比企谷八幡をテニス選手にしてみようとするお話し 作:スティッチ
それではごゆっくりどうぞ。
翌日の日曜日、比企谷八幡は多大なる激痛に見舞われた。
いや、兆しはすでに昨晩からあった。あの地獄のテニスクラブから帰り、風呂に入って寝ようとしたあたりからすでに体に違和感はあった。ただの気のせいだと意に返さなかった。だが、朝7時の目覚ましによって目を覚ますと、とたんに痛みを感じた。
軋みを上げる間接、悲鳴を上げる上腕二頭筋、腹筋、大腿筋、果ては足の裏の土踏まずまで、おとなしくしていても体を動かしても痛みは容赦なく彼の体に襲い掛かった。。
体を起こすことを許さず、立ち上がることを認めず、歩くことを全身が否定する。
何のことはない、ただの筋肉痛だ。
朝の7時からのヒーロータイムに合わせて目覚ましをかけたというのに、強烈な激痛は俺からその心の平穏を奪い去り、20分の闘争の果てにどうにか立ち上がった俺を待っていたのは、巨大ロボが悪の怪人を倒すというヒーロー番組のクライマックスだった。
「最悪だ、あれほど楽しみにしていたのに、なぜ………なぜこのような仕打ちを」
ヒーロータイムのしょっぱなから見逃すという不運に見舞われたが、まだ一番の楽しみであるプリキュアがあると自分に言い聞かせた。
自分の心を慰めるために砂糖をたっぷり入れた卵焼きをおかずに、冷蔵庫に入れてあるMAXコーヒーを飲み物にしてテレビを見ながら朝食をとる。
ちなみに見ているものはふたりはプリキュアだ。アニメを見ながら黙々と自分の作ったご飯を食べ、物語がクライマックスに入ったときには既にマッカンを飲み干していた。
プリキュア・マーブル・スクリューでザケンナーを蹴散らした後に悪役幹部がありきたりな捨て台詞を残して去っていく。
よかった、またこの世界の平和は、プリキュアが守ったんだなと心の中でつぶやき、涙を流す。
ちょうどそのタイミングで、我がスウィートマイシスター小町がリビングに来た。起きたばかりなのだろう目をこすりながら俺に挨拶をする。
「おはよ~、お兄ちゃん。 ってまたプリキュアで泣いてたの~?」
「ああ、今週も二人が世界の平和を守る感動のストーリーを流していたよ」
おそらくこの作品は10年後にも続いているはずだ。1ファンとして断言できる、このクオリティー、戦闘描写、どれをとっても美少女戦士セーラームーンを超えていると俺は断言できる。
セーラームーン見たことないけど。
「お兄ちゃんさー、いい加減プリキュアで泣くのやめなよー友達にも聞いてみたけどプリキュアでなく子なんていなかったよ。」
「ばっかお前それはだな、お前の友達の誰1人としてこの作品の心の面白さを理解していないんだ。考えてもみろ、本当はただの1学生だったはずの平凡な2人がいきなり精霊の力で変身することになり、命をかけ戦いに身を投じることになった。どう考えても可哀想だろ、だから俺は今日も命が助かってよかったなーという感動の涙を流すわけだ」
「うわー、いくらなんでもそんなこと考えるのは小町的にポイント低いよお兄ちゃん」
そういうと、かなりジトーっとした視線を俺に送ってくる。
それにしてもまだ保育園児だとは思えないくらいしっかりしてるよなー、最近ポイントとかわけのわからないこと言ってくるけど。
きっとあれだな、俺の育て方がよかったんだろう。あの放任の親が小町をこんな立派に育てられるわけがないもんな。 マジ俺ってスゲー。
「それよりさ、お兄ちゃん小町おなかが空いたからさ、ご飯作ってほしいな」
「おう、卵かけご飯でいいか?」
そういうと本気でないわーといった表情を浮かべる小町。これはまずいまた無理難題を吹っかけられてしまう。
「お兄ちゃん」
「じょ、冗談だって小町、あれだな、うん、卵焼きで言いか?」
