救世主の贖罪   作:Yama@0083

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皆様、こんにちは。
宣言通り、なんとか一ヶ月程度で終わらせることができました・・・クロスブーストにリボンズの0ガンダムが実質参戦してテンションがぶち上がったおかげで、かなり筆が乗りました。運営さんありがとう!!


さて、今回は次の重要な戦闘回に力を注ぐため、少し短めの話となっております。それでもそれなりに内容は詰め込んだつもりですので、どうぞお楽しみください。


33. キャノンボール・ファスト 〜燻る火種〜

「皆さん、おはようございまーす。今日は開催日が近付いてきた『キャノンボール・ファスト』に向けて、高速機動実習を行いますね。」

山田先生の一声と共に、その日の授業は始まった。

 

 

「さて。以前説明した通り、この第六アリーナは高速機動の実習に適したものになっています。ですので今日はしっかりと練習して、高速機動に慣れていきましょうね。」

「「「「はいっ!!!」」」」

生徒たちの元気の良い返事を聞き、彼女は微笑みながら話を続ける。

「ではまず専用機持ちの皆さんに、実演をしてもらいたいのですが・・・オルコットさん、織斑君、前に出て下さい。」

彼女の呼びかけと同時に、指名された二人は皆の前へ歩み出た。

「お二人の機体には、それぞれ高速機動に適した装備や、チューンナップが施されています。まずは彼らのデモンストレーションを通して、それがどのような感じか見てみましょう。二人共、準備はいいですか?」

「ええ、お願いします。一夏さん、準備はよろしくて?」

「ちょっと待てよ、これで・・・よし、バッチシだ!」

一夏は高速戦闘用のバイザーを機動させ、威勢よく応える。

「準備が整ったみたいですね。それでは、よーい・・・スタート!」

彼女の掛け声と同時に、二人はギュン!と一気に飛び立ち、空へ繰り出した。勢いよく舞い上がる風と共に、二人の体はアリーナの上空に躍り出る。

 (こ、これは...すげぇな・・・)

見るものが目まぐるしく過ぎ去っていくその光景に、一夏は圧倒されていた。するとそこに、セシリアがいつもの調子で彼の横に並ぶ。

『一夏さん、大丈夫ですか?』

「セシリア!いや、正直これはちょっとキツイな...なんか、ずっと瞬時加速(イグニッション・ブースト)を吹かしてるみたいだ」

『初めはあまり余計な所に目を向けないように。慣れていない内は酔ってしまいますわ。』

「お、おう。サンキュ。」

『では、お先に失礼♪︎』

そう言うと彼女は更に加速し、一夏を突き放す。

「うおっ!?セシリア、速ぇ!?」

『うふふ、あまりぐずぐずしていると置いていきますわよ?』

「くっそぉ、負けねえぞっ!」

常時に比べて倍以上の速度で飛行している為、万一衝突事故でも起きたらただでは済まない。それを重々理解している二人は、両者ともに慎重に、しかし時には大胆に、己の機体を操作しドッグファイトを繰り広げた。

 

 

「はいっ、お疲れ様でした!オルコットさんも織斑くんも、素晴らしいお手本を見せてくれましたね!」

彼女が二人の健闘を讃えると同時に、千冬が前へ出て生徒たちに指示を出す。

「両者、ご苦労だった。それでは早速訓練に移る、訓練機組は割り振られたチームで集まり、専用機組は各々のペースで鍛錬に励め。ぼさっとするな、開始!」

彼女の鶴の一声で、生徒たちはアリーナ中に散らばった。

 (よし、そんじゃ俺も早速・・・)

一夏が自分の訓練を始めようとした時、千冬が彼を呼び止めた。

「待て織斑。お前の機体も追加のスラスターは装備しないのだったな?では訓練を行う前に、一度篠ノ之とエネルギー調整の相談をしてみろ。何か得るものもあるかもしれんぞ。」

