崩れ去った建物の残骸が並んでいる木の葉の街。
大蛇丸が起こした木の葉崩しにより、大打撃を受けて一気にその戦力を低下させた木の葉。
三代目の尽力で何とか大蛇丸を倒したものの、大蛇丸を捕らえるには至らずに逃がしてしまい、里の要であった三代目火影・猿飛ヒルゼンは大蛇丸との戦いの最中、禁術の代償により命を落とした。
音の忍と砂の忍を退け、何とか壊滅は免れたものの、今や戦力維持の為に上忍や中忍を前線に出すことを忌避し、前線任務には下忍が駆り出される現状にまで落ちた木の葉の明日は正に絶望というべきだった。
栄華を極めた里も時が経てば何とやら、というやつであろうか。
しかし、それでも一部の強い意思を持つ者達は希望を捨てずにいた。
裏で色々と汚れ仕事を請け負って里を裏から支えてきた暗部や根の忍たちは元より、その街の住人たちも亡くなった三代目の犠牲を無為にせんと今自分たちができる事を精一杯やっていた。
だからこそ、この地に身を構える日向一族の宗主であるヒアシもまた、そんな里を守らんと内心で意気込んでいた。
「お疲れ様です、ヒアシ様」
「ああ。お前達もな」
側近の2人から労いの言葉をかけられ、ヒアシもまた返す。
木の葉崩しにおいて敵の忍を最も倒し、里の壊滅を防ぐ為に尽力したヒアシは今、多忙に追われていた。
具体的には日向一族宗主として、土地に関する振り分けを他の一族の宗主たちと議論したり、この戦争で戦死した多くの忍たちの弔いに墓を訪れたりなど、とにかくやることがたくさんあった。
そのためしばらくは相談役にして実の父親に屋敷の事を一時的に任せ、こうして里中を回ってやる事を済ましているのだ。
今はそれが粗方片付き、ようやく一段落着こうと想った矢先に、上忍達の知らせによるある情報が入った。
その情報とは、里にあのうちはイタチが入り込んでいるというものだった。しかもあの霧隠れの怪人と言われた干柿鬼鮫と行動しているというオマケ付きである。
あの大蛇丸よりも危険なクラスの忍が2人も入り込んでいるという事実はさすがに混乱を招きかねないので、知らされているのは上忍たちと一部の中忍たちだけだった。
――――一難去って、また一難か。
心底でため息を付きたくなるも、それを押し留めてヒアシは側近と共に己の屋敷への帰路を歩く。
うずまきナルトと聞いて、思い出してしまったのは、中忍試験で彼に敗れ去った自分の甥の事だった。
(ネジ……)
思い出して、ヒアシは懐に持ち出してきた一本の巻物を一瞥した。
うずまきナルトという、何があっても諦めない精神を持つ彼に影響を受けたネジは、ほんの少しだけだが何かが変わった。
自分や宗家への憎悪の目線は未だに変わりないが、それでも幾ばか落ち着きを取り戻しているようにも見えた。
だから、今のネジになら
なのに、それができなかった。
できない訳ではない。むしろ今こそ見せる時であろう。
ネジはナルトとの戦いを経て運命に抗う事の意味を多少なりとも理解したと見える。例え落ちこぼれであろうとも、運命に抗う事をやめてはいけないのだと思い知った筈である。
だが……それを考えるたびに自分の胸が心なしか痛くなってしまう。
嗚呼、何という滑稽、何という無様。
――――運命から一番目を逸らしているのは、他ならぬ自分ではないか。
もう一人の甥を脳裏に浮かべ、ヒアシは自嘲する。
自分の不始末で雲隠れからの理不尽な要求を突きつけられる羽目になってしまい、本来ならば自分の首を差し出さねばならぬというのに、自分は双子の弟がその息子に殺された事をいい事に、その双子の弟の遺骸を影武者として雲隠れに差し出し、自分は生き残った。生き残ってしまった。
