救世主の贖罪   作:Yama@0083

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お久しぶりでございます、皆様・・・また投稿に2年かかってしまった・・・

この一年、就活やら何やらでリアルがてんてこまいでしたが、なんとか投稿までこぎ着けることができました。お待ち頂いた皆様に、心から感謝致します。

それでは、大変長らくお待たせ致しました。どうぞ!


34. 強襲 〜蟲蝶の躍動〜

〈キャノンボール・ファスト〉のレースに割って入り、どこからかひらりと舞い降りた亡国機業(ファントムタスク)の少女を、一夏たちは注意深く見すえる。顔の上半分はバイザーで覆われており、その表情をうかがい知る事はできないが、その下でニタリと歪む口元からは、彼女の淀んだ悪意が感じられた。

 

「サイレント・ゼフィルス・・・!」

 

セシリアは敵意をむき出しにし、ググッと拳を握りしめ彼女を睨みつける。そして他の面々もまた、それぞれ訝しげな表情でその機体を見つめている。

 

「なんだ、あのIS・・・雰囲気は全然違うけど、なんかセシリアの機体みたいだ。」

「サイレント・ゼフィルス。ブルー・ティアーズの姉妹機だね。確か、まだ試験段階だった筈...まさか、あんなヤツに奪われていたなんて」

「となると、奴もBT兵器を持っているということか?厄介な・・・」

 

シャルロットの説明を聞き、一夏と箒は警戒心を強める。その一方で、セシリアは鬼神の如き様相で相手から目を離さない。

 

「セシリア、今は落ち着け。奴は我々一人一人が対峙しても、容易に勝てる相手ではない・・・分かるな?」

「・・・ええ、分かっていますとも」

 

ラウラの忠告に彼女はそう答えはするが、依然として強い怒りを相手に向けている。その危うげな様子に、ラウラは不安感を覚えた。

すると、そこへリボンズより通信が届く。それを確認した彼女は、少し安堵した様子でそれに応じた。

 

 

「教官! ご無事で何よりです。」

『僕は問題ないさ。それより、そちらの状況はどうなっているんだい?』

「亡国機業の構成員による襲撃です。こちらで確認できるのは、件の2号機のみ...ですが、別働隊が潜んでいる可能性もあるでしょう。外部と一時的に遮断されている以上、我々がひとまず対処に当たります。」

『成程、把握したよ。僕は来客たちの避難誘導に当たらなければならないが、完了次第すぐにそちらに向かおう。』

「ありがとうございます。では、ご武運を」

『ああ、君たちもね』

 

 

話を終えたラウラが改めて敵に向き直った頃には、既に戦闘は始まっていた。暇は与えぬとばかりに繰り出されるBT兵器の猛攻を回避しつつ、彼らはプライベート回線で作戦を共有する。

 

「申し訳ありません、私は後方での狙撃に専念しますわ! この人数での混戦となると、ティアーズでは皆さんを誤射してしまうかもしれません!」

「なら前衛は任せて! ラファールなら、中距離の撃ち合いで優位に立てる!」

「あたしも行くわ! 格闘戦はこっちの方が得意だし、多少は弾幕張れるし!」

「了解! 一夏、お前は奴ら二人の後ろにつけ! 好機があれば切り込んで構わん!」

「よし、分かった!」

 

一夏は勢いよく頷き、先行して敵へ向かった二人の後に続く。それを確認した箒もまた、突撃役として名乗りを上げた。

 

「私も切り込み役に回る! 紅椿の機動性ならば、奴を翻弄することも可能な筈だ!」

「よし、ではそちらも頼む! 私はセシリアの援護にあたるが、万一の時にはお前の機動性が頼りだ、良いな!」

「ああ、任せろ!」

 

少し遅れて前線へ赴く彼女を見送ったラウラは、後方にて狙いを定めているセシリアの横につく。

 

「案ずるな、降りかかる火の粉はこちらが払う。お前はいつもの様に、敵を仕留めることに集中しろ。」

「ラウラさん・・・ありがとうございます」

 

