比企谷八幡をテニス選手にしてみようとするお話し   作:スティッチ

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こんばんは、スティッチです。
第1話~子供が無茶をすれば大体こうなるはず~です。
感想と評価が頂けると嬉しいです。


第1話~子供がいきなり無茶をすれば大体こうなるはず~

土曜日、藤宮裕一なるものの誘いを受け、俺比企谷八幡は待ち合わせ場所である、件の公園にいた。

 

待ち合わせ時刻は10時、普通なら5分前行動を意識して9時55分には待ち合わせ場所にいるべきだが、俺はその待ち合わせ時刻から30分経った10時30分に公園に着くように家を出た。そのときの母親のあの可哀想なものを見る顔が忘れられない。

 

別にいいじゃん1人野球、楽しいよ1人野球。

 

まあそんなことはどうでもいい、重要なのは何故30分も遅れて家を出たのかということだ。

 

理由は簡単だ、やつが気にくわないからだ。

 

藤宮裕一、奴は俺が3年の時をかけて完成させた1人野球をあろうことか1笑しやがった。

 

俺がボッチとして過ごしてきた3年間を否定する行為、更にはボッチに手をさしのべてあげる優しい俺ドウヤーと言わんばかりの行動。

 

許せん。

 

つまり俺がわざと遅れてくる理由はやつに惨めな思いをさせることだ。

 

手を差しのべてやった奴が待ち合わせ時刻になっても来ない、まさか俺はたばかられたのかという思いを抱かせ、ガッカリさせてやろうと言うことだ。

 

更には後日問い詰められても、「スミマセン、寝坊しちゃって30分遅れやったんですよ 公園には行ったんですけど誰もいなかったから帰っちゃいましたけど」と言うことで、俺にはいく気持ちはあったんですけどアピールをして、向こうにもうちょっと待ってやればよかったという思い抱かせる作戦だ。

 

普通に考えたら30分も待ってくれるような超お人好し何ているわけないもんな。

 

俺は奴が肩を落とし落胆する様を想像するだけで足が軽くなった。

 

 

 

結論を言うと、俺の作戦は失敗した。

 

「いやー悪い悪い、ちゃんと目覚ましはかけておいたんだがなー。まさか今朝になって電池が切れるとは思わなかったんだよ」

 

10時30分に公園に着いた俺は、まず最初に藤宮の姿を探した。だが奴の姿はどこにもなく、やはり帰ったかと内心ほくそえんで公園から出ようと足を戻そうとしたときに、

 

「おーい、比企谷君待ってくれー」

 

という声が右から聞こえた。

 

まさか本当に30分も待っていたのかとビックリして声のする方へ振り向いたが、どうやらそうでないことは明らかだった。

 

ボサボサの髪、俺よりもだらしなく着られている服、口に着いたジャム。

 

間違いない、こいつの方が寝坊しやがった。

 

「ゴメンな、30分も待たせちまった」

 

「あ、いえ俺も来たばっかなんで大丈夫です」

 

あまりに予想外な状況過ぎて思わず素直に言ってしまった。

 

「あっそうなの、比企谷君も寝坊しちゃってたんだ。良かった良かった、帰ってたらどうしようって思ってたんだよ」

 

俺は寝坊してません、ただわざと30分遅れてきただけで。こんなことになるんだったら、いっそのこと1時間くらい遅れても良かったよ。

 

というか6年生が寝坊するなよ!

 

「さて、それじゃあ少し遅くなったけど行こうか」

 

「はい?」

 

どこへ?

