そんなわけで十四話です。
過去最長です。
視点変更が多いから少し見づらいかも?
拙い文ですが、どうぞよろしく!
■
『―――LET’s GO AHEAD!!』
試合開始の合図とほぼ同時に創は駆け出した。
(『
その手に顕現しているのは『無銘・マッハグリード』。
(―――カナタの伐刀絶技『
速攻を仕掛けるなら『
創は開幕速攻を仕掛けることでこの試合の主導権を握ろうとしていた。
カナタまでの距離20メートルの内半分以上を2秒足らずで埋める創。
しかし創の速攻を読んでいたのか、すでにカナタの手の『フランチェスカ』の刀身は大気中に散らばっており、
「ぐぁ・・・っ!!」
銀色の塵が、カナタに迫る創の右頬を切り裂いた。
それにより一瞬怯みはしたものの、スピードを緩めずカナタに迫る創。
カナタとの距離はあと3メートルほどになっていた。
しかし、
(―――っ!違う・・・!!)
何かに気づいた創はその場で止まり、呟く。
「―――『プレス』」
創の周囲10メートルを十倍の重力が襲う。
「くっ・・・」
創の右側からうめく声が聞こえる。
カナタだ。
創の目の前にいた『カナタ』は突然の重力により跡形もなく消え去っていた。
カナタは、創が右頬を切り裂かれ怯み、自分から目を離した一瞬の隙を使って創の右側に回り込んだ。
怯んだその一瞬だけは創の右側は創にとっての死角になっていた。
創の目の前にいた『カナタ』は、『星屑の剣』の無数の刃の乱反射を利用し、投影された幻影である。
創はそれを見抜き、カナタ本人の居場所を割り出すために『プレス』を使った。
■
「くっ・・・!」
カナタは突然の重力に耐えられず、地面に膝をついてしまっていた。
(まずいですわ、すぐに立て直さないと・・・!)
重力に押し付けられながら体勢を立て直そうとするカナタ。
しかし不意にその重圧から解放される。
「・・・っ!」
(しまった・・・!)
カナタは、ハッと気付き、あたりを見回す。
突然の重圧に耐えるために創から目を離してしまっていたのだ。
カナタの視界から創の姿はすでに消えていた。
先ほど自身が創にやったことをそのまま返されてしまったのである。
(これはもしや『狩人』の・・・)
『相手の視界から姿を消す』という現象に対して、カナタが真っ先に思い浮かんだのが『狩人』桐原静矢の固有霊装『朧月』のステルス能力であった。
(でしたら―――)
『狩人』のステルス能力は確かに恐ろしい。しかしその能力には明確な攻略法がある。
カナタは創の姿が消えたことに動揺せず、自らの固有霊装を操った。
■
創は『プレス』を使った後、カナタが立て直す前に固有霊装を切り替えた。
『無銘・
『無銘・朧月』の効果で姿を消した創は、足音を立てないようにカナタの背後へと移動しようとした。
「がぁっ・・・!?」
だが、突然、右の肩から左の脇腹にかけて切り裂かれた。
それにより、カナタにこちらの居場所が割れる。
「―――見つけましたわ♪」
(・・・っ!!まさか、カナタのやつ、全方位に刃を・・・!)
『ステルス能力』の攻略法は『範囲攻撃』。
カナタは『星屑の剣』の無数の刃で全方位を無差別に切りつけたのだ。
目に見えないほどの小さな刃を創が目視できるはずもなく、創の『無銘・朧月』は見事に攻略されてしまった。
(今なら桐原や綾辻先輩と戦うことがどれだけ大変かわかる・・・。『見えない攻撃』ってのがこれほどまでに厄介だとは・・・!)
創は一輝の第一戦と第十一戦の相手、『桐原静矢』、『綾辻絢瀬』の能力を思い出す。
『不可視の攻撃』を操るという点では両名とカナタの能力は似ているといえる。
(・・・だが、主導権をそう易々と渡すわけにはいかねーな)
創は『ステルス』を解き、『無銘・朧月』の弓を構え、魔力を込めた一矢をカナタに向かって放つ。
放った矢は途中で爆ぜ、数十の矢になってカナタに襲い掛かる。
伐刀絶技『
桐原静矢本人が使っていた伐刀絶技であり、百を超える矢による無差別範囲攻撃である。
オリジナルと違い、創の場合は数十の矢でしかなく、放った矢を『ステルス化』することもできないが、防御手段のない相手にならば、十分に脅威だといえるだろう。
「ふふっ・・・♪」
しかし、カナタには防がれてしまう。散らばった刃を集めて防御壁を作ったのだ。
何も知らない人間には、カナタの目の前に銀色の塵が集まっているようにしか見えない。
それにより、創の放った矢はカナタにまで届かない。
(やはり防がれるか)
だが、防がれることは創の想定内であった。
それに構うことなく二度、三度と『驟雨烈光閃』を創は放つ。
三度目を打ち終わった後すぐに創は固有霊装を切り替える。
『無銘・朧月』から『無銘・
「『ショット』」
創は三度目の『驟雨烈光閃』に続けて、魔力を込めた火の球『ショット』を放つ。
十数個の野球ボールサイズの火球がカナタに向かって飛んでいく。
そしてすかさず創は固有霊装を『無銘・妃竜の罪剣』から『無銘・朧月』に戻し、弓を構える。
(このぐらいでいいか・・・)
そして、魔力を込めて巨大化させた矢をカナタに向けて放った。
■
全方位に放った『星屑の剣』の斬撃に切りつけられながらも即座に攻撃してきた創を見てカナタは思う。
(さすがは創さん。あの程度の傷では隙を作ってはくれませんか・・・)
創により射出された『驟雨烈光閃』を防ぎながら、改めて『新谷創』という人物の実力を確認する。
「ふふっ・・・♪」
それは自然に出た笑いだった。
幼馴染であった頃には決してできなかったであろう戦い。
勝利を掴むために互いを傷付け合う戦い。
創と戦えていることにカナタは喜びを感じていた。
日傘により表情は完璧には見えないが、その口元は確かに笑っていた。
「『ショット』」
創がカナタに向けて火球を放つ。
その攻撃に対してカナタは怪訝そうに口を歪める。
(ここで炎、ですか?