その頼もしい言葉に笑みを零しながら、セシリアはライフルをがちりと構え直した。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「敵は現在、現地の候補生達が対処しています! 落ち着いて行動して下さい!」

 

会場の入口周辺では、警備員たちが観客たちの避難誘導に追われていた。一刻も早くその場から離れようとする人々に、彼らは声を高くして皆に呼びかけ、パニックが起こらないように務めている。そして、そこにはリボンズの姿もあった。

 

 

(ラウラを初めとして、彼女たちは相応の実力を持っている。全滅はないと思うが・・・幾ら相手が一人といえ、襲撃者はテロ組織の実働部隊だ。楽観視はできない)

 

 

拭いきれない一抹の不安を抱えながらも、彼は今の自分の職務を全うすることに意識を向けた。するとチクリとした感覚が、前触れも無しに彼の頭を襲う。

 

 

(この...感覚。この邪気は!?)

 

 

緊迫した状況と不釣り合いな程快晴の空には、何者の姿も見えない。しかし、はるか遠くからその『何者か』が発する悪意に、彼は覚えがあった。

 

 

(...来たか、君までも!)

 

 

敏感にそれを感じ取った彼は、即座にこの場を取りまとめている責任者の下へ向かった。

 

「失礼します。会場内に生徒が取り残されていないかを今一度確認するため、ここは皆様にお任せしたいのですが」

「ああ、IS学園の人! はい、こっちの人員はもう足りてるし大丈夫ですよ。手伝ってくれて助かりました!」

「痛み入ります。それでは、こちらはよろしくお願いします。」

 

礼の言葉も早々に、彼は踵を返して会場の中へと駆け出していく。その顔には、いつかの難敵に対する焦りの色が見えていた。

 

 

(君だけは、彼らの戦いに介入させる訳にはいかない...急がなければ)

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

かの襲撃者は、平静を決め込むその顔の下で、静かに苛立ちを覚えていた。簡単に制圧できるだろうと高を括っていた者たちが、中々どうしてしぶとく彼女に抵抗しているからだ。

 

現在最前線を張っているのは、独自のカスタムが施されたラファール・リヴァイヴに搭乗するシャルロットである。

取り回しに優れた多くの武装を巧みに用いて、その間合いに相手を近づかせない。かと言って、それに乗じて遠距離攻撃を行おうとすると、格闘兵装とアサルトライフルを用いた絶え間のない攻撃に切り替え妨害をする。武装構成の相性も含め、相手にとってこの場で最も面倒な敵と言っても過言ではなかった。

 

「弾切れ、カバーお願い!」

「りょーかいっ、とぉッ!」

 

リロードの際に生まれる僅かな隙を埋める様に、今度は後ろについていた鈴が立ち塞がった。両手に持つ双剣で次々と斬り込んでくる彼女に、相手は鬱陶しさを感じつつ対処する。

 

 

(単純そうな顔をしているが、戦闘においてはそれなりに考えが及ぶようだな。受け流すことは容易いが、こちらから仕掛けることは難しい...か)

 

 

すると、装填を終えたシャルロットが鈴の背後から飛び出し、ライフルを放ちながら盾を構えて突撃する。そして炸裂と共にシールドがパージされると、そこから彼女の決戦兵器が鈍く光り、その姿を現した。

 

 

(パイルバンカー(シールド・ピアース)...! ここで決めに来るか!!)

 

 

ニィ、と愉しそうに歯を覗かせた相手は、急速にスラスターを吹かし、競り合っていた鈴をパワーで弾き飛ばす。次いですぐ側にまで迫っていたシャルロットに対し、躊躇なく得物のライフルを叩きつけた。

 

「くうっ...!」

 

パイルバンカーが貫いたライフルは爆発し、相手の姿を彼女の目から隠す。そしてその一瞬を突かれ、レーザーナイフで杭部分を切り落とされてしまった。

 

「うっそ、あんなぶっといの斬れるもんなの!? なら最初から使ってきなさい、よっ!」

 