 

「はい?って勿論テニスクラブに決まってるだろ」

 

そうだった、すっかり忘れてたが今日はその待ち合わせで公園に来たんだった。

 

「ラケットとかは向こうで借りられるから心配はないからな」

 

そう言ってすたすたと歩いていく背中を見ながら、このまま帰ってしまおうかと考えるが、即座に否定する。元々今日は奴に1人野球をバカにされた仕返しに来たんだ。

 

こうなれば最後の手段、テニスの無料体験をこなして、テニスってつまんねーと言ってやろう。正直気が進まないが仕方あるまい。目には目を、悪口には悪口をやられたらやり返す、コレセカイノジョウシキネ。

 

考え事をしてるうちに、藤宮との距離少し空いたので、軽く駆け足でその背を追いかける。

 

 

 

バス停まで15分、バスで10分、そこからさらに5分の徒歩を経て着いたテニスクラブに俺は驚きを隠せなかった。

 

むちゃくちゃ広い、普通のテニスクラブの広さがどうなのかは知らないが、普通のクラブに使うには明らかに広すぎる。たぶん俺の通っている小学校よりも広いんじゃないか?

 

左右をキョロキョロしていると、コートでボールを打っているおじいさんを見つけた。いわゆる全年齢層に楽しめるスポーツなんだっけと興味深く見ていると、前から生暖かい視線を送られていることに気がついた。

 

勿論、ここには俺と藤宮の二人しかいないから、誰から送られているかは明らかだった。

 

「珍しいのはわかるけど、テニスを楽しむのはもうちょっと後な」

 

少しテンションが上がっていたのがばれていると思うと、急に恥ずかしくなりどこに向かっているのかわかっていないのに俺は早足で歩き始めた。

 

「おーい、比企谷君そこは右じゃなくて左だぞ」

 

聞こえない聞こえない。と心のなかで言いつつも引き返す、なんか余計に恥かいた気がする。

 

3分ほど歩いていると、ひときわ大きな建物にたどり着いた。

 

「んじゃー、ここで受付するから、少し待ってな」

 

そう言うと、藤宮は建物のなかに入っていった。

 

5分ほどすると、バカもーん!という怒鳴り声といってー!という叫び声が聞こえた。

 

最初の怒鳴り声に聞き覚えはないが、後の叫び声は藤宮のものだと分かった。

 

何があったのかと思ったら、建物の中から涙目で頭を押さえている藤宮が出てきた。

 

「おーい、比企谷君話しはしてきたから入ってきていいよ」

 

よっぽど痛かったのだろう、かなり弱々しくなった声で俺に手招きをして催促をするので、俺は駆け足で建物のなかに入った。

 

建物の中は、外で見ていたよりも広く感じた。1階建ての建物らしく、階段は見当たらなかった。受付で氏名を書いて運動着に着替え室内コートにはいると、すでに練習をしているのか2人の人物がいた。

 

パーンという音のする方を見ていると、俺と同い年くらいの小柄な子供とコーチと思われる人がいた。コーチの方が球だしをして子供の方がボールを打っていた。

 

目に真剣さを込めてボールを追いかけ打つ、見た感じそれほど力を入れているようには見えないが、ボールはあの体格では考えられない鋭さで相手のコートへ向かっていった。

 

ターンという音と共にボールはコートの後ろに転がっていき、俺の足元にたどり着いた。

 

「あっ藤宮さん、こんにちは」

 

鋭いボールを打った方のヤンチャっぽい子供がこちらに向かって言った。

 

なんだあいつ生意気そうなやつだな。

 

「よう巴、今日は調子良さそうだな」

 

「はい、絶好調ですよ! 今なら藤宮さんにも勝てるかもしれませんね」

 

「ほー、ならあとで試合するか?」

 

「良いですよ。 ところで、そっちにいるの誰ですか?」

 

そう言うと、値踏みをするように俺の足元から上に視線を向ける。当然目が合うが、ほとんど同学年のやつと話したことのない俺は1秒も目を合わせることなくスッとそらす。

 

向こうの巴とかいうやつは品定めはすんだ、と言わんばかりにふーんと面白そうといった反応を見せた。

 

「こいつは比企谷八幡、公園で寂しそうに1人で野球してたから誘ってみた」

 