「うーん、まあいいよそれで。あっ、でもあんまり砂糖入れないでね! お兄ちゃんの作る卵焼きすごく甘いんだもん」
「なんだよ、前は甘いのが食べたいって言ってたじゃないか」
「それでも限度ってものがあるの、お兄ちゃんのは甘すぎ! そんなのばっかり食べたり飲んだりしてると虫歯になっちゃうよ」
なんかマジで小町のほうがしっかりしてる気がする。まさか甘いもの大好きな年頃の保育園児からそんな正論が出てくるとは思ってなかった。
「わかったよ、それじゃちょっと待っててくれすぐ作るから」
台所から洗ったばかりのフライパンと、冷蔵庫から新しい卵を2個取り出す。
卵をといでからコンロに火を点ける。その間にしょうゆと砂糖を少々入れて味をつける。
火の通ったフライパンに卵を入れて弱火にかえ、3分ほど焦げないように慎重に火を通して卵を丸める。
小町お気に入りのお皿に出来上がった卵焼きをのせてリビングまで運ぶと、小町はとてもうれしそうに笑顔を浮かべた。
「わーい、ありがとうお兄ちゃん。これちゃんとあんまり甘くないやつ?」
「当たり前だろ、いくらなんでも可愛い妹にあんなこと言われて砂糖をたっぷり入れるなんてできないからな」
「えへへー、お兄ちゃんに可愛いって言われた~。今の小町的にポイント高い」
出来立ての卵焼きを口に運び、笑顔のまま咀嚼をする。
なんか小町が食べてるだけでスゲーうまそうだな、これも可愛い小町だからこそのなせる現象だな、やはり俺の妹は世界1可愛い。
異論は認めない。
「卵焼きありがとうねお兄ちゃん」
「ん、どういたしまして」
小町の使った食器を運び、俺のとまとめて洗う。
洗剤のついたスポンジを泡立たせて食器を洗っていると、小町が背中から飛びついてきた。
「どうしたんだ小町」
「えへへ~、お兄ちゃんになんか甘えたくなったからー。これってポイント高い?」
やっぱりしっかりしてるといっても甘えたがりやな所はまだ保育園児だな、俺は少しだけ小町の愛くるしさに微笑んで答える。
「おう、八幡的にはポイントかなり高いぞ、何なら高すぎてポイント残高がカンストするぐらいだ」
「カンスト?」
やはり小町は用語を知らないようで、子供特有の、首をコテンとするあざと可愛い仕草で俺のポイント残高をさらに上昇させる。
「あれだよあれ、ようは小町が可愛すぎて胸がいっぱいだってことだよ」
「ほんとに! 今のも小町的にはポイント高いよお兄ちゃん」
できるならば今食器を洗っているんだから、背中でほっぺをスリスリするのをやめてくれると八幡的にはさらにポイントが高くなるんだがな。
あと筋肉痛がひどいから触れられるとけっこう痛い。
そうやって兄弟でイチャコラしていると、リビングのドアが開き、誰かが入ってくる音がする。
「どうしたんだい小町? 朝から元気いっぱいなのはお父さん的にも・う・・・れ・・・・・・・・し・・・い・・・・・・・よ」
親父だった。
まずいと俺の頭の中で警報が鳴り響く。親父の小町へのできあいっぷりは俺以上なんだ、小町が俺の背中で頬ずりをしている姿なんて見られたあかつきには俺は殺される。
「貴様、こっちに来い」
親父の口からどすの利いた声が発せられる。
「なんだよ親父」
ほぼ間違いなく殴られるのだろうが、今回ばかりは筋肉痛がひどいのだから勘弁してもらいたい。
「貴様どういうつもりだ!! 小町に背中とはいえ頬ずりをしてもらうなんて羨まし過ぎる!! 俺なんて今年に入ってまだそんなことしてもらってないんだぞ!!」
「だってお父さんすっぱい臭いがするんだもん」
「ゴハアーーーー」
小町の純真無垢な一言は親父のメンタルに多大なダメージを与えた。
俺を殴りかかろうと拳を振り上げた振り上げた形のまま崩れ落ち、手を床につける親父。
「小町、どういうことだい?」