その凶刃がシャルロットに向けられる前に、体勢を立て直した鈴が再び相手に噛み付く。彼女は両肩に搭載された衝撃砲を次々と発射し、まとめて当たれば容易くシールドエネルギーを消し飛ばせる程の弾幕を生み出した。

 

 

(あの肩の砲門、衝撃砲。それにこの感じる圧は・・・散弾か)

 

 

小さく舌打ちをした相手は、シャルロットをビットで追撃しつつ、ひとまずその空間から身を退ける。逃がすまじと鈴は砲撃を続けるが、弾の隙間を縫うように相手はそれを回避し、時には搭載されている2基のシールドビットも用いて、被弾を完璧に防いでみせた。

 

「あーもう、その機動力でそれ(シールドビット)は反則よ! イギリスも、こんな面倒なモノ作ってくれちゃってえ!!」

「ならば、こちらも速度で押し通る! 行くぞ、一夏!」

 

鈴とシャルロットの援護と共に、二手に分かれて突撃を仕掛けてきた二人・・・天災の妹(篠ノ之 箒)世界最強の弟(織斑 一夏)は、その肩書きとは裏腹に、他の四人よりも技量が劣っていると、相手は如実に感じていた。

 

「フ...ISの時代を作り上げた張本人と、ISで世界最強へと成った者。その身内ともあろう貴様らが、なんとも不甲斐ないことだな」

 

ここで彼女は初めて口を開き、その声を響かせる。その嘲りの言葉に二人は表情を歪めるが、現実に彼らの攻撃は、彼女に完全にいなされていた。

 

「やはり私たちでは届かん、か。ならば追い立てる(・・・・・)ぞ、一夏!」

「おう!」

 

二人は共に頷き、その攻勢をより強める。箒は更に機体を加速させ、一夏は手に持つ雪片弍型を輝かせ、切り札(零落白夜)を発動させる。

 

 

(あれは...零落白夜か。今の状況でもう切り札を使うとは・・・先のフランスの候補生といい、何を考えている?)

 

 

そう思考しながらも、まともに喰らうと危険だと認識した相手は、万が一を排除するために彼の攻撃を捌く。しかし、それでも一夏と箒は怯まず、ひたすらに彼女を追い立てる。そうしている内に、やがて3人はステージの中央付近へと引き寄せられて行った。

 

「くそっ...マズい、エネルギーが!」

 

シールドエネルギーを度外視して攻めに攻めていた一夏が、そこで苦しげに零落白夜を解除した。それを確認した相手は、嬉々として邪悪な笑みを浮かべる。

 

「ハッ、必殺にかまけて無駄に振り回すからそうなる! やはり貴様は──!」

 

シャルロットの最大火力(シールド・ピアース)は潰し、最大の懸念事項であった零落白夜も底を尽きた。あとに残るのは、全て対処が容易な一般兵装の範疇に過ぎない。そう考えた彼女は、すぐさま一夏を仕留めにかかった。

 

 

 

 

 

「......今です!」

「ああ!」

 

 

 

 

瞬間、彼女を強烈な悪寒が襲う。その感覚のままに彼女が身をそらすと、GN粒子の膜を纏った砲弾が、目の前の空気を切り裂いていった。

 

 

(砲撃...狙撃か?・・・いや、まだ(1号機)が!?)

 

 

それが本命ではないと直感した彼女は、一拍遅れてシールドビットを展開する。そしてその予想通り、二の矢で放たれたレーザーがビットを破壊し、彼女の肩を削っていった。

 

「嘘だろ、アレを防ぐのかよ!?」

「なんという奴だ、全く...!」

 

 

(成程。奴らが大技を惜しみなく使っていたのは、この為だったか。私の意識を奴ら(狙撃手)から逸らさせるための・・・)

 

 

減っていくシールドエネルギーを確認し、彼女は口角を下げる。戦闘続行は依然として可能だが、所詮一介の学生たちに不意を突かれたという事実が、彼女には不快であった。

 

 

(スコールからの指令は未だない・・・増援が来るその前に、奴らを潰さねば。その為にも──)

 

 

彼女は手に再びナイフを展開し、かちりと構える。そして、背部に搭載されている蝶の羽の如き巨大なスラスターユニットを、一斉に後ろに向けた。

 

 

(この脆弱な壁は、ここで突いて崩す!)

