死を視る白眼   作:ナスの森

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※注:この主人公は正義の味方などでは決してありません。根っこから屑の悪人です。
※注:また今回は胸糞要素が入っています。それらが苦手な人はブラウザバックを、それに愉悦を感じる外道神父の皆様はそのままご観覧ください。


2人の『兄』

 とある部屋の一室、その部屋のベッドにてマスクをした白髪の男が寝ていた。瞳術によるチャクラの酷使、および強力な幻術を掛けられた事による精神的負担により、途方もない疲労に見舞われたその男はぴくりとも動かさずに眼を閉じていた。

 ベッドの傍にある窓際には彼が担当している班と一緒に撮られた写真が飾られており、彼が如何に彼らの事を大切に想っているかを物語っていた。

 そしてその様子を見守る、男の同僚と思しき三人の男女もまたこの部屋にいた。

 

「奴等の様子じゃ、まだナルトは見つかってないようだな」

 

 三人の内の一人、緑色のタイツの上に木の葉の忍装束を身に纏い、太い眉毛が特徴の男、マイト・ガイが深刻そうな様子でそう言った。

 それにもう一人の男、ガイと同じ木の葉の忍装束を着たアスマが率直な疑問を口にした。

 

「それなんだが、おかしくないか? あいつは既に里に入り込んでいた。この里でナルトを見つける何て簡単だろう? イタチはナルトの顔を知ってるんだぞ?」

 

 机の上に座りながら懐から煙草を取り出し、そう言う。

 

 木の葉に戻ってきたうちはイタチという男は、十三歳にして暗部の部隊長に任命される程の忍だ。それ程の忍がこれ程目的の捜索に手こずるだろうか?

 直接対峙したからこそアスマには分かる。今にして思えば、あの忍はいつでも自分たちを簡単に仕留める事ができた筈だ。

 態々怪しまれるような格好で侵入してきた事についてもそうだ。

 何か別の目的があるのではないかと勘ぐってしまいそうになる。

 

「しっ」

 

 イタチ――――誰かが廊下の階段を上る音を聞き取ったガイは、その名を口にしたアスマに向けて静かに、とサインを送る。

 足音は近づき、やがてドアが開いた。

 

「カカシ、……ッ!?」

 

 半袖の衣服を着た黒髪の少年が白髪の男の名を呼ぶが、そのカカシがベッドで寝ている事に驚いた。

 続いてそのカカシの部屋に居座っていた三人の男女が目に入り、少年・うちはサスケの疑問は更に深まった。

 

「……どうしてカカシが寝ている?」

 

 嫌な汗を流してサスケは疑問を口にする。

 

「それに上忍ばかり集まって、一体何があった!?」

 

 自分の担当上忍であるカカシが倒れ、更にそこに木の葉の上忍の三人までもが集まる事態、一体何事だとサスケは三人に問う。

 

「いーや? 別に何も」

 

 イタチが木の葉に来ている事が知られれば、このサスケという少年がどんな行為に走るかは目に見えているので、ガイは敢えてはぐらかす。

 他の2人もまたサスケから目を逸らし、この件に関わるな、と暗にそう告げる。

 しかし、自分の担当上忍がやられているのを見て、そうは行くか更に食い下がろうとした、その時だった。

 

「あのイタチが帰ってきたっていう話は本当か!?」

 

「あっ……」

 

 突如、扉を開けて部屋に入ってきた上忍、アオバが発した言葉で、サスケの頭は真っ白になった。

 聞かせてはいけない単語をサスケに聞かせてしまった三人はまずい、と苦渋の表情でアオバを睨む。

 しかし、慌てているアオバはそれに気づかずに更なる爆弾発言をかまし出す。

 

「しかもナルト追ってるって……あっ」

 

 そして、ようやく部屋の中にいるサスケを視界に収めたアオバはしまった、と口を開けたまま呆然としてしまった。

 

 

「――――」

 

 

 突如、顔つきを変えたサスケはアオバの懐を通り過ぎて玄関の外へと飛び出す。

 

 

「……バカ」

 

 部屋の外に出ていくサスケを見届けた三人。

 そのうちの一人であった紅が呆れたようにため息をはき、アオバに向けてそう言い放つ。事が事だとはいえ、上忍がそう軽々と、しかも大声で騒ぎになるような情報を口にしたのだ。呆れてものも言えない、と紅はアオバに内心でそう愚痴る。

 

「何でこうなるのぉっ!!?」

 