この程度の炎では、わたくしの防御は破れないことなど創さんもわかっているでしょうに、なぜ・・・?)
幼い頃から『新谷創』という人間を知っているからこそ疑問に思う。
創が戦闘において無駄な行為をするはずがない、と。
(まさか・・・!?)
そしてカナタは気付く。
創の放った炎が攻撃ではなく、『目眩し』だということに。
(まずいですわっ・・・!!)
カナタは体を捻る。
それは、創が放った矢がカナタの防御壁を破るのとほぼ同時だった。
「くぅっ・・・!」
カナタはその矢を避け切れず、日傘が弾き飛ばされると同時に、左肩に掠り傷を負ってしまう。
その矢はカナタの左肩を狙っていた。
カナタはぞっとする。
もしカナタが、避けないままだった場合、左肩を完全に破壊され、どうしようもない痛みに致命的な隙を晒してしまったことだろう。
(・・・広範囲に攻撃をして防御力を分散させ、分散させたところに強力な一撃を放つことでその防御を突破する。
弾幕を操る相手の常套手段ですわね・・・)
カナタは冷静に先ほどの創の攻撃を分析する。
そして創のいた方向に目を向ける。
しかし、
(いない・・・、―――っ!?)
―――また『狩人』の能力で隠れたのだろうか―――、と思考するカナタの背中に悪寒が走る。
「―――『影渡り』」
その声は、カナタの背後から聞こえてきた。
カナタが振り向くとそこには―――
「『風の刃』」
―――『星屑の剣』の攻撃により切り裂かれた右頬から血を吹き出し、緋色の日本刀を振り下ろさんとしている創の姿があった。
―――なぜ?どうして背後に?―――などと考えている暇はない。
なんとか防御するために『フランチェスカ』の刃を自身の背中に集める。
だがそれは間に合わない。
迫りくる凶刃を避けるため、カナタは倒れこむように前進する。
なんとか避けることに成功した、はずだった。
「っきゃあぁっ・・・!!」
カナタの背中が切り裂かれる。
創はただ日本刀を振り下ろしただけではない。
綾辻絢瀬の固有霊装『緋爪』。それを『模倣』した固有霊装、『無銘・緋爪』。
その伐刀絶技『風の爪痕』の劣化技『風の刃』。
斬撃を飛ばすだけ、というシンプルな技だが、この場面においては効果的な技である。
『フランチェスカ』の刃を背中に集めていたため、それがクッションとなり深い傷にはならなかったが、背中を切られた痛みにカナタはふらつく。
それを見て追撃をしようと前に踏み出そうとする創。
しかしカナタはふらつきながらも自らの固有霊装を操り、創に反撃していた。
創はそれに気付き、バックステップをしてその場を離れようとする。
「ぐっ・・・」
だが時すでに遅く、創は両太ももを切り裂かれてしまった。
両者の距離が十メートルほど開く。
カナタは創の方に振り返り、再び両者が対峙する。
■
『す、すばらしいいいい!!息もつかせぬ攻防!次々と現れる能力の雨に私、解説が追い付けません!!』
「・・・あれが創の本気なのね」
アリスが口を開く。
「うん、そうだと思う。
今までの戦いは相手がそんなに強くなかったこともあってせいぜい一、二回能力を切り替える程度だったから、こんなに切り替えたのは選抜戦内だと初めてだね」
加々美が解説する。
現在、加々美、アリス、ステラ、珠雫は創の応援に来ていた。
一輝の件があったからか、ステラと珠雫は浮かない顔をしていたが、試合が始まるとそれに見入っていた。
そのステラが口を開く。
「それにしても、ハジメって、固有霊装の切り替えがかなり早いわね。
さっきだって三つの固有霊装を瞬時に切り替えてたし」
さっき、というのは、創がカナタの背後に突然現れた時のことである。
「え、ステラちゃん、見えてたの!?」
加々美が驚く。
それもそのはず、
加々美も、事前に聞かされていなければ何が起こったか理解できなかったであろう。
「まぁね。
―――ハジメはまず、巨大化させた『狩人』の矢を放って、即座にレンレンさんの固有霊装に切り替えた。それで加速して、自分が放った『矢の下』に自分の体を潜り込ませて、また切り替えた。なんか・・・、黒いナイフ?みたいな感じの固有霊装に」
「あら、もしかしてあたしの『
なら、あとは理解できるわ。
たぶん、『矢の影の中』に入ったのね。それで矢の軌道に乗って貴徳原さんの背後に現れた、ということね?」
「大体そんな感じ、だと思うわ」
珠雫が肯定する。
ステラと同じで珠雫にもあの攻防がはっきりと見えていたのだ。
それもそのはず、珠雫は『雷切』東堂刀華と戦った経験があるのだ。
創とカナタの攻防は、確かに目を見張るものがあったが、珠雫と刀華の攻防ほどではなかった。
ゆえに、珠雫と同等かそれ以上の実力者ならば二人のように創が何をしたかがはっきりわかる。
・・・そんな者がこの学園内にどれだけいるかは定かではないが。
「す、すごいね三人とも・・・!!