 

 

 

────瞬時加速(イグニッション・ブースト)

 

 

 

刹那。

 

相手はシャルロットの懐に潜り込み、圧倒的な速度のままにナイフで切り込んだ。彼女は咄嗟に近接用ブレードを展開し受け止めるが、その激しい勢いには抵抗できず、皆から離れた場所へ連れ去られてしまった。

 

「シャル!?」

「はっやあ!?」

 

相手の殺人的な加速に耐えながら、シャルロットはサイレント・ゼフィルスの凄まじい加速性能に驚嘆していた。

 

 

(なんてスピード...! 瞬発力だけなら、箒の第4世代機にも負けてない!)

 

 

「こ...のっ!」

 

押されながらも、彼女は片手にショットガンを展開し、がむしゃらに放つことで相手を退ける。しかし、相手の離脱と同時に全てのビットが射出され、彼女を取り囲んだ。

 

「セシリア以上の物量・・・でも!」

 

サイレント・ゼフィルスが誇る、ブルー・ティアーズを超える数のビットより放たれる集中攻撃を、彼女は全力で体を捻らせ、なんとか全弾の直撃は回避してみせた。

だが、必殺のつもりで放ったのであろう攻撃が不発に終わってもなお、相手に動揺は見られない。それに違和感を覚えた後方のセシリアは、直後に一つの結論に至った。

 

「ハッ...いけません、シャルロットさん!!」

 

セシリアは咄嗟に叫んだが、最早間に合わない。彼女が回避したと思われたその攻撃は、ぐにゃりと軌道を変え、再び牙を剥き襲い来る。

 

 

(『偏向射撃(フレキシブル)』!? まさか、そんな...!?)

 

 

予想だにしなかった出来事に対し、彼女は最早目を瞑る事しかできなかった。

しかし、直後に来た物理的な(・・・・)衝撃と妙な浮遊感に、彼女は思わず目を開く。

 

 

その瞳に映ったのは、シャルロットがいた位置と入れ替わる様に現れた鈴が、少しづつ遠ざかっていく光景だった。

 

 

「あ・・・鈴っ!?」

 

 

ようやく彼女の頭が状況を理解し、必死にその名を叫ぶ。しかしそれも虚しく、鈴が四方八方から光線に貫かれる光景が、彼女の眼に焼き付いた。

 

「くうぅ・・・偏向射撃(フレキシブル)って、こんな気持ち悪いくらい曲がるもんなの!? こんなの習得してるって、絶対性格悪いでしょアンタぁ!!」

 

甲龍(シェンロン)の全身から火花が散り、満身創痍となった彼女は、苦し紛れに得物を全力で投げつける。だがあっさりと相手に避けられたそれは、虚しく地表へと落ちていくだけだった。

 

「ごめん、あたしはここまでね...絶対アイツをメッタメタにしなさいよ、皆!」

 

声色に悔しさを滲ませながら、彼女はそう言い残して上空から撤退していく。当然、それを逃すまいと相手は鈴に目を向けたが、シャルロットがアサルトカノンを放ち、それを牽制する。

 

「まんまとしてやられたね・・・けど託された以上、もう好きにはさせない! 合わせるよ、二人とも!」

 

彼女は両手に武器を展開し、一夏・箒と共に再び相手に向き合った。

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

前線から少し離れたラウラたちも、鈴があえなく離脱したその顛末を確認していた。

 

「鈴がやられたか...クソッ」

 

 

(こうなると、前線で奴を抑えきれるのはシャルロットしかいなくなる・・・私が、出るべきだ。しかし...)

