異世界から帰ってきた俺は中卒ニートだった。
俺はアルバイトの面接をしてフリーターを目指す。

※小説家になろうにも掲載しています。

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異世界で勇者をやっていたが今はニートをしている

 異世界で勇者として魔王を倒した後、俺は元の世界に帰って来た。

 俺が異世界に勇者としてたった一人召喚されたのが高校一年生の時。

 元の世界に帰れることになったのはその三年後の春だった。

 そう、三年だ。

 三年の時が流れ、当時の同級生たちは高校を卒業し、進学したり、就職したりしていた。

 俺はというと……

 異世界では勇者と呼ばれ、魔王を倒した英雄としてチヤホヤされていたが、元の世界に戻った俺は最終学歴中卒のただのニートだった。

 まるで自分が浦島太郎になった気分だ。

 

 家族は俺が死んだものと思っていたそうで、突然帰って来たことに泣いて喜んだ。

 しかし、帰って来て一週間もするといつも通りになり、母は小言を言い始めた。

 

「お隣りのタカシ君は国立の◯◯大学に合格したそうよ。すごいわねぇ」

「俺は勇者で世界を救ったんだが?」

「馬鹿なことを言ってないで、就職して働くか、勉強して大学に進学しなさい」

「…………」

 

 俺の両親、妹は俺が異世界で勇者をしていたという話を信じなかった。

 本当のことなのに。何故だ!?

 まぁいい。俺も進路の選択肢を増やすために大学に進学しようと考えていたところだ。

 しかし、俺は大学どころか高校も卒業していない。

 パソコンで検索して調べてみると、高等学校卒業程度認定試験というのに合格すれば、高校を卒業していなくても大学の受験資格が得られることが分かった。

 試験は年に二回。

 ギリギリ一回目の試験の願書提出期限に間に合った。

 今は五月で試験は八月だ。

 

 おれは家に引きこもって勉強を始めた。

 しかし、一週間もすると飽きてしまった。

 何より家族以外誰とも話さずに家にずっといるのは精神的によろしくない。

 まるで引きこもりのニートじゃないか。

 いや、ニートだったか。

 

「……バイトでもするか」

 

 俺は近所のコンビニでアルバイトの募集をしていたことを思い出し、面接を受けることにした。

 

「あの、面接をお願いしていた者ですけど。店長さんいらっしゃいますか?」

 

 俺はレジにいた女性店員に話しかけた。

 

「店長ですね。少々お待ち下さい。てんちょー」

「はーい」

 

 店員が店長を呼ぶとすぐに返事があり、店長がレジまで来て、俺はバックルームに案内された。

 

「どうぞー、そこにお掛け下さい」

「あ、はい」

 

 俺は椅子に座り、店長と向かい合う。

 

「それでは、改めまして今回面接を担当させて頂く店長の霧島です。よろしくお願いしますね」

「よろしくお願いします」

 

 店長は意外なことに若い女性だった。髪は短めでメガネをかけている。

 

「履歴書は持って来られましたか?」

「はい」

 

 俺はバッグから履歴書を取り出して渡す。

 

「どうぞ」

「はーい、お預かりしますね」

 

 店長は俺の履歴書を開いて読み終えてから顔を上げた。

 

「週3~4回勤務希望で、どの時間帯も大丈夫と」

「はい」

「業務内容はレジ打ちや納品した商品の品出しなどです。出来そうですか?」

「やったことはないですが頑張ります」

「いらっしゃいませ、ありがとうございますなどの挨拶は大きな声で言えそうですか?」

「はい。無駄に声が大きいとよく言われます」

 

 よし、面接の掴みは上々だ。

 

「ところで、高校に入学してすぐに中退となっていますけど、この三年の空白期間は一体何をされていましたか?」

「こことは違う世界で勇者をしていました」

「ゆうしゃとは何でしょうか?」

「魔物を倒したり、魔王を倒したりです」

「まおう?」

「はい、魔王です。なかなか手ごわかったです」

「……ええっと、ゲームか何かの話ですか?」

「いえ、本当の話です」

「ふざけているんですか?」

「嘘をつくのは苦手なので本当のことを真面目に話しています」

「勇者だという証拠を見せてもらっていいですか?」

「勇者の聖剣は異世界に置いて来てしまいましたので、申し訳ありませんが証拠はお見せ出来そうにないです」

「……特技に魔法とありますね。ここで見せてもらっていいですか?」

「ここでは危なくてちょっと……」

「もしかして冷やかしで面接に来たんですか?」

「いえ、真面目です」

 

