落第騎士の英雄譚 ~無銘の騎士~   作:カイダー

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お久しぶりです。

次の投稿は3月と言ったな、あれは嘘だ。

とりあえず一段落ついたんでゆるゆる再開していきます。

というわけで第八話です。

拙い文ですが、どうぞよろしく!


原作3巻(アニメ9~12話)
第8話 『深海の魔女』vs『雷切』


 

 

――――――破軍学園 選抜戦試合会場 控室――――――

 

 

―――黒鉄珠雫は試合に臨む時、いつも思い出す。

幼いころの自分を。

最愛の兄に出会い、その人間性に触れた記憶。

自分が兄を愛するきっかけになった記憶を。

 

(あの時、お兄様は・・・お兄様()()は、私を叱ってくれた)

 

――――――

 

私は、幼いころから伐刀者としての才覚を示していた。

周りの人間は、そんな私の『力』の前に、正しさを曲げ、間違いを許すモノばかり。

強い者の前に頭を垂れ、心にもない謝意や誠意を口に出すのみ。

 

(私は人間が嫌いだ)

 

自分も、その嫌いな人間だという事実にまた、苛立ちがこみ上げる。

その苛立ちを、自分より弱い者へぶつけた。

大嫌いな人間の泣き声を聞くことで少しだけ気分が晴れたから。

 

―――しかし、それを許さないモノがいた。

―――黒鉄珠雫の兄、黒鉄一輝。

彼は、他所の子供をいじめていた私の頬をたたいた。

 

『よわいものいじめをしちゃ、だめだ』

 

―――その言葉に、叩かれた頬の熱さに、私は思わず涙を流した。

私が泣いたのを見て、周りの大人たちは一輝を怒鳴りつけた。

早く謝れ、と。

しかし一輝は謝らなかった。当然だ。彼には謝る理由なんてなかったのだから。

謝らない一輝を見て、大人たちは一輝を殴りつけた。

それでも一輝は謝らなかった。

 

(そんな人は初めてだった)

 

間違いを間違いだと自分に言ってくれる人。

 

(本当はずっと待ち望んでいた)

 

どんなに厳しくても、甘やかしてくれなくても、人間として尊敬できる――そんな人を。

 

 

(だけど私は知らなかった)

 

彼を取り巻く環境の苛烈さを。彼の孤独を。

 

――――――

 

(・・・私は、強くならなくちゃいけない)

 

愛する兄を、もう二度と、独りにしないために。

愛する兄と並び立つために。

 

(そのためにこれまで努力してきた)

 

今日の相手は、学園最強。

おそらく、自分よりも格上だろう。

 

―――だからこそ『試す』

 

自分の想いを。

自分がどれだけ兄を愛せていたのかを。

 

(この戦いで、黒鉄珠雫(わたし)の限界を試してやる―――ッ!)

 

 

――――――破軍学園選抜戦試合会場――――――

 

 

『それでは本日最も注目されているカード!

一年『深海の魔女(ローレライ)』黒鉄珠雫選手と、三年『雷切』東堂刀華選手の試合を始めます!

―――LET'S GO AHEAD!』

 

戦いの火蓋が、切られた―――

 

 

 

 

――――――

 

―――珠雫嬢と東堂刀華の試合が始まった。

始めは両者ともに動かなかったが、東堂刀華から仕掛け、珠雫嬢がリング全体を氷らせ、『水牢弾』を放つ。

 

並の相手ならば、そこで決着がついていただろう。

しかし相手は学園最強。

そして、昨年度七星剣武祭ベスト4でもある怪物。

 

珠雫嬢の攻撃を回避し、遠距離から雷によるカウンターを放ってきた。

 

だがそれを想定していない珠雫嬢ではない。

すぐに『障破水蓮』でガードする。

 

しかし東堂刀華の攻撃はやまない。

しかも一撃が重く、珠雫嬢はガードを外せない。

防戦一方かと思われた、次の瞬間、

 

珠雫嬢は東堂刀華の足下を凍らせ動きを止め、巨大な氷塊を東堂刀華めがけて叩きつけた。

 

一瞬の静寂。

 

大多数が生徒会長の敗北を予感した。

しかし、リングに突き刺さった氷塊は左右に裂け、その中心には、『無傷』の東堂刀華が立っていた―――。

 

――――――

 

『・・・・・・す、すばらしいいいいいいいい!!!!

