救世主の贖罪   作:Yama@0083

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お久しぶりでございます、八ヶ月ぶりの投稿です・・・皆様、いかがお過ごしでしたでしょうか。
ハサウェイの劇場版やGレコ第3部も無事公開されて、ガンダム界隈の盛り上がりは中々好調でしたね。自分もハサウェイは3度見にいっちゃいました・・・

さて、今回は本来一話で投稿する予定だったものを「流石に長過ぎるか・・・?」と思い、前回と同様二つに分けた話となっております。その関係で二つ目の話の長さが短めとなっておりますが、ご了承ください。


31. 揺らめく焦燥 〜Tracer not〜

学園祭から少し経ち、生徒たちの浮つきも落ち着きを見せた頃。リボンズは自室で一人、物思いにふけっていた。

 (あれから密かに、ラウラの前で脳量子波を発生させてみたが...これといった反応は見せなかった。となると、本当に極わずかな変化なのかもしれない。だがいかにこの学園の設備でも、そんな小さな変化を感知できるかどうか・・・やはり、ここは彼女に頼むべきか。)

リボンズは端末を懐から取り出し、束に電話をかけた。すると数コールとしない内に、端末から彼女のハツラツとした声が流れる。

『はろはろー!久しぶりだねぇリっくん!』

「臨海学校ぶりだね、束。そちらの調子はどうだい?」

『そりゃー勿論、ファイトまんまんだよ!クーちゃんとルーちゃんも当然元気さ!』

「それは何よりだ、二人にもよろしく伝えておいてくれ・・・それで、だ。君に1つ、頼まれて欲しい事があるのだが...大丈夫かな?」

『ん、なんだいなんだい?束さんは毎日忙しいけど、家族の頼みならなんでも聞いちゃうよ!』

「助かるよ。実はラウラの身体に、何らかの変化が起きているらしい。僕はそれを、新しい機体に乗り換えた影響だと見ているのだが...確かめる術がない。そこで君に彼女の身体、主に脳を検査して貰いたい。」

『おっけー!そっちの時間帯は・・・うん、全然余裕だね!じゃあ、今からぱぱっと準備してそっち向かうねー!』

「今から?それは...まあいい、ならば僕の部屋の位置を送るから、ベランダから入ってきてくれ。臨海学校の時のような騒ぎは御免だからね。」

『大丈夫だって!逃げも隠れもしてるけど、約束は守るのがこの束さんだからね!!それじゃ、また後でねー!』

相変わらずの彼女の奔放さに呆れながらも、彼はそれに少しの懐かしさを覚え、笑みを零した。するとそこに、ラウラがドアを開け帰宅してきた。

「おかえり、今日はいつもより遅かったね。」

「はい、訓練が少し長引いたもので。近々『キャノンボール・ファスト』が控えておりますから。」

「確か、ISを用いた競技レースだったか。自信の程は如何かな?」

「私は個人のISを所有しているので、いつもの面子と争うことになりますが...皆、各々のISをレース向けに調整するそうです。今勝利の確信を得ることはできませんが、負けてやるつもりはありませんよ。」

「良い心意気だ。ところで、訓練が終わって疲れている所申し訳ないが、君にやってほしい事がある。」

「いえ、お気遣いなさらず。私は何をすればよろしいのでしょうか?」

「大層なことではないさ。近々、恐らく一時間以内に、束がこの部屋にやってくる。彼女には君の身体の精密検査を頼んであるから、それに付き合ってほしい。」

「精密検査...ですか?直近で行ったものでは、これと言った異常は見られませんでしたが・・・」

「ああ。しかし、この学園の設備にも限度がある。先日の模擬戦で君の身に起きた事象を調べるには、彼女を頼るのが手っ取り早いと考えてね。」

「成程・・・そういう事でしたら、こちらとしても喜ばしい限りです。自分の身体の事は、詳しく知っておくべきですので。」

「そう思ってくれるなら嬉しいよ。さあ、では部屋を整理しよう。恐らく専用の器具を持ち込んで来るはず、それ用のスペースを確保しなくては。すまないが、手伝ってくれるかい?」

「分かりました。では、小物の退去は私が。」

 

 