「あー、それは確かに。じゃあ、行ってみます。」

彼女の助言を受け、彼は何やら難しい顔をしている箒のところに向かった。

「よぉ箒、調子はどうだ?」

「い、一夏!?私は上々だが・・・どうした、藪から棒に」

「いや、ちょっとお互いのISについてな。同じエネルギー分配に四苦八苦する奴ら同士、共有できることもあるんじゃないかって。」

「そうか!では丁度よかった...これを見てくれ」

箒はそう言って、彼に『紅椿』のデータを示したウィンドウを見せる。

「んー・・・こりゃつまり、高速機動に適した展開装甲を起動させていたら、エネルギーがおっつかない...ってことだよな?」

「ああ。単一仕様能力(ワンオフアビリティー)でシールドエネルギーが逐一供給される事を前提に作られているから、そのまま使うと燃費が悪くて敵わん。」

「一部の装甲だけ運用するってのは?例えば脚の装甲は閉じて、背中の部分だけ開放させるとか...」

「それも考えたが、どうもそれだけでは出力が足りない。逆に脚だけ運用するとなると、機体バランスが不安定になるかもしれん。」

「じゃあいっそ開き直って、全部閉じちまえば...勝てねぇよな、それじゃ。」

「そういう事だ。全くあの人は、どうしてこうも極端な・・・」

そう言って彼女はため息をついたが、少し思い直したように表情を改めた。

「...しかし、あの人が私にこれ程の機体を授けてくれたのも事実。今のこの状況も、私が『絢爛舞踏』を任意で発動できるようになっていれば、全て解決していたこと・・・ふ、私もまだまだ未熟者というわけだ。」

「俺もさ...亡国企業(ファントムタスク)の奴にボコられた時、言われたよ。『白式はお前に釣り合ってない』ってな。俺もそう思った・・・いや、今もまだ思ってる。」

「一夏・・・」

「でも、だからっていじけててもしょうがねえ。俺を鍛えてくれる皆や、俺の力になってくれる白式・・・その全てから受けた恩を、俺は裏切りたくない。だからせいぜい必死こいて腕上げて、コイツと釣り合うような操縦者になってやる。」

その勇ましい言葉に、箒はつられて笑顔を見せる。

「...フッ、熱いことを言ってくれる。そうだな、私もあの人に恩義を感じていない訳じゃない。色々と言いたいことはあるが、まずはそれに報いねば、な。」

「ああ。お互い頑張ろうな、箒!・・・あ、そういやリボンズさんのIS、背中に付いてる奴がお前の展開装甲に似てねぇか?もしかしたら、何か参考にできるかも...」

「確かに・・・あの装備も、用途に合わせて形態を変化させる物だったな。よし、今日の授業が終わったらまた話を聞いてみるか。一夏、お前も付き合ってくれるか?」

「おう、勿論だ!じゃ、また後でな!」

ああ、という箒の返事を聞き届けた彼は、一度彼女と別れ、良い練習場所を探し始めた。

 

 

(やっぱ、箒の機体もとんだじゃじゃ馬みたいだな。いや、エネルギーの消費先がある程度限られてる分、白式の方がまだマシか?負けてらんねぇぞ、俺・・・)

そんな事を考えながら歩いていると、次に彼はラウラとシャルロットに出会った。

「あっ、一夏!さっきはお疲れ様、すっごく良かったよ!」

「うむ、初めてにしては悪くない出来だ。その調子で励むことだな」

「おお...ありがとな、二人とも。」

彼女らからの賞賛の言葉に、一夏は照れくさそうに笑う。

「えーと・・・二人は確か、外付けのスラスターを増設させるんだったよな。今どんな感じなんだ?」

「僕は今ちょうど、それのセッティングが終わったところ。ラウラはまだちょっと...」

「私の増設スラスターは、篠ノ之博士が本番に向けて最終調整をして下さっているのでな。その関係で今回の授業には間に合わなかった。」

「あー、整備担当はあくまであの人だもんな。いくらラウラの機体でも、素体での高速機動は難しいのか。」

「ああ。いくらガンダムとは言え、第四世代機と比べると性能は一歩劣る。教官の機体の爆発的な加速性能も、あの追加装備があってこそのものだ。」

「やっぱそうなんだなあ。にしても、せっかくの実習の日なのに残念だったな・・・」

彼はそう言ったが、当のラウラは即座にそれを否定する。

「いや。実戦でどれほどの速度で動けるかは、既に何度かの運用試験で把握済みだ。それに本国にいた時に、高速機動は何度も経験しているしな。レースの勝敗はともかく、実際にそれを行うに当たっての不安はない。」