 せっかく手配した暗部からイタチの事は内密にと言われていたのに、こうもあっさりと、しかも一番知られてはいけない人物に知られてしまった事にガイは耐え切れずに大声を出してしまった。

 紅は深刻そうに顔を俯け、アスマはあちゃー、といった感じで天井を見上げた。そんな中で気まずそうに萎縮するアオバ。

 ただでさえ木の葉崩しの影響で自分たち上忍がそう前線に出られない状況にあるというのに、ここに来て状況はまた最悪な物へと繋がっていく。

 

 

 ――――彼らは知らない。

 

 そんな状況の中でもう一人、この里に最悪な伏兵が潜り込んでいるという事を。

 

 

 

 

 

 窓の外からそんな上忍たちの会話を聞いていた白猫が、建物から飛び降りた。

 

 

     ◇

 

 

「へぇ、上忍たちの間ではそんな話題で持ちきりか……」

 

【どうしたのよ、そんな腑に落ちなさそうな顔して】

 

 珍しく訝しそうな表情をするシキに対し、偵察の任を終えて戻ってきたレンは猫の状態のまま念話でそう語りかける。

 常時微笑を浮かべた能面顔のような表情から一転したその表情からも、シキのイタチに対する思い入れが垣間見れた。

 

「いや、何でもないさ」

 

 そんな嫉妬の視線をレンから感じたシキはそんな感じにはぐらかし、思考に耽る。

 シキが知る中で、うちはイタチという男は今まであってきた中で一番忍らしい忍だ。自分と殺り合っていた時はシキ好みの鬼を見せていたが、それ以外でイタチが派手な行動をしたのをシキは見たことがない。

 ましてや自分の存在を忍び込んだ里の、しかも自分の生まれ育った里の上忍たちに知られるといったヘマは決して犯さない筈なのだ。

 

 ――――まあ、好都合ではあるがね。

 

 シキはほくそ笑む。

 里の上忍たちの警戒がイタチや鬼鮫に向けられている今、どうやら簡単に事を成すことができそうだとシキは踏み込む。

 里中の忍全員と殺し合ってみるというのも非常に面白そうではあるが、今回はきちんとちゃんとした目的があってこの里に来ているため、そんなヘマは踏まない。

 

【所で、その格好は一体何のつもり?】

 

 念話で訝しそうにシキに聞くレン。

 まるで気でも違えたのか、とでも言いたげなレンに対し、シキは面白可笑しそうに答えた。

 

「ああ。偶には解脱と悟ってみるのも面白いかなと思ってね。自分で言うのも何だが、中々様になっているんじゃないか?」

 

 シキの現在の格好は、一言で表すのなら何処ぞと知れぬお坊さんだった。

 黒い法衣の上に「無我」と書かれた紫色の袈裟を架け、三度笠を被って顔を隠し、手には数珠をぶら下げていた。

 

【似合ってない訳じゃないけど、解脱した貴方とか想像しただけで笑えてくるわよ……】

 

 ある意味では解脱しているけれど、と内心で付け加えるレン。

 だが、案外こんな(マスター)の姿も悪くないと、レンは心の中でも思う。だけどやはり馴染むのは普段から来ている血のような紅色の着流し姿だとレンは思う。

 あの絶妙にはだけさせた胸元がエロ――――

 

 ――――って、何考えているのよ私は……っ!?

 

 自分の中に一瞬浮かんでしまった破廉恥な考えを破棄するレン。

 今のはそう……あれだ、一瞬の気の迷いだとレンは自分に言い聞かせた。

 

「それに暁の衣装は既に上忍達に知れ渡っているみたいだしな。態々怪しまれるような格好で彷徨く道理もないだろう?」

 

【……それもそうね】

 

 木の葉はほかの五大国の里と比べて非閉鎖的なので、忍宗の他にも様々な仏教とも繋がりがある。その為、シキのような僧姿でも仕草さえ気をつけていれば怪しまれるような事はまずないと言い切れる。

 その為、この変装はまことに英断であった。

 しかも懐にはレンという白猫がいるため、大衆からは不殺生を教えとする類の仏教だと錯覚されやすい。

 ……正に自分とは正反対の理念だなとシキは内心で笑いつつも、木の葉の街中を歩き、目的の場所へとたどり着いた。

 

 ある屋敷が見える場所だった。

 僧服を脱ぎ捨てて暁の衣装に着替えたシキは、その屋敷を見渡せる木の上に陣取り、殺意を込めた笑みを浮かべて見下ろす。

 

【それで、ここで何するの?】

 

「何、少々『傷跡』を残して、その後餌を誘い込むとするさ」

 

