救世主の贖罪   作:Yama@0083

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32. 二人の魔法 〜Bright Noon〜

合流した二人は、両者共に何度か訪れているショッピングモールに行くことになった。学園の最寄り駅から数駅のところにあるそれに着いた二人は、まずその人の多さに面食らった。

「やはりと言うべきか・・・凄い人混みだ。」

「休日ということもあって、かなり賑わっていますね・・・はぐれないよう、気をつけましょう。」

「よし・・・では、しばし歩こうか。僕も特にこれといったプランは考えていないのでね、中を見て回ってめぼしい店を探そうじゃないか。」

「それが良いでしょう。私も、ここの構造に詳しいわけではありませんので・・・」

 

 

そうしてショッピングモールの中をぶらぶらと歩いていると、ラウラは婦人服を取り扱う店を見つけ、その前で立ち止まった。

「教官、この店を覗いてもよろしいですか?」

「勿論さ。何か気になる服があるのかい?」

「いえ、お恥ずかしい話ですが、私は私服の類を殆ど持ち合わせておらず...寝間着を含めても、数える程しか無いのです。なのでこの際、自分で選んで購入してみようかと。」

「ほう、良いじゃないか。僕も君に似合いそうな服を見繕ってみよう。とはいえ、ファッションに詳しいわけではないが・・・」

「お気になさらずとも、教官が選んで下さった物ならば、喜んで身につけますよ。では、一度二手に分かれましょう。」

 

そうして始まった服選びだったが、ラウラに早くも問題が発生していた。

(分からん...分からん!どんな服が私に似合うのだ!?今まで日常生活を隊服や制服で過ごしていたツケが、ここで回ってきたか・・・クッ、かくなる上は・・・)

彼女は手元にある端末に手を伸ばし、本国の部隊のメンバーたちに意見を仰ごうかと考えた。しかし、すんでのところでその手を止める。

(ハッ・・・何を考えている、私は!?教官が自ら選んで下さっているのに、私が自分で選ばないでどうする!!)

「そうだ。難しく考えずとも、私が気になるものを探せば良いだけのこと。なんとでもなる筈だ...!」

彼女が気を取り直して、再び服を吟味していた時。一枚の白いワンピースが彼女の目にとまった。彼女は服の色などに特別こだわりを持ってはいなかったが、今はそのワンピースに妙に目を奪われていた。

(白...そういえば、花嫁の衣装は白であるのが定石であったな。私もいつかは、着ることになるのだろうか・・・)

彼女は自身の花嫁姿を夢想し、顔を緩ませる。しかしその事に気付き、即座に姿勢を整えた。

(しかし...この服、やけに気になる。なんと言うべきか、私自身がこの服を着た自分を見たがっているというか・・・)

その後少し考えた後、彼女はその服を恐る恐る手に取った。

「フッ・・・まさか私が、このような服を自ら選ぶようになるとはな。今更可愛げとやらが芽生えてきたか?」

 

 

満を持して、二人は合流した。出会ってすぐ、ラウラはリボンズが選んだ服に目が釘付けになった。

「教官、それは...」

「ああ。見ての通り、白のワンピースだよ。」

そう言って差し出された彼の手には、ラウラが選んだ物と全く同じ服があった。ラウラはその事実を敢えてここでは明かさず、初めて見るかのようなリアクションをとった。

「...今までの私の服装とは、かなり雰囲気が違いますね。もしよろしければ、選考理由を聞かせて頂いても?」

彼女の言葉に、リボンズは頷いて答える。

「君はやはり、黒のイメージが強いが・・・だからこそ、別の色に身を包んだ姿を見たくなってね。君の普段の雰囲気を消し去り、見る者に全く新しい印象を刻みつけるような服はどれかと考えたら...これに手が伸びていた。」

手に持つそれを軽く持ち上げ、彼は続ける。

「いつもの君は大人びていて、美しいという言葉が似合うのだろう。しかしこの服は、君の新たな一面を見せてくれるのではないか・・・そう思って、これを選んだのだが...」

