比企谷八幡をテニス選手にしてみようとするお話し   作:スティッチ

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お待たせしました、第4話です。

9000文字なので、今回は少し長めです。

評価や感想、どしどし送ってください。




第4話~一歩一歩しっかりと~

あらすじ

1週間だけテニスをやってみよう、それでつまらなかったならもう二度とかかわらない。

という約束をした藤宮祐一、俺、比企谷八幡も1週間だけならばいいかという考えをもって個人レッスンを行うこととなったのだが・・・。

 

「ハアハア、まあ、とりあえず今日はラケットの握り方とボールの打ち方から覚えよっか」

 

そういうと、背中に背負っていた荷物を降ろし、その中から何本かのラケットを取り出した。

 

「えーっと、とりあえず、俺の昔使ってたラケットがこんぐらいあるんだけど、比企谷君はどれ使う?」

 

「いや、どれって言われても」

 

「えー、じゃあドのラケットが一番かっこいいと思う?」

 

とりあえず、藤宮が出したラケット5本を見て、一番かっこいいと思った色を選んだ。

 

「うん分かった、じゃあ比企谷君、一応聞くけど、ラケットの握り方わかる?」

 

「え、こうじゃないんですか?」

 

とりあえずラケットのグリップを持ってみせる。

 

「まあ、そうなんだけど、一応ラケットの握り方には3種類あって………」

 

そういうと、藤宮は俺の手を取って、ラケットを手の中でいろいろ動かしながら俺に説明をしてくれる。

 

「まずラケットを縦にして握るのがイースタン・グリップ、ラケットを真横にして握るのがウエスタン・グリップ、その2つの中間で握るセミウエスタン・グリップの3種類があるんだ。

 一般的に使われているのはセミウエスタンなんだけど、比企谷君は初心者であんまり力もないから少しイースタン寄りに握っておくといいよ。今後パワーがついてきたらボールにスピンをかける必要が出てくるから、その時はウエスタン寄りに変えればいいからね」

 

「は、はあ」

 

と、とりあえず覚えておこう、えーっと、ラケットの握り方は3種類、イースタン・グリップとウエスタン・グリップ、セミウエスタン・グリップで、俺が使うといいって教わったのはセミウエスタン・グリップだけど、少しイースタン・グリップ寄りに握って………。

 

「よし、じゃあ次はボールの打ち方だけど、まず基本の構えからね。足を肩幅にまで広げてやや中腰に構える、それでボールが来たとわかったら、そのボールの後ろに軸足を持ってくる。

 あ、軸足っていうのはボールを打つためにふつうは踏み込むんだけどその前に体重を乗せておく足のことで、右利きの人のフォアハンドの軸足は右足になるからね。

 それと、フォアハンドっていうのは聞き手側で打つ基本的なストロークのことだよ。」

 

え、ええと、足を肩幅まで広げて中腰、軸足をボールの後ろ、フォアハンド………。

 

「それでね、ボールの後ろに軸足を準備したらラケットを後ろに小さく引く、テイクバックっていう名前の動作ね。

 そして、本格的に打つ動作に入るんだけど、ラケットをボールの下から入れて、ややこすりあげるように振るんだよ、そうすると順回転のスピンがかけられて、安定したストロークを打てるんだ。

 それで、その時の打点が大体腰の高さで、やや左足より前に位置するといいね」

 

え、ええっと………。

 

「それで、ボールを打つときなんだけど、運動連鎖っていうのを利用するために、軸足を前に蹴って股関節を前に出して、体の正面でとらえるといいんだよ。

 あ、それと体重移動も必要で、軸足の蹴りと同時にしっかり軸足に乗せた体重も前に乗せておかなきゃだめだよ。

それで、一番大事なのがボールを当てた時の面の向きで、しっかり自分が打ちたいって思った方向に向けておかないとコントロールできないからね。

 とりあえず、最低限覚えておいた方がいいことは言ったけど、何かわからなかったことってある?」

 

一気に説明を終えた藤宮は確認をとるために俺に質問を投げかけてきた。

 

「じゃあ、一ついいですか?」

 

「うん、いいよ」

 

「何言ってるのか途中からわけわかりませんでした」

 

「え!?」

 

「説明が細かすぎるし」

 