部屋の整理があらかた終わった時、部屋の窓がコンコンと叩かれた。

「連絡からおおよそ40分...結局、一時間もかからなかったか。」

「教官、まさか・・・篠ノ之博士は、学園のセキュリティをかいくぐって、直接この部屋に来たと?」

「この学園のセキュリティは、学園祭での一件から大幅に強化されている...だが彼女の手にかかれば、それすらも児戯に等しい。そう驚くことでもないさ。」

そう言って彼がカーテンを開けて窓を開くと、案の定、そこには束の姿があった。

「リっくぅぅぅぅん!!!久しぶりだねぇ!!いやぁ、家族との再会はいつの時代も胸が躍るね!ささ、束さんの胸に飛び込んでおいで!!」

束は満面の笑みで両手を広げて抱き着いてくるよう促すが、彼は涼しい顔でそれをスルーした。

「ああ、僕も君に会えて嬉しいよ。だが、過度なスキンシップは慎んでお断りしよう。」

あくまで抱きつくまいとする彼に、束は不満そうにむくれる。

「むー、リっくんのいけずぅ。包容力はあるつもりなんだけどなあ・・・」

「その包容力とやらは、後日千冬にでもぶつけてくれ。ところで、君が手に持つ巨大なソレはなんだい?」

彼は、束が手に持つ大きな袋を指さす。

「これ?これには検査で使う機材一式が入ってるんだよ!いやー、詰めるの苦労したなぁ...よいしょっ、と」

そう言って重そうな袋を部屋に置く彼女は、さながら季節外れのサンタクロースの様であった。

「冬も来ていないのに、随分働き者のサンタもいるものだ。とにかく、突然の頼みを快諾してくれたこと、感謝するよ。」

「水臭いなぁリっくんは、家族の頼みに応えるのは当然じゃん!さてさて、それじゃちーちゃんにバレない内に、ちゃちゃっと済ませちゃおう!ラウラちゃん、ちょっと服脱いでくれる?」

「おっと、では僕はしばし失礼しよう。女性の無防備な姿を見る訳にはいかない。」

そう言って部屋を出ていった彼を、ラウラは少し残念そうな表情で見送った。

 (教官にならば、別に着替えを見られても構わんのだが・・・さ、流石にまだ気が早すぎるか...?)

 

 

10分後、リボンズは束から呼び出され、部屋に入った。

「お疲れ様。それで、結果はどうだったんだい?」

「んふふ、中々面白い結果が出たよ。これなんだけど...」

束はモニターを指さしながら、説明を始める。

「これ、微弱だけど未知の脳波が出来てるんだよね。ここら辺のやつは一般的に見られるものなんだけど、これだけは見たことがない。それで、ここからが興味深いんだけど...」

束はその横に、別のデータを表示した。

「これ、ここに来る前についでに採っておいたクーちゃんのデータなんだけど・・・こっちにもあるんだよね、ラウラちゃんのと同じのが。」

限りなく似ている二人のデータを見て、ラウラは思わず目を丸くした。

「私と彼女に、同じ未知の脳波が...?そんな事が有り得るのでしょうか?」

「考えてみれば、起こりうる要素は幾つかあるよね。二人ともデザインベビーで、同じ実験から生み出された姉妹。それで・・・」

「ガンダム...正確には、GNドライヴ搭載機の操縦者、か。」

彼の言葉に、束はその通りといった感じで頷く。

「そう、その辺の要素がこの変化をもたらしたのかも。クーちゃんは普段戦闘とかしないから、特に変化とかは感じなかったみたいだけど。だからこれが、あの子にいつ発現したのかを特定するのは難しいかな。」

彼女の説明を受けてリボンズは、少し考える。

(ラウラとクロエの二人に、同じ脳波・・・僕の脳量子波が彼女に伝わらなかったのは、単に彼女のそれが弱いだけでなく、僕と波長が合わないからかもしれない、ということか。答えを明確にする為、僕の脳もついでに調べるか?...いや、これ以上彼女を長居させる訳にもいかない。今日の所はここで切り上げよう。)

「成程。しかしひとまず、ラウラの身に異常はないことを知れただけでも収穫だった。協力ありがとう、束。」

「ご協力感謝します、篠ノ之博士。」

「いいっていいって、結局そこまでの情報は得られなかったしね。ていうかリっくん、さっきから気になってたんだけど・・・もしかして、ラウラちゃんと同居してる?いつの間にそこまでの関係に発展してたの!?」

彼女のもっともな問いに、リボンズはとうとう来たかという顔をした。

「同居については、生徒会長のお節介の結果さ。ただ...仲が発展したという点は否定しない。それについては、後々君にも話そう。一部の者にはもう話してあるのでね。」

それを聞いた彼女は、楽しそうににやけた。

「へーえ、そっかあ・・・ふふふ、クーちゃんとルーちゃんへのいい土産話ができそうだよ!特にクーちゃん、聞いたら喜ぶだろうなー。クールぶってるけど、その実とってもラウラちゃんの事気にしてるんだ。まったく困ったツンデレお姉ちゃんだねぇ、ラウラちゃんもそう思わない?」

「えっ?は、はあ...?」

話が長引きそうだと悟ったリボンズは、そこで強引に会話を打ち切らせる。

「束、積もる話もあろうが、それはまたの機会にしてくれ。長居し過ぎると彼女に勘づかれる。」

「ちぇ、折角なら箒ちゃんにも会いたかったのになぁ。ま、ちーちゃんのゴッドフィンガーを喰らうのもごめんだし...残念だけど、今日は大人しく帰るよ。んじゃリっくんにラウラちゃん、またねー!」

そう言いながら彼女は窓の外に出て、その姿をふっと消した。

「行ってしまわれた・・・本当に、神出鬼没の嵐の様な方だ。」

「本当にね。さて、ではお茶でも淹れようか。明日は休日だし、少し寝るのが遅くなっても問題ないだろう。」

「そうしましょうか。ならば良い機会ですし、私は茶菓子作りに挑みます。最近、シャルロットにクッキーの作り方を教わったので...」

「それは良い、完成を心待ちにしているよ。分からない事があればいつでも聞いてくれ。」

「ありがとうございます。では・・・いざ!」

エプロンの紐をぐっと締め、彼女は万全の体制でクッキー作りに臨んだ。その後、クッキーの焼き加減を巡って一悶着あったのはまた別の話である。

 