 そして、日向一族宗家の屋敷から、人の気配が消えた。

 

 

     ◇

 

 

 憎しみと恐れ、そして哀れみの三つの感情を抱きながらネジは、十年ぶりに再会した兄と対峙していた。

 この三つの感情の内のほとんどを占めているのは間違いなく『恐怖』だった。

 ……こうして対峙するだけで足が笑う。……本能が逃げろと警告する。……あの日の記憶(トラウマ)が鮮明に蘇ってくる。

 それでも、それに負けるかと言わんばかりにネジは兄を睨みつける。

 

「日向、シキ……ッ」

 

 幾度となく憎悪し、幾度となく恐れ、幾度となく想った。

 あの日、自分の父親と殺し合い、父親を宗家に売った張本人。それを引換とし呪印から逃れた卑怯者。

 そう思えば思うほど、ネジの中で兄への想いは薄れ、そして憎悪が恐怖と同じくらいにまで増大する。

 そして思う。

 

 ――――この男を今ここで殺すと。

 

「お前を、お前を殺す為に、俺は生きてきたッ……!!」

 

「そう昂ぶるなよ。惨劇はまだ始まったばかりなんだ。楽しく踊ろうぜ、兄弟?」

 

「ほざけぇっ!」

 

 叫ぶや否や、ネジはシキに躍りかかる。

 今まで貯めてきたありったけの憎しみをその掌に込めて、シキへと肉薄した。先程まで兄の事を恐れていた自分がまるで嘘であるかのように、ありったけのチャクラをのせて近付いた。

 迷いも、曇りもない踏み込みをもって一瞬で兄との距離を詰めたネジは、発動させた白眼に映るシキの経絡系を見定め、自慢の柔拳を見舞う。

 シキはそれを涼しい顔で、紙一重で避ける。

 

 憎しみを以て兄と対峙するネジ。

 

 その先を見据えて余興に浸るシキ。

 

 互いに拗れに拗れた関係を持った兄弟の再会は、そんな殺伐とした舞踏で始まった。

 

 

     ◇

 

 

 とあるアパートの廊下にて、もう一つの再会があった。

 ある部屋のドアの傍で立つイタチと鬼鮫、そしてそれを見上げるナルト。対峙しただけで絶望させられるような威圧をかけられたナルトは今までにない恐怖を抱いたまま、それを見上げる事しかできずにいた。

 

「ふーむ、イタチさん。チョロチョロされても面倒ですし、足の一本でも切り落としていきましょうか?」

 

「……っ!?」

 

 鬼鮫が背中に背負った大刀・鮫肌の柄を手に取り、ナルトの手足を切り落とさんと振るわれる直前――――

 

「……久しぶりだな」

 

「うん?」

 

 突如、イタチが呟いた言葉に鬼鮫は手を止め、突如後ろから感じた気配に振り向く。

 ナルトもそれに続くように前を見上げる。

 

「サスケ」

 

 階段から登った所の位置に、その少年は立っていた。

 その黒い勾玉模様が入った赤目は憎悪に染まり、対峙しようものならそれだけで圧死させてしまう程の殺意を放ちながら、うちはサスケはそのイタチを睨みつける。

 我慢などできなかった。

 最初はナルトの安否を優先してここまで来たにも関わらず、その彼と対峙した瞬間、サスケの中の優先順位はイタチへの憎悪の方が上となっていた。

 

「うちは、イタチッ……」

 

 長年憎悪し続けてきた兄の名を、憎々しそうに、待ちわびたかのように、噛み締めるかのように口にする。

 その言葉にどれだけの憎悪がこもっているかは、誰の想像すらも絶していた。

 

「ほぅ、写輪眼……しかも貴方によく似て。一体何者です?」

 

「俺の、弟だ」

 

「――――ッ!?」

 

 イタチと呼ばれた男の言葉に、ナルトは驚愕の表情を浮かべながら彼の顔を見つめる。

 

「うちは一族は皆殺されたと聞きましたが……貴方(●●)に」

 

 興味深そうに聞いてくる鬼鮫の質問を流し、イタチは冷酷な眼つきを装いながらサスケを後ろ越しに見やる。

 ――――大きく、なったな。

 内心で弟の成長に喜びつつも、それを出さずに弟に振り返る。

 写輪眼を見る――――まだ勾玉模様が一つしかなく、写輪眼と呼ぶには些か完成には程遠い。

 そして何より、その眼はまだ自分を憎みきれていなかった。

 他所から見ればそれは憎悪の一点しか垣間見えぬその眼は、しかしイタチからしてみればソレ(憎悪)は遥かに足りていなかった。

 

