに、こういった突然の来客に備えて、丁度練習をしていた所だ。日本でいう『オモテナシ』のな。」

少し得意気なラウラに、リボンズは水を差すように指摘する。

「...ラウラ、やかんが怒り狂っている音が聞こえるが、大丈夫かい?」

「ああっ!?すぐに止めて参りますっ!!」

ラウラは慌ただしく、キッチンに入っていった。

「...見ての通り、練習に励んでいる最中なのさ。」

「ああ、うん・・・でも、意外だな。ラウラが料理...というか、家事に熱心に取り組んでるって。」

「そう思うかい?まあ確かに、僕もここまでとは思ってもみなかったが。それはさておき、入って好きな所にかけたまえよ。客人を立たせたまま喋るのもいけない。」

「ああ、サンキュ。よっ...と。」

彼らが席に就くと同時に、ラウラがお茶を運んできた。

「教官、茶が入りました。一夏、お前も飲んで行け。」

「ありがとう。では頂こう・・・ふむ、悪くない味に仕上がっている。着実に上達しているね、ラウラ。」

「どれどれ・・・お、普通に美味いな。」

「恐縮です、教官。それで一夏、お前はなぜ食欲が無いと?」

「いや、会長の訓練が死ぬ程キツくてな。少しグロッキーになってる・・・って感じなんだ。」

「そんな事か。ならば、織斑教官にも稽古をつけて頂いたらどうだ?恐らくすぐに、奴の訓練が苦でなくなるぞ。」

彼女が冗談半分で提案したことに、一夏は苦笑しつつ答える。

「苦痛を苦痛で制してどうすんだよ・・・それに、今の分に追加で千冬姉の特訓を受けた日には俺は死ぬ。絶対死ねる。」

「僕としても、身に余る程の負担をかけるのには賛成しないな。そういう意味では、彼女は訓練を君のレベルにちゃんと合わせて行っていると思うよ。」

「うむ、私は軍人として訓練を受けていたからともかく、お前にはまだ厳しいだろうさ。まあ、順序立てて地道に励むことだな。」

「そうだな・・・はぁ、次の訓練も頑張るか...」

そんな調子で、彼らは一時の団欒を楽しんだ。

 

 

「ごちそうさまでした...ふぅ、結構飲んじゃったな・・・」

「では、僕が片付けるよ。君たちはしばしゆっくりしていてくれ。」

「え?いや、俺が片付けるよ。ご馳走になった身だしさ。」

「君は客人だろう。これは部屋主である僕の仕事さ。」

そう言うと、彼はさっさとキッチンに入ってしまった。時間を持て余した一夏は、ふと感じた疑問をラウラにぶつけた。

「なあラウラ。どうしてそんなに、家事を頑張ってるんだ?」

「何?決まっているだろう、己を磨くためだ。一般的に女性に必要とされているスキルを、そつなくこなすための準備、と言うべきか?」

「へえ...要するに花嫁修業ってやつか。」

「花嫁・・・ま、まあ、そうとも言えるな。」

その言葉に、ラウラはほんのり顔を赤らめる。

「ふーん・・・じゃあ、誰と結婚したいんだよ?やっぱリボンズさんか?」

その瞬間、彼女は耳元まで顔を赤くした。

「んっっ!?!!!?お、お前に一言でも話した覚えは無いぞ!??」

「いやー、見てりゃ結構分かるだろ。多分そこまで行き着くのに難しくないと思うぞ。」

「・・・そこまで気付いておきながら、何故奴らの思いには鈍感なのだ、お前は...」

「? なんか言ったか?」

「いいや、何もない。こんな下らん形でお前に話しても、奴らに悪い。」

「??? まあいいや。んで、なんでリボンズさんが好きなんだ?なんで結婚したいと思ってるんだよ。」

「け、結婚・・・そうだな。私は・・・私はただ、ただ...あの方を支えたいのだ。」

そして、ラウラは寂しそうな笑みを浮かべながら、自分の思いを打ち明け始める。

「教官は素晴らしいお方だ。強く、そしてお優しい。私はあの方に何度も心を救われ、憧れ、そして惹かれた。だが...そんなお人柄だからこそ、教官はお一人で、全てを背負おうとしてしまう。なまじそれができてしまう力と、そんなご自分に対する自負を持っておられるからな。」