 

 

 

 

翌日。リボンズは軽い雑務を済ませて、自室にて休日を謳歌していた。すると唐突に、彼の端末に千冬から連絡が入った。

「もしもし?君が休日にかけてくるなんて珍しいじゃないか。」

『ああ、急用でな。羽を伸ばしている所悪いが、至急整備室まで来い。お前宛てに届け物が来ている。』

「届け物...?何かを注文した覚えはないのだが。それに、なぜそれをわざわざ整備室に?」

『それが、件の荷物が中々の大きさなのでな。しかも送り主が(あの馬鹿)と来た。奴が常識的な贈り物をする筈がなかろう?』

「ああ...そういうことなら仕方ない。すぐに向かうよ。」

彼はため息をつきながら、通話を切った。

 

彼が整備室に着くと、千冬がフランクな調子で出迎えた。

「来たか。すまんな、せっかくの休日に呼び出して。」

「君が謝ることはないさ。して、その荷物とはどれなんだい?」

「あのコンテナだ。もっとも、コンテナと言うにはいささか小ぶりだが。」

千冬の視線の先には、縦向きに置かれたコンテナが鎮座していた。確かにそれは荷物としては大きめだが、一般的なコンテナと比べるとかなり小さい。丁度、ISの全長と同じくらいの大きさのものがそこにはあった。

「分かった、では中身を確認しよう。悪ふざけでこれを送った訳ではないと思いたいが・・・」

「今の奴はそこまで悪質ではないと思うが...万が一ということもある。一応、用心はしておけ。」

彼がそれに近づくと、コンテナのハッチがひとりでに開き始める。すると、その内容物が徐々に姿を現した。

「これは・・・IS用の装備、だろうか?」

「そうなのか...?私には放熱板の類にしか見えんが」

そこに入っていたのは、白と青の塗装が施されている、一対の折り曲げられた板の様な物体だった。すると、コンテナに内蔵されていたスクリーンに突如光が灯り、束の姿が映し出される。

 【はろはろ〜!これを見てるってことは、この荷物は無事届いたんだね。じゃ、パパっとこれについて説明してしんぜよう!】

「メッセージを残しておいてくれたのか。相変わらず、準備が良くて助かる。」

「いつもの奴ならば、届いた頃を見計らって連絡を寄越して来そうだが・・・こういうこともあるのだな」

相手の都合を考えられるようになったのか...と、静かに感激している千冬を後目に、映像の中の束はさっさと話し始める。

 【今目の前にあるのは、スローネに搭載されてるファングを火力特化に改装したものだよ!ビームサーベルを展開する機能はオミットして、純粋に粒子ビームを撃つことに特化させたんだ!まだ試作段階だから、色々と欠陥もあるけど...完成したら、今のBT兵器なんか目じゃない火力が叩き出せる筈。だからリっくん、その為に実戦データを採ってきて!後々それを回収して、そのデータを元にパーペキな物を作りたいからね!】

「火力重視のファング・・・それにしても、些か大き過ぎやしないかい?」

「リボンズ。つかぬ事を聞くが、そのファングとやらは一体何なのだ?BT兵器の一環の様だが。」

「そういえば、君は見たことがなかったか。簡単に説明すると、現在のBT兵器を更に小型化した物さ。出力はその分低めだが、独自の機能を搭載しているんだ。」

彼が千冬にファングについて軽く説明する傍ら、映像の中の束は新たな装備の説明をつらつらと進めていった。

 

 

 【...という訳で、頼んだよリっくん!そうそう、ちなみにこの武装の呼称だけど、取り敢えず「フィン・ファング」って登録してあるからね!いやー、束さんにしてはイイ感じの名前を付けたと思うんだよね。それじゃよろよろ〜!】

フィン・ファング。その名前に、彼は僅かに眉をひそめる。

 (フィン・ファングか・・・フ、皮肉なものだ。僕が望まずとも、このガンダムはあの機体(リボーンズガンダム)に造形が近付いていく...これが神からの戒めという物なら、よく分かっておいでだ。)

彼は一人そんなことを思いつつ、近くのドックに自身の愛機を展開させた。

「では、一度1.5ガンダムにこれを接続してみよう。すまない、一つドックを借りるよ。」

「構わん、元よりそのつもりで呼んだのだからな。信頼のおけるメカニックたちも招集してある。」

「ありがたい。ではまずバックパックを...」

彼は展開された1.5ガンダムの背部バインダーを取り外そうとした。しかし、試作型のフィン・ファングを再度見て、彼はあることに気付く。

「・・・いや、違うな。これはガンダム本体に直接接続できるようにはなっていない。となると、バインダーを介して接続する他ないか?」

「コンテナの隅に幾つかパーツが転がっているが、その改造を行う為の物ではないか?」

「やはりそうか・・・とんだ未完成品を寄越してくれたものだ、束も。」

リボンズは不満げにしつつ、改装を行う為の準備に取り掛かった。

 

 

 