コノヤロー、やっぱり1人野球をバカにしてやがるな、これだったらあの時に1人野球の面白さを体感してもらうんだった。それならばこんな発言をすることもなかったかと思うと悔しくて仕方ない。

 

「1人で野球ってなんですか? こいつそんなに寂しいやつなんですか?」

 

テメーもかよ! クソ、何でどいつもこいつもわかろうとしないんだ。わかり会うことはできなくても、分かり合おうとい意思さえないのでは到底世界平和なんかできるはずがないわけだ。

 

「まあ確かに寂しい奴だな」

 

落ち着け俺、どうあがいてもこの状況では俺が寂しいやつだというのは覆しようがない、我慢だ後で無料体験のときに思いきりこけ下ろすんだ。そうだ、争いは醜いものだ、この心理に小2でたどり着いてる俺マジスゲー。

 

「おーい、藤宮ー連れてきたという子はどこにいるんだ」

 

心のなかでぶつぶつと呟いていると、扉を開けて入ってくる少しゴリラに似た見た目と、俺の腕の3倍はあるであろう逞しい腕をしている人が入ってきた。というか人なのかこの人?むしろジャングルにいるべきだと思うんだが。

 

「あーこいつですよ」

 

「全くお前はなー、少しはこちらに話をするなりしてからにしろ。 どーせまた無理矢理連れてきたんだろ」

 

ゴリラにしては鋭いな、正しくその通りだ。

 

「はは、すいません。 でも今度こそ大丈夫ですよ見てくださいこのふてぶてしそうな目を」

 

「ちょっとこっちに来い、お灸を据えてやる」

 

そういうと藤宮の襟首をつかんでずるずると引きずっていった。

 

「あっちょっと待って、本当にマジで今回は話をつけてですね~」

 

バタン。

 

いったい誰なんださっきの人は。

 

少し気になるが、藤宮は連れていかれてしまったし、この巴とかいうやつはなんか気にくわないし。

 

だがまあどうせ今日限りでやめるつもりだし、どうなろうと知ったこっちゃないな。

 

「なあ、さっきのゴリラみたいな人誰?」

 

巴にそう聞くと少しビックリしたような反応を見せた。なんだ、そんなに話しかけられたのが嫌か。

 

だがそういうことではないようで、少し悪戯っぽく笑ってきた。

 

「コーチだよコーチ」

 

「コーチ!?」

 

思わず巴の方を向いて叫んでしまった。だが思わず叫んでしまった俺は悪くないだろう、何せ見た目はどう考えてもゴリラだ。スラムダンクに出てくるやつそっくりだ。

 

「マジかよ、俺ゴリラかと思ったぜ」

 

「ははっ違いねーな、俺もこんなところでコーチなんかしてないでジャングルに行った方がよっぽど似合ってるって思ったぜ」

 

「ははっ間違いないな」

 

そういってから自然に笑っていた自分に少し驚く。こいつそんなに悪くねーかも、そんな考えが頭をよぎるが、すぐに首を振って否定する。来るのは今日だけ、下手に仲良くなったら去りがたくなってしまう。

 

「どうしたんだ?」

 

「何でもない」

 

なおも追求しようとしていたが、再びドアの開く音がすると今度は50人ぐらいの人がガヤガヤと入ってきたことで、追求は免れることができた。

 

心の中でふーと息をはいていると、1人の女の子がこちらに向かって手を振りながら走ってきた。

 

「あーっ巴もう打ってるしー、一緒にやろうって言ったのにー」

 

「そっちが遅いのが悪いんだろ、もう少し早くお昼食べろよ」

 

ぷーっと頬を膨らませ巴に話しかけた女の子と笑いあって話している姿は、とても仲良しに見えた。

 

べっ別に羨ましくないもんね、ただちょっと羨ましいだけで、って結局羨ましいのかよ。

 