ほとんど正解だよ。私なんて、事前に知ってても何してるかわからなかったのに・・・」
「・・・?かがみんは創のあの戦法を知ってたの?」
加々美の発言を疑問に思ったアリスが問う。
「うん。
新聞作るときの各生徒のデータ集めのときとか、対戦映像とか見たりしてるときとかに、よく創先輩が、”こういう相手にはこういう戦い方をした方がいい”みたいな、観戦者としての意見を言ったり、”自分だったらこうする”みたいのを作ったりするんだよね。
さっきの創先輩の戦法は、その中の一つだよ。正確には、『矢の影の中』に入って、矢の軌道に乗って、相手と矢の影が交差したとき、『相手の影』に入り込む、っていう過程がある、らしいよ。正直、私はそういうことについてはあまりアドバイスとかできないから、創先輩の解説を聞くだけになっちゃったんだけどね・・・」
たはは、と苦笑いする加々美。
「そういえば、あたしの『黒き隠者』とかいつコピーしたのかしら?」
アリスが疑問をこぼす。
「それはアタシも気になってたわ。一回戦の時にアタシの『妃竜の罪剣』を出してたけど、ホントいつコピーしたのかしらね?」
ステラもアリスと同じ疑問を持っていたようだ。
二人の疑問に加々美が答える。
「創先輩曰く、『見ればコピーできる』らしいよ?テレビ越しでも、資料だけでも。『形』が分かりさえすれば何でもいいみたいだね。
『能力』を使うには名前も知らないといけない、というか名前がないと使いづらい、とは言ってたけどね。
で、一度『
「・・・結構チートじみてるわね」
ステラが驚いたように言う。
「・・・自分が戦ったらと思うと、ぞっとするわ」
アリスが恐れを含んだ声で言う。
それもそうである。固有霊装の切り替えがノータイムで可能、ということは、様々な能力が予備動作なしに間髪入れずに襲い掛かってくることもあり得る、ということだからだ。
対応力のない人間や、襲い掛かってくる能力すべてをなぎ払えるような膂力をもっていない者には脅威でしかない。
(創先輩かなりうまく立ち回ってたし、大丈夫だよね・・・?)
創のことは信頼してるし、創が勝つと信じているが、加々美には拭いきれない不安があった。
そして、その不安は正しかった。
⬛
再び向かい合った創とカナタ。
創に向かってカナタが口を開く。
「乙女の柔肌に傷をつけるなんて、最低ですわね・・・」
そう言うカナタの口元には笑みが浮かんでいる。
「・・・ズレたこと言ってんじゃねぇよ。真剣勝負に男も女も関係ない、そうだろ?」
「ええ・・・。そう・・・ですわね」
背中の傷が痛むのか、途切れ途切れに言葉を紡ぐカナタ。
「ああそうだ。俺は女だろうと、幼馴染だろうと容赦はしねぇ。
・・・そんなの、お前も分かってるだろ?『カナタ』」
「ええ、わかってますわ。
・・・ですがわたくしは、どうしても『創さん』のことを『幼馴染』と認識してしまうんです。
ですから、先に言っておきます」
カナタは目を伏せ、一拍おいてからその言葉を口にする。
「―――『ごめんなさい』」
―――その言葉は、何も知らない人間が聞けば意味不明だっただろう。
事実、創でさえも突然の謝罪に驚いて固まってしまったのだから。
しかし、創のそれは一瞬だった。
カナタの言葉の意味を理解した創は、即座に行動を起こす。
「―――ッッ!!『
いや、正確には起こそうとした。
だが創がカナタに向かって走り出そうとした瞬間、
創の体が鮮血に染まった。
■
『ぐっ、があああああああああッッ!!』
会場にいる観客は最初、何が起こったのか分からなかった。
両者が向かい合って試合が振り出しに戻ったと思ったら、いきなり創の体のいたる所が切り裂かれていたのだ。
一目で理解しろという方が無理である。
「え・・・?」
アリスが理解できない、といった様子の声を上げる。
ステラも同じような表情をしている。
珠雫でさえも、驚愕に目を見開いている。
「うそ、でしょ・・・?」
加々美は今起こったことを理解して、青ざめる。
「ぐっ・・・、いつだ・・・っ?いつ俺の体に入り込ませた・・っ!?」
創は傷つきながらもカナタに問う。
「―――わたくしの伐刀絶技『星屑の剣』は『フランチェスカ』の刀身を目に見えないほどの小さな無数の刃に変化させますわ。
その刃は、本当にとても小さいのですよ。例え、吸い込んで灰の中に入ったことにも気づかないほどに」
「ああそうだ・・・!だから俺は、吸い込まないように注意していたつもりだったのに・・・!」
「実際、創さんは『フランチェスカ』の刃を吸い込んではいませんわ。
ですが、あなたの体に傷をつけた瞬間に、その傷口から体内に入り込むことは可能です」
「・・・ウイルスか何かか?」
「・・・言いえて妙、ですわね。
―――なんにせよ、あなたの体内にはすでにわたくしの『フランチェスカ』が入り込んでいます。
できることなら、降参していただきたいのですが・・・」
「いやだね・・・!」
「そう言うと思いましたわ・・・。
ですから、降参したいと思うほどに痛めつけてあげますわ!」
■
―――それからの戦いは、目を覆いたくなるような内容だった。
創が何か行動を起こそうとする度に、創の体が『見えない斬撃』によって切り裂かれる。
飛び散る鮮血。
無論、カナタにそれがつくことはない。
カナタはすでに、落とした日傘を拾い、創の返り血を日傘で受け止めていた。
その姿は『紅の淑女』と呼ぶにふさわしい姿であった。
―――すでに会場の四分の一ほどに創の血は広がっている。
解説である折木有里の言葉が現実のものとなってしまったのだ。
そう、これはもはや戦いではない。
『拷問』という言葉がふさわしいだろう。
『狩猟』でも『処刑』でもなく、『拷問』。
あくまでもカナタは、創に『降参』させようとしている。
だから、命にかかわるような傷は与えない。
しかしそれが逆に、凄惨な光景を生み出していた。
―――会場に沈黙が広がる。
観客のほとんどが、目の前の光景から目を逸らしている。
「・・・・・・め・・・て」
「かがみん・・・?」
「・・・・・・う、・・・め・・・よ」
アリスが、隣の加々美の異変にくづく。
「・・・もう、やめてよぉ・・・っ!」
カメラを手放し、両手で顔を覆う加々美。
悲鳴にも似た、加々美の叫び。
加々美もまた、見ていられなくなったのだ。
自身のルームメイトの惨状を、飛び散る鮮血を。
しかし加々美の顔を覆う両手は、隣に座るアリスによって剥がされる。
「・・・目を逸らしちゃダメよ」
「アリスちゃん・・・?・・・でも、もう・・・!」
アリスに腕を掴まれながら加々美は涙を流す。
「ちゃんと創のことを見なさい」
加々美はアリスに言われ、おそるおそるといった様子で創を見る。
「・・・え・・・?」
創を見た加々美は驚愕する。
「・・・わかるでしょ?創はまだ諦めていないわ。
戦っている本人が諦めてないのに、ルームメイトである貴女が諦めてどうするの?」
加々美を叱るようにアリスは言う。
「アリスちゃん・・・」
「貴女には最後まで見届ける義務があるわ。
―――創が諦める、その瞬間までね」
その言葉を聞いた加々美の顔には、涙は流れていなかった。
「―――でも実際、ここから勝てるのかしら?」
ステラが創の現状を見ながら言う。
「ステラさんに同意見です。
・・・いくらあの人でも、ここから何かできるとは思えないわ」
珠雫がステラに続く。
「カガミはなにか知らない?