「うちはイタチ……アンタを殺す……ッ……!」

 

 そう宣言すると共に、互いの写輪眼を見る。

 サスケは憎しみを込めて、イタチは冷たさの奥にその愛情を潜ませ、両者は向かい合った。

 

「あんたの言った通り……」

 

 両親が切られていくその光景を思い出す。

 

「あんたを恨み、憎み、そして……あんたを殺す為だけに俺は、俺はッ……!!」

 

 チチチ、と鳥の鳴き声のような音と共に、サスケの左手にそれはあった。

 相手を殺す為だけに磨かれ、ありったけの雷遁チャクラがその形状を殺意の刃へと変える。

 憎しみを以て磨かれたその雷光を放ちながら、サスケはイタチを睨む。

 

「俺は、生きてきたァッ!!!」

 

 ――――そうだ、それでいい。だが、まだ(●●)足りない。

 かつて暗部だった頃の上司の術を見せられて若干驚きつつも、弟のその成長ぶりを喜ぶ。だが、それでも足りなかった。

 圧倒的に憎悪が足りなかった。

 その憎悪では俺を殺し得ない。

 そのまま俺を殺してしまえばサスケは絶対に後悔するだろう。

 だから、自分を殺してしまっても後悔しないように、ちゃんとうちはの名を背負って生きていけるように。

 

 ――――サスケ、俺を存分に憎め。

 

 二度と自分に情を抱かないように、二度とあの日の自分を思い出せないくらいに、二度と自分を兄と思わないくらいに。

 どうか自分を憎んでくれ。

 そして。

 

 ――――俺を殺して、その先へ進んでくれ。

 

 歪で、しかし純粋な愛情を冷たきその眼に潜ませながら、手から雷光を発して突っ込んでくるサスケにそう懇願した。

 

 願わくば、その牙があの日向の異端児も裁いてくれる事を。

 

 

     ◇

 

 

 掌底が振るわれる。何度も。何度も。

 ただ我武者羅に振るうのではなく、洗練された動きを以て、そして揺らぐことのない殺意を以て、それは振るわれていた。

 時には遠距離からチャクラを飛ばして攻撃し、時には点穴を狙って何度も突き攻撃を繰り出した。

 それらは皆天才によって磨かれた業であり、一族によって伝えられたソレをネジは惜しみなく使って目の前の相手を殺さんと躍起になっていた。

 

 それでも、目の前の男には及ばない。

 

 柔拳はかすればそれだけで致命傷となる厄介な体術だ。

 相手に外傷を与えるのではなく、その手から発されたチャクラを相手の経絡系に流し込む事によって、その経絡系と密接している内蔵に直接ダメージを与える代物である。

 それでも、目の前の男には届かなった。

 

 掠っていると錯覚してしまう程の絶妙な避け、しかし実際は一発たりとも掠らずに紙一重でそれはよけられていた。

 構えすら見せず、直立不動の状態からまるで平行移動でもするかのような動作で躱される。

 その眼に殺意はあらず、まるでネジをおちょくっているかのように嗤う。

 

 白眼を開かずしてこれだ。

 ネジとシキの間にどれだけの差があるかをそれは物語っていた。

 これは殺し合いではない、唯の遊びだと。

 

「――――ッ、舐めるなぁッ!!」

 

 その実力差を理解しても、ネジは止まらない、止めれない。

 この感情を、この昂ぶりをなんとしても抑えられず、しかし技のキレだけはいつも以上に冴えていた。

 にも関わらず、その男は白眼を開かずにただ踊るように躱すだけ。

 それがネジの神経を余計に逆撫でた。

 

「これなら……」

 

 ネジは全身からチャクラを放出し、そしてその体を高速で回転させる。

 

 ――――八卦掌・回天

 

 チャクラの暴風が炸裂し、自分の周りにいる至近距離の相手をひとり残らず殲滅し、かつ白眼の唯一の死角を補いさえする、日向一族宗家のみに伝わる絶技。

 分家のネジはそれを持ち前の才と独学をもって習得し得た。

 その才能は正に日向に愛された代物と言って良いだろう。

 

「ほぅ……」

 

 最初はどうでもよさげにネジの攻撃をかわし続けていたシキであったが、それを目にした瞬間、口角を吊り上げ、興味深そうにネジを見る。

 日向宗家にのみ伝わるその柔拳業、それを習得してみせる弟の才にシキはかつて殺した父親の言葉を思い出した。

 ――――お前の弟は、日向の才に愛されている。

 父親の慧眼を疑っている訳ではなかったが、なるほどどうやら節穴だったのは自分の方らしい。

 これほどの逸材を餌として使ってしまうのは、少し惜しかったかもしれない。

 