「・・・でもさ、そんなの人の身に余るだろ。俺たちは漫画のヒーローじゃねえんだ。何でもかんでも、自分一人でできるなんて・・・」

一夏の言葉に、ラウラは頷く。

「その通りだ。 結局人間は、一人で全てを解決し、その身一つで生きられる様にはできていない。このままのしかかる重石の尽くを引き受ければ、あの方はいずれ押しつぶされてしまう・・・私は、そんなことは望まない。許してなるものか。だから...」

「もっと頼って欲しいって訳か。今家事を学んでるのも、少しでもリボンズさんへの負担を減らすためなんだな。」

彼女はそれに、無言で首を縦に振った。

「成程...大体分かった。でもそれ、結構近い内に叶いそうだぞ?」

「何?それはどういう...」

と、その時リボンズがキッチンから帰って来たので、2人は会話を中断せざるをえなかった。

「すまない、少し時間がかかってしまってね。何を話していたんだい?」

「れ、練習するのにオススメな料理のレシピだよ!な、ラウラ!!」

「そ、そうだな!とても有意義な時間だったぞ!!」

「ああ!それじゃ俺、そろそろ部屋に戻るよ。リボンズさん、呼んでくれてありがとな!ラウラも、色々と頑張れよ!!」

「礼には及ばないさ。ではまた明日。」

「...ああ、それではな。」

一夏が元気よく部屋を後にするのを、二人は見送った。

「ふむ、どうやら少しは気力を取り戻したみたいだね。彼が元気になって何よりだ。」

 (近い内に叶う...?一体、どういう・・・)

 

 

 

 

 

 

そして迎えた、学園祭当日。エントランスでは多くの人々が列を成して並んでいた。

「うーん、今年も賑わってるわねぇ...あ、次の方どうぞー!」

警備員の衣恵は、来客の招待券を確認する係として、エントランスでせかせかと働いていた。

「なんか例年より、女の子の数が多くないですか!?やっぱ一夏くん目当てですよねぇ、これって!」

近くで同様の作業をしている同僚が、彼女に軽口を叩く。

「それだけじゃなくて、企業の人も多いわよ。彼のISに自社の製品を使ってもらうことで、あわよくば・・・って感じでしょうね。」

「いい宣伝になりますしねぇ。あ、こちらへどうぞ!」

彼女らはそうして、列を捌いていった。そして、ある1人の女性の順番が来た。

「お待たせしました。企業の方ですか?それとも招待客の方ですか?」

「前者です。『みつるぎ』の巻紙と申します。」

女性がそう言って差し出した名刺には、「IS装備開発企業 『みつるぎ』」とあった。

「以前の記録にない名前ですね・・・失礼ですが、御社は最近成立されたのですか?」

「ええ。まだ新参者なので、日本でのISの最先端を知る事が必要だとトップが判断し、こうして参加を命じられました。」

「成程...では、御社の資料を拝見しても?」

「勿論です、ここに。」

彼女は提示された資料をまじまじと眺めた。

「・・・確認しました。ご提示ありがとうございます。それでは、どうぞお入りください。」

女性が軽く礼をして去った後、衣恵は神妙な面持ちで電話をかけた。

「・・・もしもし、青葉?ちょっと調べて欲しい事があるんだけど・・・」

 

その企業の使者の女性・・・否、「亡国企業(ファントムタスク)」所属のオータムは、歩きながら先程の事を思い返していた。

 (あの女・・・勘づいてやがったな。こっちが目立つコトは起こさないだろうと踏んで、わざと泳がせたか...流石、天下のIS学園サマは伊達じゃねえか。)

「ああ・・・その通りだよ。こちらとしても、ド派手なコトを起こす気はねぇ・・・今はまだ、な」

そう呟いた彼女は、口元を妖しく歪ませた。

 

 

 

 

 