 

 

本来なら、すぐさまラウラも前線に加わるべきだろう。しかし、彼女が側についているセシリアの存在が、それを躊躇わせていた。

彼女が後方で一人になってしまうと、狙われた時のリカバリーが非常に難しくなる。そんな状況の中、自分も前へ出てしまっていいものか。だが、鈴を欠いた今の状況で、シャルロットたちがいつまで保つか・・・そんな考えが、フル回転するラウラの頭の中で堂々巡りをしていた。

 

「...ラウラさん、どうぞ行って下さいな。今の状況が続いては、シャルロットさんでも場をもたせられません」

 

その葛藤を察してか、セシリアが自ら彼女に声をかける。それに対しラウラは目を見開き、わずかに弱った様な声色で応える。

 

「セシリア。しかし・・・」

「私への心配は無用です。あの者と相対することはできなくとも...逃げおおせることはできますわ。いざとなったら、野兎の様に跳ねてみせますとも。」

 

一見気丈に振舞っている彼女だったが、その手が微かに震えていることを、ラウラは見逃さなかった。しかし、恐怖をおくびにも出さない様子から、彼女はセシリアの覚悟を理解した。

 

「...フ、そうだな。その時には、奴の面を後ろ足で蹴り飛ばしてやるといい。きっとよく跳ねる筈だ」

「うふふ...ええ、きっと。さあ、早く」

 

彼女に背中を押される形で、ラウラは前線へとその身を急がせた。生娘の様に手を震わせながらもそう言ってのけたセシリアに報いるため、彼女は改めて決意を固める。

 

 

(すまない、セシリア・・・お前には危険な橋を渡らせてしまう。だが決めたからには、我々はここで奴を沈める。必ず、必ずだ!)

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

啖呵を切った三人は、シャルロットを中心にして敵に近接戦闘を仕掛けていた。相手は後退しながらビットを次々に放つが、それぞれに攻撃が分散してしまい、中々決定打とすることができないでいた。

 

 

(やはり彼奴の機体は、こちらの武装構成と相性が悪い...実に厄介だ。先の一撃で仕留めておきたかったが・・・)

 

 

彼女が三人の連携に手を焼いている所に、一夏が再び仕掛けた。

 

「だああああッ!!」

「! いくら機体の格闘性能が良くとも、パイロットが貴様ではな!」

 

渾身の不意打ちを呆気なく対処された彼は、苦しげに叫ぶ。

 

「クソッ、やっぱ反応が速ぇ!?」

「それでいい!そのまま抑えていろ、一夏!」

 

拮抗した両者の元に、後方から駆けつけたラウラが箒と共に、彼の者を仕留めんとビーム・サーベルを展開し突撃する。それと同時にシャルロットも、どこにも逃がすまいと銃器を構えた。

 

 

(囲まれたか。ナイフは(織斑 一夏)で塞がっている今、残るは自爆覚悟のビット攻撃・・・いや、ここは)

 

 

しかし、彼らの研ぎ澄まされた戦意は、相手の次の一手によって瓦解することとなる。

 

 

 

「...はあ!?」

「何!?」

「嘘...!?」

 

 

 

彼女はバイザー以外の装甲を突如解除し、ひらりとその身を重力に任せた。

為す術もなく地上へと落ちていく敵の姿に、全員がぎょっとして動きを鈍らせる。

 

 

 

「・・・フフ」

 

落下しながら、彼女は再びISをその身に纏う。ぐにゃりと口角を上げてほくそ笑み、上空で密集している一夏たちに向け、展開したビットよりレーザーを斉射した。

 

「これしきのことで...っ!」

 

ラウラは咄嗟にGNフィールドを起動し、己の身を守った。一方で彼女ほど防護範囲が広い盾を持ち合わせていないその他の面々は、あえなくダメージを負ってしまう。

 

「クソッ!! アイツ、マジかよ!?」

「敵の目の前でISを解除するなど...正気か!?」

「あ・・・ダメだ、セシリアが!!」

 

彼らに痛手を負わせた彼女は止まらず、そのままセシリアに接近する。今までは集団戦に持ち込み、狙撃手が正確に狙いを定めることを妨げていた。だが前線が乱れた今、孤立している彼女を瞬時に始末することなど、相手にとっては造作もないことだった。

 

「不味いっ...箒!!」

「分かっているッ!!」

 

少し遅れ、箒がセシリアのカバーに向かう。しかし紅椿の機動性をもってしても、最早間に合わない所にまで相手は迫っていた。

 

 

※※※※※※※※

 

 

(撃てなかった...撃てなかった!! せっかく、皆さんが作り出した大きな隙を...! アレは祖国の機体を奪った、野蛮なテロリスト! 同情の余地もない、その筈でしたのに・・・!)