「だって去年までは一応お父さんだから甘えた振りをしてたけど、なんか急にすっぱい臭いがするようになったから。 あっそっか、加齢臭ってやつだね」
「グボアハー!!」
その断末魔の叫びとも取れる雄叫びを上げ、背中から仰向けに倒れる。
リアルに泡吹いて白目むいてるんだけど、まあ大丈夫だろ、親父だし。
「お父さんどうしたんだろうね、お兄ちゃん?」
「たぶん疲れがたまっていたから倒れちゃったんだよ。物置にあったホコリまみれの毛布を後でかけてあげような」
「うん!」
満面の笑みで、俺の言ったことに従い物置からホコリまみれの毛布を持ってきて親父にかけてあげる俺と小町。
息子を私怨で殴りかかろうとしたクズにまで気づかいをしてあげる俺ってやっぱり優しいな。もうこれで間違いないな、小町の優しさは俺と似たんだ。
食器を片付け終え、テレビで天気予報を見ると今日は朝はあいにくの空模様だったが、午後からは晴れるという予報がされていた。 ちなみに親父はまだ眠っている。
「お兄ちゃん、きょうお昼から雨やむんだって」
「らしいな」
「あのね、小町ねどこかに行きたいなって思ってるんだけど」
「うえ、マジで?」
「おにいちゃーん、小町的にそういう態度ポイント低いよー」
ぶーっとほっぺたを膨らませながらそう言う小町はやっぱり世界一かわいかったです。
「とは言ってもなー、きょう母さん朝帰りで疲れてるだろうし、親父は眠っちまってるし俺も体中痛いし、普通に公園で遊ぶことに………」
「なに、小町お父さんとどこかに行きたいって? いいよ小町海だろうと山だろうとどこにでも連れて行ってあげるよ」
いきなり親父がガバッと起き上がると、気持ち悪いほどの高いテンションでいきなり騒ぎ始めた。
「さあ、小町どこに行きたい、お父さんは愛する小町のためならばどこでもいいぞー。アハハハハ~」
そういって親父は壊れたような、というかぶっ壊れたままリビングを出て行区親父の背を見ながらポツリと小町がつぶやく。
「うわー、お父さんさすがに小町引いちゃうよ」
きっとその発言を聞けばまた倒れてくれたのだろうと思うと、もう少し早く言ってほしかったな。
「まあせっかく親父がどこか連れてってくれるっていうんだし、おとなしく甘えようぜ」
「うーーん、まぁしょうがないからお父さんに甘えるよ」
哀れおやじ、来年やっと保育園児に上がる妹にしょうがなく甘えられるとか。
しかもその甘えてくる小町を引っ提げて俺にどや顔決めてくるところまで想像できちまったから、余計に不憫で涙が止まらない。
昼になると母さんも復活したようで、俺の作ったご飯でお昼を取り、午後のお出かけの準備を済ませる。
「それで、小町はどこに行きたいの?」
母さんが小町に問いかける。それにしても相変わらず俺には何も聞かないのね。いつものこととは言え、最後に甘やかされたのは一体いつだったか既に記憶がないんだけど。
小町はウンウン考えていると頭からピコーンと豆電球を光らせて言った。
「うーんとね、ららぽーと!」
すると親父がいまだに気持ち悪いテンションのままうなずいた。
「ららぽーとだね、わかったよ、すぐ行こう今行こう。さあ小町、ゆっくり準備をしておいで~。おい、さっさと準備をしろ息子、30秒だけ待ってやるがそれ以上は置いていくぞ」
小町がお出かけの準備のために上にあがっていくと、俺にものすごいどすの利いた声第2弾が放たれた。既に準備は終わらせてあるから何も問題はないのだが、なんだろうな、気のせいでなければ親父の背後から「おまえは来るんじゃねー」という文字が浮かんであるように見えるのだが、違うよね、俺厄介者扱いされてないよね。
「いや、俺もう準備してあるんだけど」
「ちっ、やはりその荷物はそういうことだったのか」
もう嫌だこの親父、どう考えても俺が来るの嫌がってるよ、どんだけ小町と一緒にいたいわけ?