1組では、計画通りにコスプレ喫茶が開かれていた。可愛らしい服装を来た女子たちが場の雰囲気を華やかなものにしているのに対し、一夏の表情は少し憂鬱そうに見える。

「はぁ・・・」

するとそこへ、伊東姉妹が二人、厳弥と恵がやって来た。

「やっほ、調子はどう?」

「おーおー、皆いっちょ前に仮装しちゃって。てか織斑、なんでそんなキザな服着てるんでちか?笑うぞ。」

ニマニマと嫌な笑顔で、恵はにたつく。

「や、やめてくださいよ!俺だって好きでこんな服着てる訳じゃ・・・」

「そうですか?僕は似合ってると思うけどなぁ・・・」

一夏の格好をいじられて少し不満げなシャルに、厳弥は慌ててフォローをする。

「あーいや、気にしないで。この子ひょうきん者だから。とにかくさ、折角並んだ事だし、なんか食べて行きましょうよ。」

「分かった分かった。どれどれ...『執事にご褒美セット』?なんだこれ。」

「げっ、それは・・・・・・・・です。」

「聞こえねーでちよ。」

「あーもう、俺にポッキー食わせることができるっていうセットです!!!」

「は?なに客の金でタダ飯食いしようとしてるんでちか?商売舐めてんの?」

「仕方ないじゃないですかぁ!?うちのクラスのほぼ全員が、これは絶対外せないって...」

「物好きもいるもんねぇ...まあ、気持ちは分からなくはないけど。織斑くん、顔は良いしね。」

「にしても、これはないわ。何が悲しくて野郎にポッキー食わせなきゃいけないんでちか。」

恵が呆れつつ別の商品に目を向けようとした時、鈴が1組に訪れた。

「お邪魔するわよ!一夏いる?」

「鈴?俺は今接客中だけど・・・」

「お、ツインテ突撃娘がおいでなすったでち。...結構チャイナドレス似合ってんじゃん、弄り甲斐のない・・・」

「ちょっと、どういう意味よそれ!?素直に褒めなさいな!!」

「ほんとだ、凄く様になってるね。」

「そりゃあ、れっきとした民族服だし・・・中国出身のアイツに似合わない訳がないわな。」

一夏が珍しく気の利いた感想を口にした事で、鈴は嬉しそうな顔を一夏に向けたが、その直後に噴き出した。

「アッハハハ...一夏それ、ほんっっっっっと合ってないわねアンタに!!!」

「コイツっ...せっかく褒めたのに、なんだよそれ!しかも何も言い返せねぇよチクショウ!!!」

「あー!鈴までそんなこと言うの!?確かに、一夏にしては見慣れない格好ではあるけどさあ・・・でも、かっこいいじゃん!?」

「うっ・・・それは・・・まあ、そうね・・・」

彼女は満更でもなさそうな表情をしたが、案の定一夏がそれに気付く事はなかった。

「やあ君たち、どうやら大盛況の様だね。素晴らしいじゃないか・・・ックッ、失礼...」

その後、ラウラの様子を見に来たリボンズも、彼の姿を一目見て吹き出してしまう始末であった。

「あ゛っっ!今笑った!!リボンズさん今笑っただろ!?くっそー、こんなんならやっぱり厨房がやりたかった・・・」

「おーい織斑、注文決まったからよろしくー。てか仕事しろよ。」

彼の受難は、もう少し続きそうである。

 

 

一方、校内のあるスペースには、大きな人だかりが出来ていた。

「さあ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!あたし特製の武器やオプションの、特大出血大解放セールだよ!触るも解析するも、なんでもOKかも!」

そこでは、彩季奈が自らが開発した武器を大々的に解放していた。

 (ISに関わる色んな企業の人が注目する、この学園祭・・・絶好のビジネスチャンス、逃す手は無いかも!)