「おー...流石、軍属は経験が違うなぁ。あ、そうだ。ちょっとシャルの飛行を見せてもらってもいいか?さっきはセシリアに食らいつくのに必死だったから、経験者の動きがどんなのかを改めてちゃんと見てみたいんだ。」

「勿論いいよ。せっかくだし、僕の視界も共有しておくね。ラウラも一緒にどう?」

「断る理由はないな。チャンネルは...これか」

二人が自分の視点とリンクしたのを確認したシャルロットは、ISを展開し準備を完了させた。

「準備はOK?じゃあ一周まわってくるね。」

彼女はそう告げて、悠々とアリーナの中を飛び始める。

 (おお...これが上級者の飛び方か。セシリアも、こんな感じで見てたのか・・・)

勉強になるなぁ、と思いながらそれを見ていた彼だったが、ふとある事に気がついた。

 (あれ?結構所々で激しい動きをしてるのに、シャルの視点はそこまでぐらついてないな・・・あっ)

「なあラウラ。もしかしてこれ...」

「気付いたか。シャルロットはまだ不慣れなお前の為に、視点の移動を普段よりも少なくしている。これで滞りなく飛べているのは、どのタイミングでどの行動をすればいいかを完全に理解している証拠だな。」

それを聞いた彼は、シャルロットの人の良さと、そして何より彼女の技術の高さに改めて度肝を抜かす。

「す、すげえ・・・ラウラ、お前にもできるかこれ?」

「私か?やろうと思えば造作もないが・・・実際にはやらんだろうな。教官ならともかく、織斑教官にも師事を受けた私が、そんな優しいことをすると思うか?」

「あー、成程。そりゃ絶対にないな、はは」

そんな軽口を言い合いながらも、二人はシャルロットの実演を真剣に見つめていた。

そして、あっという間に一周まわってきた彼女は、何食わぬ顔で二人の下に降り立った。

「こんな感じかな。一夏、少しは参考になった?」

「ああ、めちゃくちゃ為になった!特に減速と再加速のタイミングが分かりやすくて、俺の動きにも取り入れられるなって!シャル、俺の負担にならないように目線の移動を減らしてただろ?あれのお陰で、お前の動きにより集中できたんだ。」

「あ、気付いてた?えへへ・・・どうせなら、一夏が少しでもヒントを見つけられたらなって思って。まあ、視点移動も大事なんだけどね。」

「その通りだ。だが、初めは比較的応用しやすい事を覚える方が、今のお前には良いだろう。それより...」

ラウラはプライベートチャンネルに切り替え、意地の悪い笑みを浮かべながらシャルロットに問いかけた。

『時折、お前の視線が一夏の方に向いていたのだが・・・何があったんだろうな?』

「えっ!?な、なんでもないよ、もうっ!」

「ん?シャル、何かあったのか?」

「あっ・・・もう、ラウラってばぁ!!」

 

 

 

 

 

時間はあっという間に流れ、とうとう大会を明日に迎えた。生徒たちがそれぞれ最後の訓練に励む中、リボンズはそれをアリーナの観客席から見つめていた。

 (今年から試験的に、一年生もキャノンボール・ファストに出場させることになったとは聞いていたが...なかなかどうして、悪くない仕上がりだ。流石はこの学園の生徒たちということか・・・)