女の子はとてもかわいい子で、何て言うかこう、お日様みたいな感じで笑う子だった、その笑顔の暖かさは小町に勝るとも劣らないほどだろう、だがしかし、やはり俺の中の笑顔1位はやはり小町だな。

 

 

「あれ? そっちの子って誰だっけ」

 

「えっあっいやっその」

 

「お前なにどもってんの、こいつは比企谷八幡っていうらしい。 また藤宮さんが連れてきたんだって」

 

「そうなんだ、私はね高津潮音(たかつしおね)って言うんだ。よろしくね」

 

そういってにっこりと笑った。不覚にもドキッと少ししてしまった。

 

「そういえば俺もまだ自己紹介してなかったな、柊巴(ひいらぎともえ)だ、よろしく」

 

「ああ、えーっと、その比企谷八幡です」

 

少しキョドりながらだが挨拶を終えると、新参者がいることに気づいたのか、次々と人がよってきた。

 

「えー誰誰? また藤宮くんが新しい子連れてきたんだって?」

 

「うわー、今度はまた小さい子が来たもんだねー」

 

「あんまり無理しちゃダメだよ」

 

次々と矢継ぎ早に言葉がふられてきて、あー、うーだの訳のわからない言葉が口からこぼれてしまう。しかし、彼ら彼女ら年上の方たちは遠慮容赦なく話しかけてくる。

 

だっ誰か助けてーー。

 

その願いが届いたのか、先程のゴリラコーチが再び頭を押さえて涙目になっている藤宮をつれてコートに入ってきた。

 

「よーし、アップを始めるぞ!」

 

その瞬間、コート内の雰囲気が変わった。先程までのワイワイしていた人たちは皆真剣な目に変わり、口を閉ざした。

 

俺はその豹変具合に少し不安になり、巴に話しかけた。

 

「なあ、アップって何をやるんだ?」

 

「ああ、コーチ、こいつ無料体験のやつですけど」

 

そういうと、さっき巴の練習に付き合っていたコーチが俺の方に来て短く説明をしてくれた。

 

「ごめんごめん、まだ説明してもらってなかったんだね。 え~と、ウチは無料体験の人にも一緒にアップしてもらってるんだけど、あんまり無理しなくていいからね、無理だと思ったらすぐに私たちに言って休んでいいから」

 

え~と、つまりこのメンバーと同じことをすればいいのね、楽勝楽勝。

 

 

 

何て言っていた自分をブッ飛ばしたい。

 

めちゃくちゃきつい、コート10週から始まり、サイドステップ、ジャンプアンドダッシュ、キャリオカステップ、ラインタッチ等基本の動きをそれぞれ10週ずつ、それもかなりのハイペースでだ。同い年のはずの巴や潮音は息は乱しているが、俺の様に膝に手をつくようなことをせずなんなくこなしている。

 

じ、冗談だろ、しかも藤宮が途中から俺のとなりに来て励ましてくるし。クソ、冗談じゃねー俺は茶っ茶とこなして家に帰るんだよー。

 

そして、すべてを込めて全力でダッシュをするため足に力を込めた瞬間、筋肉が悲鳴をあげた。

 

回想終了、結論を言おう。

 

アップにすらついていけずに足つった。

 

「惨めだ」

 

コートの隅っこで座り込み、思わずそうぼやいてしまう。何せ同い年と思われる子供、それどころか俺より年下と思われる子でさえついていけてたのに、かくいう俺はこの様だ。

 

寧ろ茶っ茶とこなしてテニスをバカにしてやろうとさえ思っていたのに、基礎トレーニング以下の段階でギブアップ、惨めきわまりない。

 

(帰ろう、俺ごときがこんな場所にいて言い訳がないんだ)

 

そうして立ち上がり、比企谷八幡はそのまま誰にも何も言わずに走り去っていった。

 

初めてのテニスは、ラケットを使うところまでいかずに終わってしまった。

 

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