その双子の弟を殺した息子は忽然と姿を消し、その弟であったネジは
だからこそ、自分には義務があるのだ。
双子の弟、ヒザシが書き残したこの
なのに、渡せない。
合わせる顔がない。
彼の才能を受け入れる事をしなかった宗家の一人である自分が、先に彼を拒絶してしまった
「――――ッ」
そんな臆病な自分もまた嫌だった。
こんな事になるくらいなら、自分も弟と一緒に分家の者にしてもらう事がどれだけ楽であったか――――否、今分家の立場で一番苦しんでいるネジの事を思えば、それを考える事すら今のヒアシには許されていなかった。
一番、日向の運命に踊らされていたのは、他ならぬヒアシだった。
十年前のあの日から、そんな罪悪感を背負ったまま生きてきた。己を押し殺して一族の宗主としての役割を全うしてきた。
十年間、運命から目を逸らし続けていた。
そんな自分が、運命に抗うことを決した弟の遺書をその息子に見せる資格など、ある筈がない。
「ヒアシ様、何処か体調でも?」
「いや、何でもない。帰るぞ」
感傷に浸っていたせいか、敏い側近から声をかけられる。
何でもないと返したヒアシはそのまま側近と共に屋敷へと帰った。
「これは……」
屋敷の門は、異様な雰囲気に包まれていた。
人の気配はなく、そして。
――――むせる程の、血の匂い。
「ヒアシ様、これは一体――――」
「人の気配がまるで……」
側近の2人もまたその異様な空気を感じ取ったのだろう。
当たりは静寂に包まれ、屋敷の門はまるで生と死の境界線のようにそびえ立っているような錯覚に陥らせる。
――――一体、何が起こっている?
吹く風も、庭の池も、その疑問には答えてくれず、ただその
「――――ッ!!」
「ヒアシ様っ!?」
だからと言って、それを受け入れられる筈もなかった。
部下の呼び声を無視し、咄嗟にヒアシは屋敷の中へと走り出す。
過ぎ去る部屋から漂うを死臭が嫌でも鼻に付き、それでもヒアシはそこに意識を向ける事なく、ある部屋を目指す。
幸い、娘のヒナタはまだ担当上忍の下にいる筈だ。
だが、もう一人の娘はまだこの屋敷の中に――――
「ハナビ!」
目的の部屋の前へとたどり着いたヒアシは障子のドアをバンッ、と開け、娘の名を大声で呼ぶ。
そこには――――
隅っこで震えている、血まみれの娘の姿と
彼女の世話役
「ハナビっ!」
そのあまりにも惨い光景に、ヒアシは目を大きく開きつつも娘の安否を優先してハナビに駆け寄る。
傍で転がっている世話役の死体の返り血を浴びたのだろうか、ハナビ自身は血まみれになりつつも何の外傷も負ってはいなかった。
そうあくまでハナビの
「ぁ……ぁ、ひ、ぉ、バラ……、バラ……ぃ、……ぁ?」
「ハナビ、しっかりしろ! ここで何があったっ!?」
ハナビの肩を掴み、父親という自分の存在をアピールしながらヒアシはハナビに聞く。ハナビの体は極度に冷たく、未知の恐怖のあまり顔面は信じられない程に蒼白になっており、体中が冷や汗でべっとりとしていた。
幼きハナビの精神はもはや崩壊していた。
「わ、ぁ……ぁ、か………げ、とぉ、り……す……ぃ、バラ……、バラ……に……ぃ?」
もはやヒアシの事を認識できているのかすらあやふやであり、それでも辛うじてヒアシの声が届いたのか、それとも単にタイミングがよかっただけなのか、意味の分からない事を発音しだす。
大抵の人がそれを聞いても、何を言っているのか全然わからなかっただろうが、それでもヒアシには理解できた。
即ち、『影が一瞬通り過ぎたと思ったら、気が付けばバラバラになっていた』という事だった。
そこで更に。
『う、うわあああああぁああぁあああぁぁあああぁっ!!!?!!?』
廊下から、側近の悲鳴が聞こえた。