彼の無意識の褒め言葉に、ラウラの頬が紅く染まる。

「っ...成程。ご説明頂き、ありがとうございました。では、私の選んだ服ですが・・・」

そうして彼女が差し出した服を見た瞬間、彼は文字通り固まった。ラウラは彼の口から、声にならない悲鳴が聞こえた気がした。

「...これは、もしや・・・」

「はい、奇しくも同じ物です。どうやら、我々は全く同じものをお互い選んだらしく・・・」

彼はそれを聞いて頭を抱えたが、ふとある事が気になり、ラウラに問うた。

「・・・ちなみに、だが...君はこの服を、何を基準に選んだんだい?」

「そうですね...実の所、自分でもよく分かっていません。何となく、これに目を奪われた・・・と言いましょうか。」

「僕も同じさ。先程は小難しく言葉を並べたが、結局は『君に似合うと思ったから』、それが全てだ。これを纏った君は、きっと可愛らしくなるだろうと...」

そこまで話した二人は、堰を切ったように笑い始める。

「ふふふ・・・となると、我々は自分の直感を信じた結果、見事に被ってしまったと。もしかすると、ファッションセンスも似ているのかもしれませんね。」

「ハハ...全くだ。君の選んだ服を見た時は、『やってしまった』と思ったが・・・ポジティブに捉えると、これも僕らの互いへの理解のなせる業、と言えなくもないか。」

「それで良いではないですか。それにしても・・・本当に私に似合うのでしょうか、この服は」

「心配には及ばないさ。適当ならともかく、お互い悩み抜いた末での直感で選んだものがこれなんだ。きっと似合うと信じているよ。...失礼、試着室をお借りしたいのですが・・・」

通りがかった店員に試着室の場所を聞き、彼らは早速試着しに向かった。選んだ服がラウラに似合っていたかどうかは、わざわざ言うまでもないだろう。

 

 

その後、二人は軽い昼食を済ませ、もののついでに日用品の買い出しを行った。そして今は、丁度帰路につこうとしている。

「本日はありがとうございました、教官。」

「ああ。こちらこそ、急な誘いを受けてくれてありがとう。君が楽しめたのなら幸いだ。」

「ええ、とても。またこうして二人で出歩きたいものです。しかし・・・本当に良かったのですか?まさか、服の代金を支払って頂けるとは・・・」

「何、ああいう時は男性が支払いを受け持つのが粋と言うものさ。何も気にすることはない。」

「・・・では、次は私が教官の服を見繕いましょう。費用も私が支払います。」

「うん?選んでくれるのは勿論嬉しいが、君が支払う必要は...」

「いえ、私にお任せ下さい。でなければ、私の気が済まないのです。」

「・・・しかし、男性用の服を上下揃えるとなると、今回の代金よりも高くなる可能性もある。どうしても払うと言うのなら、半分は僕が受け持とう。そこだけは譲れないな。」

「む・・・承知致しました...ん、あれは・・・」

彼女は腑に落ちない顔をしていたが、何かを見つけたのか、近くの雑貨店のショーウィンドウに近寄った。

「色以外の装飾は、全て共通のティーカップ・・・?教官、これは何でしょうか?」

「ああ、ペアカップか。恋人たちや結婚を迎えるカップルたちが、お揃いで買うものさ。」

「結婚を迎える、カップルが...」

彼女はしばし展示されているカップを見つめ、リボンズの方に振り返った。

「唐突で申し訳ありません。少し、この店も見ていきたいのですが・・・」

「おや、興味があるのかい?ならばせっかくだ、二人用に買って帰ろう。支払いは・・・半分ずつで良いかな?」

「...!はい、是非とも!」

 

 

 

 

 

 