例えばハジメの『奥の手』とか」
ステラが加々美に問う。
「わからないよ・・・、そういうのは創先輩から聞かされてないし・・・」
「そう・・・。打つ手なしってワケ」
「で、でも、創先輩のことだからまだ何か隠してるハズ!」
「そうだと、いいのだけれどね・・・」
四人が沈黙する。
そこに流れる空気は最悪だ。
『諦め』、『憐れみ』といった負の感情がそこにはあった。
そんな中、加々美は一つの『決意』をしていた。
■
『絶対に創を信じる』。
それが彼女の『決意』。
自身の『負の感情』によって、一度は揺れたその感情。
しかし、アリスの言葉で加々美は思い出していた。
“自分にとって新谷創がどんな存在なのか”
加々美は思い出す。
ショッピングモールで何もできなかった自分を慰めてくれた
一昨日、一輝の件でぐちゃぐちゃになっていた思考を鎮めてくれた
他にも、自分が無理矢理入れた壁新聞部の仕事を手伝ってくれたり、何も言わないで色々助けてくれたりもした。
拒絶しようと思えば、できたはずだ。
ルームメイトだからといって、仲良くしなければいけない、という決まりはない。
ましてや、自分と創は男と女、異性である。なにか間違いが起こる可能性は否定できない。
もう一人の先輩と自分の右側に見える皇女様を見てると特にそう思う。
故にお互いに深く関わらない、という選択もあっただろう。
最初こそ、自分が創の生活に積極的に関わっていっていたがしばらく経つと、創の方からも加々美の生活に積極的に関わってきていた。
あからさまに関わってくることはないが、風呂を使う時間帯や、私物の置場所など、こちらに悟らせないように、細かいところで様々な気遣いをしていた。
―――不器用ながらも優しい
それが加々美の創に対しての印象だった。
しかし加々美の中で、その存在は日に日に大きくなっていった。
少なくとも、ある種の『特別な感情』を抱くほどには。
―――創先輩といると楽しい。
―――創先輩がいないと寂しい。
それはただの友情を超えた『ナニカ』。
その正体を加々美はまだ知らない。
しかしそれでもいい。
重要なのは、加々美が創に『特別な感情』を抱いていることだ。
だから加々美はもう迷わない。
どんなに悲惨な状況であろうが、どんなに絶望的な状況だろうが、創が諦めていない限り、
『創を信じる』
それだけを胸に彼女は願う。
(お願い・・・っ!勝って・・・!!)
―――創先輩・・・!
その願いは果たして、届いたのだろうか―――。
■
カナタによる一方的な攻撃が始まって数分、突然攻撃の手が止まる。
「・・・ハア・・・ハァ・・・ガフッ・・・」
すでに創は満身創痍だった。
そんな創にカナタは問いかける。
「・・・そろそろ降参する気になりましたか?」
「・・・ハァ、まだ・・・ハァ、まだ・・・ぜん、ぜん・・・」
満身創痍になりながらも、決して前を向くことだけはやめない。
創の眼は、カナタの姿を捉えて離さなかった。
「・・・っ」
その確固たる意志を宿した『眼』に気圧されながらもカナタは問う。
「・・・何があなたにそこまでさせるのですか」
「・・・あァ・・・?」
カナタの問いに顔をしかめる創。
「それだけ傷ついているのに・・・。
もう意識を保っているのもやっとでしょう。
その出血量、今立っているのも不思議な状態のはずですわ。
―――なのに、」
カナタは創の『眼』に向き合う。
「なんでまだ諦めないんですか・・・!?
これ以上やったら死んでしまうかもしれないんですよッ?!」
カナタは叫ぶ。
理解できないものを見るような目で創を見る。
創の『眼』はカナタにとって、『得体のしれないモノ』以外の何物でもなかった。
「・・・いっ、たろ・・・『目的』が、あるって・・・」
カナタの問いに、さも当然だと言わんばかりに答える創。
「俺は一度『やる』と決めたことは絶対にやる・・・。そん、なのお前、だって・・・わかっ・・・てるハズだろうがぁ・・・ッ!!」
―――瞬間、カナタの目の前から創の姿が消える。
会場中が驚愕する。
なんと創は満身創痍の身でありながら、『無銘・マッハグリード』の『五倍速』を用い、カナタの背後に回り込んだのだ。
傷ついた体からさらに血が流れる創。
カナタの背後に回った彼の手に握られていたのは、二人の幼馴染である東堂刀華の固有霊装を『模倣』したモノ、『無銘・鳴神』であった。
創は『コピー能力』という特性上、様々な武器を扱えなければならない。
彼はいろんな武術を学んだ。
剣術、格闘術、槍術etc…。挙げればキリがない。
その中には当然、抜刀術も含まれている。
刀華や一輝には及ばないが、素人にとっては、創の抜刀スピードも相当なものだ。
創は『無銘・鳴神』に手をかける。
―――その瞬間、カナタから歯ぎしりのような音が聞こえた。
しかし気にせず創は伐刀絶技を繰り出す。
東堂刀華の伐刀絶技『雷切』の劣化技、『轟雷』。
スピードよりもパワーに重きをおいたその技は、当たったら最後、確実に相手の意識を刈り取る。
スピードとパワーを両立している『雷切』には遠く及ばないが、それでも脅威的な技だ。
創はその技を、カナタに向けて放った―――
―――いや、正確には
創が『無銘・鳴神』を抜こうとした瞬間、創の両手足から血が噴き出した。
『五倍速』の反動ではない。カナタの『フランチェスカ』によるものだ。
今までの傷に比べれば、大したことのない出血量。
しかしその一撃で、創の身体は力を失った―――。
■
体を支える力を失った創は前に倒れこむ。
会場中が抱いた希望は、一瞬で打ち砕かれた。
実況席の月夜見もまた、その一人であった。
彼女は創が倒れたのを見ると、マイクを切り、隣にいる折木有里に話しかける。
「・・・先生、もう・・・これ以上は・・・」
彼女はその先を言わなかった。
しかし、彼女の言いたいことは言外に伝わってしまう。
『試合を止めてほしい』
おそらくは、観客のほとんどが思っているであろうことだ。
すでに試合会場は創の血で赤く染まっている。
下手をすれば創の命が危うい。
そんな状況だというのに、
「・・・・・・」
折木は沈黙した。
何も言えなくなったのではない。
それは『拒否』だった。
『試合を止めてほしい』、という月夜見の懇願を彼女は拒否したのだ。
「・・・っ!」
月夜見は折木の沈黙の意味を悟る。
「このままだと命が危ういんですよ!?