その後、改修が完了した頃に、一度席を外していた千冬が再び戻ってきた。

「よう、その後の進捗はどうだ?」

「ああ。君の集めてくれたメカニック達のおかげで、想定よりも早く終わったよ。今度彼女たちに礼をしなくては。」

ガンダムの背中に上乗せとばかりに備え付けられた一対のそれを見て、千冬は見たままの感想を述べる。

「しかし、本当に巨大だな・・・ブルー・ティアーズのそれより、更に大きいかもしれん。」

「まだ試作段階にしか過ぎないからね。完成すれば、この問題も改善される筈だ。では早速、これを使ってみようじゃないか。今空いているアリーナはあるかい?」

「少し待て、確認する。...そうだな、今は全てのアリーナに利用者がいるが、第3アリーナにならお前をねじ込めそうだ。そこにいるのはオルコット一人だけだからな。」

「なら丁度いい、同じ場所を使わせてもらうよ。彼女には幾度かガンダムを晒しているし、そこも問題はないだろう。」

 

 

 

 

 

他に生徒が誰一人いないアリーナで、セシリアは黙々と訓練を行っていた。彼女は照準をあえて標的の少し上に向け、引き金を引く。

 (...曲がって!!)

彼女は強くそう念じたが、虚しくも放たれたレーザーは、その銃口の向く方向にまっすぐ飛んでいった。

 (っ、今回も・・・)

長い時間休まずにこの訓練を続けていた彼女だったが、ついに気力が尽き、その腕に構えていたライフルを下ろした。

「はぁ・・・今日はここまでですわね。...ブルー・ティアーズ、待機モードに。」

彼女は肩を落とし、自身のISを解除する。そして控え室に戻ろうとした時、ある声がそれを引き止めた。

「やあ。突然で申し訳ないが、少し失礼するよ。」

彼女がその声に振り返ると、そこには見慣れた機体があった。

「リボンズさん...?珍しいですわね、ここにいらっしゃる事は滅多にありませんのに。」

「ああ、束から送られてきた試作兵装を試す必要があってね。それでやむを得ず、という訳さ。」

「試作兵装・・・もしや、お背中に増えた一対のそれのことですか?」

そう言って、彼女は彼の背中にあるフィン・ファングをちらと見る。

「そう。君の機体と同じ、遠隔攻撃端末だ。曰く完成すれば、現行のBT兵器のどれよりも強力な物になるらしいが...」

「そう・・・ですか。篠ノ之博士ご自身が開発なさっている代物ですもの、完成が楽しみですわね。」

そう言いつつも、セシリアの表情はどこか暗い。彼女の異変に気が付いたのか、リボンズもすぐ彼女に問いかける。

「...何やら浮かない顔をしているね。悩みでもあるのかい?」

彼女はしばし沈黙を貫いたが、やがてゆっくりと口を開いた。リボンズは一度ISを解除し、彼女に近付く。

「これは機密事項なのですが・・・米国の軍事基地が、例の組織の襲撃を受けたそうですの。なんでも、そこに保管されていた先日の『福音』を狙ってのことだそうで。幸い、守備隊の尽力のお陰で、奪取はされずに済んだそうですが・・・」

「あの機体を?目的はなんであれ、あれ程の性能の代物を奪われなかったのは幸運か。あれが悪人の手に渡ったらどうなるか...」

「ええ。そしてその際、襲撃に使われたのが・・・『サイレント・ゼフィルス』。私のティアーズの姉妹機にあたる機体ですわ。」

「ラウラの報告からも聞いているよ。『サイレント・ゼフィルス』・・・英国が君の機体のデータを元に建造した、より強力な2号機。それを知らぬ間に奪われてしまっていたのは、君にとってもさぞ屈辱的だろう。」

「祖国のISをあんな蛮族に奪われてしまった事は、確かに腹立たしいのですが...今の私にとっての問題は、そこではありませんの。」

セシリアはそこまで言って、次の言葉を口にすべきか迷っている様だった。しかし最終的に、彼女は意を決して口を開いた。

「『偏向射撃(フレキシブル)』・・・という技術を、ご存知でして?」

「名前だけなら聞いた事がある。確か、BT兵器特有のテクニックだったね。」

「はい。偏向射撃...正確にはBT偏向制御射撃は、ビットから発射されるビームを、操縦者の意思で自在に操る・・・有り体に言えば、ビームを曲げる技術ですわね。...私には使えず、あの者(襲撃者)が使える技術。」

リボンズは最後のその一言にはっとして、彼女の顔を見る。そして、全てを悟った様だった。

「・・・成程、最近君の調子が悪いという噂は小耳に挟んでいたが...理由はそれか。」

「報告にありましたの。襲撃者は、この高等技術をいとも容易く使いこなしていた、と。理解はしています。相手はテロリストの実働部隊、片やこちらは候補生とはいえ、所詮一介の学生・・・経験の差は歴然。でも、私は祖国からティアーズを任されている身...このまま終わらせていい筈がありません。だからあの機体だけは、私の手で・・・!」

そこまで言った彼女は、不意に口を止め、自嘲気味に笑った。

「...散々御託を並べましたが・・・根底にあるのは、私の下らない意地ですわ。どうぞ嗤って下さいな。」

「・・・君の気持ちは分かるつもりだ。そういう時は、決まって周りが見えなくなる・・・しかし、自分だけで解決しようと最初から決め込むのは、それこそ傲慢だとは思わないかい?」