なんとハイレベルな攻防!

私、実況でありながら、何一つ言葉を発せませんでした!!』

 

その実況の声とともに会場がざわめく。

会場の人間の大多数が、先ほどの『深海の魔女』と『雷切』の攻防に目を奪われていたのだ。

息も忘れるほどの緊張感から解き放たれた観客は、次々に驚きの声を上げる。

 

「すごい・・・!すごいよ珠雫ちゃん!生徒会長とほぼ互角じゃん!このまま行けば、本当に勝てるかも・・・・・・」

 

創の隣にいる加々美の声が弾む。

格上の相手に互角に戦っている友人を見て、喜んでいるようだ。

しかし隣の創は、

 

「・・・互角、ねぇ」

 

と、険しそうな表情でリングを見つめていた。

 

「・・・?どうかしたの、創先輩?」

 

「・・・加々美。お前はこの戦いが互角に見えるか?」

 

「え、だって二人とも無傷だし・・・あれだけすごい攻防もしてたんだから、互角なんじゃないの?」

 

「ああ、確かにあの攻防は互角だった。・・・文句のつけようがないほどにな」

 

「なら!」

 

「だがそれは、()()()()()()での話だ」

 

「え・・・?」

 

「知ってるだろ?東堂刀華が得意とするのは、()()()()()()だ。

―――ならば、珠雫嬢は自らの得意とするロングレンジでの戦いで、優勢にならなければいけなかった。

だが結果は互角。これはまずい。非常にまずい」

 

「そ、そんな・・・」

 

(おそらくは、一輝も同じ考えだろう・・・)

 

創は、一輝のいる方向に目を向ける。

5人分の席が取れなかったので、創達と一輝達は席が離れている。どちらも最前列なのは変わりないが結構離れていた。

そのため、一輝がどうしているかは見えない。

だが、少なくとも、加々美のように喜んでいる姿だけは想像できなかった。

 

それともう一つ、創には確信があった。

 

(・・・・・・()()()はまだ、本気を出していない)

 

創の視線は珠雫と相対している相手――東堂刀華へとむけられていた。

 

 

 

 

――――――

 

再び試合が動く。

仕掛けたのはまたもや東堂刀華。

そして珠雫嬢はその攻撃を()()()で防いだ。

―――この攻防から、珠雫嬢の動きがおかしくなった。

攻撃される直前まで、呆けているかのようになったのだ。

まるで、東堂刀華が自分に近づいてきているのが見えていないかのような・・・。

先ほどまで互角の戦いをしていた両者であったが、これを機に試合は一気に、東堂刀華優勢へと変わった。

 

――――――

 

 

「ど、どうしちゃったの珠雫ちゃん?!」

 

加々美と同様、会場中がざわめいている。

当然だ。

先ほどまでとは全く違う展開になっているのだから。

 

「創先輩!珠雫ちゃん、どうしちゃったの!?」

 

「・・・・・・」

 

「・・・?・・・先輩?」

 

創はしかめ面をしていた。

 

「・・・まずったなぁ、これは・・・・・・」

 

そして、珠雫と刀華の試合を見ながらそんなことをつぶやいた。

 

「・・・どういうこと?なにか分かったの、先輩?」

 

「・・・・・・東堂刀華は『抜き足』という特殊な技を使っている」

 

「抜き足・・・?」

 

創は加々美の方を向き、語り始める。

 

