死を視る白眼   作:ナスの森

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ギルも山の爺も引けなかったけど、単発でイシュタルが来てくれました。
邪ンヌとの相性いいゾーこれ


再会

『木の葉隠れの里で事件が起きた。大蛇丸の仕業だ』

 

「へぇ……」

 

 ゼツの言う通りに待機していたら知らせ通りにリーダーからの連絡が来た。そしてその内容にシキは僅かに口角を上げた。

 先ほどゼツから大蛇丸の事について聞かれた直後にこの報告である。暁の情報係であるゼツが兼ねてからこれを知らぬ筈がなく、となればゼツはこれの事を伏せて自分に大蛇丸の事を問うたのだ。

 

 つまる所、自分は試されたのだろう。

 

 本当に組織の為に働いているのかどうかを確かめる為に。暁が大蛇丸を尻尾を掴んでいるのを伏せ、敢えてシキに問うたに違いなかった。

 どうやら傭兵組織としての仕事をこなすだけでは一メンバーとしては到底認められないらしい。

 シキとしては殺しができるのであればそれでいいので、認められるとか認められないといった問題は些末事なのだが。

 

『大蛇丸は音隠れと砂隠れの忍を使い、木の葉に戦争を仕掛けたが、木の葉崩しには失敗したようだ』

 

「御愁傷様、とでも言えばいいのかしら?」

 

 シキとのパスを通じてリーダーからの連絡を聞いていたレンはそう零す。

 一方で、シキは余計にその口角を釣り上がらせた。

 リーダーはあくまで『失敗した』というだけで、大蛇丸が『敗れた』とは言わなかった。それはつまり、木の葉も大打撃を受け、そして自身のノルマでもある大蛇丸もまた生きているという事に他ならなかった。

 不死殺しという功績を買われてこのノルマを科されているはいえ、シキ自身も大蛇丸を殺し甲斐のある獲物の一人として以前から目を付けていた。

 何せあの伝説の三忍の一角とまで謳われた大物だ。

 転生忍術といい、蛇を彷彿とさせる能力といい、何故か不快に響く特徴を持ちながらも、それ以上に殺すべき獲物の一人として認識していたのだ。

 故に、死なれたら少し困る。

 死んだら死んだで仕方なしと諦める他ないが、生きているのであれば殺し合う機会もめぐってこようものである。

 

『この戦争で三代目火影が死んだ。退いた大蛇丸だが行方は分からない。誰かに調査に行って貰うが……』

 

 

 

 

『木の葉にはイタチ、鬼鮫。そしてシキに行って貰う事になる。元木の葉隠れのイタチとシキならば木の葉の結界に引っかかる事無く出入りできるだろう。イタチと鬼鮫は大蛇丸の調査のついでに木の葉の人柱力の件も調査しろ。シキは大蛇丸に専念してくれて構わない。もし見つけたら殺せ』

 

 

 

 

「くくくっ、あはははッ!」

 

「何いきなり笑ってんのよ」

 

 急に笑い出したシキにレンは若干引け目になりながら言う。

 そんなレンの事を他所に置いてシキは己の雇い主たる人物に感心していた。

 

 ――――ああ、本当にあんたは俺の使い方を心得ているな!

 

 シキの他にイタチと鬼鮫のコンビに木の葉の調査の任務を出したリーダーであったが、さり気なくあの二人にもう一つ別の調査を依頼する事で、イタチ・鬼鮫のコンビとシキが合流する確率を低くさせたのだ。

 もしシキが大蛇丸と鉢合わせ、殺し合いに発展した時、そこにイタチと鬼鮫が介入する確率が低くなるように、もしくはもしイタチと鬼鮫が大蛇丸と鉢合わせた時、そこにシキという邪魔が入ってこないように。

 殺し合いを邪魔されるのも、邪魔するのもシキの流儀からは反している。シキにとってはどちらに転んでも後腐れのない結果となろう。

 

 だが――――

 

「悪いね、雇い主(リーダー)さん。あんたのその気遣い、今回ばかりは無為だよ」

 

 別にリーダーの配慮が嬉しくないという訳ではなかった。彼はちゃんと自分に抑えを効かせているし、自分に殺しだってさせてくれるし、そして最高の仲間(獲物)たちとも巡り合わせてくれた。