その痛い指摘に、セシリアはバツが悪そうに目線を逸らす。

「...それも分かっています。ええ、分かっていますとも」

「最終的にことを為すのは、君の力でも構わない。だが、そこに至るまでに誰かの手を借りた時と、借りようともしなかった時では結果が全く異なる。もし、借りずに解決できてしまったら・・・君の中に驕りが生まれ、いつか必ずその代償を払うことになる。君達は、僕と同じ道を辿る必要はない。」

「・・・貴方にそう言われると、返す言葉もありませんわね。高い実力を持つ貴方があの時、敗北を喫したのを私たちは目の当たりにしましたもの。」

彼女の言葉に、リボンズは苦笑する。

「そうさ。結局、人が我が身一つでできることはあまりにも少ない。僕は真にその事を理解するのに、こんなにも長く時間がかかってしまった。しかし君にはまだ時間がある、認識を改めるにはまだ遅くないさ。」

彼はそう語りかけるが、彼女は何か思うところがある様で、彼の言葉に答えない。

「もっとも・・・君にこれを強いるつもりはない。自尊心は人間にとって不可欠なものだからね。それも、まだ学生である君たちには尚更だ。・・・だが、どうかその気高い自信を、傲慢という形で腐らせないでほしい。君は聡明だ、その線引きは自ずと見えてくる筈だよ。」

「...そんな、買い被りですわ。私は・・・」

それっきり彼女は黙ってしまい、二人の間に気まずい空気が流れる。彼は一度、ここで話題を変えることにした。

「・・・それはそうと、『偏向射撃』か・・・これからBT兵器を運用する者として、中々興味深い。よし、僕も一度試してみよう。その発動条件とやらを知りたいのだが。」

「・・・えっ!?ええ...別に構いませんわよ。まず、IS適性が高水準であること...は、問題ないでしょうね。あとは、ビットをフル稼働させること。これらが発動の条件ですわ。」

彼女が口にした二つ目の条件を聞いて、リボンズは苦笑する。

「フル稼働か...新品、しかも試作品をいきなり全力で飛ばしても良いのかどうか・・・だが、所詮試作品だ。いっそ現時点での限界出力を見てみるのもいいだろう。」

彼は再びISを展開し、背部の2基のフィン・ファングを停滞させる。続いて発射する粒子ビームの出力を限界値に設定し、発射口を的の少し上に向けた。

「これで準備は整った。それでは・・・!」

ガシャンと音を立て、フィン・ファングがバレルを展開し、その中心部に光が集まっていく。その様子を、セシリアは固唾を呑んで見守る。

 (当たり前の様にビットを展開して、そして稼働させている・・・本人はああ言っていたけれど、やはり彼ならもしや...)

そして満を持して、彼はフィン・ファングを現在の最大出力で発射した・・・

が、そこより放たれたビームは曲がるどころか、まるで水飛沫の様に広く細かく拡散し、的に当たることすらなかった。それを目の当たりにした二人は、困惑を隠せない。

「...どういうことだい、これは」

「ビームが分散...いえ、拡散しましたわね・・・」

「粒子を圧縮しきれなかったのか...?全く束め、いくら未完成品とはいえこれは・・・」

そう言ってISを解除した彼の表情は、目に見えて不満げだった。そんな彼の様子を見たセシリアは、思わずといった調子で吹き出した。

「...ふふっ、ふふふふ・・・」

「うん?急に笑い出してどうしたんだい?」

「いえ・・・リボンズさんが、おあずけを食らった子供の様な顔をしていましたので...」

「ああ...見苦しい所を見せたね。やはり身内が絡むと、感情がいつもより表立ってきていけない。」

「あら、新鮮で案外悪くありませんでしたわよ?貴方があんな表情をするのは普段ありませんもの。」

「フ、茶化すのは止してくれ・・・では、今から戻ってこの問題を報告してくるよ。本来は稼働データを採るだけなんだが、こればかりは直接言ってやらないと気が済まない。」

「ふふ、仲がよろしいんですのね。あの篠ノ之博士とそんな風に接するだなんて。」

「まあ、彼女は僕の家族と呼べる存在だからね。意外とチャーミングな所もあるし、彼女といると退屈しない。君もまた会う機会があれば、臆せず話しかけてみるといい。」

「そうですわね。臨海学校では、結局一言二言しかお話し出来ませんでしたし・・・もしご迷惑でなければ、ぜひ博士にもその旨をお伝え下さい。」

「約束しよう。では、引き続き鍛錬に励んでくれたまえ。」

そう言って戻ろうとした彼を、セシリアが呼び止める。

「ああ、その前に私からも、BT兵器を扱うにあたってのアドバイスをさせて下さいな。話を聞いて下さったお礼を兼ねて、ね?」

「確かに...これの扱いについては、君に一日の長がある。是非とも聞かせてくれ。」

彼の言葉にセシリアは微笑み、説明を始める。

「私がビットを展開している時は、その制御に意識を割かれ、他の武装を同時並行で運用する事ができません。なので私は、全てのビットを一挙に相手に向かわせるのではなく、常に2つ、手元に残すようにしていますの。それは主に、接近された時の自衛手段としての役割と・・・」