「……ハナビ、そこで待っていろ」
いつまでもこの死体を見させ続けるのは酷だと想い、押入れの中にいれ、羽織っていた羽織でハナビの体を包み、ヒアシは急いで悲鳴が聞こえた廊下へと向かう。
そしたら、廊下の曲がり角から体を震わせがら後ろへ下がり、そのままべったりと尻餅をついた側近の姿があった。
「どうした!?」
「あ、あ……あれを……」
側近が前の廊下の方を指差す。
それに釣られてヒアシもまたその曲がり角を覗き込む。
「―――――――なんだ………………これ、は!?」
それを見たヒアシもまた絶句する。
そこには、ひたすら屍が転がっていた。
もはや人とは言えないほどにバラバラにされ、切り離された手足や胴体、首などが多量の血液をぶち撒きながら散乱しており、まるでボロボロのマネキン人形の廃棄所みたいになっていた。
人の価値など、そんな事知らんというばかりに、その地獄絵図は出来上がっていた。
栄華を極めて日向一族、その宗家は刹那の瞬間にしてあっけもなく皆殺しにされていたのだ。
「……動けるか?」
「……はい、なん……とか……」
尻餅を付いて怯えている側近にそう聞く。
側近は震える唇を何とか動かしながらも、必死に答えた。
今まで寝床や食を共にしてきた者達がバラバラになっている光景を見た彼の精神状態はとてもではないが大丈夫とはいえない。
それでも、それを押さえ込んで側近の男はコクンと頷いてみせた。
「ハナビを安全な所へ運んでくれ。それともう一人の方には他に生存者がいないか調査するように頼んでくれないか」
「………………はい」
「すまない」
多大な精神的ショックを負いつつも確かな意思を以て返事をしてくれた側近に謝り、ヒアシは更に向かうべき場所へと足を運ぶ。
幸い、ハナビは無事だった。
後は、自分の肉親の安否である。
父親であるにも関わらず息子を平然と
その畏敬の念は今でも途絶えてはいない。
だから、急いでそこへと向かう。
「父上!」
ドアを開き、自分の父の部屋へと入る。
しかし、そこには誰もいなく、代わりに。
――――ちゃぶ台の下に、
「――――」
嫌な予感を感じたヒアシは急いでそのちゃぶ台をどけ、その中身を視る。
そこにあったのは、
「ちち、うえ――――」
信じられない、とヒアシは狼狽える。
日向家前当主が、年老いて前線から引いた状態であるとはいえ、それが成す術もなく、しかも膝ほどの高さしかないちゃぶ台の下で見事に解体されているという事実。
それを成し遂げた犯人のおぞましさにヒアシは身の毛立つ思いをする。
正直に言えば、父を失った悲しさよりも、父に成す術も与えずにこのような惨死体に仕立て上げた事に対する恐ろしさの方が強かった。
そして、こんな芸当ができる忍など、ヒアシの知る中でたった一人しかない。
「まさか……」
そんな筈はない、とヒアシは一瞬思い浮かんだ犯人像を取り下げる。
そんな事があっていい訳がない。
大蛇丸の木の葉崩しのおかげで木の葉の戦力が大幅に低下し、そしてそのタイミングでうちはイタチと干柿鬼鮫が侵入している中で、更にもう一人それと同等クラスの危険人物が入り込んでいるなど、最悪過ぎるにも程があろう。
しかし、もし本当にそうだと過程すれば
彼が今いそうな場所は
「……」
最悪な事態(もう既に最悪な事態だが)を頭に浮かべたヒアシは目の周りの血管を浮き上がらせ、瞳力を発動させる。
日向一族宗主であるヒアシの白眼は他の日向一族の白眼よりも広視野、および広範囲の場所を見渡せる。
そして、目に付いたのは、かつて彼が幽閉されていた屋敷が立っている場所。
そこには、ヒアシが思い浮かべた最悪な人物と
それに必死に柔拳をぶつけているネジの姿が目に入った。