 

 

敵の姿がぐんぐんと大きくなっていくその光景に、セシリアは緊迫感で視界がくらむのを感じた。しかし、湧き上がる恐怖心を無理矢理に押し込め、その姿を決して目から離さない。

 

 

(このまま何も貢献できずに墜とされる訳には・・・祖国に、そして皆さんに、面目が立ちません!!)

 

 

「っ...ティアーズッッ!!」

 

敵が目と鼻の先にまで近づいたその時、彼女はビットを展開し、地面に向けミサイルを放った。周囲に爆煙が立ち込め相手は煩わしそうにするも、すぐにある異変に気付く。

 

 

(奴の反応が、消えた? 馬鹿な、あの機体にセンサーを欺く機能などある筈が...)

 

 

彼女は少し思考した後、先程自分がやってのけた芸当を思い出し、心底不愉快そうに鼻を鳴らした。

 

 

(フン...大したタマだ。ご令嬢がよくやる)

 

 

それと同時に、煙の中から生身の状態のセシリアが転がり出る。彼女の無事を確認した箒は、すぐさま彼女の身柄を回収した。

 

「セシリア! まさか・・・やったのか、奴と同じことを!?」

「ええ...あの者にできて、私にできない道理はありませんもの」

「なんと無謀な・・・だが、よくやったぞ!」

 

そのまま皆と合流した箒は、腕に抱えたセシリアを地面に降ろす。そこで彼女は再びISを展開し、無事戦線へと復帰した。

 

「大丈夫か、セシリア!? 悪い、俺たちがミスっちまったから・・・」

「いいえ、ご心配おかけ致しました。...もう、問題ありません」

 

彼女はそう言ったが、内心は穏やかなものではなかった。先程感じた恐怖は勿論のこと、自分のミスで全員を危険に晒してしまったことに、彼女は独り悔いていた。

 

 

(私が、平静を失い・・・『偏向射撃(フレキシブル)』について伝えることを失念していたばかりに、お二人を危険に晒してしまうなんて。それどころか、敵を撃ち抜く絶好のチャンスまで逃して...!!)

 

 

自責の念と憤りが、先程の恐怖と相まって、彼女の体を震わせる。どうすれば、あの難敵を倒すことができるのだろう。どうすれば、あんな邪悪に笑い、底冷えのする声を発する者を? どうすれば、どうすれば─────

 

 

 

 

と、そこで。彼女は戦闘中の記憶を辿り、ある事に気が付いた。

 

 

(...そう、いえば。あの敵は、一夏さんに対してはやけに口数が多い・・・何故でしょう? 唯一の男性操縦者だから? それとも、織斑先生(世界最強)の弟だから? いえ、理由は分かりませんが、もしこの認識が正しければ・・・!)

 

 

あの敵は、一夏に対して執着心を持っている。

かつて、自分が彼に突っかかっていた様に。

セシリアは、そう結論付けた。

 

 

(なら・・・この方法なら、もしかして!)

 

 

もう猶予はない。全員が無事合流したことに相手が警戒しているその内に、彼女はプライベート・チャンネルを通じて皆へ呼びかけた。

 

 

 

「皆さん、作戦がありますの! 一か八か、もう一度あの敵の隙を作ることができるものが!」

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

 

「会長。ただ今をもって、来賓が全員避難を完了した模様です。」

「そう...よかった。うちの生徒はどう?」

「そちらももうじき完了します。リボンズさん含めた、警備員や教員の方々の誘導が功を奏しましたね。」

 

虚の報告を聞き、刀奈はひとまずホッと胸をなで下ろした。

 