というか、

 

「そんないっぺんにいわれてわかるわけねー!!」

 

結論を言うと、藤宮の説明がよくわからん。

 

「よし、分かった!!」

 

懇切丁寧に教えてくれたつもりなのだろうが、まったくもってさっぱりわからない、というかテニスをやったこともないような奴にそんな細かくいっても理解できるわけないだろう。

 

なんて言ってたら、いきなり藤宮は合点がいったといわんばかりにしきりにうなずいた。

 

「確かに考えてみればそうだよな、いきなりラケットの弾き方とかボールへの入り方とかスイングの仕方とか口で言われてもわかんないよな」

 

「はあ、じゃあ何が分かったんですか?」

 

「とりあえず、ボールを打ってみよう」

 

そういってラケットを入れていたバックからさらに2球ボールを出した。

 

「まず基本の壁打ちから始めよっか」

 

「壁打ち」

 

とりあえず、言葉を反復した俺に、そうだよと言って、ボールを打ち始めた。

 

「さっき俺が言ったことをもう一度言うね、」

 

壁に打たれたボールが跳ね返ってくると、藤宮は先ほど俺に行ったことをもう一度言いながら、ボールを打つ。

 

「まず、基本の構え、足を肩幅にまで広げてやや中腰に構える、そしてボールが来るとわかったら、そのボールの軌道に合わせて後ろに軸足を持ってくる」

 

「ボールの後ろに軸足を準備したらラケットを後ろに小さく引き、ラケットをボールの下から入れて、ややこすりあげるように振り、大体腰の高さでやや左足より前の位置でボールを打ち、軸足を前に蹴って股関節を前に出して、体の正面で捉える」

 

「ラケットの向きはこの場合は正面を向くようにフォロースルーをやる。打った後はすぐに基本の構えに戻ってボールに対して準備をするんだよ」

 

俺に動作一つ一つを説明しながらも、壁打ちは続けられる。いや、俺に教えてあげるとかいうくらいだから上手だとは思ってたけど、素人目にも本当にうまいんだなと思わせるくらいに簡単に打っていた。。

 

大体30~50回ぐらい壁打ちを続けると、ボールを手で受け止めてこちらを向く。

 

「じゃあ、比企谷君が言うように少しやることが多くて細かいけど、これができないと完璧なストロークって言えないからね」

 

そういうと、はいと言って俺の手に1球ボールを手渡す。これは俺にもやれということなんだろう。

 

まあ、なんかやること多そうだったけど、案外やってみると簡単なのかもな。

 

藤宮がさっきまで売っていた位置に立ち、あいつがやってたみたいにボールを地面でワンバウンドさせてから落下してくるところを打つ。

 

スカッ

 

豪快に降りぬかれた俺のラケットは、何の手ごたえも残すことなく無様に空振り、ボール補その場で3度ほどと軽く弾んだだけだった。

 

詰まることろ、この現象を人はこう言う。

 

カ ラ ブ リ。

 

「………」

 

「………」

 

俺と藤宮の間に、ものずごく気まずい沈黙が流れる。

 

「なあ、」

 

「だ、大丈夫、本当にテニスやったことがない子には、たまにそういう風に空振りする子だっているからさ、別に比企谷君にセンスというものが皆無だというわけではないよ!!」

 

恥ずかしさで赤面する俺に、藤宮は慌ててフォローを入れる。

 

フォローしてくれるところ悪いんだけど、なんかそこまで食い気味で叫ばれると逆に俺にセンスというものが全くないと言っているようなもんだからへこむぞ。

 

だが、確かにこんなところでへこんでいるわけにもいかない。何せ俺はまだテニスというものの入り口にすらいないのだから。

 

気を取り直し、再びボールを地面でワンバウンドさせてから落下してくるところを打つ。ポーン、という軽いインパクト音と手に残る、打ったという強い感触がいアマmで自分で感じたことのないもので、少し新鮮さを感じる。

 

自分の打ったボールが壁から跳ね返ってくるので、藤宮の言ったアドバイスを思い出しながらそれを追いかける。

 

えーっと、ボールの後ろに軸足を置いて、ボールの後ろってどこだ?えーっと軌道から予測してとか言ってたけど、ってああ、もう目の前にってギャーーー。

 

スカッ

 

本日二度目の空振り、ボールは当たり前だが俺の後ろを転々と転がっていった。

 

羞恥心、恥じらい、その他もろもろの複雑な感情が、モネの中でごちゃ混ぜになり、ちょっと気を抜くと涙がにじみ出てきそうな気がする。

 

というか、泣いてもいいですか?