その日の夜、一夏が二人の部屋を訪ねて来た。

「こんばんはー、リボンズさん・・・ってあれ、今いねぇのか?」

「教官なら、先程私用で出ていかれたぞ。すぐに済むそうだし、ここで待っていると良い。」

「悪いな。じゃ、お言葉に甘えて・・・」

彼は椅子に腰掛け、ふぅと一息ついた。そこにラウラが、あらかじめいれてあった紅茶をカップに注ぎ、彼に差し出す。

「折角だ、飲め。今回は特に力を入れたからな、前回よりもいい味に仕上がっている筈だ。」

「お、サンキュ。じゃあ頂きます・・・ん、本当だ。前も美味かったけど、もっと良くなってるな。」

「ふふん、当然だ。伊達に練習を続けてきた訳ではないからな。」

二人が紅茶を嗜んでいると、一夏はふとある事に気が付いた。

「あれ、ラウラのティーカップ前と変わったな。新しいやつか? 」

「中々目ざといな。ああ、これは今日新調したものだ。」

「へえ...結構可愛い見た目してるのな。正直、ラウラがそういうのを選ぶなんて意外だよ。」

「そう思うか?フフ、私も自分自身に驚いているよ。」

ラウラは穏やかに微笑み、再びカップに口をつける。するとそこへ、リボンズが戻ってきた。

「おや、一夏じゃないか。今日も食欲が無いのかい?」

「おっ、おかえりリボンズさん!いやそうじゃなくてな、ちょっと一緒に飯食いたいなって思ってさ。」

「ああ...すまない、夕食はつい先程済ませてしまってね。タイミングさえ合えば、喜んで誘いを受けたのだが・・・」

「げっ、マジかぁ。ちょっとISのことについて、飯でも食べながら相談しようと思ってたんだけど...」

「そういうことなら、今から食堂に共に行って、シャルロット達と合流しよう。いい機会だし、彼女らも交えて意見交換会を行おうではないか。」

「あー、その手があったか!どうせなら、皆の意見も聞いといた方がいいよな。」

「『キャノンボール・ファスト』も近い事だし、丁度いいだろう。ラウラ、もし良ければ君もどうだい?」

「...いえ、今夜は遠慮させて頂きます。本日はかなり体力を使ったので・・・」

「そうか...では、少しの間行ってくるよ。鍵は持っていくから、先に就寝していても構わない。」

「ありがとうございます。では、お先に失礼します。」

「じゃあラウラ、また明日な!紅茶もご馳走さん、美味かったよ!」

そうして二人が去った後の部屋で、ラウラはすっと立ち上がり、自分のクローゼットを開けた。そこには今日二人で選んだワンピースが、堂々と真ん中にかかっていた。

(この服を着て・・・次は、教官と何をしようか。今日の様に買い物も良いし、街を二人で散策するのも悪くない。洒落た店で食事というのも魅力的だ・・・テーブルマナーを今一度覚え直さねば)

色々と想像を巡らせる彼女だったが、そこでハッと我に帰る。

(マズイな...以前は、あの方を支えられさえすれば、それ以上は望むまいと思っていたが・・・いざそれが達成されると、それで満足できなくなる。二人でやりたい事が、あれもこれもと次々と湧いて出てきてしまう...全く、人の欲とは恐ろしいものだ)

彼女は愛おしげにその服を見つめながら、静かにクローゼットの扉を閉じた。そしてゆったりと寝支度を整え、その体をベッドの上にぽすんと横たえる。

(本当に良い一日だった・・・彼女にも、改めて礼を言わんと、な・・・)

余韻を感じる暇もなく、彼女はそのまま静かに眠りに落ちた。その寝顔は、とても安らかなものだった。




という訳で、今回の最新話でした。いかがだったでしょうか。

今回新たに登場したフィン・ファングの試作型、つまりプロトタイプは、「ガンダムデルタカイ」の「プロト・フィン・ファンネル」がモチーフです。外見等に変わりはありません。
ただ、ビームの散弾が出るという設定は、本作では試作型のフィン・ファングにあった欠陥の産物として偶然発生した現象として取り扱います。言うなれば、V2の光の翼と扱いは同じです。

そして、少し前から少しづつ出している本作のオリキャラ「伊東 厳弥」の何やら暗い部分ですが、臨海学校で遭遇した敵性ガンダムの話をそれなりに進めてから、彼女の過去について触れる話を入れていきたいと思っています。ですのでよろしければ、皆様にはこのキャラにも今後目を向けて頂けると幸いです。

さて、次話ですが、次の次の話にちょっと重要な戦闘回が来ますので、その前座としてのかなり短めの話を近々お送りいたします。もしかしたら、1ヶ月もかからずに投稿できるかも・・・?もしかしたら超えるかもしれませんが、2ヶ月以内には必ず投稿するよう頑張ります。

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