勿論彼女は何もタダでこれを開いた訳ではない。これをきっかけにまた別の企業の協力を得よう、という魂胆の下である。

するとそこへ、例のビジネスウーマン・・・もとい、オータムが姿を現した。

 (任務の時間まで、少し学園内を回ってみりゃ・・・まさか、こんな現場に出くわすたぁな。何だ?所詮ガキが作ったもんに、えれぇ人だかりが出来てやがる。)

彼女は、たかが子供が作った武器の為に、何故ここまで人が集まるのか疑問に思った。そして、それに興味を唆られた。

 (・・・まだ時間はある、ちとここで暇を潰すのも悪くねぇ。)

気まぐれでそう思った彼女は、その人だかりの中に足を踏み入れる。

「あ、また別の人かも!いらっしゃい、好きなだけ見ていってね!」

「ええ、遠慮なく拝見させて頂きますね。」

彼女は即座にビジネスウーマンの皮を被り、注意深く陳列されている武装や設計図に目を向けた。そして次に、目を丸くした。

 (・・・なんだこりゃ?砲台に変形する大剣?合体するライフル?追加装甲?しまいにゃ、ISを介して操縦する大型ユニットだと?どういうこった、コイツの設計した武器はまるで・・・)

困惑した様子で武器を見つめるオータムに、彩季奈が話しかけた。

「お姉さん、今あたしの武器のこと、生産性とか効率性が無いって思ったでしょ?」

彼女の思っていたことをずばり言い当てた彩季奈に、彼女は驚いて取り繕う。

「あっ...いえ、そんな事は・・・」

「いーのいーの。初めてあたしの武器を見る人、大体そんな反応だもん。」

彼女のその言葉に、オータムは思わず口を閉ざしてしまった。そして、恐る恐る彼女に問いかける。

「・・・では、それが分かっていながら、何故この様な...非効率的な物を作るのですか?」

「うーん、色々理由はあるけど・・・やっぱり一番は、楽しいからかも。変形、合体、性能の極端化とかのロマンを、自分の技術と妄想の限りを尽くして形にする。それに、すっごくワクワクするんだよね。」

「...成程、要するに『好きな物を作っている』という事ですね。それは理解できましたが、何故ここまでの観客が?見た所、彼らはIS関連の開発者。彼らも、これ等の武器はとても効率的とは言い難いと理解している筈です。なのに何故・・・」

「確かに、兵器は効率化してナンボだよ。敵を向こうよりも早く、多く倒す為に、性能を研ぎ澄ませたり。でも、今は戦争にISを使ってないし、むしろ競技としての側面が強いよね。だったら、そんな事にこだわる必要はないんじゃないかなって、あたしは思うんだ。兵器じゃないISだからこそできる、色んなことや可能性・・・それを、どこまでも追いかけてたいの。」

そこまで語った彼女は一拍置き、こう締めくくった。

「だからこうやって、みんなでお互いにアイデアを出し合って、子供みたいな想像を形にするのが、とっても楽しい。みんな普段は企業の開発担当として、堅苦しいことを重視して武器を作るけど・・・たまにはそんなのほっぽって、好きなように盛ったり、変形させたりしたいんじゃないかな。開発者は、ロマンを忘れちゃ終わりだからね」

そう言って彩季奈は、快活に笑った。オータムがふと周りを見ると、そこにいる人々は皆、少年の様な面持ちで武装を眺め、議論を交わしていた。

 (成程ねぇ、開発者の性って奴か。まあ、理解できなくはねぇな。)

「...貴方の熱意、伝わりました。宜しければ、私も一つデータを頂きたいのですが・・・」

「いーよいーよ!一つと言わず、後腐れ無いようにたっくさん持ってって!これ以外のときはお得意さんしか相手にできないからね!」

「お気遣いありがとうございます。ですが、これだけで十分ですよ。」

「そう?じゃあいっか。お姉さんの好きな様に使っちゃってね!」

ばいばーい、と元気に手を振る彼女を背に、オータムはその場を後にした。

 (こうして貰っちまったは良いが...バカか、あのガキ?こんな風に悪人に使われる可能性は考えなかったのかね。あるいは悪用されてでも、新たな珍兵器を求めるイカレ野郎か・・・いや、流石にそれはねぇか。)

彼女はしばし考えた後、深いため息をついた。

「・・・何にせよ、コイツの量産化は難しそうだしな。専用の装備を開発させる位にしておくか...ったく、精々感謝しやがれってんだ。」

 

 

 