「――――っ、いかんっ!!」
それを目撃したヒアシは大慌てで屋敷から飛び出し、そこへ全速力で走り出す。
もう、これ以上失う訳にはいかない。
何としても、弟が残してくれた形見だけは守らねばならなかった。
◇
「ようやくだ、ようやく出会えたな。
――――日向ヒアシ」
「……シキ」
互いの名を感慨深く口にする。
シキは歓喜を秘め、ヒアシは何処となく居た堪らないような思いを秘め、奇妙で最悪な縁で繋がった甥と伯父は今、対峙する。
傍に倒れているもう一人の甥を他所に、二人は緊迫の空気を発しながら見つめ合っていた。
「ネジは返してもらうぞ」
「まあ、所詮はあんたをおびき出す為の餌だったしな。しかし、いいのかい?」
「……何がだ?」
「その白眼を凝らしてよく見てみろよ」
悪戯げに笑うシキに対し、ヒアシは白眼を発動させ、ネジの方を見やる。
そして、ネジの額にあるべき物がない事に気付き、目を見開いて驚愕の意を示した。
そして、納得したようにシキの方へ向き直り、言い放った。
「やはり、お前は呪印を自力で解いたのだな?」
「どうだろうねえ? まあ、ニュアンスとしちゃあ正しいかな。それで、どうする? もし、あんたの甥を取り戻したとして、
「――――ッ」
言われて、ヒアシはシキの悪趣味な質問に歯噛みする。
悪戯げに笑いながらヒアシの答えを待つシキ。
かつて同じように鳥籠に囚われていた者が言うには、あまりにも皮肉が効きすぎている。
答えられないヒアシに対し、シキは興が削がれたのか悪戯げな笑いを若干収めた。
「まあ、別にどちらでも構わないけどね。けど、俺とこいつの件で自責に駆られていたあんたが、呪印から開放されたこいつに対してどんな躾をするのか少し興味があっただけさ」
「……一つ聞きたい。何故こんな暴挙に出たのだ? いくら里の力が弱っている今が好機とはいえ、それにしてもお前の行為はあまりにも無謀過ぎる」
シキの質問に答えたくなかったヒアシは即座に話題を変え、目の前の甥に聞きたい事を聞き出す。
いくら見境なく襲う殺人鬼といえど、下手すれば自分の存在を表沙汰にしてしまうようなリスクを冒してまでする事か。
今まで殺害現場を見たものすら一人残らず解体してきたこの男が、今になって、しかもうちは亡き今、木の葉の現最強の一族としてうたわれる日向一族宗家を皆殺しにするなど、トチ狂った行動にしか思えない。
今回の彼の行動は、あまりにも派手すぎる。
「いや何、ちょいと諸々あって使いっぱしりにされちまってね。そんな身でお互いいつ会えるか分かる身でもなし。今の内に未練や義理を果たしておこうかとね。いつまでもほったらかしにしておくのは餓鬼のする事だよ」
「お前は餓鬼のままだ、シキ」
違いない、とヒアシの言葉に可笑しそうに笑いながらシキは返す。
「それに無謀って訳でもないさ。建物の構造さえ把握しちまえば、老害共を
嗤いながらシキは語る。
白眼という血継限界を持つ日向一族は、その慢心から感知タイプの忍を養う事を怠っている。
常時白眼を展開できるほどのチャクラを有する訳でもなく、しかもその状態で感知タイプはいない。
先に白眼を開いて建物を構造を瞬時に把握し、暗殺を仕掛ければ数分足らずで死体の山を作り上げるくらい、彼にとっては息をするように簡単な事なのだと。
事実、日向一族宗家は皆、彼の奇襲に気付く事なくその生を断絶されていた。
それは前当主であった祖父であっても例外ではなかった。
「宗家の皆を殺し、ネジをこんな風にしたのも、全て私を誘い出すためだったのか? 何故……何故そんな事を……ッ!?」
内に秘める怒りをほんの少し表に出し、ヒアシは静かな怒声を上げてシキに問う。