 

 

結局この日は2時間近くを壁打ちにあて、その中でも、藤宮が何度か手本を見せてくれたり、俺の体を動かして、こういう風に動けばいいと、手取り足取り教えてくれた。

 

それだというのに本日の成果といえば、ただ空振りをしなくなったというだけだった。

 

「じゃあ、もう暗くなるから今日は帰ろうか」

 

「はい………」

 

2時間というと、どこぞのスポ今漫画ではごく当たり前の練習時間だが、これが実際にやってみると、ものすごくきつい。

 

まったく前進しなかったことに対する落胆もあるが、それ以上に足腰の疲労感が半端じゃない、昨日の筋肉痛もまだ完全に抜け切れていないというのに、今日もまたこれほどまでにハードな運動をしてしまったのだから、恐らく明日も筋肉痛間違いなしだろう。

 

「じゃあね比企谷君、明日は6時に迎えに来るから」

 

「あ、さようなら」

 

まあ、とりあえず、明日は寝過ごすことの内容に今日は早めに風呂に入ってから寝るとしよう。

 

今日みたいに筋肉痛で何十分と布団の中でもぞもぞしている可能性を踏まえると………。

 

「はい?」

 

6時に迎えに来るから?

 

「うん、体力つけるために毎日一緒に走ろうって言ったじゃん」

 

そ、そういえば………。

 

「だから、明日の6時に迎えに行くから、準備しておいてね」

 

それを言い終わると、藤宮はまた明日と言って去っていった。

 

お、俺の安穏がーーー。

 

 

 

翌朝、6時に迎えに来ると言っていたので、5時半に眠い目をこすって頑張って起床し、朝食を食べ、身支度を整える。

 

しかし、結局藤宮が来たのは6時30分を少し過ぎたころで、寝坊でもしたのかと聞いてみたところ。

 

「いやー、比企谷君の家聞き忘れててさ、町中探し回ってたんだよね」

 

という答えが返ってきた。

 

なんというか、バカというか、残念な人なんだな。

俺の中での藤宮という人の認識が変わった瞬間だった。

 

朝のランニングは、町内を1週(とはいってもなんだかんだ5キロ以上はある)というものだった。

 

再び家に戻ってきた時点ですでにヘロヘロな感じになり、ベッドに行けば、そのまま夢の国に行ける自信があった。

 

幸い足をつるようなことはなかったが、町内1周するのに1時間近くかかるのはどう考えても時間をかけすぎだよな。最後の方とか個人的にはナメクジより遅かったんじゃないかと思う。

 

それから学校につくと、まず1時間目の算数の授業に、朝のランニングの疲労からかとんでもないほどの睡魔が襲ってきてあえなく撃沈。そのたびに先生から肩を揺さぶられては目を覚まし、再び睡魔に敗れ去るということを繰り返す。

 

2,3限目になってようやく頭は冷めるが、その間の授業は一切頭に入ってこなかった。

 

つまりノートを取っていない。これはマズイ、友達がいるのならば、こういう時に「ごめーん、ちょっとノート貸してー」とかいうこともできるのだろうが、俺にはそんなやつはいない。というか友達がいたらおそらく藤宮が俺に声をかけるのはまずなかっただろう。

 

そんな訳で算数と国語の授業はノートを取っていない。

 

国語は大丈夫だ、俺の得意な授業だから。だがしかし算数はマズイ、俺の苦手な授業だから。1年生のころのテストなんて70点以上を取ったことないぞ。

 

ということで、4時間で学校が終わり、家に帰ってから最初にやるのは今日終わらせたであろう授業の範囲を復習することだ。

 

ノートを開いて教科書に書かれていた掛け算とにらめっこをしながら、2時間かけどうにか今日進んだと思われる場所まで進めることができた。

 

やはりどうしても算数は好きになれない。こんなことをやるくらいならもう少し友達の作り方とかを教えてくれたほうが将来に実益がありそうなんだがなー。

 