「ありがたい限りだわ。じゃあそろそろ、私もあの子たちの加勢に...」

「それは困るわね。貴方にまで介入されると、流石のあの子も厳しくなるもの」

 

突如として一つの声が、彼女の言葉を遮った。刀奈は驚き、その第三者に振り返る。

 

「こんにちは。ご機嫌いかがかしら、生徒会長さん?」

「・・・貴女は」

 

そこに立っていたのは、先刻会場内でリボンズが出会った女。

『スコール』。それが亡国機業の、彼女のコードネームであった。

 

「・・・そう、そういうこと。改めまして、初めてお目にかかるわね、亡国機業」

「ええ、初めまして。先日はウチの二人がお世話になったみたいね。」

「それはもう、元気にはしゃいでくれたわ。彼女の調子はどう?オイタした怪我が残ってなければいいのだけど。」

「あの程度の傷、どうとでもなるもの。お腹にはまだ少しアザが残っているけれど・・・敵を五体満足で返すだなんて、貴女の学び舎は随分とご教育がよろしいみたいじゃない?」

 

嫌味を込めた刀奈の言葉にも、女は表情一つ変えることなく、飄々と対応してみせた。その様子に彼女は、目の前の女に対する認識を引き上げる。

 

「あらあら、お褒めに預かり光栄ですわ。もし宜しければ、そちらのお嬢様を私の学園に入学させてはいかが?どんなやんちゃで手の付けようのない子でも、立派な淑女に育て上げてみせるわよ。」

「そうねえ・・・せっかくだけれど、辞退させて頂くわ。色々とトラブル続きみたいで、怖いんだもの」

 

困ったように目尻を下げる女に、誰のせいだと、と毒づきたくなる衝動を必死に抑え、彼女は扇子を持つ力をぐぐっと強めた。

 

「...それは、私たちの不徳と致す所よ。それで?貴女たちの目的は何なのかしら。」

「なんだなんだと聞かれれば、って奴かしら?ごめんなさい、私たち(亡国機業)はフィクションほどお人好しじゃないのよ。」

 

そう言い放ち、女は金色に輝くISの腕部を部分展開させる。その絢爛かつ禍々しい姿に、刀奈は人知れず冷や汗を流した。

 

 

 

 

※※※※※※※※

 

 

 

「ハアッ!!」

 

勇ましい掛け声と共に、箒が真正面から二つの刀で斬りかかる。高い機動性と純粋な武器の数の差に、相手は防戦一方ではあるが、それでも苦しい様子は見られない。

 

「たった一振りのナイフでよくも...! しかし、捕らえたぞ!」

 

二人が斬り結ぶ中、2基の展開装甲が紅椿から分離し、相手の背後から迫る。それらはGNファングの如くエネルギー状の刃を纏い、単体でも痛手になりうるものだった。

 

 

(ほう、自ら突撃するBT兵器か。だが、そう図体が巨大では!)

 

 

後ろの脅威を確認した彼女は、箒にわざと押し負ける形で後ろへ飛び、自らを狙う展開装甲へ手を伸ばした。そして1つをむんずと掴むと、自身の機体の加速性能を利用して、展開装甲の制御を無理矢理(・・・・)奪い、逆に箒へそれを叩き付けた。

 

「な...ッ!?」

「箒っ!? んの野郎!!」

 

激昂した様子の一夏が、次いで彼女に攻撃を加えた。しかし、前回にも増して単純な太刀筋だったそれを、彼女は難なく受け止める。

 

「ハ! 生憎だが届かんよ、貴様のそれでは!」

「ああ、そうかよ...だったら、コイツはどうだ!?」

 

その言葉と共に、彼は突如『雪羅』を荷電粒子砲に変形させ、容赦なく相手の顔面目掛けて放つ。予想だにしなかった彼の更なる隠し玉に、彼女は反応が遅れてしまった。

 

 

(白式に、射撃武装だと!? 馬鹿な、そんな情報は...)