・・・確かに、似たような状況は『
しかし、黒鉄選手の時のような一発逆転は、もうあり得ません!!
お願いです折木先生!試合を止めてください!!」
一輝の第一回戦、『狩人』桐原静矢と一輝の試合を実況した彼女だからこそ、期待していた。
また、あの時のような逆転劇が起こるのではないかと。
事実、創は会場中が予想していなかった反撃を見せた。
しかし、その反撃はカナタには届かなかった。
いや、下手したら読まれていた可能性すらある。
―――もう、これ以上の希望はない―――
それが彼女の結論であり、観客の半数以上の結論であった。
観客のほとんどは、創とカナタから目を離しており、すでに会場を出て行った者も少なくない。
だから彼女は折木に懇願する。
―――もう見ていられない、これ以上の戦いは無意味だ、と。
「・・・だめだよ」
しかし彼女からの返答は変わらず『拒否』だった。
「っ・・・なぜっ?!」
「だって新谷君、まだ諦めてないから」
「は?」
折木の言葉に思わず間抜けな声が出てしまう。
(一体、どういうこ―――なっ!?)
折木の言葉の意味が分からず、彼女が先ほどから目を離していない試合会場に目を向ける。
そこには、
『ぐ・・・う、ぁ・・・』
自らの固有霊装に縋りつき、這いながらも立ち上がろうとする創の姿があった。
■
『ぐ・・・う、ぁ・・・』
折木は、傷つきながらも立ち上がろうとする創を見る。
本当であれば、彼女は今にでも試合を止めたかった。
彼女は、優しい人間だ。
そんな人間が、傷つく教え子を見て『止めよう』と思わないはずがない。
ならばなぜ、彼女は試合を止めないのか?
それは『約束』があったからだ。
創の姿に絶句する月夜見を横目に折木は思い出す。
昨日交わした、創との『約束』を。
――――――試合前日 破軍学園 保健室――――――
その日、折木はいつものように吐血して、保健室にいた。
ガラッ
その彼女を訪ねて保健室に入ってきた者がいた。
「こんにちは、折木先生」
創だ。
訪問者に気付いた彼女は、挨拶を返す。
「こんにちは、新谷くん。
・・・珍しいね、キミがここに来るなんて。
お見舞いにでも来てくれたのかなー?」
ベッドに寝たまま創の方を見る。
その表情を見た折木は、思わず怪訝な顔をする。
「・・・どうしたの?」
いつもの無愛想な顔でもなく、時折見せる不敵な笑みでもない。
今の彼の顔は、何かを決意したような、硬い表情だった。
その表情を見て、彼女は寝ていた体を起こし、ベッドに腰掛け、創と向き合う。
「折木先生。先生は、明日の俺と貴徳原カナタの試合を担当されますよね?」
創はその場に立ったまま、折木に話しかける。
「うん、そうだよー」
特に否定するところもないので肯定する折木。
「では、単刀直入に言います。
明日の試合、『何が起こっても』試合を止めないで欲しいんです」
そう創は懇願してきた。
「えっと・・・?」
「もちろん俺もカナタも『反則』などはしません。
だからその点は安心してください」
「あ、そうなの。よかったぁ・・・」
創の言葉で、折木の中で浮かんだ不安が解消される。
「そうだよね・・・、新谷くんが『反則するから試合を止めないでくれ』なんて言うはずないよねー・・・。
あれ?でも、だったら何で?」
しかし、不安が解消されたら今度は疑問が出てきた。
綾辻戦での一輝のような特殊な事情でもない限り、生徒が教師に『試合を止めないでくれ』と頼むことはない。
正々堂々と試合をすれば止められる心配なんてないはずだからである。
「俺とカナタの試合は、あまり、見たくもないような光景が広がる可能性が高いんですよ。
・・・具体的には、俺が瀕死になります」
「ブーーッッ!?」
折木が鼻血を吹き出す。
「え、ちょ。どういうこと!?」
鼻血を拭きながら創に問いかける折木。
「・・・あくまで可能性の一つですよ。
そうならないように努力するつもりですが、もしそうなった時に、試合を止められては堪らない。
だから、今日の内に対策をしておこうと思いましてね」
「えっと、つまり『自分は明日の試合で瀕死になるけど、それでも試合を止めないでほしい』ってこと?」
「そうです。
お願い、できませんか?」
創の言葉に渋い顔をする折木。
「えっとね・・・、生徒の意思を尊重したいとは思います。
だからって、生徒が死ぬのは見過ごせません」
「先生ならそう言うと思ってました。・・・でも、安心してください。
―――俺は死にません」
自信満々にいつもの不敵な笑みを見せる創。
「・・・その言葉を素直に信じられると思う?」
折木がそう言うのももっともだ。
『選抜戦』及び『七星剣武祭』のルールにはこのような一文がある。
『場合によっては命の危険を伴う』
確かに、選手たちはこのルールに了承して、戦っている。
だが、戦いによる死人が出るような『事故』が起こらないようにするのが『教師』たちだ。
彼らは、場合によってはレフェリーストップをかけることができる。
だがもしも、担当の教師が試合を止めなかったことで『事故』が起きてしまったのなら・・・。
その教師は一生、罪悪感に苛まれ続けるだろう。
彼女のように優しい人間ならば特に。
だからこそ、彼女は創の懇願を拒絶しようとする。
「もうどうしようもない状況で、打つ手も無くなってしまったら、その時は素直に諦めますよ。
だから先生には、俺が諦めるまで、見守っていてほしいんです」
彼の『眼』には、確固たる意志があった。