そんなことを心の中で愚痴りながらノートをしまい、明日の用意をしようと思ったら、机の横に立てかけていたラケットが目に入った。

 

藤宮が昨日、俺にあげると言って渡されたものだ。

 

藤宮は今日はクラブの方に行くから、指導してあげられないと、学校で俺に言ってきた。

 

まあ、あいつ、あのクラブの中でかなり強いみたいなこと言ってたから、当然素人同然の俺に1週間もつきっきりになるわけないよな。

 

昨日は俺の安穏が侵されてしまうと思っていたが、別にそこまで俺の日常に侵食してくるわけではなさそうだ。

 

この分なら、本当に1週間で終わらせれそうだな。

 

そう思いながらラケットを手に取って眺める。

 

塗装が所々剥げており、ほのかに色あせもしている。

 

見れば見るほど、藤宮がこれを使い込んでいたというのが分かった。

 

俺にテニスを教えてくれてた時、本当に楽しそうで、俺が全然うまく打てなくても何度も一から俺に説明してくれたり、どこが悪かったかを言ってくれたり。

 

「あいつ、本当にテニスが好きなんだな」

 

外を見てみると、まだ日は十分に高い、小町は親が迎えに行くからいつも行っている公園に行けばまだボールを打てるだろう。

 

「まあ、せっかく教えてくれるんだしな、ちょっとはうまくなって、明日あいつを驚かしてやれ」

 

もたれかけていた椅子から立ち上がり、家の戸締りを確認するべくリビングに行く、窓のかぎが閉まっていることを確認し、玄関の鍵をかけると、藤宮にもらったラケットの重みを背中に感じながら公園まで走って行った。

 

家を出たのが3時くらいだったが、今の時期なら6時でもまだ明るく、十分練習する時間はある。

 

公園につくと、穴場なだけあり、人っ子一人見当たらなかった。

 

まあ、その方が俺の精神的にも安心だからいいんだけどな。

 

昨日と同じように、藤宮に言われたところを思い出しながら、壁打ちを始める。

 

1時間ほど一人で頑張ってみるが、朝のランニングからくる疲労もあってか、昨日よりも体の動きは鈍く、まったく思いどおりに打つことができなかった。

 

軸足を作る位置は、たぶんここで合ってて、いやでもボールのバウンドに合わせてちょっと前後して正確に合わせないとダメだし、それにボールが右に左に飛んで区から、藤宮みたいにその場でパンパン打つこともできないからストロークの1,2の3のリズムも悪いし………。

 

そんな風に頭でごちゃごちゃ考えてるからうまくいかないのではないかとは思うが、何も考えずにやってたら普通にひどいことになったので、やっぱり考えながらでも続けるべきなんだとは思う。

 

思うんだが、こうまでうまくいかないと、さすがに凹んでしまう。

 

「もともと今日はやらなくてもいい日だったんだから別に家に帰ってゲームしてても誰も何にも言わないもんな」

 

とりあえず、あと1回だけやろうと心の中で決め、もう一度壁打ちをするが、

 

ガン

 

いきなりフレームにあててしまい、ボールは明後日の方向に飛んで行ってしまった。

 

「はあ、本当に憂鬱になるな」

 

とりあえず、明後日の方向に飛んで行ったボールを探しに行くか。

 

木々の間に飛んで行ったのは見えたので、そこをがさがさと探していると緑の中に黄色い球体が引っ掛かってるのが見えた。

 

しかし、

 

「高いな」

 

木の天辺に引っかかっており、かなり木登りの上手いやつじゃないと取るのは難しそうだ。

 

「はあ、明日の朝藤宮に謝るか」

 

結構なやる気をもって始めただけに、かなりテンションが下がっている自覚がある。

 

もう帰るかなと思い深くため息をすると、背後から声をかけられた。

 

「あれ、比企谷君何してるんだい?」

 

背後を向くと、今学校帰りという格好で藤宮がそこに立っていた。

 

そういえば、6年生は6時間まで授業があるから、ちょうど帰りは4時過ぎで、今くらいの時間になるんだった。

 

「いや、えーっと、一人で壁打ちをちょっとしてて」

 

「え!? 今日は練習なしって言ったのに?」

 