「くそッ……」

 

 至近距離で、しかも今までで最高速の回天を見舞った筈なのに、それ以上の速さでネジから距離をとっていたシキの姿を確認してネジは舌打ちをする。

 如何にギアを上げ、いや、限界を超えた所でスピードでは到底この男には敵わなかった。それでもネジは、兄を殺すというただ一つの目的の為にその業を迸らせる。

 それでも、一切も掠ることはなかった。

 

「どうした? 息も絶え絶えじゃあないか。最初の技のキレも見る影がない。そんなんじゃ俺は殺せないぞ」

 

 お前の殺意はそんなものか、とシキはネジを挑発する。

 

「黙れぇッ! 今すぐに殺してやる!」

 

「やれやれ」

 

 無心に技をぶつけてくるネジに対し、シキは肩を竦める。

 その体制のままネジの攻撃をかわし続け、思考に耽った。

 

 足りない。

 まったく以て足りない。

 

 せっかく自分の眼が光る程の原石が目の前にあるというのに、全くもって足りないのだ。

 目の前の弟は確かに憎しみを以て自分と対峙しているのだろう、だがそれだけだ。

 

 お前には足りない。

 俺を殺すとというただそれだけの殺意(●●)が全く以て足りていない。

 

 頼むぞ弟よ。

 つい先程皆殺しにしてきた宗家共だけでは物足りないのだ。

 どうか餌だけで終わってくれるな、せっかく俺を殺すに足る理由と憎しみを持っているのに、そこから俺を殺せる程の殺意を持ってこれないようじゃあ、その憎しみもただの宝の持ち腐れじゃあないか。

 

 憎悪のみで乱雑な技ばかりぶつけてくるネジにシキは業を煮やしたのか、突如その動きを変える。

 

「悪いね」

 

「かはッ!?」

 

 兄の姿が視界から消えたと同時、一瞬で白眼の死角、ネジの丁度真後ろの空中へと跳んだシキはそのまま足を突き出して斜めしたに急降下、そのままネジを蹴り飛ばした。

 突如背後から感じた衝撃に馬鹿な、とネジは狼狽える。

 いくら白眼に死角が存在するとはいえ、その死角に入るまでその動きは見える筈なのだ。

 なのに、見えなかった

 純粋にそれが速すぎて(●●●●)見えなかったのだ。

 いや、それ以前に白眼の死角を見切ってそこに的確に、しかも空中で体を潜り込ませるという芸当自体が有り得ない。

 その有り得ない動きを、この殺人鬼はまるで息をするかのようにやってのけたのだ。

 

 ネジは改めて、自分が対峙している相手の恐ろしさを再認識する事となる。

 

 前方へと吹っ飛ばされたネジは、先ほどの蹴りの衝撃で咽てしまったのか、ケホッケホッ、と息を吐いて、再びシキへ振り向く。

 

 蹴られた衝撃のせいであろうか、息を整えたおかげで先程より幾分か冷静さを取り戻し、向き合う。

 シキは動かない。

 微動だにせず、ただネジの出方を待つようにそこに佇んでいた。

 

 向こうから仕掛ける気がない、と踏んだネジは、かねてから彼に言いたかったことを口にした。

 

「お前に、一つ聞きたい。兄さん」

 

「ん?」

 

 冷静さを取り戻した弟をみて第二ラウンドと洒落こもうという気になっていたシキ、またしても自分に踊りかかってくると思っていたネジに問いかけられ、何事かと気まぐれに耳を傾けた。

 

「何故、あんな奴等(宗家)の口車なんかに乗った?」

 

「……何の話だ?」

 

 弟の言っている意味が分からず、首を傾げるシキ。

 耐え切れなくなったのか、ネジは吐き出すように豹変して叫ぶ。

 

 

「とぼけるな! 牢に繋がれているお前と初めて会った時、お前の額には呪印がついてた! なのに、あの時あんたが父上を殺めたとき、お前の額にはソレがなかった!!」

 

「……」

 

 急に叫び始めたネジに対し、シキは驚く様子もなくそれを聞く。

 確かに父親を殺した時点ではもう既に自分の額に“呪印”はなかったが、それがどうかしたのだろうか、とシキは疑問に思う。

 

「本当は親父の事なんて殺したくなかったんだろう!? そんなお前を奴等は利用した!」

 