「そんなこと言ったって・・・」
創の『眼』を見てもなお渋る折木。
「・・・では先生、質問します」
「?」
「先生は、周りからの不当な評価・罵声に耐え、傷付きながらも、『自分を認めさせる』ために戦い続ける『騎士』を、止めることができますか?」
「・・・黒鉄くんのこと?」
「・・・アイツは今も戦っています。実家からの圧力で一年を無駄にし、今はその実家が直接、手を下してきた。
―――そんなアイツが、『戦い』の場において『命を懸ける』ことを、貴女は止められますか―――?」
「それ、は・・・」
―――できない。
黒鉄一輝を入学当初から知っている彼女だからこそ、彼の意思の強さを知っている彼女だからこそ、一輝を止めることはできない。
それは、黒鉄一輝という『騎士』を『侮辱』するのと何ら変わらないからである。
言葉に詰まった彼女を見て創は言う。
「―――でしたら、俺も同じです。
俺にも『目的』がある。その『目的』のためならば、『命を懸ける』覚悟はある!
貴女はそれでも、俺を止めますか?
―――俺の『覚悟』を否定しますか?」
「・・・っ」
あくまでも自分の願いを通そうとする創。
「・・・・・・わかりました」
創の言葉に、折木が折れた。
「でも、『約束』して?」
しかし彼女はただ折れたわけではない。
自分が創の願いを受ける代わりに、創にある『約束』を持ち掛けてきた。
「『絶対に無茶はしないこと』
ユリちゃんとの約束だよ?」
そう言って創の右手をとり、自身の右手の小指と創の小指を絡み合わせる。
俗にいう『指切り』の形だ。
「・・・善処しますよ」
「・・・ユリちゃんは新谷くんの言葉を信じます。
だから、新谷くんが諦めるまでは試合は止めません。
でも、『諦めた』と思ったらすぐに試合を止めるよ?そこは理解しててね」
「はい!
・・・すみません。いきなりこんな我儘言ってしまって」
「黒鉄くんほどじゃないから大丈夫だよー」
「一輝・・・、あぁ綾辻先輩の時の」
「そうそう。一回も負けられないっていうのに、『反則を見逃せ』って言うんだもん。ユリちゃんびっくりしちゃったよ~」
「ハハ・・・。まぁ、そういう所がアイツの魅力でもありますからね
・・・では、俺はこれで」
「うん。明日の試合、頑張ってね。
わたしとの『約束』、忘れちゃだめだよ?」
「・・・はい!」
――――――現在 破軍学園 第六訓練場 実況席――――――
(まったく!あんなこと言われたら断れるわけないじゃない)
昨日の創の強引さに心の中で憤慨する折木。
(でも―――)
折木は会場の創を見る。
―――誰が見ても絶望的な状況。もはや勝利などあり得ない。会場もすでにその悲惨さに静まり返っている。
だというのに、
(まだ『諦めてない』ってことは、この展開も新谷くんの『想定内』ってことなのかな・・・?)
折木は自分の予想に若干の寒気を覚えた。
■
「―――そん、なのお前、だって・・・わかっ・・・てるハズだろうがぁ・・・ッ!!」
―――目の前で創の姿が消える。
しかしカナタには動揺はなかった。
なぜなら、
創がここでどう動くのか、どのような攻撃をしてくるのか、『新谷創』という人間を幼い頃から知っている彼女だからこそ分かってしまう、予想できてしまう。
(・・・結局、わたくしでは創さんを折ることはかないませんでしたか・・・)
カナタの目的はあくまで、『創自身に負けを認めさせること』。
もちろん、創の意識を刈り取ろうともした。
しかし、彼女の『フランチェスカ』の攻撃では、創の意識を刈り取れない。
創と戦っていたのが刀華であれば、『雷切』で創の意識を刈り取ることも可能だったろう。
―――いや、『雷切』でも一発ならば耐えてしまうかもしれない。
それほどまでに創の意志の力は強いのだ。
どれだけ傷付いても、どんなに血を流しても、『目的』のために戦う。
―――そんな、鋼の意志。
ギリッ
その事実に、彼女は歯噛みする。
自分では創を折ることができない。
そんな悔しさから。
しかしそれだけではない。
彼女の歯ぎしりにはもう一つの意味があった。
彼女は『覚悟』をしたのだ。
『創を傷付ける』という覚悟を。
カナタは背後にいるであろう創に向かって自身の力を振るう。
ドサァッ・・・
―――カナタの背後で、人が倒れる音がした。
創が倒れたのならば、カナタの目論見は成功したのだ。
カナタは振り返り、創を見下ろす。
「・・・両手両足の腱を切らせていただきました。
もう、まともに走り出したり、剣を振るうことはできないはずです」
―――そう、彼女は創の両手両足の腱を傷付けた。
それにより、剣を振るう最中だった創は体の支えを失い、転倒したのだ。
「・・・もうその体では何もできません。
・・・お願いですから『降参』してください」
自分の攻撃では創の意識を刈り取れない。
ならば、物理的に動けなくすればいい。
本当ならば、腕や足を切断した方がいいのだろうが、カナタにはそれをすることができなかった。
(だけど、これでも十分な筈・・・)
しかし―――
「ぐ・・・う、ぁ・・・」
カナタの思惑に反して、創は立ち上がろうとしていた。
『無銘・鳴神』を消し、這いつくばったまま右腕を限界まで上げて『無銘・斬馬刀』を出現させる。
出現させた固有霊装を創は掴まず、それは重力に従い石畳に突き刺さる。
それを支えにして、創は立ち上がった。
「~~~~~ッッッ!!」
(また、あの『眼』・・・!)