 店長は顔を真っ赤にして怒っている。

 本当のことしか言っていないのに何故だ。

 

「そ、そうだ。強盗が来たら撃退出来ますよ。勇者なんで」

「強盗が来たら大人しくお金を渡して下さい。下手に抵抗して怪我をしたら危ないので」

「…………」

「……それでは面接を終わらせて頂きます。本日はわざわざ店まで来て頂きありがとうございました」

「……ありがとうございました」

 

 採用不採用の連絡がいつ来るのかという話を聞いていないけれど……

 聞くまでもないだろう……

 俺は店長にお辞儀をしてからバックルームを退出した。

 

 日常生活において勇者は役に立たない。

 いくら魔法が使えて、魔物を倒せる力があったとしてもこの世界ではその力を生かす場所がない。

 俺はこの世界では中卒のニートでしかなく必要とされない。

 必死になって三年かかってやっと元の世界に帰って来たのにな……

 俺がしょんぼりしながらコンビニを出ようとしたその時だ――

 自動ドアが開き、フルフェイスのヘルメットを被った男たち二人が入って来た。

 

「オイ、レジから金をだセ!」

 

 片言の日本語の男たちが銃とナイフを突きつけてレジの店員に金を要求した。

 強盗だ。

 俺は店内の物陰に隠れて成り行きを見守った。

 

「オマエ、バカですカ? さっさとしロ!」

「は、はい」

 

 女性店員は震えながらレジを開いてお札を渡す。

 

「オマエ、ふざけているですカ? コレダケのはずないだロ。しまっている金も全部ダ!」

「な、なにごと!?」

 

 店長がバックルームからレジに戻って来てしまった。

 

「て、店長、強盗です」

 

 強盗の一人が店員にナイフを突きつけ、もう一人の強盗が店長に銃を向けた。

 なるほど、下手に抵抗したら怪我どころか殺されてしまうな。

 店長は顔面を蒼白にして鍵の束を出し、どこかから一万円札の束を出した。

 

「これで全部カ?」

「はい……」

 

 強盗は店長の手から一万円札の束を乱暴に引っつかむと自分のバッグに詰めた。

 店の外には車が一台止められている。強盗の車のようだ。

 よく見ると車の運転席に男が一人座っている。

 

「また来ル」

 

 にんまりと笑い、強盗は店を出て行こうとした。

 しかし、残念だったな。

 店員なら安全のため大人しくお金を渡さなければならないが、ここには店とは無関係のニートの俺がいる。

 俺は勇者だ。悪事を見逃すことは出来ない。

 それにちょうど、ムシャクシャしていたところだ。

 鬱憤を晴らすのを手伝ってもらおう。

 強盗が店を出るより早く、俺は自動ドアの前に立ちふさがった。

 

「おい、お前らそこまでだ。金を返せ」

「オマエ、だれですカ? 死にたいですカ?」

「俺か? 俺はただの通りすがりの勇者だ」

「オマエ、ジャマ。しネ!」

 

 強盗が俺をナイフで刺そうとする。

 俺はナイフをかわし、男のヘルメットを逆に殴り飛ばした。

 ヘルメットは砕け、強盗は折れた歯をまき散らしながら吹っ飛び、壁にぶつかって倒れた。

 もう一人の強盗は異国の言語で何やら叫びながら俺を銃で撃とうとした。

 

「ジュゴ!」

 

 ダン! ダン! ダン!

 

「キャーッ!!」

 

 店長と女性店員は悲鳴を上げ、その場に伏せて俺の視界から消えた。

 強盗は弾丸を三発撃ち込んで来た。

 モデルガンかと思ったのだが本物だったようだ。

 避けたら弾丸で自動ドアのガラスが割れてしまう。

 俺は弾丸を動体視力で捉え、三発とも素手で掴んだ。

 魔力で肉体を強化しているので弾丸程度では俺は痛くも痒くもない。

 俺は強盗の目に見えるように手を開いて弾丸を床に落とした。

 強盗は驚愕の表情をしている。

 

「クェムル……」

「何言ってるか分からん。お返しだ」

 

 俺は強盗に接近し、手のひらを男の腹に密着させた状態で魔法を発動させる。

 

「破っ!」

 

 手のひらに魔方陣が浮かび、そこから衝撃波が飛び出した。

 強盗は衝撃波を受けて吹っ飛び、気絶した。

 

 強盗二人は倒れたまま動かない。

 

 ジリリリリリリリッ!