 

 

視界を突然覆い尽くした光に、彼女は反射的に目をつぶってしまう。そして、鈍い衝撃が彼女の頭部を襲った───

 

 

 

が、数刻して彼女は再び目を開ける。バイザーに隠れたその目は、困惑の色で染まっていた。

 

 

「・・・こ、れは・・・?」

「ははっ...なんつってな。コイツは、そこまで威力が無いんだ。あれ、もしかして・・・ビビっちまったか? お前が、俺みたいな雑魚に負けるって?」

 

そう言って煽る彼の表情は、誰がどう見ても無理をして作っているものだった。だが、本人にとっての絶好のチャンスを、わざとこんな形で無駄にされたというその事実が、彼女のプライドを強く踏みにじった。

 

「き、さまァッ・・・!!!」

 

とうとう怒りの感情を露わにした彼女は、一夏を力に任せて吹き飛ばし、会場の壁に叩きつける。対する彼は苦しそうにしながらも、気丈に口元を上に吊り上げた。

 

「ぐ......実は、さ。アンタのこと、少し千冬姉みたいだって思ってたんだよ。戦闘の時の、あの底知れない感じが・・・でも、勘違いだったみたいだ」

 

「千冬姉なら、今のアンタみたいにブチ切れたりしねえ!! きっと俺が煽る間もなく、一刀両断してそれで終わりだ! でも、アンタはそうじゃなかった・・・だったら、もう何も怖くねえ」

 

「───ッ!!」

 

激情のまま、彼女は歯を噛み締める。そして一夏の体を片手で持ち上げると、その周囲にビットを展開し出力を上げ始めた。

 

「いいだろう・・・最早塵の一つすら残してやるものか」

 

彼を取り囲むビットが、眩い光を発し始める。そんな絶望的な状況の中でも、彼は冷や汗を流してはいたが、その目に諦めの色は無かった。

 

「消えろ、織斑 一夏ッ!!!」

 

 

 

 

 

彼女のどす黒い怒りが、光となってぶつけられる寸前。遠方からセシリアが放った一筋のレーザーが、展開されたビットを貫いた。

 

 

 

 

「何っ......!?」

 

一夏を確実に仕留めるべく、ありったけの殺意とエネルギーが込められていたそれは、彼らの頭上で大爆発を起こす。それにより生まれたあまりにも大きな隙を、彼が見逃す筈がなかった。

 

「い、まぁぁぁぁっ!!!」

 

一夏は彼女の拘束を振りほどき、ここぞとばかりに再び零落白夜を起動する。そして、がら空きの彼女の胴体をザン、と大きく斬り払った。

 

「ガあっ・・・く、ううッ!!」

 

彼女は残ったビットから、がむしゃらにレーザーを放ちつつ彼から離れようとする。最早その動きには、先程までの精錬さは存在しなかった。

 

「逃がさねえッ!!」

 

一夏は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を吹かし、後方へ退避する彼女にグンと追いついた。力強く、これでとどめと言わんばかりに雪片弍型を振り上げる。

 

 

 

「うおおおおおおッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

その一撃が、彼女を喰らわんとしたその時。

 

 

 

 

突如。

 

 

 

 

オレンジ色のビームが、隕石の如く彼に降り注いだ。

 

 

 

 

 

「は・・・・一夏ぁっ!?」

「そんな...今度は何!?」

 

 

皆が一斉に、無数の光が堕ちる空を仰ぎ見た。すると、雲の合間より濃いオレンジの粒子が、まるで黄昏の夕陽の様に顔を覗かせる。やがてそれが霧散していくと、同時に一つの影が姿を現した。

 

「奴は...!!」

「嘘・・・こんな時に」

「ラウラさん、アレは...!」

 

次はラウラが、少なからず因縁のある相手を前に、顔をしかめる番となった。

 

 

 

 

「ガン、ダム・・・ッ!」

 




というわけで、最新話でございました。今回は、原作組の活躍がメインとなっていましたね。次回、本格的にガンダム同士の対決となりますので、どうぞお楽しみに!

今回も2話連続投稿をしようと考えていたのですが、あと1話の完成がまだ少し時間を必要とするため、一足先にこちらを投稿させて頂きました。次の話も、1週間を目安に投稿したいですね・・・
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