「えーっと、はい」

 

そういうと、藤宮はものすごく意外だったのだろう、目を丸くして驚いていた。

 

「そっか、でもよかった、昨日の分だとなんか嫌いになったんじゃないかなって少し心配してたんだ」

 

昨日っていうか、今現在進行形でテニスが嫌いになりそうです。

 

「じゃあちょっと待っててねー、着替えてくるから」

 

「は?」

 

俺の疑問符に気づかないまま、藤宮は走っていった。

 

いや、待っててねー、って俺帰ろうとしてたんだけど、あいつを待たなきゃダメってことなのね。

 

10分ほどすると、背中にラケットバックを背負ってこちらに走ってくる藤宮の姿が見えた。

 

「ふー、お待たせ」

 

「いや、別にそこまで待ってません」

 

「そっか、じゃああんまり時間ないけどちょっとだけ壁打ち見てあげるよ」

 

「へ?」

 

「うん、だからさ、時間もあんまりないし、早くやろうよ」

 

やっぱりそういうつもりだったんだ。

 

俺は昨日ラケットと一緒に渡されたボールの引っかかった木に目線を向ける。

 

「えっと、ボールをちょっと気に引っ掛けてしまって」

 

そういうと、藤宮も俺の見ている先に目線を向け、ああと納得する。

 

「よくあることだよ、ちょっと待ってね」

 

ラケットバックを背中から降ろし、そこからラケットとボールを取り出す。

 

どうやらボールにボールを当てて木に引っかかったのを落とすつもりらしい。

 

藤宮が軽く打ったボールは狙いから寸分たがわぬところにあたり、気に引っかかっていたボールはがさがさという音とともに落ちてきた。

 

うん、普通にすごいなこいつ。

 

「じゃあ、これでやれるだろ?」

 

うまく成功したという笑顔でこちらに向かってそう言ってくる藤宮。

 

俺はというと、この状況で帰りますとは言えず、結局再び壁打ちを再開することにした。

 

パーン

 

「あー、左肩の入りが甘いよ」

 

パーン

 

「おーい、手だけで内に言ってるぞ、しっかり体重移動と腰の回転を意識しろー」

 

パーン

 

「リズムがめちゃくちゃになってるぞ、安定したストロークを打ちたいんだったらしっかり1,2,3の一定のリズムを継続させれないとダメだからな」

 

昨日と同じように、しっかりと俺のフォームを見て、だめだと思ったところは容赦なくダメ出ししてくる。

 

俺は、一度言われたことは二度と言われないようにと、注意された部分を意識してしまい、他がダメになり、そちらを意識すると、またさっき言われたところがダメになるという、悪循環に陥っていた。

 

しばらくそれを続けていると、藤宮が止めをかけてくる。

 

自分の持っていたラケットバックから、最初から持っていたのであろう、温いスポーツドリンクを渡してきた。

 

「ってぬるっ!!」

 

「運動した後に冷たい飲み物はあんまりよくないんだよ、つべこべ言わずに飲む」

 

温いスポーツドリンクは変に甘ったるく、後味がベトッとした感じがして、少し気持ち悪かったが、せっかく貰った物なので500全部をなるべく味わうことなく飲み干した。

 

「後味気持ちワル」

 

「そりゃそうだ、スポーツドリンクとか冷たいからあんまり甘ったるく感じないだけで、砂糖とかすごくいっぱい入ってるんだ。はっきり言うとジュースとかマッ缶とか運動もしていないのに飲むと将来糖尿病になるぞ」

 

なんだと、あんなに濃厚な甘みを持っているマッ缶がそんなに危険な飲み物だというのか。まあ自分で濃厚とか言ってる時点でほぼ認めたようなものだけどな。

 

「じゃあ、俺クラブの方に行くから、また明日な」

 

「あ、ちょっと待ってください!」

 

「ん?何?」

 

俺はちょうどよいと思い、疑問に思っていたことを口にする。

 

「あの、なんで俺の面倒こんな見てくれるんですか? 別に、俺テニスとか全然知らないし、ただテニス仲間増やしたいだけなら、俺よりももっといいやつとかいっぱいいるだろうし」

 

少なくとも、こんな上達の見込みがないうえに、特に思い入れのあるわけでもないやつに気をかけていられるほど暇人なわけがない。

 

質問されたとうの藤宮はというと、かなり意外な質問をされたのか、ちょっと困った感じに笑いながら悩んでいた。

 

「んーー、なんていうか、一言で完璧に表すのが難しいんだけどさ、初めてこの公園で比企谷君見たときにさ、ビビってきたんだよね」

 

「ビビって?」

 

それはいわゆる第6感的なやつのことを言っているのか?