 お遊び程度にはその義理を果たしてもいいとさえ思っている。

 

 だが、今回は違う。

 

「仕事だ。行くぞレン」

 

 こうしちゃいられないとシキは並べてあった得物を回収して立ち上がり、木の枝に干されてあった暁の衣をつかみ取って、身に纏うと即座に走り出した。

 こうしてはおれまいと、微笑を浮かべながら走った。

 レンもその後に付いて来る。

 

「大蛇丸とやらを殺しに行くの?」

 

 訝しげに聞くレン。

 どうやら内心でシキの本命がソレでない事に勘づいているらしい。

 

「いいや。少し先約が出来た。

 せっかく機会が巡ってきたんだ。過去の清算くらいするのも、悪くはないだろう?」

 

 その時にシキの微笑顔が

 

 ――――あまりにもキレイで

 ――――あまりにも殺意に満ちていて

 ――――あまりにも爽やかで

 

 その顔に見惚れたレンは、思わず赤面して顔を背けてしまった。

 

 

     ◇

 

 

 その光景を今でも覚えていた。

 日向ネジは幼い頃に味わった悲劇から運命という底のない闇をとつてもなく憎み、絶望していた。

 今でも鮮明に思い出せる、自分の父親の喉元を掻き切り、笑みを浮かべながら自分に背を向けて去ってゆく殺人鬼()の姿を、刹那たりとも忘れた事などなかった。

 そして、後に分かった事実――――兄が殺した父親の遺体を、日向宗家はそれを悼むどころか、これ都合よしと言わんばかりに自分の伯父である日向ヒアシの影武者として利用したのだ。

 その出来事が、日向ネジという少年をどれだけの絶望の淵に追い込んだか、想像できるものは誰一人としておるまい。

 

 ――――貴様らは、何も思わないのか。

 ――――自分達と同じ血を引く同族同士が、それも親子が殺し合って

 ――――殺された一方の屍すらも、これ見よがしと利用して

 

 それでも何も思わないのか、貴様らはっ!!?

 

 日向ネジは運命を憎む。

 日向ネジは宗家を憎む。

 日向ネジは、双子の弟(自分の父親)を利用して生き残った生き汚い宗主を憎む。

 日向ネジは、そんな宗家の口車に乗せられた兄を憎む。

 

 一族においてもう、彼が信用する人間は誰一人としていなかった。

 奴等(宗家)は憎むべき敵だ。

 自分と同じように呪印に縛られ、離れの屋敷の牢に繋がれていた兄すらも利用して、その兄に親殺しの咎を背負わせ、それを甘い蜜を吸うかのように利用する彼らがとてつもなく憎かった。

 

 それでも、それでも――――そんな卑劣な奴等に、運命に抗えない自分が、一番嫌いだった。

 

 何をしている、抗え、抗って見せろ、憎たらしい鳥籠を食い破って、奴等の喉元にその牙を突き立てろ。

 そう何度も己に言い聞かせてきた筈なのに、結局は無理だと諦めてしまう。

 彼らの前でそんな姿勢を見せた時点で、鳥籠ごと握りつぶされてしまうのが目に見えている。

 日向一族分家に付けられる呪印とは、そういうものだった。

 

 そんな己の運命に、ネジは絶望したまま人生を送り続けてきた。

 

 唯一、自分の父との『繋がり』であった柔拳を鍛え上げ、本来ならば宗家にのみ代々伝っている技である筈の「八卦掌・回天」すらも独学で習得し、その才はもはや宗家の人間すらも凌駕していた。

 それでも、自分は抗えないのだ。ただの「天才」でしかない自分では、この運命には抗えないのだ。

 運命とはどうしようもなく抗い難い、絶望という檻物なのだ。

 自分達分家はその鳥籠に一生囚われ、一生飛び続ける事のできない哀れな雛鳥なのだ。そしていずれは鳥籠ごと使いつぶされて息絶える運命にあるのだ。

 実力だとか、才能だとか、そんなもので抗える物じゃない。

 誰もが、生まれた時からそういう運命にあるのだと定められるのだ。

 

 そんな絶望を抱えたまま、十年近い歳月が過ぎ、彼に転機が訪れた。

 

 ――――中忍試験。

 

 そこの選抜戦の本選で彼は一人の後輩に敗れた。

 