そんなヒアシの殺気篭った声をシキは涼しい様子で受け止めて答えた。
「言っただろう、未練や義理を清算するためだって。責任感の強いあんたの事だ。会いたくて会いたくて仕方なかっただろう、お互いさ」
「私はお前に会いたくなどなかった。出会わずに済めばいいと、そう思っていた」
それは逃げだった。
一族の運命に踊らされ、2人の甥をその運命の中に巻き込んでしまい、その罪悪感を背負って生きてきた男の、逃げの一言だった。
しかし、それは男の本心でないとシキは即座に見抜く。
「嘘はよくないな。あの日俺が親父を殺し、その遺体を利用して生き残っちまったあんたがそんな事を言う筈がない。一族からの離反者として俺を裁きたいと、それをもってしてコイツに報いたいと常々願っていた筈だ」
何故ならそれしかネジに報いてやる事ができないから。
あの日、シキは実の父親を手にかけ、その父親の双子の兄であったヒアシは己の不始末で引き起こし、その責任を取らされる形で命を落とす筈だったヒアシはその弟の遺体を影武者として利用して生き残ってしまった。
宗家の事だ。
例えシキが父ヒザシを手にかけなくとも、宗家ならばヒザシを影武者として雲隠れに引き渡す手段を取っただろう。
それならばまだ、自分の責任というだけで片付ける事ができた。
「どの道、あんたには弟を犠牲にして生き残る未来しかなかった。しかし、俺という『共犯者』を得たあんたは、自責だけで片付ける事ができなくなっっちまった」
自分の不始末で弟を犠牲にしてしまっただけなら、ヒアシは他に当たり所を得る所もなかった。
だが、実際には宗家の思惑とは別に、弟ヒザシに直接を手をかけた犯人は別にいたのだ。
自責の念と罪悪感に蝕まれながらも、その全ての責任は自分にはないと、心の何処かでそう言い聞かせたかった。
「いやさ、正直に言うと俺も腹ただしく思っちゃあいるんだ。親父は宗家の物でも、ましてや雲隠れの物でもない。
あれは、俺が殺した獲物なんだよ! 殺して、殺し合って、俺の手で殺してやった、
「……」
ヒアシは驚愕に眼を開けながら、弁明するシキの台詞を聞いた。
それは紛れもなくシキの本心だった。
自分の、自分の手で殺してやった肉親を、むざむざと他里の手に渡してしまった、日向ヒザシの息子としての後悔がそこに確かにあったのだ。
殺人鬼の、肉親への歪みすぎた愛情がそこにあったのだ。
「シキ、お前は……」
「あんただってそうだろう? 俺という裁くべき『共犯者』がいながら、日向家宗主という立場故、弟を犠牲にし、俺を探して裁く暇すら与えられないあんたは、もどかしい毎日を送っていた筈だ」
「お前は、まさかその為だけに――――」
宗家の皆を殺したとでも言うのか。
心なしかその刃物を思わせる眼に少しばかりの慈愛が垣間見たヒアシは、呆然としてシキを見つめる。
この甥は、ヒアシが自分という共犯者に向き合いやすくするように、一族の宗主という立場から開放するために、たったそれだけのためにこれだけの暴挙を犯したのだ。
「俺が残してきた未練はただ一つ。あの日中途半端に終わってしまった親父との殺し合いの続き、その延長だよ。今度こそ、あんたをきっちり殺してみせる。
あの時の中途半端な技でではなく、今まで多くを『殺』して磨いてきたこの技の全てをぶつけて俺は、
奇しくも、両者が望まぬ形で『共犯者』という縁で繋がってしまった。
その縁を断つためにも、無意味とは分かっていても、ただそれだけのためにシキはこれだけの暴挙を犯したのだ。
漸くヒアシは、シキという人間を理解した。
この子は、どうしようもなく歪んでいて、どうしようもなく救いようがなくて、そして……どうしようもなく義理堅いのだ。