彼が感心していると、そこに伊東姉妹が四女、華が現れる。

「Guten Tag. こんにちは、リボンズさん。」

「おや、君が一人とは珍しい。他の3人はいないのかい?」

「みんなは今、それぞれ用事があって。私は特になかったから、お友達の訓練の様子を見に来たんです。」

「そういえば、君たち姉妹は全員出場を見送るのだったね。とにかく君の友の訓練の応援か、良いことじゃないか。ちなみに、件の友人はあの中のどこに?」

「ええっと・・・あ、いました。(かんざし)ちゃん...あの子です。」

彼女がそう言って指さした先には、刀奈と同じ髪色をした、眼鏡をかけている大人しそうな生徒がいた。

「彼女は・・・確か、更識会長の妹か。君たちは仲が良いのかい?」

「はい。よく、色んな本を借りたりしてますね。私、結構雑食なので...マンガとか、ライトノベルとかをよく貸してくれます。」

「成程、それはいい友人を持ったね。それにしても彼女は・・・ここの生徒の中でも特に、真剣というか、鬼気迫る表情をしている。」

「簪ちゃんは、お姉さん...生徒会長に対して、コンプレックスがあるみたいで。多分、今回の大会でいい結果を残して、証明したいんじゃないかな・・・自分も、ここまでできるんだって。」

「ああ...確かに彼女は優秀だから、それに引け目を感じてしまうのも無理はない。しかし、それを克己心に昇華させ原動力としているのは、むしろ健全とも思えるが。」

「うん・・・そうだと、いいんですけど」

そうして二人はしばらくの間、世間話をしながら訓練を見学していた。すると華の端末が、いくつかの通知を受け震える。彼女はポケットからそれを取り出し、内容を確認した。

「あっ...みんな用が済んだみたい。それじゃあ、お先に失礼しますね?」

「ああ、立ち話に付き合ってくれて感謝するよ。」

アリーナから去っていく彼女を見送ったリボンズは、再びフィールドに目を向ける。

「彼女の妹、か・・・自身の専用機を持っていないというのは、意外だったな。」

その目線の先には、学園が所有する量産型IS「打鉄」に身を包み、訓練に打ち込む彼女の姿があった。

 

 

 

 

 

 