「―――人間の脳っていうのは、目や耳で受けた情報全てを、認識し、分析するようにはできていない。そんなことをすれば、脳がオーバーヒートしてしまうからな。だから脳は、優先度の低い情報を分析しない。つまり、見えているのに認識しない―――『覚醒の無意識』という『隙間』ができる。

―――そこにつけ込むのが『抜き足』だ。

相手の『覚醒の無意識』に入り込むことによって、相手は自分の動きが、『見えているのに認識できない』という状態になる、攻撃を受ける寸前までな。

珠雫嬢は今、そんな状態になっている。だから防戦一方なんだ」

 

「・・・そ、それってヤバくない!?『抜き足』を破る方法はないの?!」

 

「『抜き足』を破ること自体は簡単だ。

―――意識をズラせばいい。対戦相手である東堂刀華から別のモノへと意識をズラせばな・・・。

だが、1対1の戦闘で対戦相手から意識を外せる奴がどれだけいるか・・・。

少なくとも、この試合中に珠雫嬢が『抜き足』を攻略するのは不可能に近い」

 

創は憂いを帯びた表情で言う。

 

「・・・勝機がないとは言わんが、この試合・・・、珠雫嬢の勝利は絶望的だ」

 

「そ、そんな・・・・・・」

 

創の言葉を聞いた加々美が俯いてしまう。

 

 

『シズクーーーッ!がんばってーーーーーーッッ!!』

 

 

二人の間に暗い雰囲気が流れかけた時、会場にステラの声が響いた。

 

 

 

 

ステラの声は当然珠雫の耳にも入る。

 

(貴女なんかに応援されたってうれしくないんですからっ!)

 

珠雫はそう強がってみせる。

しかし、ステラの声は珠雫のある感情を動かした。

それは負けん気だ。

やはり兄妹。

容姿は似ていなくても、こういうところは、とても似ている。

 

(・・・ステラさんは、必ず七星剣武祭へ行く)

 

学園で唯一のAランク騎士である彼女。

 

(お兄様も、絶対にそうだ)

 

その彼女に勝った兄。

 

(アリスだって、一度も負けてない)

 

まだ底の知れない、自身のルームメイト。

 

(・・・お兄様の友人というあの人も、そうだ)

 

兄とともに落第したと聞いた時には、どういうつもりなのか、という警戒心しかなかった。

今も警戒している。

しかし、その実力は確かなもの。

 

(なら、私だけがこんなところで、負けるわけにはいかない!

私も勝って、そして行くんだ。お兄様と、みんなと一緒に、七星剣武祭へ―――!)

 

珠雫は、傷だらけの体を治癒しながら眼前の敵を睨み付けた―――。

 

 

 

 

――――――

 

再び試合が動く。

今度も仕掛けたのは東堂刀華。

 

「はああああああ!!」

 

しかし珠雫嬢は、東堂刀華が動き出した瞬間に自身も動いた。

次々と攻撃し、東堂刀華を自身に近づかせない珠雫嬢。

 

「『白夜結界』!!」

 

そして珠雫嬢は、『凍土平原』の氷を一気に気化させ、濃霧を生み出した。

おそらく、中にいる東堂刀華には珠雫嬢の姿どころか周囲の状況すら見えていないだろう。

 

「『緋水刃』」

 

客席からわずかに見える、珠雫嬢が東堂刀華に向かっていく姿。

その手には、水で作られた大剣が握られていた。

その刃が、東堂刀華に届くかと思われた瞬間―――

 

「―――『雷切』」

 

その言葉とともに霧が晴れ、勝負は決した―――。

 

――――――

 




いかがでしたでしょうか。

今回は実況的な感じのバトル描写にしました。

見ないうちに通算UA数が1万を突破していた件。

ありがとうございます!これも読んでくださる皆様のおかげです!

一段落ついたとは言いましたがまだ完全に終わったわけではないので、投稿は遅くなると思います。

なので、長い目で見てもらえると助かります。
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