 後輩の名前はうずまきナルトと言った。

 かねてからアカデミーで落ちこぼれと蔑まされ、卒業試験に三回も落ちたドベ中のドベ。そんな少年に、彼は敗れたのだ。

 

 うずまきナルトはとても不思議な少年だった。幾度となく点穴を突かれ、幾度となくその実力差を見せつけられ、如何ともし難い才能の差を見せつけた。

 

 これがお前の運命だ。才を持つ自分でさえ運命に抗えないというのに、それ以下のお前に何ができるのだ。

 ここがお前の終着点だ。精々絶望して楽になってしまえばいい。

 それがお前のためだ。

 

 ――――なのに、何故抗うのだ。何がお前をそうさせるのだ。

 

 幾度となく実力差を見せつけられても未だに絶望しないナルトに、ネジは内心で戸惑った。

 ナルトは聞いてきた――――何故そこまして落ちこぼれと差別するのかと。

 何の気紛れを起こしたのかは分からなかった、だがこのナルトという後輩を見ていると異常に腹が立ったのか、ネジは話す事にした。

 日向の因縁、そして自分が運命に絶望するきっかけを話した。

 自分の事、父親の事、伯父の事、兄の事、そして一族の事。

 

 この楽観的な落ちこぼれ(ナルト)に対して、現実とはこういうものだと突きつけるために、本来、外部に漏れてはいけない日向の内情までも話してやった。

 

 話を終えてやったネジは、今度こそ満身創痍のナルトに止めを刺すことにした。自分はこいつを殺すつもりでやる、止めたければ好きに止めろと審判に言い、ナルトの息の根を止めてやらんとする。

 

 それでもナルトは、諦めなかった。

 

 呆れたように、嘲笑うようにネジは聞く。

 

『どうしてそこまで自分の運命に逆らおうとする?』

 

 必死に印を組み、ある筈のないチャクラを練りながら、ナルトは強く答えた。

 

『落ちこぼれだと、言われたからだ……!』

 

 それを遺言と聞き取って、白眼を発動させたその時だった。

 

 ネジの白眼に、信じられぬ光景が映った。

 ナルトの経絡系に流れていた青いエネルギー、チャクラは既にネジが経穴を潰した事によって既に川に水が流れなくなったかのようにその流れが停止していた。

 ……筈なのに、その川が再び流れだしたのだ。

 だが、その流れ出したものは水と形容するにはあまりにも禍々しく、もし形容するのであればそれは、まるでマグマのようだった。

 

 馬鹿な、とネジは内心で驚愕する。

 

 マグマのような、赤いチャクラ。

 それがナルトの腹部を中心にして、まるで蜘蛛の巣を高速で張り巡らしていくかのような勢いでナルトの経絡系に流れ出していくのだ。

 

 そしてネジは見たのだ、ナルトの中に眠るその『怪物』を。

 

 その恐ろしいナニカを目の当たりにしたネジは、思わず躊躇いでしまった。

 

 その赤いチャクラを纏ったナルトのスペックは尋常な物ではなかった。あらゆる点穴を突かれ、さっきまで死に掛けであったのが嘘であるかのように俊敏な動きを以てネジと渡り合った。

 

『日向の憎しみの運命何だか知んねえがな! けどお前、ただ単に兄ちゃんが怖いだけ(●●●●●●●●●)だろ!』

 

『――――何、だと』

 

 挑発とも、核心を突かれたともとれるその発言は、ネジの逆鱗に触れた。

 

 ――――怖いだと、俺があの男を恐れているだと!?

 

 そんな筈はない。

 日向という運命に逆らう事は既に諦めている。

 ……だけど、だけど……あの男、兄、日向シキを許した事は一日とてない!!

 例え運命に逆らう事はできなくても、あの男、あの男だけは――――俺の手(●●●)で――――

 

 ――――俺の手で、倒せるのか?