 

「うん、一人で黙々とひたすらフライを打ち続けている比企谷君を見てさ、何無駄なことやってるんだろうとか、意味不明っていう感情よりもさ、こう、面白い子だなって感情が先に出てきてさ」

 

「面白い、ですか」

 

「うん、だってどう考えても、ただフライを上げてるだけなのにあんなに楽しそうにやってるんだよ、面白いじゃん。 だからさ、どうせならもっと面白いことがあるんだからそれで楽しんでもらえたらなって思ったんだ」

 

「それでテニスに誘ったと」

 

「うん」

 

なんというか、考えていた以上にこいつはおかしい奴だ。

 

「俺はテニスをすっごく楽しいって思ってるからさ、比企谷君も同じように感じてくれたらって思ってるんだ。これで納得してくれた?」

 

藤宮は一歩俺に近づいて、いつも向けてくれる笑顔で聞いてきた。

 

「比企谷君はテニス楽しい?」

 

「いや、あんまり」

 

「そっか………」

 

「でも、」

 

「うん?」

 

テニスを楽しいとはまだ一度も思えていない、でも、この短い間だけどしっかり俺に向き合ってくれた藤宮の人となりは多少は分かったつもりではいる。

 

基本的にマイペースなやつで、こっちの都合はお構いなしに自分のペースに引きずり込んでくるやつで、テニスが本当にスキなやつで、俺みたいなやつでもしっかり見てくれるいいやつだ。

 

「でも、約束通り1週間はちゃんと続けます。 だから、藤宮さんが楽しいって思っているテニスを少しは分かりたいとは思うんで、いろいろ教えてください」

 

お願いします。と言って頭を下げる。

 

「うん、こっちこそ1週間お願いします」

 

藤宮もそういい、俺に頭を下げる。

 

お互いに顔を上げると、どちらともなく、ちょっとした笑いがこみ上げてくる。

 

「あっ、やべ!! 時間がやばい!!」

 

そう叫び、藤宮は全力でバス停のある方向へ駆け出して行った。

 

その直前、また明日という言葉を残して。

 

友達という言葉とは少し違うとは思う。

 

強いてあげるなら、近所のお兄さん。

 

藤宮祐一とはいうのはそんな人物みたいだと思いながら、俺は家に帰っていき、帰り道はテンションが変に高ぶって、なんだか少し照れ臭かった。

 

 家に帰るとすでに小町が帰ってきていて、兄の顔を見たとたんに「うわ、おにいちゃんの笑ってる顔気持ち悪い!」と叫ばれてしまった。

 

生まれて初めて妹に泣かされ、俺はその夜枕を濡らして眠ることになった。

 

それから、水曜日、木曜日、金曜日、と朝のランニング、放課後の壁打ちを続けていった。

 

毎日やっても全く進歩がなかった壁打ちだが、毎日続けていくことで、わずかずつだが、上達をしていき、金曜日にはしっかり30回ミスすることなく壁打ちを続けられた。

 

朝のランニングは一週間続けると、体が少しは慣れてきたのか、初日の時ほど疲れるようなことはなくなっていき、藤宮に教えてもらったことは全部自由帳に書くようにして、家でのイメトレとかに使っていると、自分がうまくなれたような気がして飽きなかった。

 

テニスを楽しいとはまだ思わなかったが、面白いとは感じるようにはなっていった気はする。

 

そして、藤宮と出会って1週間がたち、翌日に土曜日が控えている。

 

 

つまりはあれだ、ついにリベンジマッチが待ち構えている。

 

 




ちなみに、ここの比企谷君は天才というわけではなく、あくまで等身大の秀才という感じで書いていくつもりです。

なので、基本的に八幡最強状態にはなりにくいと思ってください。

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いや、本当にマジで。
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