立ち上がった創は『無銘・斬馬刀』を支えにしてやっとのことで立っている。
しかし、その視線は確かにカナタを見据えている。
強固な意志を宿した『眼』。
「っ・・・、もう、いい加減にしてください!!」
カナタは叫ぶ。
「この状況からの逆転はもうあり得ません!!
これ以上戦うことは無意味なんです・・・!」
激情に任せ、創に事実を突きつけるカナタ。
「もう、これ以上・・・わたくしに創さんを傷付けさせないでください・・・・ッ!!」
カナタの顔は悲痛に満ちていた。
涙こそ流していないが、今にも泣きだしそうな表情であった。
―――無理もないことである。
幾度も『特例招集』で実践に参加していようとも、カナタはまだ十七歳の少女なのだ。
名前も知らない『他人』ならばまだしも、『身内』を自分の手で傷付けることは、今の彼女には辛いことだった。
「・・・ここまで、やっといて・・・言うことがそれ、か・・・ぁ?」
途切れ途切れではあるが、創のその声には『呆れ』が混じっていた。
「だって、ここまでしないと、創さんは止まってくれませんから・・・」
「はっ・・・、ちげ・・・ぇ、ねぇな・・・」
口元に笑みを浮かべ、俯く創。
その瞬間、
『創ぜん゛ばい゛!ま゛げる゛な゛ぁあああああッ!!!』
一つの声が、会場中に響いた。
■
「創ぜん゛ばい゛!ま゛げる゛な゛ぁあああああッ!!!」
加々美は叫んだ。
その声は、静まり返った会場には十分すぎるほどに響いた。
「ちょ、かがみんっ!?」
加々美の隣に座っていたアリスは驚愕した。
当然だ。
いきなり隣に座っている人間が叫んだら驚くにきまってる。
ステラで一度経験しているとはいえ、慣れないものは慣れないのだ。
「・・・ごめんアリスちゃん。
でも、今言っとかないと絶対に後悔する気がしたんだ」
加々美のその声は震えている。
―――泣いているのだ。
『創を信じる』、そう決めた加々美であったが、創が血を流しているのが辛くないわけではなかった。
そして現在、創は絶望的な状況だ。
襲い来る『辛さ』と『不安』・・・。それらを跳ね除ける意味でも彼女は叫んだのだ。
『負けるな』『諦めるな』と。
人によっては『何言ってんだこいつ』と言うかもしれない。
しかし、今の加々美にはそうするしか『不安』を払拭する方法がなかった。
叫んで目立ってしまったことに若干の恥ずかしさを覚え始めていた加々美。
しかし次の瞬間にそれは吹き飛んだ。
『クックククク・・・ッ!ハハハハハハハハハハハッ!!』
そう、創の笑い声によって。
■
「クックククク・・・ッ!ハハハハハハハハハハハッ!!」
カナタは目の前で笑い出した創に動揺を隠せない。
「・・・な、なにがおかしいのですか?」
創に問うカナタの声は震えている。
「・・・聞いたかカナタ?
『負けるな』だとよ・・・。
この状況でッ!こんなに傷だらけなのにッ!
『負けるな』って言うんだぜ・・・?
これが可笑しくないわけがあるかァッ・・・?!」
創は心の底から笑っている。
―――なんでこの状況で笑える?なんでそんなに楽しそうに笑える?
―――わからない・・・、理解できない・・・!!
笑う創を見るカナタの心の中は混沌としていた。
「―――なぁカナタ、質問だ」
「・・・?」
「何でお前、早々に俺を殺さなかった?」
創はとんでもないことを聞いてきた。
「何を・・・!
確かに『騎士』であるわたくしは、戦いの最中に相手が亡くなってしまうことは仕方ないことだとは思います。
・・・でも、だからといって進んで相手の命を奪いたくはありません!『身内』なら尚更!!」
カナタは叫ぶ。
その叫びを聞いてなお、創の笑みが崩れることはない。
「―――。
・・・そうか。優しいんだな、お前は」
石畳に刺さっている『無銘・斬馬刀』を消し、自らの力で立つ創。
「だけどお前の敗因はその『甘さ』だ。
・・・俺に勝ちたいなら、俺を倒したいのならば、
―――俺を
―――瞬間、会場が揺れる。
鈍色に光る
(くっ・・・!!)
カナタは驚いた。
創が、まだこれほどの魔力を残していたことに。
しかしすぐに行動を開始する。
「『フランチェスカ』!!」
まだ創の身体の中には『フランチェスカ』の刃が残っている。
カナタはそれを使って攻撃をしようとし―――
(うそ・・・、押し返され・・・っ!?)
―――できなかった。
創の体内に入り込んでいたはずの『フランチェスカ』の刃は、創の体内を流れる『ナニカ』によって創の体外へ押し出された。
カナタが直接、創を攻撃しようとしても鈍色の光の奔流のせいで創まで辿り着けない。
(くっ・・・どうすれば・・・!!)
カナタが思い悩んでいた時だった。
唐突に、鈍色の光――魔力の奔流――が創の身体に収束していく。
魔力の奔流が治まり、中から現れた創の姿は、異質なものだった。
―――体が一回り大きくなり、体の色が鈍色に変化していたのだ。
■
『な、なんだこれはあああああああああッ!?
折木先生、これは一体!?』
実況席の月夜見が混乱している。
目の前で起こったことが理解できないのだ。
おそらく、会場内で理解できているものはごく少数・・・五人いるかどうかといったところだろう。
『あれは・・・、多分だけど、『肉体そのもの』に魔力を注ぎ込んだんじゃないかなー・・・』
『へ?ど、どういうことですか?』
『普通の『伐刀者』ってさ、みんな無意識に『魔力放出』を使って身体能力や自分の武器の威力を引き上げてるよね?