 

 そんな疑問が、ネジの脳裏に浮かぶ。

 思い出されるのはあの日の光景――――自分の憧れ、日向一族で最強だと信じて疑わなかった父親が自分の目の前で、あの男に喉元を裂かれ、無惨にもその鮮血を散らして倒れ逝く姿。

 そして、その屍の前に立つ自分の兄。

 

 ――――父親の返り血を浴びて嗤っているあの姿に、自分は――――

 

『馬鹿な……』

 

 それを思い浮かべた瞬間、自分から湧き出た感情(恐怖)を、ネジは否定する。

 

『馬鹿なバカな莫迦なバカなバカなあぁッ! そんな訳あるかぁ!! 俺はあの男に勝つ!! 何としてもあの男を、この手でぇ――――』

 

 この時、ネジは気が付かなかった。

 自分はあの男に“勝つ”と言った。

 そう――――“倒す”とまで言えないのが、自分の限界であると、気が付かなかった。

 日向宗家や運命とか言ったそんな物より、何より自分はあの兄が一番怖いのだと認める事ができなかった。

 

 結果として、ネジは負けた。

 赤いチャクラを纏ったナルトの突進に対して、回天によるカウンターを返し、土煙が晴れた後に見えたのは満身創痍で倒れているナルトの姿。

 勝った、と思ったその時、その倒れたナルトは実は分身であり、本体は地中に身を潜めてネジの足下から奇襲をかけ、見事にネジに勝って見せたのだ。

 

 意識が薄れゆく直前に、ナルトに言われた事は今でも胸に残っていた。

 

『運命がどうとか、変わらねえとか、そんなつまんねえ事メソメソ言ってんじゃねえ』

 

『お前はオレと違って、“落ちこぼれ”じゃねえんだから……』

 

 

 

「うずまき、ナルト……」

 

 日向の分家に割り当たられた屋敷の庭でネジは訓練所でただ一人、空を見上げながら自分を負かした後輩の名を呼ぶ。

 あの少年は最後まで諦めていなかった、最後まで抗う事をやめなかった、最後まで運命から逃げる事をしなかったのだ。

 その時点で、自分は負けていた。

 

 あまりにも無様で、あまりにも潔く無くて、あまりにも生き汚くて――――そして、あまりにも彼は強かった。

 最初から諦めていた自分とは、大違いだった。

 

「俺も抗えるのか、お前のように……」

 

 最後まで諦めなかったあの少年を幻視しながら、ネジは虚空に向けて問う。

 運命に絶望し、唯一屠ると誓った筈の兄にすら恐怖を抱き、一体自分は何なのだろうとネジは自問自答し続けてきた。

 

 そこでふと疑問に思った。

 

「俺は、本当に兄の事が憎いのか、それとも怖いのか――――」

 

 怖い、というのは本当だろう。

 今までの自分ならばこんな事実、認められないだろうが、こうして自分と向き合う余裕ができるとすんなりと受け入れてしまう事もできた。

 

 ああ、確かに――――今でも、血に濡れたあの姿を幻視するだけで、贓物が痛み、足が笑ってしまう。

 

 こんな様でよく兄に勝つなどと豪語できたものだ、とネジはあの時の自分を恥じた。

 

 だが、恐いだけではないだろう。

 

「俺は、兄を憎み切れているのか?」

 

 それを自分に問うた瞬間、答えに詰まってしまう。

 ここからはネジの推測でしかないが、あの時自分の父親が殺される瞬間を見てしまった時、その下手人であった兄の額には“あるもの”がなかった。

 

 兄とは交わした言葉こそ少なかったものの、父である日向ヒザシの計らいで牢に繋がれた兄と少しばかり対話をしたことはあった。

 どこか達観したような雰囲気を持ちながらも、父と同じで優しい雰囲気の持ち主だったのは覚えている。

 

 あの時は何故兄が牢に繋がれているのか疑問に思わなかったが、今にしてみれば何故牢に繋がれていたのかという疑問が残った。

 何を仕出かしたかまでは分からなかったが、あの時の眼は確かに弟の存在である自分を心の底から祝福してくれていた。

 

 牢に繋がれ、外に出る事ができず心をすり減らし続け、自分という弟の存在を喜んでくれた兄を、憎み切れるだろうか?

 

 ネジはあの悲劇の後、兄の事をとてつもなく恨んでいたが、同時に彼なりに何故兄があのような暴挙に出たのかを推測していない訳ではなかった。

 あの時、兄の額になかった“呪印”。

 牢に繋がれていた時はあったのに、あの時はそれがなかった。

 

 つまり、日向宗家は兄に対して呪印からの解放を条件に、父親に手をかけさせたのだろうとネジは推測していた。

 だからといって兄を許せる筈もなかった。

 『自分の自由』と『父親』を天秤にかけ、前者を選んだその自分勝手さを、ネジは一時たりとも許した事はなかった。

 

 ――――けど、心の何処かでは兄に共感してしまう自分もいなかったと、言い切れるだろうか?