「……」

 

「一番自由が許されていなかったお前は誰よりも自由を欲していた。だから奴等はお前に父親を殺させて代わりに呪印から開放してやるという誘いを持ちかけた。違うか!?」

 

「……」

 

「だとしても、俺はお前を絶対に許さない! 必ず、俺の手で殺してやるッ……!!」

 

 許せなかった。

 己の自由と父親の命を天秤にかけて、前者にその選択を傾けたこの自分勝手な男を。だからこそ、弟として、同じく運命に囚われた者として、この()はなんとしてもネジの手で殺めなければならなかった。

 

 ……それが、あの時自分が邪魔したおかげで命を落としてしまった、父親への唯一の償いだから。

 

「――――ク……」

 

 しかし、そんなネジの意思表明を聞いて、シキは何を思ったのか腹を抱えながら笑いを咬み殺す。

 やがて耐え切れなくなったのか大声で笑い始めた。

 

「くくく、はははははッ!」

 

 可笑しそうに、ただ可笑しそうに子供のように無邪気に笑う。

 ――――ああ、通りで殺意が足りない訳だ。

 その理由を知りつつも、それ以上に面白おかしいのかシキは愉快に笑い続ける。勘違いもここまでくればいっそ清々しいくらいに愉快だった。

 

「何が可笑しい!?」

 

 それが癪に触ったのか、馬鹿にされたような気分になったネジは怒りを込めて怒鳴る。

 それでもシキの笑いは止まらず、やがて落ち着いてきたのか、腹を抑えながらもシキは答え始めた。

 

「クク、ハハハッ。ああいや、悪い。あまりに愉快(おかし)すぎて笑っちまった」

 

 瞬間、シキはその場から消え、気が付けばネジの眼前へと移動していた。

 

「ッ!?」

 

 視界から消えたのではなく、純粋に速すぎてそれを見切るを敵わずに、成す術もなくネジはシキの接近を許してしまった。

 

「とんだ道化(ピエロ)だよ、お前」

 

 初めて懐から得物(短刀)を抜き、それをネジの額に刺した(●●●●●●●●)

 ネジの視界に一瞬だけ映ったのは、シキの発動された白眼だった。

 額に短刀を刺されるや否や、ネジの頭を空白が支配する。

 

 自分が殺されたという錯覚を最後に、ネジの意識は空白に引きずり込まれた。

 

 まるで、何か(●●)からようやく、その空白に開放されたような、そんな感覚を。

 

「ガァッ!?」

 

 気が付けば回し蹴りを喰らい、ネジは背後にあった木へと蹴り飛ばされ、激突した。

 ぶつかった木にはその衝撃によるクレーターが生じ、それが蹴りの威力を物語っていた。

 激突した木から崩れ落ちたネジはそのまま地面に蹲り、先程蹴られた時とは比べ物にならない程の咳を吐く。

 

「ゲホッ、ゲホッ……!?」

 

 背中に残る激痛が未だにネジの体を束縛する。

 今までに培ってきたものの違いを思い知らされたネジ、しかしそれ以上に彼は困惑していた。

 

「俺は今、殺された筈じゃ……」

 

 当たり前の疑問だった。

 額を短刀で深く刺されたのだ、死なない方がおかしい。

 

 ……額を(●●)、刺された?

 

 突如、ソレに引っかかりを覚えたネジは慌てて白眼で己の額を覗き見た。

 

「――――え?」

 

 そこには、ある筈の“モノ”がなかった。

 今まで、自分が運命に絶望してきたその要因が、その呪いが綺麗さっぱりと消え去っていたのだ。

 

「嘘、だ……?」

 

 夢か幻かと疑ってしまう。

 慌てて、呪印がないその額を両手で触り、その肌触りを確認する。

 体温は正常、汗もちゃんと汗をもちゃんとかいていおり、そのべっとりとした肌触りも紛れもなく現実のものだった。

 

 ――――待てよ?