そして迎えた大会当日。会場には多くの観客が押し寄せ、人々の熱気が全体を包んでいる。そんな中、一夏たち一年生の専用機組は、ピットにて彼らの出番を待っていた。

「すげえなぁ・・・歓声がここまで聞こえてくるぞ。」

「前のトーナメント戦と同じで、それだけ注目されてるってことだね。みんなは緊張とかしてる?」

「まさか!候補生に選ばれた時点で、こういうのには慣れっこよ。逆に、一夏とか箒はあんま慣れてないんじゃないの?」

煽る様な鈴の口ぶりに、箒がむっとした表情で反論する。

「あまり舐めてくれるなよ。私は剣道の関係で、今までこの様な催しには何度も参加してきた。」

「あー、確かにそうだったわね。でも箒はともかく、一夏は途中でやめちゃったんでしょ?」

「まあな。でも、人の視線じゃもう緊張はしねぇよ。この程度、入学式の日に比べたらな・・・」

彼はその時のことを思い出し、遠い目をした。その時の光景を知っている初期メンも、思わず渋い顔をする。

「あたしはその時の事は知らないけど...想像はつくわ。」

「あ、そっか。僕もその時はまだいなかったから...どんな感じだったの?」

「シャルロットさんがいらした時の皆様の歓声が、そっくりそのまま好奇の視線に置きかえられたようなものですわ。」

彼女はセシリアの説明を受けて、サッと顔を青くした。

「うん・・・辛かったね、一夏...」

「いやあ、あん時はマジで全身鳥肌が立ったなぁ・・・ま、アレに比べたらこの位はどうってことないさ。」

彼がそう言うと、ラウラが一夏の方を見る。

「ほう。では一夏、要するにお前は、今日のコンディションは抜群ということだな?」

「おう、多分そうなるな」

それを聞いた彼女は、仰々しく手を振りかざし、全員を仰ぎ見る。

「それは僥倖だ。これで心置き無く、お前たち全員を実力で叩き伏せることができる。今日のこの大会、取らせてもらうぞ?」

彼女のその言葉は、皆の闘争心をかき立てるには十分だった。それぞれがまるでリングの上のプロレスラーのように、次々と互いに向けて宣戦布告をする。

「ふ〜〜〜ん、言ってくれるじゃない?いいわよ、あたしがボッコボコにしてやるんだから。」

「あら。敵がラウラさんだけと思っていては、後ろから刺されますわよ、鈴さん?」

「待て。この大会こそは、私が勝利を貰い受ける。あの人に力をもらっている以上、敗北を喫することは私が許せんからな。」

「ふふふ...次世代機の力にかまけてる様じゃ、僕のラファールに足元を掬われちゃうかもね。」

笑顔でバチバチと火花を散らす彼女らは、続いて一斉に一夏の方を見る。彼女らの表情からは、「そっちも早く啖呵を切れ」という意思がありありと伝わってきた。

 (あ、俺もやるんだなこれ・・・)

彼はそれには消極的だったが、とりあえず何か一言残すことにした。

「ええっと...ゴホン。お互い、いい試合にしようぜ!!」

敵意が一ミリも感じられない彼の言葉に、全員が盛大にズッコケた。

「あーもう...アンタほんと空気読みなさいよね!!」

「一夏、お前という奴は・・・威勢よく煽りの言葉の一つも言えんとは、それでも男か!?」

「まったく、逆に緊張感が足りていないのではないか?やはりお前は、織斑教官に稽古をつけてもらえ。」

「うわっ!?す、すまん!もう一回、もう一回やらせてくれぇ!!」

千冬の稽古と聞いて一気に顔が強ばった一夏を見て、シャルロットが苦笑いをして助け舟を出す。

「ま、まあまあ・・・一夏のお陰で、いい感じに肩の力が抜けたと思うよ。ほらっ、もうすぐ僕らの出番なんだから行かなきゃ。」

彼女の言葉を受けて、彼女らはしぶしぶといった感じで会場に向かって移動し始めた。そんな中、鈴が密かにセシリアに話しかける。

「で、結局アレは習得できた訳?偏向射撃(フレキシブル)だっけ。」

「いえ、残念ながらまだ...ですが今は、ひとまず目の前のことに集中しませんと。」

「ま、それもそうね。それにそんな小手先のことをしなくても、普通にバシッと当てればいいのよ、当てれば。」

「ふふっ、鈴さんらしいですわね・・・この勝負、譲りませんわ。」

「当然。あたしも全力で勝ちに行くわよ。」

そう言って笑い合った二人を含めた皆が、勝負の場に足を踏み入れた。

 

 【それではこれより、一年生の専用機組のレースを開催します。各競技者は所定の位置に―─】

 

 

 

 

一方リボンズは、警備室から警備員の制服を借りて、場内の見回りを行っていた。彼が廊下を巡回していると、試合会場の方からけたたましいアラーム音と共に、観客たちの沸き立つ声が響く。

「始まったか。本当は応援に行きたいところだが、気を抜く訳にはいかないな。さて...」

彼が気を取り直して見回りを再開したその矢先、曲がり角から歩いてきた女性にぶつかってしまった。

「あっ...!」

出会い頭の衝突に、絢爛な衣服に身を包んだその女性は転んでしまう。

「これは・・・!失礼致しました。お怪我はございませんか?」

「ええ...大丈夫よ、気にしないで。」

「こちらの不注意で...大変申し訳ありません。手をお貸しします。」

彼が己の右手を差し出すと、彼女は優雅にその手を取った。しかしその瞬間、彼は奇妙な感覚に襲われる。

 (...うん?彼女の手に、何か・・・気のせいか?)

その一瞬の疑心は、彼女が立ち上がって手を離してしまったことで、引っ込まざるをえなかった。

「ありがとう。フフ、こんな一介のイベント会場のいち警備員にしては、随分と礼節を弁えてるのね?」

「滅相もありません。今のこの時代、この程度は当然のことです。ところで、お席をお探しですか?もしよろしければ、ご案内させて頂きますが。」

「至れり尽くせりね。でも、私一人で大丈夫よ。」

「そうですか...では、お気をつけて。」

「ええ、あなたも」

そう言って二人は別れたが、彼はどうにも彼女への違和感を拭えないでいた。

 (あの女性の手...やはり、何かがおかしかった。確証はないが、先程感じたあの僅かな感触は、生身の物では・・・)

彼がその時のことを深く思い返している時だった。

 

ドォン!