 

「……ああ、そうか……」

 

 ここに来て、ネジはやっと認めた。

 

「俺はあの男を、兄さんを憎み切れていない」

 

 だからと言って、許した訳ではない。

 今でも憎悪の対象であることに変わりはない。

 

 ナルトは自分が火影になって日向を変えてやると、堂々と言ってきた。よくもまあそんな根も葉も根拠もない事を言えるものだと感心してしまう。だが、不思議とアイツなら出来てしまうのではないかという気持ちになってしまう。

 

「ふっ、そんな事はないか……」

 

 さすがにそれはないと、ネジは否定する。

 ネジはナルトの事を認めてはいるが、同時にそんな事は絶対ないと言い切った。

 ナルト個人の強さの問題ではない、一人の人間の意志で一族という群衆の意志を変えるなど、そんなの夢物語だ。

 

 だけど、アイツはそんな夢物語を目指しているからこそ、あのように強くなれたのだろうとネジは思った。

 少しだけ、羨ましいと思った。

 

 ――――その時だった。

 

 

「ミー」

 

 

 突如、何かの鳴き声がした。

 

「猫?」

 

 鳴き声がした方向へ振り返ってみると、そこには一匹の白猫だった。

 馬鹿な、とネジは考える。

 ここの屋敷の周りに貼られた結界は木の葉の忍以外のすべての生物に反応するように出来ている。

 

 ――――なのに、何故あの猫はそれに引っかからず出入りできたのだ

 

 普通ならば木の葉の忍びのチャクラによって口寄せされた動物であるならばまだ納得できる――――否、その前提から間違えていた。

 そもそも、白眼という瞳術を持つ日向一族の屋敷においそれとこっそり口寄せ動物を侵入させるなどどう考えても愚策だ。

 つまり――――あの猫を口寄せした者は、こちらの情報を詳しく知らない。元この里の抜け忍である可能性が高い。

 

「ニャア」

 

「っ⁉ 待てっ!!」

 

 ネジの視線に気づいた途端、即座に木陰に隠れて逃げ出す猫にネジは呼びかける。

 

 ――――逃がす物か!

 

 そう思い、白眼を発動させて猫を追う。

 360゚の視界と透視、望遠能力を誇るこの眼がたかが一介の猫を見失う筈もなく、ネジはその猫を追わんと走り出した。

 そして、その猫が向かっている先に見当を付けた。

 

 ――――あの先は日向宗家の敷地の裏庭……何故そんな所に?

 

 敷地の裏庭とはいうものの、あそこにあるのはただ延々と広がる森林地帯と、その中にポツリと立っている「離れの屋敷」だけだった。

 今では誰も使う物はおらず、かつてあの男が幽閉されている時に使われていた場所。

 

 ――――何故、そんな場所に――――

 

「――――ッ!!?」

 

 その時、ネジは見た。

 白猫が行く先、そこに佇んでいた男の肩の上。

 

 その男の姿を、刹那たりとも忘れた事はない。

 

 白猫を肩の上に乗せ、赤い雲の模様が入った黒い衣を身に纏い、その下に見える血のような紅い着流し。

 背丈こそ違えど、その今にも消えそうな、しかし強烈な存在感はネジの脳裏に焼き印を押されたかのように焼き付いていた。

 

「よう兄弟、愉しんでるかい?」

 

 あの時と同じ、まるで小ばかにするかのような、飄々とした声がネジの耳を支配する。

 

 ネジにとってその存在は正に"死"そのもの。

 

 日向シキ――――あの時自分の父親を殺し、飄々と姿を消していった(人殺し)がそこにいた。

 




 ※注:呪印から解放される事を条件に父を殺したというのはあくまでネジの推測です。
ちなみに原作とは違い、このネジはヒアシとまだ和解してません。ヒアシさんは兄に関する事で原作以上にネジに対して気まずい思いをしてますから。


次回、胸糞展開注意

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