 

 もし、そうだとしたら。

 

 もし呪印が消えた原因が、先ほどの短刀による攻撃だとしたら。

 

「そ、ん、な――――」

 

 顔を見上げ、そこに佇んでいる兄の姿を見る。

 白眼を発動させた事により、ネジと同じように目の周りに血管が浮き出し、手には短刀が握られていた。

 その短刀に、血はなかった。

 じゃあ、彼が刺したのはネジの額という体の一部ではなく、本当に“呪印だけ”を――――

 

「嘘だ、嘘だ……」

 

 けれど認めたくなかった。

 それは正に、彼は自力で呪印から抜け出す手段があった事に他ならなかった。

 けれど、それは断じて認めていいものではない。

 それは今までネジが思ってきた兄に対する全ての情が壊れてしまう事を意味していたのだから。

 

「嘘だ、嘘だウソだうそだ! そうだろ、ウソだと言ってくれよ、兄さん……ッッ!!?」

 

 懇願するように、ネジは歩み寄ってくるシキを見上げながら、ただひたすら狼狽える。シキの眼はまるで何も映さないかのように透き通っていた、ただ刃物のように鋭い目つきでネジを見つめ、やがて呆れたようにため息をついて答えた。

 

「戯け。殺人鬼が人を殺すのに理由なんざ持つわけないだろう? 俺はいつだって俺が殺したいから(●●●●●●●●)殺すのさ」

 

 まるでそれが当たり前であるかのように、そう答えた。

 それこそが、自分の存在意義であると、それ以外には何もないのだと、その眼は語っていた。

 

「……ぅ……う、ぁ……」

 

 その時、ネジの全てが壊れた。

 

 全部、自分の思い違いだった。

 自由欲しさに苦し紛れに父親を殺害したという事など一切なく、全て彼の意思だけで決行したという事だ。そこに他意など存在しない。

 彼の父親殺害に、宗家はこれっぽちも関わってなどいなかった。彼らは所詮そこから漁夫の利を得た忌々しい漁夫に過ぎない。

 

 そう、彼は、父親、日向ヒザシをただ殺したい(●●●●)から殺したに過ぎなかったのだ。

 

「うわあ”あ”あ”ああああああああああ”ああ”ああああああぁぁぁぁぁあああ”ぁぁあ”あぁっ!!?」

 

 絶叫を上げるネジ。

 もう正気など保っていられなかった。

 血流全てが逆流し、それが日向ネジという人間の何たるかを分からなくさせる。

 唯一、兄を憎みきれていなかった理由……それすらも完全な偽りであった事を知ったネジは今度こそ、完全に壊れた。

 

 ネジは飛びかかる。

 目の前にいる殺人鬼に向かってただ無心に躍りかかる。

 まともな思考なんてできやしない、もはや何もかもが分からない、一体目の前の相手が誰で、自分が何者であるかすらも思考から破棄した。

 残った思考はただ一つ――――この男を殺すというだけだった。

 

 ――――柔拳法・八卦六十四掌

 

 「八卦の領域」――――その間合に男に殺意をぶつける。

 放たれるは目に見えぬ高速の連続突き。敵に対し身体を横回転させる独特の踏み込みから両手で2本貫手の突きを繰り出し、八卦二掌から始まり四掌、八掌、十六掌…と段階的に数を増やし、総計64発の突きを打ち込んで全身64カ所の点穴を閉じる。通常、技を受けた者は経絡系のエネルギーの流れを遮断され、チャクラを練ることは勿論立つことさえできなくなる。点穴を見切る瞳力と、そこに正確に素早く突きを打ち込む体術が要求される、柔拳の奥義の一つ。

 回天と同じく宗家のみに伝わるその奥義を独学で習得したネジは、今までの努力の全てをシキにぶつけた。

 

「ようやっとまともな殺意になってきたな。突き刺さる殺気が心地いいぞ」

 

「黙れ黙れだまれダマれこの人殺しがああああああああぁぁあぁあああああああぁぁああぁっ!!!!」

 

 涼しい顔で64発の高速の突きを全て躱しきったシキに対し、ネジは更にその慟哭と憎悪が入り混じったような怒声を上げて、ギアを更に上げた。

 

 ――――柔拳法・八卦百二十八掌

 

 突きの速度は更に上がり、今度は先程の64発の突きの大凡二倍の速さでシキの点穴を的確に突かんと指を穿つ。

 しかし、それでも全て躱される。

 四掌、八掌、十六掌、三十二掌、六十四掌、百二十八掌、総計128発の突きの連撃すらも、シキは涼しい顔で躱して行く。

 

「まだまだあああああああああああああああああぁぁぁあああぁああああああぁぁっ!!!!」

 

 ――――柔拳法・八卦三百六十一式

 

 更に突きの速度が上げられた連撃を放つ。

 冷静さを失いながらも、針の穴の大きさしかない点穴を突くその精度は健在であり、今度こそはシキでも全ては躱しきれないだろう。

 先程よりも倍の速さで倍の数の突きがシキを襲う。

 三十二掌、六十四掌、百二十八掌、そしてそれ以後の神速とも言える突きの連撃。それが発動しようという所で――――

 

「ま、こんな所か」

 

 ネジの二本の貫手は、シキの両手によって取り押さえられた。

 指先から放出されたチャクラは既に『殺』され、ネジの技はそこで止まってしまった。

 

 ――――何故だ、何故当たらないっ!?