 

突然、派手な爆発音と共に建物が揺れ、会場からは一転して人々の悲鳴が届く。その後、轟音と共に観客席のシャッターが閉まる音が響いた。

「これは!?まさか、会場の警備は厳重だった筈・・・」

彼が知る限りでは、先日の学園祭の一件を省みて、この会場でもより入念な検問が行われていた。 しかしここで彼はふと思い出す。この建物には、どうしても外敵からの侵入に弱い場所が存在すると。それは・・・

「そうか、侵入者は会場の上空から...しかしここ周辺の空も、ISの警備隊が張っていた。だが未だ侵入者の報せがないということは・・・もしや」

仮にその侵入者が警備隊を撃墜し、連絡が間に合わないほどの速さで会場に奇襲をかけて来たとしたら、この世界でそんな芸当が可能な存在を、彼は数える程しか知らない。

 

【非常事態発生。各警備員は、来客の避難誘導に当たって下さい。繰り返します。各警備員は―─】

 

「また彼ら(亡国企業)か、全く・・・!」

 

 

 

 

それは一夏たちが、間もなくレースの二周目に突入しようという時だった。突如として上空から何者かの攻撃が降り注ぎ、地上のあちこちで爆発が起きた。

「な、何だ!?一体何が・・・うおおッ!?」

一夏が意識を下に向けた瞬間、攻撃の主は彼に狙いを定め、レーザーを発射した。辛うじてそれを白式の「雪羅」のシールドで受け止めた彼だったが、その背筋には冷や汗が伝っていた。

 (この速度で動いてるISに、こんな正確に攻撃を当てれるもんなのか...!?)

それは続けて箒たちにも攻撃を浴びせたが、全員が間一髪でそれを回避した。突如として起こったその事態に、全員が一旦レースを中断し、周囲を警戒する。

「っ、今の攻撃は・・・!?」

「あっ...皆、上!!」

シャルロットの声に、皆が一斉に上空を見る。その襲撃者の姿を見たセシリアは、ギリッと歯を噛み締めた。

「サイレント・ゼフィルス・・・!」

皆から敵意を向けられた襲撃者の少女は、不気味に口元を歪ませた。

 

 

 

 

 

 

 (あら?この爆発音は・・・ああ、先客がいるのね。助かるわ、これなら余計な邪魔は入らない)

亡国企業の襲撃から間もない頃、遠くからその様子を眺める機体があった。

 (前の戦いから数ヶ月...あの時はあの二人(人形)に不覚を取ったけど、今回はそうはいかないわよ)

その機体は背部からオレンジ色の粒子を発し、悠然と空を飛ぶ。黒と赤の2色で占められているその姿は、刺々しい印象を見るものに与える。しかし一方で、肩や脚部に新たに増設されたのであろう追加装甲及びユニットは、まるで要塞のような重さをかもし出していた。

 (さて、今回は少しは張り合いがあるといいのだけれど・・・ねえ?リボンズ・アルマーク。)

その機体のパイロットは更に速度を上げ、ぐんぐんと会場に近づいていく。ガンダムフェイス(・・・・・・・・)の下の彼女の表情は、到着をいまかいまかと待ち侘びている様子だった。

 

 

「ガンダムエクシアイラプト、目標を駆逐する・・・なーんて、ね」




ということで、久しぶりの敵性ガンダムの登場でした。話数的にはそこまで離れていないんですが、間に開いた年月がね・・・
本作オリジナルの発展型である「ガンダムエクシアイラプト」に改装されて装いも新たに、次回本格的にリボンズとぶつかり合いますので、ご期待下さい。

また、詳しい機体説明は次回に行いますが、名前の意味だけは今回解説しておきます。
機体名の「イラプト」は、英語で「噴火」を意味する「erupt」を当てはめたものです。もしかしたら、これだけでどの機体をモチーフにしてるか分かるかも ?

次話はとりあえず、年内に出せればいいなと思っております。無論、バリバリの戦闘回のため遅れる可能性もありますが・・・なんとでもなるはずだ!
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