「懐に入って、もう障壁は無いと思っている相手を奇襲する奥の手...と言ったところかな?」

「ええ、その通りですわ。しかし、これは私のティアーズだからできる戦法。対してリボンズさんのそれは、元からその2つのみ。仮に片方だけを運用して、もう片方を残すという方法をとっても、効果は薄いでしょう。」

「そうだね。一方がビットとして運用されていれば、誰もがもう片方も同じだと気付く。それでは奇襲をするどころか、手数不足で押されてしまうかもしれないな。」

「そこで・・・こう考えてみるのは如何でしょう?2基のビットを平常運用するのではなく、ここぞという時の必殺の反撃技にする...というのは」

彼女の案を聞いたリボンズの表情は、まさに目から鱗といった様子だった。

「・・・成程、それは盲点だった。いや、その使い方自体は視野に入ってはいたが、ビットそのものを平時は無きものとして割り切り、ここぞという時の切り札として使うという発想は、僕には無かった。この装備は欠陥はあれど、威力は彼女のお墨付き故、上手く嵌れば殺人的な火力を叩き出せる・・・中々良いアイデアだよ、セシリア。」

「ふふ、お気に召したようで何よりですわ。とはいえ私も、そんな無茶な運用をした事はありませんので、実際に有効かは・・・」

「確かにね。だが、どうせこの武装は近々彼女に送り返すんだ、実戦で使うことはまずないさ。 」

「それもそうですわね。では、戦術のほんの参考程度に留めておいて下さいな。」

「いいや、素晴らしい意見をありがとう。君も是非、誰かに意見を仰いでみるといい。明確な答えはその時は出ないかもしれないが、いつか思わぬ形で花開くかもしれないよ。」

それでは、とリボンズは今度こそアリーナを後にした。それと同時に、彼と入れ違う形で鈴がアリーナに現れる。

「あれ、セシリアじゃない。ぼっちで練習なんてどうしたのよ?ていうか、さっきリボンズさんとすれ違ったんだけど、もしかしてさっきまでここにいた?珍しいわねー。」

「鈴さん...ええ、彼は先程までここに。少しアドバイスを頂いていまして・・・」

「へー。それって『キャノンボール・ファスト』に向けて?んじゃ、着々と準備は進んでるって感じね。」

「そうですわね・・・鈴さんも?」

「そうよ。ふふん、今回のレースはぶっちぎりで一位を獲ってやるんだから。」

「あら、言ってくれますわね。私とて、勝利を譲る気はさらさら無くってよ?」

「そう来なくっちゃね。ま、お互い頑張りましょ。」

鈴はそう言いながら、好戦的な笑みを浮かべる。そんな彼女を見て、セシリアも思わず表情を崩した。

 (...全く、何を迷う必要があったのかしら。私には今、頼れる人たちが何人もいるというのに・・・)

「鈴さん・・・よろしければ、貴方からもご意見を聞いても構いませんか?私がやろうとしていることについて...」

 

 

 

セシリアと別れた彼は早速束に連絡し、彼女に先程発見した問題点を報告した。

「...というわけで、君が寄越してきたフィン・ファングは欠陥が多い。早急に改善して欲しいのだが。」

『あちゃー、ちょっと火力にこだわり過ぎたかなぁ。流石にそれじゃあとんだポンコツだね。ごめんねリっくん、ほんとはすぐにでも回収しに行きたいんだけど・・・今はちょっと手が離せないんだ。だからそれまで、できる範囲で試験を続けてもらえないかな?もちろん、終わり次第それの改修に取りかかるからさ!』

「そういうことなら仕方ない。だが、できるだけ早くしてくれると助かる。君の能力ならば、作業スピードを幾らでも早められる筈だよ。」

『ふふ〜、嬉しいこと言ってくれるねぇリっくん!そう言われちゃあ、束さんどんどんスピードアップしちゃう!あ、そういえばリっくん。ラウラちゃんとデートに行ったりしたの?』

その唐突な質問に、彼は戸惑いながらも答える。

「デートだと?いや、まだそういった事は・・・」

『何やってんのリっくんっ!!こういう時はチキらずに、自分からどんどん誘っていくんだよ!別にレストランみたいなシャレオツな所に行かなくてもさ、下町の小さな電子部品の店とか、ジャンク品市とかでもいいからさ!』