時間は昼過ぎ。一夏は刀奈の申し出で、彼女に残りシフトを任せ、少し早くから自由行動となっていた。

「あー、やっと解放された...後で楯無さんにお礼しなきゃな...」

 (リボンズさんもラウラと一緒に行っちまったし...適当にぶらぶらして、出店を回ってくか。あ、箒たちと合流するのもいいな。)

一夏がそうして歩き出した矢先に、オータム扮するビジネスウーマンが彼に接近した。

「申し訳ありません、少しお時間頂けますか?私、こういう者です。」

そう言って彼女は、偽りの名刺を彼に手渡した。

「えーと...IS装備開発企業『みつるぎ』の、巻紙...さん?」

彼女は見事に猫をかぶり、爽やかな営業スマイルを浮かべている。

「初めまして、織斑さん。この度、是非私どもの開発した装備を貴方に使用して頂けないかと、ご提案をしに参りました。」

 (ああ、またこういう話か...勘弁してくれよ、夏休みそういう話で半分使っちまったんだから・・・大体、白式の方が武器を選り好みするから、どこのも大抵使えないんだよなぁ)

彼は経験則から、そそくさとこの場から立ち去ろうとした。

「あー、すみません、いきなりそう言われても・・・取り敢えず、学園を通してから改めてよろしくお願いします。えぇと、それじゃ!!」

彼女の一瞬の隙を突き、彼は走ってその場から遠ざかった。

 

「あら?織斑くん、こんな人混みの中で走っちゃって。何かあったのかな?」

「どーせいつもの痴話喧嘩でち。違ったらうちのクラスの商品タダにしてやってもいいよ。」

「言質、とったからね。恵。」

「まあでも、恵の言う通りだと思うのね。きっと女の子関係なの。」

偶然通りがかった彼女らは、ふと彼の走ってきた方向を見た。視線の先には、先程一夏を逃したビジネスウーマンがいた。

「んー?あの女の人、ここの生徒じゃないの。」

「スーツだから...そもそも生徒でもないよ。企業の人、じゃない?」

「なーんだ、つまらんの。いや待てよ、女絡みって点では合ってるでち。残念、タダ飯はおあずけだよ。」

「もー...ほんと予想を裏切らないのね、織斑くんは。ざーんねん、恵のクラスのご飯食べそびれちゃった。」

「いや、普通に店来いよ。来て買って食べてよ。厳弥も、今からでもうちのクラスに...厳弥?」

不審に思った恵が厳弥を見ると、厳弥の目線はかの女性に集中していた。

「あの顔、まさか...いや、私の勘違い?・・・いやでも、雰囲気こそ全く違うけど、あの顔は・・・」

厳弥は彼女から目を離さない。そして、彼女がほんの一瞬、冷酷な笑みを浮かべたのを見逃さなかった。

「『亡国企業(ファントムタスク)』・・・ッ!」

彼女の目の奥底には、とてつもない激情が渦巻いている。そして、そんな彼女の情緒を、恵は目ざとく察知した。

「厳弥、落ち着いて。まさかこんな所で戦闘なんて、シャレにならないでちよ。」

「...ごめんなさい。そうね。ここは狭いし、大勢の人が密集してるもの・・・巻き込む訳にはいかないわ。」

「分かってるならよし。じゃあ、アイツどうする?私らで隙を見てシメるのもありっちゃありでち。」

「うーん・・・厳弥がキレるってことは、さっきの人、アブない人なの?じゃあ、私たちが勝手に対処していい案件じゃないと思うのね。」

「うん。それに下手に騒ぎになったら、逆にお客さん達を危険に晒すかもしれない。ここは大人たちと連携して、事態の収拾を図りましょ。」

「私は...会長さんに、この事を伝えに行くね。」

「私は職員室に行くの!先生たちが居たら心強いのね!」

「んじゃ、私は衣恵さんに話してくるでち。警備の人たちの協力は不可欠でしょ。」

次々と己の役割を決め動こうとする姉妹たちの姿を見て、厳弥は笑顔を取り戻す。

「ありがと、皆。私は校長先生の所に行くわ。それじゃ、お互い気張って行きましょ。みんなを不安にさせないよう、慎ましくね。」

「「「おーっ!」」」

彼女らは勇ましく掛け声を上げ、散り散りとなって人混みの波の中へ姿を消した。

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