でも新谷くんは、その『放出するべき魔力』を自分の『肉体』に無理やり注ぎ込んだんだよ。
『魔力放出』で『身体能力』を強化するんじゃなくて、『肉体そのもの』を強化する・・・。
言うなれば、魔力で肉体を『コーティング』したって感じかなー?』
折木はそう言うが、それは容易なことではない。
魔力による肉体そのものの強化。
これを行うには、前提として、魔力が注ぎこまれることに耐えられる『強靭な肉体』が必要である。
だがそれは最低条件だ。真の難題はこの先である。
『推定Bランク以上の魔力制御』
これが必要不可欠なのだ。
なぜなら、肉体に注ぎ込む魔力量が『少なすぎれば』、肉体は満足に強化されず、注いだ魔力は無駄になってしまう。
逆に『多すぎれば』、肉体がそれに耐えられず壊れてしまう。
この二つさえ備えていれば、誰でも今の創と同じことができる、と言える。
しかし、この二つを併せ持つ伐刀者はそう多くない。
強靭な肉体を持つ伐刀者ならば、戦いのほとんどを自身の身体能力に任せ、『能力』はおまけ程度にしか使わないし、魔力制御の訓練をすることもないだろう。
高度な魔力制御を持つものならば、戦いのほとんどを自身の『能力』に任せ、近接戦闘などはあまりしないし、肉体を鍛えることも最低限しかしないだろう。
KOKトップリーグの人外連中でもない限り、ましてや『学生』がその二つを併せ持つ、というのははっきり言って異常だ。
まだ『学生』であるはずの創がその二つを併せ持っているのは、やはり創の固有霊装の『特異性』・・・否、『欠点』ゆえであった。
創の能力は『劣化コピー』。
それは、無限にも等しい手札を持っていることと同義であると同時に、自身の『究極の一』が存在しないことと同義でもある。
一輝の『一刀修羅』のような、刀華の『雷切』のような、自身の限界まで極めた一つの『技』――すなわち『究極の一』。
劣化コピーの
―――だから、肉体を鍛えた。劣化コピーの
―――だから、策を考えた。どんな固有霊装にも『能力』はある。それをうまく組み合せることができれば、どんな相手にも有効な手段をとれるだろうから。
―――だから、魔力を制御する訓練をした。どれだけ策を考えても、自身の魔力の扱いが杜撰なせいで『魔力切れ』を起こしてしまっては元も子もないから。
「・・・フゥー・・・。
まさか『コレ』を使うことになるとはな・・・。
できることなら、刀華や一輝と戦うまで、もしくは、『七星剣武祭本戦』まではとっておきたかったんだがな。
・・・そういうわけにもいかなくなった」
まるで傷など最初からなかったかのように振る舞う創。
「・・・ど、どうして動けるんですか?あんなに血を流して、満身創痍でしたのに・・・」
創の振る舞いを見て、カナタは疑問をとばす。
「・・・『コレ』の説明は大体、折木先生の言ったとおりだ。
俺は魔力で自分の肉体をコーティングした。
今、俺の身体は隅々まで魔力が廻っている状態だ。破れた血管も、傷付けられた腱も、すべてその魔力で
今、俺の身体の中を巡っているモノの半分は、『血』ではなく『魔力』!」
カナタの問いに不敵な笑みで返す創。
「魔力で強化された俺の肉体は、並の固有霊装以上の『強度』を誇る。
―――しかしこれにも、時間制限があってな・・・。あまり長い時間『この状態』でいると、『この状態』じゃない時とのギャップに肉体が耐えられなくなるらしい。
だから、早々に決着をつけさせてもらうぞ!!」
そう言って駆け出す創。
「くっ・・・!『フランチェスカ』ッ!!」
カナタは自らの固有霊装『フランチェスカ』の散らばった刃を一ヵ所に集中させる。
(普通に攻撃してもだめならば・・・、力を集約すれば・・・!)
カナタは一ヵ所に集中させた刃を創に放つ。
その一撃は、正真正銘カナタの全力。
威力だけならば、『雷切』にも匹敵するかもしれない。
その一撃をカウンターの形で受けた創の前進が止まる。
「ぬぅ・・・」
しかし彼にダメージはない様子だった。
カナタの一撃は、創の前進を止めることにしか効果を発揮しなかったのだ。
「―――ああ、そうだ。
一つ、言い忘れていたことがあったな」
カナタの一撃を受け止めながら創は言う。
「はぁ、はぁ・・・。・・・?」
全力の一撃を放ち、消耗しているカナタを見ながら創は言う。
「俺の『コレ』って、要は単なる『魔力放出』だろ?
―――だからさ、」
瞬間、創の姿が消える。
「―――『この状態』でも、普通に固有霊装が使えるんだよ」
その言葉はカナタの背後から聞こえてきた。
創は『五倍速』を使用し、カナタの背後に回り込んだ。
本来ならばデメリットのある『五倍速』だが、『強化』された創の肉体には、そのデメリットは生じない。
・・・まぁ、ダメージは蓄積しているが。
創はカナタの左肩を掴む。
「―――掴まえた」
そのささやきは、カナタには、『死神の声』のように聞こえた。
創は左手でカナタの肩を掴んだまま、右手に
「・・・悪いな。こんな終わり方で」
その呟きと共に、創は右手の刃をカナタの脇腹に刺す。
「―――『
―――貴徳原カナタの意識は、そこで途切れた。
いかがでしたでしょうか。
カナタの戦い方は、原作の戦闘(?)描写と、カナタへの評価からの妄想です。
長いからね、最後の方が駆け足気味になるのは仕方ないよね。
創の『技』の数々については、次回、もしくは『無銘・〇〇』詳細で説明する予定。
あと、かがみんをヒロインにすることにしました。ただしくっつくかどうかは不明。しばらくは、タグに加えることはしないつもりです。
あと二話ぐらいかなぁ・・・、三巻の内容。
誤字脱字質問感想、待ってます。