 

 ――――何故躱されるっ!?

 

 ――――一体何が足りないんだっ!?

 

 この速さに追いつけるものなどいる筈がない。一族が長年かけて培い、そして日向始まって以来の天才と言われた自分が放つ奥義を、何故柔拳の才能の欠片もないこの男に追い付かれなければならぬのだ。

 分からない、分からない、全くもってわからない。

 この男はなんだ、一体何だと言うのだ。

 

 疑問と焦燥ばかりがネジの脳裏を支配していた。

 心も砕かれ、技も破れた。

 これ以上、自分が自分足り得るものなど、ネジにはなかった。

 

 

 何かが、すれ違った。

 

「――――」

 

 気が付けば先程まで両手を掴んでいた筈のシキの姿はなく、そしてネジの体は硬直したかのように動かなかった。

 

「これは親父と殺り合っていた時に偶然編み出した柔拳への対処法なんだがね」

 

 後ろから声が聞こえる。

 

「柔拳の弱点っていうのは、攻撃する時に経絡系やその点穴を常に見てなきゃいけないって事だ」

 

 まるで、散歩に出かけるような気軽さでそう語られる。

 

「お前の目を見てさえいれば、何処の点穴を狙っているかが分かるんだよ」

 

 ――――故に、避けるのは容易い。

 何故なら、事前に何処の点穴を狙っているか分かれば、事前に避ける事は用意だから。

 同じ瞳力を持つシキは、自分の点穴の位置を隅から隅まで把握できてしまう。

 自分の点穴の位置が分かっており、そして相手が狙っている点穴の位置が分かる。これらの要素が合わされば避ける事など、シキにとってはとても容易い事だった。

 故に、柔拳使いの天敵は、同じ白眼持ちに他ならない。

 

「そ、ん……な、ばか、な……」

 

 途切れ途切れにそう呟くと同時、ネジの体中にいつの間にか出来ていた無数の切り傷から、赤い液体が滲み出てきた。

 先程すれ違ったと同時に切られたのだろう。

 やがてそれは飛び出すかのように、亀裂から溢れ出し、その鮮血をぶちまける。

 体をバラバラにされなかったのが不幸中の幸いと言えた。

 

 ネジの体は地面に倒れ伏せる。

 あらゆる筋肉組織の源を切られ、動くことすらもままならなくなったネジは、しかし生きていた。

 息が絶え絶えになりながらも何とか生きていた。

 

「ぅ……ぁ……」

 

 しかし、歩み寄ってくるシキを見上げるその眼に、生気はとうに失われていた。

 心も壊された。

 技も破れた。

 生きる希望も既に失った。

 これ以上、ネジに残っているものなど何もない。あるとすればそれは彼の担当上忍とその班の仲間たちであろうが、既に正常を破棄しているネジに彼らの顔は浮かんでこなかった。

 

「六銭は持ったか? まあ、俺とお前じゃあ行き着く所は違うだろうが……。もし地獄に落ちたら、閻魔によろしく言っといてくれ」

 

 そう言って、シキはネジの首元に短刀を振り下ろした、その時だった。

 

 ――――八卦空壁掌

 

 海を削り、大地を抉り、そしてかの十本の尾を持つ化け物の尻尾すらも弾いてみせる、チャクラの凶器がシキへと襲いかかる。

 当たれば体を粉々にまで分解され、そして虚無へと霧散するであろうその向かう凶器を、シキは短刀をひと振りして”殺”す。

 

 そして、その存在を視界にいれて、シキは笑った。

 

 餌を使ったにせよ、やけに遅い御到着ではないか。

 

「ようやくだ。ようやく出会えたな――――」

 

 愛おしく、殺意に満ちた視線で『本命』を睨む。

 体はコロセとうずき、そしてシキ自身がその者との殺し合いを誰より望んでいた。

 

 今にも飛びかかりたいと昂る欲求を抑え、シキはその名を口にした。

 

「日向ヒアシ」

 

 日向一族最強にして、かつてシキが殺害した父親、日向ヒザシの双子の兄、つまりはシキの伯父に当たる男。

 

 日向一族宗主、日向ヒアシがそこにいた。

 




試験期間中なのに執筆してしまった。
まあ、次のテストまで少し日数が空いてたので問題はない……多分。
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