 

 警報がけたたましく店内に鳴り響く。

 どうやら店長が警報を鳴らしたらしい。

 残りは外の車に乗っている強盗の仲間一人だ。

 そう思って外を見ると車はアクセルを踏み込んで逃げ出していた。

 

「仲間を置いて逃げるなんて酷い奴だな……」

 

 逃がさない。

 俺は手のひらを車に向け魔法を発動させようとした。

 

「君、これを使って!」

 

 店長が店の外に出て来て、中に液体が入っているオレンジ色のボールを俺に渡した。

 

「これは?」

「防犯カラーボールよ。逃げた車にぶつけて!」

「ふむ」

 

 俺がカラーボールに魔力を込めると炎に包まれ火球になった。

 

「破っ!」

 

 俺は車のタイヤ目掛けて炎に包まれたカラーボールを投げつける。

 火球は炎の尾を引きながら飛んで行き、車のタイヤを撃ち抜いた。

 タイヤはボカンと爆発し、車は制御を失いガードレールにぶつかって止まった。

 ものすごい勢いでぶつかったので、車の前半分がつぶれてしまっている。

 運転席に座っていた強盗は死んでしまったかもしれない。

 やばい。やり過ぎてしまった。

 隣に立っている店長はあごが外れそうなくらい大きく口を開いた状態で驚いている。

 

 しばらくしてパトカーと救急車が到着し、強盗三人は救急車で運ばれていった。

 警察は何が起こったのか店長と俺に聞いてきたので状況と経緯を話した。

 

「なるほど、コンビニにアルバイトの面接に来たら、偶然強盗に出くわし、二人を気絶させたと」

「はい。あと俺が強盗の車のタイヤをパンクさせました。車に乗っていた男はどうなりましたか?」

「あの運転手の男はエアバッグの衝撃で気絶したけれど命に別状はないよ。しかし、君が車をパンクさせたとはどうやって?」

「魔法です」

「はぁ?」

 

 警察官は困惑している。

 

「おまわりさん、すいません、この子は少し妄想癖があるみたいなんです」

「店長さんどういうことですか?」

 

 俺と警察官の事情聴取にコンビニの店長が割り込んで来た。

 

「面接の時もこんな感じでして自分のことを勇者だと……」

「あぁ、そういうこと……」

 

 そういうことってどういうことなんでしょうか?

 おまわりさん、可哀想な人を見るかのような目で俺を見ないで下さい。

 

「店長さんは俺が魔法で車のタイヤを撃ち抜くのを見ましたよね?」

「防犯カラーボールが燃えていたような気がしたけど……いやいや、そんな訳ない。目の錯覚だよ」

 

 俺の魔法は目の錯覚で済ませられてしまった。

 もう一度実演して見せれば信じてもらえるだろうか?

 

「あの、俺は本当に勇者で魔法を使ったんです。良ければ見せましょうか?」

「ああ、いや、見せなくていいから。うん、そうだね強盗を撃退するとは実に勇敢だったと思うよ。しかし、危ないので今後はこのような行動は控えるようにね」

「はい……」

 

 警察官は苦笑して俺が魔法を見せようとするのを止めた。

 この後、更に詳しい事情を聞くために俺は警察署に連れて行かれ、警察は自宅に連絡をした。

 親は俺が三年間行方不明で、戻って来てから自分のことを勇者だと思い込んでおり、精神科の病院に通わせているのだと説明した。

 通わせているって、こっちに帰って来てから数回通っただけだ。

 もう行こうとも思っていないのだが。

 

 もう、あれだ……俺は精神を患っている人扱いだ。

 何故だ。誰も俺が勇者だと信じてくれない。

 

 警察署で長時間拘束された後、俺は解放された。

 家から迎えが来て俺は父と母に連れられて家に帰った。

 

 なんなんだよもう。

 俺は親から自宅謹慎命令を出され、自分の部屋で大人しく勉強していた。

 三年間行方不明だったと思えば、今度は警察沙汰なのでしょうがないといえばしょうがない。

 数日経ち、自宅謹慎が明けたある日のこと、アルバイトの面接を受けたコンビニから電話で連絡が来た。

 何だろうと思っていたら、面接結果についてだった。

 

 結果は採用。

 

 マジか!?

 絶対に不採用だと思っていたのに。

 こうして勇者の俺は中卒ニートから中卒フリーターにレベルアップした。

 頭の中でファンファーレが鳴り響いた気がした。


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