それはそれでおかしいのでは?とリボンズが思った矢先、別の声が通話先から入ってきた。

『束様・・・貴方様も十分、一般常識からかけ離れた認識を持っていることを自覚なされた方がよろしいかと。リボンズ、久しぶりですね。調子は如何ですか?』

「おや、クロエじゃないか。こうして話すのも臨海学校ぶりだね。ルビは息災かな?」

『ええ、彼女も変わりありません。今は少し席を外しているので、話すことはできませんが...』

「いや、元気でやっているなら何よりだ。今度会った時、存分に話をするさ。」

『是非とも。それはそうと...束様から聞きましたよ。なんでも、彼女と交際することになったとか。』

「将来的にそういった関係になる事を約束しただけで、今はそうというわけではないんだがね。しかしそうか、ラウラの姉である君にとっては、やはり気になる事だろう。」

『別に・・・そこまで気にかけているつもりはありません。相手も貴方ですし、問題はないと確信しています。ただ...』

電話の向こうのクロエは、少し気恥ずかしそうにしながら、言葉を続けた。

『ただ彼女に、青春というものを体験させてやって下さい。学び、友人、そして恋・・・私には、できませんでしたから。』

「クロエ...」

彼が慰めの言葉をかけようとすると、もう我慢ならんといった様子で、束が割り込んで来た。

『クーちゃああああああん!!!!ま〜たそんなツンデレかましちゃってもおおお!!可愛いなぁほんとに、もうハグハグしよう!!ねっ!!』

『た、束様・・・ちょっと、苦しっ・・・!』

しばし雑音が続いた後、ドン!という鈍い音と共に、束の情けない悲鳴がこだました。

『ふぅ...失礼しました。』

『イチャイ...イチャイ...』

「今のは・・・フフ、君もやるようになったね、クロエ。」

『束様のお目付け役も、私の責務ですので。さて、先程束様が仰ったことは忘れて頂いて結構です。私見ですがデートに行くのならば、やはり買い物に行くことなどが定石かと思います。』

「まあ、それが最もメジャーだね。では今度、彼女に声をかけてみるよ。彼女も学生である故、色々と忙しいみたいだからね。」

『いーやいや、ここは今日今すぐ行くべきだよリっくん!!そうやって後回しにしていい事なんて何もないじゃん!ていうかぶっちゃけ早く進展が見た...あっ痛!?クーちゃんそれはヤバイって!?』

またもや向こう側で制裁を受けているであろう彼女の悲鳴を聞き、彼はため息をついて仕方なくといった感じで答えた。

「・・・ハァ、あまり期待はしないでくれよ?僕としても、彼女のスケジュールを乱してまでこれを実行するのは不本意だ。」

『リボンズ...無理をしなくてもいいのですよ?』

「いや、僕が少し奥手過ぎるのも事実だし、ここで一歩踏み込んでみるのも悪くはない。では一度電話を切るよ、ルビにもよろしく伝えておいてくれ。」

『分かりました・・・健闘を祈ります。』

『あてて・・・それじゃーリっくん、頑張ってラウラちゃんをエスコートするんだぞ!!』

「フ、望むところさ。ではまた後日に。」

 

 

 

ラウラはアリーナの一角で、厳弥と共に訓練に励んでいた。二人は長らくぶつかり合っていたが、ちょうど一区切りがついた時、厳弥が手を止め口を開いた。

「ふぅ...ここらで少し休憩しましょうか。あ、そういえばラウラちゃん、今度の『キャノンボール・ファスト』には参加するのよね?その機体で出場しても大丈夫なの?」

「ああ。私もそう思って学園と軍に確認したが、問題は無いとのことだ。確かに私のISは篠ノ之博士が開発されたものだが、所属は一応ドイツ軍ということになっている。それに博士自家製という例なら、箒の機体もそうだからな。」

「へぇ...でも、そんな高性能な機体を軍の所属にしちゃってよかった訳?博士の技術が盗用されたりしないかしら。」

「実際に、ご本人の了承のもと解析を行ったらしいが・・・何も分からなかったそうだ。まあ、彼女の技術を少しでも理解できると思っていた者は一人としていなかっただろうよ。 」

「ま、そうなるわよね。あの人の考えてることを完全に理解するなんて...うちの彩季奈でも無理なんじゃない?」

「フ、かもな。それで、そういう貴方は出場するのか?正直、あの機体でいい結果を残せるとは到底思えないのだが。」

「お察しの通り、私たち姉妹は全員出場しないの。皆がキュンキュン飛び回ってる中で、走って跳ねることしか出来ないし。だから今回は大人しく、皆の活躍を見てるわね。」

二人がそんな他愛もない話をしていると、ラウラの端末にリボンズからの着信が入る。

「教官?珍しいな、あの方から電話とは...すまない、少し出ても良いだろうか?」

「全然大丈夫よ、気にしないで。」

彼女の了承を得たラウラはその場から離れ、電話を取った。

「お待たせ致しました。如何しましたか、教官?」

『やあ、訓練中の所すまないね。今少し話せるかな?』

「は。ただ今休息をとっていますので、少しの間でしたら可能です。」

『ありがとう。それで要件なのだが・・・今日、外に出れる時間はあるかい?僕ら二人で...その、デートをしてみようと思ってね』

《デート》。藪から棒に飛び出して来たその言葉に、彼女はしばし目を白黒させる。

「...はっ?で・・・デート、と?」

『ああ。思えば、僕らは今まで一度も二人で出歩いたことがない。丁度天気も良いし、この際どうかと思ったのだが・・・』

「あ・・・し、少々お待ちを!!」

彼女は一度端末から顔を離し、頭を抱える。

 (どうする...どうする!?折角の教官からのお誘いだ、是非ともお受けしたい・・・しかし『キャノンボール・ファスト』も近い、訓練は欠かさずに行うべきだ・・・ええい、どうすればいいのだ、私は!?)