親父からの一方的な殺意に辟易としてしまう。一体いつからこうなったのだろうか、確か去年小町が「将来お兄ちゃんと結婚する」と言ったあたりからな気がするが、まさかこの親父、その程度のことで嫉妬なんかしてるのか、冗談だろ。
「お待たせー、お兄ちゃんとお父さん」
自分なりの分析結果にげんなりしていると、着替えと準備を終えた小町が母さんと一緒に降りてきた。
「かわいいよ小町ー、さあお父さんの胸に飛び込んでおいで、いっぱい抱きしめてあげるよ」
「えー、お兄ちゃんがいい」
そういうと、俺の右腕を絡めとるように抱きしめてくる小町、やっぱり可愛いなー。
「ムスコ、アトデ、ブッコロス」
しかし、親父がついに悪魔に魂を売ってしまったかのように片言で俺に呪詛を送っていることを考えると、これ以上は俺の身が危なすぎる。
断腸の思いで小町を腕から引き剥がすと、案の定小町は少しさびしそうな顔をした。
(スマン小町、これもすべて親父が悪いんだ)
しょんぼりとした小町は母さんが頭をなでることで機嫌を直し、親父は相変わらず俺に殺気をガンガンに飛ばしていた。
どう考えても家族団らんといった雰囲気のないまま俺たちはららぽーとへ行くことにした。
ららぽーとで俺は買っても遊ぶ相手のいない遊戯王カード2パック300円を買ってもらい、小町は1万円ぐらいのお人形を買ってもらった。
分かってはいたが、この金額差が埋めようのない妹との愛情の差なんだろうな。
そんな感じで日曜日は比較的平穏に過ぎていった翌日、当たり前のように一週間で1番嫌な曜日である月曜日が来た。
ちなみに二番目に嫌いなのは日曜日だ。理由としては翌日に学校に行かなければいけないという憂鬱が入るからだ。
やっぱり最高なのは土曜日だな、今日が休みで明日も休み、宿題をやってなくても明日やれば一家で終わらせれる。
なんて最高の日なんだ。
とまあ、勘のいい人ならわかるように、昨日の夜に宿題をやっていないことを急に思い出し、慌てて1時間かけて算数の課題を終わらせたので、ちょっと眠い。
正直これが今朝とかだったらもういっそのことやってませんで腹をくくれるというのに。
当然夜眠るのは遅れ、結果今日は朝寝坊をすることになり、普通ならばいっしょに登校をするはずの同じ班の人たちは先に行ってしまった。
なので今俺は一人あくびを噛み殺しながらさみしく登校している。
別に誰かと話さずに登校するというのは普段から慣れっこだが、一人で登校するのはなんだか寂しい。
まだ節々に残る筋肉痛と眠気と戦いながら歩き、小学校の校門にたどり着いた。
時計は8時15分を指しているので、結構ギリギリだったりする。
校門で先生に一人で学校まで来ていたのを見られ、いったいどうしたのかと聞かれたりした以外は特に何もなかった。
たぶん今日の放課後あたりにでも班の奴らを集めて単独行動をするのは危ないので、これからはちゃんと待ってあげましょうとかいう話をするんだろうな。
だが、小学生、それも男子に限って言えばなぜわざわざ朝の遊ぶ時間をどうでもいいやつのために削らなければいけないんだという話になるのだろう。
よって、待ってあげましょうとか言われてもそんな子とを聞くぎりはなく、下手をすれば何くだらないことでちくってんだとか言われるのは間違いない。
よって適当にごまかすので余計に時間を食ってしまい、今の時間は8時25分すでに朝のホームルームが始まるという合図の音楽が流れ、校庭で遊んでいた人たちは一斉に走って校舎へ入っている。
人込みでおされたりするのは嫌だから、少し離れた所でぼーっと待っていることにする。
その時、後ろから急に声をかけられた。
「あれ、もしかして比企谷君?」
ものすごく聞き覚えのある声に思わず、ひゃいとか言って振り返ってしまった。
「あ、やっぱり比企谷君だ」
そこにはサッカーボールを持っていた藤宮がいた。
土曜日に連れてこられたテニスクラブで黙って帰ってしまい、正直申し訳なさで顔を合わせたくなかった男は、実は同じ小学校だった。
「やっべ」
つぶやいたその一言は、周りの喧騒にかき消され、自分にしか聞こえなかった。
ちなみに最後の方の小学校は班で一緒に登校とか、先生のお説教話、ちくったとかでのいじめは自分の体験談です。
いや、やっぱりあれだよね、同じ小学校でも学年とかが違うと全く面識無かったりするもんね。
とまあ、正直週に1話できればいいやとか思ってたけど、暇がたっぷりあったこの一週間でさえ、1話作るのにものすごく時間がかかってしまった。
毎日投稿している人とかマジで尊敬します。
なので、毎週土曜日投稿を目指しますけど、まず守れないと思ってください。
書き上げたら投稿するスタンスで行くので、もしかしたら週に2つ出せる時もあるかもしれませんけど、
下手をすると月1とかも絶対あるので、アップしてあったらのぞいてみる感覚でお願いします。