今更どんな事をしても無意味だと自分でもわかっていて、それでも事の終着を求めて突っ走る。
日向シキは、どうしようもなく『人間』なのだと。
それでも、ヒアシはこの暴挙に出た彼を絶対に許しはしない。父を殺し、祖父を殺し、そしてあろう事か己の娘の前で大切な人が殺される瞬間を見せつけた。
確かに、宗家は生き汚かった。
一族という総体を守るために、分家の者達に呪印を仕込んで次々と自分たちのためだけの運命に縛り付けて、絶望させてきた。
その彼らが奇しくもその運命から抜け出した者にこうしてあっけなく皆殺しにされるのも、因果応報といえばそうなのかもしれない。何せ、その中でも一番罪深いのは他ならぬ自分なのだから。
それでも決して許しはしない。
「一つだけ、聞いておきたい」
「……うん?」
「何故ハナビは殺さなかった? 己の獲物も、己を目撃した者達も全て殺してきたお前が何故?」
「ああ。相棒が女子供は殺すなと煩くてね。まあこれは俺の個人的な用事だし、使い魔からの言いつけを守るってのもどうなんだとは思うが」
「……そうか」
そこもまた、『人間』らしかった。
どこぞの誰かかは分からぬが、彼の相棒とやらに感謝してもしきれない。何せ、そのおかげでハナビは助かったのだ。
だからこそ、自分はこの甥と戦わなくてはならない。
彼の言う通りだった。自分は目の前の甥を裁きたくて、そして裁かれたくて仕方なかった。
あの日、ヒナタを攫った雲隠れの忍頭を殺してしまった時点で、シキがヒザシを手にかけようがかけなかろうが、ヒアシがヒザシを犠牲にして生き残る結果は既に決まっていたのだ。
しかし、甥であるシキという『共犯者』が現れた事で、ヒアシはヒザシが殺された事に憤りを感じつつも、シキが手にかけずとも結局は自分が手をかけていたであろう事は分かっていた。
シキが手を出すのが速いか、ヒアシが手を出すのが速いか。
たったそれだけの違いでしかなかった。
ああ、何たる、ろくでなしの『共犯者』なのだろうか、自分たちは。
ヒアシは己の不始末で弟ヒザシを犠牲に生き残ってしまった事を後悔しながら生き続け、シキもまた中途半端に殺してしまった父ヒザシが他里に渡ってしまった事を後悔しながら生き続けてきた。
これ以上に歪な『共犯者』関係など他にないだろう。
故に、この歪な縁に決着を付けるためにも、自分がこの甥と殺し合う事になるのはそれこそ『運命』なのかもしれない。
いいだろう。
どうやら
それが、自分にできる事であるというのであれば。
嗚呼、だけど――――ほんの少しだけ嬉しかった
長年向き合えず、ただ得体のしれない何かだと思っていた甥の、人間らしい所を見ることできて。
それがどんなに歪んでいる事を理解しても、ほんの少しだけだが、嬉しかった。
故に――――
「分かった、シキ」
こう思うことが、どれだけ罪深いか分かっていた。
まさか、この日が来ることを感謝する事があるなど、自分でも思いたくなかった。
それでもヒアシは嬉しく思った。
こうやって、長年果たせなかった甥との決着を付ける機会が巡ってきた。
こうして向き合えなかった甥と、向き合えるチャンスが巡ってきたのだ。
故に、全てを忘れよう。
日向一族宗主としての立場も、全て。
「日向が木の葉にて最強たる所以、その身を以て教えてやろう。来い、シキ」
「ああ、あんたは己の自責のために。俺はあの日の続きをするために。『共犯者』として繋がったこの
両者は構える。
眼の周りの血管が浮き立ち、互いの瞳力で見つめ合う。
「「さあ、殺し合おう」」
二人は、お互いに全霊の技をぶつけ合った。
ネジ「俺放置?」
シキもかなり病んでます
胸糞展開はまだ続く