彼女が悶々としていると、ニヤニヤ微笑みながら厳弥が近づいてきた。

「ラ・ウ・ラ・ちゃん?聞いちゃったわよ~、デートに行くんだって?」

「はっ!?き、聞いていたのか!?」

「私のところまで余裕で聞こえたわよ、ラウラちゃんがデートって言ってたの。いいじゃないの、今から支度して行ってきたら?」

「し、しかし訓練がまだ・・・」

「毎日何かしらの形で鍛錬はしてるでしょ?今日くらい休んだってバチは当たらないって。」

「むむ・・・だが...」

「もう、焦れったいわね・・・ごめんねっ!」

彼女は一瞬の隙を突いて、ラウラの手から端末を抜き取り、リボンズ相手に話を進める。

「あっ...!?」

「あ、もしもしリボンズさん?私よ私、厳弥。うん、さっきまで訓練に付き合ってもらってたの。それで、デートに行くって?...買い物?いいじゃない!今日はここまででいいから、今からラウラちゃんを送り出すわね。本人の意思?とっっても行きたくてうずうずしてるって感じ。・・・あー、いいのいいの。いつも付き合わせてるのは私の方もだし。...うん、じゃあ外で待ってて。はーい・・・」

あっという間に話をまとめてしまった彼女は、ふんだくった端末をラウラに返却する。

「という訳で、今日はこれでお開き。ちょっと乱暴な真似してごめんなさいね。」

「...全く、一杯食わされた。仕方あるまい、こうなった以上、貴方の好意に甘えるとしよう。こちらこそすまんな、気を遣わせて。」

「気にしないで。ストイックなのはいい事だけど、メリハリ付けて気を休めるのも大切よ?...ふふ、そんなこと言っても、私じゃ説得力ないか。」

「確かに貴方も、休日は訓練ばかりだからな。では、今日も世話になった。教官が待っておられるのなら、長くお待たせする訳にはいかん。私は先に失礼する。」

「ん、目一杯楽しんできてね。」

厳弥はウィンクをして、ご機嫌な様子でその場を後にするラウラを見送った。

 

 

 

その後控え室に戻りシャワーでささっと汗を流したラウラは、着替えるべくロッカーへと向かう。彼女はそこで、偶然にも恵と鉢合わせた。

「貴女は...伊東 恵。」

「お、ドイツの候補生。今日も厳弥の訓練相手?せっかくの休みの日に、うちの姉が申し訳ねーでち。」

「いや、貴女が気にする必要はない。私が望んでやっている事だし、彼女は訓練相手として素晴らしい実力者だ。むしろ、私の方が礼を言うべきだろう。」

「なーるほど。んじゃ、変に気を遣う必要も無いでちね。にしても休日くらいは、もう少し気を抜いてもいいと思うけどねぇ。まったくうちの訓練バカと来たら・・・」

そう言って呆れた様子を見せる彼女に、ラウラはこの際以前から抱いていた厳弥に対する疑問をぶつけることにした。

「もし、よければ・・・彼女について聞きたいことがあるのだが、よろしいだろうか?」

「ん、何?厳弥が世話んなってるし、なんでも答えてやるでちよ。」

「彼女の...伊東 厳弥の過去に、何かあったのか?・・・例えば、テロリズム関係の何かが。」

その質問を聞いた途端に、のほほんとしていた彼女の表情は一気に険しくなった。

「・・・なんでまた、そんなことを」

「先日の学園祭の日、『亡国企業(ファントムタスク)』の一員を拿捕せんとしていた時、彼女はその現場に現れた。そして奴らは、彼女のことを『テロリスト狩り』と呼んでいた。これで何も無いと考える方が不自然だろう。」

その答えに対し、恵は沈黙を貫く。

「無遠慮な質問であることは承知している。身内の不幸など辛い経験であるのなら、答えなくて構わない。だが私は知りたいんだ、何が彼女を...あの明朗な人を、あそこまで駆り立てるのか。」

ラウラがそう訴えると、険しい顔を崩さなかった恵はふぅと息をつき、その表情を少し和らげた。

「・・・あー、それに関しちゃ大丈夫。うちの家庭は家族はおろか、従姉妹に至るまで不幸に見舞われたことは今までないし。爺さん婆さんだって、まだまだ元気だしね・・・けど、悪い。この件に関しては、私の口からは話せない。どうしても知りたきゃ、厳弥に折を見て直接頼んでみるでち。」

「そうか・・・申し訳なかった。本人の知らぬ所で、その親族を通して過去を暴くような真似をした。」

「いんや。いきなり本人には直接聞き辛いもんだし、デリカシーってもんがない。お前の選択は人として間違ってなかったでちよ。...でも、そうだな。一つ私が言えるとすれば・・・アイツは、単なる被害者根性であんな事をしてるんじゃない。もっと色々と...複雑なんだよ、うん」

重苦しい空気が二人を包み込む。するとそんな空気をかき消すが如く、恵はパンパンと手を叩いた。

「さ、話が終わったんなら行った行った!愛しのカレが外で待ちぼうけ喰らってるよ?」

その瞬間、ラウラの顔はうってかわってぼぅっと赤く染まった。

「んなっ...何故それを!?」

「ククク、おめーとリボンズさんの間に何かあったのはお見通しでち。ほーら、とっとと仕度してデートに行っちまえ。」

「くそっ、今日は貴方たち姉妹にしてやられてばかりだ...この借りは必ず返させてもらうぞ!」

ラウラはバタバタと着替えを済ませて、外で待つリボンズの下へ駆けていった。一人その場に残された恵は、ぽつりと呟く。

 

「...身内の不幸、ね。むしろその方が、アイツにとってはマシだったかも・・・なんて」

 

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